今回も、金融危機の中心は住宅ローン担保証券
This is my site Written by admin on 2023年4月9日 – 18:00
金融でもっともわかりにくいとされていることを、原理から解説しま
す。理解の入り口は、住宅ローンの返済金と金利を配当にするMBS
(Mortgage Backed Security)の作り方、持たれ方、そして価格です。

◎資産性のデリバティブ(原資産から派生した金融商品)の代表が
MBSです。

【理由】2023年、24年,25年の金融予測ではデリバティブへの理解が、
予測に欠かせない。

難しい病気は、原因を人々が認識し、メカニズムを理解しないと、予
想と治療はできない。デリバティブのなかでも、特にMBSの下落が端
緒になって、広く波及し、結果として発生した金融危機の予想と治療
は財務省と中央銀行が行います。中央銀行は、金融のドクター役です。
新任の植田和男氏が、診療の方針を決める院長です。

【下落の局面で、4回は出てくる回復論】
3月10日からの、米国のSVB(シリコンバレー銀行)、シグネチャー銀
行、欧州のクレディスイス銀行の破産から言われた「世界金融危機」
に対し、
1)政府・中央銀行が、「預金は100%守る。金融システムは盤石」と
いって、マネーを投入したことから、
2)「金融危機は、一過性の風邪のように去った。新型コロナではな
い」という論が、登場しています。

【今回も、早期回復論のシンボルは、米国ナスダックの上昇】
3月13日には、1万1138ポイントに下がっていた米国ナスダックは、そ
の後の約3週で1万2087ポイントへと、949ポイント(8.5%)も上がっ
ています。
◎3週で8.5ポイントの上昇は、急騰です。
(注)年間換算では、8.5%×√11か月=8.5×3.3倍=28%の上昇に
相当します。

【ダマシの株価上昇が、4回はある】
これは、株価の長期下落の局面で3回から4回は現れる「ダマシ」の上
昇でしょう。

◎金融危機は、複雑系の銀行システムの中で、スローモーション映像
の「玉突き」のように、株価の底値までは、一定の時間がかかる広が
り方をします(過去は、約1年から1年3か月)
◎今回は、世界の負債の金額がGDPの300%(3京円)と大きいので、
6か月と見ています)。

【下落の途中の、ダマシの上昇の原因は政府と中央銀行の対策】
政府は、手段として可能な財政予算で、中央銀行は、金利とマネー量
の政策を使って、対策(=治療)を行います。

途中の応急治療によって、銀行のマネー不足の解消、金利の下落、失
業率の低下、企業利益の上昇、景況感の上昇、株価の上昇の時期が、
約4回、挟まるからです。

最初の住宅ローン担保証券の危機(ベア・スターンズがもつMBSの下
落)から1年3か月後が、2008年9月15日のリーマン危機でした。

あとで、「ダマシ」だったと分かった株価の回復のとき、「金融危機
は終わった」と、毎回言われたのです。

1年3か月後の、株価の底値(-50%:世界の株価:MSCI)までに、4回
のダマシの上昇がありました。底値は、2008年12月でした。

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<Vol.1328号:増刊:今回も、
           金融危機の中心は住宅ローン担保証券>
     2023年4月9日:増刊:有料版・無料版共通

【共通版増刊の目次】
■1.金価格の上昇は、ドルの価値下落から来たもの
■2.認識の、集団的なバイアス(=市場の空気)
■3.本命の金融危機は、住宅ローン担保証券の下落から起こる
■4.デリバティブの、第一次暗転がリーマン危機だった
■5.サブプライムローンが端緒になり、MBSを全面下落させることに
なった
■6.根強いデリバティブ批判はあるが、デリバティブは減っていない
■7.事例:トルコの金利、インフレ、リラのレート
■8.今回のREITの低下、C-MBSの先行的な低下

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■1.金価格の上昇は、ドルの期待価値の下落から来たもの

「本源的なマネーである金価格」の上昇は、ドル危機の逆数です。金
価格は、2022年10月の1オンス1685ドルから、現在は2000ドル(+19
%)に上がっています。

◎金価格が上がるときは、米ドルの、その後の期待価値の下落がある
と見ていいのです。

今回は、グローバルサウスの中央銀行による、ドル準備の売りと金地
金の買いから、金の価格上昇は長期化するでしょう。
・2022年の9-12月には「445トン」、
・2023年の1-3月には、「417トン」の金を、BRICSの中央銀行が買い
増しています。

