経済論シリーズ:ピケティの『21世紀の資本』が示すこと(2)
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こんにちは、吉田繁治です。トマ・ピケティの『21世紀の資本』、
二回目です。大部の書を要約しながら解釈して考えることが目的で
す。解釈とは、英語ではunderstandingにあたります。

それ自体では意味が明確ではないものを、理解が可能な形で、表現
し直すということでしょう。『21世紀の資本』の意味が明確ではな
いということではない。あまりに大部であるため、意味を見逃すの
です。

この意味で、なぜ世界のベストセラーになったのか不思議です。
ほぼ初めて、太古から、中世、近代、現代のデータ(推計を含む)
を取り上げたからでしょう。それに、データ主義であることです。
データから論理を組み上げて行く方法のテキストです。

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<Vol.324:経済論シリーズ:
        ピケティの『21世紀の資本』が示すこと(2)>
        
         2015年3月8日


【目次】

1.経済成長
2.GDPの3面等価
3.ピケティの『21世紀の資本』
4.産業革命の後、世界のGDPは成長した
5.日本政府の、長期GDPに関する試算の、いい加減な内容
【後記】

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■1.経済成長

第2章でピケティは経済成長について書いています。ユニークな点
は、太古の紀元0年(キリストの生誕の年)から現代の2012年まで
の、2000年間を対象にしている点です。

まず経済成長です。これは、何を言うのか。

マクロ経済学でいうと「GDPの成長」です。新聞にはほぼ毎日、
GDP(Gross Domestic Production:国内総生産)という言葉が出
ます。これが何であるか、明快に説明できる人は意外に少ない。解
説を加えます。

トマ・ピケティの本だけではありませんが、「経済成長」が何かを
理解するには、以下を知っておくことが必要です。

『マクロ経済学』の教科書に最初に書いてあることです。しかし、
GDPの三面等価までと言えば、理解に挫折している人が80%でしょ
うか。マクロ経済論の入り口が以下です

▼GDPとは何か

GDPは、需要面(同じことですが支出面)では、[民間需要+政府
需要+輸出-輸入]です。

需要面というのは、商品とサービスの生産面のGDP、及び所得面の
GDPと一致するからです(GDPの三面等価:後述)。

サービスは、店頭で売られるモノのような形が、ない商品です。例
えば医療、運輸、通信(携帯電話やインターネット)などは、経済
学ではサービスに分類します。先進国では、有形の商品より無形の
サービスのほうが大きくなっています。サービスと言っても値段を
引くことではないので、念のために・・・

経済は家計、企業、政府という3つの主体の、商品とサービスの生
産と売買の行動を、金額で見たものです。

名目金額は、所得や企業の売上と同じように、消費者物価の上昇分
を入れたものです(2.4%:消費税増税込み:2014年12月)。物価
の上昇率(デフレーターという)を引けば、実質の金額になります。
実質金額の増減は、単価で割ると商品数量の増減を表します。

わが国の最も新しい名目の数値を( )の中に入れています。内閣
府からとってきた2014年10月~12月の年率換算の実績です。
:±は、前年比の増減です。在庫増減は小さいので省略しています。

【1.民間需要】
世帯と法人からなる民間の需要は、
(1)5300万の家計の最終消費支出(295兆円:-2兆円)、
(2)住宅投資(14兆円:-2兆円)、
(3)民間企業の設備投資(69兆円:+1兆円)です。

この民間需要合計は、2014年12月で378兆円です。消費税を上げる
前の前年に比べ、4兆円(1%)減っています。

【2.政府部門】
政府部門の需要は、
(4)政府の最終消費支出(101兆円:+3兆円)、
(5)公共投資(25兆円:+1兆円)です。

民間の需要の、前年比減少(4兆円)が、政府需要の増加(4兆円)
で補われていることがわかります。

政府(中央+地方)の最終消費支出(101兆円)とは、公務員の人
件費、社会保障、防衛費、教育費、そして公共の構築物の減価償却
費など、国民に対する公共サービスに要した費用です。

公共投資(25兆円:公的資本経形成とも言う)は、政府が行う公共
の道路、河川、上下水、港湾、空港、学校、病院、住宅などへの支
出です。商品は一年で使ってしまいますが、道路や学校の建物は何
十年も使います。これが「資本」という概念のものです。

