経済論シリーズ:ピケティの『21世紀の資本』が示すこと(1)
Written by admin on 2015年3月1日 – 13:00
こんにちは、吉田繁治です。正月がこの前のことだったように思え る新しい年も、今日は3月1日です。仕事場の窓からも、柔らかい暖 かさがある春の光が感じられます。月末には、桜を見ることができ るでしょうか。 本稿は、昨年来、大部の経済書では珍しく話題になっている『21世 紀の資本』(トマ・ピケティ)を、一緒に読みながら解説するもの です。その目的は、経済に対する理解です。 2014年12月9日に翻訳が出て以来、アマゾンでも、5940円という高 い価格と、索引を含むと700ページに近い大部にもかかわらず、経 済書の分野でベストセラーを続けています。読者の評価も高い。 元ハーバード大学長の、経済学者ロレンス・サマーズや、人気のあ るノベール賞経済学者ポール・クルーグマンが絶賛したことから火 が付き、世界10数カ国で100万部も売れているとも言う。クルーグ マンは、日本政府に、現在の異次元緩和を核として、インフレにも ってゆくリフレ政策を奨めた人でもあります。 【お知らせ】 毎月、月初は、有料版の購読でクレジットカードの期限切れになっ た人から「有料版が届かない」という問い合わせのメールが来ます。 期限切れになったクレジットカードは、新しい番号の登録と、期限 の登録が必要です。 お手間をかけますが、まぐまぐの『マイページ ログイン』の画面 を開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして出て きたマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジットカー ドを新しいものに変更してください。 [マイページ・ログイン↓] https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカード番号、有効期限を登録すると、その月の届かなかった 分を含んで、再送されます。 ■1.「r(資本の収益率)>g(GDP成長率)」という事実 ご存知の方も多いように、『21世紀の資本』の主張は単純です。 <資本の収益率とGDPの成長率を長期的に比較すると、r(資本の 収益率)>g(経済成長率)だった。> ピケティは、推計を含みつつ、2100年間の資本の収益率つまり自己 資本の利益率と、国の経済成長率つまりGDPの増加率を調べていま す。 資本の収益率は、上場会社では[税引き前の利益÷株価時価総額= ROE(時価資本利益率)]で計ることができます。非上場の会社で は、[税引き前の利益÷負債を引いたあとの純資産=ROE]です。 純資産(または株価時価総額)が1000億円で、税前利益が40億円な ら、4%が資本の収益率です。 【100年】 古代から現代までを調べると、このROEは安定して4%付近を示して います。4%の資本利益率を101年続ければ、利益額は、1.04の100 乗ですから50倍になります。 他方、GDPの成長率は、 ・18世紀までは、0~1%未満と低かった。 ・しかし英国の産業革命が広がった19世から、1年でほぼ2%から3 %くらいの成長です。 GDPの平均成長を2.5%とすれば、101年で1.025の100乗ですから12 倍です。 GDPの成長は、ほぼ、個人所得の増加率と同じになります。国の経 済成長が2.5%だと、個人の所得の増加率も2.5%付近です。(注) 収益(会社の粗利益)のうち賃金に回る割合を、労働分配率と言い ますが。日本ではほぼ40%平均であり、3%以下の幅の変動で安定 しています。 税引き前のROE(資本の利益率)は、ほぼ常に、経済成長率である GDP(または賃金)の増加率より大きかった。 資本の増加率4%、個人所得の増加率2.5%が100年続くと、資本の 利益は50倍になります。しかし個人の所得(賃金)は12倍に増える に過ぎない。このため少数の株式の所有者と労働者の間の、資産及 び所得額は、広がり続けています。 ■2.1990年代からの格差の拡大 [フランス] ピケティの本国フランスでは、所得上位10%(国民の10人に1名) の人の所得は、全所得の33%付近になっています(2004年)。 [米国] 米国では上位10%の人たちの所得は、1970年代の32%から、1980年 代以降大きく上がって42%になっています(2002年)。2015年では、 米国人の10人のうち1名の所得が、残り9人と同じになり50%でしょ う(当方の推計)。 [日本] 日本でも、1992年には、上位10%の人の所得は32%でしたが、 2011年では、米国の2002年並みの41%に上がっています。 ピケティは、2100年間もの(推計を含む)経済データをもとに、以 上を実証したのです。 ■3.資本の利益 マルクスは資本主義の富を分析した『資本論』(1867年:明治維新 の1年前)で、貨幣資本はその展開過程で、労働の対価を超えた剰 余価値を生むことを示しています。 貨幣(G)→商品(W)→(貨幣(G)+剰余価値)。剰余価値が資本 の利益です。以下のように会計プロセスで言うと、この剰余価値の 産出過程がクリアになります。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (1)工場の設備(商品1単位当たりの貨幣資本1000円) ↓ (2)原材料の仕入れ(商品1単位当たり800円) ↓ (3)労働による加工での商品作り [商品原価=商品1単位当たりの(原材料800円+賃金600円+設備 の減耗コスト250円=1650円)] ↓ (4)商品を2000円で販売 ↓ (5)剰余価値の発生(販売2000円-商品原価1650円=350円) ↓ (6)利潤の発生(商品1単位当たりの剰余価値350円) 資本の最終利益 =利潤350円-設備(資本)の減耗コスト250円=100円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 商品1単位当たりの、資本の最終利益である100円は、労働者(社 員)には帰属しません。工場とオフィスの設備を作るための貨幣資 本を出した株主のものです。 1000円の貨幣資本(商品1単位当たり資本)が出した利潤が100円で す。ROE(利益÷自己資本)では10%です。 ピケティは、マルクスが分析した剰余価値の増加率が、常に、賃金 の増加率より大きかったことを、歴史的に示したのです。 このため、持てる者と持たざる者の所得と、資産(貯蓄された所 得)の格差は、年々、大きくなってきました。