こんにちは、吉田繁治です。女子マラソンは、野口みずきの金メダル
だった。トップグループから落ち、嘔吐(おうと)したランナーが国
際映像で見えるだけでも2人もいた。過酷なレースだった。
▼不思議な再現
36kmだった。2時間15分台という抜群の記録をもつ英国のラド
クリフは、声をあげて嗚咽(おえつ)し、走ることができなくなった。
しばらくすると自己目標に敗れたかのように、路肩に座り込んだ。
多くの人にとって予想外のことだった。
人は本当に不幸なときは、立ち続けることができず蹲(うずくま)る
という。
人は自己イメージで動く。自分のペースや本領とも言う。はずれれば、
レールから脱線したかのように崩れることが多い。
何事も自分との戦いというのは、そっけないくらい正しすぎる。
彼女は出たレースで3連勝していた。独走で、抜かれたことはなかっ
た。手と顔を大きく振るダイナミックな走行を支えていたのは、体力
である以上に「精神」だったことが映像として見えた。
トップ集団の中で、150センチ40キロの野口みずきは、ひときわ
小さかった。
躯を焼く夕日に向かった、30度の気温の中での25kmからのスパ
ートは早すぎるように思えた。脚をいっぱいにひろげるストライドは、
エネルギーを使いすぎるように見えた。まだ一時間もあると叫びそ
うになった。
結果を見れば、これが、史上最速の女王ラドクリフに立ち直れないシ
ョックを与えていた。エチオピア勢も振り切った。ラドクリフも、2
5キロでの野口のスパートを想定していたのかも知れない。必死につ
いていったが、エネルギーの残りはなく離れるばかりだった。
<(3kmからの)下り一辺倒の残り10km余で、外国勢と同じ位
置なら、ストライドの違いで、必ず離される。(コーチの弁:朝日04
.08.23夕刊)>
25kmからのスパートは、野口の下り坂での弱みをカバーし、登り
坂での強みを活かすための戦略だった。成功する戦略は、強みを一層
活かす。弱みを直すのではなく、よりおおきな強みをつくり弱みをカ
バーする。企業戦略と何ら変わることはない。
25kmから5キロも続く得意の上り坂で、スプリットタイムを1分
も縮めた。だれもついて行けなかった。ここで勝負が決まったことに
なる。
有森の静かな声の解説は、レースを体験した者だけが知るように、適
切だった。「このコースでは、一度離されると、追いつけない」
レース・シミュレーションで、野口のすぐれた長所を活かすためにコ
ーチが考えたシナリオだった。野口はシナリオを実行した。実行でき
る躯(からだ)と当日にあわせたコンディションをつくっていた。
そのために月1300kmを練習した。40km以上を毎日走ること
に相当する。「自分だけで走っているのではない。サポートしてくれ
る人たちと一緒に走っている」という。これを実感するのが、彼女の
個性です。
華のある高橋尚子を欠くレースに、興味はすこし薄れていた。多くの
人は、高橋ならアテネのコースをどう走ったかと、想像でダブらせな
がら、画面を見ていたに違いない。深夜にかかわらず、視聴率は30
%近くと高かった。
野口は、逆さにしたような形のサングラスをとった。高橋尚子のよう
には投げなかった。ゴールに近づくにつれ、マラソン発祥の地で、栄
光の「主役」にのぼりつめる過程が画面で見えた。
シドニー五輪で、高橋尚子は、ひたひたと差をつめるシモンに追われ
た。あと一周あれば、危うかった。
4年前のシドニーを再現するかのような不思議な符合で、野口みずき
は、ケニアのヌレデバに追われた。アテネでのシモンは途中棄権して
いた。
野口は後ろを振り返り、しきりに時計を気にした。抜かれるように見
えハラハラした。望遠レンズでは、距離差がわからない。
トラックにはいると手をあげ、歓呼に応えた。マラソンランナーとし
て最高の瞬間だという。たった12秒差だった。
ゴールした野口は、しばらくすると競技場のフェンスの前に座り込み、
カメラから躯が隠れた。血液の低酸素症のため嘔吐していた。
医者の診断をうけたあとの勝利者インタビューで、野口は、バルセロ
ナの有森のように気の利いたことは、言えなかった。
不器用に「うれしい・・・」と言い、こみ上げる感情から続ける言葉
