現代貨幣論の批判的な検討(1)
This is my site Written by admin on 2019年12月20日 – 17:00
しばらく間が空いたことをお詫びします。お送りするテーマは、「現
代貨幣論(Modern Money Theory)の批判的な検討」です。

手もとに、『MMT(現代貨幣理論入門)』という約530ページの大部の
翻訳があります。著者はL・ランダル・レイ、NYバード大学教授です。
MMT理論の推進者の、ステファニー・ケルトンは女優といってもいい
風貌です。本が売れるには、ビジュアルは意外に大切です。

政府財政の赤字は、物価を上げても、経済を成長させると肯定するの
で、自民党は勉強会を開いています。

「政府財政の破産とハイパーインフレは、あり得ない」ともいう。
現代貨幣論は、政治的なものにもなっているのです。

政府は、2020年度に向けて、異例な、真水部分が10兆円(公共事業の
増加:GDPの増加になる)の予定補正予算を組んでます。2020年正月
の通常国会で成立させるでしょう(過去の水準の約2倍)。国債の+
10兆円増発になり、明らかに、「現代貨幣論」に後ろ押しされたもの
です。(注)安倍政権は発足当時の2012年度にも、緊急経済対策とし
て10.3兆円の巨大補正予算を組んでいます。

【モデルの単純化が、経済学の方法】
経済学は、科学とは違うイデオロギー(思想)です。
現実と同じ条件と環境での、実験と検証ができないからです。

現実の経済は、世界の70億人の商取引と金融という要因が複雑に絡む、
気象のような「複雑系」です。資本主義の根幹である株も、買いが売
りより増えれば上がるという単純なものですが、われわれが関心をも
つ株価の動きは、複雑系です。

レポ金融で見た金利も同じです。自然の現象でも、台風のような複雑
系は実験ができない。このため、複雑な要素を単純化して、モデル化
したものを作り、その中で、理論化(つまり論理化)します。

多くの要素間の波及(相互関係)は、理論化のために無視します。多
数の複雑に絡んだ要素は、論理化ができない。このため、経済的な現
象の現実とはかけ離れたイデオロギーが、組みあがるものも多い。

【株価における単純化】
たとえば、民間経済の中で重要な、株価の根拠としては、次期純益
(税後利益)を累積して、「予想長期金利率+純益実現のリスク率=
株式益回り(%)」で割引する現在価値(NPV:Net Present Valu
e)しかない。

予想長期金利が3%、次期純益のリスク率が3%だったときは、株式益
回りは6%になり、PER(株価/収益率)は「1÷6%≒16.7倍」になり
ます。

1株当たりの次期予想純益にPER倍率(16.7)をかけたものが、経済学
的な理論株価ということです。

1株当たり次期純益の、ほぼ確実な予想が100円であるときは、PERが
16.7倍なら、理論株価は1670円です。PER理論にも、要素単純化(単
純モデル化)があります。このため、実際の予想PERは、日々(時々
刻々)変動します。それが株価の変化。モデル化した理論値というの
は、こうした意味です。

経済学は、作ったモデルでの働きを考えて論理化するので、PER理論
のような単純化思想になります。

現実を単純化したモデルの間違いも、頻繁に発生してきました。この
ときは、経済学も誤ります。自然科学と違い、経済学が常に変化する
のは、経済的な現実のモデル化を間違えているからです。

以上のことから、経済学は常に、批判(論理的検討)の対象でなけれ
ばならない。批判は非難とは違います。

批判は、根拠をもった論理的なものですが、非難は感覚的・感情的な
反応です。わが国では、両方がよく混同されています。当方が書いた
本にも、根拠が論理的ではない非難があります。

現代の主流派とされる経済学(ルーカス批判を経た、新古典派から派
生)からは、「根拠の浅い、馬鹿げた理論」という感情的な非難も多
い。感情的ですから根拠を明らかにはしていません。食べ物や人間の
好き、嫌いと同じです。(本稿は、有料版の19年9月分から、一部を
取り出して修正したものです)

本稿は、すこし難しい内容になりますが、懸命に、基礎的な解説にし
ます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<1026号:現代貨幣論(MMT)の批判的な検討(1:前編)>
       2019年12月20日:無料版

