こんにちは、吉田繁治です。ドラッカーが亡くなったと聞きました。
95歳。十分に生き、十二分に書き、多くを語った人です。
彼が死んでも、開けば対話ができる本があります。
ドラッカーの熱心な読者ではなかった。
しかし、切実に読んで来た。
最初は『イノベーションと企業家精神(1985)』でした。独立を志
している時でした。不安だった。どうすればいいのか。
読んで、勇気がわきました。ドラッカーはスピリット(気)に訴える
ところがあります。
傍らにある、表紙が変色した本を開けば、鉛筆での書き込みが多い。
その後、邦訳のほぼすべてを開きました。時に、原文の単語を参照
しながら。全部は読みこなせていません。
イノベーションの7つの源泉。
(1)予期されていなかった変化を認識すること
(2)不調和があり、矛盾が拡大すること
(3)プロセスニーズに変化が生じていること
(4)産業と市場の構造変化があること
(5)人口構成の変化があること
(6)認識の変化があること
(7)新しい技術と知識が累積していること
当時、小さなイノベーションを起こそうとしていました。手段は、
コンピュータ・ネットワークシステムでした。行うことに、イノベ
ーションの7つの源泉が、すべて当てはまるように思えたのです。
今の時代でも、共通します。
時折、「ドラッカーなら、この問題をどう考えるか?」と想像する
ことがあります。メールマガジンでも、ドラッカー絡みで相当な量
を書いています。
本稿は、ドラッカーを素材にして、今年の6月に有料版で書いたも
のです。追悼号として、贈ります。
仕事で大きな成果をあげた人の共通の秘密は、「習慣」です。
行わねば気持ちが落ち着かないように習慣化させること、これです。
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こんにちは、すっかり初夏の気候です。四季はめぐり、過ぎ去った
時間は、一瞬のものに感じます。時の経つのが早いと感じるのは、
多くの人に共通の感慨です。
しかし、これは、無為に過ぎ去った時を回顧しているからではない
のか? この世には、びっくりするような考えをもつ人もいます。
最初にこれを考えます。時間が短いという感想は、太古の昔から変
わっていない。
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<216号:特別号:追悼ドラッカー:仕事ができる人の習慣(1)>
【目次】
1.時間は短いか?
2.『経営者の条件』
3.executiveとmanagement、およびmanagerのつながり
4.仕事で成果をあげることが、当たり前のことではなくなって
いる
5.知識労働者という概念
6.プレゼンテーション欠品という知識の事例
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■1.時間は短いか?
<われわれは、短い時間をもっているのではなく、実はその多くを
浪費している。人生は十分に長く、その全体が有効に費やされるな
らば、誰でも偉大なことを完成できるほど、豊富に与えられている。>
(前4年〜後65年:ローマ時代のストア派の哲人:『人生の
短さについて』)
時間は、誰にとっても十分にあると言うのがセネカです。
暴君と言われた皇帝ネロの家庭教師でした。ふとした言葉で不興を
買い、ネロから自決を命じられます。(今のわれわれは、こうした
理不尽に遭うことはないでしょう。せいぜい辞職勧告です。)
その彼が、皆が言う人生の短さについて、人生は長いと発言してい
ることを想えば、感慨がわきます。
人が時間を浪費するのは「人は皆、日々、死に迫られている」こと
を忘れるからだと言う。
【有効な時間とは?】
与えられた時間を「有効(effective)」に使うとは、意図した成果
や結果が生まれるように活用することです。
それを行えば、偉大なことを完成できるくらいの時間は、誰にもあ
るとセネカは言っています。
本当は時間が短いのではなく、時間を有効に使うことができないこ
との、自分に向かった言い訳が「時間がない」ということでしょう
か。
時間が有効であるかどうかは、目標とする成果との関係でしか言う
ことはできない
課題になるのは、まず何を「成果」として思うか、または思えるか、
あるいは意図するかです。成果を定義できなければ、無為に過ごす
しかない。
生きることは、無為に過ごすことでもあります。それでも、いいと
思う。自己に課す達成基準を、持ち得ない時期もあります。
自分にできることの突破口が見つかって、達成基準を少しずつ引き
上げる。そうした過程で、自分にとっての成果が何か、見えてきま
す。夢や目標は、あらかじめあるものではない。目標が実現できる
と思えるようになって初めて、成果の定義もできるからです。
何かをやり遂げたいと思うなら、その成果または目標あるいは夢を
定義することが必要です。
定義のあとは成果を生む方法です。方法は、成果を生むための作業
手順です。そして実践です。実践は、方法の実行です。
▼人生には浪費する時間があるくらいだから、時間は十分にある
成果が何か決めれば、その成果を生むために無関係な時間は、浪費
されたことになります。
人生には、成果を決めず浪費する時間はたっぷりあるからセネカは
誰にとっても時間は十分にあると言ったのか?
