新春特別号:2019年はリーマン危機から11年目(前編)
This is my site Written by admin on 2019年1月11日 – 15:00
新年があけて早くも10日です。1月9日の有料版を、新春の特別号と
してお送りします。抜粋ではなく全文です。
            *
正月の混雑を避けて淡路島の温泉に行きました。車で約1.5時間。
お昼は『鮨:希凛(きりん)』でお昼のコース。目的のひとつがこ
れでした。

7メートルはあるかと思える柾目の、厚い檜の、カウンターの背後
に作られた壁一面のガラスから、一幅の絵のように、海峡の大橋と
魚鱗のように光る海をのぞむ。

淡路には、漁師町に小型漁船が多く係留されていて、一本釣りの魚
が豊富です。毎朝仕入れるという魚は鮮度、調理技術、鋭く研いだ
包丁の切れ味が相まって、美味しさは言うまでもない。

包丁と、魚をスライスする厚みの適度さは重要です。鈍いものは、
魚の細胞を押し切って、味の成分を、じくじくとしたドリップとし
て流してしまう。わずかに厚すぎる刺身でも、味の鮮度が落ちたよ
うにもっさりして鈍くなる。リンゴも、鋭い包丁で皮を剥かないと、
せっかくの美味しさが30%くらいは減ります。鮨にとって、包丁と
刺身の厚みは、オーディオのDAC(デジタル・アナログ変換器)と
同じ役割でしょう。

刮目するのは、10貫と料理のコースが3600円というリーゾナブルな
価格の設定です。「北新地」なら1万円相当でしょうか。

その岩屋から40分で島を横断し、西の海岸の別邸という『浜離宮』
に泊まる。駐車場に着くと、玄関から車を見ていたのか、駆けつけ
てバッグを運ぶ。万葉集にも名があるという慶野松原の4階建てで、
客室は20くらいと少ない。「一休」で探しました。8年くらい前か
ら、他のところも一休で予約しています。正月料金の約半分でした。

和洋折衷の、明治モダン風デザインの建物とステンドグラス、肌に
トロリとするナトリウムの多い湯です。ホテルや旅館の、質の良さ
の高い基準を知る経営者が作ったものです。正装の従業員は、「い
い時間を過ごして欲しい」という思いの微笑を絶やさない。

湯上りのロビーでは、いつもヘネシー、シャンパン、ワイン、-2
度の極冷ビール、様々な種類の英国の紅茶、ミネラル水やクッキー
をサービス。無料とはいえ、ブランデー一杯とクッキー2個がやっ
とでした。ハイデザインのガーデンテラスには、籐のソファがあり
ますが、冬はさすがに寒い。

各階のフロアにも、玄関ロビー見下ろすコーナーに、コーヒー、多
種の紅茶、ウーロン茶、ジュース、水が氷とともに準備されていま
す。温泉の長湯は、喉を乾かすからでしょう。

モデレートクラスの部屋も他のホテルのジュニアスウィート並みで
した。入り口の左がキングサイズのベッド2台、奥には6畳の畳を敷
き、続きがソファの洋室。隅々のクリンリネス。芝生とプールの先
の松林から砂浜までを見下ろす広いベランダには、二人が並んで横
たわれる大きさの籐の寝椅子。

感心したのは、ベランダに出るときの、木の下駄サンダル。土踏ま
ずのところが、インソールのようにわずかに盛り上がり、足裏が喜
ぶ。細部にまで、什器・備品の選択がされていました。経営者の、
行き届いた視線を感じます。すべてをテストしなければ、ここまで
は至れない。比較すれば、贅を凝らしたように見える目黒の『雅叙
園』は、細部が大味です。

地元産の野菜類、魚、牛肉の味と質は優れたもので、債券の格付け
ではシングルAクラス。1点だけ、滑らないための配慮とは推測しま
すが、温泉の小石の床が、湯にはいって軟かくなった足裏に痛い。
石片を潮に洗われた小石のように磨くと改善されます。画竜点睛の
一点のように、わずかな手間です。これがあれば完全でしょう。

トップマネジメントが設定してるはずの「価値(品質/価格)の基
準」を評価する癖があります。ニュー淡路グループは、その基準が
Aクラスの高いところにあります。

           *
テーマは、「2019年の株価と不動産の先行き」です。昨年の10月8
日に、米国株のVIX(S&P500社の株価のボラティリティ・インデッ
クス)が26%に急上昇し、その後20%という高い水準を中心に波動
して、年末には35%に急上昇して、今日は約20%です。

