おはようございます、吉田繁治です。投資銀行リーマン・ブラザーズ
の倒産と保険会社AIGの破産に絡み、『血の月曜日(228号)』をお
送りして、1か月が経過しました。
有料版の読者の方から、投資の帰結について、メールが相当数、来て
います。
「メールマガジンで、こうなることを知っていはいても、自分の行動
が、別だったことを悔やむ。または、お陰で利益を出した。」という
内容です。生々しい分は、悲惨や僥倖が混じり、紹介できませんが、
以下は、穏やかなものの掲載です。ともかく、ここ1週間の、世界の
株価の下げは異常でした。
<(有料版の)プレミアム読者としましては、現在起きている状況は、
『既に知っていた事(正に知識源!)』となるわけですが、やはり
実際にこの場面に触れると、『とんでもない事態』だとつくづく思わ
れるわけです。VIX指数(用語注:株価の変動を示す標準偏差÷平
均価格)が60を超えたとか、リートが潰れたとか、惨憺たるものがあ
ります。
今夜(米国現地10月10日)はリーマン関連のCDS清算会が行われ、
これまで明らかにされていない部分がいよいよ噴出
する事になるわけです。いったいどこが、どれくらい引き受けていた
のか・・・マグマが今正に、地響きを鳴らしながら火口へと上昇して
いるとでも言えるでしょうか・・・>
VIX(株価変動のボラティリティの指数)や、CDS(債務保証保
険)の清算価格をご存知とは、相当に、金融に詳しい方でしょう。
【資金ショート】
全米のみならず、欧州の金融機関でも、大手・中小に関係なく、資金
ショートが続いています。世界の金融の中心、ウォール・ストリート
は、この1か月で消えてしまいました。
英国を含む欧州政府と中央銀行は、
・なりふりかまわず、短期資金の供給(すでに50兆円)を行い、
・損失で足りなくなった資本を補うための、
・合計では数十兆円になるであろう出資を、決定しました。
これは、金融機関の国有化と、デリバティブを含む業務に規制をかけ
ることも意味します。デリバティブの時代は、終わる。
各金融機関の間で、今、短期資金の貸し借りが停止しています。
原因は、どれくらいの損を抱えているか、お互いに、わからないため
です。この短期融資(わが国ではコールマネーと言う)は、1回が数百
億円〜数千億円と巨額です。
短期市場がないと、金融機関では通常の業務が停止し、資金不足から
の倒産が、次々に出ます。
(注)ニュースでは、三菱UFJが、株価が、一週間で半分に急落し
た投資銀行モルガンスタンレーの20%の株を取得し、9000億円を出資
したということです。損をしなければいいのですが・・(08.10.14)
これほど広範囲で深い『短期資金市場の消滅』は、未曽有です。
日本の、かつての金融危機(1997年〜)がちっぽけに思えるくらいの、
危機の金額規模。日本政府は、金融機関に対し、約40兆円を投入し
た。今回と比較すれば、わずかな額です。
【目的】
本稿の目的は、
(1)米欧を中心とする世界の「損失額」に目処をつけ、
(2)今後の推移と、経済を予測すること、の二項です。
●本稿では、政府系エコノミストやIMFが言っている損失の数倍の、
金融機関の損害を想定しています。
【日本と米国の相違点】
日本の90年代末の金融危機と、今回の金融危機の最大の相違は、$20
兆(2000兆円)を世界から借りた債務国である米国が、世界の金融危
機の中心にあることです。
米国は、通常でも1年100兆円相当の、海外からの純資金流入(純債務
の増加)が必要です。
貿易赤字、財政赤字、企業の社債購入、及び世帯のキャッシュフロー
の赤字のためです。米国の世帯は、可処分所得の130%(≒年収の1.3
倍)の負債を、抱えています。
そのため、金融救済のための政府・FRBが必要とする資金で、海外
からの資金流入に頼ります。
わが国は、世帯の金融資産が今も1450兆円(2008年)あり、世帯の負
債は、少なかった。そのため1997年に始まった金融危機を国内で、解
決することができた。米国は、それができない。金融救済に必要な資
金も、海外に仰がねばならない。
米欧の住宅金融の危険を、本マガジンで、数年前から警告していたこ
とが、現実になったことを誇っても、意味はない。
重要なことは、概算の数字を使った、今後への見通しです。
そのため、微力を尽くします。データは公開されたものです。そこか
ら、論理で推量します。
(注)心配されていた08年10月13日(現地時間は月曜日)の欧州市場
の株価は、欧州の各国政府・中央銀行の、前週末の緊急対策を好感し、
先週の下落から反発し、午前中の前場で、6%から7%上げています。
しかし、今週がどうなるか、わかりません。今週は、米欧の、金融機
関の9月決算(4半期)での損失が確定します。市場が消えた住宅関連
証券は、時価評価はしていな数字です。
欧州政府による対策の、主な中身は、
・取り付けを防ぐための、預金の全額保護、
・破産した金融機関への、政府資本の供給、
・銀行間の短期融資の、政府による保証、
・企業が短期資金調達のために発行するコマーシャル・ペーパー(日
本風にいえば手形)の、政府による買い取りです。
政府マネーを使い「あらゆる対策」を実行すると言う。
(注)本稿は、有料版の緊急増刊号を、ほぼ同時に、無料版としても
送るものです。
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<Vol.229:緊急特別号:ウォールストリート;恐怖の8日間>
2008年10月14日
1.4種の巨額損に、見当がついていないという問題
2.ヘッジファンドには解約が殺到している
3.14か月の経緯
4.米欧の政府・中央銀行の対策
5.中央銀行はどういった形で、金融機関に、資金供給を行うのか?
