新春1号:2020年の金融・経済の予測(前編)
This is my site Written by admin on 2020年1月20日 – 17:00
無料版の新春1号をお届けします。2020年がどんな年になるか、金融
経済から検討したものです。中心は、経済の先端で波動する株価でし
ょう。

経済を犬とすれば、株価は尻尾です。しかし、株価は世界で金額が大
きくなり、GDPの実体経済(商品の生産と輸出入)も振り回すように
なっています。世界の株価時価総額は88兆ドル(9400兆円)と、世界
のGDPを超えました。これが、世界の株主の、株価での金融資産です。
株価が上がると経済は好調、下がると不況とされるのです。

売買の差が価格を決めている「相場性の商品」である株価を検討する
には、まず、売買の構造を言わなければならない。経済紙や株式リ
ポートでは、なぜか、これが陰にかくれています。

このため企業純益が増えて好況なら上がる、不況なら下がるという表
面論に帰結し、「不透明」が結論になっているものが多い。あるいは
個人の直観的な見通しです。

株価は、マネーの流れの、金融経済の領域のものであり、投資マネー
の増加によって上がり、減少で下がります。システムトレードを作る
とき、「誰が株を買っているか、誰が売っているか」を強く意識しま
した。上がっているときは買いが増え、下がるときは売りが増えてい
るからです。

個別株とは違う平均指数であるNYダウや日経平均は、世界金融の要因
で動きます。日経平均を日本株といいかえれば、日本株は、2019年に
約20%上がりました(1万9600円→2万3600円:1月20日は2万4095円で
す)。

今回も日経平均は、FRBの2019年の金融緩和から、史上最高の価格に
なっている米国株に連れて、上がっています(2万8645ドル:年間上
昇は25%:19年12月29日:1月20日は2万9348ドル)。日経平均の上昇
と下落は、国内の要因からではないことが多い。

●日経平均は、NYダウの変動に対して受動的です。ダウが上がるとき
は、ポートフォリオ投資をするヘッジファンドの日経平均の買いが増
えて上がり、NYダウが下がるときは、売りが増えて下がっています。
変動幅は、その都度違いますが、逆の動きをすることは、ほぼ皆無で
す。スイスのDUCASCOPYで、10秒単位の観察ができます。
https://nikkei225jp.com/chart/

ヘッジファンドと西欧の年金基金による売買が、東証の1日平均売買
額の70%を占めていることが、その原因として大きい。2.5兆円から
1日2.1兆円に減少していますが、東証での日本からの売買は、30%で
しかない。

日本人の売買は、残高が31兆円に増えた、日銀の株ETFの買い増し
(年間6兆円水準:週間では1150億円)を含んでも30%程度であり、
日本株の相場への影響は小さい。

なお日銀が、ETFの売買総額の60~70%を占めている株ETF(上場投信)
は、日経平均のように、株をグループ化して価格指数にしたものです。

【価格を一致させる裁定取引】
日銀の買いによって株ETFが。一瞬、仮に1%上がると、現物株との間
に1%の価格差が出ます。このとき、株価を常時監視している信託銀
行と世界の証券会社の、「高い株ETFを売って、安い現物株を買う裁
定取引」のプログラムが発動し、両者の価格差がなくなるまで売買し
ます。異なる市場間の価格差を解消するまで、コンピュータが自動的
に実行する「裁定取引(利幅は薄くても確実に利益が得られる)」に
より、株ETFと現物株の価格は一致します。

このため、日銀のETFの買いでETF価格が上がると、現物株も上がりま
す。ETFと同じデリバティブ(現物から派生した金融商品)である先
物の買いにより、株価が上がるのも、先物と現物の裁定取引によりま
す。