現在の、中央銀行の金買いの傾向を年間に延長すれば、1600トンにな
ります(2023年度:これから1年間)。

2022年9月まで、1年間の買いが400トン~500トンを超えることはなか
ったので、3倍増という異常値になります。

24年間の金価格上昇(約10倍)は、ワシントン条約の1999年からの、
中央銀行の買い増しが基礎の原因です。長期の概略を示します。

【中央銀行の、金の買い:1980-2023の傾向】
1)1999年までは、中央銀行は400トンを売っていました。
 ・金価格は、300ドル台と安かった(円では1gが1000円)。

2)1999年から2010年までの11年で、中央銀行の売りが400トンからゼ
ロに減りました。
・金価格は、278ドルから1234ドルまで、4.4倍に高騰しました。

3)リーマン危機のあとの2010年からは、中央銀行が年400トンくらい
を買い越すように、変わりました。
・リーマン危機は、銀行危機であり、ドルの危機だったので、金価格
は700ドルから1650ドル(2012年)まで2.4倍に上がっています。
↓
4)400トン/年だった中央銀行の買いが、ドル危機の2022年からは、
年率換算で、4倍の1600トンに急増したのです。価格が上がるに決ま
っているでしょう。
(金価格/ドルの43年間)
https://ecodb.net/commodity/gold.html

◎中央銀行の買い増しは、準備通貨のドルの、価値下落の予想から来
ます。

2022年後半からの、年間で1600トンのペースでの買い増しは、4500ト
ンくらいしかない総供給のなかで、36%を占めます。

中央銀行の買いが2023年、2024年も続くと、金価格は更に上がるでし
ょう。現在、BRICSの中央銀行が、現在とは逆に、ドルの外貨準備を
増やして金を売る要素は、以降で示すように皆無です。
(ロスチャイルド系のWGC(世界金委員会):調査データ)
https://www.gold.org/goldhub/research/library

【BRICSの中央銀行がドル売り、金買いを行って価格を上げている】
ウクライナ戦争のあと、BRICSは通貨の面では「ドル離れ」を中核の
政策にしています。

〔その原因〕
ウクライナ戦争の直後に、米国が、ロシアの持つドル国債(FRBにあ
る)とドル預金(FRBと米銀にある)を、ロシアが使えないように差
し押さえたからです。

いざとなれば凍結されるドル国債・ドル預金は、持っていても無駄に
なる。だからBRICSは中央銀行の準備通貨にしてきたドル国債とドル
預金を売って「米国の管理の外にある金」を買うことにしたのです。

これは、イランのドル預金を米国が差し押さえた1980年のイラン革命
(イランの反米化)のときと同じです。1980年には、産油国が買った
金は、1オンスが250ドルから850ドルまで3.4倍に高騰しました。

原因は、中東の産油国が、差し押さえられる可能性あるドル預金(米
銀の口座にあります)を、金に換えたからです。金の世界需要が一挙
に増え、不足した金の価格は上がったのです。今回の金価格の上昇は、
1980年のイラン革命(2022年のウクライナ戦争)のときに似ています。

いずれも、米国の敵国への金融制裁(ドル預金の凍結)から来ている
からです。1980年にはホメイニ革命後のイランでしたが、2022年は
プーチンのロシアです。

BRICSとその連合、つまりブラジル、ロシア、インド、中国、南アフ
リカ、中東、アジアのASEAN、アフリカは世界のGDPの50%(5000兆
円)を占める新興国です。ウクライナ戦争の結果、いずれも米国から
離れて、ロシア側に就いています。

中国、ロシア、インド、南アジア、中東の産油国までが抜けて、残る
ドル圏は、経済成長率が最大でも2%台と低い。合計GDPが5000兆円の
米国、EU、日本、韓国です。いずれも高齢化に向かう老大国です。

◎2021年までのグローバル化の方向が一転し、経済成長が4~5%と高
い新興国と、1~2%しかない老大国に、ブロック化されたのです。
2023年からの世界経済と通貨に大きく影響します。

〔要点〕
BRICSとグローバルサウスの77年ぶりの「ドル離れ=金買い」が、今
回の金価格上昇の特徴です。

◎グローバルサウスの中核になるBRICSは、米ドルだった貿易通貨を、
「金・コモディティ・リンクのデジタルマネー」に変える構想を進め
ています。ウクライナ戦争での米国のロシア金融制裁は、「やぶ蛇」
だったのです。

