中央銀行がマネーを増刷する仕組みと、その信用の元になるものは何か?(1)
This is my site Written by admin on 2012年3月28日 – 09:00

おはようございます。4月が間近というのに、寒い日が続いています。
今朝は、春の嵐のような強い風雨です。つかの間の青空になります。近
くの池のねじれた老木は、蕾(つぼみ)を膨らませてはいますが、開花
はいつか。

PIIGS国債の、信用危機(2010年5月頃から)を起点とする金融危機は、
ECB(欧州中央銀行)による二度の資金供給(2011年12月と12年2月:合
計100兆円)によって、小康を得ています。

▼米欧の中央銀行の増加マネー:400兆円・・・若干長いプロローグ

【12年3月危機への対策】
ギリシア債の満期償還(145億ユーロ:1兆6000億円)が襲う12年3月危
機は、(1)75%と言われる債務カット、(2)30年債への切り替え、(
3)1300億ユーロ(13兆円)の資金援助枠によって回避されました。

しかし先週は、ギリシア30年債の利回り(金利)が、デフォルトを認識
し17%に高騰しています。ギリシア政府は5%を目標にしていたのです
。なお、債務カット(ヘアカット)率の詳細は、不明です。

公表がなく金額は不明ですが、デフォルトした国債(カットされた国債
)の償還を保証するCDSも、発動されています。

PIIGS債の、CDSによる保証を、数兆円の保険料(米銀の利益)をもらっ
て引きうけているのは、米国銀行です。報道では、米銀の、PIIGS債に
対するエクスポジャー(リスク引受)は100兆円分です。

PIIGSの3月危機は、以上のように回避されました。これによって株価が
上がっています。意味は、問題が今後に引き延ばされたということです
。

【1年に100兆円の国債償還が来る】
ギリシア債を含むPIIGS債は、残高が350兆円です(5ヵ国のGDPの約100
%)。長短国債の平均償還期間を3.5年とすれば、1年で100兆円(毎月
8兆円)の満期償還が次々に来ます。

国債の信用がデフォルト状態に落ちたギリシア債のように、金利が10%
以上に上がって、借り換え債の売却が困難になると、即刻、金融危機が
起こる地雷をかかえ続けます。

事実、ギリシア危機の回避後に、資金援助への期待から3月上旬までは
下がっていた(1)スペイン債の金利は6%台に、(2)イタリア債は5%台に
再上昇しました。

スペインとイタリア国債の、信用下落を意味します。両国の信用危機が
来れば、またECBがマネーを印刷するのか。印刷せざるを得ないでしょ
う。

【南欧の住宅価格の下落幅は、最大期になった】
スペインの住宅価格が、第4四半期に、前年比で11.2%下落しているこ
とが明らかになっています(12年3月26日)。加えて、スペイン政府が
出していた、財政再建策(政府の赤字削減計画)に、実行への疑念が生
じています。

南欧では、住宅価格の下落は現在が最大幅です。これが、住宅ローン証
券のデフォルト率を上げ、銀行の含み損を現在進行形で増やしています
。

幾度も出されたPIIGSの政府赤字の減少策は、半年後には、「実現でき
ない」ものだったということを繰り返しています。

【政治的な危機も想定されている】
12年4月末のギリシアの総選挙で、野党が勝利し、国民に窮乏を強いる
「財政再建計画(現政府)」がご破算になると、再びのギリシア危機で
す。

  〔参考:民主国での財政再建の難しさ〕
財政の再建は、政府の支出をカットし、増税することです。国民の年金
と公務員の給料が、ほぼ30%は減ります。このため、国民の多くは反乱
するのが普通です。自分がリストラを受ける側と想定すれば、分かるで
しょう。

個人にとっては、財政の赤字より、自分が受け取る年金、給料、そして
払う税金が問題です。一般に、民主国では国民に困窮を強いる財政再建
策は計画を幾度作っても、実行が難しい。選挙で、政権の転覆があるか
らです。日本や米国も、同じです。

わが国で財政再建の必要が強く言われたのは、1995年の橋本内閣からで
す(消費税を3%から5%に増税)。その後、構造改革を唱えた小泉内閣
を経て、17年です。

内閣は、自民の安倍・福田・麻生、そして民主の鳩山・管・野田と6年
で6回変わっています。いずれの内閣も、唱えていた財政が再建されま
したか? 逆に、国債発行は増え続けました。