値動きの面では、時価総額が大きなNYSE(ニューヨーク証券取引所)
の支店になっているのが東証(東京証券取引所)でしょう。

【1989年だった】
もう30年前になった1989年12月でした。日経平均は3万9957円(最高
の予想PERは80倍:株価は3年で3倍)をつけ、東証一部の約2000社の
時価総額(当時も600兆円)は、世界の時価総額の40%を占めていま
した(現在の米国株の時価総額と同じシェア)。昭和が終わるときの
バブルです。

大阪北部の江坂に引っ越した年でした。確か賃料は45万円(マンショ
ン2室分の広さでしたが)。今から思えば、よくあんなに高い家賃を
よく払っていたと思います。しかし当時の家賃は、どこも高かった。
商業地の地価は、5年前の5倍に上がっていました。

1989年末の日経平均のPERは、最高が80倍でした(現在は次期予想純
益に対して14.5倍です)。225社の予想純益の、将来80年分を、株式
益回りの1.25%で割り引いて、現在価値(NPV:Net Present 
Value)に換価したものに等しかったのです。

現在は、米国AmazonのPERが約 82倍です(株式益回りは、1÷82倍=
1.22%)。証券業界の空気では、国際的に妥当な、S&P500のPERは、
15倍付近とされています(15年分の将来純益:益回りは6.67%:
2019年)。

【日本株のバブル崩壊の先鞭は、米国の投資銀行がつけた】
企業の純益(=税引き後の利益)という根拠からは、80年分という高
すぎる水準だった日本の株価を、「先物の売り」と「プット・オプシ
ョン(売りオプション)」で売り崩したのは、米国の投資銀行・証券
でした。

国中に満ちていた「未来へのユーフォリア(夢幻境)」に、米国から
水をかけ、醒(さ)ましたのです。皇居の地価で、国土が53倍の米国
が買えるとしていたのですから、異常さには極まりがない。

1990年からの株価バブルの崩壊では、日本人投資家が損をした分、米
国勢は下落による利益を出しています。80年代末の日本市場では、借
りた株を売る「空売り(期限日には買い戻す)」はありました。

しかし、先物とオプションの売買は少なかったのです。株価の下げに
より利益を得る先物やオプションの売りを知る投資家は、ほとんどい
なかった。先物・オプションが一般的になったのは、米国に約20年遅
れて、2000年代からでしょう。日本は金融のテクノロジー化に今も遅
れています。

(注1)先物は、先物価格で買い(または売り)、3か月が多い限月
(期限日)に反対売買をして、清算する取引です。先物買いは限月ま
でに株価が上ったときにレバレッジのかかった利益が出ます。先物売
りは、株価が下がったときに、下がった価格で買い戻して清算するの
で利益が出ます。
 
(注2)オプションの買いでは、数%のオプション料を払って、限月
までに株価がいくらの価格になっても、一定価格で買う権利を買う取
引です。株価が上がるとき利益が出るのが、買いオプション(コー
ル)、下がったときに利益がでるのが、売りオプション(プット)で
す。

【株価バブルの崩壊】
米国からの売り崩しから、1989年末の日経平均は、最高価格だった3
万8000円台から、9か月後の1990年9月末に2万円に下がりました(-
47%)。その後の90年代は、2万円から1.5万円の幅の、波動のあと、
(1)土地バブルが生んだ不良債権による銀行危機(1997年~98年)、
(2)米国のIT株バブル(2000年)、
(3)2001年の、世界を震撼とさせた9.11(同時多発テロ)を経て、
(4)大量破壊兵器を偽装したイラク戦争の2003年には、8000円台に
下がっています(現在は、その約3倍の2万3600円台:12月30日)。

2004年からは、借り入れ当初の金利が低いサブプライムローン(ピー
クで180兆円の残高)の増加による、米国の住宅価格と株価の上昇と
とともに、2006年には1万8000円へと約2.2倍に上げました。

【リーマン危機からアベノミクス】
しかし08年9月からのリーマン危機(デリバティブの下落危機)から、
日経平均は再び8000円台に下げます。

その後は、
(1)東日本大震災(2011年)を経て、
(2)2013年からのアベノミスク(円安と異次元緩和)による、政府
系金融(郵貯、かんぽ生命、農林中金、公的年金運用のGPIF、そして
日銀)による買いで、2015年に、2万円を超えました(8000円の2.5
倍)。
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_market-nikkeistock-long

