特別号:金融当局の政策とは逆に動く通貨と株価
This is my site Written by admin on 2016年2月15日 – 10:00
おはようございます。年初来、世界の株価が、暴落と言える動きを
しています。中国と新興国の成長の低下、FRBの利上げ、原油と資
源価格の急落、ユーロの不良債権とドイツ銀行の経営不安など、そ
の都度の理由が言われます。

それぞれの理由が成立します。世界の株や通貨市場では、1億人以
上の参加者がいて、皆、それぞれの理由づけをした上での予想から
今日の売りか買いかを決めているからです。

この中で注目すべきは、米国FRBの利上げ(15.12.16)と、今年1月
29日からの日銀のマイナス金利政策にもかかわらず、通貨とドル金
利の相場が真逆に動いていることです。

【円とドルの、奇妙な動き】
昨年12月には〔$1=121~123円〕だった円は、マイナス金利の発
表後(1月29日~)、一時、111円の円高に転じました。政策的な利
下げがあったのに、円が急騰するという奇妙なことが起こったので
す。

(注)ドルに対する1円の上昇は、日経平均株価では300円から400
円の下落に対応しています。10円で3000円から4000円です。

円高で株価が下がるのは、日本の株式市場の売買でほぼ70%を占め
ている海外ファンドのHFT(High  Frequency Trading:超高速売
買)が、「円高→日本株売り」、「円安→日本株買い」とプログラ
ミングしているという要因が大きいでしょう。

◎円が10円(8%)も上がると、円高という要因だけで、日経平均
で3000円から4000円(15%~20%)の下落になる傾向があります。
ドル/円の変動率の2倍から2.5倍の変化を日経平均はしているので
す。

海外からの日本株の売買では、「円/ドル相場」が先に見えます。
日経平均CFD(差金決済取引)の、株価と円/ドル相場の、刻々と変
わるリアルタイム罫線の動き(10秒)を見ているとかります。相場
の動きは、「円/ドル相場→株価」です。先に円が変わります。通
貨の1円の変動に対して、日経平均が300円から400円という変化で
す。
http://nikkei225jp.com/chart/

現在は113.9円と、土曜日の政府・日銀の通貨介入(円の先物売
り)によって約3円、円安に戻してはいます(2月14日:午前)。

「円/ドル相場」はどう動いているのか。
ここを探求せねばならないでしょう。

【大きな疑問】
利下げは金融緩和ですから、普通なら通貨は下がります。日本の場
合、円安です。ところが今回、日銀のマイナス金利の決定とともに、
逆の円高に向かっています。なぜこんな現象が起こるのか?

121円から111円は10円(8.3%)という大きな変化であり、裏で数
十兆円の「ドル売り/円買いの超過」がないと起こりません。これ
は、日経平均を3000円~4000円も変化させます。

生じているのは、金利が下がる円が買われ、金利が上がるドルが売
られるという逆転した動きです。なぜ、奇妙な現象が起こるのか。

【株価も、利下げとは逆の動き】
日本の株価も同じです。一般に、利下げ(つまり金融緩和)がある
と株価は上がります。

【期待収益率と株価】
〔株価=企業の次期予想純益×PER倍率〕です。これは、〔株価=
企業の次期予想純益÷期待収益率〕に置き換えることができます。

この期待収益率は、PER倍率の逆数です(1÷PER倍率=期待収益
率)。次期予想純益に対するPERを15倍とした場合、15の逆数の期
待収益率は〔1÷15=6.67%〕になります。この意味は、市場は株
を買うとき、6.67%の利回りを期待しているということです。

金利が下がると、市場が株価に寄せる期待収益率は利下げの分、下
がります。このため企業の予想純益が同じでも、金融緩和があると
株価は上がります。

【日経平均の25%の暴落】
ところが日経平均(225種)は、2015年12月の水準だった約2万から、
2月12日(金曜日:終値)は1万4952円へと約5000円(25%)も下げ
ています。(注)日曜日の午前の、日経平均先物は1万5477円へと
500円戻しています。

円と株価は、FRBの利上げと日銀のマイナス金利とまるで逆の動き
です。この理由は何かを、探求するのが本稿です。

理由を考えるのは、今後の予想に当たって、素材になるものを決め
るためです。

【ご案内】
昨年12月に新刊になった拙著、『膨張する金融資産のパラドックス
(矛盾)』は、金融資産(=金融負債)が、所得とGDPの増加より
大きいことが8年から10年から15年続くと、増えた貸付けの不良化
から、次の大きな金融危機がサイクル的に起こることを論証したも
のです。

