米国の不良債権は、未回復の分が、シャドー・バンクの中に眠っている(2)
Written by admin on 2015年5月31日 – 10:00
おはようございます。中国を含み、世界の株価が高騰しています。 これを名付ければ「金利ゼロ・バブル」です。 日本の場合、2014年10月に、GPIF(年金積立金 管理運用 独立行政 法人)が発表した運用方針の変更で、株買いを増やしたことによる 「官製相場」です。 【GPIFの株買い】 GPIFが株買いを増やす前には、2014年の5月から、公務員共済組合 (資金量30兆円)と私学共済組合からの、国内株買いの発動があり ました。日銀の買い(3兆円)と公務員年金での買が、2014年9月ま でで、その後は、GPIFの買いです。 国民の金融資産である、国民年金と厚生年金の積立金を預かって運 用するGPIFの資金量は、137兆円と巨大です(2014年12月)。 2014年12月時点では、その総資産の19.8%(27兆円)が、国内株に 投じられています。2014年10月に公表された運用枠のメドは、25% (34兆円)です。すでに、13兆円買い増したので、あと7兆円の枠 があります。25%というのは、幅をもつメドなので、10兆円の買い 余力かもしれません。 http://www.gpif.go.jp/operation/state/pdf/h26_q3.pdf 【郵貯の株買いの予定】 そして、現在、検討中なのは、民営化される『ゆうちょ銀行』によ る、ドル国債買いと国内株の買いです。ゆうちょ銀行は、総資金量 が202兆円と巨大です。 2014年3月期には126兆円の国債をもっていましたが、2015年3月に は106兆円に20兆円減らしています。日銀の追加緩和(年80兆円の 国債の買い増し)に応じて、保有国債を日銀に売ったからです。 http://www.jp-bank.japanpost.jp/aboutus/financial/pdf/zim2015q4_gaikyo.pdf その代金が入ったため、ゆうちょ銀行の日銀当座預金(準備預金) は、19兆円から33兆円に増えています。準備預金は、10兆円くらい しか必要ない。このため、余計な23兆円の、運用先を検討されてい ます。おそらく国内株12兆円、海外債券(米国株)11兆円くらいの 枠になるでしょう。 【かんぽ生命の買いの予定】 官製像場の資金にはまだあります。『かんぽ生命保険』です。資金 量が113兆円です(2007年)。国債を57兆円(構成比59%)もって いますが、ここも日銀の買いに応じ、10兆円は売っているはずです。 かんぽ生命も、日銀当座預金に余分な現金を預けています。この運 用も、国内株と米国債になる予定です。国内株に、5兆円は投じら れるかもしれない。 http://www.jp-life.japanpost.jp/aboutus/financial/abt_fnc_kamposikin.html 日銀は、もともと株価ETFを3兆円の枠で買っています。これに、郵 貯があと12兆円(推計)、かんぽ生命が5兆円、合計で17兆円くら いの、官の資金での買いがあるでしょう。 この買いを見越し、2015年は、海外ヘッジ・ファンドが2兆円を買 い越しています。これが、年初来の株価上昇(日経平均1万8000円 →2万円)の主因です。 安倍政権成立後の2013年、日経平均が8000円から1万6000円と2倍に 上がった原因は、海外ヘッジ・ファンドによる15兆円(2013年暦 年)でした。当時の株価では、15兆円の買い増しがあると、2倍に なりました。 今度はどうか? 5月末の日経平均は2万563円です。2015年に、予 想される官の資金による買い越しは、合計で17兆円です。 株価が8000円の2.5倍になっているので、買い増しが上げる効果も 2.5分の1でしょう。〔2万円+6000円=日経平均2万6000円〕付近ま で、官製相場がつくられる可能性があるでしょう。 ただし官の買いが停止したとき、暴落です。年金基金やかんぽ生命 は、国民の資産を失うことになります。おそらく2015年末です。官 の資金が、急いで投入され、金額が大きいほど、必ず来る「官の買 いの縮小と停止」のときの暴落幅は大きくなります。 1980年代の資産バブルが崩壊していた1992年、政府は、公的資金 (年金基金)を使うPKO(価格維持戦略:Price Keeping Operation)として株買いを行いました。最終結果は、年金基金が 損をし、国民の金融資産を減らしたのです。 政府は、経済を浮揚させる目的で、官製相場に血道を上げています。 しかし経済にとって、株価は犬の尻尾のようなものです。