米ドルの反通貨、ゴールド新論(3)
Written by admin on 2013年12月27日 – 09:00
こんにちは、吉田繁治です。今日は、多くの会社で仕事納めでしょ うか。明日から、9日間の大型連休に入られる方も多いと存じます。 来年はどんな年になるか? 大きなところでは、08年のリーマン危機のあと、5年も続いたマ ネー増発が、出口政策に向かうことです。 ただし日本は、日銀が、異次元の量的緩和(マネーの超緩和)を続 けます。目的は、2%のインフレ(物価上昇)です。 政府が物価上昇を目標にするのですから、これは、「変なこと」で す。その中で、消費税が4月から上がります。 まだ、5200万世帯の、平均所得の増加がない。このため、税による 商品価格の3%の上昇(合計で6兆円分)は、買う側から言えば、購 買額の減少をもたらします。1世帯当たり、年間12万円の負担の増 加だからです。政府の、物価を上げ消費税も上げる論理は、あれこ れ委曲(いきょく)を尽くしますが、結局、悪政です。 本来、世帯所得の増加がないときは、増税は行ってはならない。し かし政府は、財政支出の必要からの増税です。 * 本稿は、引き続き<米ドルの反通貨、ゴールド新論>、その3です。 このテーマを書いている理由は、2013年4月以降の金価格の下落 (約25%)に、どこかの主体による、現物買い占めの意図があると 感じているからです。買い占めるものは、買うときは安くなければ ならない。 【2013年の金価格:1グラム:月中平均】 http://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/m-gold.php 金は、ドルでは普通1オンス(31.1グラム)の価格ですが、日本で は1グラム価格なので、グラムに直しています。 金1グラム (税抜き) 円/ ドルでの価格 円での価格 ドル相場 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 13年1月 $53.7 4828円 90.2円 3月 $51.2 4880円 95.8円 5月 $45.4 4635円 102.1円 7月 $41.3 4167円 100.8円 9月 $43.4 4368円 100.2円 11月 $41.0 4149円 101.0円 12月27日 $38.9 4081円 104.9円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 年初比 -28% -15% +16% ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 2000年代に5倍に上がった金価格は、2013年は、年初比で28%下落 しています(ドル価格)。 円でみれば、16%のドル高・円安なので、15%の下落です。円安に なると、通貨バイアス(偏向)で、金は上がったように見えます。 金価格の傾向は、ドルで見るべきです。 ゴールドの現物は、ロンドン(黄金の間)でのドルでの取引によっ て価格が決まり(Fixing)、その後、NY市場での先物取引を経て、 国際価格が決まります。その国際価格に、その日のドル・円相場か ら、円の価格をつける仕組みだからです。 ロスチャイルド銀行本店にある黄金の間で、現物の金を取引するの は、スコシア・モカッタ銀行(ベネチア)、バークレース・キャピ タル(英国)、香港上海銀行(英国)、ソシエテ・ジェネラル(フ ランス)の4銀行です。 2013年の、金下落の原因は、明白です。ヘッジ・ファンドによる金 ETF(金の上場証券)の大量売りです。金ETFは、ほとんどが、プロ、 言い換えればヘッジ・ファンドや銀行間の取引です。 WGC(世界金委員会)が生産と需要の統計を4半期毎に公開していま す。新しいのは、13年9月(第三四半期)までのものです。なぜ金 価格が下がったのか分かります。 http://www.gold.org/investment/statistics/demand_and_supply_statistics/ ▼金の供給・・・約4500トン/年 2011年 2012年 2013年 9ヶ月間 年換算 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 鉱山での生産 2850トン 2824トン 2149トン 2865トン リサイクル 1649トン 1591トン 1047トン 1396トン ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 合計 4500トン 4415トン 3196トン 4261トン 鉱山は1年に2800トンくらいの生産です。