海外が買った国債の危機が、いよいよ迫っている
Written by admin on 2011年7月13日 – 09:00
おはようございます。先週号(前編・後編)を送った後、PIIGS 5 ヵ国の国債は、同時に売られ、金利が上がっています(国債価格は 下落です)。CDSを買っていたヘッジ・ファンドの高笑いが聞こえ ます。 金融危機から約3年、対策としてマネーを刷って、金融機関に貸し 付けてきた世界は、今、同時に「マクロ経済不安」の中にあります 。マクロ経済は、政府財政と金利です。不安は、危機の前の心理で す。 その中で、財政見通しが最悪のギリシア国債に関しては、ユーロ防 衛に当たっているはずのEU(欧州経済連合)自体が、7月になって 、「デフォルト(債務不履行)」を言い始めました。ドイツ国民の 世論が、「南欧に救済資金は出さない」ということだからです。 理由は、南欧の政府財政の改善が見込めず、債務の繰り延べしか方 法がなくなっているからです。ギリシアの長期金利は、同国の国債 が、市場で売られているため16.1%です。財政信用がなかったパキ スタンの11%を超え、世界最高です。 満期が来た国債の償還繰り延べが、デフォルトです。政府のデフォ ルトは、その後のインフレで相殺されるのですが、債務がユーロ建 てなので、南欧のインフレでは返せず、ユーロで返すしか方法がな くなっているのです。徳政令(債務カット)が解決策ですが、それ を行えばPIIGS債をもっているフランス、ドイツ、英国の大手金融 機関がつぶれます。 ポルトガル、スペインそしてイタリアへの国債下落の波及と、それ とともに起こるユーロ暴落を懸念し、 (1)ユーロ債(短期金利 1.54%)が売られ、 (2)米国(短期金利0.13%)に次いで金利が低い日本の短期国債 (短期金利 0.16%)が買われています。 短期国債は1年以内に満期が来て、発行額面の償還を政府が保証す る債券です。長期債(日本は1.10%と世界最低:米国は3.10%)よ りリスクが小さいため、金利は低い。 ユーロからの避難の円買いのため、11年度の経済成長が見込めない 円も逆に高騰し、今日(7月13日)は、79.4円になっています。本 来は、大震災と原発の損害で円は下落するはずです。ところが世界 は、奇妙に円国債(短期債)を、11年1月から5月までに、50兆円( !)も買い越しているのです。(後述) (注)$1=80円以下の円高は、「ドル債を買い支える政府介入」 を促すサインですが、今の日本政府には、その余力がないでしょう 。 EUは、 (1)資源価格上昇、 (2)ユーロに対する人民元上昇(中国の輸出は米国より対ユーロ が多い)、 (3)ユーロ下落の3つが重なったことが原因のインフレ(5月でCPI (消費者物価)は+2.7%)を抑制するため、0.25%の利上げをして います(7月7日)。ユーロ防衛のための利上げでもある。 しかしユーロ下落の勢いは、EUでGDP3位のイタリア国債(長期金利 4.95%)と、4位のスペイン国債(長期金利5.56%)もギリシアと 同時に下落しているので、止まりません。 (参考)最高の格付け(AAA)であるドイツの長期国債の金利が2.9 8%です。このため、同じユーロでもイタリア国債の1年間の保証料 (CDS証券)は、2.5%以上に上がる趨勢です。 国債が下落し、金利が高騰するのが、金融と経済にとって困るなら 、中央銀行が国債を買えばいいという論があります。 本稿では、まず、これを検討します。 日本も、2011年の秋から向かう道と思えるからです。 (注)米国では、昨年11月からFRBが$6000億(48兆円)の米国債 を買い(QE2)、国債を新規発行する政府と手持ち国債を売る金融 機関やファンドに現金を供給しています。このゼロ金利マネーが、 世界にキャリー・トレードされています(ゼロ金利で借り、利回り が見込めるものに投機すること)。 円高も、ゼロ金利のドル(短期金利0.13%)による円債(短期金利 0.16%)の買いが原因です。 ユーロやドルを基準に見れば、30倍のレバレッジをかけて買った円 の実効レートが5%上がると、巨額利回り(元本に対し150%)にな るからです。利回り=債券の金利±通貨の変動、です。 例年、8月から9月(米欧の新年度)にかけ、国際金融にはパラダイ ムのシフト(従来の枠組の変更)が仕掛けられます。毎年の、年中 行事と見ていい。今年は何か? 国債価格の下落への懸念に思えま す。 注意点は、国債価格の下落で利益を得る英米系投資銀行と、再び08 年の金融危機前と同じ$2兆の元本資金を手にしているヘッジ・フ ァンドの餌食にならないことです。彼らの円の短期債の買いは、「 羊や豚は太らせて食え」と思えます。 低い料率でCDSを仕込んでおいて、機を見て、国債の先物を売る( 国債価格を下げ、金利とCDSを上げる)ということです。米国債に 対しても、同じ戦略に思えます。$2兆と、再び、金融危機の間前 の水準の巨額な元本をもつようになった、ヘッジ・ファンドには、 これができます。 マスコミ、政府系エコノミスト、証券会社が言う「日本経済が強い ことを期待した買い」ではないでしょう。本稿も31ページです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <546号:海外が買った国債の危機が、いよいよ迫っている> 2011年7月13日 【目次】 1.過去800年で繰り返された、国家の財政破産に共通なこと 2.中央銀行の、国債購入に有効性があるのは・・・ 3. 2011年度の国債発行と、その引き受け 4.(重要)2008年以降、 日本国債に対し、40~50兆円/年を海外が買い越している 。 5.海外からの、 短期債の巨大(年間の速度で100兆円)な買い越しは、危険 6.日銀の国債買いが、もうすぐ、余儀なくなる 7.中央銀行の誘導に市場が従わなくなったとき、 市場の金利の高騰は、短期で起こる 8.売られる国債を日銀が買い受けると、どうなるか? 9.主な行き先はデリバティブで、その結果はインフレと 金利の高騰、そして、国債価格の下落 10.デリバティブに資金が流れる結果は、 世界の資産、証券、資源バブルと、その崩壊である 【後記】プット・オプションか、CDSの買い ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.