を失った。大きな目が急に赤くなって泪(なみだ)ぐみ、唇を痙攣さ
せたとき、私も共感からぐっと胸をつかまれた。
厳しい練習に耐えた勝者を見れば、人はどこまでも可能性をもつよう
に見える。それが人々に共感と勇気を与える。
野口は、今コロラドで高地訓練をしている高橋尚子の影とも戦い、勝
ったのかもしれない。野口は、不可能に思えるようなことを再現しな
がら、成し遂げた。
野菊が大輪の菊になった。
さて・・・<単純になった世界(2)>です。
前号では、
1.冷戦後
2.世界が市場経済になったあとの覇権
3.2000年という転換点
4.大陸欧州の認識
5.9.11以降は、軍事による覇権、まででした。
本稿では、ドル基軸通貨を支えたものは何であったか、今どう推移し
ているかを見ます。
米国の、軍事面でのイラク戦争、対アラブ戦略、アジア戦略もドルの
基軸通貨の体制を支えることを目的としています。米国にとって、も
っとも大きな国益は「ドル基軸通貨体制」だったということが、90
年代で自覚されたからです。
以上の仮説を基底に置くことによって、今の世界と数年後の世界まで
が、単純に解けます。
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<Vol.195:単純になった世界(2)>
【前号の目次】
1.冷戦後
2.世界が市場経済になったあとの覇権
3.2000年という転換点
4.大陸欧州の認識
5.9.11以降は、軍事による覇権
【本号の目次】
6.英米の対イラク戦争の目的
7.ユーロの成立と勢力圏の拡大は、米国に衝撃だった
8.国際地域通貨:ユーロ以降
9.3者で約300兆円分の米ドル
10.米国の対アラブ戦略
11.大規模なテロの予告情報もあるが
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■6.英米の対イラク戦争の目的
まず、確認しなければならないのは、米国にとって戦争の目的が過去
とは変わったことです。
▼現代の戦争
現代の戦争では、領土と人民の獲得は、目的にはできない。
共産主義イデオロギーの拡張もないから、それへの対抗でもない。
宗教戦争は、仮想のアクセサリにすぎない。
英米がアラブに傀儡政権を作っても、長期に維持することは可能では
ない。軍事で勝利をおさめても、アラブの領土と原油を英米のものに
することはできない。
戦争で獲得する経済的な利得(gain)は、もう領土ではない。
英米の対イラク侵略の目的は何だったか?
イスラム過激派であるアルカイダとフセインのつながりは否定されて
います。一番よく知っているのは、米国の当局とネオコンでもあるは
ずです。
▼ポンドとドル
次に確認しなければならないのは、以下の3項です。
(1)英国は、第2次世界大戦前の、ポンドで世界貿易を決済する
通貨となる基軸通貨の経験があること
(2)米国は、ポンドのポジションを引き継ぎ、戦後の基軸通貨国
あること
(3)英米の金融機関は、事実上、一体であること
他国が知らない基軸通貨の特権を経験したのは、世界で英米だけです。
英ポンドはゴールドにリンクしていた。植民地を失った英国は、基
軸通貨の位置をすべりおちた。
次がブレントン・ウッズ体制(1945-1971)だった。ゴールド1オンス
を$35と決めた、金本位の固定相場制だった。この構想の知的リー
ダーはケインズだった。
しかし1971年8月(金ドル交換停止)以後の米ドルは単に「紙幣」
です。米国の産業力ではなく、国際政治力が米ドルの価値の裏付け
になった。
【通貨帝国主義】
基軸通貨国は、貿易決済に、自国が管理する通貨を使うことができま
す。この特権の維持が、米国の国際戦略で、もっとも大きなものにな
って浮上したとみることができる。「通貨帝国主義」という新しい概
念で、米国の国際戦略を見なければならない。
▼仮想の世界通貨
米国が、輸入の支払いをするとき、今の米国が発行し管理する世界銀
行ではなく「仮想的世界銀行(Virtual World Bank:VWB)」が発
行する「世界通貨(ワールド・ドル:W$:仮称)」を使わなければ
ならないとすれば、どうなるか?
