世界恐慌を振り返れば、将来が見える(2)
This is my site Written by admin on 2012年1月25日 – 09:00

おはようございます。雪混じりの寒冷と大気の乾燥が、続いています。
お元気でお過ごしでしょうか。

【拙著のこと】
正月明けから約2週、アマゾンなどのネット書店と街の書店で、同時に
在庫欠品が続いていた『国家破産:これから世界で起こること、ただち
に日本がすべこと』はやっと増刷されました。1月の27、28日からアマ
ゾン・楽天・紀伊国屋等のネットや、書店に並ぶとPHPから聞いていま
す。

当方にも問い合わせをいただき、申し訳なく思っています。アマゾンで
は、中古本に、定価(1995円)を超える2800円~3100円の価格がついて
います。この価格で、たぶん少数でしょうが、売れているのを見るにつ
け、「高買い」のご迷惑をかけていることに対し、忸怩(じくじ)とし
ていました。高く買って下さった方に、申し訳ない思いです。

400ページの大部(9章)であること、価格が高いことのため、初版の部
数が少なすぎたことが原因です。1日に210冊(年間5万種)も新刊が出
る単行本では、250ページ以上で1500円を超えると、一般に、高いとさ
れるようです。

わが国は、日本語の書籍マーケットが、英語圏の10億人が顧客になる米
国に比べはるかに小さい。しかし新刊は、年5万冊と多い。

粗製乱造を感じます。書籍と雑誌を、たぶん10倍くらい多く買う読者の
1名として、長年思うことです。数ページで読むのをやめるものが、と
りわけ経済書で多い。当方の推計では、本を多く買う習慣がある人は、
わが国で10万人(人口の0.1%)でしょうか。

約10年、出版に対し、熱心ではありませんでした。書くときと、書店に
並ぶ時期が開きすぎること、編集の過程に嫌気がさしていたこと理由で
す。

今年は、少し、紙の本も書こうかという気になっています。集中し、ス
ピーカー工作などをやめて頑張れば、2ヶ月に1冊くらいまとめることが
できるか・・・

本とメールマガジンの違いは、本はページ数が多いため深書き(当方の
固有語)ができることです。一度に、根拠を網羅することができます。


このメールマガジンも、一般的に言えば「長すぎる」のを、意識してい
ますが、「前提となる事実→認識→論理→結論」まで、毎回、確保しよ
うと努めると、つい長くなってしまいます。

                               *
▼テーマに関連するプロローグ

「ユーロ債の1-3月危機」は、昨年12月末からの、ECB(欧州中央銀行)
による「中期債の買いオペ(言い換えればマネー印刷:4890億ユーロ)
」によって、落ち着きを見せています。

欧州の銀行の資産内容に対しては、市場の懸念が強い。
このため、
・満期償還が6ヶ月内の短期債には買い手があっても、
・1年を超える長期債は、市場(買い手)が、その間の損失リスクを感
じているため、売れないのです。

満期が6ヶ月以上の、銀行債券が売れないという事態は、「大変」です
。銀行の資金繰り(過去の債務の償還と利払い)にとっては必要な資金
です。長期債が売れ残れば、長期金利が上がり(債券価格は下がり)ま
す。

金利が上がれば、ユーロ債は、再び大きく下落します。結果として、ユ
ーロの金融危機は、恐慌への突入に近くなって、深刻化します。
ギリシア、スペインの20%を超える失業率は、すでに、実体経済(GDP
)の準恐慌を示しています。

資金繰り難になると、銀行は優良な格付けのユーロ債(ドイツ債やフラ
ンス債)も売りに出ます。償還のために、資金が必要だからです。そう
なると、ユーロ債全体が下げ、金利が上がるという、スパイラルになっ
て行きます。

▼4890億ユーロのマネー供給があった

これを防ぐため、ECBによる、PIIGS中期債(期間3年)の約49兆円枠(4
890億ユーロ)での買いが始まったのが、2011年12月でした。

中央銀行が、直接に国債を買うことはマネーの増発です。ECBが49兆円
枠で、この緊急マネー印刷を実行したため、「1-3月危機」に対し、債
券ディーラーの落ち着きが見られます。

この落ち着きによって、ユーロ株の指数は、11年12月の980から、1月24
日は1040へと、6%上昇しています(FTSEユーロファスト300種)。

・7.3%(年初)だったイタリア長期債の金利は、6%へ下がり、
・6%だったスペイン債の長期金利も5.5%に下がっています(FT紙:1
2.01.25)。

連れて、米国のS&P500種は、1250(11.12)から1300へと4%上がり、
日経225種も1月末に向かい、8400円から8800円付近に5%の上昇を見せ
ています(12.01.24)。

