日本政府の財政破産とその後の経済(1)
This is my site Written by admin on 2010年12月8日 – 09:00

おはようございます、吉田繁治です。民主党政権が、方向を失い、迷走
を続けています。政治は、経済面では、行政権によるマネーの配分です
。一般会計と特別会計の収支予算という形で、それが現れます。本稿で
は、政府の財政破産を検討し、対策を述べます。

▼最初に政策の提言

金融論でもありますが、これを書く理由は、金融が経済の先行指標だか
らです。マネーが注がれる企業、産業が成長します。

企業融資ができず、国債と外債を買うだけの銀行では有効ではない。対
策は、ゴールドマンのような「日本版投資銀行」を、日銀のペーパー・
マネー30兆円の基金で、作ることです。

政治、つまり投資銀行法の制定で、作ることができます。自民党が起案
してもいい。デリバティブの金融人材は、リーマンのアジア・欧州事業
を買収し、ガイジン社員(3000人)を引き受けた野村證券にいます。今
はまだ、多くの人が閑職でしょう。

日銀がその資本としてペーパー・マネーの増加発行を嫌がるなら、財務
省の外貨準備$1兆(83兆円)を基金にして、投資銀行の資本としても
いい。外貨準備は利用すべきです。ドル債は売却せず外貨のままでもい
い。

日本に、今あるマネーです。国債を1000兆円も発行する日本です。30兆
円は、その33分の1に過ぎません。

国家の財政破産、つまり国債下落、そして金利上昇及びインフレととも
につぶれる既存の金融は、そっとしておけばいい。国民の預金は政府と
日銀のマネーで保証されます。

以上を想定すると、以下を読むのが痛快になるはずです。
経済に政治が介入しなければならない時期になっています。

▼GDPで24%を占める政府部門

支出面でみたGDP(国内総生産=主体別総支出)は、以下です。

名目GDPは物価金額で、企業の売上と、個人の所得額に対応するもので
す。企業間取引や政府内取引と二重計算部分は除かれ、融資取引は含ま
れません。支出面、生産面、所得面のGDPは一致します。

(注)実質GDPでは、物価の下落率を加えて物価の上昇率は引きます。
実質のGDPは、国内で生産されて販売された商品数量です。

GDPでは、物価の変動を含む名目と、商品数量の実質の違いに着目して
おくことが必要です。インフレ(物価上昇=通貨価値下落)と、デフレ
(物価下落=通貨価値の上昇)に関係します。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
民間消費支出 285兆円(帰属家賃54兆円を含む。1世帯当り558
            万円:商品・交通・通信・家賃を含む)
民間住宅投資  13兆円(住宅の購入額:3000万円で43万軒分)
企業設備投資  65兆円(民間企業の、設備投資金額:減少)
政府消費支出  95兆円(政府の予算額で、貸し付け額を除く)
公共事業投資  20兆円(一般会計・特別会計での事業投資額)
輸出      73兆円(わが国からの、対外輸出額:減少した)
輸入     -68兆円(海外からの、輸入額)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名目GDP   483兆円(2010年9月期:年間GDP:内閣府)     

(注)在庫の増減は、近年は小さいので、省略しています。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe103/jikei_1.pdf

わが国の名目GDPは、2007年~2008年の516兆円がピークです。10兆円規
模の補正予算による政府支出の拡張にも拘わらず、輸出の減少を主因に
、GDPは今33兆円(6.4%)減っています。名目GDPが減っているのは、
世界で日本だけです。

この原因は、
・資金が、40~50兆円/年の、増発国債に吸収され、
・米国に、1年に15兆円くらいの外債買いとして逃げているためです。

名目GDPが肝心なのは、企業の売上額や個人の所得額に直結するからで
す。実質GDP成長率が3%、物価下落が2%なら、個人の平均名目所得(
報酬額)は1%しか増えていません。

経済主体は、世帯・企業・政府の3つです。政府部門は、上記のように
、消費支出(95兆円)と、公共事業への投資(20兆円)で、合計115兆
円です。この115兆円が政府と地方、及び、政府機関の間の貸し借りと
取引の二重計算を除く純額です。

GDPを構成する科目で、24%を占めています。GDPの4分の1が政府部門と
見ていい。政府部門の支出を決めているのが政治(行政)です。

(注1)支出面のGDP(上の表)に、企業の売上収益が出ていないのは、
企業の売上(正確には粗利益)は、生産面のGDPだからです。

支出面のGDPでは、企業が作った商品を買う世帯と政府部門の、上記の
消費支出が、企業の売上収益を表します。

(注2)粗利益=売上-仕入:仕入れは他の会社の売上です。GDPでは売
上の二重計算を避けるため引きます。GDPは付加価値生産の総額と言わ
れるのはこのためです。

このGDPの付加価値額は、世帯所得額と企業所得額に減価償却費を加え
たものと等しくなります。

【政府部門の大きな赤字】
周知のように、1991年以降の政府部門は、税収と医療保険料や年金の掛
け金等では、政府予算をまかなえていません。

2010年度の、国の一般会計(92.2兆円)では、赤字額が税収(37.4兆円
:一般会計分)より多く、44.3兆円あります。これが国債増発分に相当
します。

増発国債がうまく市場で捌(さば)けないと、政府は歳入不足になって
、予算を立てても資金がなく、実行ができなくなります。

(注)なお自治体の地方税34.1兆円(住民税、固定資産税、事業税、た
ばこ税等)は、国税(所得税と消費税等)の37.4兆円とは別です。

国の一般会計の税収が最高だったのは、バブル期の1990年、91年の60兆
円でした。今、そのときの60%に減っています。消費税を3%から5%に
上げても、国民の課税所得(世帯所得+企業所得)が減ったたためです
。

【政治と財源】
自民党政治では、01年からの小泉内閣の時代に、政府予算の財源問題が
大きく生じています。拡大する財源問題と、ねじれ国会を主因に、安倍
、福田、麻生の短命内閣が続きました。財源がなくなると、政府は維持
できません。

【貯蓄と国債】
1990年代は、バブル崩壊後の経済対策として、政府は1年に40兆円程度
の国債を発行し、公共事業に充てていました。

90年代までは豊富だった世帯貯蓄が、政府系(郵貯・簡保)と民間の金
融機関に貯まり、金融機関は増加預金で国債と外債を買っていました。


豊富な世帯貯蓄があったので、政府財政の赤字は、現在並みに大きくて
も、危機にはならなかった。自民党政治は、幸運な資金環境の上にあっ
たのです。

【埋蔵金があるとしたが・・・】
預貯金の増加財源が乏しくなった民主党内閣では、「特別会計に隠れた
剰余金(埋蔵金)が使える。大きな増税はなくても、福祉費を含む予算
の緊縮をせずに済む。」ということでした。

