基軸通貨と金:その歴史的展開と予想(5)
This is my site Written by admin on 2018年9月28日 – 17:00
2か月くらい前から、有料版のプロローグ部から8ページ分くらいを
送っています。今回送るのは、<金と基軸通貨>のシリーズ、全5
回の完結編です。

現在は35兆ドル(3850兆円)の米国の対外債務が、トランプ減税
(10年で15兆ドル)と、ベビーブーマーの公的年金と医療費の増加
のため、40兆ドル(4400兆円:GDPの2倍)に達する前後に、そのと
きは最低でも4%くらいになる対外負債の金利(1.6兆ドル:176兆
円/年)が、対外負債を膨らませて行く臨界点に達します。

年度では2022年から23年です。大きく下落する通貨は、基軸通貨た
ちえない。その時期を迎えのるが、ほぼ確実です。完結編では、そ
うした近未来を、数値的な根拠とともに、描いています。

            *

トランプ大統領が、対米経常収支の黒字国、とりわけ中国に対して、
課徴金または罰金のような輸入関税を課しました。

【米国の対中国の貿易赤字は41兆円】
中国の対米輸出は、5050億ドル(55兆円)です。一方で、米国から
中国への輸出は1300億ドル(14兆円)です。差し引き3750億ドル
(41兆円)という、米国の巨大赤字です(2017年)。

反対が、中国の巨大黒字であり、対米輸出黒字は、中国経済の高い
成長を支えてきました。輸出はGDPのプラス要素ですが、輸入はマ
イナス要素だからです。

輸入課徴金は、中国からの2500億ドルの輸出品目に対し、2017年は
10%、2018年は25%です。しかも2019年には、全品目の中国からの
輸入(5050億ドル:55兆円)に対して、関税をかける目論見があり
ます。

【外資企業の輸出が50%】
日本資本の工場が中国で生産した電子商品の輸出が含まれ、アップ
ルなどの電子企業が中国の委託工場で作った商品が含まれます。

世界で55兆円の商品を売るウォルマートの、食品以外の商品は、多
くが、中国とアジアからの輸入です。20世紀末から、世界の企業は、
生産地をコスト最適地に移す「グローバル化」を行っています。

GDPは、その国の、国内総生産です。外資100%の会社が生産しても、
その国のGDPになります。雇用されるのは、現地の中国人であり、
人件費の多くが中国人の所得になるからです。

中国の輸出の50%は、日本、欧州、米国、台湾の外資系企業が生産
したものです。中国の総輸出は2.1兆ドル(231兆円:2017年)と巨
大です。

このうち、115兆円くらいが外資企業からの輸出。なお、貿易とは
別に、米国企業が中国につくった工場が、中国人に販売した金額は、
2219億ドル(24兆円:2015年)です。

【中国が、当初言っていた対抗措置は、米国債の売りだったが】
トランプ大統領は、中国が報復関税等の対抗策をとれば、課徴的な
輸入関税の幅を、拡大するとも脅しています。中国は、当初、「買
ってきて、保有する米国債(1.18兆ドル:2018年)を売って、対抗
措置をとると言っていましたが、これは、わずかのようです。

中国政府が米国債を、世界の債券市場で売ることは「ドル売り/元
買い」の介入になり、ドルは下げて、元高になるからです。

元高は、中国の対外的な物価(輸出物価)を上げ、経済成長を引っ
張っている輸出を減らすからです。(注)中国の、外貨預金、債券、
海外国債を含む外貨準備額は、3.4兆ドル(374兆円)です。

【輸入禁止に近い関税率】
この関税は、2018年は10%ですが、2019年は25%と大きくなります。
25%の関税は、「輸入禁止」に近くなる、高い率です。ちなみに、
輸入肉に対する日本の関税は、38.8%~50%です。この関税を最終
負担するのは、国民です。つまり、輸入品販売がとくに多い米国の
物価が、上がるということです。

世界の貿易赤字を一手に引き受けている米国の、課徴金的な関税に
より、輸出国の商品価格は高くなって、輸出が減り、米国の消費も
減るため、世界経済の成長は、1%くらい低下すると試算されてい
ます。

【波及的な影響を、測りかねているエコミスト】
21世紀の潮流が、「減税・低金利・物価安・株高・グローバル化」
だった世界経済にとって、「急ショック」に近い影響を、2019年に
は発現させるでしょう。世界のエコノミストは、トランプ関税の、
世界経済への波及的な影響を、まだ、計りかねているのです。