今回の通貨の動き、株価の下落、ドイツ銀行の危機に象徴される
ユーロの危機も予測していると気がつきましたので、改めてご案内
します。自己宣伝ではありますが、皆さんの参考になると思います。

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<Vol.352:特別号:金融当局の政策とは逆に動く通貨と株価>
       2016年2月15日:無料版特別号

【目次】

1.織り込みという現象の増加
2.円、株価、金利(国債価格)の動きの解釈
3.円と日本の株価の関係:「円安→株価上昇」、「円高→株価下
落」の同調
4.日銀のマイナス金利の後、円高に向かった理由

【過去の有料版の目次案内】

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■1.織り込みという現象の増加

【織り込み現象の増加】
最初に結論を言うと、世界的に過剰な流動性(マネーの量)と、大
きくなったファンド・マネーのため、通貨・株・債券・金利を売買
する金融市場で、「織り込みの現象」が強くなっていることです。

◎(定義)織り込みとは、相場に影響のある将来の要因を、市場の
主要なプレーヤーが「起こったものと仮想」して売買し、それが現
在の価格に反映されることです。

(1)例えば、米国FRBによる、ほぼ2か月後の利上げが確実である
と市場の多数派が予想しているとします。
   ↓
(2)そうすると、世界の外為市場では、ほぼ2ヵ月後の利上げを織
り込んで、ドル買い(=他の通貨売り)が増え、利下げはまだして
いない今日のドルが上がります。

つまり、多数派の将来予想が通貨、株価、債券価格(国債や社債)、
そして金利の、今日の相場に反映します。これが織り込みです。

【織り込みが起こる理由】
織り込みが起こる理由は、金融商品(通貨、株、債券、金利、デリ
バティブ証券)の売買は、売買差益であるキャピタルゲインの利益
を目的にしたものだからです。

株を買う目的は、会社の経営に参加することではない。経営には興
味がない。株の売買で利益を出すことです。利益は〔売る価格-買
った価格〕です。

安いときに買い、高いときに売ることが、株を買う人が目的にして
いることです。同じ金融商品である通貨、債券(国債や社債)、金
利、デリバティブ証券においても同じです。

▼織り込みの実際

【原則1】将来の予想を、現在の価格に織り込む行動

安いとき買うには、2ヵ月から数か月先の、株価を上げる要因(次
期予想純益、商品需要の増加、通貨、金利)が予想はされているが、
まだ株価は上がっていない時期に買わねばならない。

通貨でも同じです。ドルの売買では、ドルを上げる要因が実現して
ない時期に買う必要があります。

雇用、景気、中国のドル売り(外貨準備の売り)の動きから見て、
2015年12月16日のFRBの利上げは、確実になったと予想できる。

・現在は10月であり金利はまだ上がっていない。
・しかし12月のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げが決定すれば、
ドルが買われて上がるだろうと予想できます。

金融商品の売買で利益を出すには、安いときに買い、高いときに売
らねばならない。実際の利上げの前後にはドルは買われて上がるだ
ろう。上がったあとのドルを買っても意味はない。

金利はまだ上がっていない。予想される利上げがまだ確定してはい
ない現在(15年10月~11月)がドルを買う機会になるだろう。

事実、米ドルは、利上げ確定前の2015年10月中旬から11月にかけて
買い超が起こり、実際に上がったのです(後述)。

【原則2】この織り込み現象があると、影響する要因が実現する前
後から、価格は逆に動く

利上げなどの、金融商品の価格に影響を及ぼす要因が実現したとき
や実現が確実になったときは、どうなるか。

【最近のドル指数での、織り込みの確認】
織り込み現象がある金融商品の場合、利上げ前に上がっていたドル
は、利上げ前後には利益確定のために売られるものが増え、逆に下
がる動きになることが多い。(事例:ドル指数)
http://jp.investing.com/quotes/us-dollar-index-advanced-chart

上記のドル指数(世界の通貨に対する実効レート)でのドル価格を
見てください。2015年12月1日に100に高くなっていたドル指数は、
12月16日の利上げを決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の前に、
98に下がっています。

15年10月、11月には、利上げ予想からドル高を予想して買い超にな
っていたドルが、早々と利上げ前の12月3日から利益確定の売りた
めに、売り超に転じたからです。