【人民元ショック(2016年)】
2016年になると、人民元の切り下がり(1ドル=6.4元→6.6元)を契
機に、上海総合の指数が20%下げた中国株ショックから、世界株安に
向かい、日経平均も20%下落し、1万6000円台に下げましたが、2017
年には回復しました。

GDPでは日本の2.4倍になった中国(13兆ドル)は、世界経済の成長セ
ンターであり、世界1の生産工場なので、影響を及ぼします。
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/chart/?code=998407.O&ct=z&t=2y&q=c&l=off&z=m&p=m65,m130&a=

【FRBの金融緩和(2019年)】
翌2018年は、10月から12月の米国株の25%下げにより、日経平均もほ
ぼ同じ幅、下げています。しかし、2019年にはFRBが4年間の出口政策
(利上げと国債の売り)から、金融緩和(利下げ:3回:0.75%)に
転換したことから、米国株は25%回復します。

日本株も、米国株の回復に連れて2万3600円台へと20%上がっていま
す。19年12月30日の日経平均は、2万3674円でした。

2019年末の日経平均は、1990年代のバブル崩壊のあとの29年間でもっ
とも高い水準です(日経新聞の予想PERは約15倍:ブルムバーグでは
予想純益が低いため18倍)。

【尻尾が経済を振り回す】
株価が高くなると、「GDPの実体経済は好調」という論が現れます。
安倍政権は、「内閣への支持率の基礎は株価で決まる」と考えていま
す。トランプ政権と同じように、株価内閣といわれます。株価が経済
を示すとされるからです。

30年前の、日経平均の予想PERの最高 80倍(現在は約15倍)は、
・日本経済と日本的経営は、米国を超えて世界1になる、
・5年で5倍になった地価(商業地)にも、天井はないという、当時の
投資家・金融機関の90%が抱いていた「共同幻想(集合知)」から作
られたものでした。集合知は、個人を超えた「社会の意識」です。

現在から考えれば途方もないことですが、30年前は、株価のPER 80倍
は、地価5倍の評価と並んでいたのです。

【共同幻想(集合知)】
人間が抱く観念である幻想は、過去の事実をもとにしながら、上昇傾
向の直線的な延長(上がってきたから、将来も上がる)という期待の
過剰によって作られます。

株価が、数年間上がり続けたあとは、「これから先も上がる」という
未来幻想を抱く人が、80%くらいの多数派になるでしょう。

経済合理性ではなく、売買の多さが価格を決めるという相場性をもつ
株価には、高くなると利益確定の売りが増えて、ピークアウトする時
期が来ることは、無視されます。

●株価は、本来、売買額の予想から予想しなればならない。上げる予
想には、**の買いが増えるという予想がなければならない。下がる
という予想には、**の売りが増えるというものでなければならない。

【株価予想で必要なこと】
株価予想には、どの投資主体が、どんな理由で、株の買いを、または
売りを増やすかという予想が欠かせません。これをいわない予想は、
根拠をもつ予想ではなく、願望です。

願望には、「日銀や政府に似て、立場からくる願望(ポジショントー
ク)」が混じっています。証券会社は、売買を増やすため常に「株価
を上げたい」。不動産業が、「今が底値」といって売ることと同じで
す。高過ぎるといえば、売れないからです。政府も、利益への非課税
枠のNISA(年間投資額が120万円までは非課税:5年間610万円が上
限)も作って「預金から投資へ」と誘っています。

19年12月末が30年来の高値とはいっても、日本株の時価総額678兆円
は、世界の8%弱に減っています(一部660兆円;二部7.6兆円、ジャ
スダック10.1兆円:予想PERは15倍)。

