特別号:世界の株価バブルは、はじけたのか(3)
This is my site Written by admin on 2022年2月20日 – 17:00
先週送った<447号:特別号:世界の株価バブルは、はじけたのか
(2)>に続く(3)です。有料版の主要部を更新し、3回に分けて送
っています。有料版は、水曜日に定期送信しています。

米国、つぎに欧州でインフレ予想からの金利上昇が明確になりました。
インフレに連動する金利には、2種類があります。
(1)金融市場の金利(=民間銀行間の、債券の売買で決まる金利)
(2)政府・中央銀行が景気対策として債券市場の売買に介入し、政
策的に作る金利

2020年3月からのコロナ危機のあと、世界の政府は財政支出を拡大し
ました。財源は、赤字国債の発行によって賄(まかな)われたのです。
巨額な国債を発行すれば、銀行に買い受け難が生じ、債券市場の金利
は上がります。金利が上がると、コロナ後の減っていた需要と投資の
更なる縮小を招きます。(注)債券市場は、金融機関の間で国債、地
方債、社債の売買を行うものです。株式市場のようには、一般には見
えない。

債券市場の金利を上げないため、中央銀行(日・米・欧)は、増発さ
れた国債を買い取って、通貨の振り込みを増やし(銀行の当座預金の
増加)、減った需要と投資を増やすための金利を0%に誘導したので
す(これが10兆ドルの量的緩和です)。

日米欧の中央銀行が、20年3月からのコロナ危機で増加発行したマ
ネーは、10兆ドル(1150兆円)にのぼります。国債を主にする債券の
価格を上げることにより、金利を下げるとともに、株式市場に流れて
「経済危機の中での株価高騰」を演出しました。増発されたマネーで
買われたMYダウは1.8倍、欧州のFTSE100は1.5倍、日経平均も1.7倍に
上がったのです。
(世界の中央銀行の資産規模と株価)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000067873.html

政府・中央銀行にとって都合の悪い異変は、21年4月からの米国の消
費者物価(CPI)の上昇として現れました。21年4月4.2%、5月5.0%、
6月.5.4%、7月5.4%、8月5.3%でした。米国の物価の基礎である住
宅価格と中古車の価格も上がったのです。

資源・穀物価格の基礎になる原油価格も、コロナ後の1バーレル40ド
ルから80ドルに上がり、現在は95ドル付近で波動しています。なお、
米国の物価目標は2%です。発電に使う天然ガスは、不足が激しい欧
州では20倍に上がっています。

【FRBの物価予想での誤り】
米国FRBは21年8月の、ジャクソン・ホール会議では、「物価の上昇は
一時的である」として、金融緩和(利下げと量的緩和)を続けるとし
ていました。ところが21年9月の物価(CPI)が5.4%、10月6.2%、
11月6.8%、12月7.0%、22年1月には7.5%と上がるのを見て、22年3
月から、まず利上げをして(0.25%の7回から8回:+2.0%)、増やし
すぎたマネー量の縮小も2022年中には行う姿勢を示したのです(22年
1月)。
https://info.finance.yahoo.co.jp/fx/marketcalendar/detail/9052

1980年の第二次石油危機以来、原油・資源・穀物価格の上昇をともな
って40年ぶりの、全体的でしかも高い物価上昇になったからです。

【コロナより物価上昇からの政権非難】
40年、高いインフレ率の経験がない50歳代以下の消費者は、「バイデ
ン政権への非難」を強めています。株価が上がるのはいい、しかし物
価の上昇は、生活に困るからです。(注)コロナ後には米国の賃金も
5%上がっています。ただし、日本では0.2%の上昇でしかない。
(米国の)CPI)

欧州(EU)の物価も5.3%上がり(22年1月)、日本より低いマイナス
の利回り(-0.4%:21年12月)だったドイツの10年債の金利は0.3%
へと0.7%ポイントも上がっています。インフレは国債と社債の価格
を下げて、金利を上げます。0.7ポイントの金利の上昇により、財政
への信頼が世界1高いドイツの10年債が7%も価格が下がったのです。
[1+(-0.4%×10年]÷(1+0.3%×10年)=0.96÷1.03=0.93・・・
価格が7%下落。
国債価格が、一挙に7%も下がることは、国債をもつ銀行にとって
「大変な事態」です。
(ドイツの10年債の金利)
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/de10yt.html

【インフレのあとを追って上がる金利】
金利は、債券市場での、金融機関の間の国債の売買価格によって作る
金利を、中央銀行の金融政策はあと追いして、上がって行きます。