2000年代は価格が上がっ たので、コストが高い生産まで行われるいようになって、供給が増 えました。 現在は、富士山の高さに近い3500メートルもの地中深くから掘る1 トンの金鉱石から、たった1グラム(約4000円)しか採れないので す(南アフリカの鉱山)。 有史以来、採り尽されたからです。採掘可能な埋蔵は、10万トンし かないと言われます。1年2800トンのペースで採掘すれば、原油に 似た36年分です。 増えたリサイクルも同じです。金価格が上がったので、捨てられて いた電子回路からも微量の金が溶かされて、採取されています。生 産コストは、1グラムで$39(3900円)くらいに上がっています。 1グラム当たり$39(3900円)の、高いコストをかけないと、上表 のような4500トンレベルの生産はできません。 金の産金コストが、金価格の下限を作るものに思えます。 市場価格が、産金コストである1グラム$39(3900円)を割ると、 金生産には赤字が増え、4500トンだった供給が減らざるを得せん。 そして、再び、需給が均衡する価格に上がるからです。 (注)在庫の放出で、1グラム$39を割っても、短期的な底値に思 えます。2013年に金ETFを売り、金価格を意図して下げた主体、そ の関係者、関係機関は、下がった現物の買い占めを図っているよう に推量しています。 2003年から金ETFが上場された理由も、根本で言えば、売りに出る 現物が減って、価格が急騰する恐れからでしょう。 ▼金の需要 2011年 2012年 2013年 9ヶ月 年間換算 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 宝飾用 1975トン 1896トン 1619トン 2159トン 工業用 452トン 408トン 309トン 412トン バー 1519トン 1256トン 1252トン 1669トン 金ETF 185トン 279トン -707トン -943トン 中央銀行 457トン 544トン 297トン 396トン ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 合計需要 4499トン 4415トン 2770トン 3693トン ・2013年は宝飾用需要(インドや中国が多い)は、年換算で2159ト ンへと200トンくらい増えています。 ・工業用は、400トンレベルで同じです。 ・投資用のゴールド・バーは、年換算で1669トンの需要であり、20 12年より400トン増えて、価格がもっとも高かった2011年の投資需 要1519トンを超えています。 ・世界の中央銀行も、米ドルに替わる準備用として、1年で400トン レベルを買い続けています。 ●以上のように、2013年も「金現物」の需要は増加していて、金価 格は上がるはずのものでした。 (注)国別に言えば、2013年の金現物の需要は、1位中国800トン、 2位インド700トンで、両国で1500トンです。世界の金需要の34%が 中国とインドです。 ●急変は、2013年4月からの、金ETF(金の上場投信証券)の、年間 換算では943トンにもなる売りでした。これが、金価格を下げてい ます。 現物ではない金証券の、急な売りです。金ETFは03年から2012年ま で毎年260トン増え、残高は2600トンでした。これが、突然、年間9 43トン(生産量の21%)の売りに転じたのですから、金相場が30% 下がるのも当然です。 金ETFの残高は、2013年7月時点で2000トンを割りました。13年12月 では、残高1600トン分くらいに減っているはずです。 http://bylines.news.yahoo.co.jp/kosugetsutomu/20130709-00026314/ 1000トン分(4兆円)くらいの、売り超が、金ETFであったからです。 (注)マスコミが報じた金ETFの売りは、まず、ジョージ・ソロス、 次に、先物売り、空売りをするジョン・ポールソンでした。 * 以下は、2013年11月6日に、有料版で送ったものです。ほぼ2ヶ月後 の現在、読むと、その時点での考えが興味深い。このため、あえて そのまま載せます。 ●年末から正月休みに、最近の拙著、『これからの5年(金融と経 済を解く)』:1785円はいかがでしょうか。アマゾンの案内です。 アマゾンは、年中無休の営業です。 ↓ マネーと経済 これからの5年 ‐ データで読み解く * 前号で示したように、2014年の金価格について、1オンス$1050と いう弱気の目標を発表しているのは、金ETF(上場投信)への投資 家でもある、大手銀行ゴールドマン・サックスのジェフリー・キュ リー(商品投資部長)です。 どんな根拠か、その論理を見ます。