尻尾(株 価)を振って、犬(経済)を動かせるのか? 【売り越しを続ける個人投資家:700万人】 60%から70%の売買シェアを占める外人投資家(ヘッジ・ファン ド)についで売買が多い個人投資家(推計700万人)は、合計では、 大きな売り越しを続けています。 2012年1.8兆円、2013年8.7兆円、2014年3.6兆円、2015年(1月~5 月)3.1兆円です。3年5か月で、17.2兆円も売り越しています。年 平均でほぼ5兆円の売り越しです。この個人投資家が、年間合計で 数兆円の買い越しに転じれば、株価の上昇は、長続きしますが、ど うでしょうか。 *本稿は、27ページなので、最初に目次の5.までを送り、その後す ぐに、以下の目次の6.以降を送信します。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <327号:米国の不良債権は、未回復の分が シャドー・バンクの中に眠っている(2)> 2015年5月31日 【無料版 目次(1)】 1. 金融危機とは、どんな状態を言うのか? 2. 1929年からの、大恐慌の経験 3. わが国の、資産バブル崩壊の後の金融危機(1990年代) 4. 国策としての金融業の振興(英国と米国) 5. シャドー・バンキング(影の銀行)の定義と内容 【無料版目次(2)】 6. シャドー・バンキングの資産増加と2008年の大損失 7. シャドー・バンキングの資産の増加と2008年からの減少 8. FRBによる現金の注入(QE1~QE3) 9. 巨大銀行シティバンクの、不思議な株価 【後記】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.金融危機とは、どんな状態を言うのか? まず金融危機とは何かの定義からです。 【金融危機の発生は損失からだが・・・】 金融危機は、金融機関の資産である貸付金や債券の価値が下がるこ とが起点になって生じます。 ・貸付金の価値の下落、つまり回収不能が増えること、 ・保有している国債、社債、株式、金融派生商品を含む債券の流通 価格の下落からです。 (注)流通価格は、市場で売られるときの値段です。 しかし、金融機関(以降では銀行とします)に、大きな損失が生じ ただけでは、金融危機にはならない。銀行が、支払うべきものが支 払えないとき、起こります。損失ではなく、流動性(現金)の不足 から起こるものです。 【債権と債務の連鎖】 銀行同士には、短期のレポ取引や、コールローンなどの大きな貸し 借りがあります。レポ取引は米国で発達している、国債や社債等の 債券を担保する貸し借りです。Repo=Repurchase Transaction :買 戻し条件付きの短期資金取引 この貸し借りによる連結のため、A銀行が、現金が足りなくなって B銀行への支払いができないと、B銀行も次の支払いができずに破産 します。このため、支払い不能がC銀行、D銀行へと「波及」します。 これが「金融のシステミックなリスク」です。津波のように、次々 に金融機関を飲み込んで波及して行く流動性のリスクを「金融危 機」と呼んでいます。金融機関は、システミックなリスクを共有し ているのです。 ■2.1929年からの、大恐慌の経験 19世紀まで、実は、銀行の破産は頻発していたのです。20世紀の金 融危機で最大は、1929年10月24日の、NY証券取引所での株価暴落が 発端になった信用恐慌でした(後に、「世界大恐慌」と言う)。 株価の暴落が株をもつ金融機関の損失になり、その損失が金融機関 同士の貸し借りを減少させ、金融全体に資金不足が起こって、シス テミックな「信用恐慌」になって行ったのです。 恐慌は、 ・銀行の連鎖破産によって起こる金融危機が、 ・経済取引に必要な信用(=マネー)を減らし、 ・この信用の減少が、実体経済の商取引と生産(=GDP)を、数年 にわたり、30%くらい減らすことを言います。(注)GDPは商品取 引の合計です。 信用つまりマネーが仲介になって動かす実体経済では、GDPが30% くらいマイナスし、失業も25%を超えることです。企業と世帯の所 得も、30%は減少します。 (注)信用(Credit)とは、経済的には、マネーのことです。 流通する信用(お金)が大きく減るため、商取引が減少する。 商取引量(商品の売買高)が減れば、生産も減ります。 商品の付加価値の生産額が、GDP(国内総生産)です。GDPが30%減 ることは、平均的には、企業の売上収益(粗利益:Gross Profit) が30%減ることです。 企業は、売上の急減の中で生き残るため、人件費になる雇用を減ら す。