こんにちは、吉田繁治です。太陽が近づいて、地球が含む水分が蒸気
に転じ、蒸し風呂になったような気候が続いています。
以前マレーシアに行ったとき、冷房のきいたクアラルンプール空港か
ら一歩出れば、思考を停止させるような、こうした、むんむんする暑
さでした。通貨危機前の経済は、熱く沸騰していた。
今朝は、UFJと三菱東京の統合(予定)を、日経新聞がスクープし
ています。起きてきた家人も「おぉ・・・」です。総資産190兆円
(三菱100兆円+UFJ90兆円)で、世界最大と言う。この表現
は、実はとても変です。
【本当のことを言えば】
何が世界最大? 世界最大の資産ではなく、金融界で世界最大の負債
銀行になった190兆円と言うべきでしょうね。
どうやってその190兆円に、利益という内容を与えるのでしょうか
? 負債に見合う利益を出せるのか?
銀行の当事者の頭脳構造は、ここへ至って未だに時代遅れの量の信仰
がある。そう感じました。
モルトに水をいれれば、水割りになって濃度が減るのですが。
朝日新聞は、世論調査で民主支持が29%と(5月比で+14ポイント
)と倍増し、はじめて自民支持の27%を上回ったと報じています。
内閣の不支持が50%に上昇。改正年金法を白紙に戻せと言う人が8
0%です。ここに、相当な怒りがある。
物価は、中国の資源需要の急増で、約10の年デフレ基調を変えつつ
あり、それにともなって、世界の長期金利(マネーへの需要を反映)
は上昇しています。
米国では、ドキュメント風の映画『華氏911(日本での公開は8月
から)』でブッシュ政権とネオコンのいい加減さが暴かれ、共和党支
持が急落、民主党のケリー支持が上回るように変わっています。
今、10年スパンでの中期変化が、至るところで、同時に起こってい
るようです。多くは、過去の清算です。
金融は、貸し金業ですから、過去を引きずります。
本稿は時事断章。最初に、銀行問題から。
現れた現象ではなく、現象の底を探ります。
今年の秋から、以下のことが顕在化する感じです。
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<Vol.193:時事断章:モルトと水>
【目次】
1.わが国の銀行の問題
2.7%金利の意味
3.インフレに転じれば、さらにディレンマが・・・
4.国民の1400兆円の個人金融資産を吸収してしまった政府
5.先行しているPER30倍の意味
6.注目すべきこと:日本はすでに所得格差の国になっている
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■1.わが国の銀行の問題
問題を短く集約します。わが国銀行の問題の根底は、自己資本比率8
%というBIS規制(スイス・バーゼル銀行監督委員会合意)を、国
際業務を行う銀行が満たさなければならないことです。
(国内業務だけの銀行なら、4%とされています)
【自己資本】
自己資本は、
1.株主が所有する株式と、
2.留保利益(税前利益から税、配当、役員賞与等を引いた残り)か
ら構成されます。
増資ができるかどうかは、利益見通しに依存しますから、自己資本は、
1.過去の利益と、
2.利益見通しが決めると言っていい。
(注)実は、自己資本という用語は変です。会社が所有する資本のよ
うに思えますが、そうではない。正確には、株主から会社が預託を受
けた「他人資本」です。貯まった利益の処分権も、株主に属します。
CEOと役員は、他人資本の運用を行う役割です。
自己資本が、総資産の8%以上必要だということの意味を、以下に、
単純化して示します。
▼1億円貸すなら、累計で800万円の税引き後利益が必要
例えば1億円を、預金者から預かる(=借りる)とします。銀行の資
産は、バランスシート上では、負債(預金)と同額の1億円が増えま
す。
銀行の機能は、どこかに貸し付け、利益(=貸出し金利−預金金利−
業務経費)を稼ぐことです。その利益の50%が留保され、自己資本
になってゆく。
【BIS規制の意味】
銀行の資産として増えた預金1億円を、企業や個人に貸し付けるには、
8%、つまり800万円の自己資本を積まなければならないという
のが、BIS規制です。
貸出しは、回収リスクがあるリスク資産とされます。一部が回収でき
なくても、銀行の信用が維持できるよう、貸出しの8%に相当する自
己資本を積む。これがBIS規制の主旨です。
90年代初期のBIS規制の目的は、日本の銀行の、世界でのオーバ
ー・プレゼンスに楔(くさび)をうちこむことでした。80年代末か
ら90年代初頭は、世界の主要資産を日本が買ってしまう勢いだった
のです。