【目次】

1.もっとも単純に要約したMMT
2.政府紙幣と中央銀行紙幣の事例
3.国債を買って量的緩和をした結果のインフレは、資産で起こった
  :最近の米国の事例
4.税収が不足した結果の、赤字が拡大した財政支出は、拡大持続が可
能か?
6.ほぼ5年後から・・・

【後記】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.もっとも単純に要約した「MMT:現代貨幣論」

▼[MMT]自国が通貨を発行できる国(大国では日本、米国、英国、
中国等)では、統合政府(政府+中央銀行)は、どんなに財政赤字が
大きくても、破産(支払いのデフォルト)することはない。

デフォルトするのは、外貨建て国債(=外貨での借り入れ)が多いと
きだけである。

政府は、変動相場性のなかでは、いくらでも、好きなだけ支出できる。

ただし、商品生産の増加率の制約(限界)以上に財政支出したときは、
インフレが起こる。

▼[批判]
まずMMTは、「政府+中央銀行」を統合政府として見るモデルを設定
しています。政府が財政支出の拡大のために、国債をいくら発行して
も、中央銀行が買い受けて通貨を増発すればいいから、政府が支払い
に困ることないということです。

MMTが主張しているのは、負債証券である国債を中央銀行が買ってマ
ネーに変換する「マネタイゼーション(国債の現金化)」です。「日
銀を政府と連結のB/Sで見る統合政府」の中では、子会社取引になる
マネタイゼーションによって、国債は、借用証から、事実上、政府紙
幣になります。

(注)政府紙幣は、中央銀行でなく、政府が発行する紙幣。日本では、
日銀設立(明治15年:1882年)の前が、政府紙幣の「太政官札」であ
り、西南戦争(西郷軍と政府軍の内戦)の戦費として増発されたので、
米価が3倍になるインフレを起こしました。現代の世界では、政府紙
幣の発行はない。

政府紙幣の償還(通貨の流通量を減らすこと)は、普通は、必要がな
い。MMTが行うのは、政府紙幣の発行のすすめです。

ここからMMT論は、対外債務のない政府財政の破産、つまりデフォル
ト(必要な支払いができないこと)はあり得ないとします。

新興国のように、大きな対外負債(海外からの借り入れ)があるとき
は、政府紙幣を発行すると通貨が下がり、下がった通貨に対して対外
負債が増えて、デフォルトの可能性が出る。しかし、対外負債がなけ
れば、通貨の価値が下がっても、対外デフォルトはない。

中央銀行が、国債を全部買い取って現金に換え、政府に提供してもい
いので、政府がマネー不足でデフォルトになることはないとする。

▼政府紙幣では国債の金利と返済という問題はなくなる

ここで・・・考えましょう。国債の金利は、どうするのか。中央銀行
が全部を買うならゼロやマイナス金利でもいい。政府は利払いの必要
もない。返済もしなくていい。返済を考えるから、財政赤字の減少
(新規国債発行の減少、または返済)をおこなわねばならなくなる。

ソ連の社会主義銀行がこれでした。特定の国有企業への貸し出しは、
利払いがなく、返済も猶予されていたのです。このため、国内に政府
紙幣があふれて、あとは1000倍のインフレでした(1998年のロシア)。

しかし、国債の償還期間を仮に100年後とすれば、償還期は、地球上
の全員が死んだあとになる。つまり政府のデフォルトは、100年はな
い。100年は、今の世代にとって、無限に等しい。永久債とすれば、
まさに、返済の必要がない政府紙幣になる。

(注)日本では、財務省が勝手に国債の償還期間は60年としています。
60年は、新規債を発行しながら、借換債で借り続けるという意味。

中央銀行が国債を買うと、借り換え(手形でいえばジャンプ)を続け
ることになるから、政府の財政破産(デフォルト)は、いくら財政赤
字が大きくても、ありない・・・とするのがMMT論です。

国民が国会議員の選挙で選択すれば、無税国家にもなり得るというこ
とです。「税はゼロ」という法を多数派が作ればいい。年金と医療保
険の掛け金をゼロにしてもいい。事実上の政府紙幣(コンピュータで
書き込むだけ)で支出ができるからです。

サウジアラビアは、王国政府に原油の輸出収入があるため、それが税
とおなじ財源になり、国民に対しては無税に近い(5%の、消費税と
同じ付加価値税はあります)。海外法人に対しても、法人税20%と低
い。