「非自発的な失業者」が街にあふれます。失業率で、25%以上 が恐慌です。 (注)現在、ギリシアの失業率は26%であり、スペインが24%です (2014年12月:公的な統計)。欧州の大国イタリアでも、13%の失 業率です。南欧各国の高い失業率が、実体経済での恐慌に至ってい ないのは、失業保険の給付が長期で手厚いからです。しかしそのた めに、政府の支出が増え、財政が赤字になります。政府債務に危機 が移転するのです。 1929年の世界恐慌は1933年まで続き、株価指数が、恐慌前の水準に 回復したのは、第二次世界大戦後9年が過ぎた1954年でした。 政府が1年分以上のGDPを使う「特別公共事業」である戦争を経て、 9年目です。25年かかっています。(注)日本はGDPの2年分を、こ の戦争で使いました。 1929年に始まり、回復に25年もかかった大恐慌の反省から、金融に おいて、二つのセーフティネット(安全網)が作られました。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (1)預金保険制度: 銀行が支払不能に陥っても、政府が管轄する預金保険が、1口座 1000万円(米国では$10万)までを支払う制度。 (2)中央銀行による救済制度: 銀行が支払い不能に陥ったとき、その銀行に担保がなくても、中央 銀行が、特別に必要額を緊急貸付(あるいは資本供給)する制度。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 1929年の大恐慌のとき、株価暴落で損をした銀行に対して、預金者 が不安を抱きました。預金を全額引き出す「取付け(Bank Ru n)」が起こって、その取付けが、金融危機を深めています。 預金の取付けは、個人が起こすだけでない。A銀行に貸し付けして いるB銀行も取付けをします。銀行間の取付けは、「短期債務の決 済満期を引き延ばすロール・オーバーの拒否」という形をとります。 普通の時期は、A銀行が、B銀行に借金のカタとして差し入れていた 手形の決済日には、決済日を1か月先に延長した別の手形を差し入 れます。これが「ロール・オーバー(決済日の引き延ばし)」です。 ロール・オーバーをB銀行が拒否すれば、もともと現金が十分では ないA銀行は破産し、その破産が、A銀行に大きな債権をもつB銀行 やC銀行の破産に波及します。正常債権に見えていたA銀行の貸付が 突然、不良化するからです。 【中央銀行の、銀行に対する支援機能】 銀行間の債権を不良化させるロール・オーバーの拒否を防ぐため、 翌週の決済資金が不足しそうな銀行に対しては、「必要額を無限に 貸し付ける」のが、中央銀行の機能になったのです。 ・個人に対しては預金保険、 ・銀行に対しては中央銀行による無限融資を行うから、 「信用収縮が連鎖するシステミックな危機は二度と起こらない」と されていたのが、リーマン危機の2008年まででした。 (注)テーマとしているリーマン危機が発端の金融危機は、20世紀 までとは違う「21世紀型の金融危機」と言われるようになってきて います。 なぜ、リーマン危機が過去のものと違う21世紀型だったのか。 デリバティブを伴うシャドー・バンキングとして説明します。 (注)前FRB議長のバーナンキは、大恐慌のときの金融の研究家で した。 ■3.わが国の、資産バブル崩壊の後の金融危機(1990年代) 金融危機は、バブル崩壊のプロセスで起こります。 【バブル価格】 バブルは、資産(不動産や株)の価格が、合理的な説明ができる以 上に上がっても買われ続け、更に上がって行く状態です。 1929年の米国発の恐慌の前は、米国株とフロリダなどの不動産が、 異常な価格に上がっていました。 資産バブルの渦中では98~99%の人は、バブル価格と思わない。ま だ上がる価格だと考えています。 ●逆説的に言えば、「今の株価はバブル価格だ」という人が目立つ 間は、実はバブル価格ではない。まだ上がる時期です。そして皆が 「これはバブル価格ではない」と言い、本音でそう思い次始めたと きが、バブル崩壊の始まりになります。 このバブル価格を作るのは、個人の心理を超える集団心理です。 ▼日本の80年代の資産バブル 日本の1980年代後期の不動産と株価のバブルは、1985年のプラザ合 意から始まっています。 〔プラザ合意〕プラザ合意は、経常収支の赤字が続く米国のドルを、 円とマルクに対して半分に切り下げることによって、米国の赤字を 減らそうとしたG5(米国、英国、フランス、ドイツ、日本)の協定 です。 この後〔$1=240円〕だった円は、〔$1=120円:1988年〕に向か って下がります。