特別号:金融当局の政策とは逆に動く通貨と株価
Written by admin on 2016年2月15日 – 10:00
おはようございます。年初来、世界の株価が、暴落と言える動きを しています。中国と新興国の成長の低下、FRBの利上げ、原油と資 源価格の急落、ユーロの不良債権とドイツ銀行の経営不安など、そ の都度の理由が言われます。 それぞれの理由が成立します。世界の株や通貨市場では、1億人以 上の参加者がいて、皆、それぞれの理由づけをした上での予想から 今日の売りか買いかを決めているからです。 この中で注目すべきは、米国FRBの利上げ(15.12.16)と、今年1月 29日からの日銀のマイナス金利政策にもかかわらず、通貨とドル金 利の相場が真逆に動いていることです。 【円とドルの、奇妙な動き】 昨年12月には〔$1=121~123円〕だった円は、マイナス金利の発 表後(1月29日~)、一時、111円の円高に転じました。政策的な利 下げがあったのに、円が急騰するという奇妙なことが起こったので す。 (注)ドルに対する1円の上昇は、日経平均株価では300円から400 円の下落に対応しています。10円で3000円から4000円です。 円高で株価が下がるのは、日本の株式市場の売買でほぼ70%を占め ている海外ファンドのHFT(High Frequency Trading:超高速売 買)が、「円高→日本株売り」、「円安→日本株買い」とプログラ ミングしているという要因が大きいでしょう。 ◎円が10円(8%)も上がると、円高という要因だけで、日経平均 で3000円から4000円(15%~20%)の下落になる傾向があります。 ドル/円の変動率の2倍から2.5倍の変化を日経平均はしているので す。 海外からの日本株の売買では、「円/ドル相場」が先に見えます。 日経平均CFD(差金決済取引)の、株価と円/ドル相場の、刻々と変 わるリアルタイム罫線の動き(10秒)を見ているとかります。相場 の動きは、「円/ドル相場→株価」です。先に円が変わります。通 貨の1円の変動に対して、日経平均が300円から400円という変化で す。 http://nikkei225jp.com/chart/ 現在は113.9円と、土曜日の政府・日銀の通貨介入(円の先物売 り)によって約3円、円安に戻してはいます(2月14日:午前)。 「円/ドル相場」はどう動いているのか。 ここを探求せねばならないでしょう。 【大きな疑問】 利下げは金融緩和ですから、普通なら通貨は下がります。日本の場 合、円安です。ところが今回、日銀のマイナス金利の決定とともに、 逆の円高に向かっています。なぜこんな現象が起こるのか? 121円から111円は10円(8.3%)という大きな変化であり、裏で数 十兆円の「ドル売り/円買いの超過」がないと起こりません。これ は、日経平均を3000円~4000円も変化させます。 生じているのは、金利が下がる円が買われ、金利が上がるドルが売 られるという逆転した動きです。なぜ、奇妙な現象が起こるのか。 【株価も、利下げとは逆の動き】 日本の株価も同じです。一般に、利下げ(つまり金融緩和)がある と株価は上がります。 【期待収益率と株価】 〔株価=企業の次期予想純益×PER倍率〕です。これは、〔株価= 企業の次期予想純益÷期待収益率〕に置き換えることができます。 この期待収益率は、PER倍率の逆数です(1÷PER倍率=期待収益 率)。次期予想純益に対するPERを15倍とした場合、15の逆数の期 待収益率は〔1÷15=6.67%〕になります。この意味は、市場は株 を買うとき、6.67%の利回りを期待しているということです。 金利が下がると、市場が株価に寄せる期待収益率は利下げの分、下 がります。このため企業の予想純益が同じでも、金融緩和があると 株価は上がります。 【日経平均の25%の暴落】 ところが日経平均(225種)は、2015年12月の水準だった約2万から、 2月12日(金曜日:終値)は1万4952円へと約5000円(25%)も下げ ています。(注)日曜日の午前の、日経平均先物は1万5477円へと 500円戻しています。 円と株価は、FRBの利上げと日銀のマイナス金利とまるで逆の動き です。この理由は何かを、探求するのが本稿です。 理由を考えるのは、今後の予想に当たって、素材になるものを決め るためです。 【ご案内】 昨年12月に新刊になった拙著、『膨張する金融資産のパラドックス (矛盾)』は、金融資産(=金融負債)が、所得とGDPの増加より 大きいことが8年から10年から15年続くと、増えた貸付けの不良化 から、次の大きな金融危機がサイクル的に起こることを論証したも のです。 