政府最終消費と公共投資の合計は126兆円であり、前年比で4兆円増
えています。

【3.輸出と輸入】
最後が輸出と輸入です。
(6)輸出(91兆円:+13兆円)、
(7)輸入(104兆円:+7兆円)です。輸入は海外の生産なので、
GDP(国内の総生産)では、マイナスの要素です。

わが国は1980年代から30年間、大きな貿易黒字を続けてきましたが、
2011年の東日本大震災(3.11)の後の5年間は、貿易が赤字になっ
ています。2012年11月からの円安(1ドル80円→120円)でも貿易は
赤字です。(注)特に08年のリーマン危機以後、海外生産が増えた
ためです。

以上のように、
(1)(2)(3)の民間需要(378兆円)に、
(4)(5)の政府需要(126兆円)を加え、
(6)輸出(91兆円)を足して、
(7)輸入(104兆円)を引いたものが、名目GDPです。
378+126+91-101=494兆円です。

(注)在庫の減少が1.5兆円(四捨五入して2兆円)あったので、
492兆円です。四捨五入のための誤差です。

2014年12月時点の年率換算の名目GDPは、490兆円でした。
内閣府は、3か月ごとに、GDPを集計して、公表しています。企業の
4半期決算の、損益計算書のようなものです。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2014/qe144/pdf/jikei_1.pdf

■2.GDPの3面等価

需要面のGDP(名目490兆円)は、
・世帯(個人)と法人(企業)の、所得面のGDP、
・及び、商品とサービスの生産のGDPと一致します。

単純に言うと、国全体のマクロ経済では、
「GDPの需要額=企業所得+個人所得=商品とサービスの生産額」
です。生産された商品額は、国民と政府の需要に一致し、その需要
が企業の所得と個人の所得に一致するということです。ですから、
GDPが増えるということは、「企業所得+個人所得」が増えること
でもあります。

少し煩雑になるかもしれませんが、われわれにとって大切な、国民
所得の内容を見て行きます。GDPは所得と一致するのです。(2014
年3月期の実績)

【所得面のGDP】
(1)個人所得(雇用者報酬という)=248兆円 

働く人は6000万人くらいですから1人平均で413万円。個人所得には、
企業が負担している社会保険料が含まれます。個人所得が一番多か
ったのは1997年の278兆円でした。最近18年間でgは10%減ってい
ます。これが、GDPが増えなくなった主因です。

(2)2014年3月期の企業所得は91兆円です。

2008年のリーマン危機の時は78兆円でしたが、その後少しずつ回復
し、80兆円(09年度)、89兆円(10年度)、83兆円(11年度)、
85兆円(12年度)、91兆円(13年度)になっています。

(3)財産所得=23兆円

財産所得とは、金融資産の金利や配当と不動産の賃借料です。
2014年3月期で、世帯分(26兆円)、政府分(-3兆円)の合計が
23兆円です。世帯の財産所得は1995年には41兆円ありましたが、
1998年の金融危機以後、預金金利がほぼゼロになっているため、ほ
ぼ半減しています。世帯は、雇用者報酬と財産所得の両方が減って
きたのです。

雇用者報酬(248兆円)+企業所得(91兆円)+財産所得(23兆
円)の合計362兆円が、2014年12月時点での、年率換算の「国民所
得」です。

GDPの490兆円と国民所得の362兆円には128兆円の違いがあるではな
いかという方がおられると思います。ここで、GDPには含まれてい
るが、国民所得に入っていないものを、国民所得に足します。

GDP(490兆円)
=国民所得(362兆円)+減価償却費相当107兆円+消費税などの間
接税39兆円-政府からの補助金等の調整項目18兆円=490兆円

減価償却費は、GDP計算では固定資本の減耗と言います。貨幣資本
が化体した生産設備、機械、建物、住宅は使うことによって減耗し
ます。これが、減価(価値が減る)という概念です。その減価分を
補うものが、減価償却費です。減価償却費は需要面のGDPには含ま
れていて、所得面のGDPには含まれていないので、107兆円を足しま
す。

また、GDPには消費税や物品税(ともに間接税)が含まれています
が、国民所得には間接税が含まれていないので、これも足します。

他方、政府からの補助金は、国民所得には所得として含まれますが、
需要面のGDPには含まれていないので、引きます。

以上の結果、需要面でのGDP(490兆円)は、所得面でのGDPと一致
します。同様に、商品の付加価値生産額(事業の粗利益額)とも一
致します。以上が、GDPの三面等価ということです。