発露が、表面の人気を呼んだ「特別会計の事業仕分け」だったのです。
しかし想定されていた40兆円相当の埋蔵金の発掘(小沢氏)どころか、
7000億円分の事業仕分けしかできなかった。

【埋蔵金とは?】
特別会計の埋蔵金(多くが次年度への繰り越し金)を指摘したのは、元
財務省の高橋洋一氏でした(小泉内閣時代)。ここから「40兆円の埋蔵
金」が一人歩きします。

埋蔵金と言うと、特別会計の金庫に現金がつまっている感じです。実際
は、そうではない。清和会(元官房長官の中川秀直氏)が財務官僚に命
じて計算させたものが、埋蔵金としては包括的です。

特別会計の、今後の予算の縮減、公務員の削減、国有資産の売却を含む
のが埋蔵金の総体です。民主党も、この試算に依存しているでしょう。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0634.pdf

【自民党 清和会による、埋蔵金の試算:2010年7月】
(1)08年度 財投特会から6.8兆円を活用    6.8兆円
(2)09年度 特別会計の総見直しで        10兆円
<以下の項目は、10年度~13年度に、行財政改革を行えればとの仮定か
ら生じるものです>
(3)郵政民営化や政府系金融機関の株式売却で   8.2兆円
(4)国有資産の売却で             3~5兆円
(5)公務員人件費の削減で            4.4兆円
(6)国立大学・高速道・空港の民営化譲渡で   7.1兆円
(7)地方分権にともなう剰余金の削減で     1.0兆円
(8)独立行政法人への、政府出資金の民間売却で 14.5兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上の総合計(最大)            55~57兆円

【外貨準備は、政府の埋蔵金とは言い難い】
以上が、埋蔵金の正体です。

いろいろと言われますが、これ以外にはない。

「政府外貨準備(約$1兆:83兆円)も埋蔵金」と言う人がいます。
外貨準備は、
・財務省が短期証券を渡し、
・日銀と金融機関から円を借りて(つまり政府借金で)、
・企業が輸出で受け取ったドルを買ったものです。

政府の外貨準備勘定には、同額の負債があるので、埋蔵金とは言い難い
ものです。

【年金積立金も、政府の埋蔵金ではない】
社会保険庁が管理している公的年金の積立金(127兆円の残高:2007年
)も、政府の埋蔵金と言われることがあります。

年金基金は、郵貯の預金と同じく、国民の資産です。政府の所有資産で
はありません。管理は政府ですが、政府が所有する埋蔵金とは言えない
。管理と所有は、まるで異なります。

08年度と09年度は終わり、上記の6.8兆円(08年度)と10兆円(09年度
)は、ほぼ国債購入(=政府内の勘定の振り替え)に使われています。


特に2010年度は、
・リーマン・ショック後の、金融・経済対策としての「緊急補正予算(
麻生内閣分)」をまかなった53兆円の国債増発分に対し、
・上記の10兆円の「埋蔵金」を国債購入費に充てています。
こうした景気浮揚と経済対策の結果が、上の表のGDPです。

▼2011年以降は、国有資産と政府出資金の売却、および公務員削減分が
、埋蔵金とされている

残る埋蔵金は、上表のように2011年からの行政・財政改革です。その内
容は、「国有資産と政府出資金の民間への売却」です。この売却ができ
るかどうか?

例えば郵政民営化、つまり政府出資金の民間への売却(株式会社化)を
果たす関連法案は、少なくとも今後3年は続く、衆参ねじれ国会で、否
決されています。

以上の埋蔵金も、全部が、使えば一回限りのものです。

郵政以外の独立行政法人の、政府出資金の民間売却(株式会社化)も、
可能かどうか。(注)郵政改革法案の否決で、郵政公社の株売却収入が
ないことも、国債金利が上昇する原因になっています。

衆参ねじれ国会と、民主党政権のリーダシップの欠如、
・言い換えれば「国民が、共感を感じる国家像」のなさから、
・行政の大幅な改革は実行ができない可能性が高い。
国民の支持がないと、政治はできないのです。

なお、行政組織が国家です。従って国家像は、これからの行政組織のこ
とです。警察も自衛隊も公務員です。

鳩山前首相や菅首相が、「国を立て直す」と言っていますが、この国と
は何か? 曖昧な言葉では困ります。考えが浅いからです。

民主党政治が迷走する根底の原因は、「必要な政府予算の、財源を示せ
ないこと」から来ています。このため菅氏が暗愚に見えます。自尊はど
うなっているのか。普通の人格なら、耐えられないでしょう。埋蔵金政
策は、間違いだったと言って、今修正せねばならない。

▼対立する2つの見解

国家財政(=官僚組織)の破産は、金融面では、
・財政赤字のために増発される1年に40~50兆円の新発国債を、金融機
関が引き受けることができず、
・債券市場に札割れ(ふだわれ)が生じ、国債価格が下落して、金利が
高騰することです。

アイルランドやギリシアのように、長期金利が5%を超えることです。

(注)今、両国の長期金利はほぼ10%を超えています。日本の財政では
、今は1.14%の10年債金利が、2~3ポイント上昇して3~4%水準に上が
ると政府が予算を組めず、破産に向かいます。既発国債と政府短期債務
が、1000兆円を超える巨きさだからです。

公務員(399万人)の、給料・ボーナス、福利厚生費と年金を含む全報
酬(準公務員を含むと40兆円分)を国債で渡せば、話は別になりますが
・・・今ちょうど、40兆円、400万人の公務員の総報酬に相当するもの
が不足しているからです。

【国家とは?】
国家は、国民ではない。世帯でも企業でもない。国家財政の破産は、世
帯や企業の破産ではない。国家は、中央政府と地方自治体、および独立
行政法人の行政機関を言います。

国家財政の破産は、行政機関の収入と支出の差である赤字の拡大から、
不足資金の調達ができないことによる破産です。医療費の70%、そして
厚生年金と国民年金保険は、国家による管理です。

愛国心では、「国とは何か?」が問題になります。

国を国家と解釈すれば、愛国心は行政組織(つまり公務員組織)への国
民の愛と支援ですから変なものです。父母や、家族、そして企業への愛
ではない。愛とは、相手を自分より重んじる自己犠牲でしょう?