こうした動きが起こるのは、相場を主導しているヘッジファンド等
が安いときに買ったものを(10月、11月)、高くなったときに売っ
ているからです(12月)。

あらゆる金融商品の、相場の価格は売買で決まります。上がるとき
は買いが増えて買い超になっていて、下がるときは売りが増えて売
り超になっています。

【織り込みが剥がれた後は、更に将来の2、3か月を予想した次の織
り込みへ】
2015年12月に利上げされた後のドルは、今度は、2016年3月のFOMC
(連邦公開市場委員会)による金利政策がどう向かうかの予想で動
くように、変わります。

2015年12月16日のFOMCの時点では、FRBの議長は、景気次第ではあ
っても、2016年に年4回(0.25%×4回=1%)の利上げに向かうと
示唆していました。

【起こった変化】
ところが年初からの、中国株ショック、原油資源安、新興国の成長
率低下(投資の引揚げ)から、世界の株価は全面安の様相を呈しま
す。このとき16年3月のFRBの利上げはないという市場の見方に転じ
ます。

2016年の世界景気の低迷予想が浮上し、16年6月のドルの利上げも
ないだろうという見方に転じたのです。

このため、年初のドル指数(実効レート:98~99.5)は、日銀のゼ
ロ金利突入後に、96付近にまで下げたのです(16年2月12日)。

【まとめ】
2015年10月から2016年2月までの、世界の通貨に対するドル指数の
動きは、「2か月くらい先のFRBの金融政策」を予想した価格織り込
みの行動です。

このため利上げでドルが下がり、利下げ予想でドルが上がるような、
逆の動きになります。

繰り返せば、金融商品の売買の目的は、価格差のキャピタルゲイン
を得ることです。このため、安いうちに買って、高くなれば売る
「織り込み」の行動が増えているのです。

■2.円、株価、金利(国債価格)の動きの解釈

金融政策が、以前より注目されるのは、マネー量の増加によって多
様になっている金融商品(通貨、株価、金利、債券、デリバティブ
証券)を動かしているからです。

1990年代まで外為の売買をする人は、少なかった。今、個人のFX
(レバッジがかかる外国為替証拠金取引:口座数で約150万)も日
常化しています。

株式取引では、総口座数は4500万ですが、同じ人を名寄せしが上で、
売買の活動している人は700万人と言われます。
(注)欧米の新聞で、Mrs.ワタナベと言われるのは、日本人の個人
投資家のことです。

▼円と金利(国債価格)と株価の動き

次は、昨年の12月から現在までの、円、長期金利、日経平均での織
り込み現象を見ていきます。円と日経平均も、ドルと同じように、
マイナス金利とは、逆の動きをしているのです。

【日本】   15年12月  16年2月1日  2月14日 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・ドル/円   120.5円    121.1円   113円
・長期金利   0.25%     0.22%   -0.03%
・日経平均  1万8982円  1万8000円  1万5777円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(注)2月14日のドル/円と日経平均は、日曜日の午後6:30時点で
す。

▼ドル/円の、奇妙な動きの背景

まず円ですが、15年12月に〔$1=122円付近〕だった円は、FRBの
利上げ後、まず117円にまで5円の円高になりました(16年1月21
日)。

ドルの利上げで、円安になるべき円が、円高(ドル安)に向かった
のです。この間、世界の通貨に対するドル指数は99付近であり、変
化はありません。つまりFRBの利上げ後、普通なら下がるべき円が
上がったのです。

なぜこういったことが起こったのか。 

【1.利上げにもかかわらず、米国の長期金利は下げた】
FRBによるFF金利(銀行間の短期金利)の利上げの後、上がるべき
米国の長期金利は、逆に2.3%(12月29日)から1.7%(2月10日)
に向かって下がったからです。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=USGG10YR%3AIND

【ドルの長期金利が下がった理由:海外からの米国債の買いの増加
】
米国の長期金利がなぜ、0.6ポイント(2.6%に対して26%)も下が
ったのか。FRBの短期金利の利上げにより、新興国から米国に還流
したドルと、中国の華人資本による「ドル買い/元売り」により、
米国の長期債が買われて国債価格が上がったからです。

(注)特に中国からは、1か月$1000億(12兆円)の速度で、民間
による「ドル買い/元売り」の資本流出が起こっています。

こうしたドル国債の買いのため、金利2.6%のドル10年債の価格は、
〔(1+2.6×10年)÷(1+1.7%×10年)=1.26÷1.17≒1.077〕
に上がったのです。残存期間10年の$100万の長期国債が、107.7万
へと7.7%も上がるのですから、大きな上げです。