実際、目的に向かう充実した時間は、意識が凝縮され強まっている
ため、その渦中では逆に長く感じます。
TVのバラエティ番組を見て浪費したと思える時間は、確かに意識
がふやけていて、後で思えば短い。
浪費する時間は、数時間または1ヶ月の長さであっても、確かに一
瞬に思えるくらい短い。
(1)自分にとっての成果を定義し、
(2)成果を生むための知識と方法をもち、
(3)方法の実行に、時間を使ことを習慣にする。
そうしたことができるなら、時間は十分にあることになるでしょう
。
課題になるのは、自分にとっての成果、あるいは目的となるものは
何かということの定義でしょう。
ドラッカーは、成果について考えています。
本稿で取り上げる理由です。
明日までの12時間は、短い。とても矮小な私例ですが、原稿を仕
上げる必要があるときの明日までの12時間は、無限に時間がある
かのように十分な時間に思えます。
意識の密度が濃ければ、経験で言っても、時間は確かに十分に長く
なります。
100メートルのランナーにとって、走る10秒は、目標とする成
果に向かって短時間で行わなければならないことが多く、とても長
く、密度の濃い内的時間に思えるでしょう。
彼は、わずか10秒で何を行ったか、いくつもの課題とその課題に
と比較した成果を、スローモーション画像のように再現できるはず
です。
ランナーにとっては、走ることも、訓練したプログラムを消化する
知識作業です。
走る方法を持たず、成果を決めず、したがって漫然と本能で走るこ
としか知らないわれわれにとって、10秒は一瞬で消え、同じ距離
を走っても何も残らないのですが。
ランナーにとっては、走ることによる「成果目標」が明確にありま
す。しかしわれわれにとっては、走っても成果すべき目標がない。
その違いが、「時計」では誰にとっても同じ長さであるはずの時間
についての、認識の違いにもなる。
プロボクサーも言っていました。「本番の試合のほうがずっと楽だ。」
練習と空腹がどれくらい辛く、長い時間か。試合までの時間が長す
ぎると思うと言う。プロボクサーにとっては成果が明確だからでしょ
う。
■2.『経営者の条件』
1ヶ月1回、定期的に訪問している会社の創業者から、ドラッカー
の『経営者の条件』を、役員と幹部の自習書として活用できるよう
注釈をつけ、リライトしてくださいとの依頼を受けました。
原著は40年前の1966年のものです。
(邦訳:上田淳生訳:ダイアモンド社)
新任の幹部や役員に、創業者の願いを込めた署名をし、毎回『経営
者の条件』を贈るとのことです。
それを聞いて、この古典を読み返してみました。
「成果に向かう時間の使い方」が基調テーマになっています。
もうひとつは、「成果に焦点を合わせる習慣」です。
この2つをめぐって書きます。
▼利益や成果の期限
セネカのように、皆が死に迫られているわけではない。
しかし会社での仕事は、死の代わりに資本の利益(期限と金利)に
迫られます。
ビジネスマンということの語源がBusy(忙しい)であるのは、
仕事の成果の納期と、支払いという期限があるからです。
時間に無関係なら、仕事ではない。手形決済にたった数日遅れれば、
待つのは、信用を失った倒産という企業の死です。
仕事ではマネーの必要が、時間を切迫させます。
期限内に、必要な利益をあげることができなければ、企業は消えま
す。
原題は『Effective Executive』。
内容を汲んで意訳すれば「仕事ができる人は、どんな習慣を持って
いるか?」という感じです。
▼習慣
習慣は、後天的に習得し、比較的に固定していて、少ない努力で反
復できる行動様式。(広辞苑の定義)
後天的とは、意図して実行すれば、誰でも習得できることです。
これがわれわれの希望です。習慣は身に着けることができる。
最初は、原著の順を追って要約しながら解釈し、批評(Critique)の