サウジの国民に対する事実上の無税は、原油の販売収入という財源が
あるからできることです。

油田施設の爆破で延期されましたが、国有会社のサウジアラコムを上
場しようとしています。世界史上最大の、200兆円の時価総額になる
と想定されています。世界の金融機関と投資家に株を売却して得たマ
ネーも、財政支出に使うことができます。

政府に、サウジのような原油収入がない日本も、国民が選択すれば、
無税国にできるという。当然、世帯の増加マネー(預金の増加)が生
む需要は、商品生産力を超えます。つまり、インフレになる。供給の
余力がある消費財ではない金融資産(株、金、国債、債券)は、ハイ
パーインフレに近い上昇になるでしょう。(注)金利の低下、マイナ
ス化は国債価格の上昇です。

企業と世帯の預金であるマネーサプライの量が増えた円は、1単位が
インフレ分の価値を下げて、外為相場では、下落します。円安で輸入
物価も上がり、物価上昇に拍車がかかるでしょう。(注)2019年現在
は、日銀がマネーストックと言い替えているマネーサプライは、
1372兆円です(郵貯、農協を含むM3)。前年比増加は2%~3%台であ
りインフレを起こす水準ではありません。
https://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1911.pdf

現代貨幣論が説くように「財政赤字=政府紙幣の発行」になると、マ
ネーサプライはどんどん増えます。大きなインフレになる兆しがでた
とき、どうするのか。MMTは財政支出の削減をすれば、インフレは収
まるという。

しかし、マネーサプライはすでに増えていて、経済をめぐっています。
マネーサプライの中では、Aさんの預金から支払うとBさんの預金にな
るので、支払っても総量は減りません。

金利はすでにゼロです。マイナス金利を適用しなければならない。イ
ンフレの中でマイナス金利になれば、大きく増発された円の預金は金
利のあるドル、スイフラン、金などを買って、預金(国内のマネーサ
プライ)から大量流出します。

マネーが海外流出すると、円のマネーサプライは減ります。円は、ど
んどん下がっていくでしょう。この円安で、輸入物価が上がっていき
ます。

財政支出を削減するだけでは、ストックになっているマネーサプライ
(企業と世帯の預金)の金額は減りません。ほぼ同じ額が維持されま
す。

MMT論では、インフレになったときは、財政支出を減らせばいいとし
ています。しかしストックとなったマネーサプライは、減らないので、
商品需要と金融商品の需要は減らず、商品インフレ、資産インフレは
とまらなくなります。この点は、MMT理論の、あやまりになるもので
す。

●財政支出の削減では減らないマネーサプライという経済要素を、
MMTはモデルにいれていないと思えます。

政府通貨を発行する無税国家では、一旦始まったインフレは、財政支
出を減らしても、ストックとなった国民の預金量を減らさない限りは、
インフレは収まらない。つまり、国債を現金にした政府通貨では、無
税国家は実現できません。

■2.政府紙幣と中央銀行紙幣の事例

▼わが国の政府紙幣

日本の最初の貨幣だった和同開珎(政府貨幣:708年~)は、税制の
ない政府が、奈良の都を作る労賃の支払いに発行した政府通貨でした。
その結果は物価が50年で15倍に上がるインフレでした(コメ1石
(160kg)が33文→500文:新井宏)。1人が1日に米500g分のカロ
リーなので、1石は1年分の米です。

明治政府が発行した太政官札も、維新の税制が整わない時期の、政府
通貨でした。明治政府への叛乱軍になった西郷隆盛との西南戦争の戦
費として、大量発行され(マネーサプライ量が増えて)、当時の代表
的な生産物だったコメが3倍に上がって、飢餓者も出ました。

明治政府は、松方正義がロスチャイルド家の教えを受け、最初は銀本
位、あとには金本位の円を発行する日銀を、日清戦争の賠償金740ト
ンで作り、円の兌換紙幣(金と交換が可能)を発行して、「政府紙幣
だった太政官札2両=金本位の1円」として減価し、インフレを起こし
た太政官札(政府紙幣)を回収したのです。(注)通貨量は1/2に減
りました。