2倍の円高がもたらした輸出不況を緩和するため、 日銀は利下げを続け、この金融緩和で、1980年代後期の資産(不動 産と株)が高騰するバブル経済になっています。 プラザ合意は、貿易収支と経常収支の赤字が拡大し続けていた米国 が、G5(米国、英国、フランス、ドイツ、日本の蔵相会議)で、 「ドル切り下げ」を提案して協定したものです。 【不動産と株価のバブル発生の、過程】 1ドルは240円でした(1985年末)。3年後の1988年には、1ドルが 120円(現在とほぼ同じ)に下がったのです。「超円高」でした。 http://lets-gold.net/chart_gallery/chart_usdjpy_long_term.php 通貨(円)が高騰するのは、外為市場で、「ドル売り・円買い」が 超過するからです。ドルの売りの量と勢いが、円売りを上回る。こ のため、円高のときは、日本にマネーが集まります。 他方、輸出主導の経済だった日本は、1.5倍や2倍の円高になると、 輸出価格が上がって、輸出額が減ります。これは、国内に円高不況 をもたらします。日銀は、景気浮揚のために利下げをし、円を供給 したのです。 【不動産担保主義の貸付け】 日本の金融は「不動産担保主義」でした。地価は、戦後一貫して上 がり続けていたからです。 日銀は、利下げをして円を銀行に供給した。その円は、銀行から個 人や企業に、貸し付けられた。担保は不動産でした。地価は、3大 都市部では、年率40%(5年で5.4倍)のペースで評価額が上がって いました。 800兆円くらいの総時価だった日本の地価は、ピーク(1992年)に は2400兆円くらいになったのです。(注)現在は1200兆円くらいに 下落しています。 http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk19-4-9.pdf 【資産バブルの構造】 例えば、1坪(3.3平米)で200万円の都市部の土地を買う。翌年に は40%は上がって、280万円にはなるだろうとほとんどの人が思っ ていました。このため、銀行は、土地を持っていれば担保価値以上 の貸付をしたのです。 1億円の公示価格(政府の昨年の価格の評価と見ていい)の土地を 担保に、1億5000万円貸し付ける。借りた人は、1億5000万円で別の 土地を買い、またそれを担保に借りて、土地を買うという「不動産 レバレッジ」が起こっていたのです。 1986年頃から始まり、1991年までの5年間続きました。 この不動産の価格崩壊は、政府・日銀(当時は三重野日銀総裁)が、 不動産購入に対する銀行融資を窓口規制しながら、金利を上げたこ とから始まっています。 バブル価格は、次に買う人が高く買うことによって維持されて、更 に上がります。一方、銀行に対する日銀の窓口規制によって、不動 産への融資が消え、高くなった不動産をより高く買う人が消えれば、 地価は崩壊します。 事実1992年を頂点に、都市部の商業地で約20%に、住宅地で50%以 下に下がったのです。これによって、不動産関連の銀行貸付が、ほ ぼ全部不良債権になり、金融危機が起こりました(1998年)。 ただしこの金融危機では、 (1)銀行預金は、暗黙に政府が保証していたこと。このため、大 銀行に対する預金取付けは、起こりませんでした。 (注)信用組合では、部分的に取付けが起こっています(関西の木 津信組など)。しかし財務省によって、預金は全額保護されていま す。 (2)日銀は危機になった金融機関に対して、必要な現金の供給を 行ったことにより、1929年のような取付けからの「信用恐慌」には 至らなかったのです。 日本の90年代の資産バブル崩壊による金融危機では、世界恐慌の後 に敷かれた、20世型の「セーフティ・ネット」があったため、信用 恐慌には至っていません。 不動産投資を含む、民間設備投資の減少を主因に、不況は続きまし たが、経済恐慌ではなかった。日本の1990年代の金融危機は、伝統 的な銀行の枠組みの中のものでした。日本が特殊なのは、不動産が レバレッジ(倍数金融)の担保とされたことです。 ■4.製造業が衰微した後、国策として金融業を振興(英国と米国) 英国と米国では、1970年代、1980年代と、製造業が衰微していまし た。このため、80年代の英国サッチャー政権、そして米国レーガン 政権は、ともに「金融業をこれからの国家の産業にする」という政 策をとります。「金融の規制を外した自由化」を図ったのです。 【銀行システム】 一般の人から預金を預かる銀行システムには、金融システムを崩壊 させる取付けを防ぐため、預金保険機構によるセーフティ・ネット が張られています。