政府のリフレ政策は、失敗したのか(1)
Written by admin on 2014年12月23日 – 12:00
こんにちは、吉田繁治です。自民党が政権に復帰し2年が経ち、先 の総選挙では、連立で2/3以上をとる大勝をしています。 安倍政権で企画され、実行されている金融と経済政策で、もっとも 重要なものは、インフレ2%の達成を目標にした日銀の量的緩和で しょう。 本稿では、<Vol.318:リフレ政策は失敗したのか(1)>として、 政府・日銀がとっている金融・経済政策について、その根底の部分 を検討します。 結果は、リフレ政策は、日本経済の実情に叶ったものではなかった ということでした。 明日は早くも、クリスマスイブです。読者の方々は、どんな計画で しょうか。無料版をお届けします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.318:リフレ政策は、失敗したのか(1)> 無料版:2014年12月23日号 【目次(1)】 (1)非伝統的政策だった (2)インフレ目標2%達成のための、異次元緩和 (3)ゼロ金利という制約 (4)実質金利という考え 本稿(1)はここまでです。次稿の目次は以下です。 【目次(2)】 (5)リフレーション論は真説かどうか (6)実質金利の例 (7)インフレターゲット2% (8)もっとも最近の物価上昇は、マイナス0.3% (9)後記:人口構造 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼(1)なぜ、非伝統的政策と言うのか 金融においては、中央銀が国債の売買(オペレーション)を通じて 公定歩合も変え、市場の金利を調節する政策が伝統的です。これは 過去、何回も行ってきたことです。 量的緩和つまり日銀が金融機関のもつ国債を大量に買い上げ、マ ネーを大きく増加させる政策は、世界の中央銀行がとったことがな い政策です。このため、柔らかい表現ですが、「非伝統的政策」と 言われます。強く言えば、マネー増発策です。 (注)日銀が増やすことができるマネーは、現金と日銀当座預金の マネー、つまりマネタリー・ベースと呼ばれるものです。直接に、 企業と世帯の預金(マネー・ストックという)を増加させることは できません。マネー・ストックは、銀行が、企業と世帯に貸し付け を増やす経路でしか増えません。 マイナス金利はないので、1997年からのようなゼロ金利のときは、 伝統的な方法は効果がない。短期の金利がゼロのときは、金利をマ イナスに下げることができないため、金融政策は効果を生まない。 【量的緩和】 このため、量的な緩和を行う。中央銀行が国債を買い切って増加保 有する。これによって、マネタリー・ベースを大きく増やすことが、 非伝統的と呼ばれる金融策です。 小泉内閣のとき、2001年3月から2006年3月に、日銀が行った量的緩 和(約50兆円)が、非伝統的政策として世界最初のものでした。日 本は、1990年以降のバブル経済の崩壊以後、1997年からのゼロ金利、 2001年からの量的緩和と、戦後世界で初めての金融政策をとってい ます。 リーマン危機(世界金融危機)の直後から米国FRBが実行したQE1 (量的緩和第一弾)は、2001年の日銀が行った量的緩和を真似て、 規模を大きくしたものでした。米国と欧州もリーマン危機のあと、 量的緩和の政策をとっています。 ▼(2)インフレ目標2%達成のための、異次元緩和 民主党に代わった安倍政権は、デフレを我が国経済の最大の問題と 考え、もっとも重要な政策として、「2年をメドとして、2%のイン フレ目標を達成する」と断言しました(13年4月)。 この政策のため、日銀の副総裁に任命された岩田紀久男氏は、「異 次元の量的緩和(1年70兆円)」によって、2年をめどにインフレ目 標2%が達成できなければ、辞任するとも言っていました。 (注)1年8か月が経った2014年11月、東京都の消費者物価(コア・ コア)は、消費税の影響を除くと、マイナス0.3%です。増税後の 需要縮小により、再び、物価が下がるデフレに戻っています。 各地での講演後の記者会見で、就任のときの言明を問われると、 「いや、まだ説明責任があるので・・・。」と、意味不明な答弁が されています(新聞は報じませんが)。 現在は、量的緩和が成果(インフレ率2%)を上げるには、波及の 期間が必要で、2年ではなく数年かかるだろうとも、言い直してい ます。 【13年4月からの異次元緩和に加え、 14年11月からは追加緩和】 インフレ目標の達成を目標に、日銀は金融機関のもつ国債を70兆円 規模で買い上げる。それによって、人々の「期待インフレ率」を上 げて「実質金利」を下げる。この「期待インフレ率」が、肝心なも のです。 異次元緩和を強化する2014年10月末の追加緩和では、日銀が国債を 買い上げて、増加保有する金額枠は、80兆円に上げられています。 【期待インフレ率を高める】 名目金利は、ゼロが下限です。マイナスに下げることはできない。 しかし、人々が抱く期待インフレ率を2%に上げることができれば、 その期待インフレ率を引いた「実質金利」はマイナスにできる。 実質金利がマイナスになると、借りた人が実質的に負担する金利が マイナスだから、 ・企業の設備投資が増え、 ・世帯の住宅と商品の需要も増加し、経済は浮揚するということで す。これが、量的緩和の目的です。 実質金利がマイナス2%なら、100億円を借りて投資することは、政 府から1年に2%(2億円)の補助金を受けたかのような利益になる からです。 経済の浮揚とは、GDPの増加です。 