戦争の陰のマネーと経済の動き
Written by admin on 2022年4月3日 – 17:00
本稿は、有料版の日曜増刊として送ったものですが、無料版の読者の 方々にも、共通の内容を送ります。 * 劇場型の戦争は、TV、新聞、Youtube、SNSも含み英語圏の西側メディ アのものです。ウクライナ軍の反撃に遭って、ロシアが苦戦している ように見えます。 非英語圏(世界人口の60億人:75%)にはあるロシア・中国・中東・ インドの情報は、日本にはない。英語圏は、EUを含んで約11億人、世 界の25%の先進国です。後発国が多い非英語圏は、反米ドルの志向を もっています。 【戦争もインターネットの時代】 スマホの時代には、メタリック回線の敷設コストが高かった固定電話 の時代にはあった、近代化の普及率には差がない。ウクライナのイン ターネット普及率は70%、ロシア82%、南北アメリカは人口比で104 %です。人口14億人のインドは40%と低いのですが、人口では5.6億 人です(日本の5倍)。中国72%、韓国96%、日本94%です。 Google翻訳を使えば、英仏独だけでなくロシア・中東・中国の言語も 日本語化はできます。日本語は世界の1.5%です。98.5%は非日本語 です。CPUの速度が上がり、深層学型のAIの性能が飛躍的に向上する 2023年には、同時通訳の「音声での正確なリアルタイム通話」もでき るでしょう。 現在の同時通訳では不正確さが多く、反応は遅れます。 AIとインターネットによりドローンと無人兵器も含み、世界は音を立 てて変容しています。旧式の近代統計であるGDPだけでは、計れなく なったのです。今後は仮想空間のメタバースとか(労働、買い物、観 光環境を含む)。 シティバンクは1600兆円の新市場が誕生すると試算しています。メタ バースは、物理的世界とデジタル世界を、持続的かつ没入的に融合さ せる、次世代のインターネットと定義されています。アバタです。中 央銀行が発行するCBDCが通貨です。 戦争はハッキングになり、現在の地政学も変わります。5年後には相 当な普及という。すでに、古典的な現金の銀行強盗は不経済になって なくなり、現在は銀行と仮想通貨の瞬間ハッキングです(一度に数百 億円の略奪)。6000人のハッカーを養成した北朝鮮は先進国です。日 本企業の90%は、セキュリティ人材の不足を報告しています(米国で は不足をいう企業は12.9%という:NRI)。ハッキングとセキュリテ ィは、コインの裏表です。 スマホのインターネットは、10億台のPC(パソコン)のドッグイヤー から、30億台のスマホがもたらすラット(鼠)イヤーで、変化してい ます。いずれもiPadとスマホが主対象になっている音楽ストーミング のTIDALや映画のNETFLIXから、感じることです。 【情報メディアの変容】 新聞、TV、ペーパーワークの時代は、終わりました。仮想通貨もスマ ホの通貨です。iPadとスマホには、小学生低学年すら馴染んでいます。 昔、読み・書き・算盤、現代はスマホとiPad. 世界の遠隔学習でもiPadが使われています。医療の遠隔診療、会社の テレワークと同じように、学習での利用も、世界に遅れています。 【行政の遅れ】 日本では、行政のデジタル化で世界の潮流に遅れた政府が主導犯です。 官僚たちは、今日も、組織としてデジタル化に抵抗しています。書い た紙を回して決済をとるハンコ行政がなくなると、職が減るからでし ょうか。 保健所の新型コロナ集計のFAX(90年代までのツール)に驚いた人は 多い。このため、長時間労働でも集計の遅れが出ています。 FAXには早期になじんだ。デジタル化には遅れたのです。遅れた理由 は何か。1980年代後期世界1だったあと、資産バブル崩壊のあと、 90年代からの、集団意識での将来への希望のなさが、災いしたのかも しれない。所得とGDPは約30年、増えなかったからです。誇り高い英 国人の、経済の戦後に似ています。 【戦争】 ロシアのスケジュールでのウクライナ制圧は、できてはいない。兵士 の犠牲、兵器の被害は多いようで侵攻は遅滞。被害は、たぶんウクラ イナ軍と50:50でしょう。 首都キエフ(ウクライナ語でキーフ)制圧は、あきらめたように見え、 東部ドンバス地方とクリミア半島をつなぐマリウポリ(人口44万人の 工業都市)の制圧に、注力しています。マリウポリでは、国の盾(た て)となった住民の犠牲者が出ています(4000人という)。 ウクライナ兵は「ロシアは嘘を言う。