今回の通貨の動き、株価の下落、ドイツ銀行の危機に象徴される ユーロの危機も予測していると気がつきましたので、改めてご案内 します。自己宣伝ではありますが、皆さんの参考になると思います。 (アマゾンへのリンク) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.352:特別号:金融当局の政策とは逆に動く通貨と株価> 2016年2月15日:無料版特別号 【目次】 1.織り込みという現象の増加 2.円、株価、金利(国債価格)の動きの解釈 3.円と日本の株価の関係:「円安→株価上昇」、「円高→株価下 落」の同調 4.日銀のマイナス金利の後、円高に向かった理由 【過去の有料版の目次案内】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.織り込みという現象の増加 【織り込み現象の増加】 最初に結論を言うと、世界的に過剰な流動性(マネーの量)と、大 きくなったファンド・マネーのため、通貨・株・債券・金利を売買 する金融市場で、「織り込みの現象」が強くなっていることです。 ◎(定義)織り込みとは、相場に影響のある将来の要因を、市場の 主要なプレーヤーが「起こったものと仮想」して売買し、それが現 在の価格に反映されることです。 (1)例えば、米国FRBによる、ほぼ2か月後の利上げが確実である と市場の多数派が予想しているとします。 ↓ (2)そうすると、世界の外為市場では、ほぼ2ヵ月後の利上げを織 り込んで、ドル買い(=他の通貨売り)が増え、利下げはまだして いない今日のドルが上がります。 つまり、多数派の将来予想が通貨、株価、債券価格(国債や社債)、 そして金利の、今日の相場に反映します。これが織り込みです。 【織り込みが起こる理由】 織り込みが起こる理由は、金融商品(通貨、株、債券、金利、デリ バティブ証券)の売買は、売買差益であるキャピタルゲインの利益 を目的にしたものだからです。 株を買う目的は、会社の経営に参加することではない。経営には興 味がない。株の売買で利益を出すことです。利益は〔売る価格-買 った価格〕です。 安いときに買い、高いときに売ることが、株を買う人が目的にして いることです。同じ金融商品である通貨、債券(国債や社債)、金 利、デリバティブ証券においても同じです。 ▼織り込みの実際 【原則1】将来の予想を、現在の価格に織り込む行動 安いとき買うには、2ヵ月から数か月先の、株価を上げる要因(次 期予想純益、商品需要の増加、通貨、金利)が予想はされているが、 まだ株価は上がっていない時期に買わねばならない。 通貨でも同じです。ドルの売買では、ドルを上げる要因が実現して ない時期に買う必要があります。 雇用、景気、中国のドル売り(外貨準備の売り)の動きから見て、 2015年12月16日のFRBの利上げは、確実になったと予想できる。 ・現在は10月であり金利はまだ上がっていない。 ・しかし12月のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げが決定すれば、 ドルが買われて上がるだろうと予想できます。 金融商品の売買で利益を出すには、安いときに買い、高いときに売 らねばならない。実際の利上げの前後にはドルは買われて上がるだ ろう。上がったあとのドルを買っても意味はない。 金利はまだ上がっていない。予想される利上げがまだ確定してはい ない現在(15年10月~11月)がドルを買う機会になるだろう。 事実、米ドルは、利上げ確定前の2015年10月中旬から11月にかけて 買い超が起こり、実際に上がったのです(後述)。 【原則2】この織り込み現象があると、影響する要因が実現する前 後から、価格は逆に動く 利上げなどの、金融商品の価格に影響を及ぼす要因が実現したとき や実現が確実になったときは、どうなるか。 【最近のドル指数での、織り込みの確認】 織り込み現象がある金融商品の場合、利上げ前に上がっていたドル は、利上げ前後には利益確定のために売られるものが増え、逆に下 がる動きになることが多い。(事例:ドル指数) http://jp.investing.com/quotes/us-dollar-index-advanced-chart 上記のドル指数(世界の通貨に対する実効レート)でのドル価格を 見てください。2015年12月1日に100に高くなっていたドル指数は、 12月16日の利上げを決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の前に、 98に下がっています。 15年10月、11月には、利上げ予想からドル高を予想して買い超にな っていたドルが、早々と利上げ前の12月3日から利益確定の売りた めに、売り超に転じたからです。 