国債が売れないことによる国家の財政破産を、あたかも国民の破産のよ
うに形容する人がいるので、申し添えておきます。財政破産は、官僚組
織の破産であり、世帯や企業の破産ではない。このことを知っていれば
、財政破産は怖くない。

歴史的言えば、徳川幕府の貨幣改鋳(悪貨の製造)による財政破産(江
戸時代の官僚であった武士の困窮)が、明治維新の原因でした。政体(
官僚組織)は、経済の上に成立する機構です。

GDPの200%以上の債務をもつ、日本政府の財政破産論に対し、
(1)破産はあるはずがないという意見と、
(2)国債の引き受け難から破産するという対立した見解があります。

(注)政府部門の債務は、国債で846兆円、及び短期借入で172兆円の合
計1035兆円です(2010年6月末:日銀資金循環表)。

本稿では、2つの見解を、根拠に遡って検討し「財政破産のある、なし
への見方」にとどめを刺します。導いた見解への自信と責任をもって、
発言します。

細部への記述は圧縮します。全領域を詳細に書けば、分厚い1冊の本で
も足りない。圧縮した記述が、分かりやすいと思えます。

政府の財政破産が起こると、
・国債価格が下落し金利が高騰して、金融機関がつぶれ、
・財源がないため、行政サービスと公共事業が縮減され、
・公務員の多分20%以上(30%か?)は失業します。

繰り返しますが、かつては封建領主でしたが、今は公務員の階級組織が
国家です。わが国の公務員数は、独立行政法人を含む国家公務員95万人
、地方公務員304万人で、合計は399万人です。総報酬は、ほぼ40兆円で
す。
http://www.gyoukaku.go.jp/senmon/dai1/sankou6.pdf

公務員の1人当たり総報酬(年間給料+ボーナス+福利厚生費+公務員
共済年金)は、今約1000万円と、民間上場企業より1.3倍は高い。

【参考:公務員報酬】
国家公務員の1人平均の年収は、663万円です。地方公務員が728万円、
独立行政法人が733万円と高い。年収の1.3倍くらいが、福利厚生と年金
を含む総報酬です(2006年:総務省)。

【比較】
民間の上場企業(約3000社)は、金融業が高く(約700万円)、小売業
(約500万円)が低いのですが、全業種平均では1人583万円です。

圧倒的多数の非上場企業を含む、全雇用者(5000万人)の平均年収は、
それより144万円(25%)低い439万円です。地方公務員(728万円)の6
0%くらいです。公務員の手厚い福利厚生費と年金を含めば、民間給与
は地方公務員(300万人)のほぼ50%でしょう。

民間の給与が伸びなくなったこと、言い換えれば、1人当たり生産性額
(1人当たり粗利利益額)の上昇がないことが、20年間の、GDPの低迷の
、原因です。

企業が給与を抑えているわけではない。
GDPの低迷からほぼ80%会社には、賃金を上げる原資がない。

ギリシアのような「年金を現役時代の90%払う公務員天国」ではありま
せんが、90年代と00年代の20年間もの、民間給与の停滞と減少のため、
大きく逆転しています。

本稿では、数値の根拠をもつ日銀資金循環表から、主なデータを引きま
す。日銀資金循環表は、わが国の、アングラマネー以外の、全部の資金
の動きを記録するものです。

【閑話】金額は、イマジネーションを超えやすく大きい、兆の単位です
。しかし、1億人で割ると、1兆円は1万円です。

1兆円(2500万円の住宅の4万軒分)を自分の所得、貯蓄、買い物に引き
寄せるときは、1万円として考えてください。

上記55兆円の埋蔵金(今後の、立法と改革が必要)は、国民1人当たり
で約50万円があるとしています。意外に少ないでしょう? 1年分の国
債増発額くらいしかない。

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   <514号:日本政府:財政破産と、その後の経済>
        2010年12月8日号

【目次】
1.わが国の、資金循環の総体を見る
2.相殺してまとめると・・・
3.1年40兆円~50兆円の増加国債を買う資金源は?
4.残るのは、世帯の純金融資産の増加
5.世帯の金融資産は、2000年代以降、増えていない
6.国債買いの原資の移転
7.わが国のマネー・サプライの観点から
【後記:素描】

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■1.わが国の、資金循環の総体を見る

日銀は2010年9月に、10年6月時点での、わが国の総資金の循環を公表し
ています。ここから、重要な事実が読み取れます。
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/sj/sjexp.pdf

単純化し、大きく料理します。資金の源泉が、金融資産の最終的な持ち
手です。金融機関は、金融資産を預かって、貸し付金や証券の購入とし
て運用しています。

金融資産は、現金・預金と、各種の証券(国債、社債、株、債権)です
。金融資産は、金融機関が仲介して、どこかに貸し付けたり、証券を購
入して運用され、金利を生んでいます。

主体は、世帯、企業、金融機関、政府部門、海外の5つにまとめていま
す。大きくまとめれば、誰でもわかるように、意外に単純な構造です。
(注)若干の統計上の不整合があります。日々、大きく売買され、株価
や証券価格が変動するためです。

▼資金循環の総体(2010年6月末:日銀資金循環表)

【資金の源泉】   【金融機関の仲介】    【借り入れ】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
■世帯→        ▼銀行→        □世帯
   1445兆円       1114兆円       305兆円
■企業→        ▼保険・年金基金→   □企業
   764兆円       393兆円        1000兆円
■政府部門→      ▼その他金融仲介→   □政府部門
   447兆円        540兆円       1035兆円
■海外からの投資→               □対外投資
   315兆円                   567兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
総額 2971兆円                  2907兆円

(注1)世帯は、一般世帯と自営業
(注2)政府部門は、政府と地方自治体、および社会保障基金
(注3)その他金融仲介は、政府財投、政府系金融機関、投資信託、フ
ァンド等を言う。

▼内容の解説

(1)世帯の1445兆円が、資金源泉でもっとも大きい

世帯の金融資産(預金762兆円+証券187兆円+保険・年金393兆円)は
、合計が1445兆円です。法人化していない自営業(農林漁業と個人会社
)が含まれるので、雇用者の一般世帯の金融資産より、大きくなってい
ます。