方法を使い内容に迫り、「仕事ができる人になるための原則」を導
いてみたいと思います。
▼書く理由
書く理由は、ドラッカーの著作は、その内容がよく一般に理解され
ているとは思えないからです。
断片的なことは、ひとつの文章として理解できますが、その論理を
たどると、相当に複雑な中身をもっています。
ひとつの原因は、経営者という用語にもあります。
経営者といったとき、「経営を行うということが、何か?」が分か
りにくい。答えることのできる人は、ほとんどいないでしょう。
例えば、靴を作る作業なら分かる。商品を売る作業なら分かる。し
かし、組織を使う経営とは何か? 何を行うべきか?
ドラッカーは経営という仕事を通じた、経営者の貢献を3つに集約
しています。以下の3項が、ドラッカーの言う「成果」の基本内容
です。
(1)直接の成果を上げること。これは、利益のことです。
(2)価値の創造と価値の再定義。これは、商品作りのことです。
(3)明日のための人材の育成。これは、理解できるでしょう。
■3.executiveとmanagement、およびmanagerのつながり
多くの古典では、最初のところで使われた少数の言葉を、どう理解
するかが関門です。
この書では、「エグゼクティブ」や、肉体労働とは異なる内容と方
法をもつ「知識労働」がそれです。
エグゼクティブを、日本語の経営者と置き換えた途端に、重要な意
味が抜け落ちます。わが国の経営者の多くには、以下に示すような、
「実行家としてのマネジャー的な機能」がないことも多いからで
す。
【エグゼクティブの原義】
executiveという機能を整理すれば、
・成果をあげることができるようにルールと作業方法を決定し、
・人のそれぞれの強み(=技術)を生かすように配置(=組織化=
organize)をして、
・実行を、時間軸で計画(plan)し、
・最終成果との比較で、進捗度合いの管理を行い、
・途中で必ず生じる予期せざる障害の解決をし、
・成果をあげるために他人を導く人です。
以上は、経営(management)の6項目の、多少長い1文での、短い
定義でもあります。
このマネジメントの、エクセキューション(実行、執行)をするの
がエグゼクティブです。
最近、わが国でも始まった「執行役員」の原義でもあります。エグ
ゼクティブとマネジャーを兼務する。
国語:[経営者] −[管理職] − [現場]
↓ ↓ ↓
英語:[executive]−[manager]− [worker]
↓ ↓ ↓
目的:[全体成果]−[部署の成果]−[能率]
マネジメントをする立場にある人は、経営者であることが多いので
executiveは経営者と訳されます。
【経営者】
経営者は、組織を有効に使って成果(利益と従業員の賃金上昇)を
達成する人のことです。
経営は、ドラッカーの定義では、利益産出・商品開発・人材育成と
いう成果をあげる活動です。
組織の活動が、個人の活動の足し算より上回ることのできる唯一の
理由は、組織において人と知識が、連携して活かされたときです。
【人員配置】
組織で人が活かされるとは、各人の知識と技術の強みの部分で分業
を行うことができるように、人員配置をすることです。
懲罰的な人事は、人の弱みに焦点を合わせます。こうした組織は、
「組織としての成果は、個人の成果の足し算」以下になって行きま
す。
(注)たとえば、過去、物流部は組織の傍流とされ、他の仕事で成
果をあげられないと(不当さを含め)評価された人や、組織になじ
まない人が回されることが多かった。そのために、生産性が低かっ
たのです。
【人員配置の権限の根拠】
人員配置は、組織に成果を上げさせることができるという責任の対
価として、経営者に与えられる権限です。
経営者が、人事や人の仕事の評価に権限を持つことができる唯一の
根拠は、組織全体の利益に、達成責任をもつからです。
【根底の原理:責任と権限の表裏の関係】