本稿は、問題の焦点である実質金利をめぐっての検討です。 ▼(3)名目金利の、ゼロ金利以下はないという制約 銀行預金の金利は名目金利です。この名目金利を、預金管理料をと るなどをして、マイナス1%にすれば、100万円の預金が1年後には9 9万円に減ります。 1%のマイナス金利なら、当座の決済用はともかく、貯蓄としての 預金をする人はいなくなって、世帯も企業も貯蓄分を引きだして、 減らない現金のままでタンス預金にするでしょう。(注)1%の預 金課税をしても、金利はマイナス1%になります。 銀行から預金が大きく引き出されれば、預金を貸している金融シス テムそのものが崩壊します。マネーがなくなった銀行は、債券を売 り、融資を回収することになるからです。結果は、マネーが実体経 済からも抜けて、血液が不足した人体のようになります。 このため、仮に0.01%であっても、預金金利はプラスにしておかね ばならない。これが短期ゼロ金利策です。名目金利はマイナスには できないのです。 【流動性の罠(わな)】 経済学では、以上のことを「ゼロ金利制約」と言っています。 名目金利を、0%以下に下げる金融政策がないからです。 名目金利(短期金利)がゼロになった経済を、ケインズは、「流動 性の罠(わな)」に陥った経済と言っていました。現金が、ゼロ金 利という罠にかかったように、現金のまま滞留する経済になるから です。 日本経済は、3%だった消費税を2%上げた1997年ころ(橋本内閣の 時代)から、短期金利はゼロになり流動性の罠に陥っていました。 【ゼロ金利では、現金のまま置いておく、流動性選好が生じる】 預金金利がゼロで、物価が下がっているときは、流動性選好、つま り現金を蓄めて使わない傾向が生じる。人々と企業は、ゼロ金利で も、物価は下がると予想しているときは、預金を引き出してつかう ことをしない。このため、経済は不況になるというものです。 この状態に陥った不況は、名目金利を下げることによって浮揚させ ることはできない。ゼロ金利以下はないからだ、というのが、ケイ ンズが言った「流動性の罠(わな)」論でした。 日本の短期金利は、1997年にはゼロでした。経済を好況に向かわせ るための、伝統的な金融政策(利下げ策)がとれなくなっていたの です。金利では手段がないという状態です。 ▼(4)実質金利という考え 預金金利でもある「名目金利」は、マイナスにはできない。 しかし物価の期待上昇率を引いた「期待実質金利」は、マイナスに できる。 ●名目金利=実質金利+期待物価上昇率(フィッシャー方程式) これを移行すれば、 〔実質金利=名目金利-期待物価上昇率〕になります。 短期金利がゼロでも、名目の貸し出し金利は銀行の事務手数料がか かるから1%付近が下限かもしれない。 しかしここで、「人々が将来に対していだく期待物価上昇率」が、 2%あるなら、上記のフィシャー方程式から、〔実質金利=名目金 利1%-期待物価上昇率2%=-1%〕になります。 【期待物価上昇率を上げる】 貸出しの名目長期金利は1%付近が下限です。しかし金利と物価の 両面から見た実質金利では、マイナスの金利を実現できる。 実質金利こそが、実際に負担する金利です。 この実質金利をマイナスにするには、物価を上げればいい。物価の 上昇から、人々が物価は今後も上がり続けると期待(予想)を抱け ばいい。 このため日銀は何が何でも、脱デフレを果たすための量的緩和を行 う。つまり下がっていた物価を上げると強く宣言する。同時に、日 銀はマネーの量的緩和を行って、需要を増やし、物価を上げる策を とる。 日銀が、国債を買って、現金と、銀行が預ける日銀当座預金からな る「マネタリー・ベース」を増やせば、人々が将来の物価が上がる というインフレ期待を抱くのかどうか。ここは、実は、実証された ことがないのです。量的緩和そのものが、稀な政策であり、その結 果は検証されていないからです。現在はまだ、リフレ派の机上論で す。 2014年12月10日時点で、日銀が発行した通貨量(マネタリー・ベー ス)は、予定通り2年間で120兆円(12年11月末)から255兆円(14 年12月10日)へと、2.1倍に増えています。 しかし・・・これによって、将来の物価が、人々の期待(予想)が 生まれたかどうか。(注)このときの期待物インフレ率では、増税 による物価上昇(2.1%)は一時的なので、除外します。 実際には、この2年間では、2%のインフレ期待は生まれていません。 (日銀の貸借対照表の発行銀行券が88兆円、当座預金が167兆円で、 合計は225兆円です↓) https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2014/ac141210.htm/ 【期待インフレ率が高まったときの、企業の行動】 物価が上がるようになって、人々が抱く期待物価上昇率が2%にな り、実質金利をマイナスにできれば、企業はマイナスになった銀行 借り入れを行い、設備投資をするだろう。 【世帯の行動】 世帯も、ローンを組んで住宅を買い、価格が上がらないうちにと商 品需要も増やすだろう。物価が上がるようになると、消費税を上げ る前のような、前倒し需要も生じます。金利ゼロの貯蓄からは、商 品購買に振り向けるからです。 (1)企業の設備投資の増加、 (2)世帯の住宅購入、 (3)世帯の商品も購買が増えることで需要が増え、需要が供給力 を上回るようになると、物価が上がり続ける経済になります。 量的緩和の狙いは、この、潜在成長率を上回る需要の増加だったの です。 