特別号 スペイン紀行(1)
This is my site Written by admin on 2005年10月17日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。大学生のころでした。世界を見たとい
う人に「どの国が良かったですか」と訊ねました。しばらく考え「
スペインです・・・」 これが、スペインに来た動機です。

スペインの南西、ポルトガルに近いセビリア(当地ではセビージャ)
の、ホテルの机で書き始めています。

バルセロナ、セビリア、コルドバ、グラナダ、マドリッドまでをめ
ぐる、10日では欲張りな、8名のグループ旅行です。

街、建物、店舗そして人々を見る。スペインは、中世の歴史が現在
を蔽(おお)います。これがスペインの魅力です。

古いものに価値を持たせる。古いものを残すのは、意志です。

イスラムから領土を奪回し、コロンブスがアメリカ大陸を発見した
16世紀末(日本の戦国時代)が、スペインの全盛期です。

殖民地によって、世界におけるポジションがもっとも高かった。そ
の後、勃興した英国に破れ、つかの間の世界覇権を失います。ラテ
ンアメリカのスペイン語圏は、過去のスペインの支配を示すもので
す。

英国とは今も、ジブラルタル半島(現在は英国の海外領土)の領有
権を争っています。

われわれはルネサンス(16世紀)以前の西欧中世について、暗黒
時代のイメージを持ちます。

理由は、日本人が西欧に含むのは北方のドイツ・フランス・英国で
あるためです。ドイツ・フランス・英国の視点で、南欧(イタリア
・スペイン)を見てしまいます。

スペインが栄華を極めた当時(無敵艦隊:16世紀)は、北の国々
での文化の洗練と産業は遅れていました。

教会だけではなく、至るところ1000年も前の住居が残り、修復
を続け、人々が利用しています。過去を廃棄してきたわが国と、歴
史の時間感覚に違いがあります。

(注)米国と西欧は、今が金融バブルのピーク期。スペインで日本
の株価上昇を聞くと「民間経済の実力から見て当然」と思えます。
こうした視点を与えてくれるのも、旅行のいい点ですね。

日本でひどい状態なのは、政府部門です。日本にいれば、政府のプ
レスリリースが新聞等のニュース源であるため、民間経済を見る目
が曇ってしまいます。

日本の輸出力は、未だに世界最高です。
自信を持って、いいと思います。
西欧に来ると、そう思えるのです。

今、米国・西欧の金融バブルが、はじけ始めた感じがします。

(注)本稿は、有料版としてスペインからお送りしたものに、若干
の修正を加えたものの、前半を特別号としてお届けします。

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   <Vol.215 特別号 スペイン紀行(1) >

【目次】

1.スペインへ
2.歴史:イスラムからの国土奪回
3.太陽が焼くイベリア半島
4.バルセロナにて
6.ガウディ(1852-1926)は自然を模倣した
7.サグラダ・ファミリア教会は、砂の城だった
8.モンセラットの山
               (次号へ続く)

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■1.スペインへ

突然にスペイン・・・関係の縁(=際)の手がかりに困る人が多い
でしょう。私も同じです。どこから着手するか。

有森裕子が痩せた小さな体で、凸凹の石畳を走り、銀メダルを取っ
たバルセロナのオリンピックしか知りません。それと、サッカーの
ドリームチーム、レアル・マドリッドでしょうか。

国土は日本の1.3倍です。意外に広い。人口は4100万人くら
い。17の自治州の、地方分権が強い多民族・多言語の国家です。

ジブラルタル海峡を挟んだアフリカの北端モロッコや、政情が不安
な中東からの移民と不法滞在が多く、人口は計算基準によって数百
万人変わります。ユーロ諸国の入国査証は、米国ほど厳しくありま
せん。

皮革・畜産・ギター・オリーブ・ワイン・陶磁器、リヤドロの精巧
な人形等・大理石等の石材・家具が伝統産業を形成しています。闘
牛、フラメンコ、サッカーへの熱狂は言うまでもありますまい。