年初からの株価上昇の理由は、ユーロの、過去の国債の償還(3ヶ月で2
820億ユーロ:約28兆円)が始まることによる1月危機が避けられたと見
ているからです。

ユーロ債市場の焦点は、まだ対策がない「12年3月の国債償還の危機」
に移ってきました。

【ユーロ危機】
ユーロ危機では、
・民間債券(住宅ローン証券、債券、融資価値、株価)の下落だった米
国の金融危機(08年9月~)とは異なり、
・政府部門の「国債の下落(=PIIGS国債金利の上昇)」が、加わって
いることが特徴です。

このことから、リーマン・ショック(08年9月~)の、2倍の危機とも言
われます(ジョージ・ソロス等)。2倍とはどんな意味か?

リーマン・ショックのあと、IMFが2010年5月に試算した米国と欧州の不
良債券額は、約500兆円(米国300兆円+欧州200兆円)でした。

500兆円の不良債権額は、米欧の主要な民間銀行の自己資本の合計(約2
00兆円)を消してしまうに十分です。

放置すれば銀行の信用リスクが高まって、数ヶ月内には、「流動性の危
機(決済に必要な資金が足りないこと)」が生じます。資金繰りのため
、金融機関からは一層証券が売られ、融資が回収されます。

これが実体経済の信用収縮、言い換えれば、民間経済の投資と商品購買
に必要なマネーの不足を生みます。

結果は、設備投資及び生産と商品販売の大きな(数10%の減少)になる
。これが恐慌への兆候です。生産と販売の減少は、失業の20%以上への
増加になって、企業は赤字になり、総世帯の所得も20%は減少します。


【$5兆(400兆円)のマネー供給:2010年まで】
以上を防ぐため、米国のFRB、欧州のECB、そして米欧の政府は、2010年
までの合計で$5兆(400兆円)の対策費を出していました。方法は「貸
付」です。この400兆円の対策費によって、2009年、2010年、2011年の
恐慌が回避されています。

[中国]米欧への輸出の増加が急減した中国も、緊急に50兆円の政府・
人民銀行のマネーを注いで、大不況を避けようとしました。

[日本]日本も、08年9月以降、日銀が109兆円(11.08.12)だった金
融機関へのマネー供給額を、133兆円(12.01.20)へと、約3年間で24
兆円(24%)増やしています。

これらを、最後の貸し手である中央銀行の「信用拡張」と言います。

▼中央銀行がマネー増発しても、増えない民間のマネー・ストック

日銀の24兆円の増加マネーは、銀行部門による「新規国債の購入」に当
てられています。日銀は、銀行にしか貸すことはできないのです。この
ため長期国債の金利は、外人の買い超と重なって、1%以下と低い。

日銀による24兆円の増加信用は、民間経済の「マネー・ストック」の増
加にはなっていません。このため、経済(投資と商品購買)が浮揚して
いない。金融機関が、民間のリスク資産(株)購入と、企業融資の増加
をしていないからです。

●注目すべきは、2011年は、わが国の都市銀行部門が、外人の買い超と
はまるで逆に、日本国債の買いを増やしてはいず、まだ少しではありま
すが、売り超になったことです。

国債市場は、2010年までと、様変わりしています。 この肝心な点を、
経済マスコミは報じていません。(日本証券業協会の、投資家別の公社
債の売買額:2011年)
http://www.jsda.or.jp/shiryo/toukei/toushika/index.html

[原因]将来のGDPの成長(=投資と商品の購買量の増加)を、企業が
低く見ているため、設備投資の増加をせず、商品生産量を増やさない。


このため、総体で言えば、わが国250万社の企業は、借入金を、1年に約
20兆円も減らし続けています。これが民間のマネー・ストックが増えな
い原因になっています。

(注)1929~33年の世界恐慌においても、銀行の損失が招いた民間マネ
ー・ストックの約30%の減少が、実体経済の大不況を招いています。(
『大収縮1929-1933』:ミルトン・フリードマン&アンナ・シュウォー
ツ)  この件は重要なので、後述します。