▼長期での、紙幣の価値

当時の金との交換率は「1.5グラムの金=1円=1ドル」でした。1.5グ
ラムの金と1円が交換できるというインセンティブをつけ、2両を1円
にして、マネーサプライの量を1/2に減らし、維新のインフレをおさ
めたのです。

現在1.5グラムの金は7500円くらいです(1グラムが約5000円)。金が
7500倍に上がったのではなく、第二次世界大戦で、日銀が国債を買っ
て100倍の量が発行された円が、7500分の1の価値に下がっています。
明治の1円は、今の7500円ということです。

小説家になる前の夏目漱石が、国費での英国留学から帰って、東大の
英文学の教授として受け取っていた俸給は80円でした(明治28年:
1895年)。現代の貨幣価値に直せば、60万円/月ですから、労働の実
質価値は、明治から同じですね。

東大教授の平均月収は、現在、65万円くらいです。賞与を含む年収は、
教授クラスの平均で1156万円ですから意外に少ない。ただし、私大で
は、この2倍くらいのところもあります。

当時は1ドルだった1.5グラムの金は、現在は71ドルです(1オンス
(31.1グラム)が1480ドル付近)。ドルの価値(商品購買力)も、価
値を保った金に対して、71分の1(1.28%)に下がっています。

日銀の設立は、1882年(明治15年)でした。137年経っています。そ
の間ずっと、生産力を上回って増刷され続けているドルは、1年平均
で3.1%のインフレ(通貨価値の下落)を起こし、年平均では3.1%ず
つ購買力を下げています。当時の1ドルは、今は71ドルの価値(商品
購買力)です。(注)ここでわかるように、インフレは、物価の高騰
ではなく、本当は通貨の価値の下落です。

財源に顧慮しない政府紙幣がインフレ、つまり通貨価値の下落を起こ
す事例が、太政官札でした。なお、このインフレには、資産(株・不
動産)は、はいっていせん。それらを入れれば、インフレ率はもっと
高くなります。

商品より常に大きな米国の資産インフレを入れれば、1年で5%、137
年で800倍です。ロスチャイルド家は、金融資産のインフレ(価格の
上昇)で、2000兆円の財を作っています。

■3.国債を買って量的緩和をした結果のインフレは、資産で起こった
:最近の米国の事例

2008年のリーマン危機のあと、FRBが増刷して、短期金利を0%に誘導
した4兆ドル(420兆円)のドルが、「銀行の当座預金→社債の買い→
社債発行をした企業の自社株の買い(4兆ドル)」となって、S&
P500社の株価時価総額は、1200兆円(3倍のレバレッジで)上がり、
3000兆円になっています(WSJ)。

消費が減る65歳以上の人口構成比が増える社会では、衣・食・住の基
礎商品の商品需要は1年に2、3%しか増えません。このため、消費財
の物価は上がらない。

増えたマネーは預金になって、金利がついて上がる金融資産の買いに
なり、金融資産の大きなインフレ(10年で株価は3倍:年率40%)が
起こります。

【FRBの出口政策の、裏の本当の理由】
FRBが2014年10月から国債の買い増しをやめて、利上げをする出口政
策に向かったもっとも大きな理由は、米国の株価の、3倍への高騰を、
「いずれ破裂して金融恐慌になるバブル価格」と判断したからでした。
FRBは、言及せずとも、金融資産のインフレに警鐘を鳴らしたのです。

(注)銀行間の、債券担保の貸し借りである「レポ金融」の金利が
10%に瞬間高騰した2019年9月18日からは、米銀のドル不足が起こり、
FRBは再び、短期国債を金融機関から買うというレポ金融の形式で、
量的緩和を実行しています。2019年12月は53兆円という大きな金額に
なっています。(注)レポ金融は、正確には、買い戻し条件つきで、
短期国債を相手銀行に売って現金を調達するものです。1週間後など
の期限日に買い戻すことが、返済に相当します。

無税国家ではなくても、国債のマネタイゼーション(中央銀行が国債
を買うこと)を相当量、行うと、
・国際的なサプライチェーンで生産力が上がった消費財は、価格が上
がらなくても、
・金融商品には、インフレ価格を超えたバブル価格が起こります。

株価と不動産価格の下落は、今度は金融危機を引き起こします。
そのための、予防的な引き締めが、米国の、マネタリーベース(現金
+銀行がFRBもつ当座預金)を約5000億ドル(55兆円)減らした出口
政策でした。

