新年号:マネタイゼーションの正と負の効果(1)
Written by admin on 2016年1月2日 – 10:00
あけましておめでとうございます。刷毛で描いたような雲が浮かび、 穏やかな光が溢れる元旦の朝でした。 「旦(たん)」は、日がお日様、一が水平線で、その象形どおりに、 地平線に現れる太陽を示すという。今日はさすがに、人と車の通り は少ない。 自宅での団欒という言葉は、明治時代風に古ぼけたものですが、 「欒(らん)」は、もつれた糸に言葉でけじめをつけるという意味 をもつという。なるほど、団欒とはそういったことだったのか。わ れわれは、こうした言葉(=観念)で、外部世界を認識して、解釈 しています。 年末に読者の方からメールで、「政府の借金1000兆円はやっぱり嘘 だった」という元財務省の高橋洋一氏(以下、T氏)の記事が、ツ イッターで回ってきて、それを読むと反論が難しそうですが、これ は、本当のことですか」という問い合わせが、10通くらい来ました。 背後には、その100倍(つまり1000人余)の方が、同時に、同じ疑 問を持たれていると、推察しています。 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47156 「日銀が国債を買い続ければ、統合政府で見たとき、政府の債務は なくなって、財政再建は完了するという論」です。 リフレ派のエコノミストは、T氏と同じようなことを言うので、実 際は、もっと多くの人が、同じ疑問をもっていて、「何かが違うよ うな気がするが(直観)、反論ができない(論理)」という思いを されているに違いない。 変だなと思う直観は、実は、正しい。しかし、どこがおかしいかを 論理的に示すには、経済学的なイマジネーションが必要です。 希望を書くべき新年号にふさわしいかと案じたのですが、重要なこ となので、Q&Aの形式で書きます。これも、もつれたことに論理の 筋を通すという「団欒」と同じことでしょう。一家、家族、仲間、 あるいは人々の団欒は、希望に属することです。 出版社が1月1日の日経新聞に、新著『膨張する金融資産のパラドッ クス』の広告を出してくれています。顔写真入りで気恥ずかしいの ですが、新年のご挨拶といったところです。日経新聞をお取りの方 は、手許にあれば、ご覧になってください。 日銀による大量の国債の買いが、どんな意味をもち、どうなるかも 書いています。これからの資産作りで「お得」になると思えるので、 自薦します。 アマゾンではこちら 本稿は、有料版の増刊と共通です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.346:新年特別号: マネタイゼーションの正と負の効果(1)> 2016年1月2日:有料版(増刊)と共通 【目次】 1.政府のバランスシートの資産は、利用できるのか 2.日銀が国債を買えば、その分、政府の債務は減るのか 3.異次元緩和から5年後の2018年に、インフレ率が2%を超え3%に 上がったとします 4.日銀が、保有国債を100兆円金融機関に売ったときのB/S 5.宿題:インフレ目標を達成しても、日銀が出口政策をとらないと、 どうどうなるか ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.政府の資産は、どれくらい利用できるのか ▼Question1: 財務省が2014年3月時点として集計した「国の貸借対照表(B/S)」 では、中央政府の総負債は1143兆円です。資産は652兆円とされて います。つまり純債務(資産の引き当てがない債務超過)は491兆 円です。日本政府には、他国より大きな資産があります。 https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2013/20150130gaiyou01.html 純債務491兆円と言えば、GDP(500兆円:15.08)の98%です。これ なら、他国に比べて突出して多い(GDPの2倍以上)とは言えません。 日本政府の負債は、資産も多いので問題がないという人がT氏を筆 頭におられますが、この点については、いかがでしょうか。 【答え】 ▼債務超過を問題にするときの前提 ここで問題にしているのは、 ・単なる資産と負債の債務超過ではなく、 ・財政破産に至る可能性がある債務超過かどうか、ということでし ょう。 【有効な資産という観点】 土地や不動産などの固定資産や出資金が相当にあっても、換金でき ないもの、あるいは換金すれば価値が大きく減るものが多ければ、 資金繰りには有効ではない。破産しやすい債務超過ということにな ります。