今日の日経平均のVIは23.3%と米国株の変動幅より3ポイント大き
い。欧州株のVIも20%と大きい。

日経平均でのVI(日経平均のボラティリティ・インデックスを言
う)、も、いつも米国株と同じ動きをします。日本市場では、何度
も述べたように海外からの株の売買が、70%を占め、「上がるも下
がるも米国株次第」になっているからです。
https://nikkei225jp.com/data/Vix.php

米国のVIXや日本のVIは、過去の株価の変動を標準偏差の2倍(95%
の価格が収まる幅)で見たものの、近似値です。(日経平均のVIも
同じです)

・VIXやVIが30%を超えると、急落していることが多い。
・15%付近では、安定した上昇が多い。

価格幅からこれが言えるのは、投資家の投資の癖によります。上げ
トレンドと判断したときは、おずおずと買いに走る。このため、
VIは15%くらいの水準に下がる。

【年間ボラティリティの作られ方】
VIが25%とは、価格の年間の変動幅が±25%(上下では50%の幅と
大きい)に収まる、これから1年間の確率は95%ということです。

過去20日間の価格変動の標準偏差をとって、それを2倍し、「√12
≒3.46倍」したものが、年間VIです。VIが25%のときは、開場日の、
直近20日間の価格変動幅(標準偏差の2倍)が「25%÷3.46≒7.2
%」だったことを示しています。

直近とは言え、過去の20日間の95%が入った価格変動(標準偏差の
2倍)を√12倍して、将来に延長し、それを未来とするのは変なこ
とです。

人間には、事実としては過去しかないため、これ以外の方法がない。
確率といったときは、すべて過去の事実を計算して、将来に延長し
ます。

南海トラフで向こう30年に70%とされている地震の確率も、同じ方
法です。人類には2050年の未来は見えず、過去の地震しかない。株
価においても、「原因→結果」の関係は、投資家の、株を売買する
ときの判断が変化するというフレーム問題から、原理的に方程式に
はできないからです。

【複雑系の株価には、科学的には確率の予測法しかない】
経済的な現象である株価も、おそらくは数万、数十万の要因が、入
り組んで絡んだ複雑系であり、「原因→結果」の科学的な関係(=
多変量解析の数理的な関係)は、分っていません。将来も分からな
い。投資家の判断の変化を予測する方法はないからです。

(注)空想ですが、多変量解析の方程式多分かれば、株式と金融市
場は「定価」になるため消滅します。規制金利の時代のように、金
利(配当)が決まった債券のような相場になるだけです。

人類は、近い過去のVIを、「分散の加法の定理」を使って、√12を
掛け、向こう1年間の変動幅にするしか方法を持ちせん。しかし、
この未確定の価格変動があることが、売買の市場を成立させていま
す。

【株価の下落は、新たな買いのチャンスを提供する】
2019年の下げを、悲観することもない。底値と判断されるところか
ら少し過ぎたとき買って、長期保有すればいいからです。(注)底
値そのもので買うことは難しい。日々の、ランダム・ウォークによ
る上下への変動があるからです。ランダム・ウォークとは、酔っぱ
らいのフラフラ歩きのことですが、それになぞらえ、株価の確率変
動の、誰も予測ができない動きを言います。どんな方法をとっても、
明日の株価は予測できないからです。

肝心なことは、もう、ここから下げる確率は低いと思える予想の底
値を見極めることです。その際、価格変動幅を見るボラティリティ
インデックス(VI指数)への知識は、必須でしょう。ところがわが
国では、VIに着目している投資家は多くない。

売買の株数が少ないため「分散の加法性の定理」が働かず、その分、
価格変動率が大きくなる個別株より、
・225社の単純平均の日経平均、
・または東証株式の加重平均株価であるTOPIXのような株価指数が、
マクロの金融情勢から、底値が見極め易いでしょう。

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 <983号:2019年は、リーマン危機から11年目(前編)>
      2019年1月9日:有料版