(注)今はBIS規制を、金融庁が利用しているように思えます。
【16%の累積利益が必要】
相当に厳しい条件。追加で預金者から預かった1億円の運用において、
累積で8%(800万円)以上の税引き後利益、税前利益では、1
億円の運用で、16%(1600万円)を稼がなければならないから
です。
商品卸の粗利益のような利益率です。
仮に10年間の長期貸出しなら、1年間の純益(貸出し金利−預金金
利−業務経費−回収リスク)で、年間160万円(1.6%)を稼ぐ
収益力がない限り、増加貸出しはできない。
▼必要金利の試算
銀行の業務経費は、資金量の約1%です。回収リスクは、少なくとも
2%は見なければならない。預金金利が(今のゼロ金利ではなく)、
<歴史的に正常な金利である3%〜4%>に戻ったとすればどうなる
か?
必要な業務純益を貸出しの1.6%とします。
必要な、貸出しの利率は、以下になります。
預金金利+業務経費+回収リスク+業務純益1.6%=貸出し金利
3〜4%+1%+2%+1.6%=貸出し金利6.6%〜7.6%
必要な貸出し金利は<6.6%〜7.6%(ならせば7%)>という
高い金利になります。
今の貸出し平均金利は長短合わせればたった<1.8%>です。貸出
し金利が7%になれば、借りている人や企業の金利の支払いは、今の
<3.9倍>になります。
1億円の金利の支払いが3億9000万円になるということです。債
務の多い企業の淘汰(とうた)、整理、売却を意味しています。
■2.7%金利の意味
7%という貸出し金利は、中国のような、経済の高度成長がないと、
借りた企業が(全体で見れば)、払うことができません。ここが肝心
な点です。
▼2%の低成長経済での、銀行のディレンマ
日本を含む先進国の年2%〜3%成長では、7%の金利は、もうムリ
な金利になっています。設備資金として多額に借りれば、待つのは破
綻です。
約定金利の7%が契約できても、借りる側の金利払いがムリであれば、
貸し倒れが増え、金利支払いは一層ムリになる。
そうすると回収リスクが2%以上に増えますから、支払えない7%金
利なのに、もっと金利を高くしなければならないというディレンマ(
矛盾)に陥る。これが、今の銀行の世界共通のディレンマです。
年2%から3%しか伸びない先進国経済では、7%という銀行貸出し
は、いずれムリであるということになります。これが、マクロ経済の
視点から見た論理的な帰結です。
<先進国の銀行は、各国内で増加貸出しをするには、「ムリな業種」
になっている>のです。かと言って、中国やインドに殺到するには、
先進国のマネー総量が大きすぎます。
金融市場は、リスクマネーである株式市場を通じて設備投資の長期資
金を供給しなければならない構造に変わってしまったのです。
融資をする銀行は、融資なら短期資金か、後は債券の購入機関に転じ
たと言えます。そのため、銀行は、各地に多く存在する必要がなくな
った。
預金を集める機関としても、機能を終わったと見ていい。
総預金は、今後増加しないからです。
▼米国は再び、14年前の住宅ローン危機へ
米国の金融問題も、500兆円を貸しこんでいる住宅ローンのモーゲ
ージ(抵当証券)の下落(=金利上昇)となって、今、発現しつつあ
ります。
フレディ・マック、ファニーメイという米国の二大住宅債券買い取り
会社に、ちょうどエンロンのような、デリバティブ粉飾があると言わ
れはじめた。
18兆円の不良債権を出した90年代初頭の、セイビング&ローン
(S&L問題)の前夜の感じです。今度は、ずっと大きな100兆円
から200兆円の不良債権の規模になります。
(注)今の金利上昇は、米国の公定歩合では0.25%にすぎません
が、一旦、金利が上昇をはじめると、一度で終わることはなく、1年
から2年の間に、数次の上昇になるのが常です。
▼高金利=インフレ
銀行にとって唯一の可能性は、経済のインフレへの転換です。例えば
5%のインフレでは、預金に対して支払う金利(仮に4%)を、実質
で無効にできます。
5%の物価上昇の業界なら、7%金利も支払えるでしょう。
銀行にはインフレが必要です。(世界の銀行に共通します)
以上が、銀行問題の結論です。年金も生命保険も、銀行と同様です。
金融業は、<インフレで過去の債務を実質的に減価させないと、成立
しない>構造を抱えています。
まとめれば、
(1)インフレ基調に転じない限り、銀行の、融資増加の活動はで
きない。
(2)物価が上昇しない背景では、銀行の融資機能は、全体として
は、縮小する。
(3)そのため、統合というリストラが続く。
この現れが、UFJと三菱東京の統合(予定)です。
名前は何になるのでしょうか? MTU銀行でしょうか?