あれこれ思い悩む必要はない。問題があっても、いずれなるように
なるというのがスペインの気風でしょう。

平均的な世帯所得は、約300万円、日本の約半分です。
ユーロが140円前後に上がっているため、物価も高い。

2001年以降の通貨の本質は、ユーロ高というよりドル安です。
円が財務省の通貨政策によって事実上ドルにリンクし、ドルの価値
調整の通貨になって、米ドルとともに下落したためユーロが高く見
える。

決してユーロ高ではなく[米ドルと、ドルにリンクする円]が安い
というのは発見でした。

日本の消費税5%に相当する付加価値税(VAT)は16%です。
店頭価格の13.8%が付加価値税です。想定される増税後の日本
に似ていると言ってもいいでしょう。

豊富でありふれた資源である石材と土を焼いたレンガを使う建造は、
街に5百年、千年の歴史を含ませます。

イベリア半島の中南部の山に、木はない。石灰岩が露出する奇妙な
山、つき抜けるような群青の空、銀鱗のように輝く地中海が、南欧
の景色のキャンバスです。

各都市のいたるところ、世界遺産となった建造物や建物があり、世
界からの観光客が多い。観光は、この国最大の産業です。

今は、独仏の自動車産業が工場を作る。建設途上の住宅が実に多い。

年間観光客数は、人口を上回る5200万人(03年:WTO)で
す。フランスの7500万人に次ぎ、世界で第2位です。

日本からは20万人で、観光客のシェアでは0.4%です。

■2.歴史:イスラムからの国土奪回

▼700年間のレジスタンス

スペインが西欧諸国と違う点は、西暦711年から1492年まで
の7世紀にわたって、イスラムに占領されたことです。

中世から近世のイスラムは、学問と技芸で進み、西欧は遅れていま
した。スペインには、イスラムとの争いが残した文化的な融合があ
ります。

イスラムの最後の城だったアルハンブラ宮殿(グラナダ)の無血開
城まで、およそ7世紀、イスラム(ウマイア朝)はイベリア半島を
制圧していました。いたるところ、メッカの方角に礼拝するモスク
(礼拝堂)が残っています。

(注)モスクは、西欧的な、神の偶像を祀(まつ)る教会ではあり
ません。集まって礼拝する場というのが正確です。寺院ではなく集
会場です。

中世は、宗教がアイデンティティでした。スペインとポルトガルが
あるイベリア半島は、イスラム教とキリスト教の抗争の場でした。

人々は、農、牧畜、宗教、そして絶え間ない戦争の、酷薄な生活を
生きていた。今も、イスラム人(びと)は、宗教を生きます。

イラクでは、米国が言うテロが続いていますが、中世は、略奪と戦
争が日常でした。そのため、一カ所に土地を固定する農は発達せず、
羊という経済財とともに移動できる牧畜でした。

今日本人は、何を生きているか。社員の身分、労働時間、俸給の生
活でしょうか。

国土を回復(レコンキスタと言う)をしたのは、英傑イザベル女王
の時代(15世紀末)です。700年ものイスラムの支配に対し奪
回のために戦い続けた。レジスタンスで700年・・・

西欧が世界に覇権を獲得するのは、化石燃料を使う外燃機関(蒸気
機関)を利用する産業革命(エネルギー革命:18世紀)、そして
複式簿記による利益計算の方法(本質は資本と利益の区分:15世
紀)を発明してからです。

他民族に占拠されることが、どんな怨恨をもたらすか。

プラド美術館(マドリッド)のゴヤの絵画は、戦争の狂気と残酷を
写します。ヒューマニズムは、宗教を克服した近代のものです。中
世にヒューマニズムはなく、人は、酷薄さを生きていた。