近代組織では、責任がない権限はあり得ません。
権限が、利益と貢献への責任ではなく、役職という立場(ポジショ
ン)に与えられるとすれば、それは封建組織です。
【封建組織】
近代社会以前の封建組織は、身分的な主従関係で成立していました。
この封建的な主従関係は、西武グループのコクド、カネボウ、JR、
金融業、学会、病院等にも多く見られます。
官僚組織にも、成果や利益の定義がはっきりしないため、キャリア
−技官−ノンキャリア制度を中核に、階級による身分的な主従が見
えます。
身分的な主従関係の組織では、仕事という言葉が意味する「事に仕
える」ことが、「人に仕える」ことになります。
仕事への貢献の前に、人への忠誠が求められます。
貢献への責任の代わりに、権力や権限で人を動かします。
大企業や官僚組織には、(1)人を忠誠度で計り、(2)人を動か
すのに権力と恐怖によるマネジメントを行う「封建組織」が多いと
感じます。
その理由は、組織が細分化され、個々人の仕事が、成果、利益、損
失にどう係わっているか、見えなくなっているからです。
(原理)
組織の中で、成果が定義されず、成果が皆に見えないとき、仕事は
階層的な主従関係の中で「人に使える」ことになる。
(注1)関連して言えば、人員配置は懲罰ではありません。リスト
ラが失敗する理由の多くは、懲罰人事が横行し、成果主義を賃金切
り下げの正当化のために使うからです。封建組織に多く見られます。
(注2)経営者とは言われない管理職(manager)も、担当する部署
の成果に責任をもつことでは、経営者と同じです。
以上の、多少長い前置きのあとは、内容に入っていきます。
(注)原著からの引用は<***>で示します。( )内は理解の
ための補いです。翻訳を参照しながらも、原文にあたり、理解を助
ける意訳を加えています。
■4.仕事で成果をあげることが、当たり前のことではなくなって
いる
<(民間)企業、病院、政府機関、労組、大学、軍隊のいずれにあ
ろうとも、エグゼクティブなるものは、常に、・・・・成果をあげ
ることを期待されている。>
<しかしそれににもかかわらず、(成果をあげるべき)地位にある
もののうち、大きな成果をあげる者は極めて少ない。>
ここで、
(1)多くの人が従事する定型的な現場作業と、
(2)そのマネジャーの仕事を分けて考えねばなりません。
▼現場作業では、成果は明らかにすることができる
現場作業は、「能率(=作業効率)」で成果を計ることができます。
ドラッカーの用語では、これらは「肉体作業」とされます。
<肉体作労働者は、能率をあげればよい。成すべきことを判断して
それを成す能力ではなく、定まったことを正しく行う能力があれば
よい。肉体労働者の仕事は、たとえば靴のように、生産物の量や質
(または金額、数量)によって評価ができる。われわれはこの10
0年間に多くの方法を学んできた。肉体労働者の生産を大幅に増大
させた。>
多くの方法とは、テイラー(1856-1915)の科学的管理法と、インダ
ストリアル・エンジニアリング(IE)のことです。
作業を細かい手順に分解し、時間計測(タイム・スタディ)をし、
より効率的な作業方法を作って行く。作業の効率をあげるために、
機械やコンピュータを使う。
こうした定型作業(または標準作業)については、確かに能率、効
率、生産性、そして成果を計る方法はあります。
したがって、現場作業については、成果は明確です。成果は効率だ
からです。
(注1)わが国の流通・小売業とサービス業については、製造業で
発達した科学的管理法やIEの方法が普及していません。
物流については最近はIEの適用が見られます。
商品部や店舗作業については、これからの課題です。
私の仕事とすべきことでもあります。
(注2)定型作業を作り、不断に改善するのは、マネジメントの仕
事です。
▼野球チームでのアナロジー(類推)