【金を重視しない日本人】
金の買いは、日本人にとっては、自分の預金の価値を守って増やす有
力な手段になるでしょう。

日本の銀行が、金の価値上昇を否定し買わないのは米国から、戦後
77年、禁じられてきたからです。金を買わないことが、日本の銀行と
機関投資家の「空気」です。日本の金の輸入は、2022年も15トンと世
界最小です。中国とインドがともに600トン輸入しています。日本の
40倍。金の買いは異常に偏っています。

中国は1年400トンの、世界1の産金国でもあります。ロシアの金の生
産が300トンです。ともに、輸出は禁じています。日本は、今後のた
めには年300トン(2.7兆円)は、金を買うべきでしょう(現在の20
倍)。

191兆円の運用マネーがある年金基金(GPIF:国民の年金資産を運用)
も、ドルではなく金を買っておけば年金支払いに不安がない。2022年
度は、ドル国債と同株で1.8兆円の損をしています。ドル建て資産
(米国債とドル株)の運用が50%だからです。
(GPIFのマネー運用)
https://www.gpif.go.jp/operation/34576289gpif/2022_3Q_0203_jp.pdf

「米国債を買うこと、金は買わないこと、核兵器は持たないこ
と」・・・これが、戦後の米国政府・FRBの3つの対日政策です。財務
省と自民党幹部議員には、あからさまに要求しています。

日本の銀行は、個人の裏見解は別にして、組織としては「ドル基軸体
制は永遠である」と1990年までの「土地神話」のように考えています。

ところが、2023年は、財務省の退職した複数の高官から、金の専門家
と言われる人は「退職金で金を買うことの相談」を受けているという。
財務省のなかでは、個人としても、金を買うことができなかったから
です。二重性格も多い官僚は、面従腹背です。

■2.認識の、集団的なバイアス(=市場の空気)

◎株価の下落過程での、3か月以内のダマシの上昇は、投資家(市
場)による、集団的な誤認から生じます。

あとで一時的と分かる株価の、1か月から最長3か月の上昇から、ポジ
ティブ・フィードバックで自己強化する「認識のバイアス(偏向=偏
り)」が生じます(市場心理)。

【雇用統計の事例】
直近の事例をいえば、3月8日(今日)のニュースでの23年3月の米国
雇用数です。

「23年3月は23.6万に人増加し失業率は3.5%低下した。」
この情報から、買いが増えた株価は、総じて、上がっています(ナス
ダックは1日で200ポイント:+1.7%)。

〔失業率データの基礎の変化〕
この失業率には、コロナ後の、復職数の約20%の減少が失業者(失業
率の分子)に含まれていません。コロナ後は、レイオフされた人、ま
たは自主退職した人の、人との接触を嫌って、復職率が減っているの
で、失業率の変化だけでは、景況の回復は判定できません。
・求職活動をしない失業者は、日米とも失業にカウントされないから
です。

◎世界的に、復職率が減っているための失業率の低下では、株価に都
合のいい情報が強調されて投資家による株の買いになっているのです。

米国の平均時給は、復職率の低下を原因に、コロナ後の人手不足が起
こって、現在4.2%上がっています。
日本でも、2023年は、4%台のインフレ対策として総平均で3%くらい、
労働時間換算給が上がるでしょう。
今回は、賃金が上がったからといって、経済は好況でなく逆の不況で
す。
(米国の失業率の、長期推移)
https://jp.tradingeconomics.com/united-states/unemployment-rate

【認識のバイアスの、他の事例】
〔病気〕病気からの回復のとき「全開に向かっている」とも感じる小
康期に似ています。

人は、危機のときの好転の兆候を、希望的に未来に延長して、見ます。
行動経済学が明らかにしたコミットしたことについて生じる「認識の
バイアス」です。

〔宝くじ〕宝くじを買うとき、全員が3000万分1の確率より高く「当
たるという希望」を持っています。看板に3000万枚に1枚が当たりま
すと本当のことを書くと、買う人は、消えるでしょう。
これは、未来にコミットして選択したことに賭けて生きる、人間の知
恵でしょう。