イスラエルとパレスチナの終わりなき争いに、その一端を見ること
ができます。双方の戦後数十年の領土争いも、一瞬でしょう。歴史
的な時間感覚が、相当に違います。

歴史が現前(プレゼンス)するのが、西欧とイスラムです。

時代とともに思考の衣装を脱ぎ捨ててきたわれわれの、世界認識の
方法とは異なるところにあります。

先般の大規模テロも、スペインの歴史的背景を思えば、なぜマドリ
ッドだったかも分かります。

▼イスラムの宮殿、アルハンブラ

グラナダの山腹に立つ、広壮な、言葉を失う美と文化を示すアルハ
ンブラ宮殿は、イスラム侵略の最後の牙城(1492年陥落)でし
た。
http://www.arch-hiroshima.net/a-map/spain/alhambra.html

アルハンブラ宮殿内のハーレムを含め、イスラム宮廷人の生活の跡
が残る部屋、壁と天井を覆うアラベスクの幾何学紋様、刈り込まれ
た庭園と湛えた水は、影のように当事の人々を浮かばせます。

石壁の部屋の中央に噴水があり、床の浅い溝を水が流れます。
砂漠の遊牧の民には、水は豊かさの象徴です。

イスラム教は、偶像を禁止します。そのため人や風景を描いた絵画
はない。絵がないために、大理石の壁面の模様を見れば、アルハン
ブラ宮殿では却って想像が膨らみます。

▼巨大モスク、メスキータ

南部コルドバの、これもまた巨大な回教寺院(メスキータ)は、イ
スラムを追放した後のモスク(礼拝場)を、カトリックの寺院に改
修したものです。
http://www.joyphoto.com/japanese/abroad/2001spain/cordoba/mezquita01.html

コーランのアラビア語を神の言葉とし、イスラムのアラベスク(紋
様)と、キリストや聖徒達を形どった偶像が、メスキータではひと
つの建物の中に並んで混在し、奇妙な印象を与えます。

古代ローマ帝国の歴史を解きながら、傑出した人物の思考と行動を
描いた塩野七生に倣い、中世のスペインを書けば、面白いとも思え
るのです。(どなたか、試みたらいかがでしょう。)

イスラムは、まさに現代の問題です。

■3.太陽が焼くイベリア半島

郊外をバスで走れば、黄土色の岩山にへばりつくように、レンガと
石で作った家の集落が見えます。まさに、イメージ通りのスペイン
です。日本が、森と水の国であることが改めて了解できます。

アフリカのサハラ砂漠にも近く、乾燥したイベリア半島はほとんど
が、農地には不適な、石灰質の台地です。南欧の、山に木がまばら
で白い景色は、石灰石から来ます。

木がまばらな土地に、ところどころ鉛筆のように細い糸杉が立ち、
背の低い潅木に見えるオリーブ畑が、際限なく続きます。オリーブ
は、葉が細く乾燥と石灰に強い。

わが国の総国土の1.5倍はあるイベリア半島の中南部の台地のほ
とんどが乾燥した大地にオリーブ畑と言えば、その風景が目に浮か
ぶでしょうか。世界のオリーブの40%を産します。

石ころや岩が露出し土の少ない固い土地は果てしなく続き、地面は
白く土煙が立つ肌を露出させ、オリーブの木が並ぶモヒカン刈りの
ような幾何学模様を作っています。ところどころに朽ちたレンガ造
りの廃屋が見えます。

遠目には、茨(いばら)の毬藻(まりも)に見えるオリーブの木で
す。

オリーブ油は、ほぼすべての料理に使われます。香味の強い油を使
う地中海料理が続けば、いささか食傷します。生ハムにあたったの
か、強い胃の私にしては珍しく、1日ダウンしました。