GDPが増えること、つまり成長することは、
・商品とサービスの付加価値生産額
(=粗利益額=売上-中間財の投入額)、
・企業+世帯の所得額、
・そして世帯、企業、政府の需要額が、同時に増えることです。

これが、ピケティに限らず、経済成長と好況や不況を理解する前提
です。景気は気と言いますが、数値的な根拠に基づく気でなければ
ならない。

実際のGDPが潜在成長力より伸びるときが、好況です。潜在成長力
とは、雇用と設備の生産能力が100%発揮された状態です。経済と
所得の、伸びる能力が潜在成長力です。

日本の潜在成長力について内閣府は、
(1)1981年~1990年は、実質GDPで年率4.4%もあったが、
(2)1991年~2000年は、1.6%に下がり、
(3)2001年~2010年は、0.8%に下がっていると計算しています。
(注)潜在成長力以上にGDP(=需要)が増えたとき、物価の上昇
が起こります。

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0214/shiryou_02.pdf

GDPが伸びる力は、
・資本の投入(生産と販売設備の増加)、
・技術進歩(全要素生産性の上昇:TFP)、
・労働力の増加、という3つの要素から来ます。

この3つとも、日本の2000年代は、低下しています。

他国を言えば、日本の01年から07年(世界金融機前まで)の潜在成
長力が0.9%でしかないのに対して、米国が+2.3%、英国が+2.9%、
ドイツが+1.7%、フィンランドが+3.1%あると計算されています。

(注)に日本とドイツだけは、高齢化のため、01年から07年の労働
力の投入(増加)が、ともに-0.2%と減っています。(2014年2月
:内閣府:上記サイト)

■3.ピケティの『21世紀の資本』

歴史的な視野を2000年と超長期にとっているピケティは、18世紀か
らの、英国産業革命以降の世界のGDP成長を、以下のように示して
います。(P78)

▼200年間の世界経済の成長率

                        1人当たり
     世界産出成長(%) 世界人口増加  産出の増加
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
0~1700年   0.1%       0.1%      0.0%
1700~1820  1.6%       0.8%      0.8%
1820~1913  1.5%       0.6%      0.9%
1913~2012  3.0%       1.4%      1.6%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(注)世界産出は世界の実質GDP、1人当たり産出(production)は、
[実質GDP÷人口]である。

家畜力や水力に代わる蒸気機関の利用から始まった産業革命の前、
世界の人口の平均的な増加は、年率で0.1%(1000人あたり1人)で
あり、1人当たりの商品産出量の増加はゼロだったということです。

日本で言うと縄文の太古から江戸時代(1603年~1868年)の初期で
す。古代からイタリア・ルネサンス期(16世紀)のころまでは、世
界中を見ても、経済の成長率は人口の増加分だけでした。

(注)世界に波及した英国の第一次産業革命は、江戸時代後期の
1760年から、幕末の吉田松陰や大久保利通が生まれた1830年ころま
でです。人力と家畜力だった生産と運送に、蒸気機関を使うように
なり、急に生産力が高まったのです。日本では、江戸時代は鎖国を
していたため、欧米に100年遅れて明治以降が産業革命の近代化の
時代でした。

GDPの成長とは、〔人口1人当たりに平均した商品産出量の増加×人
口の増加〕です。

▼産業革命前の1700年まで

年率0.1%の成長で1700年なら、1.001の1700乗です。手元にあるカ
シオの関数電卓で計算してみると、5.5倍です。

つまりローマ帝国の時代(紀元前27年~395年)から西暦1700年こ
ろまでに、世界のGDPは、5.5倍に増えた。それは、世界の人口が5.
5倍に増えたためだったのです。

商品を買うことができる豊かさを示す1人当たりGDPの増加は、平均
年率でゼロだったので、1人が買うことができる商品量は、ローマ
の古代から中世と、16世紀のルネサンスを経て1700年までは同じだ
ったということです。