(注)市中の金利は、国債価格で決まります。事例の2.6%の金利
の10年債($100万:残存期間10年)が、債券市場で買い超になっ
て$107.7万に上がると、長期金利は1.7%に下がります。わずかな
金利の変化で、長期債は大きく流通価格が変わるのです。

【2.ドルの長期国債が上がったので、ドルの長期金利は下がった】
ドルの国債価格が上がると、金利は下がります。上記のブルーム
バーグの金利チャートは、逆に見ると、米国の国債価格の上昇を示
すものになります。

FRB利上げ後、逆にドルの長期金利は下がったのです。原因は、
FRBによる利上げの中で、リスク資産(株)からドル国債に移動す
るマネーの動きが起こったからです。ドル国債が買われて価格は上
がり、長期金利は下がるという動きを生みました。

【3.ドルの長期金利が下がったため、
             ドル売り/円買いが起こった】
このドル金利の低下は、円に対しては「ドル売り/円買い」をもた
らし、FRBの利上げの後に、逆に円高になるという動きが生じたの
です。

FRBが短期金利を上げたのに、海外からのドルの長期債の買いが増
えて金利が下がり、ドルの長期金利の下落が0.6%と大きかったた
め、円に対しては、大きな円高になっています。

国際資金市場を動く過剰な流動性(マネー)が、以上のように、複
雑な動きを生んでいます。

■3.円と日本の株価の関係:「円安→株価上昇」、「円高→株価下
落」の同調

【1日80兆円の、円の売買がある】
世界の外為市場での通貨の売買は、1日に$5兆8290億(約700兆円
:2013年:BIS)です。これは年間ではなく、1日の売買高です。通
貨は、巨大に売買されています。

通貨別ではドルが1位(43%)、2位ユーロ(17%)ですが、円の構
成比も11.5%と高い。円は1日に〔700兆円×11.5%=80.5兆円〕も
売買されています。一方で東証での1日の株の売買額は3兆円です
(2016年1月:東証)。株の26倍以上の売買があるのが円です。こ
のため、円相場のほうから、株価相場に行く傾向が生じのです。

【日本の株式の売買では、70%を外人投資家が行っている】
日本株の売買3兆円のうち70%(2.1兆円)は、海外投資家(ヘッジ
ファンド等)のオフショアからの売買です。日本株が上がる週は、
オフショアからの3000億円~5000億円の買い越しがあります。これ
は、海外からの売買ですから、「円/ドル」の売買を伴うものにな
っています。

下がるときは、逆に2000億円から5000億円の売りになっています。
日本株は、残念ですが国内勢力(個人+金融機関+事業法人)の売買
は30%しかなく、海外からの売買で、価格が決まっている市場です。

以下は、株価が約20%下がった、2016年1月の投資主体別売買です。

【投資主体別の週間買い超/売り超
           :16年1月と2月の1週:単位億円】

   自己 個人   外人  信託 事業 他金融 (日経平均)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~
1週 -3764 5814   -4471  345  608  617   (-1337円)
2週 -2915 2566   -2109 1200  378  483   (-549円)
3週 -1165  277   -1902 1821  238  636    (-189円)
4週   207 -685   -2073 2707  -86  -93   (+560円)
1週  3078 1941   -6112  252  311  356   (-1984円)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合計 -4559 9913 -16667 6325  1449  1999  1万4952円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(注1)自己は証券会社の自己売買:個人は個人投資家:外人は外
人投資家:信託は信託銀行:事業は、事業法人:他金融は、銀行・
生保・他の金融機関、元データは東証。
http://www.ando-sec.co.jp/market/movement.html

(注2)証券会社の自己売買には、日銀による株ETFの売買に相当す
る現物株の売買分を含んでいます(年間3.3兆円の枠)。信託には、
年金基金による買いが含まれています(総枠25%:32.5兆円)。わ
が国株式市場は、2014年10月以降は、政府のPKO(価格維持作戦)
が大きくかかかった官製相場です。日経平均2万円超えは官製相場
がもたらしたものです。

◎上表を見れば明らかなように、年初来の外人の売り超(1兆6667
億円/5週)が、わが国の株価を20%下げた主因です。

【国内の個人投資家の売買は、逆張りの傾向】
700万人の国内個人投資家は「株価が上がる週は売り、下がる週は
買うという逆張り」をする傾向が強い。年初来、株価が大きく下が
る中で、個人は9913億円を買い越したのですが、この買い超は、下
がる株の買いですから、上げるものではない。