野球ではプレーヤーは、スペシャリストの現場作業員に相当します。
打者や投手の成果は、数字で細かく計ることができます。その成果
をもとに賃金も決まる。いいプレーヤーは、モデルとして数値化で
きます。
しかし、管理者であるコーチや監督(=マネジメント)の成果は何
によって計るか? チームの勝敗(企業では直接的な利益に当たる)
だけでしょうか。
利益に結びつく観客動員数や広告収入は、誰の成果でしょう?
前述した「経営における成果の基本3項」をもってくれば、ヒント
になります。以下の3項は、マネジャーの責務でもある。
(1)直接の成果をあげること。利益です。
(2)価値の創造と価値の再定義。新しい商品や方法の設計です。
(3)明日のための人材の育成。やる気の喚起と方法の提供です。
野球チームを含むスポーツは、分かりやすい例です。
勝敗のルールが決まっているからです。
しかし、日常のマネジメント行動では、何が成果か、明らかにされ
ていないことが多い。成果の定義がない。
たとえば知識・想像力・構想力の労働である「製品設計」という仕
事の成果は、設計書の枚数や出来映えで計ることはできません。
設計された製品の製造、販売、物流、サービスという他の作業と結
びついて初めて、その成果を計ることができるからです。
■5.知識労働者という概念
▼コーチや監督という知識労働者
コーチや監督が、プレーヤー―に向かって、指揮・命令・決定がで
きる理由は何か?
監督がプレーヤーに指揮ができる理由は、(1)プレーヤーとの
「知識格差」、(2)または「地位格差」によってです。
地位の格差は、知識格差によって裏づけられない限り、権威を失い
ます。そうすると、本源的なものは知識格差であるということにな
ります。(注)知識には、技術を含みます。
▼知識
「知識」とは何か?
知識:教育・学習・訓練・経験を通じて得られた物事への理解、技
術または情報
しかし、<頭のよい者が、しばしば、あきれるほど成果をあげられ
ない。彼らは知的な能力がそのまま成果に結びつくものではないと
いうことを十分に認識していない。知的な能力は、組織的な作業を
通じてのみ成果に結びつくものであることを知らない。>
▼組織的な作業
鍵は、「組織的な作業」にあります。知識に優れていても、組織的
な連係作業(協力)で成果をあげなければ、成果はないからです。
設計や構想は、設計書だけでは成果にはならない。製造、マーケテ
ィングを含む販売、店舗、物流と結びついて初めて、成果になりま
す。
監督の言葉での指揮が、組織に属するプレーヤーの行動の変化、適
切化になって初めて、成果が生じるのと同じです。
つまりマネジャー、同じ意味ですがエグゼクティブは、現場労働を
通じて成果を実現します。
現場労働だけでも、成果をあげることはできます。監督が不在でも
チームは戦うことができます。勝利すらおさめることもある。
では監督やコーチがなぜ必要か? チームが、プレーヤーの集団よ
り適切に成果をあげるためです。
▼知識労働者の働き
つまり監督の指揮によって、チームの成果が、現場のチームだけの
ときより高まらねばならない。繰り返せば、監督は、言葉・数字・
動作で、現場に指示をする知識労働者です。
<昔は、知識労働者のうちごくわずかの者しか組織に属していなか
った。知識労働者のほとんどはせいぜいのところ事務員を一人かか
えるだけで、専門家として独立して仕事をしていた。彼らが成果を
あげようがあげまいが、彼ら自身が関心をもつべき問題であって、
彼ら自身だけに関係がある問題だった。>
<現代社会は、組織の社会である。それら大組織のすべてにおいて
中心的な存在は、筋力や熟練技術ではなく、頭脳を用いて仕事をす
る知識労働者である。>
この知識労働の大群が、サラリーマンとマネジャーでしょう。
彼らは、モノの加工や運搬ではなく、分析、企画、設計、決定を行
っている。本部(知識労働)と現場(定型作業)と置き換えてもい