なお世帯部門は、305兆円(住宅ローン、消費者ローン、自営業の借金
)を借り入れています。この負債を引いた純金融資産は、1140兆円です
。

2000年代は、世帯所得の減少(約15%)と高齢化のため、金融資産はほ
とんど増えていません。これがわが国の、国債の引き受け難の問題も生
みます(後述)。

(2)企業は776兆円の資金源泉

企業部門は、764兆円の金融資産(預金+証券)をもちます。ただし、
企業部門は負債が1000兆円あります。合計で純金融資産はマイナス224
兆円です。224兆円が借入金の超過ということです。これは債務超過と
いう意味ではない。債務超過は、自己資本の消滅です。

企業は、
・借入金、社債発行、株の発行をして資金を得て、
・その資金で設備投資をし、
・人を雇用して商品を生産し、販売して利益を得ます。
純金融資産(=預金-借入金)がマイナスになるのは当然です。

わが国の企業部門は、
・2000年代は、GDPの期待成長率の低さ、言い換えれば、売上収益の増
加見込みの低下から、
・設備投資を減らして、時には資産を売り、雇用をリストラして、借入
金を減らしています。

企業部門の借入金の減少が、
・金融機関に余剰資金を生んで、
・金融機関による、国債の増加購入の、100兆円分くらいの原資になっ
てきました。

(注)企業の借入金は、毎月の約定返済があるので、銀行が回収した分
を積極的に貸さないと、縮小してしまいます。

▼銀行の本来の機能:投資的な融資を忘れた

銀行は、1990年以降、企業に資金需要がなかったと言いますが、これは
、結果だけを見た嘘です。

本当は、銀行貸出の金利(この13年間1.5~1.9%と低い)では、1%以
上はある回収リスクが、とれなかった。融資先の100社に少なくとも1社
以上が、1年間に破産すると見なければならないからです。

日銀の、13年間ものゼロ金利策が、
・金融機関による国債買いを有利にし、
・企業融資では回収リスクがとれないくらい低い金利を招いたからです
。

為替差損のリスクが大きな海外に、円資金が1年に18.4兆円も流出した
のも、日銀のゼロ金利策が原因です。

1990年の対外資産は、ハワイやカリフォルニアを買い占めたと言っても
、186兆円に過ぎませんでした。2010年ではこれが554兆円です。何を買
い占めていますか? もっぱら米国債や住宅証券です。

わが国は、20年で368兆円も、海外(主は米国)に円資金を与え続けて
います。これが、1年で18.4兆円平均のドル債の買いです。

(1)1年に18.4兆円を海外流出させ、
(2)国内では政府部門(官業)の国債を、40兆円増加買をして、
わが国の民間経済が成長するわけはないでしょう。

1990年以降のマクロ金融は、実に、酷いものです。
http://www.mof.go.jp/bpoffice/bpdata/zandaka.htm

3~4%の融資金利なら、悪名高いCDS(回収保証保険料1.5%等)をかけ
て、米国金融機関に売ることができ、民間企業に資金が流れたでしょう
。(注)日本は、米国の金融工学に誤魔化され、逆に外債を買っていま
す。大学がこぞって、デリバティブで巨額損をしています。

金融では、初めから破産が決まっているサブプライム・ローンにCDSを
かけて、大量の資金が流れたくらいのものです。

損は米国金融機関がすればいい。企業ローンを集め、CDSやCDOを組成し
、保証料を払い米欧の金融機関に引き受けさせればいい。

「技術力の高い日本企業の負債にかけたCDS」と言えば、信用されるで
しょう。こうして、設備投資が増え生産性が上がれば、世帯所得も増え
て、個人消費も増えます。

低金利の国債を売るための、政府・日銀金融政策が、この13年、日本経
済を成長させていません。

経済の成長は、企業の成長です。
企業の成長は、設備投資のための借入金の増加です。
こうした80年代の経済に戻さないと、日本経済の成長はない。

国家が1%台の金利の国債で、赤字の財政をまかなうという必要から、
ゼロ金利策が採られています。これは、民間の経済成長では誤りでした
。

●2000年代の日本には「日本版の投資銀行」が必要でした。
(注)日銀資金の支援で、今から作っても、遅くはない。

投資銀行が日本経済の2010年代成長のカギでしょう。必要なのは、ゴー
ルドマンのような投資銀行の日本版です。資本は30兆円でしょう。資本
50兆円なら、なおいい。

日銀ならすぐ、基金を作ることができます。83兆円の政府が管理する外
貨準備を使ってもいい。(注)白川総裁、民主党、自民党に政策提言し
ます。

今の銀行は、企業への融資を回収して経済を停滞させ、国債を買う御用
機関になっています。融資能力がない。

断言します。国家財政は破産させ、政府予算を大幅縮小し、公務員をカ
ットしてもいい。20年も続いている国債買いと外債買いの代わりに、民
間企業に資金(資本)を与えることです。そして生産性を高め、個人所
得を増やす。これがないと、いつまで経ってもGDPは成長しません。

政府・日銀が30兆円の基金で、「国債は買わないで、企業にリスク融資
をする投資銀行」を作れば、この国の経済は一変します。保証してもい
い。(注)日本投資銀行:Japan Invetment Bank

16世紀のイタリア・ルネサンスは、ペスト(黒死病:14世紀)で人口が
30~60%も減ったあとでした。イタリアの富を蓄えたメディチ家(銀行
家:14世紀から)の金融が、諸侯に資金を与え、ルネサンス文化の華を
生んでいます。ペストの後、メディチ家が栄えたのです。

これを見ても、経済の成長は、金融が先であることが分かります。
本稿をお届けする理由でもあるのです。

赤字の政府部門(官業)の肥大が、この国の経済を低迷させました。

(3)政府部門は477兆円の資金源泉

政府部門は、政府、自治体、特別会計、社会保障基金(年金基金、医療
基金、労働保険基金等)が、447兆円の金融資産を管理しています。こ
の中に埋蔵金も、少量含まれます。

他方、政府部門は、1035兆円の借入をしています(国債846兆円+短期
借入172兆円)。合計では、マイナス588兆円で、わが国最大の資金の使
い手が政府部門です。

ただし前述したように、政府部門の、例えば年金基金は、社会保険庁が
その金融資産の持ち手ではなく、真の持ち手は国民です。

政府(社会保険庁の職員)は、預かって運用する管理を行うだけですか
ら、純金融資産の所有者とは言えません。その意味で言えば、国民に対
する真の負債は、1035兆円と見なすことができます。

さすがに、民営化論のなかで「郵便貯金と簡保は国の金融資産」と言う
人はいなくなりましが、年金基金、社会保障基金については、その基金
は国のものと言う人がまだいます。