米国も、他国に商品を輸出し輸出先から「W$」を受け取らなければ
ならない。輸出をする範囲でしか輸入ができない。米国以前は、基軸
通貨国の条件は、経済では貿易黒字を出すか、あるいは担保ではゴー
ルドとのリンクでした。
手持ちのW$が足りなければ、「仮想的世銀(VWB)」から、金利
を払い借りなければならない。
これが米国以外の世界の国です。自国が任意に発行できないW$であ
る米ドルを、輸出によってあらかじめ稼がなければ(あるいは借りな
ければ)輸入ができない。
米国は工場の海外移転による工程分業で、貿易赤字は構造的なものに
なっていた。貿易通貨(W$)を稼がねば輸入ができないとなると、
今の米国経済のパラダイムシフトと耐え難い構造改革を意味すること
になる。
■7.ユーロの成立と勢力圏の拡大は、米国に衝撃だった
大陸西欧は、戦後は米ドルの勢力圏として、通貨面では分割統治され
ていた。軍事でのNATOは、米ドルが欧州の通貨基準であることを
裏付けするものだった。
▼一貫した米ドルの価値下落
米国のみが、貿易通貨の制限から逃れていた。他国は、米ドルを貯め
なければ輸入ができない。ひとり米国のみが、貿易黒字でなくても、
紙幣の発行だけで輸入ができた。
1971年以降の米ドルは、変動相場制に変わった。長期で見れば、
赤字国が発行する米ドルは、「W$」としての価値を一貫して下落さ
せてきた。これが自然な経済原理だった。
戦後世界では、米ドルに対抗できる国際通貨はなかった。世界は米ド
ル以外に選択肢をもたなかった・
▼米国にとっての衝撃
国際地域通貨ユーロの誕生は、ドル一極の世界に、楔(くさび)を打
ちこむことになった。米国を超える経済規模をもつ大陸欧州の域内貿
易では、米ドルが使われなくなった。
ユーロ成立(00年)以降、とりわけ統一通貨ユーロの発行以降(0
2年1月)は、大陸西欧は、米ドルを必要としなくなった。西欧にと
って、米国から買わなければならないものはあまりない。英国とスイ
スを除く西欧は、通貨面でのブロック経済体制を作った。
2000年春からの、米国を恐怖させたITバブルの崩壊は、西欧諸
国がドル債とドルの株を売って、ユーローに戻ったことから起こった。
米国に集まっていた西欧の余剰マネーは、大陸に戻った。
2000年は、世界の資金循環が、変わった瞬間だった。
ドイツ、フランス、イタリア、北欧、東欧を含むユーローの経済規模
は、米国に匹敵し、凌駕する。ユーロ諸国がドル基軸体制から離脱し
たことは、国際通貨としてのドルが弱体化したことを意味します。東
欧はこれからの成長地域にもなった。
米ドルを例えれば、3分の1の預金が抜かれた銀行です。
米国経済の構造的な貿易赤字によって価値を下落させ続ける米ドルに
代わり、今後の世界がユーロをワールド・ドル(W$)とみなせばど
うなるか?