この時の資産は、売る時の時価で見なければならないので す。 【事例】 事例で言います。ある会社が、主な資産として100億円で買った土 地をもつとします。負債は土地を買った時に借りた70億円です。B/ S(貸借対照表)では「簿価資産100億円─負債70億円=30億円のプ ラス」です。ところが、その土地は20億円でしか買う人はいないと します。実質では50億円の債務超過です。銀行の担保評価も、時価 の20億円でしかない。バブル期にはこうした会社が多く出ました。 この会社は、簿価上の資産はプラスでも、破産するのかどうか。B/ Sでは、(売れる資産価格の)実質では50億円の債務超過であり、 破産しています。債務超過は破産ということです。 しかし破産しない場合もあります。会社が例えば、インターネット 事業で年間に10億円の利益を出し、これからも同じ利益を出すと見 込まれているときです。 こうした場合、将来の利益を信用して、借入金の返済に必要な資金 (年間10億円)を追い貸しする銀行が出ますから、破産しません。 もしその会社の事業が赤字か利益が少ないなら、銀行は50億円の債 務超過に不安を感じるため、どこも約定返済(例えば年間10億円) の借り替えには応じず、返済資金が足りなくなって破産します。 【重要な点はここ】 以上のような事例から、政府のB/S(貸借対照表)で重要になるの は、以下の2点と言えます。 (1)資産の中で、売ることができるものの金額はいくらか。 (2)政府の財政赤字(35~40兆円/年)が、 ・将来縮小するのか、 ・維持か、 ・拡大し続けるのか。 政府が、将来、破産するかどうかで重要なのは、B/Sの債務超過よ り、財政赤字の今後の見通しです。 以上のような前提を念頭に置き、以下を読んでください。 ▼まず、政府の負債1143兆円 政府の負債1143兆円は、すべてが換金性の返済と利払いが必要な負 債です。以下の内容です(15.03.31:財務省)。 https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2013/national/hy2013_point.pdf ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ・政府短期証券 102兆円(財務省が外貨を買ったときの負債) ・公債 856兆円(財政赤字で増えてきた国債の残高) ・借入金 28兆円(政府の短期借入金) ・年金預り金 112兆円(国民年金と厚生年金の預り金) ・未払い金等 11兆円(経過勘定) ・その他負債 34兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 政府負債 1143兆円(2014年3月31日時点) ●この1143兆円の政府負債は、年間平均で31兆円の増加傾向と判断 していいものです。2009年1019兆円、2010年1013兆円、2011年 1088兆円、2012年1117兆円、2013年1143兆円と、1年平均で31兆円 増えています。 この負債は、全部、時期が来れば支払う必要がある負債です。 政府短期証券の102兆円は、財務省が、銀行から外貨(主は米ドル、 2番目がユーロ)を買いあげたときの、日銀と銀行への借入金です。 財務省はこれを「外貨準備」にしています。 (注)資産では、「有価省証券129兆円」に該当します。 公的年金の預り金(112兆円)は、国民年金(基礎年金と言う)と、 基礎年金に対して2階部分になる厚生年金(個人と会社が50%ずつ 保険料を負担)の保険料として、国民が払ってきた、月々の掛け金 からの預り金です。 (注)資産では、運用預託金の138兆円に該当します。 ▼次は、資産653兆円(14.03.31時点)をその換金性で評価する ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 現金・預金 19兆円(換金性あり) 有価証券 129兆円(外貨準備:換金性あり) 貸付金 138兆円(独立行政法人等:若干の換金性) 運用預託金 105兆円(年金基金の運用:換金性あり) 出資金 66兆円(独立行政法人等:換金性あり) 有形固定資産 178兆円(換金性はほとんどない) その他資産 17兆円(換金性あり) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 政府管理の資産 653兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ うち換金性資産 475兆円(固定資産を除いた換金性の資産) 換金性負債 1143兆円(ほぼ全部の負債が換金性あり) 債務超過 668兆円(換金性で見た債務超過額) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 政府や公団が管理している有形固定資産は、河川工事、道路、橋、 トンネルが多く、ほとんどのものに換金性がありません。 