【目次】

1.「リスクパリティ投資」という方法
2.リスクパリティ投資法の事例研究
3.新興国から米国へのドルの還流分は、大半が、自社株買いに使わ
 れたという驚くべき事実
4.2019年の、S&P500社の自社株買いは、1兆ドルを超えるか?
5.S&P500社の自社株買いは、1兆ドルからは大きく減少(2019年:
 暦年)
6.資産価格の崩壊が、間際になっている中国

【後記:バブルとバブル崩壊は、事前に分かる】

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■1.「リスクパリティ投資」という方法

【利益リポート】
HFRから、毎日のメールで、利益リポートが送られてきます。HFTは
Hedge Fund Research(ヘッジファンド協会)。登録すれば誰に
でも送って来ます。珍しいものではない。
https://www.hedgefundresearch.com/

先ほど送ってきた、リポートには、「リスクパリティVol.10~Vol.
15」にポートフォリオ投資(分散投資)している投資信託の利益率
がのっていました。

リスクパリティとは、聞き慣れない言葉と思いますが、「ボラティ
リティ(=変動幅=リスク)を等しくなるようにポートフォリオを
組んだ投資信託」という意味です。パリティは均等という意味。価
格変動のリスクを均等化する投資法と言ってもいい。

【リスクパリティのファンド】
リスクパリティ Vol.10は、過去1か月(20日間)のボラティリティ
(Volatility:価格変動幅の実績)を、投資信託価格の10%に揃え
るように、株や債券の、ポートフォリオの構成比を組んだものです。

リスクパリティVol.15は、合計のボラティリティが15%になるよう
に、世界中の株と債権から、分散投資の構成比をとったものです。

【すべてHFT(超高頻度売買)】
コンピュータプログラムが行う先物の自動売買であり、HFT(1秒間
に数万回以上の超高頻度)の売買手法です。ヘッジファンドの運用
マネジャーは、実際は売買を行っていないことが多い。このため、
株価の先行きを訊ねても、根拠に基づくはかばかしい答えはもって
いせん。Vol.10はボラティリティが10%という意味。

                 利益の実績
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
種類           18年12月 2018年 過去3年間 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
リスクパリティ Vol.10  -1.99%  -6.32%  +16.97%
リスクパリティ Vol.12    -2.54% -10.70%   +12.80%
リスクパリティ Vol.15    -3.09% -10.01%  +25.07%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【利益率】
ヘッジファンドの投資信託には、元本保証はありません。逆に、投
資額の2%(10億円なら200万円のマイナス金利に相当)の手数料を
取られ、利益が出たときは、その20%分を徴収されるものが多い。
当然、損失の補填はない。

その割には、上記の2018年の年間利益率は、ボラティリティ10%に
揃えたファンドが-6.32%、12%が-10.70%、15%が-10.70%と低
い(全部が損)。

2016年、17年、18年の3年間でも利益率は、それぞれ16.97%、12.
80%、25.07%に過ぎません。(注)ゼロ金利の時代では、この利
益率を高いと評価する人もいるでしょうか。

【ボラティリティの違いと、平均利益率の関係】
ただし、ボラティリティを10%と低く揃えたポートフォリオの損失
は、2018年12月では-1.99%です。15%のファンドの損-3.09%より
少ないという原理は働いています。利益が出たときも、ボラティリ
ティを15%と高く揃えたものが、利益率は高い。

それでも3年間の利益は25.7%に過ぎず、年間では投資額の8%の利
益率です(手取りは「8%-2%-8%×20%=4.4%/年」という低さ
でしょう。

実は、リスクパリティのファンドは、株価が大きく下がって、ボラ
ティリティが高くなると、ファンドの合計ボラティリティを平均化
する目的で、VIが高くなったもの(下がった株)を売るため、下げ
を一層加速し、結果として、ボラティリティを高めています。

リスクパリティ投資(リスク均等化投資)の方法は、株価が暴落し
た2008年9月のリーマン危機のあと、金融商品投資でのリスクマネ
ジメントとして急激に増えています。

(注)GPIFが行っている、日本の公的年金基金の運用は、どんな理
由からか不明ですが、固定的な構成比のポートフォリオです。とこ
ろが、年平均の利益率は3.3%と、上記のリスクパリティ投資より
も低い。