米国株、欧州株、中国を含む新興国株の時価総額が大きく増えたから
です。日本経済では、2000年からの20年、GDPもほとんど増えていま
せん。

企業所得は増えても、
(1)時間給が低い非正規雇用(37.3%)の増加により、労働分配率
(人件費÷企業の粗利益)は下がり、
(2)世帯の平均所得は、高齢化も加わって減少しています(全世帯
:1994年664万円→2017年551万円)。
 児童がいる現役世帯も、781万円(1996年)から743万円(2017年)
に減っています。

他方、米国のGDPは2000年から2.1倍になり、中国は10倍です(ドル
ベースGDP)。80年代まで、日本より増加率が低かった米国の世帯所
得は、年率で2.6%上げています(20年で1.67倍)。

二桁くらい増え続けた中国の世帯所得の総額(6.1兆ドル:670兆円:
2021年予想)は、日本の世帯の総所得(3.3兆ドル:360兆円)の2倍
になっています。

所得5分位では、1分位(上位20%:沿岸部の2.8億人)が10万元/人
(160万円/人)です。一人っ子の3人の世帯で480万円ですから、日本
の551万円との差はすでに少ない。住宅価格は高くても、物価は平均
すれば日本の1/2ですから、中国人2.8億人(日本の2倍の人口)の生
活水準は、日本の2倍です。
http://image-src.bcg.com/Images/JPR_170705_China%20Consumer%20Economy_tcm56-163915.pdf

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon;時価総額が平均100兆円の
4大IT企業)を先頭とする米国の時価総額が、35兆ドル(3800兆円:
GDPの1.7倍)に膨らみ、世界の時価総額9400兆円の40%を占めていま
す。

(注)1989年には、実は日本株の時価総額が世界の40%でした。ぼん
やりした彼岸に見える時代も、事実としてあったのです。日本では湿
度のため遠景は、東山魁夷のようにかすみます。

08年の、リーマン危機のあと、FRBがドルを4兆ドル(440兆円)増発
した金融相場での上げが、3.5倍と大きかったからです。

米国株は、「1996年から2000年のIT株バブル」の時期に似ています
(2000年のIT株バブルの、金融緩和による再来)。ドット・コムのベ
ンチャーが多いナスダックは1996年の5倍に高騰し指数で5048でした
(2000年3月末)。

【IT株の高さの肯定論(1990年代後期)】
90年代末には、FRBの議長グリーンスパンを先頭に、米国と世界の主
流エコノミストは、「景気循環がないニューエコノミー(IT経済)」
として、4年間で5倍の株価上昇を肯定し、称揚していました。

過去のものしか事実がない学問(特に経済学)は、事実のあとに、そ
の事実を肯定する理論を作り、その後は変化する事実に裏切られます。

現在の世界の株価は、2008年のリーマン危機のあとの金融緩和がもた
らした相場です。中央銀行の利下げと、マネー量の増加によって作ら
れたものです。リーマン危機のとき、8000ドルだったNYダウは2万
9000ドル台(10年で3.6倍)に上がっています。

【膨らんだ株価が下がるとき】
金融緩和が株価上昇の原因ですあから、
(1)FRBの短期政策金利(1.5~1.75%)よりは高い、米国金融市場
での金利上昇(社債の金利上昇=社債価格の下落)と、
(2)15兆ドル(1650兆円:19年5月)に膨らんだ、企業の社債と貸付
金での、不良債権の増加からの銀行信用の収縮、つまり民間のマネー
量の減少があると崩壊します。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45075620R20C19A5FF8000/

2020年の日本株を予想するには、米国株(NYダウ)をめぐる2020年の
売買内容の変化を、検討しなければならない。NYダウと同じように動
く日経平均は、単独で上がり、単独で下がることはないからです。

(注)個別株は、それぞれの業界の利益予想により、平均株価とは別
の動きをします。ただし、60%くらいは日経平均への連動分でしょう。
観想を含むプロローグが、長くなりました。2020年の株価への本論は、
32ページです。16ページくらいずつに分けて、2回で送ります。本稿
は、有料版として、1月1日に送ったものです。