多分、東西2大銀行になるまで、続くでしょう。この過程で、先延ば
しされてきた、債務超過の大手企業が、企業再生という名の切り売り
に入ります。
銀行も生保も、商品の差異化がほとんどない。来年のペイオフに向か
って統合されても、国民は困らない。当事者に対しては、酷な言い方
ですが、右肩上がり経済で、規模を膨ませてきたにすぎない。
逆に言えば、融資を含む商品の差異化があれば、小規模でも、インタ
ーネットで大きく活躍できます。リストラと人員整理の過酷さを経験
するでしょうが、どうか頑張ってください。
▼金融業の変化
商品とサービスの内容で、差異化がないと統合、併合、買収されるの
は、銀行や生保に限りません。製造、流通、サービスでも全く同じで
す。これは「マイクロソフト現象(またはデル現象)」と言っていい。
世界のビジネスモデルは、どんどんデジタル化され(物質的には、C
D一枚になって)驚くほど共通化に向かっている。銀行の命は、すで
に、顧客名簿と情報システムに変わっています。
顧客との関係が、もっとも価値ある資産です。
金融は、立派な建物の中で行わなくても、ほぼすべてをデジタル化(
ディスク化)ができるビジネスです。金融は、商品が数字ですから、
もっともネット化、プログラム化、データベース化がしやすい。
先駆けとして、2000年から証券会社で起こった「インターネット
・トレード革命(手数料の激減)」が、ほぼ同じ形で、生命保険を含
む金融業の全体に波及します。旅行業も似ています。
帳簿と羽ペンと上司や顧客の顔色を伺い、計算が遅いソロバンで仕事
をしているときは、商品とサービスの差異化がなくても、閉鎖的だっ
た地域経済に、建物を建て、顧客に個別に会ってビジネスをし、存在
できたのですが・・・
今も、顔で行っているビジネスがあります。サインだけのプライベー
ト・バンク。彼らは、オープンなインターネットにする気はない。運
用では、コンピュータプログラムとデリバティブを駆使しますが・・
・
プライベート・バンクの根本はすこしあやしげです。アラブの王家の
オイルマネーや、政治マネーを含むマネー・ロンダリング(資金洗浄)
と、タックス・ヘブン(租税法の抜け穴を探す租税回避)で、成立
しているからです。
スイスの裏と表です。
金細工師が、貴族に対し細工期間に、金の預かり証(紙幣の根源)を
発行したことで発祥した、近代銀行業の本質は、そういった怪しいも
のかもしれません。
しかし、もっとも怪しいのは、紙幣という虚構の発行権を独占してい
る中央銀行です。何回も紙幣を反古(ほご)にし、無価値にしてきた
のが、金融の歴史でしょう。
明治時代の1円が、なぜ今、当時の1円の価値をもたないか、それを
見ればわかる。30年間も価値を切り下げ続けているドルも同じです。
他国の通貨も同様です。
金融経済の根源には怪しさがある。紙幣を作れるからです。
大量発行されている国債は、財務省が発行する第二の通貨です。
(注)財務省も通貨を発行しています。補助通貨とされるコインです。
紙幣は日銀ですが。
■3.インフレに転じれば、さらにディレンマが・・・
企業向け融資と違い、財務省によって、ノンリスクとされているのが
国債の購入です。そのため、銀行は国債購入を増やしています。
現在、地銀を含む主要銀行で100兆円ももっています。民間融資を
引き上げ、しかし減らない国民の預金を、運用先がないために国債に
振り替えてきた結果です。
▼国債はノンリスク債券ではない
財務省が、国債をノンリスクとするのは恣意的なものです。
国債は、国家が支払い保証をするにせよ、価格下落リスクがあるマー
ケット商品だからです。
マーケット心理が、一旦インフレ期待に転じれば、金利が上昇し、国
債は下落します。今、リスク債券の最たるものは、日銀が増加引き受
けする「禁じ手」しか方法がなくなった国債でしょう。
1000兆円以上も消えた土地バブルが、そっくりそのまま、今は1