河川工事に公共事業費が使われていても、その利根川や信濃川を買 って事業に使う企業はない。道路や山林も同じで、有料化して民営 にするのは無理です。省庁の建物や公共施設も同じでしょう。 ●以上から、いざというとき換金できる政府の資産は、475兆円で す。満期には払う必要がある負債は、1143兆円でした。ここから、 換金性の観点での政府の債務超過は、668兆円と見積もられます。 (注)財務省が作ったB/Sの債務超過は490兆円(14.03.31)とされ ています。ここでの計算では、換金性ない有形固定資産の分(178 兆円)が膨らんで、債務超過は668兆円です。GDP(500兆円)分の1. 33倍です。 GDPの1.33年分の債務超過668兆円と言っても、それが将来の財政破 産という観点で意味をもつものではありません。肝心なことは、こ の純債務が、今後大きく膨らむのか、減少するのか、です。 2009年から2013年度までのこの純債務の増加は124兆円(1019兆円 →1143兆円)です。年間の純債務の増加は、年平均で31兆円です。 【分岐点】 ▼(1)財政破産が起こらないとき 純債務の増加年31兆円が、25兆円、20兆円、15兆円、10兆円・・・ 年5兆円(GDPの1%程度)と減って行くか、それ以上の傾向で減っ て行くと認識されれば、国債の金利高騰からの財政破産は起こらな いでしょう。 現在の債務超過(実質668兆円)の金額は、国債を買う金融市場に 受け入れられた結果です。その金額が多いかどうか。世界1多くて も、国債の金利高騰がなく、すでに、乗り越えられています。 問題になるのは過去ではない。将来の純債務の増え方です。 ▼(2)財政破産になるとき 年間純債務31兆円が同じか、5兆円ずつ増えるというように金融市 場で認識されると、国債リスクの観点から、国債の金利が上がって 行き、いずれ、国債の金利高騰が起こる時が来て、財政破産します。 この時期はいつか? 次に述べる将来のインフレ率と関係します。 インフレ率は、人々が債券に要求する期待金利を上げるからです。 (注)結論を言と、2018年ころからは、危なくなるでしょう。 【注記事項】 ・普通の時期の国債の理論金利= 実質GDPの期待成長率+期待インフレ率 ・財政危機が認識されたときの国債の理論金利= 実質GDPの期待成長率+期待インフレ率+リスク率 リスク率は、債券の回収を保証する保険(CDS)の料率に相当する ものです。 2010年のギリシア危機のとき、ギリシア債にかかったCDSは最大70 %、スペイン債では7%、ポルトガル債7%、イタリア債では7%に 高騰しました。 2015年12月現在、ECB(ユーロの中央銀行)が支援しているギリシ ア国債のCDSは、10.8%くらいです。 http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=Cggb1u5%3AIND ■2.日銀が国債を買えば、その分、政府の債務は減るのか Question2: ▼T氏は、15年12月28日の記事で、日銀が国債を買った分、政府の 債務は減ると言っています。他のリフレ派のエコノミストにも、H 氏などを代表に、同じことを言う人が多い。 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47156 日銀が国債を買えば、その分、政府の債務は減ったと見ていいので しょうか? ここが分からない。常識で言えば変ですが、著名なエ コノミストも言っています。 もしそれが正しいなら、1000兆円の国債を日銀が買ってしまえば、 政府の債務はゼロになります。政府は税金を全廃でき、代わりに国 債を発行して日銀に買ってもらえばいいことにもなるでしょう。 日本も世界も無税国家になりえます。 これはすごいことになりますけれど。 【答え】 日銀が国債を買うことによって、国債残高が減るように見えるのは、 日銀と政府を連結で見た「統合政府」を想定したときです。ただし、 実際に、政府の財政赤字に対応する国債残が減るわけではない。日 銀がもつからです。 日銀株は政府が55%をもつので、経産省のような政府の省庁として 見れば、「統合政府」になります。以下、資産・負債を対応させる ことができる、「振替伝票」(B/S風)で見て行きます。