【日本の物価は、米国の8か月遅れ】
日本のCPIの上昇は、22年1月で0.5%です。原因は、米欧に比べた需
要の弱さです。その需要の弱さは、所得が上がっていない、むしろ下
がっていることから来ています。国際貿易財(資源・エネルギー・穀
物・食肉)の輸入物価は日本だけが低いわけではない。米国や欧州と
同じように上がっています。輸入物価は前年比41.9%も上がり(21年
12月)、輸入物価が原材料になる国内企業物価は8.5%上がっていま
す(21年12月)。

しかし、消費者物価の上昇は、価格を上げると需要が減るのではない
かという卸売業と小売業の恐れから、仕入価格の上昇を価格に転嫁で
きていないのです。根本の原因は「世帯所得の停滞と減少」です。米
国は賃金が5%上がっていても、日本の賃金は0.2%しか増えていない
からです。

しかし、0.5%とされるCPIの上昇は、実際は、2.0%と見なければな
らない。2021年の菅内閣で、8000円携帯台だった電話の料金がほぼ半
分に下がり、これが1.5%ポイントもCPIを押し下げているからです。
これは1回限りですから、22年3月以降は、日本のCPIも3月から1.0%、
1.5%、2.0%、3.0%くらいまでは上がっていくでしょう。日本も、
1980年以来、40年ぶりに「店頭物価が上がるインフレの時代」になり
ました。

【日銀の、不適切な適切な緩和政策】
こうした先行きのインフレに対し、日銀は、「10年債を無限に買って、
長期金利を0.25%以上には上げない」という金融抑制策を発表しまし
た(22年2月)。このため10年債の金利は0.25%以下に下がったので
すが、短期債と、10年以上の長期債の金利は上がっているのです。日
銀は、物価の上昇を「短期的」としています。

本稿は、「世界インフレ→金利上昇→国債価格の下落と、株価バブル
の崩壊」の(3)です。20ページあります。じっくり読んでください。

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<Vol.448:特別号:世界の株価バブルは、はじけたのか(3)>
      2022年2月20日:無料版