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  <413号:新春1号:2020年の金融・経済の予測(前編)>
        2020年1月20日:無料版
【前編の目次】
1.金融・証券・シンクタンク主要30社の日経平均予想(2020年)につ
いて
2.ボラティリティ(株価変動幅)についての詳細な解説
3.2020年7月から12月の、日経平均予想(30社平均)

【後編の目次】
4.株価理論の拠り所は『現代ファイナンス論』
5.米国の最上位株価の5社
6.昨年秋の、2019年株価への当方の予想
7.2020年の米国株の、株買いの原資からの予想
9.FRBの対応

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■1.金融・証券・シンクタンク主要30社の日経平均予想(2020年)に
ついて

『週刊エコノミスト誌』には、年末恒例の、金融・証券・シンクタン
代表的な30社による日経平均予想(2020年)が掲載されています。

一般には権威があるとされる予想でしょう。毎年見ていますが、変動
の予想幅では外れることが多い。実際の株価は、平均予想の中点では
なく、予想の上限か下限に動いてきたのです。

上がるときは、上がった価格が買いを呼んで上げすぎ、下がるときは、
損の恐怖が売りを呼んで下がりすぎるという心理的な売買が加わるか
らです。

年末の日経平均を2万3800円として、以下の集計を見てください。

▼(1)2020年1月~6月の日経平均予想(30社平均)

【30社の集合知】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
下限予想の平均  2万1200円    上限予想の平均 2万4900円
予想の標準偏差 1200円     予想の標準偏差 1100円
予想幅 2万円~2万2400円     予想幅 2万3800円~2万6000円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

(1)30社予想の平均下限は、2万1200円です。金融・証券会社の30社
の集合知では、現在の日経平均2万3800円から、2600円(11%)下げ
る可能性があるとして見ています。

(2)一方、平均予想の上限は2万4900円です。現在の日経平均2万
3800円から、1100円(4.6%)上げる可能性があるとして見ています。

下げ幅の下限平均が11%、上昇幅の上限平均は4.6%です。

●30社の平均では、2020年1月~6月の日経平均では、12月末の2万
3800円より、5%くらい下げる確率が高いと見ていることになります。

この5%は、日経平均の1年の価格変動幅(ボラティリティ)の、13.
6%の半年分(13.6%÷√2=9.6%)の約半分です。

30社の予想平均は、2020年1月~6月の、経済・金融の変化を織り込ん
だものではない。19年12月の、日経平均の変動幅を6か月先に延長し
ています。エクセルの関数を使う人なら、機械的にできる程度のもの
です。2020年1月から6月の、売買主体との売買額の変化を、マネーの
動きから予想していないため、こうなるのでしょう。

■2.ボラティリティ(株価変動幅)についての詳細な解説

日経平均の、年間の予想ボラティリティは、19年12月30日では14.80
%と低い。株価変動が大きな時期は、約2倍の25%でした(2019年の
5月と8月)。
https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/index/profile?idx=nk225vi

【価格変動幅:ボラティリティ】
ボラティリティの14.80%は、年間での変動幅14.80%(2万3800円×
14.80%=3522円)に収まった確率が95%という意味をもっています。
ボラティリティは、日経平均やS&P500の価格変動の過去20日(1か月
間での取引所の開場日)の結果を、1年先まで機械的延長したもので
す。

19年12月3日の、米国のS&P500のボラティリティは13.43%、日経平均
は14.80%です。20日移動の標準偏差であるため、日々変わりますが、
両者は過去からほぼ一致しています。日米の株価が同じ値動きをして
いるからです。