【銀行間の、短期金融市場の消滅が続いている】
◎ユーロにおける銀行間の短期信用の供与は、事実上、停止したままが
続いています。

理由は「取引の相手銀行が、本当のところ、どれくらいの不良債券を抱
えているのか分からない」からです。

銀行、証券、保険を含む金融機関にとって、短期の信用市場の消滅は、
死に等しい。企業で言えば「商品の仕入(信用で行います)ができなく
なった会社」に相当します。

短期資金を銀行間で調達できないと、予定の決済に対しマネーが不足す
る銀行が生じます。期日に支払いができない銀行は、企業と同じように
倒産します。銀行は、相互に貸し借りをしているので連鎖倒産が生じま
す。

マネーの不足から銀行に連鎖倒産の可能性が生じると、損をするのを嫌
う国民から預金取り付けが起こり、瞬く間に広がって、預金を貸付金や
証券購入として運用している銀行システムが(一晩で)崩壊します。

取り付けの対策は、中央銀行が印刷したマネーを、皆に見せるためにト
ラックで銀行に運ぶことです。過去は、裏面の印刷が間に合わない紙幣
が使われることすらもありました。

その後、預金が現金になって世帯と企業に溢れた経済は、高いインフレ
率(=マネーの購買力の下落)に向かいます。

1000万円の金融資産が、1年後は500万円の価値しかない、いや300万の
価値・・・と無効化して行きます。(注)これを防ぐために、預金の引
き出し額を制限する法令が、ほぼ必ず作られます。

こうした事態を防ぐため、欧州中央銀行(ECB)が、期間3年で無制限に貸
すと宣言しています(57兆円枠:2011年12月)。会社に支払い資金が不
足するとき、メインバンクが無制限に貸すという宣言をしているのと同
じです。

【無制限のマネー供給を表明】
◎「理由が何であれ、PIIGS 5ヵ国の政府、および国債を持っているユ
ーロの銀行に、資金不足が生じるなら、全部の不足分を、ECBが貸し付
け、危機は回避する」という解決策が取られたのです。以上が、3月危
機回避の顛末でした。

◎いつまで、こうした危機が続くのか?

(1)銀行が、(本当の)利益を回復する時期、
(2)銀行間の、短期資金市場が回復する時期、
(3)米国と南欧の、住宅価格が上昇に向かう時期、
(4)PIIGS5ヵ国に、財政再建(政府支出のカットと増税)への方向が
、明確に見える時期まで、です。

以上4項目の、今後の推移を、公表データから読めば分かります。

【銀行の本当の利益】
銀行の利益に(本当の)と書いた理由は、不良債券をどの程度償却した
あとの利益であるかが問題だからです。

銀行の資産は、4半期に公表されるバランスシートでは分かりません。
わが国の金融危機(1998年)のときも、銀行の不良債券の自主申告では
実態の損の30%もなかった。米欧の銀行にも、これが共通します。

金融業にとってオフショア(無規制のタックス・ヘイブン:世界で100
カ所:元本資金$18兆:1440兆円)を使うのは普通のことです。

投資顧問業のAIJのように、数年、含み損や実損を隠した報告もできま
す。世界の銀行資産1/3は、オフショア経由で送金されたものです。(
ニコラス・シャクソン『タックス・ヘイブンの闇』:オフショア金融の
元本資産は$18兆(1440兆円):IMF報告)。

現在は、中央銀行のマネー印刷と、緊急貸付による「藁(わら)の上の
回復」です。藁の下をめくれば、不良債券の穴が空いています。この藁
が、堅固な鉄板であり得るかとうか、本稿で検討します。

【総額で400兆円】
2008年9月のリーマン・ショック以後、米国FRBは200兆円の信用膨張(
=マネー印刷と金融機関への貸付)をし、世界の連鎖的な金融危機を回
避しました。同時に、欧州ECBは、100兆円付近のマネー印刷と、金融機
関への貸付けをしています。

この300兆円が、金融機関の損害による不足資金を埋め、残余が米欧の
銀行とヘッジ・ファンドの投機に回ることを通じて、
(1)2009~11年春までの株価回復(ダウ$6500→2011年4月=$1万300
0と2倍)と、
(2)資源価格の再びの高騰(原油$40→2011年4月=$115)がもたら
されました。

世界の株価を代表するNYダウの底値は、リーマン・ショックの6ヶ月
後につけた09年3月の$6500でした。原油価格は、同じく08年の$133の
高値から、09年3月には$40まで下落していました。

両者は、PIIGS危機が深刻化する直前の2011年4月には、2~2.5倍に上
がっていたのです。これが[藁(わら)の上の回復]でした。

(注:重要)消費者物価で示される商品価格の上昇は、これほどではあ
りません。理由は、GDP(5000兆円)の3倍に増えている世界のマネー・
ストック(1京5000兆円)のうち、GDPの商品購買に向かうのは、その1
/3の5000兆円だからです。