いつまたキエフを攻めるか分か らない」という。戦争は、ニセ情報をぶつけ合う諜報戦でもあります。 ロシア兵には、少なからず、投降者も出ているという。1万4000人は さすがにフェイクでも、兵士数千人の犠牲者はいるのではないか。 家を破壊され、小さな包みをもち、子供を抱えて逃げる女性の悲惨な 姿がある。破壊的なミサイルでは、隕石が落ちたように建物と地面が 吹っ飛び、腕や脚は千切れ頭が飛ぶ。TVは、瓦礫の街は映しても、さ すがに犠牲者の映像は流さない。 【悪は必要とされてきた】 戦争はどんな大義があっても、行うことは不正義です。しかし人は繰 り返してきました。戦争が、人類の歴史でした。攻める側も守る側も 50年、80年と生きている間、反芻するのが戦争です。 近いことでは2011年3.11の大地震・津波と同じでしょう。近親の死の 記憶は、生涯消えない。並べるのは語弊があることは分かっています が、ペットロスの深刻さも、同じです。家族だった犬のことを、写真 があれば、ほぼ毎日話し合う。死児の齢を、数える。今日、ふと日付 を見ると4月3日は、優しかったその犬の誕生日です。 夫婦だけの小家族と単独世帯が60%の現代は、新型コロナで、世界の 人々の孤独な時間が増したのではないか。ペットロスの大きさから言 えることです。原稿には、孤独はいいのですが・・・ 【停戦の交渉】 傍(かたわ)らでは、トルコの首都イスタンブールでのエルドアン大 統領の仲介の停戦交渉が続いています。ウクライナは、ロシアの第一 の要求、「中立化」を受け入れた気配があります。 [停戦の条件(1)] 中立化とは、ウクライナが、今後、西側のNATOに加盟することはなく、 核兵器・ミサイルも開発または設置しないことです。 ロシアの要求のうち、中立化への合意は進んだようです(まだ、確定 ではない)。ロシアは、ゼレンスキー退任の要求はひっこめ、中立化 に譲歩しました。 [戦争の原因] 米軍は、2022年8月から12月の間に、ウクライナに核ミサイルを設置 する計画をもっていたという(ウクライナ前首相の言葉)。察知した プーチン大統領が、ウクライナ侵攻を2021年12月に決意したという。 ウクライナの中立化は、今回の戦争のロシア側にとって優先テーマで す。西側はこれを不当とするため、情報ではプロパガンダ合戦になる。 プロバガンダとは、特定のイデオロギー(思想・制度・行動)へ誘導 する意図をもったフェイクを含む情報です。 仮想的に高い位置から見ると、ロシアと西側双方はプロバガンダをぶ つけ合っています。米国に従属する日本は西側です。「プーチン独裁 の悪、精神異常、支持率の低さ」をいう。ウクライナの住民被害、ロ シア兵の残虐、兵器の損傷と死者そして戦費は過大に言い、ウクライ ナ人の愛国心を称揚する。 [停戦の条件(2)] 二番目の大きな要求、東部のドンバス地方(ルガンスク、ドネツク両 共和国:親ロシアの地帯)の独立の承認は、まだ、合意が得られてい ません。戦闘中の、拠点都市マリウポリの帰属でもまだ合意はない。 ロシアが要求しているロシア語の使用許可にも、合意はない。 ロシア軍の攻撃は、収まるかと思うと、しばらくして再開されていま す。ロジスティクスのための、一時休止だったのでしょう。兵士、兵 器と弾薬、ミサイル、戦車、物資、食料、装備品の補給は軍の命です。 西側メディアの伝えるところとは逆に、ロシアでのプーチンの支持は 83%、22年2月より12ポイント上がっているという(83%はオーバー であっても、過半数の支持はあるようです)。 【あと2か月で、経済的なロジスティクスの限度が来る】 停戦・終戦の気配は、まだ見えません。ただし、ロシアは戦線を拡大 したため、前線に兵士10万人規模が必要で、あと2か月の戦闘の継続 には、ムリが来るでしょう。 遅くとも、22年4月末か5月には停戦せざるを得ない。プーチンは、途 中で要求を弱め、妥協するでしょう。その前に、有利な停戦条件を引 き出すための攻撃が行われています。 生物兵器や核戦争の懸念がいわれますが「そこまでは行かない」。 今回の、核を使わない限定戦では、使った方が負けるからです。世界 世論、国内世論が一転するからです。中国・インドも反対せざるを得 ない。核戦争を煽るのは、ゼレンスキーの戦略の一部かもしれない。 小型の戦術核であっても、大型の核ミサイルと同じように、「使うぞ と見せるギリギリの威嚇」のとき、有効な兵器になるものです。 【歴史的な事例:キューバ危機】 60年前「キューバ危機」がありました。