【国債危機】
08年9月からのリーマン・ショックに加え、2010年からは、PIIGS国債を
中心とした、国債の下落が加わっています。

このため、民間債券の下落だったリーマン・ショックに対し、ユーロ危
機は、世界に対して、2倍の危機(民間債券危機+国債危機)と言われ
ています。

2011年12月の、欧州ECBによるユーロの印刷枠(50兆円相当)は、危機
の一里塚の対策でしょう。

(注)現在は、紙幣の印刷はしません。経済取引の決済は、ほとんどが
コンピュータで行われるので、デジタルマネーになっています。このた
め中央銀行のマネー印刷は、金融機関の債券を買い、その口座にデジタ
ル数字を振り込むことです。中央銀行の「資産・負債」の増加(=バラ
ンス・シートの金額の膨らみ)が、マネーの増加量です。現金紙幣は量
が少ない。個人や企業の預金もデジタル数字です。このデジタルマネー
が、現金紙幣として引き出されれば、取り付けであり、即刻に、銀行の
破産と世界恐慌です。

1929年から1933年の世界恐慌の経緯を調べると、現在が、一里塚である
ことがわかるのです。ECBの、50兆円枠のマネー印刷(11年12月~)で
収まるのではなく、先の展開があるという意味です。

  本稿は、増刊+正刊として、送信限界の26ページです。
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<574号:増刊+正刊:
            世界恐慌を振り返れば、将来が見える(2)>
               2012年1月25日号

1.1210兆円の、不良債券の根雪の上を、中央銀行と政府マネーの500兆
円が覆っているのが現在
2.日銀が集計した、日米欧の資金循環表
3.米欧の金融機関に必要な、自己資本額の計算のために
4.日本、米国、ユーロの官民の金融資産合計は、1京2919兆円
5.1929~1933年の大恐慌のときは、どうだったか?

【後記:外人の日本国債買い】

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■1.1210兆円の、不良債券の根雪の上を、中央銀行と政府マネーの500
兆円が覆っているのが現在

2008年9月以降の現在が、どんな状態かを見るために、以下の損失の推
計と、政府・中央銀行によるマネー注入の金額を見ます。

▼デリバティブに隠れた総不良債券の推計(1120兆円)

昨年、BIS(国際決済銀行)による、デリバティブ(金融派生商品)の
価値の統計から推計し、米欧の金融機関が、デリバティブとして、子会
社やタックス・ヘイブン(租税回避地)に飛ばしたままの損失が、$14
兆(1120兆円)であることを示しました。

(拙著『国家破産』P172:08年12月の、デリバティブの価値の減少です
。08年12月の$35兆が、10年12月の$21兆へ、価値が下がっていること
からの推計。08年12月分は、統計から消えています。)
http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf

【デリバティブでの損と利益】
BIS統計でのデリバティブ価値は、金融機関の間で、相対(あいたい)
で行われている証券の価格を示すものです。(これをOTC:店頭取引とい
う。店頭上場株の取引とは、意味が違います。)

デリバティブの店頭取引は、ごく少数の人(協会員)による密室での約
束です。書類もないことが多い。市場には見えません。一般の人も参加
できる株や債券市場のように、日々価格がつく「公開市場」はない。こ
のため、損失の総体が、見えないのです。

同時に、金融機関のバランス・シートからも、オフ・バランス(簿外)
とされるものが多く、損失は隠れます。銀行自身も知らず、担当者だけ
の関与であることが多い。シャドー・バンキングとも言います。

◎利益は、資産を時価評価すれば自己資本を完全に失っている金融機関
にとって、喉から手が出るくらい欲しいので、四半期の損益計算書に、
計上されます。

このため、損失の計上が、(お互いの話し合いと相互の飛ばしで)先送
りされ、利益部分が計上されています。

08年9月以降、「米国の、主要金融機関が利益を回復した」と報じられ
たのは、損失を飛ばしたまま、利益だけを計上しているからです。

たとえば、米国の金融機関は、下落したPIIGS債にかけたCDS(100兆円
)の保証を引きうけています。PIIGS債のCDSだけでも、数十兆円の損が
生じているはずですが、その確定は、「先送り」されています。

他方で、PIIGS債を額面の2%程度の保険料を払って買っていた金融機関
は、その損と同額の利益を、計上しています。

▼1120兆円の損の根雪

2008年のリーマン・ショック以降、米国と欧州の主要金融機関は、合計
で$14兆(1120兆円)の損失を、簿外に飛ばしたまま来ていると見てい
い。まず、この1120兆円の損です。

【住宅ローン関連が、もっとも大きい】
損の中で最も大きなものは、
・米国の住宅証券とローン融資($11兆)と、
・欧州の住宅証券(推計$10兆)、
合計で$21兆(1680兆円)の、ほぼ50%以下の時価へ下落によるもので
す。これに比べれば、PIIGS債での下落損は、はるかに小さい。