▼確率は、「原因→関数→結果」の関数が作れないときのもの

確率は、過去の変動幅から計算したものです。データは過去です。人
類の、未来の予想のときも、2019年までの過去のデータしかない。

株価も確率では、複雑系の地震や気象と同じものです。未来のデータ
はない。過去のデータから標準偏差をとるしかない。深層学習型の
AIでも、過去の価格変動パターンを、要素を増やして未来に延長して
いる点で変わりがないのです。

【科学の法則は、確率ではない】
科学では、過去の法則が、未来も変わりません。将来も変わらない法
則を発見する学が科学です。地球の、3年後、10年後、100年後の位置
も正確に予想ができます。

法則が未来に適用できないと、過去の法則で作った飛行機は飛びませ
ん。自動車も発電所も動きません。飛行機は、明日も飛びます。10年
あとも、同じ原理で飛びます。空気力学は、1000年先も同じだからで
す。ニュートン力学がこれです。

人体の変わらない法則を、フロイトやユングの精神医学では観念で、
それ以外では物質として発見しようと努めてきた医学も同じです。高
価なバイオ医薬により、早期発見なら完治も増えているガンの原因は、
過去も現在も同じでしょう。

動物は、神経の少ない蚊や蠅でも外界の認識で動きます。このため、
蚊の動く軌跡は、予想できない。アフリカでの像の家族の歩みも同じ
です。投資家の認識で動く株価も、同じです。

【経済と金融商品では、確率しかない】
GDP・株価・通貨・金価格では、「原因→法則→結果」の関数は作る
ことができない。株の売買の原因は世界で多様だからです。しかも、
その原因に「人間の認識」が関係しています。

自然科学とは違い、同じ数値でも、認識は変化します。個人知と集合
知は、変化するからです。あるときは重視された原因(例えば金利の
変動)が、別の時期には他の要因が重くなり、金利が重く見られない
時期もあります。このため固定的なパラメータの法則、つまり多変量
の関数は作ることができない。

以上から・・・いつどこで起こるのか、まだ「原因→関数→結果」が
発見されていない地震と同じように、人類は株価でも、過去の確率を
未来に延長するしか方法をもたないのです。

これが確率的な幅をもつボラティティです。前記の30社が、確率的な
上限・下限の価格を予想とする理由でもあります。

(注)仮に、株価の真正な関数(変数を入れれば株価になる数式)が
作られると同じ投資になるので、株式市場は機能しなくなります(市
場の消滅です)。深層学習型のAIも、永久に真正な関数(多変量解
析)をつくることができない。

【ボラティリティの正確な意味】
以上の、株価の状況から計算されているものが、
・過去20日の価格変動から標準偏差をとって、平均株価で割って変動
係数にし、
・それを2倍して、95%の確率にした上で(2シグマは95%)、
・12か月に延長するために、√12倍(=3.5倍)した年間ボラティリ
ティです。

ボラティリティは、向こう1年の、株価の確率的な変動幅です。
「確率」には、「原因→関数→結果」がない。

「年間ボラティリティ=2×(過去20日間の株価実績の標準偏差/20日
間の平均価格)×√12」、です。

分散(標準偏差の二乗)の加法性の定理から、1か月の標準偏差を12
倍するには、12の平方根(√12≒3.5)をかけます。1か月の3.5倍を
すれば年間のボラティリティになります。

日経平均の、19年12月末でのボラティリティ(価格変動幅:VIX)14.
80%は、19年12月の日経平均株価の、1日の変動幅が、
・「14.80÷2÷√12≒14.80÷2÷3.5=2.1%」以内に収まる確率が、
95%(19日)だったことを示します。
・逆からいえば、過去1か月で、価格が2.1%以上動いたのは、1日
(5%)だったことを示しています。

【株価の変動と、米銀の自己資本】
経済紙では、「VIXは恐怖指数とされる」と書かれています。年間ボ
ラティリティが25%と高くなると、年間の価格変動が±25%の幅に拡
大したことになります。ともにリスクである、下落と上昇の幅が大き
くなるので、恐怖指数とされるのでしょう。しかし、株価は正規分布
と仮定し、標準偏差で掲載する上昇と下落の確率は、等価です。

