有料版の増刊と共通号:2015年、中国経済のルイスの転換点(2)
This is my site Written by admin on 2015年7月27日 – 10:00

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おはようございます。暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょ
う。お盆のころには暑さがピークを迎え、それからは涼しくなるという
長期予報です。当たる確率は、気象変化(複雑系)のコンピュータ計算
の速度が上がったため、87%に高まっているという。

<780号:2015年、中国経済のルイスの転換点(2)>を増刊として、お
届けします。この増刊号は、無料版・有料版に、共通とします。
無料版では、336号です。

(注)有料版も併せてお取りの方には、これと同じものが2通届くこと
になりますが、誤配信ではありません。


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<Vol.336号:2015年、中国経済のルイスの転換点(2)>
       2015年7月27日:特別号

【目次】
1.6月13日からの、中国の株価急落
2.瞬間的な損失額は、390兆円という巨額
3.信用恐慌と金融危機の一般
4.探求すべきこと
5.金利との関係でも、名目GDPの10%以上の増加はあり得ない
6.住宅価格は、10年後くらいの期待所得で、判断される
7.同じ価格が高く見える時期

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■1.6月13日からの、中国の株価急落

昨年の8月から2.6倍に上がっていた中国の株価(上海総合)が、5100ポ
イント付近を頂点に、3500に急落しました(1か月で32%下落)。その
後、政府の株価対策で18%戻して4070です(年7月24日)。PERでは17倍
に戻しました。

政府の対策費は5兆元(100兆円)と、ロイターが報じています(7月23
日)。一瞬、桁の間違いと思ったのですが、記事では5兆元です。リー
マン危機の後(2009年)、GDPを15%増やした4兆元(80兆円)の対策より
大きい。

古来、白髪三千丈とする国です。紫禁城に行ったとき、その圧倒的な規
模から、この国では、あらゆることに漢詩に見える表現の誇大はあり得
ると思ったのです。
http://jp.reuters.com/article/2015/07/23/china-markets-rescue-idJPKCN0PX12320150723

仮に金額が1兆元(20兆円)であっても、対策金額の大きさの割に、戻
りは500ポイント(10%)で大きくはない。2兆元(40兆円)の信用借り
の売買で損をしている、個人の売りの勢いが、強いことを示します。

上海の株価は、6月12日の頂点で5133ポイント、上場している726社の合
計での時価総額(株主価値)は、36.3兆元(726兆円)にも達していま
した。(1元=20円換算)。

(注)上海総合指数は1990年に作られました。最初100でした。その後
の25年間で平均株価は51倍(平均年率での上昇が17%)です。 

同じ時期の日本の時価総額は1/2。総額では1989年の時価総額(600兆円
)戻していますが、上場株数が2倍になっているので、1株の株価では1/
2です。この時価総額は、投資家による企業価値の評価であり、人気投
票です。

シンセン証券取引所には、1714社が上場しています。時価総額は、26.1
兆元(522兆円)でした。両方で62.4兆元(1248兆円)、1社平均の企業
価値は5100億円に達する高騰だったのです(2015年6月12日)。

・日本の時価総額(東証1部:602兆円:7月27日)の約2倍、
・NY市場とナスダックを合計した、米国の時価総額($26兆:3120兆円
:15年2月)の40%です。

■2.瞬間的な損失額は、390兆円という巨額

30%下落すれば、374兆円の金融資産が失われます。中国では、投資家
は8900万人と言われます。日本では700万人ですから、人口10倍に対す
る割合では、あまり変わりません。

1人当たり420万円の損害です。中国の特徴は、個人投資家が市場の80%
の売買を占めることと、です(日本では、個人の所有比率は、ほぼ20%
と少ない)

大きな株価上昇は、2014年11月からでしたから、減ったという感覚の額
は、1人当たりで300万円でしょう。北京の平均賃金は6万9500元(2014
年:139万円/年)です。損は年収の2.2年分です。
北京と上海の投資家には、退職者が多い。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/ssce.html

【信用恐慌までにはならないが・・・】
中国では、金融機関の株投資への参加が、売買シェアでは20%と少ない
。持ち分も時価で250兆円程度(推計)と少ないため、サブプライム・
ローンのデフォルトが、デリバティブ証券全体に波及し、MBSやCDOの全
面崩壊を招いた、米国型の信用恐慌には、ならないでしょう。