左側に資 産に増加(または負債の減少)が書かれ、右側に資産の減少(また は負債の増加)が書かれます。 ▼(1)政府の、国債発行に関するB/S 借方(資産) 貸方(負債) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 累積財政赤字 1000兆円 国債発行残高 1000兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ これが政府の累積財政赤字(マイナスの資産)に該当する部分の、 政府B/Sです。 ▼(2)日銀の国債保有は328兆円です(15.12.22) 借方(資産) 貸方(負債) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 国債保有 328兆円 発行銀行券 96兆円 当座預金 247兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ これが、日銀が買ってきた国債(328兆円:115.12.22)に関する部 分のB/Sです。国債だけに関するB/Sでは、他の勘定にも紛れ込むの で、資産・負債の差異が出ます。右側の負債は合計で343兆円です。 https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2015/ac151220.htm/ 発行銀行券(96兆円)は、日銀が発行し、市中で流通している1万 円札(96億枚)です。当座預金(247兆円)は、国債を買った日銀 が、それを売った銀行が日銀にもつ当座預金の口座に代金を振り込 んだものの合計です(日銀と取引がある全部の金融機関分です)。 2008年のリーマン危機以降の日銀は、FRBをまねて、この当座預金 に0.1%の特別金利をつけて、預かっています。 ▼(3)統合政府=国債に関する政府と日銀のB/Sの連結を 借方(資産) 貸方(負債) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 財政赤字 1000兆円 発行銀行券 96兆円 当座預金 247兆円 国債発行 657兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 政府と日銀を連結にすると、政府が発行した国債343兆円は、日銀 がもつ日銀資産の国債343兆円と相殺されたと見ることもできます。 (注)日銀の国債保有は15年12月22日時点では328兆円ですが、こ こでは便宜上、発行銀行券(96兆円)と当座預金(247兆円)の合 計343兆円と同じ額としています。 日銀がもつ国債は343兆円ですが、連結した「統合政府」では、 343兆円は部門間の貸し借りとして内部取引になり、資産・負債が 相殺されるからです。 この結果、343兆円の国債が「消えたかのよう見え」、上記(3)の B/Sのように、「統合政府」の負債は、 (1)発行銀行券96兆円、 (2)当座預金247兆円、 (3)そして日銀以外の金融機関がもつ国債657兆円(海外は100兆 円)になるのです。 (注)実際には、消えていません。「統合政府」としての、日銀が もつ国債を相殺した連結B/Sでは、そう見えるだけです。 343兆円の国債は、「統合政府」では、発行銀行券の96兆円、当座 預金247兆円に振り替わっています。このため343兆円の国債がなく なって、償還と利払いの要らない現金と当座預金(普通は金利ゼ ロ)になったように「見える」のです。 ●T氏は、以上のことを (1)日銀が国債を買えば、その分、国債は減る。日銀が買った国 債は、現金と当座預金に振り替わるが、現金と当座預金は利払いも 返済も要らない負債である。 (2)日銀が買った国債分は、「国債が減った」と見なしていいと いっています。 これは、T氏のように「統合政府を想定すれば」この通りです。 しかし、以下で重要なことを言います。 ▼インフレにならない限りは、T氏の立論は正しい インフレならない限り、日銀は、毎年80兆円の国債を買い増す異次 元緩和を続けるでしょう。インフレ率2%以下が2018年まで続いた とすれば、統合政府のB/Sは、以下になるでしょう。 〔前提〕 政府の国債の新規増発が35兆円/年、日銀が買いとる金額を年80兆 円とします。これから3年分は3倍です。金融市場での現金需要の増 加は少ないので、現在の96兆円と同じとします。 以下のように、 ・当座預金は日銀が国債を買った分(240兆円)増えて、 ・国債発行は135兆円分減ったように見えます。 