住宅ローンの償還金と金利を担保に組成されたデリバティブ(MBS:Mor
tgage Backed Security)の、米欧での店頭市場での時価は最上級のAAA
格でも、額面の43%です(FT紙:11.12.21)。

わが国の農林中金もMBSを買って、2009年に5兆円の含み損(どう処理し
たか不明)を出したことが露見しています。

米欧の住宅ローン債権($21兆)の全部が、証券化されているわけでは
ありません。米国(住宅ローン額$11兆)で証券化されたもの(つまり
MBSやRMBS、及びABS)は、ほぼ50%とされています。

こうした$5兆の住宅ローンの債権から生まれる年間配当額を保証して
いるのが、ファニーメイと、フレディマックです。証券化されていない
$6兆も、当然に、銀行の債権です。

◎MBSの額面に対する最近の価格(43%:FT紙:11.12.21)から推計
して、MBSのみならず、米欧の全部の、住宅ローン債権の時価が、額面
($21兆)の43%、つまり$9兆にまで下落していると見ることができ
ます。

米国と欧州の住宅価格が、再び上がる時期にならないと、(絶対に)住
宅ローン証券の市場価格は回復しません。

2011年の米欧の住宅価格は、下がる程度は減ったといえ、特に欧州(南
欧)で下落を続けています。

以上から、米欧の銀行の、住宅ローンに関連した損失(時価)は、$9
兆(720兆円)と見ることができます。これらの損失は、「MBSと住宅証
券は時価評価しない(政府の危機策)」として、隠れているのです。

【FRBによる額面金額での買い取り】
米国FRBは、資金繰りと損失のため特に困って新規の社債が発行できな
い銀行から、MBSを「額面」で買い取っています。

額面で買うことは、「超過利益」の供与です。金額は$8528億(68兆円
)です(12.01.18) これも、銀行への資金供与の一部です。FRBはい
ずれの時期か、このMBSを、買った銀行へ売り戻さねばならない。
http://www.federalreserve.gov/releases/h41/current/

住宅ローン証券を含む総損失($14兆:1210兆円)に対し、
・米国と欧州の政府・中央銀行が、08年から10年に$5兆(400兆円)を
貸付け、
・2011年に、欧州の政府・中央銀行が、PIIGS債の対策費として、追加
で$1兆(80兆円)を注いだと見ていいでしょう。

含み損1210兆円-(対策費400+100兆円)=720兆円です。

以上の意味は、
(1)今日も、米欧の金融機関は、$1210兆の含み損を抱え、
(2)09年、10年、11年の決済に不足した$5兆(400兆円)は、米欧の
政府と中央銀行が、緊急に貸し付けているということです。

【対策資金は、貸付金】
損失は、ギリシア債のように債務のカット(=他の金融機関の損の確定
)がない限り、消えません。

政府・中央銀行の対策資金は、貸付金です。公的な貸付金は、銀行にと
って、近い将来、返済すべき負債です。当面の資金繰りは助かりますが
、自己資本の回復ではない。資本は、税後利益の蓄積か、増資以外では
回復しません。

【日本の銀行の事例】
日本の銀行は、1997年時点で100兆円の損失(公称)を抱えました。こ
れが、1997年からの金融危機でした。このため21行もあった都銀が、20
00年代に、3つのメガバンクに統合されています。

政府、中央銀行は緊急に貸し付けましたが、それは、銀行の自己資本の
回復ではない。

[銀行が利益を出すための対策が、ゼロ金利だった]
日銀が、銀行の救済のため、短期ゼロ金利策を敷き、預金金利(銀行に
とっての資金コスト)をほぼゼロにして以来、約15年です。

銀行の、企業への融資(貸付)の金利は、ほぼ1.5%です。このため銀
行に、資金量1000兆円×1.5%×15年=225兆円の超過利潤が生じたと
言えます。

資金に対する事務コストは1%付近ですから、資金量1000兆円×0.5%
×15年=75兆円の業務純益で、やっと、100兆円の損を75兆円分回復し
ています。

米欧も、金融危機(=銀行の自己資本危機)からの回復には、日本のゼ
ロ金利の15年のような「長期」がかかります。

(注)2010~11年は、日本の銀行・生保・証券会社・基金には、外債(
ドル債)の約20%の低下(為替差損)で、約100兆円の含み損が生じて
いるはずです。

わが国がもつ対外資産は563兆円(主はドル債)もありますが、政府(
財務省)が外貨準備として100兆円くらいをもつので、民間分は460兆円
です。

[460兆円×20%のドル安=円換算で、92兆円の為替差損]です。これ
は、日本の金融機関の、未確定の含み損でしょう。この一端が、野村証
券に見られる危機です。海外での取引が多かったからです。
http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/22_g.htm