過去800年で繰り返された、国家の財政破産に共通なこと カーメン・ラインハートとケネス・ロコブの労作、『国家は破綻す る(2011.03)』は、世界の800年間もの財政・経済を定量的に調べ 、金融危機(銀行の債務超過)の以降に起こる国家財政の破産は、 あらゆる国で頻発していることを明らかにしています。 25年か50年に一度のため、稀と思われているが、800年で見ればM8 級の大地震より、はるかに高頻度でした。 国家の財政破産に見られる、共通パターンと過程は以下という。 (主旨は要約し、解釈と、近年~現在を付加しています) 信用拡大の後、金融収縮をもたらす金融危機は、長引く性質をもっ ている。深刻な金融危機の後は、以下の3つの特徴がある。この3つ の特徴が、時系列で起こる。 (注:近年に置き換えれば)金融危機は、日本は1997年以降、米国 と欧州は2008年8月以降でした。中国は(予想では)2011年冬か201 2年春になるでしょう。中国の不動産バブルの崩壊が、何月とは、 言い切ることはできません。 ▼(1)第一の特徴 は「広範囲で長期な資産価格の下落」 資産市場(不動産、株式)が大幅に落ち込み、回復に長期がかかる 。実質住宅価格(インフレ率を引いた後)は、平均35%、株価は約 3年半に渡って平均65%落ち込む。これが金融危機を深刻化させる 。 (注:近年)日米欧の不動産と株価の下落は、言うまでもないでし ょう。中国は、株価は下落していても、08年9月以降の政府の資金 供給(50兆円)によって、不動産価格はまだ下げていません。近々 、このバブルも、はじけます。 ▼(2)第二の特徴 は「生産の落ち込みと失業の増加」 銀行危機の後には、(信用収縮のため)生産と雇用が大幅に落ちこ む。失業率は、景気循環の後退局面で平均7%増加し、この水準が 平均4年以上続く。 (注:近年)現在、米国の失業率は9.1%、ユーロ9.9%(うちギリ シア16.2%;スペイン20.7%;イタリア8.1%;フランス9.4%)、 日本4.7%、中国6.1%と高い。特に米国と欧州の失業率は、深刻で す。 わが国では2000年代の非正規雇用(11年現在35.4%:3人に1名)の 増加が、失業率が10%になるのを緩和しています。総賃金の下落が あるので同じです。1990年の非正規雇用は、20%でした。 生産高は、ピークから底まで平均9%落ち込むが、低迷は平均二年 で、雇用の落ち込みに比べて短い期間で回復する。 (注)日本の製造業の稼働率(指数)は、2005年を100としたとき 、震災前の2月まで93.7でした。震災後は72.8(4月)と急落し、前 年比で21.4%のマイナスです。米国の鉱工業生産指数は、2005年に 対し93(5月)です。ユーロは07年を100としたとき約90です。いず れの国も、低迷が続いています。 ▼(3)第三の特徴 は「政府債務の急増」 政府債務の、(インフレ率控除後の)実質価値が急増する。第二次 世界大戦後の主な金融危機では、政府債務は、平均で86%拡大した 。 政府債務の増加は、金融機関の救済措置よりも、政府税収の落ち込 みによる部分がはるかに大きかった。同時に、政府は金利の上昇に よる債務の負担増加に苦しむ。加えて、景気上昇を目的にした財政 支出の拡大によって、税収が激減する中、政府債務が一層膨らむ。 (注)今、日米欧と中国は、同書が挙げる「金融対策+景気対策+ 税収の落ち込み」の三点セットで、同時に、政府債務が膨らんでい ます。これが、税収増加で減少する気配は、ないのです。 『国家は破産する』は、過去800年に25~50年のサイクルで起こっ た国家財政の破産を述べています。上記の各項の注では現在を対比 しましたが、過去のパターンと瓜二つなのに驚きます。 まさに「800年の間に何回も来た道」を、忠実に、たどっています 。25年や50年という期間は、人々の記憶を消すくらい長いので、「 国家財政破産は、大地震のように、極めて稀だ」と思っているに過 ぎないのでしょう。 ▼中央銀行のマネー印刷という対策があるが・・・ 今は、金本位制ではない。中央銀行は、金保有高に制限されず、必 要なパーパーマネーを刷って、国債を買うことができる。政府が、 中央銀行に国債を売れば、利払いや返済に必要なマネーが入る。国 家財政破産(デフォルト)はないという論者も多い。 中央銀行がなく、金本位の時代も、通貨の金含有率を低下させ、あ るいは銀行の金準備率を低下させれば、マネーの増発はできていま した。金本位が、国家財政を破産させたというのは嘘です。 中央銀行があれば、国家財政は、通貨を刷ることができるから、な いというのも虚言です。 確かに、中央銀行が「金融規律」を無視するなら、国債を買って、 代金振り込みとして、マネーはいくらでも刷ることができます。 (注)金融規律は、中央銀行の発行マネーが多くを決めるマネーサ プライ(=預金量)の増加を、「実質GDPの予想増加率+3%以内」 くらいに抑えること。目的は高いインフレ率(3%以上)の防止で す。インフレは、商取引に対する現金流通量(購買力)の増加で起 こります。生産力以上に購買力が強ければインフレになる。 問題になるのは、中央銀行の国債購入の、経済にとっての有効性で す。金利を上昇させないで、インフレも起こさず、経済を浮揚させ ることができるのか? PIIGSのように国債が売られて、市場の金利が上昇し、経済の上昇 (実質GDPの増加)がないなら、中央銀行の国債購入も経済にとっ ては有効ではない。 逆に、インフレという「名目所得と金融資産を、実質で減らす見え ない巨大課税」が生じます。 5%の物価上昇は通貨価値の5%下落であり、5%の消費税の増加と 同じです。1億円の金融資産も、その価値が1年に500万円減ります 。負債の価値も5%減ります。 ■2.中央銀行の、国債購入に有効性があるのは・・・ 今、世界の中央銀行は、もっとも安全とされてきた国債を市場で買 って、ほぼ国債保有額に見合う通貨を、発行しています。 その通貨発行量は、印刷した現金紙幣の量と、金融機関及び政府が 中央銀行に無金利で預ける当座預金です。この両方を合わせて「ベ ースマネー(基礎マネー)」とも言う。例えば、現在の日銀のB/S (貸借対照表)を、簡略化して示せば以下です。(11年6月20日) 日銀の総資産・負債は、1990年が、49兆円でした。今は、81兆円増 え、2.6倍になっています。