預金保険で足りないときは、政府や中央銀行が、 現金を出します。 銀行が破産しても、一般の預金は、米国では$10万まで、日本では 1000万円までは守られます。このため、政府(あるいは金融当局) による監視と規制が欠かせない。 ▼ノン・バンク部門が肥大した :ノン・バンクは、シャドー・バンクです。 米国では、一般から預金を預かる銀行は「商業銀行」です。 商業銀行は、全部、自己資本比率や、準備預金など、政府の規制下 にあります。 一般からは預金を預からないのが、証券会社を兼務する投資銀行で す。ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースなどの投資銀 行は、2000年以降の主業務として、 ・債権から証券を作り(Securitization)、 ・それを売る証券化金融を行っていました。 これがシャドー・バンクです。ノン・バンクと言っても同じです。 この時期には、オプション料を決めるブラック・ショールズ方程式 のような、「リスク算定の確率モデル」が出来上がっていました。 これが、膨大な金融派生商品作りの元になったのです。 債券の金利=国債金利+リスクプレミアム →リスクプレミアム=オプション料、です。 ブラック・ショール方程式を使えば、このオプション料を誰でも計 算できるようになりました。これが、開発後30年の21世紀に至ると、 巨額のデリバティブを生みます。 (注)オプションの原義は選択権です。オプション料は、例えば日 経平均株価(225)を、一定期間(例えば3か月)後に、株価がいく ら高くなっても、契約した権利行使価格(例えば2万円)で買う権 利を得るために、売り手に対して払うものです。オプション料には、 将来の価格変動の予測分が、リスクプレミアムとして含まれていま す。 https://www.sbisec.co.jp/ETGate/WPLETmgR001ControlOutSide=on&getFlg=on&burl=search_op&cat1=op&cat2=guide&dir=guide&file=op_guide_12.html 証券化金融で作られたデリバティブがかかった金融商品は、2014年 12月時点では、$630兆(元本:7京5600兆円)であり、その流通価 値は、$21兆(2520兆円)にのぼります。 世界のGDPは$70兆(8400兆円)ですから、金融のデリバティブの 元本総額はその9倍です。イマジネーションを超える金額です。 この$630兆(7京5600兆円:世界のGDPの10倍)は、生命保険に例 えると、かけられた保険額です。そして$21兆(2520兆円)が、そ の価値(価格)です。 2520兆円というデリバティブの価値(時価での資産額)は、三菱 UFJフィナンシャルグループの総資産(264兆円:14年9月)の9.7倍 です。 http://www.mufg.jp/ir/securityreport/2015mufg/pdf/half/yu_mufg15_half.pdf 【シャドー・バンキングの総資産】 まとめれば、B/Sの資産額が2520兆円(日本のGDPの5倍)の、デリ バティブの金融機関が作られたと言っていい。1980年以前は、これ がほとんどなかったのですから、デリバティブ金融は驚異でしょう。 http://www.bis.org/statistics/derstats.htm ▼金融規制の緩和 米国の国策としての金融業の規制緩和として、大恐慌のあとに作ら れた「グラス・スティーガル法」の廃止があります(1999年)。 同法は、金融恐慌が再発することを防ぐため、 ・預金を預かって貸付を行う銀行業と、 ・証券や債券の売買の仲介と、自己売買を行う証券業の兼業を禁じ ていました。(銀行と証券の分離) 兼業を認めれば、銀行が、世帯や企業から預かった預金で価格が大 きく下がる恐れもあるリスク証券である株や、利回りの高い債券を 買って、下がった時に破産し、預金取り付けが起こるからです。 ところが、金融業を新たな大きな産業にしたい政府は、この「グラ ス・スティーガル法」を廃止したのです。これが米国に5大投資銀 行(Investment Bank)を生むことになります。 (注)90年代当時の日本は、バブル崩壊後で、銀行は混乱していて、 米国と英国で起こった金融化革命をほとんど察知しませんでした。 ▼90年代から誕生した、5大投資銀行 ・JPモルガン・チェース(総資産$2兆2657億:272兆円)、 ・シティバンク(総資産$2兆1876億:262兆円)、 ・メリル・リンチ(総資産$1兆200億:122兆円)、 ・ゴールドマン・サックス(総資産$9113億:109兆円)、 ・モルガン・スタンレー(総資産$7714億:93兆円)などの巨大銀 行です(いずれも2010年)。 