【銀行の破産は、少ないが・・・】
現在は、1929年~1933年のように不良債券額は大きくても、銀行の大量
破産(商業銀行の20%が破産し、預金を凍結した)のような事態にはな
っていません。

上記の米欧と日本のように、政府・中央銀行が、金融機関が破産状態に
なって決済ができなくなる前に、緊急の貸付と債券の買い取りをしてい
るからです。この点が、1929年~33年との相違です。この金額が、米欧
の3年間で$5兆(400兆円)ということです。

銀行の預金が、取り付けを防ぐために凍結(あるいは引き出し制限)さ
れてはないという意味で、政府・中央銀行のマネー増発効果はあります
。

ただし、そのためにこそ、今度は、政府の負債である国債に、危機の対
象が移っているのです。国債のリスク証券化は、1929年~33年にはなか
った新しい事態です。

以降で、銀行の危機の内容を、マクロの数字から言います。

■2.日銀が集計した、日米欧の資金循環表

日銀のサイトで、興味深い表を見つけました。2011年12月に掲載されて
います。

日米欧の資金循環の対照表。これを読むと、現在の金融危機の本質が分
かります。以降で、この表を元に、金融機関の損が、実体経済のマネー
・ストックを減らす経済危機になる関係を述べます。
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf

詳細を書くと長くなるので、単純化し端的に示します。

(注)1929年~33年の大恐慌の分析(『大収縮1929-1933』)では、マ
ネタリストとされるミルトン・フリードマンは、銀行の不良債券の増加
による、民間のマネー・ストックの30%の減少が、大不況をもたらした
という観点を示しています。これが、数多(あまた)ある恐慌論の中で
、もっとも正しい分析に思えます。

▼日本の資金循環(2011年9月末)

【官民の金融機関の資産と負債】

以下の、わが国の全部の、金融資産(2617兆円)と負債の対照表で、
・資産は金融機関による資金運用(=資金の使い方)を示し、
・負債は、資金の調達(預金等の借り入れ)を示します。
日銀の元の表は、%で分かりにくいので、金額に直します。

(注)わが国全部の金融資産(2617兆円)の持ち手は、世帯(約1450兆
円)、企業(約750兆円)、及び公共機関(約400兆円)です。

【(1)預金取り扱いの金融機関:資産1544兆円:負債1556兆円】

     資産勘定 1544兆円        負債勘定  1556兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・現金&預金  183兆円       ・預金預かり   1203兆円
・貸出        655兆円       ・借入金        157兆円
・債券保有    498兆円       ・株式&出資金  52兆円
・出資金       26兆円       ・債券(主は社債) 52兆円
・その他資産  183兆円       ・その他負債    103兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

わが国の銀行部門は、預金(持ち手は世帯、企業、政府)を1203兆円預
かり、預金以外の負債が353兆円(借り入れ金157+株&出資金52+債券
52+その他103兆円)であって、総資金量は1556兆円であるという意味
です。

この総資金のうち、154兆円は、手持ちの現金と、海外を含む他行への
預金になっています。

(1)貸出は655兆円、(2)国債を主にして、持っている債券が498兆円
であり、(3)出資金が26兆円、(4)その他の運用が183兆円であると
いうことです。

この1556兆円の資産に対し海外業業務を行うなら最低でも8%の自己資
本が必要とされます(BIS規制)。1556兆円×8%=125兆円です。この1
25兆円が、わが国の銀行部門に最小限でも必要な、自己資本の合計額と
見ていいでしょう。

(注)主要銀行は、自己資本比率で8%を下回るような決算書を示しま
せん。取り付けが起こるからです。金融庁も意図して、見逃します。

以上の意味は、
・貸出金の655兆円に含む不良債権が増え、
・保有する債券498兆円の時価価値が下がると、実質的な自己資本がそ
の損の分、減少するということです。

わが国の銀行で、総資産の1%(約15兆円)の損が確定すれば、銀行は
、[15兆円の自己資本の減少÷8%=187兆円]の、総資産を圧縮せねば
ならない。

これは、187兆円の、
・リスク資産である融資の回収、
・保有株の売却、
・社債等の、証券の売却の必要になります。

必要な自己資本比率を8%とすれば、銀行の確定損失額の12.5倍の、民
間経済のマネー・ストックの減少になります。これが、金融危機から生
じる総信用の収縮です。

具体的に言えば、日本の銀行で(1)融資の劣化、(2)国債を含む証券
の下落、(3)株の下落、(4)外債の下落(=円高)で、30兆円(総資
産の約2%)くらいの損が確定すれば、30兆円×12.5倍=375兆円もの
信用収縮になります。これが、世帯と企業の、使える預金を減らしてし
まうのです。