【目次】
■1.シラーP/Eの暴落は140年間で4回だった:
  インフレになった2022年が、5回目になるのか?
■2.米国株暴落論の概要(米国のメディアから総合的に)
■3.1月下落は織り込みの株価調整だという論の概要(投資家より)
■4.カギは、米国の2022年1月から3月のインフレ率
・前号はここまででした。

~~~~~~
以降が、本号です、

■5.輸入物価を示す、実効レートのドル
■6.円の実効レートは47%下がったがインフレにならなかった
: 理由は、商品を店頭で買う、世帯所得の低下である

■7.日本の世帯所得が下方シフトするなかで、株価は金融的な上昇
■8.生活意識の調査(=世帯の心理):日銀
■9.過剰流動性以外に、米国株の高騰をもたらした要素
■10.不確定な要素である、2022年3月以降の米国CPI
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■5.輸入物価を示す実効レートのドル

世界の通貨に対する実効レートでみると、1985年(プラザ合意直前)
には、155だったドルの指数(緑の線)は、2012年には95へと、61%
に下がっています。
(ドル、ユーロ、人民元、円の4大通貨の実効レート)
http://honkawa2.sakura.ne.jp/5072.html

【2012年からのアベノミクス以後の、円安】
2012年からは、日本の、円安になる異次元緩和が始まり(8年で500兆
円の円の増発)、円が105から80まで、24%下がったため相対的に、
ドル高(95→120:26%上昇)になったのです。

◎米国をインフレにしてきた主因である、米ドルの価値下落は、
1995年以降の人民元の上昇(1995年65→2021年125:92%上昇)によ
って、分かります。

米国の輸入がもっとも多い中国の商品価格が、趨勢的な人民高(=ド
ル安)で、2倍以上に上がったという意味です。これが1年平均2.8%
で、米国CPIを上げてきた主因です。

【原因を見る:ドル、円、人民元の実効レートの長期変化】
1970年から1995年までのドルは、その時期の輸出超過国の円に対して、
実に、25%(1/4)に下がりました。(円60→155:2.6倍:ドル155→
100:0.65倍・・・・ドル0.65倍÷円2.6倍=0.25)。

1995年以前は、人民元は国際社会に登場せず、「ドル安=円高」の一
方的な25年間でした。
25年で1/4に下がったドル安(円高)は、驚異的なものでした。
http://honkawa2.sakura.ne.jp/5072.html

ところが、「ドル/円」が79円のピークを付けた1995年から日本に代
わったのが、一国二制度として経済を、国際的に開放した中国(人民
元)の輸出超過です。

◎1995年に実効レートが65だった人民元は、大きな輸出超過を続けた
ので、2021年には125へと1.9倍に上がっています。

一方で、基軸通貨とされる米ドルの実効レートは、1995年が100、
2021年は120です(1.2倍)。

1995年の中国の経済開放から、
・米ドルは、円に対しては、上がりましたが、
・日本に代わって輸出超過になった人民元に対しては、「1.2÷1.9=
0.63」に下がったのです。

これが、米国の、1995年からのインフレの主因です。米国店頭に多く
並ぶ中国製品のドル価格が、輸入商品の人民元の上昇により、毎年、
少しずつ上がって、店頭物価の全体を上げてきたのです。

【2013年以降、米国もディスインフレだった】
2013年からは、今度は、
・中国の、GDPの上昇率の低下から、
・人民元に比例するドルの上昇があり、
米国のインフレ率は、下がりました。

2013年からのドル高のため、米国の物価上昇は2013年以前より低い、
ディスインフレの8年になったのです(~2021年)。

■6.円の実効レートは47%下がったが、インフレにならなかった
:その理由は、商品を店頭で買う、世帯所得の低下である

円の実効レートは、1994年の150(円高)から2021年の80(円安)ま
で47%も下がりました。

その後の日本が、米国のようなインフレ(CPIが2%から3%上昇)に
ならなかったのは、消費財(衣食住+家電+通信+電力)を買う世帯所
得が下がって、商品の購買を増やさなかったからです。

このため、2000年以降の企業は、コストが上がっても、約20年間、売
価を上げることはできなくなっていました。価格を少しでも上げれば、
売れなくなるという恐怖からです。

【米国では、世帯所得が下がった日本と違い、
               名目賃金の上昇が続いた】
日本では世帯所得が減ったことが、物価が上がらない原因でした。

・年収が200万円付近の、非正規雇用の30%への増加、
・250万円付近の年金生活者の増加、
・中小企業賃金の、上昇のなさのため、
名目の平均賃金(≒共稼ぎ70%で世帯所得)の下落したのです。

米国では、日本と逆に、労働者の時間賃金は、1年平均で3%くらい上
がっていました。このため世帯所得が増え、消費も増え、物価も上が
ったのです。

【(補注)実効レートの意味】
紹介されることが少ない「実効レート」は、世界58カ国の通貨バスケ
ットに対する。自国通貨の、長期指数です。