165兆円の原資(所有権者は国民)を、国債25%、国内株25%、海
外債券(米国債)15%、海外株(米国株)25、短期資産10%の、固
定構成比運用しています。

年金基金では、基金を減らさない安定した運用が必要ですが、ボラ
ティリティに対して弱い運用形態にしています。隠されたアベノミ
クスでの主目的が、日本株と米国株の買い支えだったからでしょう。

政府は、GPIFの165兆円を、国民の承諾が要らない政府の資産と考
えているようです。18年10月以降のように、日米の株価が大きく下
がるときは、もろに損をします。毎年の年金支給の補填用原資が減
るからです。
https://www.gpif.go.jp/

【ボラティリティを高めているリスクパリティ投資】
リスクパリティのファンドの、VIの変化を受けた受動的な売買が、
一層、株価・債券・通貨のボラティリティを高めています。

リスクパリティのポートフォリオでは、原理的に、
・ボラティリティが低くなったもの、つまり、多くの場合、上げる
トレンドのものを買い、
・ボラティリティが高くなったもの、つまり、多くの場合、下がっ
たものを売ることになるからです。

(注)急落のときはVIが20%から30%、上げのときは、VIが10%か
ら15%くらいが多い。理由は、投資家が、上げのときは不安なまま
買って上げ(強気のブル相場の特徴)、下げになると損の恐怖に駆
られた売りが急増するからです(恐怖相場の特徴)。
http://www.pwalker.jp/Vix.htm

米国株のVIXと、日本株のVI指数を利用していただくために、具体
的に言いましょう。両方の計算方法は、同じです。

▼1年単位の株価の予想

株価を予想することは、売買の予想ですが、その売買は、ボラティ
リティが示す、投資家集合の心理的な態度によって決まるからです。

起点になるのは、マクロ経済の予想からのファンダメンタルズ(期
待金利、実質GDP期待成長、企業の次期利益予想、物価予想、失業
率、製造業稼働指数、機械の受注予想、通貨など)からですが、そ
の変化を拡大しているのが、リスクを均等にするパリティ投資です。

【リスク回避の意味】
新聞には、しばしば、「投資家のリスク回避での売り、または買
い」と表現されています。内容は、リスクを均等に維持するポート
フォリオによる、売りと買いです。

株が下がって、株価のボラティリティが高くなると、理由なく、安
全資産(=価格のボラティリティ=変動幅の少ない金融資産)とし
て円、スイスフラン、金、円国債が買われて上がります。

機械的に、コンピュータが株価や債券のVIを比較し、米国株・日本
株。欧州株より、円と円国債が「価格変動が少ない意味での安全資
産」とされているだけのことです。

日本経済と国債が、成長して安全という評価を受けているのではあ
りません。新聞記事を熱心に読んで、間違えることがないよう
に・・・。

■2.リスクパリティ投資法の事例研究

【ポートフォリオの2種】
ポートフォリオでの投資配分には、二種種があります。

(1)3か月、半年、あるいは1年で構成比を見直す固定法(仮称)。
(2)投資商品の、個々のボラティリティ(=価格のヒストリカル
な標準偏差)を、合計で一定率に保つように、小刻みな売買をして
いるリスクパリティ法。

ボラティリティは、株や債券の価格変動と同時に、秒単位で変化し
ているからです。債券の代表は、国債と社債です。

【標準偏差】
リスクパリティ投資でのボラティリティとしては、面倒なオプショ
ン価格からの逆算ではなく、簡単に計算できる価格の標準偏差を用
いているものが多い。ボラティリティと、標準偏差×2倍は近似値
です。

【仮想の事例】
金融商品の、直近20日間の、価格の標準偏差が以下だったと仮想し
ます。
      20日間の
金融商品  標準偏差          ポートフォリオ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国債    5%      1÷5% =20   20÷83=24%
S&P500   20%      1÷20%=5    5÷83=6%
米ドル    10%     1÷10%=10   10÷83=12%
円国債     3%     1÷3% =33   33÷83=40%
日本株    20%     1÷20% =5    5÷83=6%
金      10%     1÷10  =10   10÷83=12%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
              合計 83        100%

以上の計算から、米国債を24%、S&P500社の株価指数を6%、米ド
ルを12%、円国債を40%、日本株(日経平均やTOPIXの指数)を6%、
金を12%もつことになります。これを、日々、コンピュータが計算
しています。合計の標準偏差を計算してみてください。