6.問題になるのは、米国経済の信用
7.米欧の資産価格の下落
8.重要な事実
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■1.4種の巨額損に、見当がついていないという問題
問題になるのは、以下の4種の、表面化しつつある巨額損です。
損害の全貌が見えないことが、債券・証券を保有している金融機関へ
の信頼(trust)を、棄損(きそん)しています。金融は、トラストで
成り立ちます。
金融機関が損失を公表するのは、損を償却しても、自己資本(Tier 1)
に、リスク資産・負債の、8%以上の余力が残るときだけです。従っ
て、今週の3か月決算で示されるのは、「健全な内容」に見える額に調
整された損失にすぎません。
金融機関は、リスク資産の8%の自己資本がないと、国際業務と銀行間
の貸し借りができない。また、預金者からの、取り付けも起こる。
「先月までは、わが社の財政は健全」と言っていた。「今週は、図ら
ずも、マーケットでわが社の株が売られ、資金が足りない」となるの
が金融機関。嘘ですが、金融秩序のためと言えば、許される。経営者
は、後で、糾弾を受けます・・・
▼問題(1):金融機関の総損失はいくらか?
金融機関が抱えている帳簿上の、及び子会社とデリバティブを含む簿
外の損失と含み損の金額の、見当がつかない。これが、今の、根本的
な課題です。
金融は「自己資本と信用」で成り立ちます。
・この自己資本と信用が、どれくらい壊れているのか、
・正味の残存資本はいくらか、が分からないと金融業務は、停止して
しまいます。
本稿では、後半部で、金融機関の総損失を予想します。
▼問題(2):米欧の住宅が、どこまで下げるか?
不良債権になった、2007年から下がった米国と2008年から下がってい
る欧州の住宅価格が、どれくらいで下げ止まるのか、見当がついてい
ない。
米国の住宅関連ローンの額は1500兆円です。住宅ローン(1200兆円)
と、住宅担保のホームエクイティローンや消費者ローンがある。
英国を含む欧州でも、ほぼ1500兆円の住宅関連ローンがある。米欧を
合わせれば、3000兆円の、米欧世帯(1.5憶世帯)への貸し付けでしょ
う。
20%の損でも、どこの政府も、面倒を見切れない600兆円(推計)とい
う巨額に達します。
・米国の住宅関連ローン 1500兆円
・欧州の住宅関連ローン 1500兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・20%の損失で・・・ −600兆円(2009年まで)
米国がリーダシップをとるIMF(国際通貨基金)は、米国の住宅と
商業用不動産のローンの総損失を、143兆円に達すると発表しています
(2008年10月時点です)。
しかし、米国の住宅価格が2009年末に向かい、あと20%下げれば、そ
の2倍(約300兆円)の損失になる。
2009年に向い、米国住宅の追加の20%の下げは、すでに市場で予想さ
れているのです。
これに、価格高騰が米国より大きかった欧州の住宅下落による今後の
損失(推計で、1500兆円のローン×20%=300兆円)が、加わります。
●以上が、不動産関連ローンでの、米欧の合計損失を、600兆円と見る
理由です。
これが、合計で6000兆円の資産・負債をもつ米欧の金融機関とファン
ドの、損失になります。10%の損ですから、住宅ローン分だけで、今
の自己資本は全部、飛んでしまいます。
【補足説明】
前回述べたように、人ではなく、住宅に貸し付ける米英の[ノンリコ
ース・ローン(非遡及型貸し付け)]は、下げた住宅を手放せば、ロ
ーン残の支払いから、解放されます。
住宅価格が下げの傾向になると、人は、すぐ住宅を手放し、引っ越し
ます。そのため、市場には中古住宅があふれ、金融機関のローン審査
は前より厳しくなるため、住宅価格は一層下げます。
米英の住宅には、人に貸す[リコースローン(遡及型貸し付け)]の
日本と違い、一旦下げれば、それが原因で一層下げるという価格メカ
ニズムがあるのです。
●米欧の不動産融資での、600兆円の損(2009年まで)は、本マガジン
の予測です。まだ、世界では、米欧を合わせた、住宅ローンの損失は
計算されていません。
▼問題(3):世界の株価下落による損に、見当がついていない。
世界の株価の時価総額は、2007年8月が、$63兆(6300兆円)でした。
(国際取引所連盟:WFEの集計)
世界の、株価時価総額は、2008年10月1日時点で、$20兆(2000兆円)
も減っていた。
加えて2008年10月10日時点では、$10兆(1000兆円)分が減っていま