1990年以降の20年、名目GDPはほとんど 増加していないので、経済における通貨供給量は2.6倍に増えてい ます。 【資産】 【負債】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 国債保有 78兆円 紙幣発行 78兆円 貸し付け金 41兆円 当座預金 35兆円 その他証券 11兆円 その他 17兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 総資産 130兆円 総負債 130兆円 http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2011/ac110620.htm/ 日銀の総資産・負債の130兆円が、日銀による総信用供給量に相当 します。そのうち、1万円札が78兆円で、金融機関が預ける当座預 金が35兆円です。金利ゼロの現金が[78+35=113兆円]供給され ています。 公定歩合(08年12月以降は0.3%)での貸し付け金の41兆円が、ほ ぼ当座預金に見合います。日銀は、国債保有分(78兆円)の現金を 供給し(印刷し)、加えて公定歩合での貸し付けを41兆円行って、 資金供給しています。 日銀が、例えば、20兆円の国債を買うとします。方法は2つです。 ▼(1)市場に出て、一旦は金融機関が買った国債を買う。これは 法的に認められています。これを使って日銀は、日本経済への現金 供給量を調節しています。 日銀は国債を買っていないという人がいますが、誤りです。政府か ら直接は買っていない。迂回的に債券市場から買っています。 金融機関は、金利が上がるようなら日銀が買うだろう。「従って金 利は上がらない」という期待から、国債を買っていると言っていい 。 ▼(2)直接に、政府が発行する国債を買う。これはインフレを引 き起こすからと禁じられていますが、法を変えればできる。 (1)の方法、つまり迂回的な国債購入をすれば、市場の引き受け 難から金利が上がると懸念されるときは、(2)の方法になるでし ょう。問題になるのは、この直接引き受けです。 債券市場から買うときは、一旦は金融機関が買うということになる 。つまり金融機関に、貸し付け金の回収や国債の償還で余剰な資金 があって国債を買っています。 ■3. 2011年度の国債発行と、その引き受け 2011年度の国債発行は、巨額で、170兆円にもなります。(震災復 興と原発賠償を含まない国債発行額です) 08年以降の金融危機による税収の急減があって、大きな財政赤字の ため、 ・新規発行が44兆円(震災分を含まない)の予定で、 ・満期が来た国債の借り換え(事実上のロールオーバー)が124兆 円です。 日銀は、新発債は引き受けず、借り換え債(124兆円)のうち12兆 兆円を買うことになっています。借り換え債は、満期が来た国債の 償還金で買うので、日銀が国債を増加買いしたことにならない。つ まり、通貨の増加発行ではない。これが、日銀の現在の方針です。 このため、日銀以外が、[44兆円-12兆円+復興債**兆円]を買 わねばならない。 新発債の44兆円(+震災特例国債**兆円)は、政府の財政赤字に 見合います。財政赤字とは、「税収-政府予算」での、政府資金の 不足分です。 これを、郵貯・簡保・銀行・年金基金等が増加買いできれば問題は ない。 問題になるのは、 ・郵貯(11.3期 総資産193兆円のうち国債146兆円)、 ・簡保(総資産97兆円のうち国債64兆円)、 ・年金基金(運用基金が116兆円のうち国債が77兆円)が、 年々、減っていて、国債の増加買いの余力がないことです。 この点が、1990年代と大きく変わった点です。 わが国の全預金(マネーサプライ)は、1年に20兆円しか増えなく なっているからです。このため、20兆円の新規国債の買い余力しか ない。 当年度だけではない。今後は一層の高齢化のため、郵貯・簡保は増 えず、年金基金は、掛け金より支給が増えているため(総資産が減 少)、今後も増えることが想定できないのです。 ●過去、巨額発行にも拘わらず、日本の国債が市場で売れてきた理 由は、郵貯・簡保・年金基金の政府系の3大基金が、増えていた基 金で、国債を買っていたからです。 ●今後、新規国債(1年に40~50兆円)のほとんどを、生保と銀行 が買わねばならない。ここが国債の問題です。(注)そのため、政 府は増税を画策する。 震災復興予算が、第一次補正4兆円、2次補正2兆円にとどまってい て、十分な金額ではなく、そのため、震災地の復興計画が進まない のは、この財源問題からです。 11年4月以降、政府は、赤字国債法案(特例国債法案)が通らず、 新発債の発行ができていません。このため、1ヶ月に約4兆円が不足 しています。11年6月で、政府資金は枯渇しています。 (注)4月以降、金利が大きくは上がっていないのは、新規債の発 行が停止状態だからです。 今は、「財務省短期証券」(発行枠は20兆円とされる)を金融機関 に引き受けてもらい、当座に必要な現金を調達し、公務員給料、年 金支給、医療費、国債の利払いを凌(しの)いでいます。 ▼特例国債法案が通った後に・・・ 問題になるのは、特例国債法が成立した後です。11年9月に成立し たとして、10月に、4月から9月までの必要分(22兆円)を一挙に債 券市場にぶつければ、(100%)引き受け難が起こって、金利が上 昇し国債価格が下落します。 金利が1%でも上がって、10年債価格が5%下がれば、国債残高が80 0兆円と大きいためで大変です。 財務省短期証券をロールオーバー(借り換え)しながら、市場を見 た国債発行になるはずです。 国家財政が破産に向かうときは、長期債が売れにくくなって、短期 債に変わってゆく。短期債に変わると、政府の借換債の、毎月の必 要発行額が、どんどん膨らみます。 赤字企業の長期借入金が、短期の手形貸付に変わってゆくのと同じ です。100億円の10年の長期借入金なら、1年の返済額は1億円です 。これが、どんどん3か月手形での貸しに変わってゆくと、最終は 、1ヶ月で33億円の資金繰り返済が必要になる。(注)その前に、 当然に、破産します。 国債を担当する財務省理財局は、金融機関に新規債の引き受け可能 額を打診し、時に、官僚の威嚇権力を使って、買いを要請し発行額 を決めています。 財務省には、国債は、国民からの借金という意識はない。