【官製相場の売買は信託銀行経由】
信託銀行は、公的年金基金と公務員共済年金の株式投資を受託して
います。これも下落への対抗としての6325億円の買い超ですが、外
人売りが強く、上げることはできなかったのです。

【株価は、70%の売買を行う外人投資家に依存】
外人が70%を占める売買構造からもわかるように、わが国の株式市
場は、上がるのも下がるのも、外国人投資家、新聞では投機筋と言
われるヘッジファンドの売買に依存しています。株の売買が海外か
らのものであるため、日本株の売買には、必ずほぼ同時に「外為市
場での円/ドルの売買」が関係しています。

【高速プログラム売買:100万分の1秒単位】
この日本株のプログラムによる高速売買は、わが国でも株式市場の
売買の60%以上を占めるように増えています。このHFT(100万分の
1秒単位の高速売買)では、「円高→日本株売り」、「円安→日本
株買い」としているのです。以上が1円の円高に、300円から400円
の日経平均下落が対応している理由です。

日本の、トヨタを筆頭にした主な上場企業(約1700社)の売上のう
ち平均で50%は海外です。輸出と海外での売上は、ドルで計算され
ます。このため、円安になると円換算での売上と利益が増え、円高
になると売上と利益が減る構造があります。2000年代は、海外事業
の売上が増えたため、円安/円高が、上場企業の利益をもっとも大
きく左右する要素になったのです。株価=次期予想純益×PER倍率
(13~17倍)です。

円高と予想されると、次期純益が減る予想になり、株価が下がるの
です。

わが国では、「円高→株価下落」、「円安→株価上昇」が、同調し
て、同時化しています。(注)休み明けの今日(2月15日:14:40
pm)は〔$1=113.9円〕の円安に戻り、日経平均は1万5872円へ
と、金曜日より円/ドルでのほぼ2.5円分(940円)上げています。
主因は政府の介入です。
http://nikkei225jp.com/chart/

2010年代では円高・円安が、株価を左右する構造ができあがってい
ます。それなら、その円高・円安は、何を織り込んで生じているの
か?

■4.日銀のマイナス金利の後、円高に向かった理由

利下げがあれば、その通貨は下がります。ましてやFRBは15年12月
にドルの利上げをし(12月16日)、その後に日銀は円をマイナス金
利にしました(1月29日)。普通なら金利が下がった円は、相当な
円安になるはずです。ところが実際は120円を大きく割り、一時は
110円にもなった円高です。

解くかぎは、FRBの利上げ後の、ドルの長期国債(10年債)の利回
り、つまり長期金利の変化にあります。ブルームバーグのグラフが
分かりやすい。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=USGG10YR%3AIND

         15年12月16日 16年1月1日 2月11日
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国の長期金利    2.30%     2.27%    1.66%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

FRBが0.25%の利上げを決めた日の長期金利(10年もの国債の利回
り)は、2.3%でした。3%くらいはあった米国にしては、低い金利
です。FRBが利上げをすれば、普通は長期金利も0.25%上がって、
2.55%くらいになるはずです。ところが金利の上昇はなく、16年1
月1日は2.27%でした。

そしてその後は、1.66%に向かって、逆に0.61%下げたのです。0.
61%gは大きな変化でないように見えます。しかしこの0.61%は2.
27%に対しては27%の変化であり大きい。

また現代金融は、信用借りを膨らませるレバレッジです。10倍のレ
バレッジで取引していれば、0.61ポイントの金利変化は、10倍の6.
1%に相当します。

申し上げたいのは、超低金利の時代には0.61ポイントの金利変化は
大変化です。FRBの利上げ(0.25%)のあと、ドルの長期金利は逆
に0.61ポイントも下がるという変化をしているのです。

どうしてこんなことが起こったのか? 理由は、以下の3つです。

(理由1)FRBの利上げの後、新興国に投資・投機されていたドルが、
新興国通貨を売って、米国回帰をしていること。そのドルで、長期
国債が買われ、価格が上がり、金利は下がっている。

(理由2)新興国のうち、もっとも大きな中国は、民間が、1ヵ月に
$1000億(12兆円)レベルの「ドル買い/元売り」を続けているこ
と。これは、中国からの資本流出です。このドルで、ドル国債が買
われていること。