す。
合計の損害は、3000兆円です。
世界平均の株価は、半額に下落しています。
・2007年8月の時価総額 6300兆円
・2008年10月1日の時価総額 4300兆円
・2008年10月10日の時価総額 3300兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・現時点での総損失 −3000兆円
●この3000兆円の、株で露呈した損と含み損が、世界の金融機関・企
業・個人の資産を減らしています。
一体どこで、株価下落が止まるのか。
見当がついていない。
米欧の金融機関とファンドが持つ株を、30%と仮定すれば、3000兆円
×30%=900兆円の含み損です。株価は、後で、回復することがあるの
で、金融機関の損は数百兆円でしょうか。
▼問題(4):6200兆円の元本の、CDS(債務保証保険)の最終決着
が見えない
2000年代の世界金融には、融資、社債、証券に対し、総額で6200兆円
のCDS(債務保証保険)がかかっています。
住宅ローンや社債を含めあらゆるローン・融資に対し、裏で、CDS
が掛けられていると見ていい。CDSは、相手となった金融機関が倒
産すると、清算を迫られる契約のものです。
保証料(プレミアム)をもらい保証していた金融機関(たとえば破産
したAIG等)が倒産すると、どうなるか。
【事例1】
2008年10月7日に、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)は、
破産した米住宅証券会社ファニーメイとフレディマックの住宅証券に
かかっていたCDS(債務保証保険)の、「清算価格」を決めました。
●ファニーメイが元本の91.51%、フレディマックが94%です。両社の
平均で92.75%です。両社のCDSを引き受ける相手となっていた金融
機関には、100%−92.75%=元本の7.25%の損害が生じたことを示し
ます。
両社が、発行する住宅ローン証券に掛けていたCDSの元本は、$50
00億(500兆円)です。
この清算で、500兆円×7.25%≒36兆円の損害が、相手となっていた金
融機関に生じたことを示します。
(注)ファニーメイとフレディマックには、米政府が救済することを
決定しています。
これは、米政府の債務(過去は1000兆円)が、500兆円増え、1.5倍の
1500兆円になったことを示します。ファニーメイとフレディマックが
発行した住宅ローン証券の、今後の増加するデフォルト(未回収)の
損は、米政府のものになるということです。
【CDSの損失:事例2】
2008年10月11日には、倒産したリーマン・ブラザーズに関係するCD
Sの清算価格も、決まっています。
●想定元本$4000億(40兆円)に対し、清算価格は、わずか8.62%で
す。
想定損は、40兆円×(100%−8.62%)=40兆円×93.8%≒37.5兆円と
いう巨額です。これを、どれかの金融機関が引き受けねばならない。
(注)若干の、受け取っていた保険料(プレミアム)でうずめること
はできますが、その分は、わずかです。
▼以上のまとめ
まとめれば、以下の4項です。
(1)米欧を中心とする世界の金融機関の総損失に、見当がつかない。
リスクの高い投資を行っている子会社の、SIV(特定投資目的会社
:巨額の損がある)との連結は、まだ、されていない。しかも、住宅
関連証券の時価は、市場が消えているので評価ができないのです。
IMF(国際通貨基金)は、米欧の金融機関が、今までに発生してい
る不良債権を「賢明に処理した」と仮定して、$6750憶(67.5兆円)
の、新たな資本投入が必要だと計算しています。(英エコノミスト:
08.10.11号 p85)
しかしこれは、
・08年10月から今後の株価下落での巨額損と、
・今後の、CDSの解消による損失、
・及び、2009年の住宅価格下落を含めば、
極めて「甘い」見通しに思えます。
金融機関の損失は、「現在進行形」で増えているからです。CDSは、
金融機関が倒産して救済の政府資本を入れば、清算し解約しなければ
ならない条項がついています。
(2)米欧の住宅証券関連の損失は、2009年に向かい、総額が600兆円
になる可能性が、極めて高い。(これは、IMFの見積もりである14
5兆円の4倍です。)
(3)世界の株価時価総額では、10月10日時点ですでに、3000兆円分が
失われている。どこで下げ止まるか、不明です。
(4)元本6200兆円に掛けられているCDS(債務保証保険:相対)は、