08年9月に、政府とFRBが支援を断って破産したリーマン・ブラザー ズも、総資産額$6910億(83兆円)の投資銀行でした。 2000年代には、金融業以外の民間会社でも、債券・証券投資の業務 が大きくなっています。全米の企業の利益のうちほぼ40%が、金融 取引による利益になったのです。 日本企業に比べ、米国の企業利益(ROE)は12%であり、2倍は上と 言われます。主因は、米国の企業利益を1.7倍にしている金融利益 です。これは、会社の金融資産の運用によって財務部(CFO)が上 げた利益です。 ▼企業の「金融化」による、株価の高さが40% 米国の株価総時価は、 ・NYSE(ニューヨーク証券取引所)が$20兆(2400兆円)、 ・タイムズ・スクエアにあるナスダックが$7兆(840兆円)、 合計で3240兆円です。(2015年4月時点) 世界の時価総額($63兆:7560兆円:2015年2月末)のうち、 米国は大きすぎる47%を占めています。 http://www.nicmr.com/nicmr/data/market/stock.pdf その米国の時価総額3240兆円のうち、40%の1300兆円分は、企業の 金融による利益が作った株の時価です。米国企業の事業利益を100 としたとき、そのうち40は金融による利益だからです。 企業の金融利益がないと、時価総額は1940兆円(現在の60%)に下 がって、米国の名目GDP(16.8兆:2016兆円)に対して妥当な倍率 (約1倍)の時価総額になります。 米国企業の株価は、会社の利益に含まれている金融利益の分、株価 が膨らみすぎています。 (注)リーマン危機のような、金融バブルの崩壊があると、米国の 株価はPERが、現在と同じ18倍を維持しても、株価は60%に下げま す。 日本の時価総額は、東証の一部・二部・ジャスダックの合計で589 兆円です(15年4月7日:PERは18倍:3258社)。 「金融化」が進んだ米国経済で、米国の株価時価総額は、日本の5. 5倍にも膨らんでいます。 http://www.nikkei.com/markets/kabu/japanidx.aspx ■5.シャドー・バンキング(影の銀行)の定義と内容 【定義】 シャドー・バンキングとは、預金保険の対象になっている銀行シス テムの外にある、ノン・バンクが行っている金融(信用)仲介です。 投資銀行や証券会社が、子会社を通じて行うことが多い。 【具体例】 (1)住宅ローンのファイナンスを行うGSE(ファニーメイやフレデ ィマック)も、シャドー・バンキングである。 (2)銀行や証券系のSPV(特別目的会社)が行っているデリバティ ブ作りと販売、 (3)証券化業務、 (4)債券担保のレポ取引なども、シャドー・バンキングの範囲に 入ります (注)中国のシャドー・バンク(影の銀行)は、預金よりはるかに 金利の高い理財証券を個人に販売し、集めたお金を不動産に融資し ているノン・バンクです。規模は、2014年末で22兆元(1元19.3円 :427兆円)と言われ、中国の不動産のバブル価格を作っています。 2014年からの、不動産価格の下落で損失が膨らみ破産が増えていま すが中国のことでは多くが、本当のことが不明です。中国の不動産 バブル崩壊のシンボルになって行くのが、影の銀行でししょう。 http://jp.wsj.com/articles/SB11988376816316583367704580356320743200594?mg=id-wsj 【リポート】 米国に設置されたFSB(Financial Stability Bord : 金融安定化会議)は、リーマン危機から金融のシステミックな危機 に至ったことの主因は、 ・規制の対象外であるシャドー・バンキングと見て、 ・その実情を調査し、報告書を出しています。 冒頭に挙げた、Global Shadow Banking Monitor 2014( 世界の影の銀行の監視リポート2014)です。 http://www.financialstabilityboard.org/2014/11/global-shadow-banking-monitoring-report-2014/ ↑自信がある方は、PDFをダウンロードし、目を通してみてくださ い。金融とデリバティブのテクニカルな用語が多く、理解困難です が・・・。 わが国の金融庁も、『シャドー・バンキングの発展とそのリスクの 蓄積:日本のシャドー・バンキング・セクター』として、FSBの上 記リポートを元に、小立敬氏がリポートを書いています。 