『21世紀の資本』が、 21世紀にベストセラーになった理由は、世界各国で、2000年代の格 差の拡大があるからでしょう。 ■補注:資本の利益を受ける側に属するには・・・ われわれが、賃金の増加率より高い資本の利益の恩恵を受ける側に 属するには、たとえば年間で100万円の株式を(毎月約8万円)買い 続けることです。10年間で投資元本が1000万円、30年間では3000万 円になります。 1株当たりの利益は、株主に属する利益です。年間8%のROE(税引 き後)があれば、その税引き後利益の累積は、30年間で約3600万円 です。利益分でも株を買い続けていれば、30年後の株は6600万円で す。 投資の元本は3000万円です。資本の利益で、元本が2.3倍になって います。もちろん株は、大きく下がる時期もありますが、30年間、 毎月同じ金額をずっと買い続けていると、数年から12年サイクルく らいの上昇には遭遇します。これが、賃金労働者が株で資産を作る、 ほぼ唯一の方法です。 (注)日本の上場企業(TOPIX:東証一部1862社)の税引き後ROE (1株当たり純益÷株価)は8%、米国は21%です(2014年)。 TOPIXは東証1部の企業の、加重平均株価です。 『21世紀の資本』の第一部は所得と資本についてです。第二部が資 本/所得比率の動学、第三部 格差の構造、第4部 21世紀の資本規 制です。次稿では、一部から、順に、端的に解説して行きます。 【後記】 昨年の秋、<価値ある商品づくりのリーダシップ>として宮城県の 秋保温泉にある食品スーパー『さいち』のおはぎや惣菜について書 いたことがあります。 昨日、これを読まれた読者の方から、NHKのプロフェッショナルに 佐藤社長が出演されるという、お知らせのメールが送ってきました。 プロフェッショナル 仕事の流儀 食品スーパー経営者 佐藤啓二・澄子 NHK総合:2015年3月2日(月) 午後10:00~10:50 みちのくの人情スーパー!80歳の名物社長夫婦に密着 ・開店前から大行列! 1日平均5000個売り上げるおはぎの秘密は糖度にあった?! ・看板のおそう菜は深夜2時から仕込み開始!煮物にきんぴら、五 目煮、明日から使える料理の極意を一挙公開 ・大手スーパーとの安値競争から借金地獄へ。心臓発作で倒れた妻 と夫の復活劇 ・結婚50年!そばにいてくれた妻へ、夫が贈る秘密のプレゼント。 感動のフィナーレとは? 夫婦の愛の物語. ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述のとき、より的確に書く参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは記事に反映させるよう努めま す。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ■1.有料版では、新規登録の場合、『無料で読めるお試しセット』 が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目次の 項目です。興味のある方は、ぜひ登録して購読してください。 ▼有料版の目次:2号分を掲載しました。 毎週、質の高い、本格的な論を展開する有料版は、いかがでしょう。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <746号:マネタイゼーションが向かうところ> 2014年12月31日 【目次】 1.政府の赤字財政の、ファイナンス 2.40兆円規模の新規国債のファイナンス 3.本当は違法な、日銀による国債ファイナンス 4.日銀が買わないと、国債のファイナンスができないという市場の 事実 5.米国は、量的緩和第3弾を、2014年10月に停止した ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <747号:新年1号:官製バブルの、世界の株価> 2015年1月8日 【目次】 1.世界の金融機関のモラルハザードが続いている 2.デリバティブ市場 3.デリバティブでの損失飛ばし 4.世界金融危機の損失が、債券と債権の中に残っている 5.世界の株価は、官製相場バブル 6.2014年10月から12月の主体別売買 7.2014年1月から10月までの動き 8.2014年10月5週から14年12月4週の売買(上表) 9.年末から新年の、株価の下落の説明 10.資本収益率の低下の原因は、金融資産の肥大 11.日米欧の金融資産の、再びの急肥大が起こっている 12.結論 【↓まぐまぐ会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (まぐまぐ有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (まぐまぐ無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■2.「まぐまぐの有料版を解約していないのに、月初から届かな くなった。」との問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんど の原因は、クレジットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報は、まぐまぐの『マイページ ログイン』の画面を 開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして出てき たマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジットカード を新しいものに変更できる仕組みです。クレジットカードの変更、 送信メールアドレスの変更、パスワードの変更などに使ってくださ い (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 【お知らせ】 新しいメルマガ配信サイトの『フーミー:Foomi』からなら、 (1)銀行振り込み、(2)ケータイキャリア決済、(3)コンビニ 決済で、有料版の購読ができます。 クレジットカードの登録がイ ヤな方はご利用ください(↓) http://foomii.com/00023 ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archive.mag2.com/0000048497/index.html |