米ドルは、通貨価値を更に下げます。米国金利は高騰し、ドル債とド
ルは下落する。輸入に依存する米国物価は高騰し、負債国家である米
国の経済は、30%は縮小しなければならない。この縮小は1929
年の大恐慌に匹敵する。
【イラク侵略の真の理由】
事実、2000年12月には、イラクのフセインは、イラクの原油輸
出代金としてユーロを選択した。ドルの堤防の一部決壊だった。小さ
な穴が拡大しそうだった。米国はドル基軸を守るためには、早期に修
復を図る必要があった。
これが、米国がイラクを侵略した真の理由だった。
この本当の理由を、米国が言うことは絶対にない。
【フセイン以外のアラブでも】
2000年以降、アラブの王族がもつ$1兆(110兆円)相当の海
外金融資産も、過去のように米ドル一辺倒ではなくなっていた。
ドルを売りユーロの比重を高めている。
これが、ドルに較べユーロが価値を上げた原因となった。
西欧への原油の輸出代金として、アラブ諸国の多くは、米ドルに代わ
りに、ユーロを受け取るようになった。ユーロの選択は、大陸西欧の
経済が強いからではない。米ドルが赤字を出しすぎることを理由にし
た、消去法での選択です。
▼マネーセンター・システム:重要
ユーロ以前は、アラブが輸出代金として集めた米ドル(総額110兆
円相当)は、英米の金融機関に預けられ、運用されていた。
第一次オイル高騰(1973年)以降、毎年増加するオイルダラーは
、英米の金融機関に預けられた。ドルの下落はこれによってとどめら
れた。
ウォールストリート(NY)とシティ(ロンドン)をマネーセンター
として、貿易のチャンネルでアラブに散布されたドルは、金融のチャ
ンネルで回収されていた。英米の金融機関は、一旦はアラブにドルを
出ても、還流してきた米ドルを運用する権利をもっていた。
マネーの所有権は、アラブの王族がもつ。運用権は、英米の金融機関
がもっていた。中東内では運用する金融機関がなかった。
こうした仕組みを「マネーセンター・システム」と言います。米ドル
にはマネーセンター・システムが組み込まれ、アラブ、日本、中国は
輸出でもらった米ドルを、英米に還流させてきた。
貿易赤字でドル紙幣は世界にばらまかれる。財政赤字で米国債が発行
される。しかしマネーセンターの仕組みで、再吸収されていた。これ
が、赤字国の通貨を基軸にする戦後体制が続いた理由だった
▼2000年の事件
ところが、ドルの米国還流を促していたマネーセンターシステムから、
突如ユーロが脱退した。21世紀の最初の事件は金融だった。
最初、米国を含む世界は、この意味を理解しなかった。90年代末の
米国は、日本、中国、アラブ、そして西欧の余剰資金が溢れていた。
米国企業と国民は、史上空前のITバブル景気を謳歌していた。
ユーロはドルに比べれば国際性のない地域通貨にしか見えなかった。
しかし、米国株の根拠のない熱狂からくる高さは、世界の投資家に恐
怖を与えるレベルに達していた。
しかし、米ドル基軸通貨に対する変異は静かに起こっていた。200
0年まで、米国をめざしていた世界の余剰資金は、まずユーロー諸国
のものから本国回帰をした。
日本にはポートフォリオの戦略がなかった。米ドルのカゴにすべての
卵を入れていた。下落するであろう通貨を守っていた。ポートフォリ
オとは、世界経済の中のそれぞれの国の比重に応じて、通貨を分散さ
せもつことです。
■8.国際地域通貨:ユーロ以降
まずアラブ地域に、ドル基軸の風穴があく。
自然な流れは、国家の財政規律を失った米ドルではなく、国家の赤字
を各国GDPの3%以内に押さえる協約をむすんだユーロに向かって
いた。通貨信用の根底は、国家の財政への規律だからです。
▼議論は避ける
【米国の通貨当局の危機意識】
こうした流れに、危機意識を抱いたのが米国政府とFRBです。しか
し米国は、基軸通貨がどうあるべきかの論議を、意識して避けた。
【論理はない】
「財政と貿易の赤字国の通貨が、なぜ基軸通貨でありえるか?」との
疑問に、まともには答えることができないからです。