http://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2013/05.pdf シャドー・バンキングは、学術的にも、新しい分野です。 本稿は、ここまでです。すぐ後に、以下の続きを送ります。 【目次(2)】 6. シャドー・バンキングの資産増加と2008年の大損失 7. シャドー・バンキングの資産の増加と2008年からの減少 8. FRBによる現金の注入(QE1~QE3) 9. 巨大銀行シティバンクの、不思議な株価 【後記】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述のとき、より的確に書く参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは記事に反映させるよう努めま す。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ■1.有料版では、新規登録の場合、『無料で読めるお試しセット』 が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目次の 項目です。興味のある方は、ぜひ登録して購読してください。 ▼有料版の目次:3月号分を掲載しました。 毎週、質の高い論を展開する有料版は、いかがでしょう。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <764号:膨らんだ21世紀の金融資産が向かうところ(1)> 2014年4月22日 【目次】 1.日本の金融資産と金融負債 2.民間非金融法人(260万社)の金融資産と負債 3.政府部門の、金融資産と負債 4.金融資産と金融負債 5.国内の金融資産3265兆円、金融負債2979兆円が示すこと 6.負担できる金利から、金融資産の価値を考える 7.後記:政府の金利見通しは、驚愕すべきものだった ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <765号:わが国の国債(政府債務)の問題> 2015年4月29日 【目次】 1.政府が発行する国債の全部を、中央銀行が買うことの意味 2.金融機関が、リスクのある国債を買わなくなって、 日銀が、直接に全額を買うようになったとき 3.「国債一家論」も、誤っている 4.政府の利払いの増加額の試算 5.日銀の大きな債務超過があからさまになる 6.『中長期の経済・財政に関する試算』での、想定金利 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【↓まぐまぐ会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (まぐまぐ有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (まぐまぐ無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■2.「まぐまぐの有料版を解約していないのに、月初から届かな くなった。」との問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんど の原因は、クレジットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報は、まぐまぐの『マイページ ログイン』の画面を 開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして出てき たマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジットカード を新しいものに変更できる仕組みです。クレジットカードの変更、 送信メールアドレスの変更、パスワードの変更などに使ってくださ い (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 【お知らせ】 新しいメルマガ配信サイトの『フーミー:Foomi』からなら、 (1)銀行振り込み、(2)ケータイキャリア決済、(3)コンビニ 決済で、有料版の購読ができます。 クレジットカードの登録がイ ヤな方はご利用ください(↓) http://foomii.com/00023 ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archive.mag2.com/0000048497/index.html |