「(5%×24%+20%×6%+10%×12%、3%×40%+20%×6%+
10%×12%)=6.8%」になるでしょう。これを2倍して、「リスク
パリティ Vol.13.8」の出来上がりです。95%のデータが収まる変
動幅が、過去20日間では、±13.8%(上下で27.6%)だったという
意味。

価格変動と一緒に、標準偏差は刻々変化しています。米国株が下落
して日本株も同時に下げて、以下のようになったとします。

      20日間の            新しい
金融商品  標準偏差          ポートフォリオ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国債    7%   1÷7% =14.3    14÷57.5 =24.3%
S&P500   30%  1÷30%=3.3     3.3÷57.5=5.3%
米ドル    12%  1÷12%=8.3    8.3÷57.5=13.9%
円国債     5%  1÷5% =20     20÷57.5 =34.8%
日本株    30%  1÷30%=3.3      3.3÷57.5=5.3%
金      12%  1÷12  =8.3    10÷57.5 =17.4%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
           合計57.5         =101%

以上の計算から、
・米国債の構成比は24%→24.3%=米債は1.3%の買い越し、
・S&P500の株は6%→5.3%=S&P500は、12%の大きな売り越し、
・米ドルは12%→13.9%=米ドルは16%大きな買い越し、
・円国債は40%→34.8%=13%の大きな売り越し、
・日本株は6%→5.3%≒=12%の大きな売り越し、
・金は12%→17.4%=14.5%の大きな買い越しになります。

こうした売買は、数理統計学のクオンツたちが作ったHFT(超高頻
度売買)のプログラムとして、自動化されています。

【マクロ経済と株価】
マクロ経済のファンダメンタルズは、株価、債券、通貨、金の価格
変動の起点にはなりますが、そこで作られた短期トレンドを自己強
化するような、リスクパリティ法でファンドの売買が加わっている
のです。

株が売られる一方では、
・米国債が買われて上がり(米国の長期金利は11月5日3.2%→2.7
%に下落)、
・安全資産とされる金も上がったのです。

【金価格】
ドルベースの国際卸価格では、1オンス1187ドル(10月4日)が、
1282ドル(19年1月8日:シカゴ)へと、3か月で8%上昇しています。

ドルが下がって円が上がるときが、金価格の上昇のときなので、同
じときの円の小売価格(8%の消費税込み)では、1グラム4748円か
ら4901円まで、3.2%しか、上げていません。金の価格は、ドルで
見ないと、動きが分からない。ロンドンとシカゴで決まったものに、
小売りマージンと消費税を加えて円価格にしたものだからです。消
費税がつくのは、政府が金を通貨としては認めていないからです。
http://www.pwalker.jp/metal.htm

【金融商品の相場】
以上のような金融商品の売買方法が増加し、2008年以降の金融商品
全般が、「理由なく上げ、理由なく下げるトレンドを強化するも
の」になっています。

これが、中央銀行の通貨増発1200兆円が、津波のように波及して惹
起した過剰流動性相場の中での、超高頻度売買の特徴です。

個人投資家も、リスクパリティ法が最初に作った波に乗るので、下
げのときのボラティリティが一層強化されます。

リスクパリティ法の投資では、利益も損も市場の平均より小さくな
ります。その代わりに、市場のボラティリティを大きくしているの
です。

■3.新興国から米国へのドルの還流分は、大半が、自社株買いに使
われたという驚くべき事実

【米ドルの本国還流】
少し古い、2018年の第一四半期(米国では1月から3月)での、米ド
ルの本国還流は、3000億ドル(33兆円)でした(ロイター)。原因
は、FRBの利上げです。米国の短期金利が上がり、新興国とのイー
ルドスプレッド(比較した金利差)縮小したからです。

【4回で1%の利上げの意味】
年間では、合計4回、1%の利上げでした。1.25%から1%の利上げ
は、社債の金利や借り入れの利払い額では、1.67倍になるくらい大
きい。5%から%に上げても、利払いは1.2倍ですが、1.5%から2.
5%への利上げは、67%になるからです。超低金利下での利上げは、
約9年間の超低金利に慣れていた経済、金融、投資家への影響が大
きくなります。