議論の代わりに、米国経済は強い、ドルは強い、その証拠に世界のマ
ネーが米国に還流すると周期的に繰り返す。
米国の貿易赤字こそが、米国を輸出マーケットとした世界経済の成長
をひっぱるという説明だった。そして流出したドルは、また米国に戻
る。このシステムをもっているのは米国だけだということだった。
(注)日本政府の財政赤字による国債の発行が、日本経済の下落をと
どめたという政府の理屈づけに似ています。
【中東の地政】
中東は、経済の関係では西欧の裏庭です。ソ連崩壊以後の東欧は、西
欧企業の工場地帯になった。つぎは地政的に見て中東諸国がユーロ圏
になる。自然な流れではそうなる。自然とは経済原理でしょう。
【ユーロで十分】
米国から、ドルによってアラブが買わなければならない必然をもつ商
品は少ない。
先進国商品は西欧から買える。使うのはユーロです。低価格商品は中
国、高度商品は日本から買えばいい。中国も、ドルだけでは価値下落
の危険を感じ、ポートフォリオ(分散投資)でユーロを持ち始めてい
ます。
【日本】
世界の中で日本のみが、ドルを信じ疑っていない。ドルの価値の背景
は米国という国家です。ちょうど日本国債の価値を、金利を低く誘導
し、財務省が保証すると金融機関が信じているように。
しかし国家は国債価値を保証はしない。国債も通貨も、金融マーケッ
トがその価値を決める。財務省も1プレーヤーにすぎない。
世界の2000本のヘッジファンドの元本は、80兆円相当と言われ
る。その元本でデリバティブを組めば、最大なら1000兆円の運用
規模になる。国家の介入資金は、小さくなっている。
円に対し米ドルが下落しても、米国は痛みを感じない。むしろ、日本
に対する過去の負債の実質価値が減って、楽になる。50%ドル安に
なれば、負債の実質価値も50%減る。
ドルの価値が減っても、最大の黒字国である日本はドルを持ち続け、
受け取り続け、使い続ける。日本政府と財務省は、米ドル以外に目を
向けない。
日本は、ドル基軸体制を、たった一国で30%くらい支えている。(
ドル基軸支援の投票で、30%の票数は、日本がもっていると言って
も同じです。米国債の買いへの入札で約3割)
しかし日本以外の世界では、対ユーロでドルが下落すれば、ドルは、
支払い準備通貨の割合から減らされる。そして米国が保持してきた貿
易マネーの発行・管理権から生じる「基軸通貨の特権」を失うかも知
れない。
米国の通貨当局の危機意識はここにあった。日本に対しては、外圧が
効く。しかし、他国に対しては外圧は効かない。
【(注:別の話題)スイスでのオイルマネー運用】
スイスに行けば、預かったオイルマネーの運用を、(今はまだ主とし
て米ドルやドルベースの債券や株で)スイスの金融機関が行っている
ことが分かります。
スイスのプライベートバンクは、秘密をまもるためアラブの王族と近
い。プライベートバンクの運用は、預金者の意思で決めます。他の金
融機関のように、預金者の意思を聞かない運用を行って、元本を保証
することはない。
マネーの執事、コンシエルジュの役割がプライベートバンクです。収
入は手数料であって運用の利ざやではない。運用益(または損失)は
預金者のものです。
■9.3者で約300兆円分の米ドル
重要な事実は、
(1)アラブの王族、
(2)中華圏(中国、香港、台湾)、
(3)そして日本政府が、
それぞれ90兆円から110兆円のドルをもっていることです。
(注)政府の外貨準備だけの統計。これに民間の持ち分が加わって、
国際的なドル債の元本総額は、およそ600兆円でしょう。
この3者がドルを信用していることによって、ドル基軸体制が維持さ
れてきた。米国が正面切っては認めたくない事実です。
米国の通貨当局は、ドル基軸を支える実体を、経済論から隠す方法を
とる。米国民のほとんどは知らない。マスコミも、ドル危機を言わな
い。
理由は、「危機が恒常的」になっているからです。当たり前になった
危機は、危機とみなされない。逆に、なぜ米ドルが強いかという論に
なって展開される。