金への投資ではよくあることで すが、市場に対して「逆のこと」を言い、買いや売りをしている場 合があるからです。 1980年~90年代の20年間、「金はバカげた金属である。通貨の信用 の裏付けとして重んじるべき価値はない。米ドルの価値は、米国政 府の信用が支える。」というキャンペーンを張り続けていたのが、 米国FRBでした。 インターネットで調べると、ゴールドマン・サックスは、言うこと とは逆に、金を買い込んでいるという情報もあります。 事実は、後で分かります。危機のときのギリシア債の売りでは、 ゴールドマンは、CDS(保証保険)をかけて、言うこととは裏腹の 行動をとっていました。よくあることです。 ●投資や投機では、相手を欺(あざ)かねば、大きな利益はない。 以下、ジェフリー・キュリーが言ったことの主旨です。(ブルム バーグ) http://www.bloomberg.com/news/2013-09-13/goldman-sees-risk-of-gold-below-1-000-as-u-s-economy-gains-1-.html ●ゴールドマンは、2014年の中期サイクルでの金価格の目標を1オ ンス$1050(20%安)においている。 (注)2013年11月6日は1オンスで$1310、1グラムで$42です。円 では1グラム4152円(税、手数料抜き、卸価格)です。ゴードマン は、1050÷1310≒80%ですから、現在価格から約20%の安値を目標 値としています。 金価格は、2013年に22%下落した。マネーの価値貯蔵の手段として の金への信頼をなくした投資家がいたからである。米国経済は回復 し、株価とドルは持ち直したからだ。 MSCIで集計される世界の株価指数も、2013年は12%上がっている。 米ドル(の実効レート)は3.9%上がった。来週には、毎月$850億 の債券を買ってきたFRBのQE3は縮小される。(注)QE3はご存知の ように、延長されています。 FRBが、米国債と住宅証券を買って、代金としての現金を供給する 量的緩和を、毎月$100億(1兆円)ずつ、段階的に縮小しはじめれ ば、債券が売られて金利が上がり、米ドルが上がる。 ドルが上がれば、金は下がる。これが、2014年の金価格目標を$10 50とする理由である。(以上が、ジェフリー・キュリーが言ったこ とです) これをまとめれば、以下のように単純な内容です。 「FRBがドルの増発額を減らすと、$16兆(1600兆円)の残高があ るドル国債が売られ、国債価格は下がるが、ドルの金利は上がる。 ドルの金利が上がれば、海外からのドル買いが増え、米ドルが上昇 する。米ドルが上昇すると、金が売られるから、金価格は1オンス $1050に向かい下がる。ボトムでは、$1000を割るときもあるだろ う。」 【金価格の上昇が始まったときは、1/4の価格だった】 2000年初頭のことでした。 1999年は金1オンスが$278、 2000年が$279、 2001年は$271だったのです。 (注)他方で、2000年4月まで米国株は、10年間の高騰をしていま した。 2000年は、円での1グラムでは1100円くらいで、現在の1/4でした。 90年代の、金価格の低迷の主因は、先進国の中央銀行が、金鉱山へ の金リースの手段も使いながら、金を放出し、価格を下げたからで す。これがFRBの、決して言わない金戦争(対Gold War)でした。 1996年は、FRBに協調してスイス銀行が、1999年にはイングランド 銀行(英国の中央銀行)が大量の金を売却しています。金の需要に 対し、供給を増やした。供給が需要を上回れば、価格は下がります。 しかし、金価格が底値で低迷していた1990年代に、1オンス$300や $270台(現在の約1/5)の安い価格で、ひそかに、代理者(エージ ェント)を使いながら買い占めているグループは、確かにあったの です。 そう言うのは、ロスチャイルド家の代理人(エージェント)である ことを公表し、預託されたマネーを元本に、スイスで「リップス銀 行」を作って、ゴールドの入手プログラムに参加していたフェルデ ィナンド・リップスです。 (『Gold War(2001)』:抄訳である邦訳では、『いまなぜ金復活 なのか(2006年に出版)』からです) 彼は米ドルに対し、以下のように言っています。スイスから見た米 ドル観です。日本から見た、アメリカ全能のようなドル観ではない。 <1971年に、アメリカは、ゴールドについてデフォルトをした。こ のため、1971年以後のアメリカは、世界に呼びかけながら、金を糾 弾し続けている。(原書:xviページ:この部分の邦訳は、ない) > 新鮮だったのは、米国大統領ニクソンの「金・ドル交換停止の宣言 (1971)」を、リップスが「米国がゴールドの支払いができず、デ フォルトした」と言っていることです。 