核戦争の寸前で、回避された ものです。なぜ避けることができたのか。米ソ間で50:50の妥協があ ったからです。密約といわれたことの、コア部分を示します。 ソ連が、キューバに核ミサイルの基地を作ったとき、ケネディはロジ スティクス戦争として海上封鎖を発動し、ソ連の戦艦を引き下がらせ ました(1962年:キューバ危機)。 核ミサイルが配備されると、至近のワシントンは、喉元に刀を突き付 けられる状態になり、米国の政治もソ連に屈服するからです。日本の 米国への政治的な従属は、日米安全保障条約からきています。 敵国の、より至近への核ミサイルの配備は、国民を人質にすることと 同じです。日本には、中国、北朝鮮、ロシアに対して核ももちこんで いる基地があります。 キューバ危機は、なぜ米ソ核戦争には至らなかったのか? フルシチ ョフの書簡での提案を、ケネディが受け入れ、トルコからの核ミサイ ル撤去を約束して、「50:50」で妥協したからです(これが、今も密 約とされています)これは、核爆弾による人質からの解放でした。 以下、その書簡の抜粋です。 [両首脳が交わした密約の内容] 「・・・わたし(フルシチョフ)は、次の提案をします。われわれは、 あなたが攻撃的兵器とみなしている兵器(核ミサイル)をキューバか ら撤去することに、同意します。われわれは、それを実行し、責任を 負うことについて、国運で声明することに同意します。 あなたがたの側(ケネディ側の米国)では、アメリカがソビエト国家 の心配と懸念を考慮して、(ソ連と国境を接する)トルコから同様な 兵器(秘密に設置した米国の核ミサイル)を引き揚げるという声明を することになります。 これを実行するため、あなたがたにとって、またわれわれにとって、 いつがよいかについて、話し合おうではありませんか・・・(フルシ チョフからの、ケネディ宛の書簡)」 (東京大学教授:田中明彦氏のデータベース) https://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/docs/19621027.O1J.html 今回は米国が、2021年12月に、ウクライナには核兵器は置かないと宣 言すれば、戦争は起こらなかったでしょう。 米国の軍産共同体は、裏で2022年8月から12月の間に、ウクライナに 米国の核兵器を置くという計画をもっていました。プーチンは21年の 12月に察知したという(ウクライナの元首相の弁)。 ウクライナ戦争の、直接の引き金になったことがこれです。 主客を逆にすれば、キューバ危機との類似性があります。 戦後の80年、実戦では核を使わない抑止力は大国間の戦争を防ぐ仕組 みでした。核をもつ5大国、米国、ソ連、中国、英国、フランスは、 核の保有を他国には禁じていたのです。 【核の抑止力が有効だった古典的な戦争と、無効な現代戦】 体制が異なるインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮が核をもち、 加えて2010年ころから、AIやハイブリッドの兵器が、「限定戦」に使 われるようになって、核の抑止力が無効になってきたのです。 (1)優劣はあっても、双方がもつ情報ハッキングの手段、 (2)ピンポイントのターゲットを狙ってはずさないAIを搭載した小 型短距離ミサイル、 (3)ドローン爆弾と無人機がそれです。 兵器は、戦争の形態を変えます。戦争はもっとも早く現代化されます。 宗主国の英国からの独立戦争(1783年)以来239年、米国は、2.5年に 1回の割で戦争を続けています。最も戦争の多い国家です。 5大国間の、古典的な核の抑止力は、無力になったことが、今回のロ シアのウクライナ侵攻で証明されました。 バイデンが、早々と、(1)米軍は参戦しない、(2)核戦争にはなら ないと宣言したことは、ロシアへの、意図しない応援歌になったよう です。重要なところで、一言二言の失言癖があることが、今回も露呈 されました。米国スタッフは、この発言の修正に躍起です。 その代わりとして、米国がとったのは、ロシアの国際金融と輸出入の 経済の封鎖でした。プーチンが事前に、想定していたかどうか不明で す。対応策を、相当前から準備していたのは事実でしょう。思いつき では、以降に示す矢継ぎ早やの対策はとれない。 【プーチンの対応策】 (1)金の付加価値税20%を廃止し、国民に1グラム5000ルーブルで売 る。 国際送金網SWIFTから排除後、急落していた1ルーブルは、現在1. 