そのため、経済の自然に、人は目を向けない。ドルが支持されない「
わけがない」という非論理が横行する。日本国債が売れないわけがな
いという非論理と同じように・・・
「世界でもっとも強い経済とは、民間企業が貿易で負け、政府では財
政赤字がもっとも大きな経済を言うのか?」と山下清のような疑問を
口にすれば、だれもその根拠を答えることはできない。
しかし「兵隊の位で言えば」、米軍が最上位(supremacy)です。20
00年以降の米国は、ドル基軸を支えるのに、経済以外の軍事による
覇権を意識するようになった。経済の上に「政治+軍事パワー」が来
た言っても同義です。パワーとは、他への強制力です。
米国は無謀なことをやる。その無謀さも、軍事力が裏付けになってい
るために、世界は否応なく認める。
2000年に古ぼけていた帝国イデオロギーは形を変えた。後に歴史
を振り返れば、2000年以降の10年は、「通貨帝国主義」が米国
のイデオロギーになったと整理されることになる。
▼ドル暴落は、経済的にはすぐ起こる
(1)アラブの王族(最大はサウジの50家族)が、ドルを信用し
なくなること。
(2)中華圏、とりわけ中国が、ドル一辺倒をやめること。
(3)日本が、ドル一辺倒をやめること、このいずれかが起これば、
ドルは暴落する。
米ドルが暴落すれば、
(1)ドル一極の基軸通貨体制、
(2)ドル基軸をべースに、ドル債券を大量にもつ金融体制は必然
的に終わる。
米国の基本戦略は、軍事の覇権を使い、ドル基軸の通貨帝国主義を維
持することです。米国経済の実力(ファンダメンタルズ)では、ドル
基軸は守れない。そのため軍事を使う。
ネオコンは、90年代末から軍事覇権を主張していた。米政府は、ド
ル基軸を守る目的で、ネオコンの戦略に乗った。
アラブ圏からの米ドル預金について、米国政府はテロ資金の「マネー
ロンダリング(資金洗浄)」を行わせない、事がおこれば封鎖し没収
するという目的から厳しく監視するようになった。アラブ人なら預金
するのに、100項目の質問に答え、署名しなければならない。
これでは、米国から資金が逃げる。アラブ資金は、米国を忌避しはじ
めた。
■10.米国の対アラブ戦略
【目的】
米国のイラク侵攻の真の目的は、ユーロの誕生以降の「揺らぐドル基
軸体制」の防衛だった。卓越した地位にある軍事力によって、中東を、
通貨帝国主義の支配下に置くことだった。
【イメージ】
この、ナイーブなイメージの元になったのは戦後日本でした。敗戦し
た日本は、米国の軍事力の傘の下で民主主義を受け入れ、教育に励み
経済を発展させた。輸出先は米国であり、30年で3分の1以下に安
くなったドルでも、文句を言わずありがたく受け取った。日本はドル
経済圏を支える優等生だった。日本にとっては米国が世界だった。マ
ネーとは米ドルだった。
日本がドルを増加保有することによって、赤字の米ドルは基軸通貨の
特権を維持することができた。この成功イメージが、米政府にはあっ
た。
その証拠に、イラク侵攻を決定する時の米国政府は、「戦後の日本の
ように、イラクをフセインの圧政から解放し、民主化する」と言って
いた。
これがイラク侵攻の公式の目的になった。通貨帝国主義を守るための
軍隊の発動という真の目的を言わないため、表明される偽の目的は、
以後、コロコロと変わることになる。
最初に嘘をつけば、嘘を正当化する嘘を重ねる。米の主流マスコミは、
批判(critique)の精神を失い、政府発表にすり寄っている。
【狙い】
真の狙いは、ユーロ圏を選び、主にドイツ・フランスに原油の採掘権
を売ったフセインのイラクを潰すことだった。そして再び米ドル圏に
引き戻すことだった。イラクの原油は硫黄分が少ないため、産油コス
トは1ドルにすぎない。例えば、サウジに次ぐ産油国であるロシアの
コストは6ドルです。
【サウジアラビア】
イラクの次は、50家族からなる王族が支配しているサウジアラビア
です。王族の地位はコネクションによって米軍が守っていた。
サウジの王族は、米軍によって守られることの対価として、受け取っ