こうした動きが起こるのは、相場を主導しているヘッジファンド等 が安いときに買ったものを(10月、11月)、高くなったときに売っ ているからです(12月)。 あらゆる金融商品の、相場の価格は売買で決まります。上がるとき は買いが増えて買い超になっていて、下がるときは売りが増えて売 り超になっています。 【織り込みが剥がれた後は、更に将来の2、3か月を予想した次の織 り込みへ】 2015年12月に利上げされた後のドルは、今度は、2016年3月のFOMC (連邦公開市場委員会)による金利政策がどう向かうかの予想で動 くように、変わります。 2015年12月16日のFOMCの時点では、FRBの議長は、景気次第ではあ っても、2016年に年4回(0.25%×4回=1%)の利上げに向かうと 示唆していました。 【起こった変化】 ところが年初からの、中国株ショック、原油資源安、新興国の成長 率低下(投資の引揚げ)から、世界の株価は全面安の様相を呈しま す。このとき16年3月のFRBの利上げはないという市場の見方に転じ ます。 2016年の世界景気の低迷予想が浮上し、16年6月のドルの利上げも ないだろうという見方に転じたのです。 このため、年初のドル指数(実効レート:98~99.5)は、日銀のゼ ロ金利突入後に、96付近にまで下げたのです(16年2月12日)。 【まとめ】 2015年10月から2016年2月までの、世界の通貨に対するドル指数の 動きは、「2か月くらい先のFRBの金融政策」を予想した価格織り込 みの行動です。 このため利上げでドルが下がり、利下げ予想でドルが上がるような、 逆の動きになります。 繰り返せば、金融商品の売買の目的は、価格差のキャピタルゲイン を得ることです。このため、安いうちに買って、高くなれば売る 「織り込み」の行動が増えているのです。 ■2.円、株価、金利(国債価格)の動きの解釈 金融政策が、以前より注目されるのは、マネー量の増加によって多 様になっている金融商品(通貨、株価、金利、債券、デリバティブ 証券)を動かしているからです。 1990年代まで外為の売買をする人は、少なかった。今、個人のFX (レバッジがかかる外国為替証拠金取引:口座数で約150万)も日 常化しています。 株式取引では、総口座数は4500万ですが、同じ人を名寄せしが上で、 売買の活動している人は700万人と言われます。 (注)欧米の新聞で、Mrs.ワタナベと言われるのは、日本人の個人 投資家のことです。 ▼円と金利(国債価格)と株価の動き 次は、昨年の12月から現在までの、円、長期金利、日経平均での織 り込み現象を見ていきます。円と日経平均も、ドルと同じように、 マイナス金利とは、逆の動きをしているのです。 【日本】 15年12月 16年2月1日 2月14日 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ・ドル/円 120.5円 121.1円 113円 ・長期金利 0.25% 0.22% -0.03% ・日経平均 1万8982円 1万8000円 1万5777円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (注)2月14日のドル/円と日経平均は、日曜日の午後6:30時点で す。 ▼ドル/円の、奇妙な動きの背景 まず円ですが、15年12月に〔$1=122円付近〕だった円は、FRBの 利上げ後、まず117円にまで5円の円高になりました(16年1月21 日)。 ドルの利上げで、円安になるべき円が、円高(ドル安)に向かった のです。この間、世界の通貨に対するドル指数は99付近であり、変 化はありません。つまりFRBの利上げ後、普通なら下がるべき円が 上がったのです。 なぜこういったことが起こったのか。 【1.利上げにもかかわらず、米国の長期金利は下げた】 FRBによるFF金利(銀行間の短期金利)の利上げの後、上がるべき 米国の長期金利は、逆に2.3%(12月29日)から1.7%(2月10日) に向かって下がったからです。 http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=USGG10YR%3AIND 【ドルの長期金利が下がった理由:海外からの米国債の買いの増加 】 米国の長期金利がなぜ、0.6ポイント(2.6%に対して26%)も下が ったのか。FRBの短期金利の利上げにより、新興国から米国に還流 したドルと、中国の華人資本による「ドル買い/元売り」により、 米国の長期債が買われて国債価格が上がったからです。 (注)特に中国からは、1か月$1000億(12兆円)の速度で、民間 による「ドル買い/元売り」の資本流出が起こっています。 