【期待物価上昇率が2%なら・・・実質金利はマイナスになる】 世帯も来年の物価は2%上がると予想するようになったとします (これが期待物価上昇率2%)。 預金金利はゼロで、預金の1000円は来年も1000円です。しかし物価 は2%上がる予想になっています。つまり、今は1000円のものが、 来年には1020円に上がるだろうということです。 物価が今後2%上がるなら、金利ゼロの預金を積み増すより、物価 が1000円のうちに買ったほうがいいと考える世帯が増えるでしょう。 そして、消費税で物価が上がる前のような投資と商品購買の増加が 起こるでしょう。低い金利のローンで、商品を買う人も増えます。 期待インフレ率を高め、実質金利をマイナスにすれば、 ・企業は設備投資を増やし、 ・世帯も、金利が低いローンでの住宅購入と、商品の買いものを増 やし、GDP(生産商品量=需要商品量)は成長する。 以上が、リフレ派の主張です。 本稿はここまでで送ります。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 3.疑問点、ご意見はありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ と記述のとき、より的確に書く参考になります。 気軽に送信してください。感想やご意見は、励みと参考にもなり、 うれしく読んでいます。時間の関係で、質問への返事や回答ができ ないときも全部を読み、共通のものは記事に反映させるよう努めま す。 【著者へのひとことメール、および読者アンケートの送信先】 yoshida@cool-knowledge.com ◎購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール → reader_yuryo@mag2.com ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ■1.有料版は、新規に登録すると『無料で読めるお試しセット』が 1ヶ月分送信されます。以下は、最近のものの、テーマと目次の項 目です。興味のある方は、ぜひ登録して購読してください。 ▼有料版の目次:2号分を掲載しました。 毎週、質の高い、本格的な論を展開する有料版は、いかがでしょう。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ <738号:ハロウィーン・プライズからの株価上昇> 2014年11月5日 【目次】 1.クルーグマンの診断と処方 2.金融危機からは脱したが、マネー・ストックが増えない日本 3.米国のマネー・ストック(M2)は、年率6.5%の増加を続けている 4.クルーグマンに戻ります。 5. 日銀がマネーを増発したことで、インフレ予想が生じたのかどうか? 6.黒田総裁は、2015年の物価展望(原案)を見て、あわてた 7.次は(2)インフレ期待が高まると、資産価格の上昇が起こる、 ということについて 8.資産価格が上昇すれば、消費と投資が刺激され、壊れた金融シス テムを回復するということの検討 9.最後の、金融システムが回復すれば、貸出が増え、経済は成長す るということについて ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ まぐまぐの有料版では、新規に月中のいつ申し込んでも、その月の 既発行分は全部を読むことができます。最初の1ヶ月間分は、無料 お試しセットです。その後の解除は自由です。継続した場合に、2 ヶ月目の分から、課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードをきめた後、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という3段階の手順です。 【↓まぐまぐ会員登録と解除の方法】 http://www.mag2.com/howtouse.html#regist ◎登録または解除は、ご自分でお願いします。 (まぐまぐ有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html (まぐまぐ無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html (以上) ■2.「まぐまぐの有料版を解約していないのに月初から届かなく なった。」との問い合わせが、当方にも多いのですが、ほとんどの 原因は、クレジットカードの「有効期限切れ」です。 なお、登録情報の変更は、まぐまぐの『マイページ ログイン』の 画面を開き、登録していた旧アドレスとパスワードでログインして 出てきたマイページで、メールアドレス、パスワード、クレジット カードを新しいものに変更できる仕組みです。クレジットカードの 変更、送信メールアドレスの変更、パスワードの変更などに使って ください (マイページ・ログイン↓) https://mypage.mag2.com/Welcome.do または↓ https://mypage.mag2.com/mypage/creditcard/CreditCardMenu.do 新しいカードと有効期限を登録すると、その月の届かなかった分を 含んで、再送されます。 【お知らせ】 新しいメルマガ配信サイトの『フーミー:Foomi』からなら、(1) 銀行振り込み、(2)ケータイキャリア決済、(3)コンビニ決済で、 有料版の購読ができます〔↓〕。 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