▼(余計なこと)カップ麺に感激したのです

ホテルの部屋でお湯を沸かし作ったカップ麺が、なじみの味であり、
超絶的なおいしいさを感じました。スペインで不味いものばかり
を食べたわけではないのですが・・・

カップ麺はインスタントだと妥協せず、日本人の本性であるマニア
ックさで、細部の完成度を極めた、高品質な産物です。食品の傑作。
アジアでは高級食物でしょう。

こうした技術があれば、日本は今後も、大きく大丈夫と思ってしま
ったのですから、私も単純な思考をします。

車や電子工業のマイクロ技術に通じます。80年代、90年代を経
て日本のものは、精密になっています。価格も十分に下落しました。

物価を下げた国は、世界の中で日本だけだったからです。
株も不動産価格も、加えていいでしょう。

人口が減少に向かうことも、何の問題でもない。二重構造で遅れた
部分(農林漁業・流通業・金融業・サービス業)の生産性を高める
機会になります。

(注)生産性の低い産業を保護してきた政府部門の巨額赤字(国と
地方で年71兆円)に、問題があるだけです。

■4.バルセロナにて

バルセロナではやはり、一生に一度は見たいと言う人が多いガウデ
ィの建築、そして、ピカソの仕事を幼少からの年代記で総覧させる
ピカソ美術館が印象を残します。

近代日本や米国が、組織的な活動を主とした『企業の国』であると
すると、スペインは、『個人の国』であることに気が付きました。

ガウディ、モンタネール、グレコ、ミロ、ダリ、ゴヤ、ピカソ、セ
ルバンテス、オルテガ・・・

スペインは、時々、途方もない天才が現れ、超人の仕事をする国で
す。ラテンの、国民性がもつ特性でしょう。イタリアにも共通しま
す。組織活動を苦手とし、個人として才を発揮する。

■5.ピカソという技芸家

天才とわれわれは、どう違うか。
徹底への情熱の継続に思えます。

人物の性格までも描きとる肖像画を見れば、ピカソは10代ですで
に大家です。具象的な肖像画は、完成の高みに登ってしまっていま
す。

▼困難な義務を背負う

スペインの哲学者、オルテガ・イ・ガセットは、『大衆の反逆』(
1930年)の中で以下のように言います。

<人間についてのもっとも根本的な分類は、次のように2種の人間
に分けることである。一つは、自分に多くを要求し、自分の上に困
難と義務を背負いこむ人であり、他は自分になんらの特別な要求を
しない人である。後者にとって生きるとは、いかなる瞬間もありの
ままを続けることであって、自身を完成しようとする努力をしない。
いわば波に漂う浮き草である。>

ピカソは、自身に多くを要求します。権利の前に義務を、他人に要
求すべきことの前に果たすべき困難を考える。

ピカソが絵画でぶつかった困難は、それまで誰もが乗り越えたこと
のなかったレベルのものでした。

▼精神を写し取った肖像画

13歳のころの「ペパ伯母」の肖像画は、黒い背景に、白く浮かん
だ皺だらけの表情に、伯母の複雑な性格までを写し取っています。
見れば絵と対話ができそうなのです。
http://www.museupicasso.bcn.es/colleccio/index_collec.htm

肖像画で、人物の精神や心までを写す。顔は精神を表す。いや精神
が見えるまで凝視し、絵の具を使い表現する技法がある。ピカソの
大きな目は、人を射抜く。そして言う。

「肖像画は、1時間以内に仕上げないと、できがよくないというこ
とだ。」 ともかく、すごい速度で描く。

少年時代にこうした高みに来た。あとはどう生きるのか。その後、
自己評価との折り合いをつける格闘が続きます。憂鬱な青の時代(
20歳〜23歳)です。

世界は、自分が見るようにしか見えない。高い基準を自己の内部に
巣食わせた宿命の人々にとって、やっかいなものは、自己評価です

自分が作ったものを評価する目は、次第に高くなります。

自分の手の技芸で作品を作り続け、高くなる自己評価を超え続けね
ばならない。

そうしたことに、才が囚われる人がいる。そして彼自身の内部で、
技芸(art)の歴史を再現し、その上に未踏の歴史を作って行く。(
事業も似ています)