こうしたドル国債の買いのため、金利2.6%のドル10年債の価格は、 〔(1+2.6×10年)÷(1+1.7%×10年)=1.26÷1.17≒1.077〕 に上がったのです。残存期間10年の$100万の長期国債が、107.7万 へと7.7%も上がるのですから、大きな上げです。 (注)市中の金利は、国債価格で決まります。事例の2.6%の金利 の10年債($100万:残存期間10年)が、債券市場で買い超になっ て$107.7万に上がると、長期金利は1.7%に下がります。わずかな 金利の変化で、長期債は大きく流通価格が変わるのです。 【2.ドルの長期国債が上がったので、ドルの長期金利は下がった】 ドルの国債価格が上がると、金利は下がります。上記のブルーム バーグの金利チャートは、逆に見ると、米国の国債価格の上昇を示 すものになります。 FRB利上げ後、逆にドルの長期金利は下がったのです。原因は、 FRBによる利上げの中で、リスク資産(株)からドル国債に移動す るマネーの動きが起こったからです。ドル国債が買われて価格は上 がり、長期金利は下がるという動きを生みました。 【3.ドルの長期金利が下がったため、 ドル売り/円買いが起こった】 このドル金利の低下は、円に対しては「ドル売り/円買い」をもた らし、FRBの利上げの後に、逆に円高になるという動きが生じたの です。 FRBが短期金利を上げたのに、海外からのドルの長期債の買いが増 えて金利が下がり、ドルの長期金利の下落が0.6%と大きかったた め、円に対しては、大きな円高になっています。 国際資金市場を動く過剰な流動性(マネー)が、以上のように、複 雑な動きを生んでいます。 ■3.円と日本の株価の関係:「円安→株価上昇」、「円高→株価下 落」の同調 【1日80兆円の、円の売買がある】 世界の外為市場での通貨の売買は、1日に$5兆8290億(約700兆円 :2013年:BIS)です。これは年間ではなく、1日の売買高です。通 貨は、巨大に売買されています。 通貨別ではドルが1位(43%)、2位ユーロ(17%)ですが、円の構 成比も11.5%と高い。円は1日に〔700兆円×11.5%=80.5兆円〕も 売買されています。一方で東証での1日の株の売買額は3兆円です (2016年1月:東証)。株の26倍以上の売買があるのが円です。こ のため、円相場のほうから、株価相場に行く傾向が生じのです。 【日本の株式の売買では、70%を外人投資家が行っている】 日本株の売買3兆円のうち70%(2.1兆円)は、海外投資家(ヘッジ ファンド等)のオフショアからの売買です。日本株が上がる週は、 オフショアからの3000億円~5000億円の買い越しがあります。これ は、海外からの売買ですから、「円/ドル」の売買を伴うものにな っています。 下がるときは、逆に2000億円から5000億円の売りになっています。 日本株は、残念ですが国内勢力(個人+金融機関+事業法人)の売買 は30%しかなく、海外からの売買で、価格が決まっている市場です。 以下は、株価が約20%下がった、2016年1月の投資主体別売買です。 【投資主体別の週間買い超/売り超 :16年1月と2月の1週:単位億円】 自己 個人 外人 信託 事業 他金融 (日経平均) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~ 1週 -3764 5814 -4471 345 608 617 (-1337円) 2週 -2915 2566 -2109 1200 378 483 (-549円) 3週 -1165 277 -1902 1821 238 636 (-189円) 4週 207 -685 -2073 2707 -86 -93 (+560円) 1週 3078 1941 -6112 252 311 356 (-1984円) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 合計 -4559 9913 -16667 6325 1449 1999 1万4952円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (注1)自己は証券会社の自己売買:個人は個人投資家:外人は外 人投資家:信託は信託銀行:事業は、事業法人:他金融は、銀行・ 生保・他の金融機関、元データは東証。 http://www.ando-sec.co.jp/market/movement.html (注2)証券会社の自己売買には、日銀による株ETFの売買に相当す る現物株の売買分を含んでいます(年間3.3兆円の枠)。