理由は、資産・負債のバランス・シートが、理解できないためでしょう
。政府の会計では、借入金も、税収と同じ「歳入(収入)」とされてい
るからです。

原始的な家計簿と同じものが、政府会計ですから、恐れ入ります。複式
簿記を導入すべきです。複式簿記なら、資金の所有者が、誰でも分かり
ます。

(4)海外部門

海外のファンドと投資銀行は、わが国に315兆円の投資(株と証券購入
)をしています。他方、わが国から海外へは567兆円の証券投資(主は
ドル債)があります。円マネーの流出が567兆円といっても同じです。

合計すれば、海外部門は、252兆円の資金の借り手です。
これがわが国の、対外純資産になっています。

(5)上の資金循環表の金融機関は、金融資産の持ち手から、借り手へ
の仲介をしています。金融機関が純金融資産の持ち手とは言えません。
企業会計で言えばほぼ8%の自己資本部分を所有していることになりま
す。

以下、この資金循環表を更に単純化します。

■2.相殺してまとめると・・・
 
一見複雑に見える資金循環表は、資産・負債を相殺すると、以下のよう
に単純化できます。

【単純化したまとめ】
   純金融資産    →     純負債
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 世帯部門1140兆円     企業部門   224兆円  
               政府部門   588兆円
               海外     252兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合計   1140兆円     合計    1064兆円        
     
(注)合計金額の差異は、統計上の誤差です。

世帯部門が1140兆円の純金融資産をもち、
・企業部門に225兆円、
・政府部門に588兆円、
・海外に252兆円、純負債として貸し付けているということです。

1億分の1にすれば、馴染みのある数値に変わります。

【参考】
   純金融資産       純金融負債
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 個人1140万円     企業純負債  224万円  
             政府純負債  588万円
             海外純負債   252万円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合計 1140万円        合計   1064万円

資金循環で問題になるのは、政府部門が、財政の赤字のため、1年に40
~50兆円の資金を必要とすることです。

■3.1年40兆円~50兆円の、増加国債を買う資金源は?

●1年に40~50兆円の、国債の増加買いの資金源は、
(1)世帯の金融資産の増加(預金増)
(2)企業の純借入金の減少(借金の純返済)
(3)海外投資の引き揚げ(ドル債売り)、しかないことがわかります
。

これを検討しましょう。

▼企業部門が、借入金の減少を続ければ

企業部門が現在の1000兆円の総借入金と資本(株式)を縮小することは
、
・設備投資の減少と資産売却(財務面のリストラ)であり、
・日本経済の成長が損なわれます。

2000年代は、企業の過剰負債が、金融機関の不良債権を生み、企業は返
済を迫られました。例えば2009年は、企業部門(360万社)は、16.3兆
円の純返済をしています(日銀資金循環表)。

GDPが成長するには、企業部門は、
・純返済(返済-借入金増)をするのではなく、
・逆に、借入金を増やし、
・縮小した設備投資を増やさねばならない。
これがないと、GDPは増えず国民所得も増えないのです。

GDPは所得面では、[世帯所得+法人所得+減価償却費+間接税-補助
金]です。GDPが減ることは、支出面では商品販売額の減少ですが、所
得面では、世帯所得と法人所得の減少です。

支出=生産=所得を、GDPの3面等価と言っています。
(単純化しています)

360万社の企業の設備投資支出は、2008年度の85兆円から、今は65兆円
に20兆円(23%)も減っています。これが、2000年代に共通で、GDPを
低下させている主因です。

企業の、借入金の純返済(16.5兆円:09年)が、
・設備投資の20兆円の減少(2010年)を生み、
・GDPを20兆円分少なくしたことがわかるでしょう。(冒頭のGDP)

企業が借入金を減らし、設備投資(現在は65兆円)を更に減らすことが
、企業部門の、純借入金減少の意味です。

これを行い続けるなら、GDPは更に減って、世帯所得も減ります。GDPが
減ると、税収(現在一般会計では37.4兆円)も減り、国債のGDP比は200
%より更に重くなって行きます。

企業の借入金の純減少は、
・2000年代の国債購入の原資(1年に約20兆円分)になっていましたが
、
・今後も国債購入の資金源として期待するなら、わが国GDPは減り続け
ます。

これは、悲惨な末路です。

▼海外投資の引き揚げの可能性は、乏しい

対外投資が567兆円で、対外負債(海外からの投資)は315兆円、対外純
投資は252兆円です(10年6月)。中国を超え、わが国は世界最大の債権
国です。つまり海外投資の面では、最富裕国です。

純投資252兆円の内容は、ドル債です。
これを減らすことは、
(1)海外からの日本の国債、株の買いが増えること
(2)日本の金融機関と、政府の外貨準備のドル債を売ることです。

このためには何が必要か? 海外からの円債(株・国債)の買いには、
日本の株価が上昇予想に、国債価格が上昇予想に(=ゼロ金利の継続)
、そして円高予想になることが必要です。

海外からの投資がどんな推移をたどったか、見てみましょう。

株式市場では、60%から70%がガイジン投資家(ファンド)の、タック
ス・ヘイブン(租税回避地)からの売買です。日本の株式市場は、海外
ファンドによって上昇と下落が左右されています。

(注)タックス・ヘイブン(オフショア:海外の意味)からの投資には
、日本の銀行や生保からの資金が、大きく混じっています。割合は不明
ですが、50%以上はある感じです。わが国の対外投資(567兆円)の中
に、オフショアが多く含まれるからです。

その投資の外見は、英米系のファンドなので、ガイジン買いとされてい
ます。

スイスで経験しましたが、プラベートバンクへの預金も、実際は、世界
の租税回避地での、ドルベースでのオフショア金融でした。世界のファ
ンド(元本で$2兆:10倍のレバレッジでも$20兆:1660兆円)の本拠
地は、多くが、課税を避けるタックス・ヘイブンです。

財務省の対外資産・負債の統計は、日銀の資金循環表に対し、包括性で
劣りますが、以下です。(各年度末)

      日本からの  海外からの 日本からの
      海外投資残  日本投資残  純投資残
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2000年   341兆円    208兆円  133兆円
2005年   506兆円    325兆円  180兆円
2009年   554兆円    288兆円  266兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
http://www.mof.go.jp/bpoffice/bpdata/zandaka.htm

以上で見るように、海外の金融機関とファンドは、日本からの海外投資
資金を使い、それを、日本への投資に振り向けています。

日本の金融機関が海外投資する以上に、海外の投資銀行やファンドが、
日本に投資を振り向けることはなかった。
過去10年の傾向は、今後も同じでしょう。

海外部門が、日本への超過資金還流をすることはなく、逆に、ドル債が
、日本の金融機関の資金を吸収します。

以上のことから、海外部門からの投資引き揚げの差額が、今後の日本国
債の増加購入資金源になるとは、毛頭、言えません。

【可能性は否定される】
可能性としては、財務省が音頭をとって、金融機関にドル債売りを促す
ことも想定できないわけではない。

しかし財務省は、自分が管理している外貨準備($1兆:83兆円のドル
債)を売ることも否定しています。アメリカが怖いのでしょうか?