43円に回復しているので1グラム=7250円です(日本では10%の消費 税を含む小売店頭価格が8400円付近)。 ロシア中央銀行は証券会社を通じて、金1グラム当たり5000ルーブル で3か月調達する契約を、結んでいます。 (2)中国人民元の国際送金網CIPSでの、貿易代金の送受金と、原 油・天然ガスの中国輸出。 (3)インドへの原油の、格安の契約(普通は1年間)の輸出契約。 (4)西側の非友好国(経済制裁への参加国、日本も含む)に対して は、原油・天然ガス(LNG)は、ルーブルで売らない。つまり、「原 油・LNGのルーブルリンク制」の発動。「(国際)コモディティ・リ ンク通貨制」としても同じです。 輸入する西側は、原油・LNGのロシアからの買いには、「ユーロ・ ドル売り/ルーブル買い」を行わねばならない。 (5)2005年から集めてきたロシア財務省の金保有1万2000トン。これ はIMFの中央銀行を対象にした統計には出ていない。ロシア財務省が もつからです。なお、中国政府は2万トンの金をもつと推計されてい ます。(注)米国が1944年から71年の「金・ドルリンク制」でFRBの 金庫に準備した金は2万6000トンでした。 「原油・LNGのルーブルリンク制」の発動で、ドイツと西欧からは、 「ルーブル買い/ユーロ売り」が起こり、SWIFTからの排除で0.88円に 暴落していたルーブルは(3月13日:-40%)、一挙に1.43円に上昇し、 排除前の2月の水準に反騰しています。 プーチンは、「原油・LNGのルーブルリンク制」の発動により、 SWIFT排除からのロシア経済への悪い影響を消したのです。手腕はハ イレベルなものです。 国際金融や基軸通貨に詳しい人であっても思いつかない。ドイツと西 欧は、ロシアから原油・LNGの輸入を必要としているからです。 とりわけ、近現代の生活と産業に必須の発電に、安定的に使わねばな らないLNGは、長期契約の対象であり、長大なパイプラインが必要で す。 輸入先の転換には、約5年はかかるからです。ロシアから、はいらな くなったからと別の国から調達できるものは、「スポット買いの少 量」であり、LNG船で運び、巨大な備蓄タンクが要ります。いずれに せよ、量と安定に限界があります。 「原油・LNGのルーブルリンク制」については、1973年からの、ニク ソン・キッシンジャーが敷いた「ペトロ・ダラー制」と対照して本文 で、この意味を詳述します。 (注)「ペトロ・ダラー制」は、1971年の、金ドル交換停止後、現在 まで続くドル基軸体制です。米国が敷いた米ドルで、産油国の原油を 買わせる制度です。これが1973年以降の、「変動相場制」でのドルの 通貨価値の根拠になったのです。 1944年~71年の「ブレトンウッズ制」では、金と交換できるドルが基 軸通貨であることの根拠になっていました。ところが、ベトナム戦争 の戦、費としてドルが増刷され、海外(ドイツ・フランス)からの交 換の要求が増えて、金が枯渇した米国FRBは、1971年に「金・ドル交 換停止」を一方的に発令したのです。 その後の、ドルの下落を防ぐ仕組みが、ニクソンとキッシンジャーが 敷いた1973年以降の「ペトロ・ダラー制」でした(ここは歴史の闇に なっています)。この時期に、「第一石油危機」として、中東産が主 の原油は、2ドルから15ドルまで7.5倍に上がっています。物価も高騰 しました。 増発が続くと、1単位の価値(商品購買力)が下がっていくフィアッ トマネーは、根拠と想定できる物的な資産がないと、世界の78億人が、 遍(あまね)く信用される基軸通貨にはならない。日常の「通貨の思 考」にはない観点が、これです。 いや・・・中央銀行が発行している通貨の根拠など、考えたことがな い人が99.9%以上でしょう。毎日使っていても、通貨を考える手段も 概念も、日常の生活にはない。 1万円札は日銀の決済期限のない小切手です。「日本銀行券」と書か れています。資産の裏付けと、決済期限のない「クレジットカード」 をもつのが、日銀と銀行です。日銀と銀行の負債の増加(=B/Sの拡 大)として、いくらでも使えます。これがフィアットマネーです。 ところが、注意して見ると、1000円札には「国立印刷局製造」と書か れています。理由は、1000円札は100円玉と同じように、1万円札の補 助通貨だからです。1万円札が円です。 こうした意味からも、この段での、プーチンの「原油・LNGのルーブ ルリンク制」の発動は、天才的です。 