しかし、米国の企業と世帯の預金であるマネーサプライは、増え続け
ています。このため買われた株価が、FRBマネーを絞った2014年のあ
とも、上がり続けているのです。(注)2019年11月の米国のマネーサ
プライは15.3兆ドル(M2:1683兆円)です。
https://www.ceicdata.com/ja/indicator/united-states/money-supply-m2

(注)リーマン危機は、不動産価格の下落が、デリバティブの大きな
下落に波及し(国債並みの信用のAAA格のMBSも40%下落)、CDS(債
権の回収を保証する保険)を高騰させたことから起こった金融危機で
した。

インフレもデフレも、特に高齢化に向かう社会では、資産価格をいれ
なければならない。しかし古い経済学モデルからは、資産価格は抜け
ています。

消費財だけの価格なので、マネーサプライが増えても、2010年代の世
界は、インフレが起こっていないように見えるのです。ここに、単純
化した経済モデルの落とし穴があります。

MMT論は、100年も前から経済学が問題にした、雇用対策は言っても、
金融危機をもたらす資産価格のインフレには、一切触れていません。

都合が悪いからでしょう。経済モデルからはカットしています。
ここが、MMTの批判の第一点です。

■4.税収が不足した結果の、赤字が拡大した財政支出は、拡大持続が
可能か?

MMT論の、次の問題は、ここです。

MMT論:政府は、財政の財源を案じる必要はない。統合政府として、
国債を、政府機関の中央銀行に売って、マネー化すればいいからであ
る。(消費財の)インフレが、仮に4%以上になれば、財政支出を減
らせばインフレは収まる。

MMT論:不況期の雇用は、政府が公共事業要員として行えばいい。好
況になれば、政府雇用をカットして、民間に回せば、持続的なインフ
レを生む賃金は過度には上がらない。

[批判]
インフレが4%になるということは、金融市場の期待均衡金利は、4%
以上に上がるでしょう。均衡金利=実質経済成長率+予想インフレ率、
だからです。

(注)物価のインフレは、通貨価値(金融資産の価値)の下落です。
このためマネーを運用する側は、物価上昇以上の金利を求めます。物
価が上がるなか、預金金利は低い中国で、4%~5%と金利が高くリス
クがある理財商品(残高21兆元:315兆円)が作られ、多くの人が買
ってきた理由は物価インフレでした。

物価が上がれば、消費者は、預金を崩して上がる商品を買うと日本の
政府系エコノミストは主張していますが、それは違う。高齢化に向か
う社会では、必要数以上の商品は、買わない。代わりに金融資産の高
金利を求めます。エコノミストの経済モデルが古いのです。

このとき、中央銀行が国債を買って、国債価格が下がらないように金
利を抑えてもムリになります。

それではと・・・国内の金利を均衡金利以下に抑える「金融抑圧
(GDPの2.5倍の国債を発行していた英国が戦後に実施)」を行うと、
その英国で起こったように、比較金利の高い海外にマネーが流出しま
す。

戦後は「1ポンド=1000円」だった英国ポンドは、今は134円。金融投
資家と金融機関の「(金利の低い)ポンド売り/(金利のつく)ドル
買い」が大量に起こったからです。

【巨大な外為市場】
外為市場(世界の外為銀行の店頭)では、1日に7兆ドル(770兆円)
の通貨の売買があります。世界の貿易量の約150倍です。世界中のマ
ネーは、激しい勢いで、通信回線の中の暗号データとして、瞬間移動
しています。これも複雑系です。経済学のモデルは、この巨大な通貨
移動をとらえていません。FXの大きな投資家なら知っているでしょう
か。

通貨が大きく下がると、まず輸入物価が火をつけて、国内の物価は上
がり、インフレは持続します。財政支出を減らすくらいでは、金利が
均衡金利よりはるかに低いことからのインフレは、収まらない。

中央銀行が国債を買って、マネタイゼーションを行った戦後の英国が
これでした。このポンド安のため、
・英国人の実質所得が減って、
・戦後の英国のGDPは増えず、
・基軸通貨のドル換算では1/3に減って(所得も1/3)、
 没落していったのです。