国家が保 証する安全な金融資産と思っているふしがある。 数年前でした。著名な政府系エコノミスト氏に、会食の際、直接に 訊いたら、「国債という、貸し付け金より安全な金融資産が増える のですから、いいことでしょう」と答えられ唖然としました。人は 金融資産が増えるのを好むと言うのです。 違法な談合相場とは言いませんが、国債入札に逆未達(入札が少な いこと)が起これば、金利が急騰します。これが怖いのです。 震災復興予算は、物損だけで30兆円、放射能被害が広がっている原 発問題で10兆円が(当座では)必要と思われます。これがないとGD Pの低下が生じます。 被害者にマネーはなく政府が出すしかないので、従来の政府赤字( 年44兆円規模)にプラスされた国債発行です。大震災で、東日本の 経済は一変しています。 ・11年度59兆円(従来からの政府赤字44兆円+復興15兆円)、 ・12年度54兆円(同44兆円+復興10兆円) ・13年度54兆円(同44兆円+復興10兆円)の、必要発行額になる可 能性が高い。(注)金利の上昇がないと仮定して、です。 民間金融機関が、ぎりぎりで、1年44兆円を買い受けたとします。 (注)後述するように、これ自体が難しいのですが・・・ 日銀は、現在の、12兆円の借り換え債の引き受けに加え、最低でも 震災復興の分40兆円(3年間)の買い受けを迫られるでしょう。 政府が十分な復興予算と原発賠償を組まないと、壊滅的な被害の東 日本のGDPは大きく低下したままで、法人税収が急減します。 つまり復興予算を大きく組むにせよ、組まないにせよ、2011年度以 降の、政府赤字が大きく膨らむことは確定しています。 日銀が迫られる新発債の増加引き受けは、1年平均で13兆円です。 借り換え債の12兆円と合わせれば25兆円になって、新規債の50%分 に相当する金額になります。 民間金融機関の引き受け難が加わると(=市場の金利が上がると) 、日銀の引き受けは13兆円/年では足りず、20兆円/年以上になるか もしれません。(注)これは、経済規模、つまりGDP対比では米国 のQE2($6000億)に匹敵します。 日銀以外の金融機関(上記の3大政府系基金+銀行+生保)が、引 き受け可能な額の新規国債(推計で今、年25兆円規模でしょう)な ら、マクロ経済での大きな問題は起こりません。 国民の貯蓄の余剰に対して有効な借り手がなく、金融機関に資金余 剰が起こって、国債買いに向かったことになるからです。 ■4.(重要)2008年以降、 日本国債に対し、40~50兆円/年を海外が買い越している 。 郵貯・簡保・年金基金が、国債の増加買いができなくなって久しい 。 国債の最大の買い手だった「ゆうちょ銀行」は、2010年3月期の国 債保有額156兆円を、2011年3月期は146兆円へと1年で10兆円も減ら しています。(注)10兆円の国債を売っています。 日銀も、12兆円の借り換え債(手持ち国債の償還分)しか買ってい ない。じゃ、国内銀行と生保が増加買いしているのか。事実は、異 なります。 ●以下の表に見るように、海外勢が、特にユーロ危機の2011年は、 1月から5月までの5カ月で49.9兆円も買い越しています。 海外からの買いで、日本の金利が低く抑えられ、日本国債にバブル が起こっているのです。元の資金は、アラブ、新興国のマネーがド ルやユーロに変わり、そのドルやユーロで、買われたものです。( ドル・ユーロ売りと円買いになる) 海外からの日本国債の買い越し額 主は短期国債:日経新聞11.07.10 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 2008年 約35兆円 2009年 40兆円 2010年 42兆円 2011年 50兆円(1月~5月) (注)2011年は2010年の2倍の、買いの勢い ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (注)主は、短期国債での、各月の買い越しの累計額です。1年内 に日本政府から償還がある。そのため、買い越し額が海外の長期で の保有増とは言えません。 2011年の5カ月での短期債で約50兆円の買い越しは、大きい(1年で 100兆円の買い越しの速度)。今、日本国債の最大の買い手は、日 本株のように、海外勢になったと言えます。 【通説の誤り】 日本国債は、95%が国内で消化され、海外からは残高の5%程度し か買われてないというのが通説でした。 米国の金融危機の08年以降は、これを、変更しなければならない。 上表のように、海外から日本国債買いが増えているからです。 郵貯・簡保・年金基金が、運用資産の減少から余儀なく売った国債 は、国内ではなく海外が、金利ではなく「円高目当て」で買ってい ます。 米欧の金融危機は円高→円高なら日本の短期債は買いとなった結果 です。為替の利益が大きいからです。日本人がFX(外為)を買う理 由と同じです。 事実、通貨インデックス(貿易額の加重平均)では、2008年は円が 106、米ドル104、ユーロ100でした。(2005年を100とする:日経新 聞統計欄) 11年の6月は、円が123(+16%)、ドル96(-8%)、ユーロ96(4 %)です。 ・円はドルに対し24%、 ・ユーロに対して20%も上がっています。 短期国債の金利は、0.16%付近にすぎなくても、ドルから見た為替 利益は3年で24%(1年8%)、ユーロから見ても20%(1年7%)が あります。 2011年まで、30倍のレバレッジで日本国債を買えば2008年以降の3 年間、「安定した巨大利益」だったのです。 日本の短期国債は、海外勢がレバレッジで増加買いし、わが国の短 期金利を下げ、短期国債の価格を上げています。 (注)ガイジン買いには、租税回避地(オフショア)からの、日本 の金融機関の買いも混じっていると思われますが、いずれにせよ「 海外から」の買いです。 以上が、円下落、国債価格下落による利益を狙った投機に転じたと きが、日本の「国債価格の下落→金利の高騰→円の下落」です。 海外勢が、2011年1月から5月までのように50兆円(1ヶ月で10兆円 )も買い越していれば、多額に売ることも容易です。当然に、金利 が上がれば利益になるCDSをかけて売る。 ■5.海外からの、 短期債の巨大(年間の速度で100兆円)な買い越しは、危険 海外からの買い越しの急な増加は、政府財政と日本経済にとって危 険です。