た米ドルを、英米の金融機関に預けた。
1921年生まれの、親米派のファハド国王はもう83歳であり、重
い病に伏している。ファハド亡き後は、王位継承争いも加わり、統治
の混乱が起こることが予想できる。ビン・ラディンもこのグループで
す。
サウジ国民の米国への反感は強い。同時に、サウジにはアラブ圏の盟
主を目指していたフセインへの反感もあった。
サウジの近々の帰結が80年代のイラン革命のような宗教指導者によ
る政体転覆なら、米国はサウジアラビアへの足掛かりを失う。以上は
容易に想定できる。
そうしたことが起こる前に英米は、アラブで確固としたポジションを
占める必要がある。英米が軍事で干渉しなければ、アラブを起点に、
ドル基軸体制は30%の支持を失って崩壊に向かう。残された猶予の
時間はなかった。
真の目的を言わず、適当な名目を作ってイラクに侵攻した。
■11.大規模なテロの予告情報もあるが
米国が、アラブに干渉できる理由は、イスラム原理主義の武闘派が首
謀するテロの可能性があるということしかない。
テロの可能性がなければ、米国は、侵略と軍隊派遣の名目を完全に失
う。結果は、恒常的にテロの危機を言うことが、米国の戦略の正当性
を保証することになってしまった。
▼ブッシュ・ドクトリン
米国政府は、テロの危機が察知されれば、「テロとつながりがあり、
かくまう国家を含め、先制攻撃(pre-emptive attack)を正当に行う」
と世界に向かって宣言している。(ブッシュ・ドクトリン)
「テロ」は世界を恐怖させ、米国民と世界の米軍への依存を高める。
米国政府は、04年8月1日以降、テロの警戒レベルを5段階のうち
4段階の「オレンジ」に引き上げた。
▼9.11を上回る規模のテロ情報
一般誌「NEWS WEEK」は、<7月30日の大統領テロ脅威日報>から得
た極秘情報として以下の記事を載せた。(04.8.25号)
<今まさに、9.11と同等、もしくはより大規模な攻撃計画が進行
している(同誌p48)>
<テロの標的としては、ニューヨークなどの複数の金融機関と、「あ
る同盟国」の都市の名が記されていた。・・・具体的には、ニューヨ
ーク証券取引所(NYSE)やワシントンの世界銀行本部など5カ所
が標的とされていた。(p49)>
これに類する情報が事実なのかどうか、事実でないとすれば、どんな
意図でリークの形をとって流されるのか? 事実は「藪の中」であっ
ても、その目的だけは、誰の目にも明白になっている。
ユーローを地域通貨に押しとどめることによるドル基軸の維持、その
ための軍事戦略という構図から、米国のアジア戦略も描かれる。21
世紀の成長地域であるアジアの焦点は、中国と台湾の問題になった。
日本には「アジア地域通貨」を主導できる経済力がある。輸出の相手
国として、中国は米国より大きくなった。米ドルはますます弱体化す
ることが明らかになりつつある。
アラブ戦略の途中経過が思わしくない米国としては、卓越した軍事力
に更に強く依存する必要が出てきた。英米にとっては、貿易では赤字
でも、資金環流のマネーセンターシステムは維持されなければならな
い。
11月の米大統領選挙は、大規模なテロが起これば延期すると発表さ
れている。以下、次号で。
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<170号:
インフレに向かうから、ディスカウンティングの時代>
<第一部 時事雑感>
1.発表された路線価
2.Yジェネレーションの夢の職業第1位
3.借金意識のなさというモラル・ハザード
4.大丈夫とされていたが
5.認識の転換点
<第2部 インフレに向かうからディスカウンティング>
1.インフレが予測されるのに、なぜディスカウンティング
2.背景は賃金体系の変化
3.まずは10億人の先進国間で、ワーカー賃金が平準化する
4.量販型小売業のコスト
5.130万店の小売業全体では
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