〔結婚〕結婚を決めた相手にも「自分にとっていい点の現れ」が強く
見えます。これも自然なことです。日本に住むと、普通は日本文化が
好きになります。

〔政治的なこと〕政治的なことでは、共和党支持者には、トランプの
いい点が見える。民主党支持者には悪い点が見える。

事実は1つですが認識は分かれます。メディアは、これを「米国の分
断」として最近生じた悪いことのようしていますが、認識の分断は、
党派を作る人間の本性です。

【所有バイアス】
◎株を買うと、「一時は下がっても、いずれは、買値より上がる」と
いう、根拠はあやふやな期待が生じます。売ると、逆に今度は、下が
るという期待が、強調されます。住宅を最近買った人は、上がるとい
う情報を集め、下がるという情報は抑圧します。

数理的に見る専門家と、感覚的に見る素人も同じです。youtubeなど
のSNSで見ると、株価、不動産、金融危機においても、党派的にも見
える「認識の分断」が分かります。

メディアは無意識であっても、中国とロシアについては悪い情報を強
調し、ウクライナ、米国、日本については、いい情報を強調していま
す。

事実の正確な認識は難しい。当方は可能な限り、事実の数字とその論
理的な函数で予測し判断しています。好き/嫌いからの偏向が混じっ
ていると気がついたときは、自己修正します。

■3.本命の金融危機は、住宅ローン担保証券の下落から起こる

21世紀の金融テクノロジーで進んだことは、「負債の証券化」でした。
最初が1990年代からのMBS(Mortgage Backed Security住宅ローン担
保証券)です。

【1990年代までの、米国住宅ローン】
米国の住宅ローンは、政府系の住宅ローン会社(GSE)と、地方銀行
のS&L(貯蓄組合)が、個人に貸していました。

1995年までの、全米の住宅価格は、一軒(200平米)の平均が15万ド
ル(当時のレートで1500万円:日本の1/2)と、安かった。

1973年から開発されたデリバティブの金融テクノロジーで、住宅ロー
ンという負債が証券化されて、販売されました。方法は、以下でした。
物語風に述べます。(参考:米国の政府系住宅ローン会社GSEに勤務
していた中国人マネジャー:宋鴻兵の著作)

【2000年からの、住宅ローンの証券化】
1)住宅ローンの債権を、大手投資銀行系のファンドが買い取る。
2)多数買って集めてプールし、ローン返済金と金利が配当になる、
RMSB(住宅ローン担保証券)を作る。
↓
3)住宅ローンのデフォルトがあったときは、下層のMBSから仕組みた
めていく仕組みを作る。つまり、毒のある証券を作って、その金利は
高くする。

4)デフォルトの確率が高い部分は、エクイティ債としてまとめ、証
券の金利を高くする。ローン証券の10%が、これにあたる。
5)次の層は、メザニン債(中二階)の証券とする。構成比は10%と
する。
6)ローンのデフォルトがあっても、ほとんど影響がない層を、シニ
ア債とする。ローンの80%がシニア債になる。
↓
7)シニア債は国債と同じ安全性と仲間内の格付け機関で評価され、
AAA格になった。金利は、国債の金利より、1ポイント以上高かった。
シニア債とメザニン債は、主に銀行が買って、住宅ローン資金を提供
することになった。
8)デフォルトのリスクが高く、配当の金利も高いエクイティ債は、
高い利回りがほしいファンドが買った。

2000年からのMBSの発明は、米国の金融業にとって大きなイノベーシ
ョンだった。政府の負債である国債並みに、利払いと返済が安全な債
券とされました

◎ケーキを水平にカットするように、リスク率で3層にトランシェ
(分割)されて、毒がなくなった上位80%のMBSは、国債より高い配
当金利だったので、全米と世界の金融機関に、売れたのです。
↓
ウォール街に世界の銀行、機関投資家、年金基金の運用マネーが集ま
るようになりました。

【2000年からの、米国の住宅価格の高騰】
MBSが開発されたあとローンがふんだんに供給されたので、2000年か
ら2006年までに全米の住宅価格は、2倍に上がった(30万ドル:3600
万円:年間12%上昇)。

(注)日本の銀行も、1997年の金融危機のあとのゼロ金利の日本より、
金利がはるかに高いMBSを買って米国の住宅価格を上げたのです

90年代には、日本の1/2だった米国の住宅は、2006年には、日本より
高くなった。証券化の金融イノベーションでの、米国経済の「負債に
よる成長」になっていきました。

【C-MBS、R-MBS、CDS、ABSの開発】
MBSは、同じ方法で、オフィスや店舗用不動産のC-MBSも生みました。
このC-MBSと、住宅のR-MBSの発行残高は、10兆ドル(1300兆円)に増
え、全米と世界の、米国債(31.4兆ドル)につぐ、巨大証券です
(2023年)。