なるほど、そうです。$34の紙幣と引き替えに31.1グラムの金を渡 していたが、突然、「ゴールドは、1グラムも渡さない。渡せな い。」と言った。これは、真正の、金デフォルトにあたることでし ょう。 ロスチャイルドやスイス人の、マネー運用や投資観は、実に期間が 長い。スイスの金融では、50年や100年というスパンで考える人達 がいます。リップスもその1人です。このため、価格低迷が、1980 年から2000年と20年続いても、その先の10年や20年を見る。一方、 日本人は、せいぜい、数年の期間です。その先は、分からないとし ます。 【1999年の、不思議な決定】 80年代から90年代の20年間、底値を這(は)ったゴールドの買いが、 誰によって、どこで完了したのか。 誰かが、一度に大量に買えば、価格が高騰します。隠れて、20年の 時間をかけ、時には売りに回って相場を下げながら、底値で買い増 し、1年の合計では買い増す。これを続けるのです。 原因は不明ですが、1999年に先進国の中央銀行は、意味が分かりに くい不思議な決定を行います。1999年からの、向こう5年間の金の 供給制限をした「ワシントン条約」です。 条約には、世界の中央銀行の上部組織であるBIS(国際決済銀行) の意思が、からんでいるように思えます(推測)。 BIS(国際決済銀行)には、米ドル以降の、「国際エスペラント通 貨」を、いずれの時期か、発行しようとする狙いも見えます。 財政が赤字で、貿易も赤字が続く米ドルは、いずれにせよ、増発で 価値を下げ続けるため、国際通貨としては欠陥ある通貨だからです。 これは、米ドルだけではない。 政府・中央銀行の意志で、いくらでも刷れる紙幣は、50年という期 間で言えば、1年に3%としても〔0.97の50乗=0.22〕・・・通貨価 値は5分の1です。資産や物価は、5倍です。 価値が安定した「国際エスペラント通貨」の準備資産がゴールドか と思えます。ただし、彼らの歴史的な時間感覚は、長い。10年先か、 20年か。 1999年に、欧州の中央銀行がワシントンに集まり、「向こう5年、 中央銀行の金の売り越しを400トンに制限する」というワシントン 条約を結びます。FRBと日銀も、参加しています。(注)ワシント ン条約は、その後の5年毎に2回更新され、現在の有効期限は2014年 です。 先進国の中央銀行の金保有高は、公式には、毎年、ほぼ3.4万トン (時価では、約130兆円)とされ続けています。同じ量が、1990年 以降、ずっと続いています。これはとても変です。 1990年代は、上記のように、中央銀行が、価格を下げる目的で保有 金を売り越しています。2000年代も、条約で1年400トンと制限した にせよ売り超です。 合計持ち高は、20年間で最小でも1万トン以上は減らなければなら ない。ところが、公的統計では、3.4万トンの保有であり続け、ま るで減っていません。以上の事実は、「金について中央銀行が言う ことは嘘だ」ということを立証することです。 ワシントン条約は、主に、以下のような規定内容です。 (1)金は今後も、世界各国の重要な準備資産であることを確認す る。 (2)署名した中央銀行は、売り手として参加はしない。 (3)金のリース、及びデリバティブ取引に参加しない。 つまり、条約加盟の、主要国の中央銀行は、1年に400トン以上は売 らないということの表明です。 逆に言えば、「400トンは売る」ことです。事実、リーマン危機前 の2007年まで、条約加盟国を含む世界の中央銀行は、1年に400~50 0トンを売ってきています。異変は、リーマン危機の2008年からで した。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <682号:米ドルの反通貨、ゴールド新論(3)> 【目次】 1. 中央銀行による金の売りと、2010年までの価格 2.2011年からの金需要と価格 (本稿はここまでです) 3. 2013年の、金ETFの売り 4.2014年の、ゴールドマンの金下落説 5.価格下限になる産金コスト($1200) 【後記など・・・】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1. 中央銀行による金の売りと、2010年までの価格 1999年9月に、金の売却を400トンに制限するワシントン条約を締結 した中央銀行の、その後5年間での金売却量(売り超)はちょうど2 000トンで、合意の上限でした。 2004年からは、金がじりじり上がったので、400トンの売却上限が5 00トンに増枠されています。