世界の通貨に対する、自国通貨の価値の変化が分かります。
http://honkawa2.sakura.ne.jp/5072.html

毎日報道がある「ドル/円」のペアだけでは、円の価値、ドルの価値
は分からない。ドルの実効レートが下がり円も同じ率、下がると、
「ドル/円」のレートに変化がないからです。

◎日本政府も、米国の相対的な地位が年々下がってきた多極化の世界
では、「ドル/円」のペアから卒業し、円の評価指標として、この実
効レートを採用すべきです。

■7.日本の世帯所得の、下方シフトのなかで、株価は金融的な上昇

アベノミクスの量的緩和(500兆円)は、
・賃金が上がらないなかで、
・日本の円を、30%もの円安にしてきたことが分かるでしょう。
(注)上記の実効レートでは、円は、2012年 100→2015年 70

日本の世帯は、
・1995年から、所得(円ベース)の下落が続き、
・8年間の円安も重なって、貧困になってきました。

日本が、安倍政権の8年間で、500兆円の円を増やした異次元緩和でも、
インフレにならなかった理由である「所得階級別の世帯数の変化」を、
以下に示します。

(注)大きな量的緩和を実行すれば、経済(GDP)が成長するという
MMT(現代貨幣論)は、国債残がGDPの2.3倍と、世界1多い日本では誤
った理論です。

【国民生活基礎調査の、所得データ】
データは、厚労省の国民生活基礎調査からです。
メディアは、これを取りあげないので、多くの人が知ればびっくりす
るでしょう。

円安と異次元緩和の日本の物価が、米国のように約3%/年上がること
ができなかったのは、消費額を決める世帯所得が減ってきたからです。
下の表を見てください。

【所得階級】【1995年の世帯数構成】【同:2017年】 【増減】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  0~150万円    8.6% →  12.8%   49%(↑)
 150~300万円   13.8% →  20.6%   49%(↑)
 300~450万円   16.6% →  19.4%   17%(↑)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 450~600万円   15.0%  →  12.8%   -15%(↓)
 600~750万円   13.8% →  13.9%   0.7%(→)
 750~900万円   10.0% →   7.4%   -26%(↓)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 900~1100万円    8.3%      7.2%  -13%(↓)
1100~2000万円   12.1%      7.8%   -34%(↓)
 2000万円~     1.9%      1.9%    ±0%(→)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450061&tstat=000001129675&cycle=7&tclass1=000001130605&tclass2val=0
↑国民生活基礎調査(厚労省)のデータから上記の表を筆者が作成。

【直近22年間の、世帯所得階級の変化】
(1)1995年と2017年の世帯所得の比較で、増えたのは、平均所得以
下の、年収が450万円以下の世帯(合計世帯構成比52.8%)です。

◎消費力が低く、貯蓄力もない世帯といえる「年収300万円未満」は、
・1995年の22.4%(5世帯に1世帯)から、
・2017年には33.4%(3世帯に1世帯)に増えています。
増加率は49%と大きい。1.5倍に増えたのです。

家族のある世帯なら「日本ではタブーの言葉である貧困」といえる所
得の世帯が、最近の22年間で、3世帯に1世帯に増えているということ
です。しかし「ビンボー」という言葉は久しく聞きません。

生活保護世帯や非正規雇用の世帯に対して、「所得が下位1/5の貧困
層」ともいわない。事実を露骨に示す言葉は、日本の社会意識では嫌
われるからでしょう。自主規制される差別用語になるのか。生活保護
は、日本では204万人(人口の1.6%)と、極めて少ない。

この生活保護は、人口が日本の66%のドイツでは、
・日本より平均賃金が1.7倍も高いなかで、日本の約3倍の793万人
(利用率9.7%)、
・フランス372万人(同5.7%)、英国574万人(同9.3%)です。
2015年に、賃金が韓国の下になった日本の、4倍から6倍と多い。

世帯所得の、全階級での下方へのシフト(移動)は、明治以来(第二
次世界大戦のあとを除けば)、一度も、起こったことがない。

普通は、超大型の不況である金融危機が混じった経済恐慌でしか起こ
らないのが、貧困層の大きな増加です。

(2)450万円から900万円の中間層世帯も、1995年の38.8%から34.1
%へと12%減っています。22年間も続けて、世帯所得が下方シフトし
てきたからです。

(3)900万円~1100万円のプチ高所得層も、8.3%から7.2%へと13%
減です。

(4)1100円から2000万円の、日本では高所得になる世帯は、12.8%