円高傾向が変ったと認識され、すこしでも、円安に向かう となると、買い越した額の一斉売りが生じるからです。 今は、PIIGSの金融危機と国債の下落に助けられた、円債買いと言 ってもいいのです。 (1)2011年に1カ月10兆円買い越したことの反動で、 (2)いつの時期かを起点に、1ヶ月に10兆円を売り越せば、即刻、 円安、金利の高騰、CDSの高騰に向かいます。 海外資金(ワールドダラー:500兆円規模)は、買い足も逃げ足も 速い。 30倍のレバレッジで買った海外の持ち手は、1%の円安でも30%の 損を蒙りますので、円高の潮目が変われば、すぐ売ります。 当然、レバレッジがかかる先物売り(差金決済)も増える。 先物売りは、国債の値下がり(金利の上昇)と円安で利益を得ます 。(注)先物売りは、限月までに、反対売買をして清算する取引で す。「高く売った先物-安く買う反対売買=利益」になる。 ●今日のような、$1=80円以下の円高になると、政府がドル買い (=円売り)の介入をしていましたが、今は、それができない。 円安に向かわせれば、海外勢が、一斉の円債売りになるからです。 日銀介入による円安論(輸出の振興論)がありますが、海外が短期 国債を大きく買い越している今、それを行えば、買い越してきた海 外勢が円債を売りに転じるため、日本経済にとって金利の暴騰、国 債の下落という危険な結果を生みます。 債券(借用証)は、市場が買ってくれる間は、幸せです。いくらで も借金ができる会社や個人と同じです。借金が増えることができる 間は、ギリシア・ポルトガル・スペインのように、赤字財政を膨ら ませてGDPも成長させることができます。 ところが、市場の買いが減ったとたんに、破産の危機になる。 日本企業ではなく政府が、です。過去の国債の満期が1カ月に10兆 円も来るからです。その10兆円を、返済せねばならない。ところが 返済資金が作れない。国家財政破産の危機は、徐々にではなく、短 期で一挙に襲います。そのため、金利の高騰もほぼ3カ月で起こる 。 株価が下がって社債の発行ができなくなった借金の多い企業と同じ です。過去の社債償還が、新規社債の発行ができなくなったとたん (=社債の買い手がなくなったとたん)に襲います。 6兆円の「社債+長期借入金」がある東電がこれでした。3月の原発 事故で社債(過去はもっとも優良)の新規発行ができない。そのた め、1カ月で社債償還分だけでも約2000億円は、不足します。3月に 急遽、2兆円の緊急融資(長期借入:銀行団)を受けた理由がこれ です。 ▼44兆円の新規債が国債発行の全部ではない。実際は1年に170兆円 を発行し、売り捌(さば)かねばならない。 日本政府の国債発行は、マスコミが言う新規債の40~50兆円だけで はない。満期が来る借り換え債が、1年に120兆円(1ヶ月に10兆円 )もあって、年間発行は170兆円水準(名目GDPの36%)という巨額 です。(財投債の借り換え14兆円も、国債に含む) ある月、市場が売り超になって新規債の金利が上がれば、約800兆 円の国債残の価格下落も起こる。 日本の総地価が、1ヶ月間に売買されたごくわずかな土地の価格で 決まるのと同じです。株価の時価総額(約300兆円)も、1日の1兆 円(1/300)の売買価格で決まります。国債も、相場商品です。 ■6.日銀の国債買いが、もうすぐ、余儀なくなる 時期はいつか。早ければ、特例国債法案が通った後の2011年冬か、 2012年という感じ・・・その時、日銀は、市場で売られる国債を、 買い支えに出動することを余儀なくされるでしょう。 米国債の危機、ユーロ債の危機より、政府赤字を3年で40兆円は拡 大させる東日本大震災と原発賠償が加わったので、日本が早い感じ がしています。 政府のリーダ―シップの無さも、国債売りを生む要素です。 ▼2011年に、海外の金融機関とファンドが決めるように変わった 時期は、海外勢が2011年1月から5月までに買い越した50兆円の短期 国債を、売り越しに転じる時期が、決めることになる。 【重要】日本国債は、海外の保有が少ないから、海外保有が多いギ リシア、ポルトガル、スペイン国債のようにはならないとは、もう 言えません。それは古い論です。(注)最近、金融論は、半年で古 くなる。それくらい変化が速い。煮詰まっているからです。 【重大な変化】 2011年1月から5月の間に、日本国債の主要な買い手が海外勢になっ ています。しかもその買いは、売り手(政府)にとっては危険な、 短期債です。政府は短期債も、満期が来ると借り換えるロールーバ ーを、当然に、しています。 ●海外が売り越さなくても、同じです。新たに買わないと、短期債 の平均償還期間を5カ月としたとき、1ヶ月に10兆円、売ったことと 同じです。償還、つまり現金での返済があるからです。黙って償還 を待てば、売りと同じになる。 $1=79円以上の円高か。円高が75円、70円と進むと見るなら、海 外勢も、短期国債の買い越しを増やすかもしれません。今、とても そうは思えない。$1=60円という論者もいますが、その前に、円 が売り崩されるでしょう。 2011年冬は、$1=85円(円安)に向かうと認識する海外勢が増え れば、買っていた短期債を、必ず売ります。同時に、国債の先物( 指数)も売る。CDSもかけて、先物を売るでしょう。 ▼海外が買い越した理由は異なる。従って売る理由も異なる。 日本の短期国債を買い越した海外の金融機関とファンドは、「円高 による外為利益の目的」で買っています。 (注)海外ファンドの日本株買いも同じです。ドル安・円高の差益 が目的であり、日本企業の技術力・利益力を買っているのではない 。 その点、財務省の要請を重んじて買う国内の金融機関と、根本的に 異なります。金融機関には国債を買って財務省の好感を買い、いざ というとき、財務省に助けてもらいたいという意図があります。( 注)その期待は裏切られるのですが・・・ 円安は、日本経済のためという論がありますが、今の国際金融では 誤りです。円安傾向になると、為替差損を恐れる海外勢とファンド からの、短期の日本国債売りと、株売りになるからです。 海外勢が短期国債の買い控えか、売り超に転じたとき、その国債を 買い支えるのは、日銀しかない。日銀は、売られる短期債、長期債 の買い手になる。「日銀の、直接の国債買いは禁じ手」と論評する 余裕はなくなります。 