ところが、04年から09年の5年間は、 売りの協定枠が2500トンであるのにかかわらず、実際の売り超は18 84トン(75%)だったのです。 このため、09年からの第三次ワシントン条約(09年~14年)では、 売却量の制限を400トンに戻しています。そして、IMFの金売却プロ グラムも、これに含むことにしたのです。 ▼2009年の急転 ところが、09年からの第三次ワシントン条約が発効したあと、最初 の14ヶ月間の、中央銀行の金の売り超は、わずか7.9トンしかなか ったのです。(WGC:World Gold Council) http://www.gold.org/investment/research/regular_reports/gold_demand_trends/gold_demand_trends_japanese/ 09年のリーマン危機のあとには、世界の中央銀行が、約30年間続い た金の売り手から、買い手に転じています。後述しますが、この変 化によって、2011年には市場への供給が500トン減って、需要が500 トン増えたようになります。合計で言えば、1000トンもの需要超過 が生じたのです。このため、金価格は、急騰に向かいます。 【中央銀行による金のネット売り越し(買い越しはマイナス)】 1オンスの 売越し量 年平均価格 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 2000年 480トン $279 2001年 510トン $271 2002年 530トン $309 2003年 610トン $365 2004年 480トン $409 2005年 650トン $444 2006年 370トン $604 2007年 490トン $695 2008年 220トン $872 2009年 -10トン $973 2010年 -90トン $1225 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【中央銀行の売り】 金の年間供給は、 ・鉱山の産金で2500トン、 ・都市鉱山とも言われるリサイクルで1500トン~1600トンくらいで す。電子部品からのリサイクル分が増えた理由は、価格が上がって、 コストをかけることができるからです。 中央銀行の売りも、リーマン危機(08年9月)の前の2007年まで、1 年に400トンから600トンの供給を恒常的に増やす要素でした。 ●つまり、1年間の総供給は平均で、〔産金2500トン+リサイクル1 500トン+中央銀行の売り超500トン=4500トン〕でした。 4500トンの供給があっても、9.11(2001年)の後の、2002年からは 需要が超過し、1オンス$270付近の価格から、2007年の$695まで、 5年間で2.6倍、年率で20%の高い率での価格高騰をしています。 全部の金融商品を含み、あらゆるものの価格は、 ・需要が供給より多ければ、上がり、 ・需要が供給より少なければ、下がります。 国で言えば、中国とインドが、宝飾品と現物投資の2大市場であり、 両国の需要が、世界の全需要の50%くらいを占めます。 2000年代の金価格高騰の、需要と供給からからの原因は3つでしょ う。 (1)1990年代はなかった、中央銀行の売却制限 (2)中国とインドの、金需要の増加 (3)世界での、ドル減価を恐れた投資用需要の増加 以上3点が2000年代の金価格が、2011年でほぼ5倍に上がった原因で す。 ▼投資用需要が1年に800トンくらい増えている 需要面で見ると、2000年代は、現物需要の50%くらいを占める宝飾 品需要は、アジアでは増えても、欧米では減っています。この減少 を補って増えたのが、ゴールド・バー(延べ棒)の、投資用の現物 需要です。 2004年に500トンだったゴールド・バーの需要は、6年後の2010年で は1333トンへと、2.6倍に増えています。 宝飾用の需要は、金の需要量としては最大部分です。しかし、イン ドと中国の巨大需要があっても、価格の高騰とともに、宝飾用は次 第に構成比が減り、2010年で2060トンです。供給の全量の45%くら いが宝飾用と見ていいでしょう。 http://www.gold.org/investment/research/regular_reports/gold_demand_trends/gold_demand_trends_japanese/ ■2.2011年からの金需要と価格 2011年は、1オンスの価格が$1572(年平均)、 2012年は$1668と、金が米ドルで最高価格を示していた時期です。 (注)13年11月6日は1オンス$1314で、1グラムは$42.25です。こ の間、約20%の円安ですから、円価格ではドル価格ほどは下げてい ません。