ここから、実体経済の大不況(投資と商品購買の減少)になる。
マネー(=信用)の増加も乗数ですが、減少も乗数です。

ドル安も、銀行がもつ外債の、円の価値を減らします。

[金融機関がもつドル債とユーロ債の問題]
1990年代からは、国際的な資金移動が増えています。金融機関の保有債
券に含まれる対外資産(主はドル債)が563兆円(10年12月末)と大き
な日本は、通貨の下落(ユーロとドル)が、銀行資産を直撃するように
なっています。

【(2)生命保険・年金が455兆円】
上記の「預金取り扱いの銀行」以外に、金融資産を扱うところとして、
生命保険と年金基金があります。

「生命保険+年金基金」は、
・世帯から預かった負債が445兆円であり(=積立金)、
・その運用が455兆円です(債券保有261兆円+株と出資その他が234兆
円)。

保険もソルベンシー・マージン(端的に言えば、当年度の支払い予定額
に対する支払い能力)が200%は必要とされます。2年間で予定される支
払いに相当する流動性資産を持たねばならないという意味です。

【(3)その他の金融仲介機関:資産602兆円:負債654兆円】
今回、取り上げた資金循環表で言う「その他の金融仲介機関」は、日銀
を含む、公的な金融機関です。

負債が580兆円であり、資産は584兆円(貸出金417兆円+債券保有52兆
円+出資金等26兆円+その他資産148兆円)です。

以上が、わが国の金融機関(銀行、生保、年金基金、政府系金融機関)
がもつ資産と負債です。

▼まとめ

内訳は、
(1)の銀行→      [資産 1544兆円:負債 1556兆円]
(2)の保険・年金→[資産  491兆円:負債  480兆円]
(3)の政府系金融→[資産  584兆円:負債  580兆円]です。

わが国全部の、金融機関から見た資金循環上の、
・総金融資産(貸出+債券+株式+出資等)は、名目額で2619兆円、
・総負債が2617兆円です。(↓再掲)
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf

(注)資産の名目額は、金融機関のバランス・シートに載っている帳簿
価格という意味です。この資産額に、含み損や飛ばしがあります。つま
り、資産に、時価価値とは異なる簿価が多いのです。

一方で負債は、名目額(帳簿金額)が、そのまま負債です。

以上の金額を取り上げた理由は、官民の金融機関の総資産・負債の2619
兆円に対し、金融機関に必要な自己資本を8%(BIS規制)としたときは
、2619兆円×8%=210兆円の、自己資本がいるということを見るためで
す。

他に、このような計算をしたものは、ない。世界の金融を監督する	
BIS(国際決済銀行)に、仮想的に立ったと仮定したためです。

中央銀行は、BISの自己資本規制から除外されていますが、その国の通
貨信用のためには、やはり、民間銀行並みに自己資本が必要であること
は言うまでもありません。

根拠がない無限の信用は、中央銀行といえどもないのです。このため通
貨を刷りすぎれば、その国の通貨が、2011年のユーロのように、世界か
ら売り浴びせにあいます。

【わが国では肝心な、通貨の騰落の関係】
わが国では、主はドル建て資産である外債保有が563兆円(政府約100兆
円+民間463兆円)と多いため、
・2010年~2011年のように、20%の円高(ドル安)になると、
・ほぼ100兆円の、円ベースでの差損が生じます。

このためもあって、円高(自国通貨高)は、困るという。

米国は逆です。
・ドル建ての対外負債が2009年末で$21.1兆、
・現地通貨建ての対外資産が$18.4兆です。(米国経済白書2011年)
、

実効レートでのドル安になると、ドル建ての負債が減ります。一方で、
現地通貨が上がる(円や元が上がる)ため、為替差益を得るのです。

これが基軸通貨国である米国の特権のひとつです。海外が、ドルが安く
なっても、世界で売れるドル建て債券を買うからです。(注)実効レー
トは、主要国の通貨価値の加重平均に対する、自国通貨の指数です。

ユーロはドルとは異なり、対外負債が超過し、ドル建ての負債がありま
すから、ユーロ安(ユーロにとってのドル高)によって、負債の増加に
なります。このためユーロの金融機関にとっては、ユーロ安は困るので
す。