から7.8%へと34%も減っています。日本では、1000万円以上の賃金
は、10人に1人くらいしかいません。

◎これは、よく言われる「所得の二極化(格差)」ではない。

株価の上昇で、株を売買する約700万人と、そうでない人の資産増加
は二極分化していますが、フローの所得は、約90%人が下がっていま
す。1995年以降は、みんなの所得が、下方シフトしてきたのです。

(5)所得2000万円以上の世帯は1.9%(50世帯に1世帯)であり、22
年前と変わっていません(経営層と資産層です)。

増えていない。このクラスには多い、持ち株の上昇の利益(資産の増
加)が、所得よりは大きいかもしれません

IT関連の高所得者が多いサンフランシスコでは、現在、年収1000万円
以下は貧困層とされます。1500万円から2000万円が、技術のあるITエ
ンジニアの初任給です。

日本でも、(1)統計学的なデータ・アナリシスと、(2)AI技術のあ
るSE(システムエンジニア)はジョブ契約(成果契約)で、現在、
2000万円クラスになっています。

政府がデジタル庁をつくって、はやし立てているDX(デジタル・トラ
ンスフォーメーション)は、1人2000万円/年を払わないと、実現しな
い。設計とプログラムをアウトソースすれば、1人月分が1.6倍の300
万円にはなるでしょう。

日本では、OECDでただ一カ国、年収1000万円以上の世帯が減っていま
す。1000万円は、70%の構成比の共働きなら、夫が750万円、妻が
パートで250万円であり、高い所得の世帯とは言えないものです。

以上の、世帯所得の分布での下方シフトは、商品開発と品添えのもっ
とも基本的なマーケティングデータになるでしょう。所得で、買う商
品の価格帯が変わらざるを得ないからです。

【「いいと思う商品」は、属する所得階級で変化する】
◎「これがいい」と思う商品は、個人の所得で買うことができる価格
帯の中にあるからです。年収でおよそ700万円以下の、家族がある世
帯では、世界の有名ブランド品を、いいとは思わない(働く人の単独
世帯で年収700万円は、別です)。

買わない、または買えないのではなく、いいとは思わない。ブランド
品よりGAPの衣料がよくみえるのです。性能や品質がよくても、買え
ると思う価格帯にないものはいい商品とは考えない。これが、個人の
所得と大きく関係する消費者の心理です。なお所得が下がると、金融
商品の買いも、急減します。

【過去20年間、世帯所得の下方シフトが起こっていた】
・900万円以上の高所得層も減って、
・450万円から900万円の中間層は、下方に分解し、
・平均所得以下の、450万円より下の世帯数が、40%以上増えたのが
日本です。

2000年代に100円ショップ、牛丼店、ラーメン、回転寿司が人気を得
てきた理由です。国内の衣料ではユニクロ、家具ではニトリです。

岸田政権が、企業に要求している3%の賃金増加(留保利益の分配の
要求)は、26年間減ってきたバケツの中に、コップ一杯の水を注ぐこ
とにしかならない。(注)当方は、これから日本の賃金を2倍にする方
策を立てねばならないと、考えています。

【官僚と政治家は、所得では上の階級】
(1)政党助成金と公設秘書の賃金支給により、実質年収では1億円の
高所得層になった衆参の国会議員と、
(2)人事院が大企業を参考にして約2%/年のベースアップがあった
官僚には、自分の所得が、年齢給(勤続給)の加算も加わって増えて
きました。世帯年収では、1000万円以上が多数派です。

「薄給の公務員」は、民間資産(不動産と株)のバブルが崩壊した
1990年に終わりました。現在は、民間より20%くらい高給です。マス
メディアも高給であり、政治家と官僚の側です。

◎日本では、約20%の高所得階級(世帯所得1000万円は世界的には高
所得ではないのですが・・・)と、80%の低所得階級の、対立が生じ
ないように、政府・メディアは、情報をコントロールしてきました。
ここが「上級国民」という言葉は生まれても、データでの階級格差が
見えなかった理由です。

2000年代の初期にいわれていた「年収300万円の時代」は、非正規雇
用(2090万人)、年金世帯(1500万世帯)、そして、中小企業労働者
(4000万人のうち約50%)、小売り・サービス業の現場従事者に該当
したのです。

政治家や官僚には、民間の、5000万帯世帯の所得の実情は、わからな
い。

官僚は約300万世帯です。政治家は、地方議員と首長を含むと約3万人
(3万世帯)です。

■8.生活意識の調査(=世帯の心理):日銀

(1)日銀が定期的に行っている生活意識の調査では、ゆとりがなく
なってきたと答えた世帯は40%に増えています。

(2)他方で、ゆとりが出てきたと答えるのは5.8%(17世帯に1世
帯)しかない(2021年12月)。世帯所得が下方シフトしていますから、
当然でしょう。

(3)1年前と比べて、所得が減ったと答えたのは、38.3%です。増え
たと答えた世帯は7.4%でしかない(14世帯に1世帯)。減った世帯が、
30.9%ポイントも多い。

(4)雇用不安を感じているのは、4人のうち3人:
加えて、24.8%(4人に1人)の労働者が、勤め先の雇用と処遇にかな
りの不安を感じています。少し感じているは、48.4%(2人に1人)、