【低金利バブル国債のリスクは、金利上昇】 短期0.16%、10年債でも1.1%という利回りしかない国債は、わず かでも金利が上がれば、すぐ額面割れし下落します。 1.1%の長期債は1%の金利上昇で、(1+1.1%×10年)÷(1+2.1 %×10年)=1.11÷1.21=91.7%・・・8.7%も価格を下げます。 今、長短を合わせた国債(約800兆円)の平均残存期間は6年です。 6年の残存期間なら、1%の金利上昇で、(1+1.1%×6年)÷(1+ 2.1%×6年)=1.066÷1.126=94.1%・・・5.9%下落します。2% 上がれば10%は下落します。 ■7.中央銀行の誘導に市場が従わなくなったとき、 市場の金利の高騰は、短期で起こる 金利が2%上がったとき、国家財政の破産と金融危機が同時に起こ ります。 800兆円の国債の時価が5.9%下がれば、800×5.9%=47兆円の、時 価での含み損が生じます。この含み損は、長期債の更なる売りを生 んで、国債価格を下げ、金利を上げることになるのです。 市場の金利が、日銀の誘導(=国債買い)にも拘わらず1%上がれ ば、その後は短期で、2%は上がります。 そして、瞬く間に3%上がるということに向かうのです。 これが、国債の負債の大きな国の、金利の上昇速度の性格です。 2~3%長期金利が上がって次は4%になると、政府は借り換え債の 発行もできなくなり、財政がデフォルトします。社債の新規発行が できず、満期が来る社債の償還ができない、借入金が多い企業と同 じです。 【財政のデフォルト】 財政のデフォルトは、 (1)国債の償還と利払いが繰り延べられ、 (2)公務員給料(国と地方と独立行政法人で、400万人:40兆円) が遅配し、 (3)医療費(35兆円)、 (4)介護費(7兆円)、 (5)公的年金(40兆円)に、遅配が起こるということです。 このうち、政府がもっとも優先するのは、国債の償還でしょう。 (注)こうしたことが今のギリシア、ポルトガル、スペインです。 このため、ギリシアの失業率が16.2%に、スペインは20.7%という 恐慌並みに、上がっています。 【「想定外」の事態】 過去、日本国債は、市場で売り超になったことがない。そのため、 ゼロ金利が続いたのです。ところが、2011年を起点とする事情は、 異なります。 低い金利ではなく、円高期待によって海外から短期債の買い超が膨 大(5カ月で50兆円)になり、短期債は、海外勢が主体になって買 われたからです。 この海外勢が、円高期待を止めたとき、売り越しに転じた額を誰か が買わねば、 ・金利が高騰して国債が暴落し、 ・金融危機も起こって、 ・国家財政は破産します。 このため、日銀の、多額の国債買いへの出動も、早ければ2011年の 冬に、遅くとも2012年春には、起こるはずです。 ■8.売られる国債を日銀が買い受けると、どうなるか? 分かりやすくするため、事例で言いましょう。A銀行が、10兆円保 有し、1カ月に1兆円の政府からの償還金も、国債保有に充てていた とします。企業や住宅ローンの、貸し付け金が約定弁済で戻ってく ることで生じる現金も、運用先がないので国債の増加買いに充てて いた。 このA行が、海外勢が、短期債の買い超から売り超に転じたのを知 って、国債価格の下落のリスクを感じ、2兆円の保有国債を売りに 出したとします。他行も、A行と同じ、「横並びの行動になる」は ずです。 国債買いも、日銀と他行を見た横並びでした。 このため、売りも横並びになる。 今、銀行や生保の国債ディーラーは、高所恐怖症で、あたかもバン ジージャンプに向かうときのような、パニック寸前にも思えるので す。 知人がいれば、そっと訊ねてください。短期金利0.16%、長期金利 1.10%のバブル価格の国債を、増やして買い続ける心理は、そこに あるか? 国内には、海外からの買いのような、円高による外為利 益はないのです。 政府系の郵貯、簡保、年金基金は、目立っては売らなくても、民間 銀行と生保は、将来の大きな含み損を懸念し、同じ行動に出るでし ょう。 超低利(1.10%)の長期国債は、金利上昇による値下がりのリスク がとても大きいからです。国債は安全債券とされますが、超低利の 国債はそうではなく、大きな下落リスクを抱えた証券です。 10年後の満期には、額面の償還は、確かにあるでしょう。政府が保 証し、政府が保証できないときは、国債を買う日銀が払うだろうか らです。しかし・・・もし、今後、2012年から、米欧より低い2% のインフレに転じれば、10年で21%です。 額面の償還があっても、その10年後の価値は79%に下がります。 【銀行の国債保有】今、民間均銀行の国債保有は、159兆円(11年4 月:日銀調査)です。5年前の58%増、10年前の2倍になっています 。総資産(835兆円)の中の国債保有は、19%と高い。 【生命保険の国債保有】生命保険は、総資産が313兆円です。その うち国債は、132兆円で、総資産の41%に増えています(11年3月: 生命保険協会)。5年前の3倍、10年前の5倍になっています。 余剰資金の全部で、目いっぱい買った国債の結果です。 この巨額国債の保有リスクを恐れて、(前記のように)海外勢が売 りに転じたことを認識して、国内の銀行・生保が国債を売りに転じ れば、引き受けるのは日銀でしょう。日銀が買った分が、金融機関 での現金の増加になる。国債が現金に代わるのです。 A行には、2兆円の国債を売った分金利ゼロの現金が2兆円溜まりま す。金融機関にせよファンド(基金)にせよ、金利ゼロの資金を、 金庫にしまい続けるようなことはできない。この点が、世帯と違い ます。 わずかな金利や利回りであっても、融資、または投資せねばならな い。 A行はこの増加現金の2兆円をどうするか? 融資リスクが1%はあ る企業に、1.5%(現在の貸出金利の平均)で貸すのは、業務の事 務手数料1%を引けば約0.5%の赤字です。赤字の融資は、運用にな らない。国債は、買えないから売った。 銀行は、資金運用に困る。そして、多分多くが、海外や租税回避地 の投資信託やヘッジ・ファンドに預けた運用に帰結するでしょう。 これは、円売り・ドル買いになります(円安の要素)。 (注)ヘッジ・ファンドも、資金を預託する側から見れば、投資信 託です。わが国の年金基金もGPIF(総資金116兆円)を通じ、13兆 円(構成比11.3%)を海外ファンドに預託しています。 