い。
<(本部である)彼らは、知識、アイデア、情報を生み出す。それ
らの生産物は、それだけでは役に立たない。>
<誰か他の者、他の知識労働者がそれを利用し、新たな生産物に変
えて、初めて現実の世界のものとして役に立つ。いかに偉大な知恵
であっても、(現場の)行動や行動様式に適用されなければ意味の
ないデータであるに過ぎない。>
ここでドラッカーが言う行動様式は、現場で習慣化され、定型化さ
れている行動です。つまり固定的な行動の型です。
知識労働は、
(1)自らの生産物(企画や設計になった言葉と数字)を他者に提
供することによって、
(2)他者の行動をより適切なものにすることによって成果を実現
します。
こうした知識労働者は数少ないのか?
<われわれは、すでに、最下層の経営管理者も、企業の社長や政府
機関の長と全く同じ種類の仕事、すなわち企画、組織化、統合、調
整、動機付け、そし成果の測定を行うことを知っている>
(注)この中で組織化(organize)とは、成果をより多く生むように、
人の働きを組み合わせることです。
確かに、わが国で4万店を超えたコンビニエンス・ストアのオーナ
ーは、こうした知識労働者です。
品揃えと発注という知識作業での判断をする。
数十名のパートとの管理をし、評価をする。
個店の経営管理と、パートの動機付けもします。
食品スーパーの生鮮部門のマネジャー(部門マネジャー)も同じで
す。
品揃え、発注判断、売価判断、部門のパートの人事管理、安全管理、
労務管理、労働の成果評価も行っています。
先進国の企業では、最末端に至るまで、組織のいたるところに「経
営の機能」が含まれています。過去の、肉体労働者ではないのです。
■6.プレゼンテーション欠品という知識の事例
ではこうした知識労働の、知識とは具体的にどんなものか?
小売業の生産性と利益を上昇させるために、普及させたいと思って
いる知識のひとつとして「プレゼンテーション欠品」という概念が
あります。
▼欠品
「欠品」とは、物理的にだけ言えば、店頭で陳列された商品在庫が
売れることによってなくなることです。
ストアマネジャーや商品部の担当に、あなたの店舗の欠品率は何%
ありますか?と訊ねると、1.7%や2%という答えが返ってきま
す。
普通に理解すれば、欠品によって売上の1.5%〜2%の機会損失
が生じていることになります。
機会損失とは、その商品があれば売れたであろう推計売上です。
現在の店舗や本部の一般的な理解は、ここまでです。
1.7%か2%の機会損失なら、少ないと思われるでしょう。
大型店10億の売上に対し1700万円〜2000万円です。
▼売れ筋集中という知識と組み合わせれば、機会損失の大きさが定
量化できる
ここに、「別の知識」を組み合わせてみます。
コンビニエンス・ストアでは、品揃えする2700品目〜3000
品目(100平米)のうち、売上高を上位から並べるABC分析を
行うと、およそ共通に以下のような結果を示します。
上位 5%( 130品目)で期間売上の50%
上位15%( 390品目)で期間売上の80%
上位35%( 910品目)で期間売上の95%
下位65%(1690品目)で期間売上の 5%
こうした上位集中は、コンビニエンス・ストアだけではなく、他の
業態の店舗、および大型店・小型店を含んで共通です。
欠品状況が起こるのは、売れる品目についてです。
様々な原因による補充の不適切さが原因で、1.5%程度の欠品は
常時起こっています。
そうすると、たった1.5%の欠品とは言っても、売上の上位5%
(上位130品目)に含まれる品目の1.5%(39品目)なら大
変です。
130品目で50%の売上ですから、それに含まれる39品目の欠
品で、50%×(39品目÷130品目)=15%もの売上の機会
損失が生じている可能性があります。
年商2億円のコンビニで、15%は3000万円に相当します。