000兆円の国債バブルに転じているというのは、決して比喩ではな
く、資金循環から見て、言えることです。実質価値は減っても資金の
数字は、消えないのです。
経済学では「貨幣錯覚」と呼んでいます。1000円という数字が1
000円のままなら、以前と価値が同じように思えるからです。14
00兆円の個人金融資産は、数字としてはなくなりません。
しかし、購買力という価値が減る。
▼リアルマネー(モルト)の根底
家計が(4000万世帯の合計では)赤字になった民間金融市場では、
借り換え債を含めば160兆円/年も発行される国債を、もう、増
加吸収できない。
これは、4000万の世帯が生む、節約(saving)のリアルマネーで
は、国債購入が限度になってオーバーフローしたことを意味していま
す。
リアルマネーの根源は、国民経済では、世帯の貯蓄しかない。
戦後の先進国世界で、はじめて、米国で、世帯が生むリアルマネーが
なくなった。それを原因とした貿易赤字でした。そして、米国の10
年後に、次は、日本になりつつある。
インフレ基調に転じ、経済原理で金利が上昇すれば、銀行は融資では
採算が取れます。しかし今度は、金利上昇によって国債の下落という
損失を抱える。
企業の不良債権に変わって国債が次の不良債権になります。
<土地が、90年代で、順次、国債に変わってきた>と言えば、分か
りやすいでしょうか。銀行が民間融資を減らし、国債を買ったからで
す。
インフレ期待が生じ、金利が上昇基調に転じて、下落する見込みの国
債を、銀行や生保、機関投資家が一勢に売ればどうなるか?
市場金利はスパイラルに上昇し、国債はより一層下落します。
地価の下落と同様です。
■4.国民の1400兆円の個人金融資産を吸収してしまった政府
日本の資金循環を見れば、相当に驚愕します。
1400兆円と言われる個人金融資産(銀行預金、郵貯、生保、年金、
債券、株)は、とどのつまりは、ほぼ全部、政府部門が吸収してし
まっている。以下の全部は、実質的は国債そのものです。
【政府の総借金】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
中央政府の直接の借金(国債等) 700兆円
地方自治体の借金(地方債等) 200兆円
特別会計に絡む特殊法人等の借金 474兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
政府部門の借金合計 1374兆円
金利が5%になって、数年続けば、金利支払いでは、1374兆円×
5%=68.7兆円(1年間)もの支払いです。
金利を払う原資である国家の税収は、41兆円(03年度)しかあり
ません。国家の一般会計は82兆円で、足りない41兆円は借金をし
ます。
この41兆円もの赤字に加え、上昇した金利は、一切払えない。
消費税を今の4倍の20%にして、生活を苦境に追い込んでも、得ら
れる税収はたった37兆円です。国債金利が5%に上昇すれば、今の
41兆円の赤字に加えた増加金利の58兆にまるで足りない。
(注)現在の消費税は5%で税収は9.5兆円、世帯当たり23万円
です。これは今の、約10兆円の国債金利となって、ほぼ消えていま
す。消費税を20%にすれば、税収は28.5兆円増加し、37兆円
になります。世帯当たりで年100万円です。今より、77万円も増
えます。
今から2回の選挙で想定される、政界再編と離合集散を経たあとで、
想定される民主党内閣は、
(1)増税内閣になるか、
(2)インフレ内閣かのいずれかです。
これは必然であり、政策の選択肢ではない。
インフレは形を変えた金融資産課税です。累積30%のインフレで、
1400兆円の個人金融資産の30%、つまり420兆円の価値が減
少します。これは税と同じ、所得移転です。50%なら700兆円。
ここらあたりでしょうね。
▼日銀の国債買い
日銀が、国債を買う(政府部門へ貸す)ことの意味は何か?