(注)中国の国有企業の株の過半は、政府がもっています。中国は、外
資を規制しています。海外からはB株しか売買できません。B株のシェア
は2%と極めて少ない。A株は、国内専用です。

【問題は住宅価格だが、2015年は回復してきた】
今後、累積投資額が株よりはるかに大きい不動産の10%以上の下落が重
なると、資産バブル崩壊の、信用恐慌になって行きます。

2015年1月の不動産は、70都市のうち68都市では、前年比平均5.1%の下
落です(ブルムバーグ)。これは過去最大の下落幅でした。これが7%
、10%と大きくなれば、ローン債権の不良化が起こり、危なくなります
。

(注)15年6月では、政府の住宅対策により70都市のうち27都市が再び
上昇し、34都市が下落中です。1年前に比べると、シンセンと北京を除
く68都市が下落しています。2014年6月ころから、下落する都市が増え
たのです。

共産主義から来た中国では、国有企業を含み、経済に対して政府の政策
の占める割合が大きく、株価と地価にも、政府の対策がよく効きます。


投資家8900万人が、株価で受けた、年収の2.2年分の損害は、逆資産効
果から、消費と住宅不況をもたらすスケールです。

中国政府が躍起になって株価を凍結し、2兆元(40兆円)の信用貸しで
焦げ付きが出た証券会社に、不足資金を供給して、株価対策をとった理
由がわかります。

■3.信用恐慌と金融危機の一般

金融危機は、(1)不動産、(2)株、(3)国債を含む債券、(4)デリ
バティブの価格崩壊から起こります。その前に、ファンダメンタルズか
ら合理的な価格から、2倍や3倍も上になる高騰がある。

バブルはファンダメンタルズ(基礎的な経済指標)を大きく超えた価格
という意味です。しかし、どれくらいの、株価でPER倍率ならバブルか
という基準はない。地価のバブルの基準もない。

高値の後、大きく下がったからバブルだった言っているにすぎないので
す。FRBの名議長と言われたグリーンスパンも、リーマン危機の後、「
米国の住宅価格がバブルとは、わからなかった」と言っています。

〔10年間の「シラーPER」では、ほぼ25倍がバブルの分岐点〕
株価を純益予想で割ったPERは、株価のファンダメンタルズです。ただ
し、変動の多い単年度の利益では、判断が難しい。

ノーベル賞経済学者のロバート・シラーは、10年間の平均純益で、株価
を割るPERを考えて、120年分を公表しています。このシラーPER(Shill
er P/E Ratio)では、25倍や25倍を超えたとき、暴落が来ています(12
0年間で5回)。シラーPERは、米国では注目されている指数です。
http://www.multpl.com/shiller-pe/

中国株の予想PERは、暴落前日の6月12日には、21倍でした。7月は16~1
7倍に下がっています。比較すれば、日本では7月で20倍、米国ダウでは
16倍、ナスダックでは23倍です。

普通、20倍以上は、高値の恐怖がある水準です。予想PERは、企業が証
券取引所に出す経営計画の、次期予想純益から計算されています。

(注)現在の株価水準:
短期ゼロ金利と量的緩和が、日米欧のPER倍率を、5倍分くらい上げてい
ます。日本の株価は、2014年11月以降は、政府によるPKO(価格上昇政
策)のため、20倍を超えても、特殊な状況です。

金融危機は、不動産と金融商品の高騰が続くように見えている日に、「
ある日突然」、起こります。

〔注:FRBの利上げ〕
FRBのイエレン議長が、2015年中の利上げを繰り返し言う理由は、ゼロ
金利と量的緩和が生んだ、(1)株価バブル、(2)国債を含む債券のバ
ブル、(3)不動産価格の上昇と、その後の崩壊を恐れているからです
。

■4.探求すべきこと

中国株の、
・2014年11月からの急騰、
・6月13日からの急落が何を意味するのか。
本シリーズでは、この問題を解くために調べ、論理的に推理したことを
書きます。

前号の779号で書いたように、根底での、二つの原因が浮かび上がって
きました。

▼原因1:GDP成長率は、発表より4ポイント(%)低い

中国の実質GDPの成長率は、リーマン危機後の4兆元(80兆円)の経済対
策が切れた2011年以降は、政府発表より3~4ポイント(%)は低かった
のではないか。GDPは、企業の粗利益の合計です。GDPの伸び率が低いと
いうことは、企業の粗利益と利益も低い。