あまり感じないと答えるのは、26.2%(4人に1人)しかいない。雇用
不安の大きさ(3/4)にも、驚きます。(注)当方も、労働者の不安
の強さを、見ていませんでした。

◎会社勤務の、4人のうち実に3人が、雇用と所得に不安に思っていま
す。驚愕すべき実態です。日本は雇用不安の時代を迎えています。
(注)ほぼ80%(4000万人)の労働者は、業績が、継続的に低下した
中小企業の雇用です。

5000万人のうち1500万人は、年収がおよそ250万円以下の非正規雇用
です。非正規雇用者の多くの夢は、ボーナスや社会保障もあるフルタ
イム雇用の、1時間賃金が平均で2~3倍は高い正社員になることです
から、実に悲しい。

誰が、約20年で、こんな社会にしたのかと糾弾したくなります。
根本を言えば、1995年以降、中国とアジアが輸出とGDPを伸ばすなか
で(近代化成長)、日本人の1人当たり生産性の上昇が、OECD(先進
38か国)で一番低い状態を、20年も続けてきたからです。
(これから10年の現代化成長ではDXとAIの導入がコアです)。

直接の原因は、ほぼ3/4の会社の業績(売上、営業利益、生産性)が
悪化してきたからです。会社に勤めていれば、売上や利益は経営者や
幹部の言葉から分かります。

「国民のため働く」と異口同音に言う政治家を志す人は、選挙にあた
って、実態を知るため、「国民生活基礎調査」と「日銀の生活意識調
査」を熟読しておくべきです。80%くらいの人の心を引く街頭演説の
タネは豊富です。

政党も、政策の教科書とすべきです。
世帯所得にかかわらず、1人は1票だからです。
https://www.boj.or.jp/research/o_survey/data/ishiki2201.pdf

日本は、世帯所得が増えてきた米国とは、逆の社会です、

2013年以降は、世帯所得の減少のなかで、株価だけが上がり、住宅価
格も上がったのです。これは、異次元緩和の8年間で、500兆円になっ
た過剰流動性(国債を日銀に売った銀行の当座預金)がもたらした、
株価バブルの現象でしかない。

所得低下が続く日本では、人口数だけで商圏を見ると間違えます。

(注)2021年には、コロナ対策の支援金が、所得になって、外出と観
光が減って、消費を減らしたこともあり、世帯預金は増えています。
しかし全年齢の単独世帯では、36.2%が貯蓄額はゼロです・

【東京も、コロナで人口減の時代へ】
人口が増えてきた東京都(1400万人)も、2021年からは、コロナによ
る移住から人口減にはいりました。なお、大阪府の人口(現在882万
人)が、継続した人口減にはいったのは、2011年からでした。

「脱デフレをして、経済は成長している」としていた安倍政権のとき
は、低下している世帯所得が取り上げられることはなかった。

◎このため、逆に実質所得を5%下げる消費税の増税が5%(11兆円
分)もあったのです。実質的な所得には、消費税+5%による、可処分
所得の4%程度の減少が加わっています。

政府は、消費税を上げるために、世帯所得の減少の統計を示さなかっ
た。

賃金統計のサンプルと、建設受注の統計には、偽装が見つかっていま
す。最近9年間の政府統計の不正は、他にもあるでしょう。

◎国民は、増えなかったGDPのように、世帯の平均所得も横ばいが続
き、高所得層の所得は、増えていると思い込んでいたのです。
この認識(観念)と、事実は乖離しています。

日本の世帯所得からは、日軽平均の2万7000円は、明白な、金融バブ
ルです(=日銀バブル)。世帯が株を買って、健全に株価が上がった
のではないからです。

(注)1989年までの資産バブル(地価3000兆円+株価600兆円)には、
世帯の住宅と株の買いも加担していました。民営化されたNTT株(株
価350万円(1995年)には、世帯が殺到したのです。

■9.過剰流動性以外に、米国株の高騰をもたらした要素

2008年のリーマン危機のあとの、4兆ドル(450兆円)、2020年3月の
コロナ危機対策としての4兆ドル、合計で900兆円という巨大なドル増
刷以外にも、米国株を上げてきた要素があります。

【トランプ減税の大きさ】
トランプが大統領だった2017年の、法人税の35%から21%への減税。

会社が同じ利益額を上げても、税引き後の純益は1.22倍に増えたので
す(0.79÷0.65≒1.22)。企業利益が22%減った時も、純益は同じ額
でした。

この減税は、PER(=株価/企業純益)の評価倍率が同じであっても、
株価を22%上げる要素になったのです。「株価=企業純益×PER倍率」
だからです。

【異常な金額の、自社株買い(2021年90兆円)】
加えて、米国株では、異常とも思える「自社株買い」がありました。
社債を発行して、市場から低金利のマネーを調達し、そのお金で字自
社株を買って、株価を上げるため流通株を減らしてきたのです。

2010年以降の自社株買いは、1年平均で6000億ドル(68兆円)もあり、
2021年は7800億ドル(90兆円)に膨らみました。新規発行株より自社
株買いが大きく、米国企業の流通株は減ってきたのです。
この自社株買いで、米国株の価格は、20%は底上げされてきたと見て
います。