国民経済の、リアルマネーの資金源泉は、以下の3つだけです。
(1)世帯の貯蓄
(2)企業の留保利益
(3)政府部門の財政黒字
(注)米国は、基軸通貨特権で、年50兆円の海外のマネーを集めて
います。
世帯の貯蓄を、金融機関を通じて企業が借り、投資し、稼ぐ利益で金
利を払い、政府が赤字を出さないのが正常な経済です。
日本では、世帯はすでに1400兆円、十分すぎるくらい貯蓄してい
ます。貯めすぎたため、国家が利用したとも言えます。
しかしここで、団塊の世代(47年〜49年生まれ:670万人)が、
50代半ばを超え、大挙して「貯蓄取り崩し世代」に突入しました
(2002年以降)。これが、まだ金融経済に折り込まれていない。
世帯の貯蓄の、4000万世帯合計での増加は、今後望むことができ
ない。人口構造から、長期に確定しています。
このことは、企業も(全体では)留保利益の範囲で投資すべきセクタ
ーになったことを意味します。一勢に借りれば、金利が高すぎて、収
益が出ないということも意味します。
政府部門は、今、年50兆円くらいの赤字です。
これを埋めてきたのは、以下の2つです。
(1)企業部門(セクター)の、年20兆円平均の、借入れ返済
これによって、銀行は、BIS対策としても、ノンリスク債
券とされる国債を買ってきました。貸出しを減らし、国債を
買えば、制度会計上の自己資本比率が、上昇するからです。
(2)金融機関による国債(公債)購入で足りない部分は、日銀
による国債購入
日銀の国債購入は金融緩和ですが、これはマネーのモルト(原酒)を、
水で薄めることです。
モルトの量は水で薄めても増えない。
日銀は、何も商品を生産しないからです。
今後も、日銀はもっと大量に、水割りの水を注ぐ。
政府の財政破綻を避けるためです。
債務超過企業への「追い貸し」と同じです。
(注)日銀がマネーを締めれば、つまり国債を買わなければ
政府は予算が組めず、一層強烈なデフレが襲います。
商品とサービスの生産や流通・販売だけがリアルな経済です。
金融経済は、実物経済の影です。
変わらない預金数字を眺めていても、生活は豊かではない。
個人金融資産の1400兆円は、数字では変わっていない。
1400兆円は、相当に薄まっています。
試算では、数字の50%の実質価値(700兆円くらい)でしょう。
これは、物価が2倍になる可能性を示しています。
■5.先行しているPER30倍の意味
▼30倍になっている米国のPERの意味
すでに、米国の株のPER(株価÷一株当たり税引き後利益)は、平
均で、30倍という水準になっています。西欧も類同です。
30年分の純益の現在価値が、企業価値と等価とされています。
これが、株価を計るもっとも重要な指標であるPERの意味です。
(注)日本は、20倍レベル(04年7月)。米国に較べPERが1
0ポイント低いから、ガイジンのファンドマネジャーが日本の株を買
った。
資本主義の総本山である米国のPERは、80年代まで長期で、ずっ
と16倍でした。株式マーケットでは年間純益(税後利益)の16倍
が、企業価値(株の時価総額)とされていた。
このPER16倍は妥当なものに思えます。
▼二倍のPERは、二分の1のマネー価値
PERが30倍になったことは、株価だけとの比較では、マネーの価
値が、過去の半分になっていることを意味します。
年間1億円の純益を出す会社の値段(時価総額:広義の物価の一種)
は、以前は16億円でした。今は、それが30億円だからです。
株価だけでは、マネーの価値は、すでに半分になっています。
(地価の上昇も、マネー価値の下落と同じです)
先行する株価で、すでに実現している、「マネー価値は半分」が、物
価に波及するのが、インフレでしょう。
大きく見れば、世界のマネーの総額(債券、預金、年金、保険、株)
等は、世界の実物経済(GDP:約4000兆円)に較べたとき、7
0年代の2倍にもなっています。これが、PERのレベル(企業の価
格)を、以前の2倍の30倍に上げた原因です。
モルト(商品とサービスのGDP)が、2倍のマネーという水で薄め
られた状態がすでにある。
こうしたときは、金融資産(=同額の負債)の数字が半分になるので