相手の金融機関が倒産すると契約が解除され、清算(=損失の確定)
を迫られます。
CDSの清算の際に生じる損害は、見当がついていない。CDS問題
は、わが国の金融危機にはなかった。CDSは、相対(あいたい)取
引であり、交換市場がないため、査定が困難です。
以上のような巨額の損害金額については、正確な計算は、不可能です。
仮に、膨大な計算に時間をかけ、正確を期しても、実際の意味はない。
時間とともに、動くからです。
重要なことは、一刻も早く、帰着点での、概算数字をつかむことです。
それによって予測ができ、対策も打てる。対策が遅れると、金融の損
害額は一層大きくなります。
■2.ヘッジファンドには解約が殺到している
以上の4要素に加え、株・住宅証券・社債などに投資する側では、元本
200兆円のヘッジファンドに、今、解約が殺到しています。
世界のヘッジファンド(と言っても米英が中心)は、2007年12月対比
で、元本に対し16.1%の、表面化した損を抱えています。含み損は、
不明です。
(08.10.11 Financial Timesの巻末統計)
ヘッジファンドは今後、損の拡大を恐れる投資家からの解約によって、
預かり元本が、半分の100兆円に縮小すると見られています。
(注)ヘッジファンドには、商業銀行と投資銀行が、資金を貸してい
ます。
ヘッジファンドに、10倍のレバレッジ(元本に対しての、信用借りの
倍率)があるとして、元本100兆円の消滅は1000兆円の、運用資金の引
き揚げ(=清算)を意味します。
つまり、株・社債・住宅証券、原油・資源・穀物のコモディティ、及
びデリバティブの、投機的な売買をしていたヘッジファンドの運用資
金量が、今後、1000兆円くらいも減るということです。
(注)わが国の株式市場(時価総額が270兆円に下落)では、その60%
の売買は、ガイジンファンドによるものです。ガイジンファンドの、
資金繰りに窮した結果の売りが主因で、国内の買い手はなく、日経平
均が8000円付近に下落した(08.10.10:終値8276円)と言っていい。
今日火曜日は、若干上げるでしょうが・・・
■3.14か月の経緯
▼住宅価格の下落幅の拡大
14か月前の2007年8月9日には、米国のサブプライムローン(残高120兆
円)の、デフォルト率の(未回収率20%)の上昇が問題とされました。
米国FRBの議長バーナンキが見つもった住宅ローンの損害は、15兆
円くらいにすぎなかった。当時、米国住宅の価格調整は、15%程度で
終わるとされていたのです。08年3月には、米国の金融危機は終わった
との説が、政府筋から流された。エコノミトはそれに乗ったのです。
【密約】
投資銀行の5位、ベアスターンズが倒産した2008年3月に、米政府の呼
びかけで、米欧日の間に、ECB(欧州中銀)と日銀がドルを買い支
え、米国に資金供給するという「密約」が買わされていたことが、08
年8月に明らかになっています。
今、米国の住宅価格の下落では、2006年のピークから−40%が想定さ
れつつあります。(公式見解は、当然に、ありません)
米国の不動産では、3000兆円×40%=1200兆円の、価値下落が生じる
でしょう。住宅価格は、今から20%は下げます。
(注)世界で最も高かった日本の、90年代の不動産価格の下落は、10
00兆円くらいでした。
これに、欧州の住宅価格下落(20%〜30%・・・)が加わることは、
前述した通りです。
▼世界の株価の下落
2007年10月時点では、世界の株価(時価総額)はまだ高く、$63兆(
6300兆円)くらいを維持していました。
その後12か月で、時価総額は3300兆円(08.10.10)に低下し、08年12
月に向かう価格は、見当がついていません。
世界の株価は、ファンドの、ポジション解消売りがどこまで続くかに
かかっています。
▼CDSの総損害
CDSの損害は、不明です。元本6200兆円の(低く見て)5%が、清算
による最終損とすれば、それだけでも、310兆円の資金が必要です。
(注)今後、金融危機が落ち着くまでの間、CDSの新規組成と契約
は、消えるでしょう。
株価下落による損の、3000兆円を抜きにしても、
・住宅価格の下落による損が、600兆円相当、
・CDSの解消による損が、310兆円相当、
合計で、910兆円が必要になる可能性があります。
(注)株価が下落した分は、金融機関・企業・個人の投資及び年金基
金の損害になります。
以上の、本稿の損害見積もりの910兆円(2009年末まで)は、IMFの、
現時点での損害見積もりの約6倍です。
■4.米欧の政府・中央銀行の対策
▼米国政府と中央銀行