・2011年の実質GDPの増加は、9.3%ではなく5%付近
・2012年は、7.8%ではなく4%付近
・2013年は、7.8%ではなく4%付近、ということです。

物価上昇は、2011年5.4%、12年2.7%、13年2.6%とされています。こ
れは、ほぼこれくらいでしょうか。

以上から、物価上昇を含む名目GDPでは、
・2011年10.4%(公式14.7%)、
・12年6.7%(公式10.5%)、
・13年6.6%(公式10.4%)でしょう。
名目でも実質でも、ほぼ4%の差があります。

[名目と実質]名目GDPを示す理由は、個人の所得、企業の売上、利益、
株価、住宅価格は、物価上昇を含む名目の値です。実質は、物価上昇を
引いたものです。

名目GDPと実質GDPの内容、企業の売上と利益及び世帯の所得との関係を
知ると、会社の売上、利益、自分の所得と結びつけた経済がわかります
。

▼原因2:企業所得、個人所得の増加率の低下

名目GDPの増加率は、「個人所得+企業所得=国民所得」の増加率とほ
ぼ同じになります。ただし、GDPは数値です。東芝の粉飾のように、集
計結果に対し、エクセルの2を3に変えるというような修正を加えること
ができます。

企業の利益と個人の所得は、実際の会計金額です。名目GDPのように、
政府が数値で作ることはできない。名目GDP増加が低い場合、企業の合
計利益は、増えません。

株価は、ファンダメンタルズでは、企業の次期純益を予想し、〔次期予
想純益×PER倍率=期待株価〕を判断指標にしながら、決まります。

◎中国の2014年10月まで上海総合指数の低迷(PERで8倍から10倍)では
、政府発表のGDPとは別に、投資家は実際の企業利益の低下を見ていた
のではないか、ということです。

国有企業であっても、政府は企業の売上や利益、実際に払う賃金の操作
はできません。このため、政府が統計の実質や名目のGDPあるいは物価
上昇率がいくらであろうと、人々は、今月もらう賃金から、実際の経済
の成長を知ります。

2011年以降、人々は、自分の所得の伸び率の低下から、将来の期待所得
を修正したのでしょう。

自社の売上や利益、そして自分の賃金から、人々が抱くGDPの成長期待
値が低下した。このGDP期待値の低下が、
(1)2010年からの不動産価格の上昇の停止、及び下落と、
(2)2014年11月までの株価低迷(PERあkら10倍)の、根本での原因に
思えます。

◎中国の株価は、リーマン危機以後の6年間、政府の株価対策で大きな
上昇が始まる2014年11月までは、PERで8から10倍付近を低迷していまし
た。

この株価は、実際の、人々が感じているGDPの伸び率の低下を反映した
ものだったのでしょう。出来高のグラフも出ています。2014年11月から
、売買額が急に5倍に増えています。政府の株価対策によるものです。
(期間10年の、上海総合の、月足の罫線と売買の出来高)
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/ssce.html

上海市場の売買の出来高を見ると、2014年11月以降は、それ以前の10年
の5倍に増えています。5倍の資金が株式市場に投じられたことであり、
これは、明白に政府の株価対策を示すものです。

■5.金利との関係でも、名目GDPの10%以上の増加はあり得ない

変動金利で2%台、固定でも3%台と低い住宅ローン金利(中国銀行)か
ら見て、政府が言う名目GDPでの10%、実質GDPで7%の成長はあり得ま
せん。

物価上昇を含んだ名目GDPの増加率は、数年単位以上の長期で見ると不
動産価格の上昇に、ほぼ比例します。長期金利も、名目GDPの上昇とバ
ランスします。「長期金利≒実質GDPの期待上昇率+物価の期待上昇率
=期待名目GDP上昇率」付近です。

そして住宅価格も、以下のメカニズムで、結局は名目GDPの上昇との見
合いで、判断されるのです。

(注)物価の下落があり、1998年からの17年間も、実質及び名目GDPで
のマイナスが多かった日本では、GDPと企業所得、個人所得、株価、金
利、住宅価格の、こうした関係が、忘れられてしまっています。