はなく、物価が2倍に向かうという方向を取ります。金融資産の数字
は、決して減らない。代わりに物価が上がる。
■6.注目すべきこと:日本はすでに所得格差の国になっている
日本人には、中流幻想があります。所得格差と差別の国、米国とは違
うという意識です。
これは所得面では、失われた幻想です。
以下のデータは、日本政府が公表したがらない。中流幻想をばらまく
政策意図からです。しかし、気が付けば、この国にも、もう所得の中
流はいない。90年代をすぎたとき、結果は、米国とほぼ同じ、所得
分布になっています。
(注)企業のマーケティング戦略にこれが折り込まれていません。消
費の2極化になって現れています。100円ショップや、讃岐うどん
現象と、並存するブランドショップ現象です。
大阪では例えばリッツ・カールトンに行けば、今、本当に客が多い。
3000円のランチを食べているのは、多くは女性です。サラリーマ
ンではない。以下の数字を見れば、それが理解できるでしょう。
▼25%に4分割した世帯所得で見れば
【2000年】
所得4分位 年収平均 国民の総所得での構成比
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
上位25%の世帯 1284万円 52.0%
次の25%の世帯 643万円 26.0%
次の25%の世帯 381万円 15.4%
下位25%の世帯 160万円 6.7%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(ニューズ・ウィーク03.6.11号)
年収で最上位25%(約1000万世帯:3000万人)は、世帯収
入が1284万円です。1000万の世帯で、総所得の52%も占め
ています。
平均月収で、100万円を超えます。四世帯のうち一世帯であり、国
民の総所得の52%を占めています。金額で半分のマーケットがこれ
です。残りの75%の世帯合計で、半分のマーケットです。
(注1)ここが、従来の中流マーケティングで無視されていることで
もあります。年収1000万円以上が4世帯のうち1世帯です。
(注2)米国では、最上位世帯20%の年収は14万6000ドル(
1576万円)、国民の総所得での構成比は50.1%です。5世帯
のうち1世帯で、国民の総所得の半分に達しています。
わが国で90年代に激増した20代のフリーターは、500万人もい
ると言われます。年収は100万円平均でしょう。多くの人は親との
同居でしょうが・・・100円ショップ、豚どん、讃岐うどん、そし
てまだ、空白のディスカウントストアです。
現在の傾向は、政府の「自己責任」という乱暴な政策を含め、個人の
所得格差が開く方向です。政府は、絶対に自己責任というコトバを国
民に向かって使ってはならない・・・ここに官僚の倫理の低下がある。
米国には以下に示すように20%のホームレスすれすれの貧困層と、
最上位1%の超リッチ層がいるので、所得格差が目立ちますが、全体
は日本と、ほぼ似ていることに注目してください。
(米国)
所得5分位 年収平均 国民の総所得での構成比
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最上位20%の世帯 1576万円 50.1%
次の20%の世帯 724万円 23.0%
次の20%の世帯 464万円 14.6%
下位の20%の世帯 270万円 8.7%
最下位20%の世帯 108万円 3.5%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(2000年:ニューズ・ウィーク03.6.11号)
日本は、オプション株を含め数億円が平均である米国のトップマネジ
メントの年収を除けば、すでに米国型の所得格差の国になっています。
経済を弱めるまでの福祉がある、ドイツ型ではない。
アングロサクソン型への舵を切ったのは、米国から要請された金融ビ
ッグバンを経済政策にした橋本内閣でした。小泉内閣は、竹中平蔵大
臣によって、金融ビッグバンの仕上げに向かっています。