【巨額な為替差損:113兆円】
ドル債では、約20%の円高・ドル安・ユーロ安で、対外債権の保有残高
567兆円(2010年9月)が、567×0.8=454兆円へと、113兆円もの為替差
損を蒙ってしまったことが、強く懸念されます。

これは、政府の外貨準備と金融機関の対外資産の、含み損になっていま
す。

リーマン・ショックからドル安になる前に(08年9月以前)、何年もか
け113兆円分のドル債を売っていれば、それは、わが国の金融資産とな
って残った分です。財務省の責任で、実に惜しいことをしています。

グローバルな、ポートフォリオ投資(分散投資)が必要というイデオロ
ギー(固定観念)に、誤魔化された結果です。その結果は、金利や配当
より、為替差損のほうがはるかに大きかった。

「ドル基軸体制を守る。円高・ドル安には抵抗して、一途にドル債買い
をする。」という財務省の頑迷固陋(がんめいころう)な方針が、09年
からの113兆円の、国益の損の根源でしょう。米ドルへのFX投資で破産
した個人投資家も多い。(注)今も財務省は、これを続けています。

世界に金融危機を生んだ米国住宅価格の下落は、日銀が量的緩和を停止
し、英米系投資銀行による、レバレッジをかけたキャリー・トレードが
解消された2006年4月から、容易に予測できていました。

住宅価格が下落する限り、そのローン債権の上に築かれたMBSやCDOは下
落します。

■4.残るのは、世帯の純金融資産の増加

再び、単純化した資金循環表を眺めます。

   純金融資産    →     純負債
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 世帯部門1140兆円(3)  企業部門   224兆円(1)  
              政府部門   588兆円
              海外     252兆円(2)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合計   1140兆円     合計    1064兆円        
     

▼(1)企業部門:
本稿で検討したように、企業部門の、純負債の減少の可能性を期待する
ことは、設備投資とGDPを減らしますから、日本経済と世帯所得にとっ
ては自滅行為になります。

▼(2)海外部門:
海外部門からの、国債の買い余力を生むような大きな資金引き揚げは、
ドル基軸体制を崩壊させるという方向への財務省の方針転換がないと不
可能でしょう。

しかし、財務省がそれを行えば、$1=80円台が、はっきりと$1=60円
台に向かいます。

そうなると、対外債権の保有残高567兆円(2010年9月)において、更に
25%(142兆円)の含み損を日本の金融機関と財務省が蒙ります。わが
国は、米ドルに強くコミットしてしまっています。本来は分散すべきだ
ったのです。卵を、ひとつの籠(ドル債)に入れてしまった。

米国側は当初から、$20兆の対外負債(主な債権国は日本、中国、ドイ
ツ、産油国、アジア)は、いずれの時期の、ドル切り下げで返済できる
と考えていました。

このために、米ドルと米国経済は強いという幻想を、財務長官のルービ
ン氏やサマーズ氏が論説化していました。

失礼な表現であることを承知で言いますが、事実ですから申し上げます
。日本の対米御用学者(T氏が代表)も、これに追従していました。こ
のため小泉内閣時代に、政府資金で30兆円ものドル債買い(米国への資
金供与)を実行しています。

歴代の米国の財務長官は、ほぼ、投資銀行のゴールドマン・サックスの
元会長が就任します。金融は、お手の物です。

日本で言えば、野村證券の会長が財務大臣に就任し、海外と政府のマネ
ーを使って野村証券の利益を図るようなものです。米国は、日本で想像
する以上に、政府と民間金融大手は一体です。

●今は、資金を生むためのドル債売りも、ドル債の残高が多すぎて、そ
れ以上の額の「為替差損」が生じるため、不可能な手段になってしまっ
ているのです。

▼(3)国債の増加買いの資金として残るのは、世帯の金融資産の増加
です。次はこれを検討します。

■5.世帯の金融資産は、2000年代以降、増えていない

30年前の1980年の世帯の金融資産は380兆円しかありませんでした。200
0年には1400兆円に増えています。20年で1100兆円も増えています。1年
平均で55兆円も増加していました(日銀資金循環表)。

この増加の主因は、30代後半~40代の、団塊世帯(500万世帯)の貯蓄
、保険、年金掛け金の増加です。世帯の金融資産は、50代まで増えます
。

60歳代になり、65歳以上の年金世代になると、積み立ててきた金融資産
を取り崩すように変化します。2000年に団塊の世代は、50歳を超えてい
ます。

2000年代の10年間は、世帯の金融資産は所得減の要因もあって1400兆円
~1450兆円付近を波動し、全く増えていません。

●今後、これが増えることは、よほど世帯の年収が増えないと、あり得
ません。

▼1990年代までとは様変わりし、増えなくなった世帯の金融資産

【資金循環表:世帯の金融資産】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2000年末    1400兆円
・・・中略・・・
2008年末    1421兆円(減少原因は株価下落)
2009年末    1452兆円(増加原因は株価上昇)
2010年6月末  1445兆円(減少原因は株価下落)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

90年代は、1年に40兆円はあった世帯の金融資産の増加は、2000年代の1
0年間でわずか45兆円(1年4.5兆円の増加)でしかない。

株価の上昇と下落が、変化要因であるだけです。
預貯金の増加は、1年に5.9兆円(09年)くらいでしかない。

(注)世帯の金融資産の内訳は、現金と預貯金807兆円(構成比56%)
、国債・社債42兆円(3%)、投資信託50兆円(3.5%)、株式95兆円(
6.6%)、年金・保険393兆円(27%)です。(10年9月)

日本は確かに、世帯の金融資産の大国です。預貯金と年金・保険が合計
で1200兆円と大きい。ところが、この預貯金と年金・保険基金は、どこ
からどう検討しても、今後増えるとは言えません。