日本で言うと、奈良時代と江戸時代の初期では、1人が買うことが
できる食料などの商品量では、同じだったことを意味します。

それも当然でしょうね。奈良時代の人の食べる商品量と江戸時代の
人が食べる量は、カロリー面では、ほぼ同じだったでしょう。

通貨量の増加によるインフレで価格は上がって、名目の金額は増え
た。しかし、そのインフレ率を除く商品量では、同じでした。
1700年までは、商品と言えば、どのほとんどは食料でした。

▼21世紀の日本は、労働人口が大きく減って行く

日本の21世紀は、
・生産年齢人口の減少(年率-0.8%:-60~80万人/年)を主因に、
・インフレを引いた実質GDPの平均成長が、高くても1%台でしかな
い時代になります。

これでも、西暦0年~1700年までの1人当たりゼロ成長よりはるかに
高い。日本国の実質GDPが1%伸びて、労働人口が0.8%減ると、1人
当たりでは1.8%の、実質所得の成長です。

これが50年続くと(2065年)、1人当たりの実質所得は4倍になるか
らです。実質の所得金額で言うと1600万円/1人です。

計算してみると、この達成は、生産年齢人口が減って行くため難し
い感じです。人口が減る中で、国の経済が成長するには、1人当た
りの所得の伸びが、人口の減少分、大きくならねばならないのです。

(注)GDP=1人当たりGDP×労働人口、です。

■4.産業革命の後、世界のGDPは成長した

▼1700~1820年:初期産業革命

第一次産業革命の1700年から1820年まで(日本では江戸時代末期の
時期)は、人口の増加率が、年率平均で0.4%に上がり、1人当たり
の産出量の増加は0.1%/年に上がり、実質経済成長は0.5%/年でし
た。世界経済は、0年から1700年間の停滞を、脱したのです。

0.5%の実質成長で120年間なら、[1.005の120乗=1.8倍]です。
日本では江戸時代中期から末期です。実質GDPが120年間で1.8倍に
なる成長をするのが世界平均でした。

▼1820~1913年:第二次産業革命

次の1820年から1913年までは、日本で言うと幕末から第一次世界大
戦(1914~1918年)前の、大正時代の初期です。世界は、第二次産
業革命と言える、高い経済成長をしています。

明治維新以降は、まず世界の人口増加率は0.6%/年と高くなりまし
た。1人当たりの産出量の増加は0.9%/年になっています。このた
め実質GDPの成長は、年率で1.5%という高いものなった。

1.5%の経済成長で93年間経つと[1.015の93乗=4倍]です。GDPは
4倍に増え、1人当たりの所得と商品の購買量は2.3倍に増えます。
(注)需要面のGDP=所得面のGDP=生産面のGDPです。

日本人の女性の長寿がほぼ93歳です。夏目漱石と同じ時期の、江戸
時代末期に生まれ、大正時代(1912~1926)に亡くなった夫人は、
生涯で、1人当たりの商品購買量が2.3倍になる時代を生きています。

夏目漱石は、明治維新の1年前の1867年に生まれましたが、1916年
に胃潰瘍で亡くなっています。明治の平均寿命だった49歳が享年
(きょうねん)です。

『吾輩は猫である』を最初として未完の名作『明暗』までを書いた
のは、40歳から49歳まで10年です。彼我を比較すれば、恥じ入るし
かない。

漱石が生きた49年間で、明治時代のGDPはほぼ2倍になっていたでし
ょう。

朝日新聞は、没後100年を記念して、『こころ』に続き『三四郎』
を連載しています。漱石は東大をやめたあと朝日新聞社の社員とし
て、『虞美人草』をはじめに新聞小説を書き続けたたからです。

余計なことですが、当方の愛好する小説は、玉名(熊本)の幽玄な
温泉宿での、画家と女将の数日を書いた『草枕』です。

▼1913年~2012年:第一次世界大戦から現代まで

第一次世界大戦は、人類史上はじめて、二つに分かれた国家連合の
総力戦でした。ピケティが1913年で分けたのは、フランスとドイツ
が、お互いを破壊した資本(生産設備)が大きかったからです。
(注)日本にとっては、第二次世界大戦でしょう。

1913年から2012年は、世界の人口増加率は1.4%/年と高く、1人当
たり産出量も1.6%/年と高いものでした。年率3%のGDPの成長です。

1.03の100乗は19.2倍ですから、世界のGDPはこの100年で20倍にな
り。1人当たりの商品量は、5倍に増えています。

実質で3%の実質経済成長は、ピケティの言葉を借りれば「とんで
もなく高い成長率」です。

関数電卓で計算すると
・1%の実質成長は100年で2.7倍ですが、
・2%になると、一挙に7.2倍になり、
・3%なら、19.2倍です。
・4%成長は、51倍、
・5%成長は、132倍です。