【2018年末の、統合政府のB/S(想定)】 借方(資産) 貸方(負債) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 国債発行 1105兆円 発行銀行券 96兆円 当座預金 487兆円 国債発行 522兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 日銀がもつ国債は、327兆円から567兆円(発行高の51%)に増えま す。このため金融機関が預ける当座預金の残高が487兆円へと、15 年12月22日より240兆円(80兆円×3年分)膨らみます。 日銀以外の金融機関がもつ国債は522兆円と、現在(657兆円)より、 135兆円も減ります。日銀が1年に80兆円分を買って、金融機関がも っていた国債を「買い剥(は)がした」からです。 このとき、国債の金利は、10年物ものも、マイナスになっているで しょう。国債の金利がマイナスとは、発行額面100万円の新規債を、 日銀が、(例えば)101万円で買うということです(-1%の金利)。 このとき、政府から100万円の発行価格で買った銀行は、右から左 に日銀に売ると、1万円の利益が1日で出ます。日銀が無理やり国債 を買い続ければ、マイナス金利という「おまけ」をつけて買うこと になります。 わが国が2%のインフレにならない限り、日銀が国債の買いを増や すと、その分、政府の発行国債は減って、現金と当座預金に振り替 わります。 【まとめ】 以上のように、「日銀の負債である当座預金に振り替わる」という 意味では、T氏が言った「日銀が国債を買い増せば、政府の借金は 減ったようになる」というのは、間違いではない。 ▼しかし、インフレになると異なってくる このため、財政破産はありえないと言うのが、T氏とリフレ派です。 ところが日銀が国債を買い増しても、政府の財政破産はあり得るの です。それは、異次元緩和の目的であるインフレになったときです。 ↓ ●2%から3%くらいのインフレになると、日銀が買って金利ゼロの 当座預金になっていた国債は、再び、金利のつく国債に戻らねばな らなくなるからです。 といっても、分かりにくいでしょう。以下で説明します。今のとこ ろ、こうした論評は見当たりません。このためT氏が、「偽説を言 いまくっている」ように思えます。反論する人がいないからです。 ここで反論します。 ■3.異次元緩和から5年後の2018年に、インフレ率が2%を超え3% に上がったとします Question3: T氏は、日銀が国債を買えば、その分政府の負債は減るから、財政 破産はあり得ないと言っています。これは正しいでしょうか? 【答え】 端的に言って、誤りです。T氏の「偽説」は、異次元緩和が消費者 物価を2%上げるという目標を、2年遅れくらいで達成したとき、誰 の目にも明らかになります。 〔期待インフレ率と期待金利の関係〕 消費者物価の前年比での上昇が2%になることが定着してくると、 人々の期待インフレ率も、2%に向かって上がってきます。 期待インフレ率は、期待金利を上げるように働くのです。 〔理論的な期待金利=期待実質GDP上昇率+期待物価上昇率〕です。 2018年に、人々の予想が、 ・実質GDPは1%上がるだろう、 ・物価は2%上がるだろうという予想に変わっていくと、 理論的な期待金利が、〔1%+2%=3%付近〕に上がってきます。 〔米国のインフレ率と期待金利〕 例えば米国では、インフレ率は2010年が1.6%、2011年3.1%、 2013年が1.5%、2014年が1.6%でした(年平均)。2015年は、原油 価格の下落から、0.09%に下がっています(10月時点)。 http://ecodb.net/country/US/imf_inflation.html 対応する長期金利(10年債の利回り)は、2010年平均3%、2011年 2%、2013年3%、2014年2%付近です。長期金利と期待インフレ率 は、ほぼ比例しています。期待物価上昇率は、長期金利の原因にな るものです。 (注)現在の日本では、消費者物価上昇も0%、長期金利0.27%で す(15年12月)。消費税の増税後(14年4月~)の物価の上昇率の 低下ともに期待物価上昇率も下がり、同時に長期金利も0.50% (15年6月)から0.27%に下がっています。 日本の物価も、インフレ目標を達成して2%や3%上がるようになる と、期待金利も2%には上がります。 ▼期待金利が2%に上がったとき 2018年度末時点では、0.1%しか利回りがない日銀の当座預金に 487兆円も置いている金融機関は、期待金利が2%に上がった時、こ のまま置いておくことはできません。日銀から国債を買って、自行 が預けている当座預金を減らす必要が出てくるのです。