■3.米欧の金融機関に必要な、自己資本額の計算のために

▼推計100兆円の、ドル&ユーロ安による差損

日本の、金融機関を中心にした金融資産と負債は、2619兆円でした。こ
のため、金融機関に必要な自己資本(8%)は、210兆円付近と見なすこ
とができます。

この金融資産のうちほぼ、100兆円(総金融資産の3.8%)くらいは、
円高(=ドル安+ユーロ安)で失われているでしょう。外債保有の563
兆円(2010年末)から、これが推計できます。

まともに見れば、為替差損での、[金融機関の損害つまり自己資本の減
少100兆円×乗数12.5倍=1250兆円]の、信用収縮に向かいます。

2619兆円の総金融資産(世帯+企業+政府部門)が、1250兆円(47%)
も減って、米国の大恐慌のときの、30%のマネー・ストックの減少をは
るかに上回ります。

こうなると困るので、政府は、ドル建て資産の時価会計を猶予していま
す。つまり時価評価の停止です。ドル債の、円で見たときの差損を、経
済マスコミが取り上げたのを見たことがありません。「ユーロ危機の波
及」という表現でしかない。

【わが国財務省も方針を変更】
事実を言います。

日本政府の金融資産である外貨準備で言うと、2010年まで、円換算で外
貨準備額を財務省は示していました。

現在、財務省は、ドル安での為替差損が大きくなったため、外貨準備を
円では示さず、(理由を公言しないままに)ドル建て($1.3兆:2011
年11月)に変更しています。

ドル建てで示せば、円高・ドル安での差損は、見えなくなるからです。
こうした政府の姿勢から見えるように、わが国の、民間金融機関の外貨
建て資産の、時価評価は、先送り(飛ばし)にするようです。1年飛ば
すのが限界に思えますが・・・

(注)米国FRBも、買い取った住宅証券MBSは額面での評価で、バランス
・シートに載せています。額面で買ったMBSを、43%に時価評価すれば
、FRBの自己資本がなくなるからです。

理由は、大きな金融収縮を引きおこさないためです。しかしいずれ、時
価で評価すべき時期(債券の満期)が来ます。それまで、銀行・保険会
社も政府も、「見ない振り、ない振りをしよう」ということです。

以上は、日本政府だけではない。米国、欧州に共通します。金融機関の
損は、時価で正確なものを出さなくてもいいとしているのです。

【デリバティブの時価評価も停止】
たとえば、BIS統計では価値(時価)が下落しているデリバティブ(推
計損1210兆円)も、満期がくるまで、金融機関が、損が出ないように計
算した「理論価格」でOKとされています。

国債は、どんなに下がっても、満期が来るまでもつもりなら、時価の損
は計上する必要がないとするのは、日・米・欧に共通です。

【ギリシア国債の事例】
密室で相対取引をする金融機関同志の了承で、飛ばせば、満期は先送り
できます。PIIGS国債にかかったCDS(保証保険)が、典型例です。

「ギリシア債の50%カット(ヘア・カットという)は、2012年に満期が
来るギリシア国債をもつ金融機関が、自主的に行うものである。このた
め、CDSによる保証は、該当しない。」と、EU政府はしています。

CDSの無効化です。デフォルトになってもCDSで保証されるから、額面金
額が保証されて安全としていた欧州の金融機関には、不足資金が生じれ
ば、ECBが貸し与えています。これが、昨年12月の50兆円枠での、ECBの
資金供給です。

金融機関の時価評価の停止というトピックは、これくらいにし、米欧の
、金融資産・金融負債を述べます。資料は、同じ日銀のものです。
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf

▼米国の、官民の金融機関の総資産は、$61.4兆:負債は$58.8兆(
2011年6月末)

米国の官民の金融機関は、資産として$61.4兆(4910兆円)をもちま
す。一方で負債は$58.8兆(4704兆円)です。

日本の、官民の金融機関の資産(=負債)は、2619兆円でしたから、米
国の金融機関は、この1.9倍です。わが国のほぼ2倍の金融資産がある
のが米国と言えます。

もちろんこの資産は、縷々(るる)述べたように、時価に評価された後
のものではない。金融機関の申告による、簿価です。 明細は以下の日
銀のサイトを見て下さい。(前掲表の中央部)
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf

上記から、米国の、官民の全金融機関の、資産と負債を合計した表を作
ります。

    【資産:$61.4兆】           【負債:$58.8兆】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・貸出金      $19.6兆    ・預金預かり&現金   $10.0兆       