しかし、世界の金価格の実勢は、ドルで見るべきです。ロ ンド、シカゴ、NYの商品取引所で、ドルベースで価格が決まったあ と、円に換算するからです。円は、金のドル価格には影響を及ぼし ません。 2011年と2012年に、そしてドルベース価格が20%は下がっている20 13年に、需要面でどんな変化が起こっていたのかを、以下で見ます。 【2011年からの金需要:出典:WGC】 2013年 2011年 2012年 第一四半期 第二四半期 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 宝飾用 1975トン 1896トン 551トン 575トン 工業用 452トン 408トン 102トン 104トン 現物投資用 1518トン 1255トン 406トン 508トン 金ETF 185トン 279トン -176トン -402トン 中央銀行購入 456トン 544トン 110トン 71トン ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 合計需要 4587トン 4383トン 992トン 856トン ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (価格) ($1572) ($1669) ($1631) ($1415) 金価格は、2011年9月に、$1896のピークをつけています。 (注)円価格では1グラムで4721円($1=78円)でした。 2012年は10月の$1791がピークです。2013年は1月の$1693が頂点 でした。その後、13年10月には月中平均で$1315へと、年初からは 22%下げています。 理由は、上表の需要量の変化から、明らかになります。 (1)宝飾用需要には変化はほとんどない。年間で1900~2000トン くらいの需要量です。工業用需要も同じです。400~450トンです。 (2)ゴールド・バーの現物投資用は、2011年が1518トンであり、 価格が波動していた2012年は1255トン(前年の83%)に減っていま す。 しかし、2013年の第一四半期(1月~3月)は、406トン(年率換算 では4倍の1624トン)、第二四半期は508トン(年率換算で2032ト ン)と、大きく増えています。 投資の現物需要について言えば、現物投資家は変わらず強気であり、 価格が下がった2013年であっても、より大きく買い増ししています。 (3)中央銀行は刮目(かつもく)すべき変化をしています。2007 年までは400~600トン売り越していました。これが、リーマン危機 のあとの09年から、逆に、買い越すようになったのです。 2011年は、中央銀行は、買い越しが456トンでした。前述したよう に、400~600トンで30年余も続いていた売り手(供給側)が、500 トン近い買い手になったのが、2011年です。 これが原因で、2011年9月のドルベースの史上最高価格$1896にな ったと言えます。 ●世界の中央銀行の中でも、急速にドルの外貨準備を増やしていた 新興国が、ドル準備だけではなく、「ゴールドの保有を増やした」 のです(ゴールド・リザーブ)。原因は、「ドルの価値が長期的に は下がる」という懸念です。 (注1)新興国は、自国の、経済と国債の信用度が低いため、中央 銀行が通貨を発行するとき、その国が輸出で稼いだ米ドルを担保に することが多い。このため、自国通貨に対し米ドルが下がると、そ の国では、担保額が減るためマネー量が減ることになります。 このため、ドルの下落を恐れ、リーマン危機以降のドル安(新興国 通貨は上昇)の中で、ゴールドを買ったのでしょう。 ●世界の外貨準備は、2000年代で、$2兆(200兆円)から$12兆 (1200兆円)にまで1000兆円も増えています。米ドルが約60%だっ たので、米国はドル紙幣を〔1000兆円×60%=600兆円($6兆)〕、 海外にばらまいてきたことになります。年平均では60兆円($0.6 兆)の貿易赤字でも、10年分では、600兆円になるからです。 赤字の通貨が、世界の基軸通貨とは、変なことです。 変なことが、変なことにならずに続いています。 理由は、米国以外が、自国通貨よりドルが価値があると見ているか らです。通貨信用は、他の人が信用して受け取ってくれるから信用 があるという、蛇が尻尾を飲んだような構造のものです。裏かと思 えば表になる、ねじれたメビウスの輪と言ってもいい。 ●ドルは赤字通貨であり、長期的には価値が下がるだろう。しかし ドルに代わって、世界が信用する通貨はない。2008年まで、ドルを 超えると期待されていたユーロは、財政偽装からの南欧危機と、各 国の意志統合に問題があり、ダメなことが分かった。 