米政府は、$7000億(70兆円)を、金融機関の救済資金として、(こ
れから)出すことを、約束しています。とても、この額では足りなく
なることは、容易にわかります。
内容は、
・主要金融機関の不良債権・証券の買い取りと、
・340兆円の残高のMMF(個人預金)の、保護用です。
(注)米国政府が出資することは、まだ決定していませんが、近々、
破綻金融機関へ出資することになるでしょう。
▼英国と欧州大陸
先週末に、英国と大陸欧州では、資金繰り難におちいった金融機関に
対し、次々に、政府による資本注入(出資)の決定(つまり一時国有
化の宣言)が行われています。
欧州では、金融機関間の、短期取引(コール・ローン)についても、
各国政府が保証するという。取り付けが起こると金融が崩壊する預金
も、政府が保護しています。
まとめて言えば、米欧の政府と中央銀行が、金融危機の後始末をしな
ければならない。他に、手段はないからです。
▼すでに100兆円を注いだFRBとECB
米欧の中央銀行(FRBとECB)は、銀行間の短期資金市場が消え
たことを補うために、08年10月時点で、すでに100兆円の短期資金を、
供給しています。
今後、どれくらいの資金を投入できるのか?
物的担保としては「国債と金融機関から買う証券」しかないペーパー
・マネーですから、無限に、紙幣を印刷(実際は金融機関と政府への
貸付)ができます。
(注)今日の時点では、日米欧の中央銀行とG20カ国は、金額に枠を
設けず、必要なら、いくらでも資金を供給するという「青天井宣言」
をしています。日本も、ペイオフをはずし、政府が、預金を全額保護
するという。無際限の、資金供給です。
以下で、中央銀行のマネー供給の仕組みを見ます。
■5.中央銀行はどういった形で、金融機関に、資金供給を行うのか?
わが国日銀の、貸借対照表を見れば、中央銀行のマネー供給の仕組み
がわかります。(08年9月30日現在)
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac080930.htm
【資産】 【負債及び資本】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・金の保有 0.4兆円 ・発行紙幣 75.5兆円
・現金紙幣保有 0.2兆円 ・当座預金預かり 16.3兆円
・買現先勘定 8.7兆円 ・政府預金預かり 2.5兆円
・保有国債 65.5兆円 ・売現先勘定 11.4兆円
・金銭信託 1.2兆円 ・その他負債 0.8兆円
・貸付金 27.1兆円 ・資本勘定 5.8兆円
・外国為替 8.6兆円
・その他 0.6兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
資産合計 112.5兆円 負債・資本 112.5兆円
(注)現先勘定は、一定期間後に買い戻す(買現先)、または売戻す
こと(売現先)を条件にした債券の、短期での売買残です。
概略でいえば、日銀は、
・日本国債を65.5兆円分買い、
・金融機関への円の貸し付けを27.1兆円行い、
・金融機関へ米ドルの貸し付けを8.6兆円分(=外国為替)行っていて、
それらの資産を根拠にして、
・75.5兆円の1万円札を発行していて、
・18.8兆円を、金融機関と政府から日銀当座に預かっていると言うこ
とです。
日銀のマネー供給額とは、[紙幣発行の75.5兆円+当座預金での預か
り18.8兆円=94.3兆円]を言います。
そのマネー供給の裏付けになっているのが、[国債65.5兆円+円の貸
付証書27.1兆円+ドルの貸付証書8.6兆円=101.2兆円]です。
▼マネー発行の担保は、要は、国債
以上の、わが国日銀の例で見るように、各国中央銀行がマネーを供給
するときは
(1)担保として国債を買う、
(2)貸付証書を作成する、
(3)金融機関が持つ証券を買う、ということです。
【信用の根幹】
従って、中央銀行の信用は、
(1)担保として取った国債の信用(=国の財政の信用)、
(2)民間金融機関への貸付証書の信用(=金融機関の財政の信用)、
(3)買った証券の信用、ということになります。
つまり、中央銀行の信用とは、
・国家財政の信用と、
・金融機関の信用が根源です。
しかし、今、米欧の金融機関は、自己資本を失い、信用がない。その
ため、金融機関の間の、短期資金市場(インターバンク・マーケット)
が停止しています。
つまり、金融機関への貸付証書と、金融機関が担保に出す価値が下が
った証券の信用は、薄くなった。
どうしたらいいか。
【国債の信用が根底になる】