金融機関が国債を売った現金の増加分が、投資信託やヘッジ・ファ ンドへの元金と、その元金を元本に増やレバレッジ資金(貸し手か らみれば貸付金)になる。 ■9.主な行き先はデリバティブで、その結果はインフレと 金利の高騰、そして、国債価格の下落 【1990年代まで】 1990年代までは、こうした市場での現金の増加の行き先は、せいぜ い株、土地、そして融資でした。今の中国がこれです。中央銀行が 現金供給を増やせば、資産と商品のインフレになっていました。 日本の80年代バブルは、デリバティブがない時代の、古典的なもの でした。 【2000年代の行き先はデリバティブ】 ところが2000年代の、中央銀行が刷った余剰現金の行き先は、先進 国ではデリバティブになっています。その点で、直接には、実体経 済の浮揚にならなくなった。 価格のバブルは、生む。しかし、実物経済への投資ではない。この デリバティブが膨らむ。その結果生まれるのは、頻繁なバブルとバ ブル崩壊、そしてバブルとバブル崩壊を繰り返しながらの、資源、 商品先物、株、債券のインフレです。 その資金は、株の先物、商品先物、デリバティブ用の資金になるで しょう。 9年も前の2002年ですが、英国のヘッジ・ファンドで最大のマン・ インベスメント社(テムズ河畔)を訪ねたときでした。当時、マン 社が世界最大のデリバティブの運用機関だったのです。今は異なり ます。 「何で、運用し、この約10年間も、毎年20%という高い利益を上げ 続けているのですか?」、「グローバルな分散投資のデリバティブ です。詳細は、企業秘密です。」、これが答えでした。 分散投資では、まず国を分散する。そして運用も株、商品、資源、 、金、通貨、金利等に分散させる。売買のプログラムを組み、コン ピュータが瞬時で売買しています。人間は、運用のプログラムを作 っているのです。金融は今、プログラムでの取引です。 こうして、投資銀行とヘッジ・ファンドの運用マネーが膨らみ、そ の結果、資源や商品の先物、及び新興国への投機が増える。これが 、国際的なインフレを醸成するマネーになります。 FRBのQE2の$6000億(48兆円)で、金融機関とヘッジ・ファンドの 投機資金が増え、 (1)資源の先物買い、 (2)コモディティの先物買い、 (3)日本の短期債の買い(円高)、 (4)及びPIIGS国債の先物売りと、 (5)CDSの資金になったのと同じです。 08年9月以降の巨大損で、大きく運用元本を減らしていたヘッジ・ ファンドは、 ・2008年9月から、FRBによる100兆円の不良MBS(住宅ローン担保証 券)とCDO(債務担保証券)の買い、 ・及びQE2(48兆円)によって、 運用元本が、再び、$2兆(160兆円)に回復しています。 運用元本が$2兆でも、 ・低い10倍のレバレッジで$20兆(1600兆円)、 ・30倍なら$60兆(4800兆円)になり得ます。 資金量は、日本の金融機関や日銀が束になってもはるかに及ばない 金額に膨らみます。 投資銀行やヘッジ・ファンドが主に作るデリバティブの、対象元本 が$601兆(4京8080兆円)と超巨大に膨らみ、その時価が$21兆( 1680兆円)という巨額な理由です。 $35兆(2008年)から$21兆(2010年末)に下がったとは言え、デ リバティブの価値は、今も$21兆(1680兆円)で、日本の世帯の全 金融資産1400兆円を超えています。 ●先進国金融は、理解しにくいことですが、デリバティブに変わっ ているのです。イメージとして、債券や証券のリスク保険の売り買 いをしていると考えればいいでしょうか。 http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf デリバティブ(金融派生商品)は、前稿で示したように、外為、金 利、株式、商品についての、先物・スワップ・オプション等です。 CDS(補償保険)も、$30兆(2400兆円)の債券・証券にかかって います。 ■8.デリバティブに資金が流れる結果は、 世界の資産、証券、資源バブルと、その崩壊である ▼事例としての住宅ローン証券とデリバティブ 米国の住宅ローン担保証券(MBS)を事例に考えれば、デリバティ ブの機能が分かります。(注)MBSは、多くの住宅ローンを原資産 として、その回収権を見積もって、細切れに証券化した金融派生商 品です。 デリバティブのMBSは、多くの住宅証券を合成し、3層にトランシェ (切り分け)して、 (1)シニア債(米国債並みの格付け:金利が低い)、 (2)メザニン債(中程度の格付け:金利は中程度)、 (3)エクイティ債(信用が低いが高金利)の3種の証券を作りまし た。 これに含まれる住宅ローンがデフォルトしたときは、エクイティ債 から順に価値を下げるように組んだのです。ところが、エクイティ 債にもCDS(回収保険というデリバティブ)をかけた。 このため、信用度が低いエクイティ債も、その7%レベルの高金利 の中から、CDSの保険をかければ、国債並みのノンリスク証券にな ったのです。金利は高く、ノンリスクという、あり得ない証券です 。買う人は、中身が分からず、信用ある金融機関が作ったというこ とで信用して買っていた。 このCDSがあったため、金利の高いエクイティ債に多く含まれてい た(と後で分かった)破綻が決まっているサブプライム・ローンに 対しても、巨大資金が供給されていたのです。 農林中金もこれを買って、「7%の高金利で、しかもリスクはない 」と豪語していました。2007年までの、住宅バブルの夢でした。 金利が高い証券は、必ずリスクが高い。金融の鉄則ですが、なぜか 、常識を忘れていた。中身を知らなかったためです。売る営業マン も、なぜ金利が高いか分かっていたとは言い難い。「高度に組まれ た金融商品」といううたい文句が、売る当人も意識しない詐欺にな ったのです。(注)今、米国では、多くの裁判が起こっています。 ほとんどの場合、売った側が撒けています 。 2008年の金融危機で5兆円とも言われる損をした農林中金に限らず 、金利の高いエクイティ債は、欧州の金融機関にも飛ぶように売れ たので、その結果として、信用度の低い人にも住宅ローンが降り、 米国の住宅は、適正価格の2倍に高騰しました。都市部では3倍。 全米の1億軒の住宅資産の総額は、4000兆円にはなっていたでしょ う(2006年の春の頂点価格)。