不動産ローンのMBSの方法は、不動産以外のローンの証券化に拡大さ
れ、他のABS(資産担保証券)の証券も生みました。

【債券の回収保険も、組みこんだ】
加えて、住宅ローン、国債、社債のデフォルトが認定されたとき、代
わりに支払いを保証するCDS(Credit Default Swap:債務の支払いを
保障する保険)が開発され、広範囲に販売されました。

「リスク確率+手数料」に相当する保険料を払うと、CDSがかかった
証券は、デフォルトのとき保障される。第三者がどの証券にもかけて
も販売ができる証券の生命保険です(CDS保険の売り手と買い手は、
金融機関です)。

【証券化されたデリバティブ】
以上の、C-MBS、R-MBS、CDS、ABSは全部が、金融の原資産から派生し
た証券つまりデリバティブです。

このなかで、金利が高く信用が低い「BBB級の低格付け債」を、MBSの
ようにまとめ、5階層くらいにリスクを分けて作った証券が、運用金
利の高いCLO(ローン担保証券)です。

◎デリバティブの開発により、ウォール街とロンドンのシティには、
世界のマネーが集まって世界に再投資される金融の中心になったので
す(金利と手数料収入の、世界金融のハブ港)。
↓
米国とロンドンは、デリバティブによって海外から流入したマネーで
成長する経済を作ったと言えます。

米国と英国では、金融の利益が、企業利益の20%を占めるようになっ
てきたのです。

■4.デリバティブの、第一次暗転がリーマン危機だった

ここからは、結果的に、信用偽装的になったデリバティブ金融の、第
1次の暗転です。

◎デリバティブ証券は、金融理論的には、偽装証券ではない。
デリバティブ証券の高い金利が、高いリスクを示しているからです。
↓
しかし投資銀行による販売の仕方(営業)は、CDSをかけたノンリス
ク証券といって偽装的です(特に、マッチポンプの性格がある,政商
のゴールドマン・サックス)。ノンリスクにするには、CDSの保険料
のコストがあったからです。

【金融の原理】
金融(ファイナンス=将来のマネーの売買)の原理論では、金利の高
さが、リスク率に相当します。

金利=リスク率、です。
ノンリスクの金融(将来マネー)はない。

◎FRBの利上げは、インフレ(=通貨価値の下落)によって、ドル国
債の価値の、将来リスクが高まったことを、FRBが認めたということ
を意味します。

例えば、ドル国債やドル預金のレートのヘッジをするときのヘッジ料
は、短期金利が5%に金利が上がったあとの現在、5%と高い。

これは円に対して、ドルが5%過大評価であるとヘッジをする金融機
関が見ていることを、示すものです。
↑
日本の、4%台より高いインフレ率(6%台)により、100ドル札の実
質的な価値は、円より大きく下がっているからです。

■5.サブプライムローンが端緒になり、MBSを全面下落させることに
なった

サブプライムローンとは、最初の数年、
・利払いの金利が低いか、
・ローン返済のない住宅ローンです。

ブッシュ政権の、2001年の9.11(同時多発テロ)の後の、米国経済の
不況の克服策として、3000万人の所得の低い移民に1000万戸の住宅を
与えるとして作られたローンです。

貸付の窓口になる住宅ローン会社は、そのローン貸付金を、MBSを作
る銀行やファンドに売るので、リスクは抱えません。
↓
自分にはリスクが及ばないので、「いけいけどんどん」と、サブプラ
イムローンを営業して貸付けたのでMBSを売ってマネーが流入した住
宅価格は、年率15%くらいで上がっていました。
◎失業者にも、無審査でローンがおりていたのです。

・最初は低い契約金利が、高くなる時期、
・ローン元本の返済が始まる時期には、
利払いと返済ができなくなる世帯が、増えます。
米国では3か月、ローン返済が遅れると、住宅を没収されます。

銀行は、担保にとった住宅(Foreclosure物件)を改装して売って、
ローンを償却します。このため、ローンのデフォルトが増えると、売
り物件が増え住宅価格は一層下落します。

MBSの開発・売却でマネーが増えて上がった住宅価格が、逆回転する
のです。

◎サブプライムローンのデフォルトが5%、7%・・・増えた始めたか
らとき(2016年)、
・CDSのリスクヘッジの保険料は高騰し、
・買い手が減って、住宅価格も下がったことから、
・AAA格のシニア債のMBS(80%を占めます)も下落したのです。