信託には、 年金基金による買いが含まれています(総枠25%:32.5兆円)。わ が国株式市場は、2014年10月以降は、政府のPKO(価格維持作戦) が大きくかかかった官製相場です。日経平均2万円超えは官製相場 がもたらしたものです。 ◎上表を見れば明らかなように、年初来の外人の売り超(1兆6667 億円/5週)が、わが国の株価を20%下げた主因です。 【国内の個人投資家の売買は、逆張りの傾向】 700万人の国内個人投資家は「株価が上がる週は売り、下がる週は 買うという逆張り」をする傾向が強い。年初来、株価が大きく下が る中で、個人は9913億円を買い越したのですが、この買い超は、下 がる株の買いですから、上げるものではない。 【官製相場の売買は信託銀行経由】 信託銀行は、公的年金基金と公務員共済年金の株式投資を受託して います。これも下落への対抗としての6325億円の買い超ですが、外 人売りが強く、上げることはできなかったのです。 【株価は、70%の売買を行う外人投資家に依存】 外人が70%を占める売買構造からもわかるように、わが国の株式市 場は、上がるのも下がるのも、外国人投資家、新聞では投機筋と言 われるヘッジファンドの売買に依存しています。株の売買が海外か らのものであるため、日本株の売買には、必ずほぼ同時に「外為市 場での円/ドルの売買」が関係しています。 【高速プログラム売買:100万分の1秒単位】 この日本株のプログラムによる高速売買は、わが国でも株式市場の 売買の60%以上を占めるように増えています。このHFT(100万分の 1秒単位の高速売買)では、「円高→日本株売り」、「円安→日本 株買い」としているのです。以上が1円の円高に、300円から400円 の日経平均下落が対応している理由です。 日本の、トヨタを筆頭にした主な上場企業(約1700社)の売上のう ち平均で50%は海外です。輸出と海外での売上は、ドルで計算され ます。このため、円安になると円換算での売上と利益が増え、円高 になると売上と利益が減る構造があります。2000年代は、海外事業 の売上が増えたため、円安/円高が、上場企業の利益をもっとも大 きく左右する要素になったのです。株価=次期予想純益×PER倍率 (13~17倍)です。 円高と予想されると、次期純益が減る予想になり、株価が下がるの です。 わが国では、「円高→株価下落」、「円安→株価上昇」が、同調し て、同時化しています。(注)休み明けの今日(2月15日:14:40 pm)は〔$1=113.9円〕の円安に戻り、日経平均は1万5872円へ と、金曜日より円/ドルでのほぼ2.5円分(940円)上げています。 主因は政府の介入です。 http://nikkei225jp.com/chart/ 2010年代では円高・円安が、株価を左右する構造ができあがってい ます。それなら、その円高・円安は、何を織り込んで生じているの か? ■4.日銀のマイナス金利の後、円高に向かった理由 利下げがあれば、その通貨は下がります。ましてやFRBは15年12月 にドルの利上げをし(12月16日)、その後に日銀は円をマイナス金 利にしました(1月29日)。普通なら金利が下がった円は、相当な 円安になるはずです。ところが実際は120円を大きく割り、一時は 110円にもなった円高です。 解くかぎは、FRBの利上げ後の、ドルの長期国債(10年債)の利回 り、つまり長期金利の変化にあります。ブルームバーグのグラフが 分かりやすい。 http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=USGG10YR%3AIND 15年12月16日 16年1月1日 2月11日 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 米国の長期金利 2.30% 2.27% 1.66% ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ FRBが0.25%の利上げを決めた日の長期金利(10年もの国債の利回 り)は、2.3%でした。3%くらいはあった米国にしては、低い金利 です。FRBが利上げをすれば、普通は長期金利も0.25%上がって、 2.55%くらいになるはずです。ところが金利の上昇はなく、16年1 月1日は2.27%でした。 そしてその後は、1.66%に向かって、逆に0.61%下げたのです。0. 61%gは大きな変化でないように見えます。しかしこの0.61%は2. 27%に対しては27%の変化であり大きい。 また現代金融は、信用借りを膨らませるレバレッジです。10倍のレ バレッジで取引していれば、0.61ポイントの金利変化は、10倍の6. 1%に相当します。 