戦争は、文句なく非難すべきものです。しかし、プーチンの通貨面で の対応は、ロシア国民のためには巧妙です。 西側のメディアと多くのエコノミストは、西側からのロシアの金融・ 経済封鎖により、ロシアは経済的な困窮に陥り、産油国ではあっても、 ベネズエラ並みの経済に低下するとしています。 正しい見通しでしょうか? 根拠は、SWIFTから排除されたルーブル の暴落でした。ルーブルの下落で、ひどいインフレ(30%以上)にな って、ロシア経済はGDPが収縮するという。 しかし(1)「原油・LNGのルーブルリンク制」と、(2)中国・イン ドとの輸出入の約束から、一瞬で回復したルーブルレートを見ると、 違う側面が、見えてきます。 ロシア原産の原油・LNGの安定調達のためには、ルーブルを買わねば ならなくなった西側世界にとっては、困ることです。 日量約500万バーレルのロシアの原油輸出は、他の産油国や、アメリ カのシェールガスで補うには大きすぎ、補えない。エネルギー・資 源・穀物の輸出入では、お金を払う西側より、必需な資源を輸入しな ければならない西側が弱い。 電力のために40%の、発電用LNGをロシアからのパイプラインで輸入 しているドイツが、もっとも弱い。ロシアのLNGが来ないと、ブラッ クアウトの長期停電になって、社会と経済は止まるからです。 (注)原油輸出の1位はサウジ688万バーレル、2位ロシア472万バーレ ル、3位イラン445万バーレルです。 ・天然ガス(LNG)の輸出では1位ロシア(330億ドル)、2位カタール (205億ドル)、3位米国(187億ドル)です。 ・日本では、豪州、マレーシア、カタール、ロシアが4大輸入国です。 今回、サウジとイランはロシア側についていて、増産を渋っています。 西側の増産要請には、素直には応じていない。埋蔵量は世界1という ベネズエラには、増産の余力がない。原油価格は、更に上がっていく でしょう。 原油が上がると「原油・LNGリンク」のルーブルも上がります。通貨 が上がると、中央銀行は金利を下げることができ、景気は上昇します。 米国にいじめられてきた歴史しかない近代中東の産油国は、根で「反 ドル」の志向をもっています。 こうしたことから、米国民主党とともに左に寄ってしまったメディア の言論とは逆に「ロシアの経済が縮小する」とは、想定できない。 むしろロシアが輸出するエネルギー・資源・穀物が高騰する西側がイ ンフレで困る。 2022年度の欧州のインフレ予想は、7.1%と石油危機並みに高い (ECB:クリスティーヌ・ラガルド総裁)。22年2月の米国のCPIは、 前年比7.9%でした。 西側の金利は、22年3月から、短くても2023年央までの1年6か月、毎 月、上がっていく長期トレンドをとります(確定的です)。 金利が上がると景気は低下します。リーマン危機の2008年以来、日米 通貨の増発(2200兆円の中央銀行B/Sの拡大:FRB+ECB+日銀)により、 負債(政府+企業+世帯)がGDPの3倍に膨らんでいるので、インフレに よる負債の金利に上昇は、今回は、リーマン危機を超える、破壊的な 結果をもたらすでしょう。 今回のインフレは、経済外の、2020年からの新型コロナ、2022年のウ クライナ戦争で起こったものです。1%の金利が3ポイント上がっても、 負債の利払い額は4倍になります。 リーマン危機のあと、ゼロ金利~低金利が13年続き、永遠のようにも 思え、政府・企業・世帯は、利払いの限界を超えて負債を増やす「ゼ ロ金利シンドローム」にかかっていたからです。 商品の生産コストが低かった中国を先頭にした、後発国への工場投資 からの撤退(カントリーリスク)の始まりも、2023年から、先進国の物 価上昇の要素として、加わってきます。これはもう始まっています。 日本の企業では、中国からの撤収が検討され始めています。これは国 内の物価を上げる要素になっていきます。ユニクロやニトリがPBの中 国生産を減らしたあとを考えれば、すぐわかることです(両社がやめ る検討をしているということではありません。あくまで想定事例) 部品・資材とエネルギー・資源の高騰が火をつけたコストプッシュ型 インフレは、長期化します。第一次石油危機のように、10年続くとい う予想も出てきました。GDPの3倍の負債のなかで、金利は、必然的に 上がっていくでしょう。 長期インフレに呼応して、金利が上がると、日米欧の、増えた負債の 負担は高まります。2023年からの破産と不良債権は膨大なものになっ ていくでしょう。