この時点で、安全とされていたMBSが、結果として「偽装証券」にな
ったのです。
↓
2008年には、MBSの市場での転売価格は、額面の60%に下落していま
した。国債並みに安全とされていた資産が、ひどいリスク証券になっ
たのです。

【保証保険のCDSは高騰した】
住宅価格は下がって、2006年までに金額が2倍に増えていた住宅ロー
ンデフォルトが増え
・債券の回収保険のCDSは高騰し、
・CDSを売って、補償を引き受けていたリーマン・ブザーズとAIGは、
たった2週間で破産しました(2008年9月15日)。

ここから「全米の銀行間の、短期貸し借りであるレポ金融」の停止に
発展していったのが,「リーマン危機と言われる世界的な金融危機」
です。

MBSの下落と、CDSの高騰で、自己資本をなくした銀行へのレポ金融の
停止が、複雑系の広がり方をしたのがリーマン危機です。

「住宅ローンのデフォルトの増加→住宅価格の下落→MBSの下落→
CDSの高騰→C-MBSの下落→ABSの下落」になって波及し、ノンスクと
して販売されたデリバィブ証券が、全面崩壊になっていったのです。
安全とさていた15mの津波の塀が、崩れたような感じです。
↓
米銀の全部が、時価での自己資本(約200兆円)を失っていました。
住宅価格がピークアウトした2006年から2年が経過していました。

【財務省と国民】
2006年からの2年間、財務省とFRBは、
1)金融危機はない、
2)デリバティブが金融を安定化させているという、逆のことを、言
い続けていました。

国民にとっては、2008年9月15日に突然、米国の金融危機が起こった
ように見えたでしょう。日本の財務省も、日本には、影響が皆無とし
ていたのです。

◎今回も、米国財務省、FRB、銀行がともに、米銀の信用は盤石と言
い続けています。

【日米とも銀行の自己資本比率は約5%】
日本の銀行の、現在の自己資本は、「リスク資産+時価評価していな
い安全資産(国債とAAA格の債券)」が、総資産の約5%の150兆円で
す。
↓
結果として銀行は、自己資本の約20倍を信用創造したレバレッジ(負
債)の金融機関です。米銀大手にも、ほぼ共通しています。

【世界の株価は、50%下落】
リーマン危機の後、日経平均も1万2000円から6000円へと米国株と同
じ歩調をとって、50%下がりました。

世界の株も50%下がりました。
世界的な金融のシステミックの、連鎖の危機になったのです。

【FRBの銀行救済:3兆ドルの対策】
FRBは、3兆ドル(390兆円)のドルを、
1)下がっていた国債とMBSを発行額面の価格で買って(担保にして)
金融機関に供給し、
2)全部の銀行に広がっていた、システミックな信用恐慌から救った
のです。
(注)信用恐慌は、銀行間金融(貸し借り)の、レポ金融の停止とし
て現れます。信用危機は、マネー量の減少になります。

【株価の底値は、リーマン危機後3か月:2008年12月だった】
米国株は、信用恐慌(マネー量の縮小)を回復させたFRBの3兆ドル
(390兆円)のマネー投入により、
・2008年12月には底を打ち(50%下落)、
・2009年から2013年の、4年間で約3倍に上がる「リーマン危機後の金
融バブル」に突入しました。(コロナショックとリーマン危機の比
較)
https://www.18shinwabank.co.jp/pdf/market_report/202004/mr_2004012.pdf

■6.根強いデリバティブ批判はあるが、デリバティブは減っていない

リーマン危機の後、米国が、負債を証券化して売るデリバティブ金融
の構造を変えることなく、量的緩和を行って、次のバブルを生んだこ
との批判は、13年ずっと、金融論の底では続いていたのです。

【バーナンキ】
リーマン危機の後、ドル増発の対策を主導したFRB議長のバーナンキ
は、2022年秋に、「あれは間違いだった」と講演しています。「CDS
をかけたMBS、ABS、社債をノンリスクという投資銀行の偽装的な営
業」を禁じるべきだったでしょう。

◎生命保険をかけても死亡率は変わらない。CDSをかけても、破産率
は下がらない。しかし今もデリバティブに精通した金融マンは少ない。
(注)本稿はこのためにも、書いています。