主因は、英国中央銀行が、金融機関から売られる国債を全部買って、
価格を支え、金利を低く保った金融抑圧を行ったからです。

MMT論は、中央銀行が金融抑圧をした戦後英国の事例を見ず、インフ
レになったら、財税支出を抑えればインフレは収まると、安易に言っ
ています。そうではないのです。

戦後の英国の財政収支は黒字であり、赤字の財政支出は抑えられてい
ました。しかし、金融抑圧で金利が人為的に低かったポンドは売られ
て、ポンド安によるインフレは収まらず、ポンドは一層下がっていっ
て、英国病と言われる没落(実質所得の減少)をしていったのです。

2020年末には発効するブレグジット(英国のEU離脱)も没落の要素に
なります。

▼日本の場合

日本でも、赤字の財政支出を拡大させ、仮に3%の物価を含む名目
GDPを増やした場合、金融市場(民間)の期待均衡金利は、3%以上に
上がります。

戦後の英国と同じように、1316兆円(GDP比で2.4倍:19年3月:日銀
資金循環表)の借入金を含む政府負債(うち国債・地方債は1114兆
円)の金利を抑えるために(国債価格が下がらないように)、日銀が
買い受けて場合、戦後の英国と同じ金融抑圧になります。

3%の金利がつかない、人為的な低金利またはゼロ金利の円は、大量
に海外債券を買って、英国のように通貨安が続くでしょう。

財政支出の拡大は、確かに物価を上げます。しかし、一旦上がった物
価を、財政支出の削減により下げることはできない。通貨安がもたら
すインフレとして続くからです。

結果は、戦後の英国と同じ、円の下落とともに日本経済の没落でしょ
う。具体的に言えば、ユニクロの2000円台のシャツが6000円に上がり、
5万円のニトリのソファが15万円になるようなインフレです。

MMT論では、「通貨安」という要素がインフレに及ぼす、波及の論が
弱い(ない)。現実経済で、英国の事例があるのに無視しています。
この点が、2番目の問題です。MMT論は、行動経済学でいう「単純化バ
イアス(代表性バイアス)」におかされています。複雑な事象を、人
は単純化し、少ない要素で見るという誤りです。

企業と同じように、倒産すべきときゾンビが倒産しなければ、つぎの
世代の、企業成長を阻害します。具体名を言って恐縮ですが、消費者
にとって価値の高い商品開発の命を失っていたダイエーは、破産して
消えなければならなかった。

M&Aで救済したのは、ダイエー救済の旧通産省(経産省次官)と組ん
でいたイオンの失敗です。倒産すれば成長企業に移っていくダイエー
の雇用も、そのままに固定され、賃金が上がらない人になったのです。
ダイエーが消えれば、売上約2兆円が、競合企業の成長部分になって
いたでしょう。

政府は、資本がなくなると消える企業とは違いデフォルトしても、な
くなりません。2012年からのギリシアのように、公務員の雇用を減ら
し財政支出を縮減しなければならない。

そのとき株価は暴落し、あとの、数倍への値上がりで資産を生むもの
になるでしょう。このとき戦後のように、旧資産家が没落し、新資産
家が誕生します。ロスチャイルド家が、投資銀行を通じて、行い続け
ていることです。

■6.ほぼ5年後から・・・

政府の破産と前後して、超大量・高速通信の5G(LTEの1000倍)とAI
が合体した、産業革命の時代に向かいます。この成長は、過去はなか
った「デフレ型の経済成長」です。

具体的にいうと、音楽CDでの、アマゾン・アンリミティッドのように、
数千万曲を1000円/月くらいの料金で無制限に、CD並みの高音質で聴
くことができるような物価です。入会していますが、たぶん、1か月
に、CDでは10万円(50枚)くらいは聴いています。価格は1/100です。
CDの1/100へのデフレと言えます。CDの製造・販売の会社は、多くが
なくなってきた。しかし、音楽の視聴者は豊かになったのです。

映画は、NetFlix、料金を忘れるくらい安い。見る映画はどれでもい
い。物流も自動配送車。本も電子版。タクシーの無人運転と言うよう
な変化です。モノの物価は、上がらなくなる。むしろAIによる無人生
産で下がります。代わりにわれわれの、実質賃金が上がるのです。奴
隷(現代のAI)を働かせ、貴族は商品生産では働かずに遊んで議論し、
芸術と戦争に没頭していた古代ギリシアです。AIは、人間と違い衣食
住の商品は消費しません。だから商品物価は下がって行く傾向を示す
でしょう。