あらゆるものの上に描き尽くし、最晩年のピカソは、段ボールをキ
ャンバスにしています。(黒澤明が、ロケの旅館で、チラシ広告の
裏に脚本を書いていたたことを思い出しました。)

遺伝学に「個体発生は系統発生(種の発生の歴史)を繰り返す(メ
ンデル)」という説があります。

卵子と精子の結合が人体を作る個体の発生過程は、生命の進化の歴
史が、10ヶ月で再現されているように思えます。

ピカソは、絵画の歴史を、自身の仕事の、乗り越えるべき過程とし
て、たどっています。

【肖像画】
幼少のころの肖像画では、モデルの性格までを表現した。
性格、生活、思想、その人の歴史は顔で表現ができる。

ゴヤの肖像画(プラド美術館)も、人の顔を描いて、その人の思考
と性格、人格を写します。

そこを超えて、次に向かう表現の冒険は何か?

▼見えないものを見る

3次元の立体(キュービズム)の世界を、平面という2次元のキャ
ンバスに表現すればどうなるか。

遠近法は、見る視点を個人の目の一点に固定させる。神の視点だっ
た平板な宗教画を脱した、ルネサンス期の人間の視点が遠近法でし
た。

神は世界を同時に多視点で見る。エル・グレコ(1541-1614)のよう
な天上と地上を同時に見る絵になる。

人間は1点からしか見ることはできない。そうすると遠近法です。
ベラスケス(1599-1660)は、遠近法で平面を立体化します。

遠近法で立体を見ると、隠された裏は見えません。

裏までも同時に見ようとすれば、紙細工の展開図のようなものにな
ります。少年雑誌の付録。組み立てることに熱中し、完成した途端
に、無意味なものになった紙細工。

ピカソのキュービズムは、夢の中に現れる、表も裏も同時に見える
顔のようです。

人は夢の中で、顔の表も裏も同時に見ることができます。
夢の中では、裏が見えます。不思議な世界です。

ピカソの絵は、人体の表面の展開図のように思えます。見ること並
外れて貪欲で、目だけで対象物の全体を絡め取ってしまえば、ピカ
ソになるのでしょうか。

彼は、遠近法では不可能な、複数の視線で同時に見える形を、一枚
の平面に、一度に描くことにこだわっています。

複数の視線を持ちえるのは、再びの神です。

■6.ガウディ(1852-1926)は自然を模倣した

スペインで最初に訪れたのは、バルセロナの、地中海を見下ろす高
台にあるグエル公園(1900-14)でした。

資産家エウセビ・グエルが土地を提供し、当時は無名だったガウデ
ィの才能に目をつけ、設計を依頼したものです。当初は、15ヘク
タールの土地に、62邸の住宅を建て分譲を企図したものでした。

売れず、資金に詰まり、バルセロナ市に売却されます。
バブル崩壊後の、わが国の施設に似ています。
ガウディの設計は、商売の成功に無縁だったようです。

世間の速度にリズムが揃わず、人が評価できるレベルをはるかに突
き抜けてしまっていたからです。(100年後の今は、価格が付か
ないくらい高い。)