年間ペースへの換算では、米国への還流額は、4倍の1.2兆ドル
(132兆円)という巨額になります。これが新興国の株価と通貨を
暴落させています。米国への還流は、「新興国の株売り+通貨売り
=ドル買い」になるからです。

▼自社株買いは年間で1兆ドル(110兆円)という異常な金額

驚くことに、インターネットの多国籍企業と国際的な金融業が還流
させた米ドルで、自社株買いが5500億ドル(60.5兆円)も行われて
います。

年間実績では1兆ドル(110兆円)の、自社株買い(日本の自社株買
いの30倍)。自社株買いは、流通株数を減らす減資と同じです。1
株当たりの純利益を増加させます。予想PER(株価/1株当たりの次
期予想純益)は下がります。

自社株買いで低くなった予想PERをもとに戻すための買いが入り、
株価は上げます。自社株買いが、月平均9.2兆円、1年で110兆円も
あったのですから驚きます。

最大額は、時価総額で1兆ドル(110兆円)を超えていたアップルの
1000億ドル(12兆円)です。

(注)2018年12月では、時価総額が7485億ドル(82兆円)と25%も
下げています。巨大な自社株買いの効果は、10月からの、市場が飽
和したスマホの売上低下により相殺され、更に売りが出て、25%下
げたのです。

【アップル株の暴落】
直近3か月で25%の下げは、半年なら50%の下げに相当し「暴落」
の領域です。レバレッジを5倍かけて先物を買っていれば、25%の
下げが5倍の金額になります。破産の水準でしょう。

時価総額世界1だった株価が、米国で金融危機の兆候を告げるかの
ような暴落をしています。実体経済のファンダメンタルズでは、ア
ップルの新型iPhoneの、XS、XS Max、XRの販売予想量の低下です。
XRの価格は、64GBのSIMフリーで約9万円。高すぎる価格設定に誤り
があったのでしょう。韓国のサムスンはその約30%安。ファーウェ
イに至っては2万円台。アップルを買う意味が薄れています。

中国経済の成長の減速は、世帯所得の増加率の低下でもあります。
買い替えでも「高い新型アイフォン」は買わない人が増えています。
後述しますが、18年の10月からの、世界の株価下落と迫る金融危機
の震源地は、トランプ関税が課された中国に思えるのです。

中国での売上が減っているアップルの世界生産予定は、当初計画の
4700万台~4800万台から4000万台~4300万台に減っています(19年
1月~3月の第一四半期)。昨年同期は5221万台ですから、約1000万
台(20%)減。

生産・販売の台数が20%減れば、利益はそれ以上に大きく減少しま
す。これが、アップルの株価が25%下げた主因です。

■4.2019年の、S&P500社の自社株買いは、1兆ドルを超えるか?

2019年の、米国と日本の株価を予想するとき、重要な要素は、
2018年の、前年比で2倍になった自社株買い1兆ドル(110兆円)が、
どう向かうかです。

このマネーの元になったのは、
(1)新興国から還流したドルに加えて、
(2)トランプ減税による企業の税引き後の利益(=純利益)の増
加でした。

ところが、2018年の史上最大の自社株買いも、相場の底支えをした
だけで上げる効果は小さかった。

2018年の、NYダウの2万3000ドルを超えるバブル株価の水準は、前
年の2倍の1兆ドルにまで増えてきた自社株買いが底支えをしていた
のです。

(注)S&P500社で自社株買いが1兆ドル、NYとナスダックの全上場
会社(ウイルシャーの5000社)では1.3兆ドル(143兆円)です。
前々FRB議長のバーナンキは、日本では引用されないウィルシャー
5000を引き合いにだしていました。USA Todayにすら出ているもの
です。

2019年の自社株買いは、いくらになるか?
資金源の要因から言えば、以下の4つが減少します。

▼(1)レパトリ法(愛国法)による、海外投資マネーの本国還流
分の減税額。2016年までは、海外で上げた利益を国内にもってくる
と、課税率は35%でした。

トランプ大統領は、1980年から2017年の、海外利益の、国内への還
流に対して8.5%~15.5%に下げる大きな減税を実行しています
(2017年)。2018年以降の分は、課税がゼロ%ですが、27年間の累
積利益のほうが、圧倒的に金額が大きい。このレパトリ法が促した、
ドルの国内還流額は、2019年は減少します。