そして、経常収支は黒字でも、円は、米ドルの付属的な位置にある 通貨である。円は、ドル債を買いドルを支える役割に徹している。 人民元では、中国の、政府、経済、金融、企業統計に疑いがあり、 独裁政権だからドルに代わるものにはなり得ない。 世界(とくに新興国)の中央銀行にとって、ドルに代わる通貨はま だない。ドルを外貨準備の通貨とせざるを得ない。 しかしドルの減価(ドル安)は困る。金の保有を増やすことで、ド ルが下がると上がる金により、減価を補う。 以上が、30年間ずっと金を売ってきた中央銀行が、2011年から、買 いに転じた理由でしょう。 マスコミでは基軸通貨への論評をみかけませんが、この変化は、本 当は、世界の通貨体制の中での、2011年からの変化として、刮目 (かつもく)すべきことだったでしょう。 2011年からは、ワシントン条約で金の売りを規制するどころか、逆 に、世界の中央銀行は、米ドルから金に換えるようになっています。 本稿は、ここまでにします。 【後記】 11月に思い立って、20年に一度の式年遷宮をした、伊勢神宮に行き ました。伊勢の建造物は、すべてが塗装がない無垢の檜です。 風雨にさらされ、20年経つと、木は苔(こけ)むして、朽(く)ち ます。このため、全部を、建て替える。 これが、式年遷宮。一回500~600億円はかかるという。なるほど、 その金額を聞いて不思議ではない、樹齢数百年の見事な材が使われ ています。鳥居も、丸く、真っ直ぐで、つるつるに磨かれたもので す。これぞ、どの国にもない日本。日本の文化、様式です。 巨大な樹木に覆われた神宮は、空気感が、まるで、別世界でした。 生涯で3度目の伊勢神宮でした。晩秋の曇った空に、繊細な紅葉が 揺らいでいました。 どうか、いいお年をお迎えください。 【有料版の目次】 <685号:中央銀行が最大の買い手になった米国債と円国債(3)> 2013年12月4日 【目次】 1.円安と、今年度最高の日本株価 2. まず、$1=103円への円安 3.ついに、史上最高価格になった米国株価 4.ドル増発と株価 5.同時金融バブルの、世界の株価 6.FRBの、量的緩和第三弾の行方(ゆくえ) 【後記:豚(ぶた)の確言】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは、記事に反映させるよう努め ています。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ■1.有料版は、新規に登録すると『無料で読めるお試しセット』 が1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目次の 項目です。興味のある方は、登録し、購読してください。 まぐまぐの有料版では、新規に月中のいつ申し込んでも、その月の 既発行分は全部を読むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料 お試しセットです。その後の解除は自由です。継続した場合に、2 ヶ月目の分から、課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードをきめた後、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という3段階の手順です。 【↓まぐまぐ会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (まぐまぐ有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (まぐまぐ無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■2.「まぐまぐの有料版を解約していないのに月初から届かなくな った。」との問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんどの原 因は、クレジットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報の変更は、まぐまぐの『マイページ ログイン』の 画面を開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして 出てきたマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジット カードを新しいものに変更できる仕組みです。クレジットカードの 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