(1)財務省が、国の財政の信用を元に、国債(=借用証)を発行する。
(2)中央銀行が、国債を担保に預かり、財務省の当座預金の口座に、
現金を振り込む。
(3)各国の財務省が、自己資本を失った金融機関に、その資金を振り
込む。あるいは増資・優先株・劣後債の発行に応じる。
以上のような、構造です。
▼国家財政の信用
根底になるのが、国が発行する紙の国債(=利付借用証)の信用であ
ることが、了解できるでしょう。
この信用は、国の返済力と利払い力です。
ゴールドという物的担保を裏付けにしないペーパー・マネーの信用の
根源は、各国の、将来の国家財政です。つまり、あらゆる国の国家財
政の信用は、将来の徴税力(=課税力)に依存します。
過去に金融救済のために緊急に使った分を、後で課税ができるのは、
国民所得(=世帯の所得+企業所得)の増加があるからです。つまり
は今後の経済力(=生産力と販売力)の伸びです。
米欧の政府・中央銀行が、「金融危機を避けるためあらゆる朱手段を
とる」ということは、
・国債を増発し、中央銀行に買い取ってもらい、
・そのマネーを、金融機関に貸すまたは増資に応じるという意味です。
中央銀行も、無からマネーを生むことはできない。「国の財政の信用
力」を無視し、無茶に行えば、その国の通貨の信用が、下落します。
●通貨信用は、国債の信用と同義です。
米国と欧州の中央銀行は、以上のような形で、すでに100兆円を、金融
機関に増加供給しています。あと、必要になる数百兆円も、この方法
で集めるしかない。
【重要】海外(日本、中国、アラブ)からも、マネーを集めるとは言
っても、担保に、米欧の国債を差し入れねばならない。あるいは、米
政府または中央銀行の、特別借用証の差し入れが必要です。
■6.究極に問題になるのは、米国経済の信用
米国のGDP(国内総生産=経済の生産力と販売力)は、2007年で$
11.7兆(1170兆円:日本の2.2倍)です。世界のGDP(5500兆円)の
22%を占めています。
この米国は、2007年末で、対外債務を$20兆(2000兆円:GDPの1.
7倍)抱えています。
他方、対外資産は$16.5兆(1650兆円:GDPの1.4倍)です。純債務
が$3.5兆(350兆円)です。
(注1)日本の対外純資産は、2007年末で250兆円です。他の純債権国
は、ドイツ107兆円、中国78兆円、香港61兆円、スイス55兆円、フラン
ス13兆円です。
(注2)純債務国は、大きい順にいえば、米国の純債務350兆円、英国
80兆円、カナダ18兆円、イタリア12兆円・・・です。米英の合計で43
0兆円の純債務であり、世界は、過去の貿易黒字分を、そっくり米英に
貸し付けしていると言っていいのです。
●対外純債務国(米国)が、金融危機の中心というのが、今回の危機
の最大の特徴です。
1929年の大恐慌のとき、米国は対外純債務国でははかった。1997年の
日本の金融危機の時は、日本も対外純債務国ではなかった。
2008年からの米国は、
・減税で18兆円、
・イラク戦費で20兆円、
・医療費や国防費の財政赤字で40兆円、
・金融救済で確定した分が70兆円、
・貿易赤字で、80兆円を使います。
米国に必要な、海外からの資金の流入は、今後1年で、18+20+40+
70+80=228兆円になります。これは、過去の100兆円水準の2.2倍です。
●今後の焦点は、米国が必要とするこの228兆円を、どの国が、米国債
あるいは借用証と引き換えに、供出するか、です。
日本・中国・アラブが、総力を挙げて米国債を買っても、買い切れな
い金額です。
じゃ、米国内で買えるか。それも無理です。米国の金融機関は、今、
国債を増加買いする余力はない。むしろ、政府から資金供給を受けね
ばならない。
【結論】以上の帰結として、年末と2009年に向かい、米ドルは崩落す
ることになります。つまり、米国の政府財政の信用力の低下です。
買いがなく、売りが超過すれば、その国の通貨は当然に下落します。
まずは、$1=80円に向かうはずです。
▼今、ユーロが下げ、米ドルがユーロに対し維持し、円が上がってい
る理由
【ユーロの、対ドルでの下げの原因】
今は米ドルに対し、1ユーロは$1.36に下げています。
ユーロに対しては、ドルが上がった。
この原因は、米国の金融機関が、欧州にもつユーロの株や証券を売っ
てユーロを得て、そのユーロをドルに交換(ユーロ売り=ドル買い)
して、自国での資金繰りに充てているからです。
欧州の株価の下落は、米国と欧州の金融機関及びファンドの、ユーロ
株売りによります。