(注)日本では2007年以降、団塊の世代の退職(退職金総額が8
0兆円)が開始され、それ以降、上位25%の平均所得は減ることに
なります。そこから、若い世代の給与原資が、出てきます。
総じて言えば<所得格差の国日本>を、今後どうもっていくか、これ
が今後の政治的な選択です。
インフレ、高金利、先延ばししてきた債務超過企業の整理、そして政
府財政破綻へ向かう一環が、今回のUFJと東京三菱の統合でしょう。
不良債権は、銀行と金融機関を痛め、その補填資金を出したのは国で
す。そして次は、不良債権を引き受けた国家が、不良債権の元になる
順です。最期の仕上げは、<この国最大の特殊法人である日銀のだれ
も埋められない債務超過の露呈>です。
(注)日銀は、金利の上昇で、国債が下落していて今すでに債務超過
です。それが、広く認識されるかどうか、そこを言っています。
▼ある日
1400兆円の個人金融資産を、半分の価値に減らした金融バブル敗
戦後とまとめることができる、数年の時期をすぎれば、経済は相当に
ご破算になります。
その後は、30代以下の世代が将来に希望をもてるような国と経済を
作らないといけませんね。
数年前、ある上場企業へ講演に行ったとき、前列は40歳代以上でし
た。後列に、30代以下の人達と、女性パートの人達がいた。
「皆さんは、積み立てた年金すら約束通りは払えない国家を、信用し
ていないでしょう?」と言うと、一勢に顔を上げたのは、後列の人達
でした。顔に怒りがありました。
年金の問題は、消費税の増税という政治課題につながります。しかし、
前述したように、20%への増税でも問題は解消しない。出てくる
のは、当たり前の経済原理でしょう。
【8月6日の公開講演】
8月6日(金)に、東京の明治記念館で、内田洋行主催の『ユビキタ
ス・コンピューティング』を基本テーマにした公開セミナーがありま
す。
私の演題は、久々に情報システムを離れ『これからのリーダシップと
マネジメント・・・経営は何をどう行うことか?(13:00〜14
:10)』、という基調講演です。会場は300名収容で、参加費は
無料だそうです。
明治記念館は、明治の雰囲気が残った会場と、広大な芝生の庭が素晴
らしく、喫茶でコーヒーを飲めばやすらげる好きな会場です。お会い
しませんか? 今なら空きがあるでしょう。
http://www.uchida.co.jp/2004s/index.cfm?AppAction=EventTimeTable&HallID=1
先日、講演に行った北海道の上場企業で、『利益経営の技術と精神』
を読み、会長・社長が衝撃を受け、幹部社員約300名に読むことを
義務づけたと聞きました。著者冥利(みょうり)に尽きます。
熱烈な支持と中身が難しいという感想に二分されているようです。情
報システムの使い方で、感想が分かれるようです。次第にいろんな企
業に浸透しています。先日、増刷されるとの連絡を受けました。
http://www.amazon.co.jp
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【ビジネス知識源 読者アンケート 】
読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的とす
るアンケートです。いただく感想は、とても参考になります。
1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。
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▼本無料版と姉妹編である有料版の、最近のものの目次です。
<163号:2007年ショック>
【目次】
1.想定外のこと
2.ここまで深刻になった原因は、国民の高い貯蓄率でもあった
という皮肉
3.果たして政治責任か?
4.2007年問題
5.官の権限の根底は、中立性からではなく特別会計からだった
6.世界の長期金利と消費者物価の上昇
7.まだ折り込まれていない資源とエネルギーの多消費
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