【最近のクレディスイスのAT1債は、2.3兆円がゼロ円になった】
クレディスイスの破産で、市場価格がゼロ円になった利回10%のAT1
債(CoCo債;劣後債の偶発転換社債)は、2.3兆円ありました。

これは、政府の資本支援があれば、価値がゼロになるという特約がつ
いたデリバティブでした。金融の専門家とされるファンドが「金利が
高い」という理由で、買っていました。「金利の高さ10%=破綻リス
ク高さ」とは考えることを、忘れていたのでしょう。

【トリガー条項があった】
国民は、トリガー条項を小さく書いた「見かけ上の金利が高い仕組み
債」の構造を、ほとんど知りません。

◎金利が高いことは、どんな工夫を凝らしても、破綻のリスクが高い
ということです。
↑
金融商品の、唯一の原理がこれです。
これを知っておけば、利回り偽装証券に誤魔化されることはない。

■7.事例:トルコの金利、インフレ、リラのレート

例えば、トルコの預金金利は、8.5%です。
株価は、過去1年で2.2倍に上がっているので、投資ファンドの期待利
回りは、年利で50.3%です。
これを買ったらいいと、言えるでしょうか。
https://www.a-tm.co.jp/top/securities/investment-trusts-simulation/01311969/

【40%のインフレと、リラ長期下落】
トルコのインフレは、現在40%と高い。
どんなにレートが下がっても、増刷を続けるトルコリラが暴落したら
利回りは消えます。

現在6.85円のリラは、2015年から2023年の8年間で13.7%に下がって
います。年間平均で14%の下落。こうしたリラのリスクの高さが、リ
ラ建て投資ファンドの、50.3%という至極高い期待利回りです。
(トルコリラ)
https://fx.minkabu.jp/pair/TRYJPY

リラと円のレートをヘッジすれば、たぶん、そのコストは40%台と高
くなるでしょう。

【ドルと円のレートの基礎にある、金利差】
◎10年債の金利が0.5%と低くても、金利4%のドルに対して130円台
の円は、ドルよりは、強い通貨です。仮に、ドル金利が2%に下がる
と、ドル/円は110円でしょう。

【金利が同じときの、ドル/円の、仮の想定】
仮にドルと円の金利が同じなら、インフレ率が高いドルは、90円が均
衡価格だと見ています。ただし、米国はドルの比較金利を高くして、
海外にドル売り(=海外のドル買い)をし続けなればならないので、
日米の金利が同じになることはありません。

1)金利が高い通貨は、そのレートを維持する金利(コスト)が高く、
本質的には、弱い通貨です。
↓
2)円とドルの金利が、過去も今後も、同じになることがない理由は、
対外負債が24兆ドルもあるドルは、海外(日本、中国、ユーロ、産油
国)から、ドル売りより多く、買い続けらなければならないからです。

◎「米国は、海外からドルが買われなければならないため、ドル金利
は円に対しては約1.5%から2%は、高くなります」・・・これが基礎
です。
↓
仮に、ドルの金利が円と同じなら、日本からのドル買いは減って、ド
ル/円のレートは、売買が均衡するまで下がります。そのレートは90
円付近と推計しています。円は0.5%という低金利のため、過度に低
いレートになっているのです。

【豪ドルと円の事例】
オーストラリアの賃金と物価は、日本の約2倍と高い。
スーパーで食品を買うと5000円は超えます。

これも、金利が0.5%の円が安すぎることを示しています(豪ドル=
88.1円)。豪州のインフレ率は7.4%と日本より高い。このため、リ
スクも示す豪ドルの金利は、豪州の中銀が抑えても3.6%であり、日
本よりは3ポイント高い。

G7は総じて、「高い金利=高い通貨=高いインフレと高い物価=高い
賃金」。日本は、逆に「」低い金利=安い円=低いインフレ率と安い
物価=低い賃金」です。

日本に一部が似ているのはスイスです。スイスは「低い金利(1.0
%)=高いスイスフラン(145.9円)=低いインフレ率(3.4%)と高
い物価=高い賃金(日本の3倍)」です。

■8.今回のREITの低下、C-MBSの先行的な低下

デリバティブの理論的な基礎は、推計の統計学です(リスクの確率計
算)。感覚的な理解が難しいデリバティブの、今回の結論を書きます。
金融商品(=未来のマネー)では、将来の価格を予想することが、結
論です。