2/3の1京円分は、株・債券・証券のような金融資産の売買に向かいま
す。

このため、中央銀行が、マネーを増加印刷し、それが銀行を通じてヘッ
ジ・ファンドに流れると、2010年から2011年4月のように、
・株価(NYダウでは底値から2倍)と、
・資源相場(原油では底値から2.5倍)が上がります。
・ただし、不良債権を作った本命の住宅価格は回復していません。

【出口政策を言ったが・・・暗転した】
こうした株価の回復と資源価格の再上昇を見て、欧州ECBが、マネーを
絞って金利を上げる「出口政策」すら言っていたのが2010年から2011年
4月でした。

マネーを絞るとは、銀行に貸し付けていた資金を、中央銀行が回収する
ことです。

ところが、2010年5月から蠢(うごめ)いていたPIIGS債の下落危機(=
売られて金利が高騰した)が、2011年5月に、深刻化しました。

そして、2011年8月には「藁の上の回復だった」として、世界の株価が
、同時下落しています(約20%)。

今回の対策は、欧州ECBによる100兆円のマネー印刷でした。

◎この3年半で、合計では400兆円付近の中央銀行マネーが、米欧の金融
機関に貸付けられています。この貸付金400兆円が、1929年~33年のよ
うな世界大恐慌の再来を防いでいます。

【400兆円は貸付金である】
なお、中央銀行のマネー印刷は、そのマネーを、金融機関や政府にタダ
で献上するものではない。あくまで貸付金です。

銀行、証券、保険会社、資金繰りの危機に陥った政府の、中央銀行から
の負債が、400兆円分膨らんでいます。銀行の負債と含み損は、その後
の、自分の利益でしか消すことはできないのです。

利益を出すのに手っ取り早いのは、薄商いになっていた世界の株を買い
上げることです。事実、英米系の銀行とヘッジ・ファンドは、同時に、
世界の株を、中央銀行の印刷マネーで買って、上げています。

日本の株式市場では、これが、
・2012年1月末からの外人買いと、
・日銀の資産買い受け基金による覆面買いです。

米欧の株式市場でも同じです。中央銀行のマネー印刷によって、2012年
の2月~3月相場ができたのです。

▼本稿のテーマ

本稿では、中央銀行の紙幣印刷が、何を根拠に(what)、どう(how)行
われるようになってきたかを検討します。

目的は、今後の金融・経済への「確たる見通し」をつけるためです。こ
のためには、中央銀行の紙幣印刷が、どの程度、どこまで有効か検討せ
ねばならない。

普通は、疑問に思わないことかも知れません。しかし、中央銀行の紙幣
印刷がどこまでも有効と人々に認識され続けるなら、金融機関の危機と
政府財政の破産は、普通の状態ではあり得ないことになります。

中央銀行が、銀行と政府にマネーを貸せば、(先送りではあっても)当
面は危機が解決するからです。事実、この3年半、400兆円のマネー印刷
を原因として、世界の金融危機は回避されています。

何回か述べていますが、現代のマネーは、コンピュータの中の数字(記
号)です。具体物である紙幣の印刷は、銀行の預金取り付け以外では、
行いません。

中央銀行がキーボードを叩き、貸付金、債券購入、債券担保の代金とし
ての金額数字を、金融機関と政府がもつ当座預金の口座に、振り込みま
す。金融機関と政府が中央銀行にもつ当座預金の金額が増えるのです。
このため、具体物である紙幣が、経済の中で増えたという感じはない。


全体で30ページになって送信限界を超えました。

以下の目次の分は、このメールのすぐ後に、<584号:中央銀行がマネ
ーを増刷する仕組みと、その信用の元になるものは何か?(2)>とし
て送ります。

お楽しみに・・・
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<584号:中央銀行がマネーを増刷する仕組みと、
                     その信用の元になるものは何か?(2)>
                    2012年3月28日号

【目次】

1.最初に、ユーロの中央銀行の仕組みから
2.中央銀行のマネーはどこから来るか:その発祥
3.ジョン・ローが作ったフランス王立銀行(1716年~)
4.『貨幣論』のケインズが言うこと
5.中央銀行のバランスシート
6.国債が通貨(紙幣)の根拠であることは何を意味するか
7.通貨の増発の意味
8.日銀のインフレ・ターゲット1%が実現すると・・・

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(以上)



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