●逆に、減少の可能性が高い。1980年代、1990年代と、1年平均で55兆
円も増えていた世帯の金融資産が、金融機関(郵貯・簡保・銀行・生保
)の、1年で約40兆円の、国債の増加買いの原資でした。今後、これは
ないのです。

■6.国債買いの原資の移転

大きく言えば、各年代の、国債の増加買いの原資は以下です。

(1)1980~90年代・・・世帯の金融資産の急増(1年に55兆円)
   
   政府財政にとっては、いくら国債を発行しても、郵貯・簡
   保・年金基金と、銀行が買ってくれる幸福な20年でした。

(2)2000年代・・・・・企業の借金減らし(1年に約20兆円)
   
   世帯の金融資産が増えなくなり、90年代の原資は消えました。
   しかし、企業がバブルで積み上がった借金減らしをしたので、
   その分が国債買いの原資になりました。そして2000年代は、
   企業のリストラのため、世帯所得が15%減りました。2000年
   代はGDPが、輸出でしか伸びない経済に転じています。
   内需の拡大のための世帯所得は減り、雇用増は、50%以下
   の賃金の、非正規雇用になったからです。

(3)2000年代・・・・日銀の国債増加購入(1年平均で2.1兆円)
           埋蔵金の利用(最近3年で推計15兆円)
  
   不足する国債買いを、日銀が10年で21兆円補い、埋蔵金の
   振り替え利用で、推計15兆円を補ってきました。

以上のように、どの部門にマネーが多く注がれるか、これが経済を決め
ます。1990年代からの成長部門は、国債でマネーを借りた、政府(官業
)部門だったのです。

これで、世帯所得と経済が伸びるわけはないでしょう。増えた官業、介
護、高齢化医療、年金の増加で経済が成長しない。

民主党政府は、官業のための国債ではなく、民間経済により多くマネー
が流れるような政策を打つべきです。今からでも遅くはない。

(注)日銀の国債保有額は、2000年(56兆円)、2010年11月30日では77
兆円です。この10年間で21兆円、1年平均で2.1兆円増えています。この
分、1万円札の現金が増発されています。日銀の国債保有高と1万円札の
発行額(現在77.6兆円の紙幣)は見合います。
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac101130.htm

【結論】
以上で検討したように、政府が2011年以降も増発する1年40~50兆円の
国債を買う今後の大きな原資は、どこにも見あたりません。

そのため、2008年ころからは、日銀による国債の増加買いと、埋蔵金の
振り替え利用で補われています。

■7.わが国のマネー・サプライの観点から

マネー・サプライに観点を移します。聞き慣れない方も多いと思います
。マネー・サプライは、国内の通貨供給量のことです。

といっても現金紙幣(77.6兆円:10年11月末)だけではない。全金融機
関(民間、政府系)の普通預金、定期預金、譲渡性預金(CD)です。預
金も、引きおろせば通貨になるので通貨に入ります。

若干ややこしいのですが、M3(エム・スリー)が包括的なもので、現金
、普通預金、定期預金、CDを含んでいます。

今、国債の最大の買い手だった郵貯・簡保への預託金は、1年に15兆円
くらいの勢いで減っています。その減少マネーも、世帯が引き下ろして
使い、また、どこかの金融機関の預金になります。こうした、金融機関
間の資金増減の全体額を示すのが、マネーサプライ(M3)です。

M3は、国民、企業、金融機関、政府部門の預貯金の総額を示します。国
内の外銀もはいっています。

以下は、M3に算入されている金融機関です。日銀以外の、全部の預金取
り扱い銀行です。年金基金、生保、簡保は保険ですから入っていません
。

(注)国内銀行(147)、都市銀行(6)、地方銀行(64)、第二地方銀行(45)
、信託銀行 (20)、その他(11)、整理回収機構(1)、ゆうちょ銀行(1)、
外国銀行在日支店(64)、信用金庫(281)、信金中央金庫(1)、農林中央金
庫(1)、商工組合中央金庫(1)、信用組合(164)、全国信用協同組合連合
会(1)、労働金庫(13)、労働金庫連合会(1)、農業協同組合(808)、信用
農業協同組合連合会(38)、漁業協同組合(174)、信用漁業協同組合連合
会(30)

銀行の信用創造システムのなかで、M3が増加すれば、これが国債買いの
原資になり得ます。

M3の総残高は1083兆円(2010年:11月末)です。
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ms/ms1011.pdf

このマネーストックが、企業融資、住宅ローン、国債購入、証券購入に
使われます。

▼M3の増加率は0.7~2%台と低い

M3の増加率は、はかばかしくありません。金融機関の信用創造能力が、
企業貸付金の減少のため、減退しているからです。

ベースマネ-とされる現金通貨(77.6兆円)と日銀当座預金(20兆円:
金融機関の保有)の合計97.6兆円に対し、M3の1083兆円は11倍です。

(注)マネーストックであるM3が、GDPの成長率よりはるかに大きく増
えると、経済は、マネー過剰からのインフレ(通貨価値の下落)に向か
います。

名目GDPの低下で、GDPの需給ギャップ(生産力>需要)があるので、イ
ンフレは起こらないと言う識者もいます。しかし、例えば中国等の通貨
上昇とインフレ、及び資源価格のインフレ(国際コモディティの47%上
昇)から、2011年~2012年は、次第に、商品価格インフレになって行き
ます。

前々号で、銀行システムの信用創造のメカニズを紹介したことがありま
した。ご記憶の方も、多いでしょう。

最初の100億円の貸し付けが、預金準備率8%なら、100÷0.08=1250億
円の総預金に、銀行システムの中で膨らむという「信用乗数」です。

A銀行がB会社に100億円を貸し付ける。B会社は、C会社に設備投資代金
として100億円を支払う。振り込まれた100億円は、C会社が口座くを持
つD銀行の預金になる。

D銀行はこの増加預金を、別のE社に貸し付けることができる。

準備率、つまり預金引き出し備えて銀行に残すべきマネーが融資額の8
%なら、総預金(=総貸し出し)は、[100億円w÷0.08=1250億円]に
、無限等比級数で膨らむというものです。これが銀行システムの信用創
造です。

(注)信用創造能力は、「相互依存する銀行システム」の中で不良債権
が増えると、縮小します。証券の下落による金融危機は、銀行システム
の信用創造を破壊し、マネー供給量を減らして、経済活動(商取引)を
縮小させます。わが国のバブル崩壊や米国のリーマン・ショックで起こ
ったことがこれです。今、ユーロでこれが起こっています。