1日あたり10万円弱の機会損失です。
粗利益率が15%なら、1日1万5000円の機会損失です。
パートの15時間分の人件費に相当します。
年間では450万円の利益の機会損失です。
ここまでは、2つの知識を組み合わせています。
コンビニのストアマネジャーの知識としては珍しくはないでしょう。
▼3つめの知識:プレゼンテーション欠品を加えれば
以上を、3つ目の知識と組み合わせます。
新しい(しかし実は昔から)言われていたプレゼンテーション欠品
です。
以下の図を見て下さい。■は陳列在庫あり、□は売れて消えた陳列
在庫を示します。いずれの品目も、売上高最上位5%(130品目
)に属するものとします。
品目a ■■■■■■
品目b ■■■□□□
品目c ■□□□□□ →プレゼンテーション欠品
品目d □□□□□□ →従来概念の欠品
従来概念の在庫ゼロ欠品は、当然、新しく補充されるまでの売上は
ゼロになります。
しかし、従来の欠品ではない、品目c(在庫1個)も、売れ行きが悪
くなって、売れなくなるという現象が知られています。
プレゼンテーション欠品というアイデアを発見するには、以下のよ
うな実証(実験)が必要です。在庫数と売れ数を対照すれば、規則
性が発見できるはずです。
品目cについて
陳列在庫数の変化 その在庫数に対応する売れ数
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
■■■■■■■ → 2個(2個の在庫減)
■■■■■ → 2個(2個の在庫減)
■■■ → 1個(1個の在庫減)
■■ → 0個
■■ → 0個
■■ → 0個
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
仮説としては、3個未満になると、急に売上が低下するプレゼンテ
ーション欠品に相当すると思われます。
これは、特にお弁当の在庫数と売上数で観察されたことです。
顧客の心理では、棚の在庫が2個になると、賞味期限は十分に残っ
ていても、多くの人の手に触れた「残りモノ」に見えます。または
廃棄される直前の商品に見えます。
欲しいものであっても、新しいものが入荷してから買おうという気
になります。(全員ではなく、大多数のつまり80%の人の判断)
お弁当のみでなく、他の生鮮商品(例えば牛乳等)でも同様の現象
が観察できるでしょう。
▼新しい知識
賞味期限のある生鮮だけではなく、およそ単価3000円未満の他
の商品分野(食品のグロサリー、飲料、家庭用品、トイレタリー用
品等)でも、この「プレゼンテーション欠品という現象がある」と
見るのが、新しい仮説です。
【心理】
顧客の心理としては、陳列在庫が3個未満になると、「これは古い
商品で、新しい別のものと入れ替わるのではないか?」という疑念
が生じます。
【商品情報】
顧客は店頭の棚の状況で、「商品情報」を知るからです。
店舗は商品情報を、顧客に提供し、選択を促す場でもあります。
この商品情報と言う概念が、顧客に対する店舗の働きの鍵です。
「顧客は、お店の棚の実に多くの種類のケチャップの中から、たっ
た一つを買う」 買ったものはたった一つであって、そのひとつを
選択できた理由は、店頭に「多くの種類のケチャップ」という「商
品情報」があったからです。
顧客は、店舗で商品情報を消費し、ひとつの商品を選ぶ。
選ぶ商品の在庫が3個未満であれば、「入れ替わる商品、または古
い商品」という商品情報を伝えてしまう。そのため、急に売れなく
なる。
ここが、店舗の不思議なところでもあります。
そのために、商品構成という必要技法(知識)がある。
「品揃えの豊富さ」とは何か、ということです。
顧客は、店舗で、結果としては買わない商品も、商品情報として消
費しています。これが倉庫の在庫と、店舗の在庫の性格がまるで異
なる点でしょう。