■6.住宅価格は、10年後くらいの期待所得で、判断される

ローンで買う住宅の価格は、20歳代、30歳代の人の、現在の所得ではな
く、10年後の所得の想定によって判断され、買われます。

事例を、年間所得100万円の、都市部の平均的な労働者とします。
(注)都市部の賃金は5万1474元とされ、1元20円で換算すると103万円
です(国家統計局:2013年)。なお、北京は30%くらい高い。

(1)所得が年率で12%増え、その増加が続くと感じているとき
 現在の住宅価格1500万円
÷10年後の所得100万円×1.12の10乗=1500÷310=4.8年分

(2)所得増加が7%に下がり、将来も7%と思っているとき
現在の住宅価格1500万円
÷10年後の所得100万円×1.07の10乗=1500÷200=7.5年分

◎名目のGDP成長率で15%を想定していた時代から、7%~9%の時代に
なると、人々は、将来の所得観を過去の12%から、7%上昇くらいに修
正します。これは10年後の想定所得3.1倍が、2倍に下がることです。

◎住宅価格は、将来の想定所得との関係で「高い/安い」が決まります
。人々はローンの支払い額と、ローンを払うときの将来所得を対照する
からです。

(注)日本人の将来の所得観では、30代の人で、年2%の年齢給の上昇
でしょう。年齢給として1年に2%の上昇が、上場企業の平均です。年収
400万円の30歳の人が40歳を想定するとき、400万円×1.02の10乗=400
×1.22=488万円でしょう。

▼個人所得に対して高い住宅価格でも、安く見える時期

中国の2010年までのように、名目GDPでの15%増と所得の12%増を想定
している時代は、1500万円の住宅は、現在年収では15年分という高い価
格であっても、3倍に上がった将来所得の想定からは5倍であり、安く感
じます。(注)名目GDPの増加と、企業所得及び個人所得(両方で国民
所得)の増加は、ほぼ比例します。

このため、「上がらないうちに買っておこう」という動きになります。
将来の想定年収(310万円)では、4.8年分の住宅価格だからです。

わが国でも、住宅価格が上昇し、所得が1年に7%は増えていた1980年代
は、「住宅は早く買うもの」でした。1980年代は、この将来所得観は1
年で7%の上昇だったのです。

(注)年収の5倍から最大でも6倍が、ローンが払える住宅価格の妥当値
です。

■7.同じ価格が高く見える時期

所得の伸びも二桁だった中国では、将来の名目GDPが7%しか増えず、個
人の所得も7%しか増えないだろうと人々が感じるようになると、同じ1
500万円の住宅が、将来年収の7.5年分です。「ローンを払うのが困難な
、高い価格」になります。

このため、1500万円の住宅が売れ残り、価格が下がります。事実、上が
り続けてきた中国の住宅価格は、政府の強い振興策がある時以外は、20
10年を起点に、下がる都市が多くなってきたのです。

◎名目GDPの期待値は、資産価格(不動産と株)の上昇と下落を左右す
る、もっとも大きなファンダメンタルズ(基礎的経済指標)でしょう。


次号では、なぜ中国の名目GDPの想定値(期待値)が、2011年から公式
発表より4ポイント(%)くらい下がったのか、その原因を解明します
。まず、中国の、他国と違うGDPの内容からです。次は、中国の生産年
齢人口の反転が、2012年ころからのGDPに及ぼしてきた影響と今度のGDP
です。

【後記】
中国も、日本の約20年遅れで、生産年齢人口が減る時代になりました。
人口がわが国の10倍(13億人)ですから、65歳以上の高齢化のスケール
も10倍です。

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<775号:金融危機を増幅するデリバティブ>
  
2015年7月1日に有料版で配信したものです

【目次】

1.実は日常的な、金利スワップ
2.変動金利と固定金利は、将来金利の確率で言えば、等価である
3.金利スワップでの、金融機関の損益
4.企業会計で見たときの自己資本が、きわめて薄いドイツ銀行
5ドイツ銀行が抱える、巨大な金利スワップは、ユーロの金融危機の引
きがねになるか
6.想定事例
7.オフ・バランス(簿外)なので、リスクはB/Sには見えない
8.金利変動に脆弱な大手投資銀行
9.マイナス金利のドイツでの、突然の長期金利の上昇(2015年5月~6月
)

【後記】
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