【自己資本比率が5%台と低い米銀】
リーマン危機のあと、3.5倍に上がった株価の含み益を、株をもつ銀
行の資本している米国での25%の下落は、銀行の資本危機を惹起する
大きなものです。株主の合計に、「時価総額3800兆円×25%下落=
950兆円」の含み損失が生じるからです。

自己資本比率が5%台と低い米銀の自己資本は、日本の銀行合計とあ
まり変わらない200兆円程度でしょう。金融機関が、構成比で30%の
株をもっていれば、含み損が「950兆円×30%=285兆円」になり、時
価評価では、自己資本が消えてしまうからです。自己資本が消えると、
他行とのレポ金融は停止するため、デフォルトになります。

(注)欧州の銀行も、米銀と同じように自己資本比率が低い。資産バ
ブルの崩壊を経験した邦銀だけが、10%以上と高い。リスク資産の貸
付を増やさず、機関投資家として保有していた株は売って、安全資産
とされる国債を買ってきたからです。

【2018年12月だった】
2018年12月末に、米国の株価が25%下がったとき、FRBの議長パウエ
ルは、大手投資銀行のJPモルガンに電話をかけ、「流動性(ドルの現
金)は大丈夫か」と訊ねています(新聞が報じました)。JPモルガン
には流動性があった。しかし2018年から年間1兆3400億ドル(月間発
行は1166億ドル:12.3兆円)に発行が急増した米国債を買うため、レ
ポ金融での、他行へのドル貸しはできなかったのです。このため、
JPモルガンや大手投資銀行以外で、ノンバンクを含んで、ドル不足が
生じていました。

そのあと、パウエル議長は、2014年10月以来、2.25%(9回)の金利
を上げ、国債を売って金融を絞ってきた出口政策から、2019年は金融
緩和と利下げ(0.75%:3回)に転換したのです。

【米銀のドル不足の原因は、米国債発行の急増】
この原因は、米国債の新規発行の増加(2017年比で+8500億ドル)に
より、米銀システムにドル不足が生じていたからです。発行された米
国債を米銀が買い受けないと、価格が大きく下がって金利が高騰し、
国債と社債の含み損から銀行危機になるので、一旦は、米銀が買い受
けます。海外(日本、中国、産油国)に米国債を売るのは、そのあと
です。

トランプ減税の発効前の2017年は、米国の新規国債の発行は、5500億
ドル(60.5兆円:日本の約2.1倍)と穏やかでした。ところが2018年
は、史上最大規模の1兆3400億ドル(147兆円)に急増し、2019年は1
兆4000億ドル(154兆円)に達して、17年比で8500億ドル(93.5兆
円)も増えたからです。国債を現金で買う米銀が、ドル不足になるの
は当然でしょう。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-01-28/PM1Y3C6VDKHS01

【日米の市場の、株価ボラティリティは同じ】
日経平均とS&P500のVIXは、いつも、ほぼ同じです。日米の経済事情
は違うのに、不思議だとは思いませんか? 

理由は、日銀による株ETFの買い増しが一定(1か月5000億円平均、週
間で1200億円)のなかで、ドル圏からのヘッジファンドの売買を主因
に、日経225の先物価格が決まっているからです。

日本経済と金融、企業利益とは無関係に、売買の70%を占めるドル圏
からのからの売り越しが増えると下がり、買い越しが増えると上がる
傾向が強い。
https://jp.investing.com/indices/volatility-s-p-500

■3.2020年7月から12月の、日経平均予想(30社平均)

前半期に続き、2020年の後半期の、30社の日経予想を見て行きます。

(メモ)19年12月末の日経平均は2万3600円:現在は2万4083円を念頭
においてください。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
下限平均   2万1100円     上限平均   2万5200円
予想の標準偏差 2100円     予想の標準偏差 1600円
予想幅 1万9000~2万3200円   予想幅2万3600~2万6800円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