日銀が、2020年まで行っていた株ETFの買いは、自社株買いにも相当
しますが、1年に6兆円、合計では36兆円でした(2021年3月以来は、
ほぼ停止しています)。

【米国株を13年間上げた4つの要素】
以上のように、
(1)FRBのマネー増刷900兆円、
(2)法人税の大きな減税(35%→21%)
(3)株式流通を減らす自社株買い(1年に60~90兆円)と、
(4)米国企業の、純益の上昇の4つが重なって、米国株は上がってき
たのです。

【13年で株価は4.3倍、年率平均12%上昇】
代表的なNYダウは、リーマン危機のあと8000ドル付近でしたが、22年
1月は、「21年12月の7%インフレ→223月のから金利上昇予想」から
下がったとは言っても、3万4700ドルです(22年1月30日)。

13年間で、4.3倍に上がっています。世界の株価も、米国株(世界の
時価総額の50%を占める)に準じて、上がっています。

13年間で4.3倍は、年率平均で12%の上昇です。企業純益が13年平均
で12%上がったのではない。(1)金融緩和(900兆円)、(2)トラ
ンプの大幅減税、(3)巨大金額の自社株買いという3つの、株価を上
げる要素が加わって、4.3倍になっています。

株価の罫線には、長期は移動平均の、短期は指数平滑法の組み合わせ
(=MAC-Dという)が示すモメンタムがあります。

上記の、株価を上げる4つの要素から、米国株には、13年間の大きな
上昇トレンド(年率12%:13年で4.3倍)が作られてきたのです。

【テーマに戻ると・・・】
本稿のテーマはFRBと投資家により人為的に作られたバブル株価が、
(1)2022年3月からの「利上げ(予想は短期金利+1%~1.5%)と、
(2)FRBが予定している量的緩和900兆円の、金額はまだ不明な縮小
から、2022年中にバブル崩壊に至るかどうか、の見極めです。

このためには、2022年の米国CPIの上昇が、どれくらいになるのかを
予想する必要があります。

2022年のCPI上昇が4%以上になると、3月からのFRBの利上げと金融緩
和の縮小(QT)は、現在の予想より大きくなるので、米国株のバブル
は崩壊に向かうでしょう。

【上記2つの要素は、今後はない】
株価を上げてきた2つの要素である、
(1)21%の法人税からの追加減税は、実行されることはない、
(2)3月から金利が上がると、社債金利も上がるので社債の発行は減
り、自社株買いも、2021年の90兆円から増えることはない。社債の金
利が上がるので、自社株買いは減少の傾向を示すでしょう。

FRBの金融引き締めによる金利の上昇に、この2つ要素が加わって、
2022年の、米国株と世界の株の長期バブルは、崩落に向かうでしょう。
(注)2022年の企業純益予想が30%上がれば、株価の崩落は避けられ
ます・・・これは実現可能か、疑問です。

【問題は、2022年の米国のCPI】
金融市場が3%と予想している2022年の米国のCPI上昇が、果たして何
%になるか、このCPI予想が、分水嶺を作ります。

■10.不確定な要素である、2022年3月以降の米国CPI

米国の月別CPIの前年比を、2018年から2021年まで見ます。
  ↓
https://info.finance.yahoo.co.jp/fx/marketcalendar/detail/9052

2年前の2020年には、コロナの外出規制からの需要減で、0.1%から1.
4%しか上がっていませんでした。

昨年の、21年4月からの4.2%上昇は、2020年のCPIの、平常年に比べ
た約1.5%ポイントの低さも反映しています。
↓
2020の低いCPIの影響を相殺するため、「2020年+21年での2年分の
CPI」とします。

【2年分の米国CPIの上昇】
1月3.9%→2月4.0%→3月4.2%→4月4.5%、5月5.1%→6月6.0%→7
月6.4%→8月6.6%→9月6.8%→10月7.4%→11月8.0%→12月8.4%

2年分の1月のCPIは3.9%から、1年で12月の8.4%まで、4.5%ポイン
ト、上がっています。4.5ポイントが、コロナ後2年目に加わった、
2021年インフレに相当するでしょう。

2022年3月からの、コロナ後3年目では、どうなるか?
結論は、推計するしかありません。
◎2022年の米国CPIは、この4.5%付近と見ます。

一方で、現在の株価を決めている、米国金融市場の、2022年インフレ
予想は3.0%付近と、4.5%より1.5ポイント低い。

金融市場は、2022年の米国CPIを3.0%の上昇と見て、FRBの、短期金
利の利上げを「1.0~1.5%」と予想しています。

この予想のなかで、仮に2022年の米国CPIが4.5%なら、FRBの22年3月
から短期金利(FF金利:財務省短期証券の金利)の利上げは、1.5%
~2.0%なる可能性があります。

◎最近40年での、米国CPIの平均上昇は2.8%付近なので、2.8%イン
フレに、リーマン危機のあとの13年間、中立的だった政策金利(FF金
利)を0%とすれば、4.5%のCPIでは「4.5%-2.8=1.7%」になるか
らです。

22年の通年のCPIが+4.5%なら、金融市場には、
・1.7%付近の利上げと、
・量的緩和の縮小(FRBが買ってきた米国債とMBSの売り)が加わりま