▼(2)短期金利(FFレート)の上昇による社債金利の上昇は、社
債での資金調達を減少させます。社債発行で調達したマネーで、自
社株買いする企業も多かったのです。その代表もアップルです。社
債で調達した1000億ドル(11兆円:時価総額の12%)で、自社株買
いを実行し、株価を上げていたのです。

マグドナルド、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェースも
数十億ドル規模の自社株買いでしたが、株価は上げていません。底
支えの機能だったのです。自社株買いは、期待売上と利益が好調な
企業が行うとき株価を上げます。そうでない企業では、市場の売り
超による下落を止める効果しかない。

▼(3)世界経済の成長率の低下は、輸出が減る中国と、輸入が減
る米国で、もっとも大きくなります。両国の、製造のサプライチ
ェーンが分断されて、減少するからです。中国輸出の日本にも影響
はありますが、それは、中国・米国よりは小さい。

IMFは2018年4月には、2018年と2019年の世界経済の成長を3.9%と
高くしていました。ところが昨日、米中貿易戦争の影響をある程度
は織り込んで、世界銀行が出した予想は、2.9%と、IMFより1ポイ
ント低くなっています。

当方は、実際には、複雑系の期待の経済では「波及が波及を加速す
る働き」があるので、もっと低くなると見ています。

世界GDPでの、増加率の1ポイントの低下は、特に、中国企業と米国
企業の利益を、その何倍も低下させます。米国企業が自社株買いの
原資としてきた「税後利益」は、相当に減少して行きます。スマホ
の生産予定数が、前年比で約20%も減るアップルとほぼ同じ、利益
減が生じるからです。

【減速する世界のマクロ経済】
18年8月の米国の実質経済成長は3.4%と高かった(GDP額は18.7兆
ドル:2057兆円)。同じ時期の中国は、6.5%の実質成長です(政
府の公式発表:2%程度は嵩上げされています)。

マクロ経済の実績数値(GDP、貿易、物価)には、トランプ関税の
影響は、まだ出ていません。2019年の6月くらいからは、出始める
でしょう。

企業の利益成長という面からも、米国の自社株買いの増加はあり得
ない状況になっています。

■5.S&P500社の自社株買いは、1兆ドルからは大きく減少(2019年
:暦年)

以上、3つの要素から、2019年3月ころからは、2018年(暦年)の1
兆ドル(110兆円)の自社株買いが増えることはあり得ない。むし
ろ、月を追うごとに減って行くでしょう。

2019年は、自社株買いと、企業利益の好調という要因からの、米国
株の上昇はなくなっています。2019年秋に、マクロ経済のデータが
出てくるころになると、米国株の大きな下落(-20%以上)になる
可能性が高くなっています。

【NYダウ】
現在のダウは、2万3787ドル。2018年10月1日の2万6627ドルから、
2840ドル(10.6%)下げた水準です(1月8日)。
https://nikkei225jp.com/nasdaq/

【ナスダック】
同じ時期、IT株が多いナスダックは7990から6897へと1093ポイント
(13.7%)下げています。12月24日のイブの安値6182から715ポイ
ント(11.6%)上げた水準です。

2019年秋の、この両方の、予想される20%の下落は、2018年10月初
めの高値からは、35%くらいは下がった水準でしょうか。米国の株
式の時価総額3000兆円からは、約1000兆円が失われます。金融危機
寸前の水準でしょう。

【リーマン危機のときの株価下落との対比】
2008年9月15日のリーマン危機から、1万4421ドルだったダウは、
2009年3月の底値6547ドルまで、7か月で55%下げています。2019年
の10月ころは、18年10月比で35%の下落予想、リーマン危機のとき
の、64%のスケールの下げになります。

リーマン危機のときと事情が異なるのは、2008年から2009年はFRB
が、緊急の量的緩和(3回のQEの初回)として、1兆7250億ドル
(190兆円)の緊急資金供給を、金融機関に対して行えたことです。
政府も出資をして、金融機関を救済しています。

【現在との違い】
ところが2019年のFRBには、これを行う信用の余力は乏しい。2.5%
の短期金利を1.5%に下げることくらいしかない。そのため、株価
の損失では準金融危機から本格的な危機に発展するリスクを抱えて
います。