20年下半期の、30社の下限平均は、2万1100円です。19年12月の実績
2万3600円に対し、-2500円(-11%)です。

一方、上限の平均は2万5200円ですから、+1600円(+7%)です。

30社予想の平均では、2016年の1月と6月までと同じように、4%くら
いの下落予想が、中点になっています(下限11%-上限7%)。

【まとめ】
2020年の上半期と下半期の予想(集合知)をまとめると、30社平均で
は、日経平均の価格について、
・2020年1月から6月までは-5%、
・7月から12月も、-4%という弱気の予想に傾いています。

上限値、下限値とも、アンケートの標準偏差は、20年の前半期より、
1.5倍くらい大きくなっています。不確実性が増える6か月先だからで
す。

以上の手続きを経て、30社予想の、DI的(Diffusion Index)な意味
がわかりました。DIとは、日銀が、主要な会社に、『短観(経済の短
期観測)』として「景気はいいか、横ばいか、悪いか」を訊ねて、
「いいと答えた会社数─悪いと答えた会社数=DI」として示すもので
す。いわば、自社の近い将来の業績(売上、生産性、利益)への感触
です。

【特異な、日本経済研究所と三菱総研の予想】
『週刊エコノミスト誌』の株価予想のアンケートに対して、真面目か、
不真面目なのか分からないのが、わが国のエコミストが、もっとも多
く集まっている日本経済研究センターです。高値も安値も、予想は1
年間、2万3500円の一本です。

現在価格とほぼ同じです。つまり、公益法人の日本経済研究センター
(エコノミストの養成機関でもある。日経新聞社のグループ企業)は、
「根拠をもった株価予想は、原理的に、不可能である」といっている
ことになります。過去、外れることが多かったからでしょう。

三菱総研も似ていて、安値の下限が1万9500円、高値の上限は2万
3500円の一本です。知る限り、知能指数が高い人が多いのですが、
2020年の日経平均は、2万3800円からは下がるとしています(予想の
中点は2万1500円:-2300円≒-10%)。

【予想の効果は、実際に株価では2倍くらい】
予想の効果は、実際の株価では、その2倍くらいになります。年間で
10%は下がると予想する人が増えると、株式市場では売りが増えます
から、実際は20%(ときには30%)下がるからです。高値の予想効果
も同じです。10%上がるという予想が増えると20%上がることが多い。
投資家の期待は、実際の株価変動を拡大させます。

わが国の株式投資を、情報で誘導する役割を担っている大手30社の、
平均値の中点は、20年の前半期が-5%、後半期が-4%ですから、両方
で-9%です。三菱総研の単独予想と、ほぼ一致しています。

30社の集合知である9%のマイナスの予想に従う投資家が増えると、
実際の株価は、現在の2万3800円から20%(4760円マイナスの1万
9000円台)くらいには下がるでしょう(2020年12月)。期待の増幅効
果からです。

【市場の価格を予想するということ】
以上は、30社予想の内容と、その結果の予想です。

株価についてのケインズの「美人投票」は名言です。美人投票で勝つ
には、自分の好みの趣向から美人と思える人ではなく、多くの人が美
人と思うだろう人を予想して、投票しなければ勝てない。投資家の集
合的な答えを予想する。答えの予想の際、多くの投資家を情報で誘導
している30社の平均予想は、手掛かりになります。

株価は、例えば15倍の予想PER(株価÷企業の次期予想純益)を基準
にして計ることができる経済合理的なものではありません。

個人からはかけ離れた集団心理的、観念的、期待的な集合知によるも
のです。現代ファイナンス論がいう、企業純益と期待益回り(PERの
逆数:PER15倍なら、1÷15≒6.67%)で計算できる、経済合理的な理
論値からはかけ離れるものでしょう。

以上が、当方の予想ではない30社の平均的な予想を分析した理由です。
 次号の後編では、当方の株価予想と、その根拠を述べて行きます。


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