顧客は品揃えを買うのではない。たった一個の商品を買う。
しかし、品揃えを商品情報として、店舗で消費する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
商品情報の消費→判断→購買
↑ ↓
十分な在庫 たった1個
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どんな状態が買うのに十分な在庫と商品種類か、これが店舗の商品
構成です。20年来の研究テーマのひとつでもあります。
知識は、常に意識しておけば、あらゆることが機会になり、進歩す
るものです。会食や買い物の時も、ヒントがある。
【現場作業の変化】
在庫3個未満で以上のようなプレゼンテーション欠品が生じている
とすれば、安全在庫を含め、小売店舗の在庫管理の基礎が変わりま
す。
従来と同じ作業時間で、方法を変えることによって、売上増と利益
増という成果を得ることができる可能性があります。
【研究事項】
研究事項としては、
(1)どんな商品(品種)で、プレゼンテーション欠品による売上
の急低下が生じるているか?
(2)どんな価格帯の商品で、プレゼンテーション欠品による売上
の急低下が生じるているか?
以上を実証すれば、新たな品揃え方法、フェーシング(棚の品目個
々でいくつの顔を作るか)の方法、最低在庫の概念と発注数の決定
方法になるはずです。
店頭の在庫管理については、以上のような「3個未満のプレゼンテ
ーション欠品」を含め、知識と技術の大きな不足があります。
多くの現場の在庫管理の実態を見て、「ここはほぼ未開分野」と言
ってもいいくらいと思っています。
更にこのプレゼンテーション欠品は、従来の店舗の在庫管理におけ
る基準在庫数で、在庫日数を一定化(たとえば4週分等)とする「
売れ数比例陳列」に変えるという作業改革にまでつながって行きま
す。
こうした事例が、知識作業者による生産物、または成果です。
この知識自体では成果を生みません。
店舗の成果をあげるのに必要な、在庫管理の現場作業として理解さ
れ、その方法が新しい現場作業になることによって初めて成果が出
ます。
知識労働者、マネジャー、またはエグゼクティブの仕事の方法を理
解されたでしょうか?
知識:教育・学習・訓練・経験を通じて得られた物事への理解、技
術または情報
こうした、成果を生むために有効な知識は、命令によって生み出す
ことはできません。統制できるのは、動作や作業です。人の頭脳は、
統制できません。
肉体作業とは異なる性格をもつ「知識労働」をどう行うべきか、以
下は次号です。
そして知識によるマネジメントは、どういった方法を持つのか?
以下、次号で。
see you next week!
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<241号:株価上昇の可能性を検討する(1)>
1.株と株価とは何か
2.株価とPERの関係の基本
3.DCF(Discount Cash Flow)法による株価
4.ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)
5.2000年以降の日本企業
6.株価の上昇
<242号:株価上昇の可能性を検討する(2)>
【目次】
1.金利と株価の基本
2.(1)PER(Price Earning Ratio:株価/収益の倍率)
3.(2)2つ目の概念、株式益回り
4.(3)3つ目の概念、イールド・スプレッドを使えば
5.国債が売られ長期金利が上がれば
6.3つの概念の確認
7.株価の上昇に必要な低金利の継続という条件
8.05年8月の論考と、本稿の論旨の関係
9.今回のシリーズ
10.物価は4領域に分離して観察しなければならない
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