銀行が預か る預金金利も上がり、資金需要が増えて貸出の金利も上がるからで す。 期待物価上昇が2%になると、日本も「流動性の罠」から脱出して、 米国のように「貨幣数量説」が復活します。 (注)貨幣数量説とは、〔M(マネーサプライ量)×V(流通速度) =P(物価水準)×T(実質GDP)〕です。インフレになって金利が、 ゼロを脱すると、このように、マネーサプライの増加が、物価と GDPを上げるようになります。これが貨幣数量説の復活です。 【日銀が買って来た国債を、金融機関に売り戻すことが出口政策】 このとき日銀は、 ・当座預金の金利を2%(期待金利)に上げるか、 ・国債を金融機関に売って、金利を上げることを迫られます。 つまり日銀は量的緩和を停止し、出口政策に向かわねばならない時 期に至るのです。 日銀が国債を売ると、国債は下落し利回りは上がります。そのとき の期待物価上昇率が2%付近なら、国債の利回りも2%近傍になるよ うに上がります。 この時は、日銀が金融機関に国債を売りますから、以下の、日銀が 100兆円の国債を売ったときの取引が行われます。 ■4.日銀が、保有国債を100兆円金融機関に売ったときのB/S 【日銀が、金融機関に国債を売り戻すときのB/S】 借方(資産) 貸方(負債) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 当座預金の減少 100兆円 国債売却 100兆円 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ これが、日銀が買ってきた国債を金融機関に100兆円売って、金融 機関が所有する当座預金から100兆円のマネーを吸収する取引です。 当座預金の残高が100兆円減ります。 これは「マネー量(当座預金)の引き締め」になります。増やして きたマネー量が減ると、利上げをしたかのように金利が上がります。 金利が上がれば、国債の流通価格は下がります。金利を下げて、国 債価格を上げてきた量的緩和の逆になるのが、出口政策です。 【金融機関がもつ国債が減っていた時】 日銀が異次元緩和で1年に80兆円も金融機関から国債を買いあげて いるときは、政府の新規国債の発行は35兆円/年くらいなので、金 融機関がもつ国債は、日銀が買いあげた分減ったように見えていま した。金融機関の保有国債は、1年に45兆円の割合で減っていたか らです。 以上が、T氏が「日銀が国債を買いあげると、政府の国債発行は、 日銀と連結した『統合政府』で見れば減ったようになる」と言って いることの正体です。実際には、政府の国債発行は減っていません。 政府部門と見ることができる日銀の保有が増えて、金融機関の保有 が減っていただけです。 ▼(日銀以外の)金融機関がもつ国債が、再び増えるとき 物価が上がり、期待金利が上がってくると、日銀は、「出口政策」 をとらねばならなくなります。出口政策をとらないとインフレが昂 進し、ますます市場の期待金利は上って、円も下落し、国債の流通 価格が下落するからです。 出口政策とは、上記の振替伝票(日銀が国債を売るときのB/S)で 示したように、日銀が金融機関から買いあげてきた国債を売って、 当座預金を減らすことです。このとき、日銀が金融機関に国債を売 った分、金融機関の保有国債は増えます。国債という政府負債は、 日銀の増加保有によって減っていたわけではなかったからです。 日銀が売らねばならなくなったときは、金融機関の保有になって、 減っていた分がまた増えます。日銀の、大きくなった保有国債の売 りとともに市場の期待金利は一層上がり、国債の流通価格は大きく 下がるでしょう。(注)これが財政破産の引き金を引くことになり ます。 【まとめ】 T氏が言う、「日銀が国債を買いあげれば、国債は減る」というこ とは、正確には「日銀が国債を買いあげれば、日銀以外がもつ国債 は減る」ということです。 日銀による、低い金利の国債を高い価格での買いあげることが増え るから、金融機関の国債保有が減るのです。繰り返し言えば、政府 の発行国債が、実際に減っていたわけではありません。 【偽説である】 T氏は、日銀が出口政策では国債を売らねばならないことを無視し、 「日銀が国債を買い上げれば、国債は減る」という偽説を言ってい ます。T氏から偽説を言われて、反論できないエコニミストは、情 けなく思えますね。 ■5.宿題:インフレ目標を達成しても、日銀が出口政策をとらない と、どうどうなるか Q4:日銀が「出口政策」をとると、金利が上がって国債価格が下が るなら、「永久に」国債を買い続ける異次元緩和を続ければいいの ではないでしょうか。