日本の株価(個別銘柄ではなく日経平均)は、米国ダウとナスダッ
クの合成コピー版ですから、敢えて触れる必要はないでしょう。日
本の株は、米国から独立した動きはしないからです。

【通貨:円】
通貨では、2019年秋の円高(ドル安)が予想できます。1ドル100円
は割って、95円かも知れません(現在は1ドルが108.8円)。アベノ
ミクスは、大円安の6年を作りましたが、諸費税の2%増税の時期に
それが終わるでしょう。

世界の通貨に対する円に実効レートでは1970年代中期の円安でした。
原因は、日銀の異次元緩和です。実質GDPと国民所得があまり変わ
っていないのに、ベースマネーだけが400兆円増刷され、通貨1単位
当たりのGDPと所得が減ったからです。

もっとも高かったときの円高は、23年前、1995年の実効レート150
でした(ドル/円は79円)。現在は80ですから、世界の主要な通貨
に対して47%安い超円安です。

当方、円高が、GDPに対する世帯の預金量が世界1多い日本経済全体
にとっては、スイスフラン高のスイスと同じように、プラスと考え
ています。

元が高くなったことが主因の、中国のインバウンド消費に頼るより、
円高の日本人が、旅行と商品価格が安い海外に出かけることがいい
からです。1985年から90年代初期の円高の時期、世界1の観光客は、
今の中国人のような日本人でした。物価の高いNYやパリでは、もっ
と物価が高かった日本人が、溢れていたのです。
http://honkawa2.sakura.ne.jp/5072.html

■6.資産価格の崩壊が、間際になっている中国

【リ-マン危機】
2008年のリーマン危機は、米国の、住宅価格の2006年からのピーク
アウトを主因に、デフォルト率が高まったサブプラム・ローン(変
動金利型住宅ローン証券)の下落から始まり、デリバティブ証券の、
全面的な下落に波及し、始まったものでした。

自信家で恐慌学者のバーナンキ前々FRB議長は、最初は、金融業に
何が起こっているのか分からなかったと後では正直に述べています。

その前の議長で、利上げで住宅バブルを作って、利上げで崩壊させ
たグリーンスパンは、「バブルは崩壊したあとみ、バブルとわか
る」という責任逃れの言葉を残しました。ところが、現在は分から
ないはずの「株価と国債価格のバブル」を講演で指摘しています。
実に、いいかげんな人です。

【中国の住宅価格と株価】
独裁政権の中国で、世帯の年収の15倍から20倍と、夫婦の所得を全
部ローンに回しても買うことはできないくらい高い住宅価格の、バ
ブル崩壊の間際にまで来ていると思われます。

しかし政府統計では、目立った値下がりはない。ところが、空き家
が5000万戸(年間建設1000万戸の5年分:全戸数の22%)になって
いるようです(ブルムバーグ:2018年11月9日)。西南財経大学の
甘犁教授が発表したという。中国政府は、都合の悪いデータは出し
ません。

政府が事実を隠せない株価(上海総合)は、2018年は、3500から
2514(19年1月9日)まで29%下げています。1年間、一本調子の下
げです。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/ssce.html

2008年の世界金融危機は、米国発でした。今回は、米国の貿易戦争
の相手国である中国発の金融危機になりそうですが、20ページに達
したので、このテーマは、次号にします。時間があれば増刊。

以下は有料版の申し込みサイトです。新年からいかがでしょうか。
         https://www.mag2.com/m/P0000018.html
有料版のバックナンバー(以下に過去の全部があります↓)
        https://www.mag2.com/archives/P0000018/

【後記:バブルとバブル崩壊は、事前に分かる】
リーマン危機後10年のサイクルで、再びの金融危機が近づいている
感じを抱いています。これを、中国をテーマにした次号で解析し、
データで確認します。

中央銀行の通貨増発1200兆円が世界的な招いた過剰流動性バブル。
株価、不動産価格、国債価の3つが、経済合理的なリターンのある
価格を超えたバブルの水準にあります。

学者としてのグリーンスパンの言葉とは違い、不動産価格と株価の
バブルと崩壊を29年前からの7年間で、悲惨に経験した日本人には
分かることです。日本は人口減とGDPの低下、それに、金融危機が
招いた物価デフレの先達です。不良債権の増加がもたらす金融危機
とは、銀行の信用収縮であり、それが招くのは流通するマネー量の
減少です。

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