段ボールに殴り描かれたピカソの絵だけを見ても、評価することは
難しい。下手な絵が描かれた、ガラクタにも思えます。

意味を読み取れないからです。描いたのは晩年のピカソだと聞き、
急こしらえのわずかな知識と照らし「あぁ・・・」とは思います。

グエル公園の鉄の扉の門を入って、右側の木々の間に見えたの、ま
るで「巨(おお)きな蟻塚」でした。土と瓦礫の山です。『建築』
とかけ離れています。

ガウディは波打つ曲面です。原色に彩色されたタイルを、砕いて貼
る。思えば『自然のもの』の表皮は直線ではない。だから曲面にな
る。

砕いた原色のタイルを張って、うねらせたベンチは、極彩色の蛇が
のたうっているようです。

http://www.joyphoto.com/japanese/abroad/2001spain/barcelona/guell.html

散歩道は鍾乳洞でした。掘り起こした岩を砕き、セメントを接着剤
にして貼り付け洞穴を作る。奇抜さに、びっくりします。

■7.サグラダ・ファミリア教会は、砂の城だった

ガウディの代表作は、有名なサグラダ・ファミリアの教会(バルセ
ロナ)です。サグラダは聖を、ファミリアは家族を意味します。キ
リストの『聖家族教会』です。

蟻塚を巨大にし、天まで引ぱって、糸杉のように伸ばしたような風
情です。

砂浜で、海水と砂を混ぜ、指の間から滴(したた)らせれば、瞬間
に海水が砂に浸み込み、水を失った砂は固まって、紋様を描きます。
飽きず繰り返し、注意深く滴らせ高く積めば、形ができる。

サグラダ・ファミリアの教会は、子供のころ、夏の熱い砂浜で作っ
た砂の城のようでした。砂の城に意味はなかった。砂の城を、数百
万倍に引き伸ばせばガウディです。

http://www.shibata.nu/gaudi/familia.html

何回も建設は中断し、今は入場料を資金に、建設が続けられていま
す。ガウディは電車にはねられ、72歳で死にます。

内部に組まれた格子の鉄パイプを見れば、いつ終わるとも果てしな
い工事と分かります。少数の職人が見えます。災害後の修復にも見
えます。

目的、工程、期限、予算という、われわれが慣れ親しんだ資本主義
の概念とは別の尺度で計らねばならない世界です。完成させ、遺跡
にすることに、一体何の意味があると訴えている感じもします。

われわれの目は意味を求めますが、そうしたことと無縁のものがあ
ります。『自然』が意味づけもなく、ただ在るように、ガウディの
建造物も在る。

バルセロナで会った知人は、1年半前から、自分の住宅のリフォー
ム工事を依頼しているとのこと。開始から1年半経っても未完です。
今日も、家に職人が来てなにやら工事が続いているとのことでし
た。時間の感覚が、違います。

時間に終わりがないように、人の営みにも終わりがない。そして自
然にも終わりがないように、サグラダ・ファミリアの建造(188
3〜)も終わりがない。

完成はガウディの没後100年にあたる2026年とされているよ
うですが、コミットメントは、当てにはならない。時間を無視し、
とてつもないものを作るのがこの国です。未完のまま、放置するこ
とも多い。

■8.モンセラットの山

サグラダ・ファミリアの後、バルセロナの市街から車で約1時間(
38Km)、岩山を800メートルくらい登った、モンセラットの
山にある修道院に行きました。岩山の海抜は1200メートル。

急峻な岩山に刻まれた、離合が難しい狭い道を、バスは相当の速度
で登ります。踏み外せば、数百メートル転げ落ち、岩にぶつかって
粉々になる。

運転手に緊張の様子はない。ガイドと冗談を交わしスペイン風の気
楽さでハンドルをくるくる回す。ジェットコースターのようです。

何と形容できるか、モンセラットの山は「奇岩」です。

「まて貝」が集まっているように見える巨岩が、空に向かい聳(そ
び)えます。下品な形容をお許しいただければ、天に屹立した男根
のようです。

石、砂、粘土の混じった石灰質の礫岩が、雨と混じり自然のセメン
トになって奇怪な風景を作っているのです。修道院より、モンセラ
ット山のほうに存在感があります。

http://www.geocities.jp/kentmayu3/sub17.html

モンセラット山が、ガウディに創造のモチーフ(動機)を与えたこ
とは間違いがないように思えました。頂に立つ縦に長い岩を見れば、
これはまるで、彼が作ったサグラダ・ファミリアの尖塔です。