働く世代の生産年齢人口が、世界1減って行く日本では、AIがしっく
り馴染みます。ペットや同僚も、AIになるでしょうか。若干、味気な
い。しかし魂があるようにも感じるので錯覚します。言語は、リアル
タイムの自動翻訳です。実用的な外国語なら覚える必要はない。言語
文化的なものなら別です。代わりに、日本語を磨くことです。

情報化は、物価を上げず、可能な商品生産と購買量を増やします。商
品生産、金融もAI化されます。産業のあらゆる分野でAIが活用されま
す。農業生産も、早くからです。

インフレが条件で成長したのは、価格が上がってきた資源を大量消費
し、設備と人を大量に使う、情報化の前の古い大量生産・消費の経済
です。インフレになると、借入金の実質価値が減っていたからです。

住宅が年5%上がれば、ローン金利が5%でも、金利ゼロと同じでした。
実質的な負担金利=名目金利-物価上率、です。10%上がれば借り入
れで資産が増えていました。これが、インフレ型の成長です。

デフレ型の成長では、物価が安くなることにより、金利のつく借入金
が不利になり、1人当たりの生産性はAIの補助作業で上がって、商品
購買力の実質所得は増える成長です。近代経済とは逆の、21世紀の情
報経済です。貯蓄は、生産量が増えず、価格が上がる金でしょう。今
後の貯金は、株のような仮想通貨や金になるでしょう。


情報テクノロジーによる経済成長は、借入金を不利にし、実質賃金を
増やす経済です。

【後記】
実質的な「政府紙幣」を推奨するMMT理論は、「経済学の終焉」を伝
えるような感じです。

主流派が反発する理由でもあるでしょう。理論が根底からひっくり返
ります。しかしこれは経済科学ではなく、政府通貨の有効性を主張す
るイデオロギーです。

経済理論に反する金融抑圧を実行し「戦後の英国経済」になることを
見越して、採用する政府があるかどうか。国債のマネタイゼーション
を、黙って行う政府が出るか。マネーの増刷だけでは経済は、成長し
ません。

増えた通貨の実質的な価値(購買力)が下がり、インフレになって、
貧困になるだけです。金融商品と不動産は上がって、バブル価格にな
ります。これが今の英国です。

生産設備と技術労働に乏しいアフリカの新興国が、政府通貨を大量発
行しても経済成長(実質所得の増加)を果たせないことと同じです。

政府通貨を増発するMMTが有効なのは、生産設備の稼働率が70%以下
と低い間だけです。90%以上になれば、あとは実質所得を下げるイン
フレでしかない。政府がお金を刷っても、工場の生産力は増えないか
らです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ビジネス知識源無料版:感想は自由な内容で。
                                     以下は、項目の目処です】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点、ご意見はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲で、あなたの横顔情報があると、テーマ選択と
内容記述の際、より的確に書くための参考になります。

気軽に送信してください。感想やご意見は励みと参考になり、うれし
く読んでいます。時間の関係で、返事や回答ができないときも、全部
読みます。共通のものは、後の記事に反映させるよう努めます。

【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】
yoshida@cool-knowledge.com

■1. 有料版の新規登録は、最初、無料お試しセットです(1か月分)
:月中のいつ申し込んでも、その月の既発行分は、その全部を読むこ
とができます。その後の解除は自由です。継続したとき、2か月目分
から、課金されます。
(1)『会員登録』で支払い方法とパスワードを決めた後、
(2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、
(3)その後、『購読マガジンの登録』という3段階の手順です。

【ビジネス知識源:有料版】
https://www.mag2.com/m/P0000018.html
このページから、登録ページにすすむことができます。

【↓会員登録と解除の、方法の説明】
http://www.mag2.com/howtouse.html#regist

登録または解除は、ご自分でお願いします。
(有料版の登録↓)
http://www.mag2.com/m/P0000018.html

・・・以上





◎このメルマガに返信すると発行者さんにメッセージを届けられます
※発行者さんに届く内容は、メッセージ、メールアドレスです

◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則
  の配信停止はこちら
⇒ https://www.mag2.com/m/0000048497.html?l=hpt0a0092e



Comments are closed.