申し上げたいのは、超低金利の時代には0.61ポイントの金利変化は 大変化です。FRBの利上げ(0.25%)のあと、ドルの長期金利は逆 に0.61ポイントも下がるという変化をしているのです。 どうしてこんなことが起こったのか? 理由は、以下の3つです。 (理由1)FRBの利上げの後、新興国に投資・投機されていたドルが、 新興国通貨を売って、米国回帰をしていること。そのドルで、長期 国債が買われ、価格が上がり、金利は下がっている。 (理由2)新興国のうち、もっとも大きな中国は、民間が、1ヵ月に $1000億(12兆円)レベルの「ドル買い/元売り」を続けているこ と。これは、中国からの資本流出です。このドルで、ドル国債が買 われていること。 (理由3)超低金利の日本の金融機関は、円国債を日銀に売って得 た円で、ドルの利回りのあるドル長期債を買っていること。 2016年は、ドル長期債への世界の需要が高まっているのです。国債 は買いの増加で利回りが下がります。長期債の利回りが、その国の 長期金利のベースになります。 加えて2016年は、年初から、原油・資源の下落を含んで、世界経済 と米国経済の低迷が予想されるようになってきました。このため、 2016年に予想されていた、米国FRBの4回の利上げ(3月、6月、9月、 12月の各0.25%)が後退し、むしろ、利下げや米国もマイナス金利 に向かうかもしれないという予想に変わってきています。 以上が、1月1日の米国長期金利2.27%が、2月11日には1.66%に下 げている理由です。 ◎上がっているドルの長期国債を買った金融機関とファンドは、 16年3月と6月に予定されていたFRBの利上げの停止を織り込むと同 時に、逆の利下げやマイナス金利すらあるかもしれないと期待し始 めています。この期待(予想)が、上がった米国債を買わせていま す。 FRBが利下げをすれば、米国債の流通価格は、今より上がります。 もし、数か月先にFRBの利下げがない情勢(米国景気の好転、原油 価格上昇、ドルの大きな下落)になると、ドル国債は売られて価格 は下がり、ドル金利は上がります。 国債の売買もレバレッジの投機で、売買差益を得る行為ですから、 安いとき(金利が高いとき)に買い、上がったとき(金利が下がっ たとき)の売るという原則は、株価と同じです。 米国の利上げとともに、逆に、ドルの長期金利は2.27%から1.66% に下がりました。日銀は1月29日に、マイナス金利(-0.1%)を導 入したのですが、米ドルの金利低下が大きかったので、逆に円買い (円国債買い)が起こって、円は逆に、1ドル121円付近から110円 台に下がっています。 この円高のため、株価が20%以上下がったのです。株価は、円相場 の従属変数になっています。将来の、日米の金利を織り込む円相場 の変化で、株価が変化するということです。 【日本のマイナス金利に、拡大予想がある】 現在、円国債の金利は、1年債は-0.177%で、8年債(-0.006%)ま でマイナス金利です。10年債でやっと0.013%であり、20年債で0. 824%です。現在の国債金利では、近い将来、日銀のマイナス金利 がマイナス1%にまで進むと予想されています。 金融機関は、マイナス金利で、発行額面より高い国債を買っていま す。理由は、経済の停滞から、日銀は、マイナス金利を拡大するだ ろう。マイナス金利が大きくなれば、国債価格は一層上がるという 期待が、金融機関にあるからです。つまり、すでにマイナス金利の 高い国債を買っている金融機関は、現在の国債価格に、2ヵ月ある いは3ヵ月先の日銀による利下げ(マイナス金利の拡大)を織り込 んでいます。 【まとめ】 ◎本稿では、金融商品(株、債券(国債・社債)、金利、デリバテ ィブ証券)の売買において生じている「2ヵ月から3か月先のイベン トの織り込みの現象」について書きました。 (1)株価、金利、国債価格が、現在の価格に何の要素を織り込ん でいるかを見極める。 (2)価格に織り込まれた要素は、経済・金融情勢の変化によって、 今後、どう変わるかを予想する。 これが、金融商品の価格を予想するということです。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述のとき、より的確に書く参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、多くの希望がある共通のものは記事に反映 させるよう努めます。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 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