(注)金利5%で複利運用をすると、元金100万円は100年で132倍の
1億3200万円に増えます。資本の成長と見れば、資本の成長は、指
数関数の増加です。

ピケティは、第二章の「経済成長」で、退屈になるくらい繰り返し
て、GDPの指数関数での成長の大きさを述べています。

■5.日本政府の、長期GDPに関する試算の、いい加減な内容

ピケティのGDPの長期データに因(ちな)んで、2015年2月に、わが
国の財務省が出している『中長期の経済財政に関する試算』を検討
してみましょう。

『中長期の経済財政に関する試算』は、今後、日本の政府財政が破
産しないためには、どれくらいのGDPの成長が必要かを、計算した
ものと言っていいでしょう。

(注)財政の破産や、破産しないことも、数値で定量的に言わねば
ならないものです。破産とは、支払うべきものが支払えないことで
す。

財政赤字の悪化と国債残の増加から、国債の償還との利払いができ
るという信用が低下して、リスク要因での金利が高騰すると、新た
な国債の発行が更に金利を上げるため、国債発行ができなくなりま
す。

国債を含む債券の長期金利は、「期待物価上昇率+実質GDP期待成
長率+リスクプレミム」に収束して行きます。

赤字財政でありながら国債の発行ができないと、支払うべきもの
(公務員の人件費、年金、医療保険料、国防費、教育費など公共事
業の経費)が支払えない。これが、政府の財政破産です。

▼経済再生のケース

内閣府は、「経済再生のケース」としては、実質GDPで2%、物価上
昇を含む名目GDPで3%~4%という高い成長率を出しています。
(2015年2月)
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h27chuuchouki2.pdf

上記を、単純化した表にします。

【日本経済再生ケース】
       2014年度   2015~2023年  2023年
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名目GDP    491兆円     3.5%増/年    668兆円
実質GDP    526兆円   2.0%増/年    628兆円
物価上昇率    100     2%上昇      120
1人当たりGNI  416万円   年率3.4%増    560万円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
財政赤字     33兆円   23~32兆円     34兆円
国債残高    960兆円   +259兆円   1219兆円
名目長期金利  0.4%   1.2%~4.5%   4.6%   
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(注)GNIは、国民総所得です。GNP(国民総生産)に近い。国内総生
産(GDP)+海外からの純所得=GNI(国民総所得)です。GNIでは、
1人当たりGDPが、海外からの純所得の分、大きくなります。

まず政府が想定している、物価上昇(想定が+2%)を引いた後の実
質GDPの2%成長が含む問題です。

政府の人口問題研究所が予測している生産年齢人口(15歳~64歳)
は、今後9年間、年率で毎年約1%は減って行きます。

15歳~64歳のすべてが働く人ではありませんが、生産年齢人口の増
加・減少は、働く人の増減に比例します。

働く人が年率ほぼ1%(60万人)減少すると見ていいのです。総人
口の減少より働く人の減少が大きい。9年間で生産年齢人口は588万
人も減ります。経済的には、総人口1000万人の都市が、一個、日本
からなくなる勘定です(!)。

~~~~~~~~~~~~~~~~~
2014年  7780万人
 ↓
2023年  7192万人(588万人減少)
~~~~~~~~~~~~~~~~~
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/gh2401.asp

年率1%の生産年齢人口の減少に対し、政府は、実質GDPで年平均2
%の成長を想定しています。1人当たりのGDPでは、毎年3%の増加
という高い成長が想定されています。

(注)ピケティが集計した1913年から2012年の、高い経済成長の時
期であっても1人当たりの実質産出量(=1人当たり実質GDP)の増
加は、年1.6%でした。

わが国の1人当たり実質GDPの増加率の実績は、
・1980年代 年率3.5%
・1990年代 年率0.6%
・2000年代 年率0.2%です。

一体、どういった根拠で、働く人の1人当たり実質GDPが、今後10年
にわたって、平均年率3%で増加し続けと言えるのか? 
当方には、まるで、理解できません。

物価上昇も年率で2%とされています。
どんな根拠でこうなるのか? 