2000兆円(1軒平均で2000万円)が 、世帯所得からみた適正価格ですから、2倍です。 このようにMBS(住宅ローン担保証券)、CDO(債務担保証券)、CD S(債務回収保険)等の、リスクの高いデリバティブを買った資金 が、米国の住宅バブルを生み、2007年から崩壊させています。 ●以上で、デリバティブの基本機能が分かるでしょう。「デリバテ ィブは、あらゆる対象資産の、リスクを低減させたように見せてバ ブル価格を生み、そして崩壊させる」・・・これが本質です。 2008年の金融危機から生じたデリバティブの価値減少は、前稿で述 べたように$35兆(2008年末:2800兆円)から、$21兆(2010年末 :1680兆円)です。 $14兆(1120兆円)の損が、主要金融機関の簿外の含み損で、飛ば されています。例えばCDSも、相互が掛け合っているので、相手が 承諾すれば、清算の時期を延ばすこともできます。 ●今、2007年までの住宅証券に変わって、日米欧の国債が、デリバ ティブ(CDS)の大きな対象になっていると思えます。 世界の金融統計(BIS)は、1年は遅れるので、その全貌を金額で定 量的に言うことはできません。 日米欧の国債の低金利(長期金利米国3.10%:ユーロ2.99%:日本 1.10%)は、保証保険のCDSがもたらした、同時の国債バブルと断 言します。 ▼米国のインフレと金利の不均衡 2010年の米国の卸売物価(企業間の物価)は、7.3%も上がってい ます。原因は資源価格の高騰と輸入品が高騰するドル安です。 米国の消費者物価(CPI)の上昇は前年比で3.6%と低いのですが、 これは、小売価格の大きなバーゲンによるものです。店舗に行って 価格を見れば、一目瞭然です。50%~70%のバーゲンも多い。 米国は今、明らかにインフレでしょう。インフレとは、通貨の刷り すぎによる通貨価値(ドル)の下落です。これがドル安です。 米国の長期金利は、本来、インフレを抑制するため、今の3.10%で はなく、物価の上昇から見て6%以上でなければならない。 3%分が、0.5%と料率が低い米国債に対するCDSの誤りによって上 がっていない。このため米国の国債価格は、今、15%くらいのバブ ルです。国債バブルとは、低い金利の国債が、高く売れることです 。 ●原因は、売買市場が決めるCDSが、米国債の下落のリスクを正当 に評価できていないからです。サブプライム・ローンの、デフォル ト・リスクの見誤りに類似します。それを突いたのが、1人で1年に $150億を、低い料率のCDSの買いで儲けたポールソン・ファンドで した。 今、米国債にかかったCDSを、0.5%の料率で買っておけば、1年内 に巨額な利益が得られる感じです。 (注)米国債は発行残高が$12.4兆(992兆円)です。日本の国債8 00兆円の名目GDP比(170%)より半分くらい低い。 しかし、米国では、政府系の住宅金融会社(ファニーメイ:フレデ ィマック)が保証する住宅証券$5兆(400兆円)も、損があれば政 府が補填する政府負債です。 ●米国債の発行残は、政府が保証する住宅ローンの$5兆を加え、 事実上は、$17.4兆(1392兆円)と見なければならない。これは米 国GDP($14兆)の1.2倍で、日本に近づきます。政府赤字は、GDP の9.1%(100兆円/年)で、日本の2倍です。 長期金利の妥当値=実質経済成長率(米国は今2.3%)+インフレ 率(消費者物価で3.6%)≒6%です。ところが、長期金利は3.1% と低い。(注)何回も出した、債券価格で計算してみてください。 国債価格=(1+表面利率×残存期間)×100 ÷(1+期待長期金利×残存期間) 米国債は、10年債で、ほぼ15%分がバブル価格でしょう。この結論 は、驚愕の事実をもたらすでしょう。遅くとも1年後に、早ければ1 0月には、分かることです。 米国の国債金利が3.1%と低い理由は、米国の政府債務の額に、政 府系住宅ローン債権の保証が$5兆分も含まれることを、市場が認 識していないからです。 ●2011年冬から、2012年春にかけ、日米欧の国債の同時下落(金利 の上昇)が起こる感じがしています。 2008年9月の金融危機は、米国の住宅ローン証券の下落からでした 。その住宅ローン証券には、回収保険のCDSがかかっていため、米 国、欧州、日本の金融機関にも波及しました。今回予想されるのは 、国債です。大きくなる可能性が高い。 円、ドル、ユーロのどれが先行するか? 目先はユーロです。ユー ロ、円、ドルの順序でしょうか。ただし、今はグローバル金融で、 相互に入り組んで支えあっていますから、同時と見ます。2000年代 は、株価も金利も同じ動きをしています。 【後記】 前稿で、日本の金融機関が、国債下落のリスクをヘッジするため、 CDSの料率(中央銀行が介在しない市場で決まる)が1%と低いうち に、保有国債にはCDSをかけ、中国、アラブ、米国の金融機関から 買うことを提案しています。 巨大資金を、デリバティブで動かすことができるポールソン・ファ ンドやPIMCOの、「ブタは太らせて食え、国債バブルは上げきって 、下げよ」の餌食になって、再びの金融敗戦を蒙ることがあっては ならない。 わが国の民間銀行の保有国債は159兆円です。保険料として1年に1. 59兆円が必要です。生保は132兆円の保有国債です。1.32兆円が必 要です。保険料は損金になります。 国債の下落が、金融危機をもたらさないように・・・CDSは料率が 低いうち、言い換えれば、国債のデフォルトへの市場の認識が甘い 現在、かけておかないと意味はない。 0.5%の料率で米国債にCSDをかけ、買っておいても同様の利益効果 になるでしょう。 デフォルト・リスクが、サブプライム・ローンやPIIGS国債のよう に、広く認識されると、CDSの料率は瞬間に跳ね上がるからです。 本稿も、約6カ月は「先行して」述べています。 【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述の際、より的確に書くための参考になります。 コピーして、メールに貼りつけ記入の上、気軽に送信してください 。 感想やご意見は、励みと参考になり、うれしく読んでいます。時間 の関係で、返事や回答ができないときも全部を読みます。時には繰 り返し読みます。 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