こうした信用創造の総結果を示すのが、M3です。

【わが国のM3の増加率】
2007年    前年比 +0.7%
2008年    前年比 +0.7%
2009年    前年比 +1.8%
2010年11月  前年比 +2.0%
       残高 1078.9兆円

長期で見たM3の増加は、せいぜい2%レベル(金額で20兆円)です。財
務省からの要請で、M3の増加分すべてで新規国債を買っても1年に20兆
円分しかない。

国債の増発額40~50兆円には、20~30兆円も不足します。このため、M3
に含まれない「日銀による国債買い支え」と、「特別会計の埋蔵金によ
る勘定振り替え」が行われています。

利用可能な埋蔵金は、ほぼこの3年の国債購入に充てているので、2010
年12月現在の残りは、少ないはずです。

ところが、政府は毎月、4兆円規模の国債を増発します。
一体どうなるのか・・・次号で更に追求します。

国家財政の破産はあるはずもないという論者は、何を根拠に、そう言っ
ているのでしょうか? 以下次号で、論を深めます。

【後記】
政府財政が破産しても、大きな日本版投資銀行を作れば、何ら案じるこ
とはありません。(注)投資銀行を作らないと、悲惨になります。

日本の金融機関は、実質的には、バブル期の不良債権で2000年代初期に
つぶれていたのです。都市銀行21行が、ガラガラポンで4行のグループ
になったのがこれです。ほぼ全部の銀行がつぶれても、預金が無くなる
なることもなく、預金者の立場からは何も変わらなかったでしょう?

国家の財政破産は、公務員組織の崩壊であり、
(1)政府の予算縮小であって(官業の縮小)、
(2)公務員には40兆円の給料や年金を国債で払い、それが嫌な人は退
職し、
(3)年金の支給開始年の65歳を、70歳、75歳に上げることです。

民間経済は、新設の投資銀行があれば、困らない。
4%程度なら、インフレと金利上昇(4%)もいいでしょう。
企業の名目売上が上がって、負債の実質負担が減るからです。国も負債
が減る。

国債価格の下落で倒産するのは、既存銀行や金融機関ですが、その拡大
融資機能を、30~50兆円の資本で新設した投資銀行が果たせばいい。

金融を定量的に論理で組み立てれば、日本経済の2010年代成長は、この
方法しかないことが、分かるはずです。

繰り返しますが政府財政(=公務員組織)は破産しても、一向に構わな
い。

政府財政の破産によって、金利が上がり物価が上がって、円安になれば
、日本企業にとっては好都合です。ただし「投資銀行」がなければなら
ない。(注)円安が、日本のインフレを生みます。円高は円の価値の上
昇ですからデフレになるのです。

【海外事情】
巨額国債を売ることが必要な、米国の財政赤字はGDP比11%、英国11.4
%、ドイツ5.7%、日本9.8%、イタリア5.2%、ギリシア8.1%です(20
10年5月IMF)。

PIIGSのみならず、世界中が、財政赤字の拡張と国債売りです。こうし
た、世界同時の財政赤字の時代は、過去の歴史にはなかった。世界経済
は、2011年に向かい、未到の領域に突き進んでいます。

日本が、いずれかの時期の、財政破産に向かっているだけではない。他
の先進国も同じです。ドイツの財政赤字が少なく見えますが、ドイツの
大手銀行はPIIGS国債を買っていて、その損失が表面化します。イタリ
アは、今、住宅価格崩落の直前です。

なお世界のGDPの30%を占める新興国は、総じてインフレ期に入ってい
ます。

中国の消費者物価は+4.4%、ギリシア+5.2%、ハンガリー+4.2%、
ロシア+7.5%、トルコ+8.6%、インド+9.8%、インドネシア+6.3%
、パキスタン+15.3%、韓国+4.1%、アルゼンチン+11.1%、ブラジ
ル+5.2%、メキシコ+4.0%、ベネズエラ+27.6%、エジプト+11.0%
、サウジアラビア+5.8%です。(英エコミスト誌:10.12.04号)

主因は、英米系の投資銀行とファンドの、ゼロ金利のドルを借りて国際
投資するキャリー・トレードのためです。新興国経済は、米欧の巨大投
資銀行とファンドの投機マネーが流入または撤収すると、激しく波動し
ます。

巨大投資銀行とファンドが、容易に相場を動かせる新興国の株と証券の
売買と、国際コモディティ相場で、国内証券の損失を埋め、利益を上げ
たいと思っているからです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。
以下は、項目の目処です。】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ
と記述の際、より的確に書くための参考になります。

コピーして、メールに貼りつけ記入の上、気軽に送信してください。
感想やご意見は、励みと参考になり、うれしく読んでいます。時間
の関係で、返事や回答ができないときも全部を読みます。時には繰
り返し読みます。

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有料版では、いつ申し込んでも申し込み月の既発行分は、全部を読
むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料お試しセットです。
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(↑)解約していないのに急に届かなくなったときは、まず登録し
ていた古いクレジットカードの有効期限が切れていないかどうか確認し
、切れていれば、新しいカードの番号と有効期限を再登録してください
。

▼配信、読者管理、課金、パスワードを忘れたときなどの問い合わ
せは、以下のアドレスにお願いします。
まぐまぐプレミアム事務局:
 reader_yuryo@mag2.com
・当方(著者)は、読者管理に、関与しない仕組みです。
・読者の方々のメールアドレスも、分からないのです。

▼決済用クレジットカードの期限も有効で、契約しているのに、メール
マガジンが届かないとき。

「迷惑メールのフォルダ」に入っていないかを調べてください。メーラ
ーソフトの自動更新で、突然、迷惑メールに入ってしまうこ
とがあります。(これが多いようです)

入っていたら右クリックし「送信者を、差し出し人セーフリストに追加
する」としてください。次回から、受信フォルダに入ります。

迷惑メールにも入っていなかったら、まぐプレからの送信か(または誤
って消したか)の問題です。上記のまぐまぐプレミアム事務局にメール
で問い合わせてください。クレジットカードの処理で、期限切れになっ
ていることもあります。

なおメーラーソフトやメールサーバーでの「メールの自動振り分
け」については、7月1日以降、メールの送信元が変更されていま
すので不調が起ることもあります。修正は、以下のサイトを参照し
てください。

http://www.mag2.com/info/renew/webmail.html
問い合わせは、ここにメール: reader_yuryo@mag2.com
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