減税・低金利・物価安・株高・グローバル化の21世紀に、25%関税
は、心理的にも影響は大きく、波及が測りにくい。日本政府(特に
経産省)はつい3か月前まで、環太平洋の関税を撤廃に向かわせる
TPPの推進をしていました。

各国の農産物を除く、工業品の関税の撤廃による自由貿易は、数か
月前まで、考えの前提となっていた潮流だったからです。

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<962号:完結編:金と基軸通貨
         :歴史的な展開と今後の予想(5)>
      2018年9月26日:有料版

【目次】

1.トランプが輸入課税をする真の理由は、対外債務の増加
2.トランプ関税の、真の理由の探索
3.対外負債40兆ドルという臨界点=GDPの約2倍
4.テーマのドル基軸通貨
5.対極的な日本、ドイツ、そしてスイス
6.日本の政府債務の限界点は、国民の総預金の1124兆円だった(法
人も国民です)
7.「2%の物価上昇」を実現目標にしていた金融政策
8.2018年6月のFRBの利上げのとき
9.2018年の金価格は下がっている
10.2022年までの金価格
11.後記:1年に千数百トンのゴールドバーを買い集める中国の意図

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■1.トランプが輸入課税をする真の理由は、対外債務の増加

【理由への疑問】
そもそも、なぜ、トランプ大統領が、米国対する貿易収支の大きな
黒字国に対し、関税の大きな付加をし、輸入を制限しようとしてい
るのか。対米貿易の黒字国は、1位中国($3429億)、2位メキシコ
($782億)、3位日本($697億)、4位ドイツ($646億)です。

国民への公約である米国一極のためというのは、皮相的です。関税
は、消費財の輸入に依存する米国の物価を上げ、所得の増加より
ローンで借金をして増えてきた、世帯の消費を冷ますからです。

【対外負債での消費大国】
米国は、世界の貿易赤字を、一手に引き受けている消費大国です。
GDPの中の個人消費は、70%と高い(日本は60%)。中国を先頭に
した新興国は、米国への輸出で、経済(GDP)を成長させてきまし
た。

住宅ローン、消費者ローン、自動車ローン、学資ローンで米国世帯
の借金は、13兆ドル(1430兆円:2018年)に増えています。税金と
社会保険料を引いた可処分所得に対する負債は、平均で89.4%です。

負債のない世帯も多いので、負債のある世帯では、可処分所得800
万円に対して、1.5倍から2倍の1200万円から1600万円でしょう。

わが国ではあまり知られていな、大学生の75%、4470万人が抱える、
米国特有の学資ローンは、1人平均400万円、2000万円以上が、有名
校が多い41万人です。総額は180兆円と日本の住宅ローン並みで、
毎年、3.6兆円増えています。近親に、米国人の医者がいますが、
医学校の学資ローンは、それ以上です。

医学部が高いだけではない。一般の大学の授業料が年数百万円です。
4人のうち3人の学生は、学資ローンで、授業料を払っています。ボ
ストンの有名大学ハーバードの授業料は、400万円から500万円です。
東大は、今、その約1/10の53万円です。

現在、米国では、2008年のリーマン危機のときの、住宅のサブプラ
イムローンのように、学資ローンの延滞(貸し倒れに近い)が増え
ています。延滞比率は11%です。

ローン会社が民間なら、すでに倒産です。しかし学資ローンの貸し
手は政府で、日本や中国が買う米国債になっています。米国は、海
外からの借金(対外債務)が、巡り巡って、GDPの投資と消費にな
ってきた国です。

【米国の物価が、上がる】
関税による物価高は、ウォルマートを代表とする店頭で、安い輸入
商品を買ってきた米国民の、負担になります。

輸入が減って国産が増えても、価格は数十%から2倍高いからです。
もともと、国産の工業品が商品価値(品質÷価格)で負けているか
ら、輸入になったのです。

米国の輸入課税は低く、2016年は1.67%でした(加重平均)。
2019年は、輸入品の半分くらいに、25%もかかります。増税される
輸入品の価格は、8%から10%は上がるでしょう。

安かったウォルマート、コストコ、ギャップ、ベストバイ、アマゾ
ン、ホームデポ、ターゲット、ロウズ、メーシーズ、100円ショッ
プ、JCペニーの店頭価格が上がるということです。金融的な要因以
外での、米国インフレにもなります(2018年は2.54%と低い)。

■2.トランプ関税の、真の理由の探索

以上の、米国の生活水準を下げる消費減退を押して、トランプが、
関税を強化すること目的は何か? 