す。

金利が上がる社債の発行は減り、社債発行で買ってきた自社株
(2021年は90兆円と最大)も減って、株価を下げる要素になっていき
ます。

PERはどうなるか。NYダウの、次期予想PER(10年の平均純益ではなく
短期の純益予想)は、約20倍です。逆数の株式益回りは、1÷20≒5.
0%です。
https://nikkeiyosoku.com/nydow/per/

株式益回りの5.0%は、「米国長期金利1.5%付近+リスクプレミアム
3.5%」に、分解ができます。

◎FRBによる短期金利の1.7%ポイントの利上げから、この長期金利が
3.0%に上がると、投資家集合が、株価に期待する株式益回りは、
「金利3.0%+リスクプレミアム3.5%=6.5%」に上がります。そのと
きの、NY株の理論株価では、「予想PER=1÷6.5%=15倍」に下がり
ます。

現在が20倍、2022年の物価上昇が4.56%のときは、NYダウの理論値は、
「新しいPER 15÷現在のPER 20=75%」に下がります。NYダウは、現
在の3万4725ドル(22.01.31)から、25%下げて、2万6000ドルになる
可能性があるということです。

22年の年初には3万6000ドルだったNYダウが、理論株価として、2022
年秋ころに2万6000ドルに下がれば、1万ドルの下げであり、これはも
う、米国株バブルの崩壊です。

日経平均も同じ率下げ、現在の2万7000円が、理論株価では75%の2万
250円付近に下がるでしょう。

実際の株価は、理論株価の周囲を、誘蛾灯に群がる蛾や昆虫のように、
VIXの3か月のボラティリィティ15%付近の幅で変動します。

以上は、2022年3月からの米国CPIが4.5%上昇したときです。

【2022年の米国CPIが、3.0%付近のとき】
現在の金融市場(投資家集合)の予想のように、2022年が3.0%の
CPI上昇なら、現在が1.7%の長期金利は0.5ポイントくらいしか上が
らず、株式益回りは(2.2%+3.5%)=5.7%→PER=1÷5.5%=17.5倍
でしょう。

理論PER17.5倍÷現在のPER20倍=85%・・・2022年のCPIが3%上昇な
ら、NYダウの理論価格は、1月末より15%下落して、「3万4700ドル×
85%≒2万9500ドル付近」に下がるでしょう。これは、3が月後の企業
純益予想が同じときです。

(注)再度言えば、実際の株価は、この理論価格を中心に3か月のボ
ラティリティの幅(15%付近)をもった変動をします。

2022年の米国株は、2022年3月比の、企業の予想純益の上昇以外では、
上がる要素がない。いずれにせよ、インフレでは、金利が上がり、マ
ネー量が引き締めから、株価下落になるからです。2022年に金利が下
がることはないでしょう。

株価の下落度合いは、
・2022年の通年の予想インフレ率が4.5%か、
・または3.0%かで、本稿で書いたように、変化するでしょう。

◎1987年から90年にかけてのCPI上昇率5%以来、32年ぶりのインフレ
の中での株価が2022年のものです。

1987年から、米国の長期金利は10%(1990年)に向かって上がり、S&
P500は1日で23%下落しました。これが、有名なブラックマンデーで
した(1987年10月19日)。
(↓米国の1980年から2020年のインフレ率)
https://ecodb.net/country/US/imf_inflation.html

【後記】
日本の消費者物価上昇は、米国の約8か月遅れです。国際コモディテ
ィである資源、エネルギー、穀物、肉の高騰と円安から、輸入物価が
44.3%も上がり、卸売物価は9.0%上がっていますが(21年12月)、
消費者物価は0.5%しか上がっていません(速報値:総合:22年1月)。

22年3月にかけては、まず2%台に上がります。その後も3%くらいま
で、上昇が続くでしょう。

スーパーには、正月以降、目に見えて上がっている商品が増えていま
す(5%~10%上昇) 日本の金利と株価は、米国の後を追います。
1980年の、第二次石油危機以来、40年ぶりの物価上昇です。消費者物
価が2%以上上がって、上昇が長期化すれば、日銀も、長期金利のゼ
ロ%誘導を続けることはできなくなっていきます。

日銀は、現在、日本の物価上昇は短期的とする誤りを犯しています
(黒田総裁の記者会見)。2021年8月のジャクソン・ホール会議で、
米国FRBのパウエル義議長が犯した物価予想の誤りと同じものです。
インフレが認定されると、日銀の意向に反して、市場の金利は上がり、
債券市場の国債価格はドイツのように下がります。

日本は、1200兆円(GDPの2.3倍:世界最大)という国債の発行残があ
ります。国債価格を15%(-180兆円)は下げる長期金利2%への上昇
(現在は0.25%)は、株価の下落だけではなく、政府財政の困窮と、
そして1年に170兆円はある既発国債の満期返済の、デフォルトにつな
がっていくでしょう。長短の国債の平均満期は約7年です。この件は、
更に詳細に論じなければならない。

有料版では、更に、先に進んだことを書いています。

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