名目GDPの増加率は年率で3.5%、向こう9年で1.36倍になって2013
年には668兆円になるとされています。実質で2%成長、9年間で1.
2倍です。

1980年代の高度成長の時期が、1人当たりの実質GDPの増加が年3.5
%でした。年間で3%の実質GDPの増加は、この高かった成長率の時
に近い。その後の90年代のGDP成長は年率0.6%、00年代は0.2%に
すぎませんでした。

2015年以降の10年、なぜ経済成長を高く想定できるのか。
内閣府が言う「経済再生ケース」とは、何が、どう再生することな
のか。明らかではありません。

通貨(マネタリーベース)を増やす異次元緩和によって、急に、
1人当たり実質経済の成長率が3%上がるのか?

政府(内閣府)は、無理な将来GDPの想定をしています。目的は、
「政府の財政は破産しない」と示すためですしょう。

政府財政が破産しないためには、名目GDPで3.5%の成長、実質では
年率2%の成長が必要だと試算したのが、『中長期の経済財政に関
する試算』に思えるのです。

この試算をベースに金融・経済対策が行われ、財政対策も行われま
す。内閣府の試算は、単に「経済再生の願望を示した」と言って切
り捨てて、ゆるがせにすることはできない問題です。

ピケティの世界経済の成長率から、日本政府の『中長期の経済財政
に関する試算』の根拠のいい加減さに思い至りました。

次稿は、第三章 資本の変化からです。

【後記】
政府の『中長期の経済財政に関する試算』が示すGDPの成長率は、
実質(年率2%)も、名目(年率3.5%)も、願望に過ぎません。

企業が実態とかけ離れた売上や利益を、経営計画とするようなもの
です。これが単に、願望だけであれば罪はない。

しかし実現しない願望の数値をベースに、政府の金融、経済、財政
計画が作られるとき、禍根(かこん)を残すものになります。

一体何を根拠に、こんなにいい加減な数字を作ったのか? 

小泉内閣の時期から財政危機が懸念されていたため、『中長期の経
済財政に関する試算』は、2002年、03年、05年、06年、07年、08年、
09年、10年、11年、12年と毎年作られています。

毎年の試算で、「願望の経済成長率」が、果されたことがない。
税金で俸給を得ている内閣府の担当が、責任をもって作った数値と
はとても思えません。

金融市場に向かって、今後10年の売上は、毎年大きく成長する、利
益も増えると言い続けている、信用されない上場企業と同じです。

時間がある方は、過去のものを見てください↓。
政府は、毎回、実現しない願望の数字を出しています。
http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/shisan.html

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。
                              以下は、項目の目処です】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点、ご意見はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ
と記述のとき、より的確に書く参考になります。

気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、
うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ
ないときも全部を読み、共通のものは記事に反映させるよう努めま
す。
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<749号:新年3号:超低金利の濃霧の中を暴走する日銀号>
            2015年1月21日

【目次】

1.スイスフランの急騰:15年1月16日
2.スイスフラン誘導の、上限撤廃
3.スイスの目的もデフレ脱却だが、実際はデフレが続いている
4.日銀と日本
5.スイスの銀行間金利
6.スイスフランの基本的な部分での強さと、スイスの銀行
7.異次元緩和後が目的とした消費者物価の上昇は、2%だった
:これが、どうなったか?
8.「真の物価上昇率」の計算と傾向
9.超低金利の濃霧の中を、暴走している日銀
10.そしてどうなるのか・・・
11.日銀が国債の無制限買いを行うと、どうなるのか?
12.金融機関が、日銀の当座預金から現金を引き出すとどうなるか
13.最後は、日銀は資産の裏付けのない、円の発行に向かう

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<750号:アラブと原油価格の問題>
2015年1月28日

【目次】
1.前提となる認識   
2.アラブでは、原油が富であるため、
帝国主義は領土主義として続いている
3.2億ドルの身代金要求
4.原油価格の下落は、日本経済・企業・世帯にとって、所得のプラ
ス要因
5.2000年代の需要増加と原油価格の高騰
6.2014年6月以降の、原油価格の下落とその原因
7.米国のシェール・オイルの生産
8.2014年11月末の、OPEC総会以降の原油価格
9.シェール・オイル生産が増えるには・・・

【後記】

【後記】

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