(注)ファイナンス=未来のマネー:例えば株価の価値は、将来の価
格でしょう。現金=現在の価格、株価=未来の価格です。

【REIT】
REIT(リート:不動産投信)という上場証券があります。これも、金
融派生商品であり、商店、オフィス、ホテルなどの商業用不動産の、
「賃料-管理経費」を分配金(=金利相当)にするデリバティブです。

米国REITの平均分配金はREIT価格の2.9%くらいです。日本のJ-REIT
は利回りが米国より高く3.4%(原因、米国に比べた不動産価格の低
さ=約1/2)。

REITは、証券を小口で買うことができる不動産投資です。日本の、J-
REITの最低投資額は、5万円から50万円くらい(銘柄で違います)。
個人も、株のように買っています。

1000軒の賃貸アパートを分割して小口で持った気分でしょう。原資産
が不動産の賃貸料ですから、マネーの賃貸料(金利)が原資産である
銀行預金よりは高い配当金です。日本のJ-REITの配当金は、現在、3.
4%くらいです。

1億円のREIT投資で340万円。ただし、譲渡ができるREITの本体価格は、
不動産価格の動向により、株価のように変動します。

【米国のREITの下落】
米国のREITは、2022年5月がピーク(3000)で、現在は2250へと25%
下がっています。商業用不動産価格(オフィス)の25%下落を反映し
ています。

〔原因〕コロナ後に全米でリモートワークが増え、自宅から仕事をす
るので、社員が減ったオフィス用不動産価格は25%下がっているから
です。NY、サンフラン、ロスでは40%が、リモートワークです。日本
では、米国の半分以下の17.2%です。2020年5月には31.5%でしたが,
コロナの終息ともに約半分に減りました。
https://kabushiki.jp/market/indexes/MSIX202830

全米の住宅価格は、2021年までのゼロ金利と、FRBのマネー増発の残
り香から、まだ2.5%上がっています(23年2月)。21年には20%、
22年にも20%と、2年で政府とFRBのコロナ対策費が不動産市場に流入
し、43%も上昇していました。

住宅価格は、金融商品のなかで、もっとも遅れる遅行指標です。
22年6月の20%上昇から、23年2月は2.5%上昇へと急低下しています。
2023年の4月からは、いよいよ金融危機の本命である、住宅価格が下
落に入るでしょう。

住宅価格の20%以上の下落は、MBSの下落になり、銀行の資産を破壊
し、リーマン危機の状態を生みます。
(ケースシラー:全米20都市;住宅価格指数
https://jp.investing.com/economic-calendar/s-p-cs-hpi-composite-20-n.s.a.-329

大都市の商業用不動産の先行価格(-25%)は、不動産の約6か月から
1年の先行指標です。これは、C-MBS(商業用不動産ローン担保証券)
の25%下落になって金融に直結しています。

全米平均の、商業用不動産価格は、2022年4月が頂点で155でした
(2013年が100)。2023年3月1日現在、131へと、15%下がっています。
(注)リーマン危機のときは12%下がった時点で金融効きになってい
ます。
https://stock-marketdata.com/cppi.html

大都市ではリモートワークが40%に増え、金融とメガITの雇用カット
も、激しい。米国のオフィスの主な利用は金融業とITがしています。

米国の商業用不動産の価格が回復する要素は、現在、皆無です。逆に
下げが加速します。住宅価格は、商業用不動産の下落の、6か月後を
追うでしょう。

(注)住宅用のR-MBSと、商業用のC-MBSの合計は、10兆ドル(1300兆
円)あり、国債(31.4兆ドル)の次に大きな証券です。

商業用不動産の価格指数が30%下がったくらいから、銀行危機が、大
手銀行にまで広がるでしょう。2023年の年末からと見ています。
(注)2024年春には、ずれ込む可能性はあるでしょう。

C-MBSとR-MBSの価格からの、銀行危機の予想は、容易です。
C-MBSとR-MBSの価格下落が止まらないかぎり100%の確率で、津波の
ように襲う銀行危機になります。

C-MBSとR-MBS価格動向は、そうした意味を持っているのです。
日本の1990年~1997年の「資産バブル崩壊」からの銀行危機の本命も
不動産価格の下落でした。

日本の銀行危機の結果は、自己資本がなくなった都銀21行が、銀行の
機能を失って三菱、住友、みずほの3グループに減ったこと(=統合
されたこと)でした。

米国の広範囲な銀行危機は、ドル債券を1000兆円持つ日本の銀行に及
びます。

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