この山を見て、ガウディが作りたかったものが理解できたかのよう
な幻覚にとらわれました。

「芸術」とはわけがわからないものです。技に優れた人が作って、
実用を超え、人に意味を考えさせると言えば、多少は理解の手がか
りが得られます。

工場作り、ものづくり、店舗作り、物流システム、あるいは情報シ
ステムなどは「効用と経済性」によって規定されます。

経済性の本質は、時間です。投下資本の利益(=経済性)が、時間
で条件付けられること、これが資本主義です。

時間にコミットしているわれわれには、物事が決めた時間通りに動
かないところを残すスペインは、別の視点を与えます。

バルセロナではガウディの建物とピカソの絵、セビリアへ南下して
大聖堂(Cathedral)、グラナダへ移動してイスラムのアルハンブラ
宮殿、そしてコルドバではメスキータ(巨大モスク)と、「時間に
駆られ」次々に見ています。

退職後の住み処を、スペインやポルトガルに決める人も増えている
ようです。しかし今、統一通貨ユーロのために、住宅を含めた物価
は決して安くありません。30%の過剰評価があるように思えます。

いずれ1ユーロ=100円でつりあう感じです。イタリア、フラン
スでも等しく感じたことです。英国のポンドも同じです。

次稿では、住宅バブル(100平米のマドリッドの郊外住宅が80
00万円)の渦中にある、スペインの投機経済について書きます。

see you next week!!

【後記1】
モンセラットの山腹の、修道院の庭には極彩色のダリアが咲き乱れ
ていました。石の壁には、無数の赤や青の蝋燭に、灯りがともって
いました。

ずっと前にお約束していた、酒井麻由子さんの絶唱『愛するダリア』
のCDをお送りする算段ができました。

お忘れの方も多いと思います。<無料版Vol.201:目標についての随
想:04年12月15日号>を参照。

郵便小為替で1000円を以下の住所に送ってください。愛するダ
リアのCDが届きます。送り先は、麻由子さんのお母さんです。

〒136−0072 東京都江東区大島1−34−10−1101
酒井由美子(電話03−3682−6396)

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▼ 有料版の最近号の、テーマと5号分の目次です。

<233号:国の財政の全体を見る>
 一般会計、特別会計、地方財政

【目次】

1.政府の一般会計の内容(2005年度:財務省データ)
2.国の実収入29.4兆円の使われ方
3.政府一般会計の全体
4.(補注)地方も、国と同じ赤字構造
5.国の一般歳出
6.特別会計というグレーの領域
7.純額で一般会計の2.5倍にもなる特別会計
8.社会保障
9.消費税20%への増税

<234号:都市部の無党派層が動いた>

【目次】

1.政党別の得票数と議席:小選挙区
2.前回(03年11月)との比較
3.180の議席を決める比例区
4.今回もキャスティングボードを握った公明票900万
5.自民党の勝因
6.近い将来は?
7.経済

<235号:インフレに転じる時期はいつか(1)>

【目次】

1.ジム・ロジャース
2.デフレからインフレへの兆候
3.わが国の店頭価格(消費財価格)
4.金融資産の数字

<236号:インフレに転じる時期はいつか?(2)

【目次】

 1.米国をブラックホールとする世界の商品と資金
 2.振り返れば、1996年からだった
 3.当たり前で単純な、マネーと価格の原理
 4.(補注)6.5兆円のガイジンの買い越しで、50兆円の時
  
    価を増やした日本の株価
 5.変化した2004年からの、米国への純資金流入
 6.そして商品指数へ
 7.金融資産間取引が、マネーの名目総額を増やす
 8.膨張した金融資産の総額と生産物
 9.インフレのごく初期は好景気、しかし賃金は上がらず
10.一方では世界のディスカウント現象

<237号:インフレに転じる時期はいつか?(3)>

1.物価上昇率と金利
2.金利と債券価格
3.債券価格と金利の関係は何を示すか
4.日本の政府部門は、3%〜4%のインフレにも耐えられない
5. 1%〜2%の期待インフレ率に転じれば
6.期待インフレ率が3%に上がると
7.日銀のバランスシートの現状
8.矛盾だらけの金融政策になる
9.過去の国債発行と、今後の国債発行の違い

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