(理由3)超低金利の日本の金融機関は、円国債を日銀に売って得
た円で、ドルの利回りのあるドル長期債を買っていること。

2016年は、ドル長期債への世界の需要が高まっているのです。国債
は買いの増加で利回りが下がります。長期債の利回りが、その国の
長期金利のベースになります。

加えて2016年は、年初から、原油・資源の下落を含んで、世界経済
と米国経済の低迷が予想されるようになってきました。このため、
2016年に予想されていた、米国FRBの4回の利上げ(3月、6月、9月、
12月の各0.25%)が後退し、むしろ、利下げや米国もマイナス金利
に向かうかもしれないという予想に変わってきています。

以上が、1月1日の米国長期金利2.27%が、2月11日には1.66%に下
げている理由です。

◎上がっているドルの長期国債を買った金融機関とファンドは、
16年3月と6月に予定されていたFRBの利上げの停止を織り込むと同
時に、逆の利下げやマイナス金利すらあるかもしれないと期待し始
めています。この期待(予想)が、上がった米国債を買わせていま
す。

FRBが利下げをすれば、米国債の流通価格は、今より上がります。
もし、数か月先にFRBの利下げがない情勢(米国景気の好転、原油
価格上昇、ドルの大きな下落)になると、ドル国債は売られて価格
は下がり、ドル金利は上がります。

国債の売買もレバレッジの投機で、売買差益を得る行為ですから、
安いとき(金利が高いとき)に買い、上がったとき(金利が下がっ
たとき)の売るという原則は、株価と同じです。

米国の利上げとともに、逆に、ドルの長期金利は2.27%から1.66%
に下がりました。日銀は1月29日に、マイナス金利(-0.1%)を導
入したのですが、米ドルの金利低下が大きかったので、逆に円買い
(円国債買い)が起こって、円は逆に、1ドル121円付近から110円
台に下がっています。

この円高のため、株価が20%以上下がったのです。株価は、円相場
の従属変数になっています。将来の、日米の金利を織り込む円相場
の変化で、株価が変化するということです。

【日本のマイナス金利に、拡大予想がある】
現在、円国債の金利は、1年債は-0.177%で、8年債(-0.006%)ま
でマイナス金利です。10年債でやっと0.013%であり、20年債で0.
824%です。現在の国債金利では、近い将来、日銀のマイナス金利
がマイナス1%にまで進むと予想されています。

金融機関は、マイナス金利で、発行額面より高い国債を買っていま
す。理由は、経済の停滞から、日銀は、マイナス金利を拡大するだ
ろう。マイナス金利が大きくなれば、国債価格は一層上がるという
期待が、金融機関にあるからです。つまり、すでにマイナス金利の
高い国債を買っている金融機関は、現在の国債価格に、2ヵ月ある
いは3ヵ月先の日銀による利下げ(マイナス金利の拡大)を織り込
んでいます。

【まとめ】
◎本稿では、金融商品(株、債券(国債・社債)、金利、デリバテ
ィブ証券)の売買において生じている「2ヵ月から3か月先のイベン
トの織り込みの現象」について書きました。

(1)株価、金利、国債価格が、現在の価格に何の要素を織り込ん
でいるかを見極める。
(2)価格に織り込まれた要素は、経済・金融情勢の変化によって、
今後、どう変わるかを予想する。

これが、金融商品の価格を予想するということです。

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<806号:新年号:
金と不換紙幣の戦いの本質を見極める(1)>
2016年1月6日:有料版

【目次】

1.1971年の金・ドル交換停止から
2.スミソニアン体制の崩壊から、世界は変動相場制へ(197年)
3.増刷できる不換紙幣が、世界が信用する基軸通貨であること
の利益
4.オイル・ショックは、ドルの価値の下落だった
5.金価格を敵視し続ける米政府とFRB
6.1970年代の、高いインフレ率
7.1980年の金価格高騰

【後記:HFTが促した新年の株価下落】

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<807号-2:改行版:
年初来の世界の株価下落と2016年の株価>
        2016年1月13日

【目次】
1.年初来の株価の変調
2.国際的な資金の、大きな動き
3.10年間を、3つの時期に分ける
4.資源輸出国の、SWF(国家ファンド)の運用資金の縮小
5.異次元緩和のジャパンマネーはどうなったのか
6.年初からの、世界の株価の同時下落
7.2016年の、日本株の下落と上昇の要素
8.後記:質問への回答:
米国のMBSの流通価格は回復したのか→若干の回復

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