(注)米国の金融機関とファンドは、前述のように、対外債権を$16.5
兆持っています。これを、売っている。
【米ドルの、対円での下げの原因】
他方、米ドルは、日本円に対しては$1=100円付近に下げています。
(08.10.08)
この原因は、米系ファンドがもつ日本株の売りの金額(円売り=ドル
買い)より、日本の金融機関によるドル債やドル株の売り(ドル売り
=円買い)の金額が大きいからです。
ドル債を売ってドル札に換え、そのドルを円に交換(ドル売り=円買
い)し、自国に持ち帰っているからです。今、日本に資金が回帰して
います。
●今通貨でもっとも強いのが円、次がユーロ、もっとも弱いのが米ド
ルです。
【短期では】
短期では、米国の金融機関とファンドの、資金繰りのためのポジショ
ン解消売りで、米ドルへの回帰(ドル買い)が上回って、ドルが上げ
るように見えるときがあるかもしれません。
【重要】
しかし前述のように、米国は、今後1年で228兆円が不足します。した
がって、3か月、6か月スパンで見た時の、いずれの、世界の通貨に対
するドル安は、避けられない。
米国のドルの信用が下落しているのです。
■7.米欧の資産価格の下落
▼短期では想定ゼロサムだが・・・
株や不動産価格(資産価格)の下落は、一時的な相対(あいたい)取
引では、想定でゼロサムです。
たとえば1500円だった株を1000円で売った人と、買った人がいる。10
00円で売ったAさんは、500円の損失を確定しています。他方1000円で
買ったBさんは、1500円だったものを1000円で買ったので、500円の将
来利益の可能性があるように思えます。
Aさんの確定損500円+Bさんの予想利益500円=想定ゼロサム
こうした、資産取引でのゼロサムが成立するのは、株価が上がったり
下がったりする、普通の時期です。
▼2007年8月以後の、不動産・株の下落はみんなの損
今回のように、長期で全面的に下げるときは、株を売っていない多数
派も、巨額の含み損を抱えます。
ここ1年の、世界の株の、半分の価格への崩落で失われた3000兆円は、
株を売った人・買った人・保有している人・金融機関・ファンドに、
共通する損になっています。新興国の株は、米欧の投資銀行やファン
ドがその過半を持っています。
この損は、米国の住宅、欧州の住宅でも、同じです。米国では、2009
年にかけ不動産で1200兆円、欧州でも1200兆円の損が想定できます。
●米欧の合計の損は、株価で3000兆円、不動産で2400兆円です。合計
5400兆円です。米欧のGDP約3000兆円の、1.8年分に相当します。
●日本のバブル崩壊では、株の時価総額が600兆円から300兆円にまで
下げ、地価は2500兆円から1500兆円に1000兆円下げました。
合計で1300兆円の、資産の損害でした。日本のGDPが500兆円ですか
ら、その2.6年分でした。
【結論】
今回の、米欧の不動産と株バブルの崩壊の規模は、日本のバブル崩壊
の規模に対し、70%くらいと見ていいでしょう。
最終的な資本注入で、米欧の金融機関は、国有化され、あるいは大統
合されます。投機の先兵だったヘッジファンドは、元本が100兆円と半
分に減ります。
原油・天然ガスなどのエネルギーや、金属価格と穀物(国際コモディ
ティ)は、(米国、イスラエル、あるいはロシアが戦争を起こさない
限り)下げます。
●以上のように、各国政府が国債を発行し、中央銀行がそれを買い受
けて、青天井で必要なマネーを刷るため、1929年〜1933年のような、
大恐慌は起こりません。
1929年の大恐慌では、米国のGDP(生産・流通活動)は30%も減り、
失業は25%になりました。こうしたことは、今回は、起こらない。
●起こるのは、まずは、米ドルの崩落です。ユーロも下げる。そして、
米国を輸出先とする中国や日本の、商品輸出経済の低迷です。
円や元は、米ドルの協調買いをやめれば、即刻に、上げます。
●そして、今後数年(おそらく3年)の世界は、過剰な生産力をかかえ
、商品価格の下落(デフレ)になるでしょう。米欧の金融機関が自己
資本比率に問題を抱えるため、融資力が縮小するからです。
【波乱】
波乱の要素は、$62兆(6200兆円)のCDS(債務保証険)の清算価
値が、いくらになるかです。
CDSの契約では、相手の金融機関が破産し、政府資本が入れば、清
算しなければならないという条項があるからです。
各国の政府は、今、CDSの想定損には、目をつぶっています。誰も、
計算ができないからです。これがどう決着するか、今はまだ、不明
です。
■8.重要な事実
▼ドル下落に向かう米国債を、どこが買うか?