これは、バブル崩壊を超える資産の劣化になります。 (注)インフレで金利が上がる金融の原理は、前原稿に書いています。 ウクライナ・ロシアの悲惨な戦争の陰で、ルーブルの原油・LNGリン ク制は、準備されていたことのひとつでしょう。 【戦後の歴史の転換点に、われわれは立ち合う】 この戦争がどんな形で終結しても、新型コロナに加わった新型兵器の ウクライナ戦争は、歴史の転換点になっていくでしょう。 日本にとっては、応仁の乱、明治維新、第二次世界大戦後の転換期に 類似します。通貨の根拠からいえば、大袈裟な言い方ではない。 兵器は暴力的な殺傷と略奪の手段です。通貨は平和的な商品購買の武 器です。人は自分が生きるため、時折は戦争という略奪を、平和な時 期は、商品購買を行ってきました。 テクノロジーがもたらす歴史の転換点では、通貨の変更が伴ってきま した。本来の歴史には、歴史家が重んじない「兵器と体制を作る通貨 の歴史」が書き加えられなければならない(新兵器の製造は戦争準備 行為です)。人間は古来、変わらない。テクノロジー、兵器、通貨と 制度は、変わります。 1992年のソ連の崩壊は、1980年代の政府通貨ルーブルの、根拠が薄い 増発が、物価が年率30%以上上がり続けるハイパー・インフレを引き 起こし、国民が公務員だった報酬と年金の無効化から起こったもので す。1980年代の30%のインフレの10年で、1ルーブルの実質価値は1/ 14に下落していました。給料と年金が1/14になれば、国民は反乱を起 こすのが当然です。 ソ連という国家(制度)の崩壊は、戦争からではなかった。 ルーブルの価値の暴落からでした。通貨の崩壊は、体制を壊します。 こうしたマネーの歴史も、西側の世界史の教科書には、ありません。 代わりに、米国の軍事力に、ソ連が負けたとされています(これは 嘘)。軍事力で負けるのは、テクノロジーと通貨(ルーブル)の価値 下落の結果です。政府は兵士の俸給が払えず、最新の高度兵器が装備 できなくなるからです。 【不十分な、歴史の教科書】 世界史の教科書は、歴史の表面の、テクノロジーとマネー価値の結果 としての現象と、政府と要人の行動しか描きません。過去の文書を解 読し再構成した歴史書には、金融と経済面が欠落しています。 1980年代後期からの、ソ連のハイパー・インフレとルーブルの価値の 無効化を示す書物は、探してもない。部分的な統計が残っているだけ です。 日本では、第二次世界大戦中の経済、金融統計も消えています。経済 と政府は、戦前と戦後が、不連続につながっています(時折、探しま すが・・・)。敗戦が決まったとき、戦争犯罪者になることを恐れた 官僚と軍人が、至る所で行政文書を焼却したからです。 小さな問題ではあった「桜を見る会」のとき、シュレダーで書類を細 断して、山口選挙区の招待者の証拠を消した官僚と同じです。喜劇漫 画のような風景ですが、関係者は慌てて先を争って、黙々と実行して いました。 喜劇はコメディアンが行うものですが、命令者は内閣府でした。政治 資金の記録のあるハードディスクを、起訴の前、ハンマーとドライ バーで壊した政治家と同じ行為です。卑怯な行為は、官僚と政治家に は、普通のことなのでしょう。 以降は、4月6日に送る本文の目次予定です。恐縮に存じますが、水曜 日発行の有料版の正刊とします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.1222:正刊:戦争の陰のマネーと経済の動き(2)> 2022年4月6日:有料版 【目次の予定】 ■1. 現在の通貨の状況 ■2. インフレと金利 ■3. ドル基軸通貨の小史(1)ブレトンウッズ体制 ■4.(2)ペトロ・ダラー制(1973年~現代) ■5.(3)フィアット・マネー(1971~現代)の本質 ■6. 仮想通貨 CBDCの動き ■7. コモディティ・リンクは、金準備制と同じ意味をもつ ■8. 綻(ほころ)んできた、ペトロ・ダラー制 ■9. トランプの復活と先進国通貨の、同時リセットの可能性 ■10. 万一、通貨リセットが行われるとどうなるのか(想定研究) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源無料版:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 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