不動産業としてモノの輸出入は知っていても、そのマネーを提供し
ている、マクロ経済の国際金融(国対国のマネーの貸し借り)には
疎いと思われるトランプでもスタッフからの進言で、以下のことは
了解しているでしょう。

米国の対外負債は、2017年で35兆ドル(3850兆円)です、リーマン
危機のあと、年間1兆ドル(110兆円)平均で増え続けています。
2018年も2019年も増えるでしょう。1981年以降、37年間の経常収支
(貿易収支+所得収支)が、構造的に赤字だからです。
http://ecodb.net/country/US/imf_bca.html

▼35兆ドルの対外負債は、2018年度から1兆ドルは増える

国内のマネー不足である経常収支の赤字は、対外負債になります。
米国の株、国債、債券、ドル預金を、海外が買うのは、米国にとっ
ては対外負債になるからです。

2018年以降は、トランプの10年で15兆ドル(1年に1.5兆ドル:165
兆円)の減税が続くので、財政赤字が増えて国債発行が増え、海外
が買う国債も増えます。

IMFは2018年の米国の経常収支の赤字を6146億ドル(67腸兆円)と
見ていますが、1兆ドルに達するかもしれません。そして重大なこ
とは、減税が続けられる限り、米国の経常収支の赤字は年1兆ドル
近く増え続けて、5年後には40兆ドル(4400兆円)と、米国のGDPの
2倍になることです。

日本が、仮に、海外から国債発行額に匹敵する1000兆円の借金があ
るとしてください。どうなるか・・・

【対外資産と、対外純負債】
逆が、対外資産です。米国が海外に対してもつ債権は、27兆ドル
(2970兆円)です(いずれも23017年:US Bureau of Economic 
Analysis)。差し引き8兆ドル(880兆円)が対外純債務です。

逆に、日本は、対外資産が1012兆円、対外負債が683兆円で、329兆
円の対外純資産です。60%から70%の対外資産は、対米国です。米
国の対外純債務(880兆円)のうち、200兆円くらいが日本からの純
貸付でしょう。中国からも約200兆円の純貸付でしょう。日中で、
約半分です。

■3.対外負債40兆ドルという臨界点=GDPの約2倍

株価を上げている、年1.5兆ドルのトランプ減税が続けば、米国の
対外債務は、2022年から2023年頃に、40兆ドル(4400兆円)になっ
て、現在のGDP20兆ドル(2200兆円)の、約2倍に増えるでしょう。

GDPの2倍の対外債務は、「利払いが困難になる(核反応のような)
臨界点」でしょう。2022年の金利を、4%平均と低く見ても、利払
いだけで1.6兆ドル(176兆円)になるからです。

企業でも、借入金が粗利益(GDPに相当する)の2倍を超えて、利払
いが借金を増やすようになった地点が、負債の臨界点になるからで
す。

利払いだけでは、借金の元本は減らない。1.6兆ドル(176兆円)の、
海外への利払いのために、借金が増えていくようになるのです。
(注)現在でも日本は、1000兆円余の対外資産から、2%の20兆円
を受けとっています。金利4%なら、これが40兆円になるでしょう。

【金融市場は先を予想して動く】
海外からの米国債の買い(現在は年40兆円)が減って、ドルの金利
上がり、国際金融市場で、米国の対外デフォルトが懸念されるよう
になると、米国債の買いは一層減り、ドルは下がって、金利は高騰
します。ドルの金利が上がると、40兆ドルの対外債務の支払いがで
きなくなるのです。

(注)最近これが起こったのは、2010年の、対外債務が大きかった
ギリシアでした。金利は、30%に上がり、国債は70%も下がったの
です。ギリシアの経済は、小さい。このため、欧州のECBが緊急に
ギリシア国債を買い支え、対外的なデフォルト(国際的な倒産=デ
フレ型の超緊縮経済になる)を防いだのです。

今、対外債務がドル準備より大きなトルコ、アルゼンチン、ブラジ
ルで、通貨の急落が起こっています。通貨の急落は、国債価格の急
落であり、金利の高騰です。

対外デフォルトのサインは、(1)通貨下落、(2)国債価格下落、
(3)金利の高騰です。マネーの信用を失うと、貸付の金利は上が
るからです。国債を買うことは、その国の政府への貸付です。

■4.テーマのドル基軸通貨と金

以上の金利高騰とデフォルトの懸念は、米ドルが、基軸通貨の役割
を果たせなくなると世界が感じることを意味します。受け取ったあ
と、下落する通貨は、価値が一定であるべき基軸通貨たりえませ
ん・・・

・・・無料版は、ここまでとさせていただきます。続きの有料版の
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