米国は2009年、2010年にかけて、228兆円もの国債の増発が必要だとい
うことを示しました。
●米国債は、今でも、その94%を、海外が買っています。米国内では、
増発される国債を消化できない。根底の理由は、毎年の、国民の増加
預金(残高は700兆円)がないからです。
【重要】228兆円ものドル建て証券を、どこの国が、買えるかです。買
えなければ、中央銀行のFRBが買うしかない。日本、アラブ、中国
を、懸命に合わせても100兆円分が限界でしょう。欧州は買う力がない。
そうすると、2000兆円の対外債務の米ドル証券が、激しく売られ、米
ドルが崩落し、米国債の金利が、市場の圧力で高騰します。
▼米国世帯の消費は、100兆円が過剰だった
米国世帯の資産とは、株であり、住宅の値上がり(1年で100兆円〜20
0兆円の含み利益)でした。
これがなくなると、米国の世帯は、1年で、100兆円くらいの個人消費
を減らさねばならない。米国の個人消費は、約800兆円(GDPの70%
)です。
100兆円は、12.5%の個人消費の減ですから、大きい。
1世帯当たりで1年100万円分の消費減です。
米国の消費者ローンは、大きく減っています。
2009年の米国GDPは、相当なマイナス(−3%から5%)になります
。これは、米国の自動車会社3社を破産させ、中国・日本の輸出工場も
直撃します。米国での、日本企業の生産も、減ります。
米国の貿易赤字を売上としてきた貿易黒字国の過剰生産力(約100兆円
分の生産力)は、今後数年の、デフレ圧力(商品物価の下落圧力)に
なります。
過去、5%の高い実質経済成長だった世界は、2009年、2010年と、GD
Pのマイナスを、経験するでしょう。
see you soon!
【後記】
ゴールド価格は、米ドルの価値と反対の動きをします。今、欧州の中
央銀行が、手持ちのゴールドの売却を、1年で300トンレベル(過去は
400トンレベル)に減らしています。
これが、原油などの資源が下げているのに、金がドル価格で、再び、
$900(31.1グラム)や$1000に近づいている原因です。
来週早々から、パリとロンドンのシティを見てきます。
帰って来て4日後には、米国の流通・物流の視察です。
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成功原則、関連事項、経済、金融を原理からまとめ、明快に解いてお
届けしています。以下は、08年10月分の目次です。金融経済の問題を
、本質的な部分から解いています。
無料での試読が、最初の一ヶ月間できます。
<398号:緊急特別テーマ:世界金融の壊乱と帰結>
2008年10月8日分
1.世界は、大恐慌やハイパーインフレには至らない:その代りに米ド
ルが崩落する
2.日本の金融危機(1997年〜)とは、その性格が異なる
3.ペーパーマネーの信用の根源
4.国家財政の信用
5.中央銀行のマネー投入
6.市場の金利を決める基本データ
7.仮説:中央銀行のマネー投入の限界は、その国の預金額に対し20%
付近か
8.日銀の前例から判断すれば
9.米ドルの価値
10.国債金利は下げ、金融機関の間のコールローン金利は激しく上げて
いる
11.破産問題は、米国の国家財政
<397号:緊急テーマ第三弾:世界金融の全面崩壊の展開>
2008年10月1日
【目次】
1.日本は、米欧の金融危機にどう関係するか
2.米国の破産なのに、米ドルがさほど下げていない理由
3.そして日欧の、中央銀行のドル買い=対米資金供給
4.米国金融の状況は、市場の短期資金が枯渇する異常事態
5.米ドルは世界で売られ、日米欧の中央銀行が買い支えている
6.2008年10月、11月には
7.必要政府資金$7000億の、根拠を見れば
8.2008年10月以降は?
9.6200兆円のCDS(債務保証証券)の行く末は?
10.円は高騰する
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