日銀が国債の全部を買いあげると、どうなる のでしょう。 【答え】 この答えは、あなたも考えてみてください。一旦、ここで送ります。 次号を送るまえに、どんな答えが準備されているでしょうか。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述のとき、より的確に書く参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、多くの希望がある共通のものは記事に反映 させるよう努めます。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ■1.有料版のご購読の案内 新年にちなみ、毎週、質の高い論を展開する有料版はいかがでしょ う。 (↓)毎週水曜日に送信され、料金は月間648円(税込み)です。 http://www.mag2.com/m/P0000018.html ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <793号:完結編:チェーン・ストア理論の再考と展開> 2015年10月14日:有料版 【目次】 1.誤ったチェーン・ストア否定論 2.否定論の詳細な検討 3.次は、地域によって、売れるもの、売れないものに大きな差が出 るようになってきたということについてです。 4.チェーン・ストアは、商品本部が、品揃えの標準化と言いつつ、 地域需要にかかわりなく、店舗の品揃えを共通化しているというこ とについて。 5.1990年代のデマンド・チェーンという革命 6.店舗の品揃えと発注は、現場である個店から行う個店経営に回帰 すべきであるということについて。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <794号:これからの不動産> 2015年10月21日:有料版 【目次】 1.われわれは、平均でどれくらいの資産を持っているのか 2.今後の住宅需要数 3.個人的な体験 4.過去の市街地価格の推移 5.これからの全国の人口と予想地価:2015年から2040年まで 【後記】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~~~ ◎登録、解除は、ご自分でお願いします。 (まぐまぐ有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (まぐまぐ無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html 【↓まぐまぐ会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ■2.「まぐまぐの有料版を解約していないのに、月初から届かな くなった。」との問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんど の原因は、クレジットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報は、まぐまぐの『マイページ ログイン』の画面を 開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして出てき たマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジットカード を新しいものに変更できる仕組みです。クレジットカードの変更、 送信メールアドレスの変更、パスワードの変更などに使ってくださ い (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 ↓わからないときの問い合わせ先: reader_yuryo@mag2.com 回答が来る時間は、休日を除く、午前10時から午後5時です。 【お知らせ】 新しいメルマガ配信サイトの『フーミー:Foomi』からなら、 (1)銀行振り込み、(2)携帯キャリア決済、(3)コンビニ決済 で、有料版の購読ができます。 クレジットカードの登録がイヤな 方はご利用ください(↓) http://foomii.com/00023 ◎このメルマガに返信すると発行者さんにメッセージを届けられます ※発行者さんに届く内容は、メッセージ、メールアドレスです ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 のバックナンバー・配信停止はこちら ⇒ http://archives.mag2.com/0000048497/index.html |