・債券保有    $16.6兆    ・保険&年金準備金   $13.5兆
・株式&出資金 $9.8兆    ・投資信託での預かり $11.2兆
・その他債権  $15.7兆    ・社債等での借入     $11.8兆
                            ・その他負債         $12.3兆
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

資産になる貸出金は、企業と個人へのローンです。債券保有は、国債と
住宅ローン証券です。株式&出資金は、企業や金融機関の株の保有額で
す。これらの資産は、いずれも金融機関からの申告の簿価でしょう。

$61.4兆(4900兆円)の、金融機関が運用する金融資産の中に、
・住宅ローン関連で、$6兆(480兆円)、
・債券保有の中に、$6兆(480兆円)くらいは、時価評価したときの不
良部分が含まれていると見ます。

合計で$12兆(980兆円)くらいでしょう。
デリバティブで飛ばされている不良債券を、含むものです。

米国の金融機関の自己資本比率は、日本の基準より低い。1990年代から
、証券の組成と売買を行う「投資銀行化」したためです。

BISの勧告(推奨)でも、5%を基準とするとしています。[$61.4兆
×5%=$3兆(240兆円)]です。他方、時価で見た損失は、不良債権
を買っているFRB(官の金融)を含んで、$12兆(980兆)が推計されま
す。

【資産の損】
このうち、3年で$3兆(240兆円)くらいを、政府・中央銀行が埋めて
います。$3兆は、政府・中央銀行の負債の増加になっているのです。
現時点で残る含みの不良債券は$9兆(720兆円)に及ぶでしょう(推計
)。

米国の金融機関の負債($58.8兆:4700兆円)では、預金預かりと現
金 の$10兆と社債は、日本の預金や社債と同じく、名目金額がほぼそ
のまま負債です。

【負債の性格の違い】
ただし、年金準備金や投資信託での預かり負債は、投資銀行が出した運
用損が、年金準備金や投資信託での、預かりの損に直結する構造です。


年金の自主運用の401Kがこれです。401Kでの年金運用では、金融機関に
年金を預託している個人も、損をします。つまり、年金、または投資信
託を預けた個人が損をします。このため、損を被(こうむ)る主体が分
散されます。

米国の投資銀行の、運用資産に対する自己資本比率が低いのは、このた
めです。

(注1)利益を出すときは、自己資本に対する利益率(ROE)は、日本の
金融機関より、はるかに大きくなる。しかし債券、証券、株の下落には
、脆弱(せいじゃく)な体質です。このため、約2週間でつぶれたリー
マン・ブラザーズやAIGのようにもなります。

(注2)日本の金融機関の負債では、ほぼ全部が、名目負債額=実質負
債額になります。このため、必要とされる自己資本が8%と大きい。

$2兆(180兆円)の元本を、富裕者から預かって、10~30倍のレバレッ
ジをかけて運用している8000本のヘッジファンドが、運用損を出したと
き出資者が損をする構造と類似すると言っていいでしょう。

(注)英エコノミスト誌の巻末統計では、2011年の、世界のヘッジファ
ンドの運用利益と損を合計すれば、-8.1%です。この損は、元本を時
価評価すると、ほぼ消えていることを示します。

このため、米国の金融では出資者の投資引き揚げが、起こりやすい。こ
れが原因で、投資銀行等は損失を大きく飛ばし、「自行の損害は少ない
」と見せます。

この点で、政府赤字と政府の負債を2009年までごまかしていたギリシア
政府に似ています。

●米国の住宅が再び上がり、投資銀行やファンドが、デリバティブで飛
ばしている巨大損が回復しない限り、推計した$12兆(980兆円)の実
質損は消えません。誰がどう言っても、損は消えないのです。

次は、米国に似ている欧州(英国・スイスを除くユーロ17ヵ国)を見ま
す。

▼ユーロ圏の金融機関の資産は54.4兆:負債が52.9兆ユーロ

米国と同じ方法で、ユーロ17ヵ国合計の、官民の金融機関の、資金循環
上の、バランス・シートを作成します。日銀のサイトでは、もっとも下
部です。
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf

1ユーロはほぼ100円と見ていいでしょう。

    【資産:54.4兆ユーロ】       【負債:52.9兆ユーロ】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・現金&預金  12.0兆ユーロ    ・現金&預金  22.2兆ユーロ
・貸出金      18.0兆ユーロ    ・保険&年金   5.8兆ユーロ
・債券        12.0兆ユーロ    ・社債等の負債7.9兆ユーロ
・株&出資金   8.2兆ユーロ    ・株式&出資金3.2兆ユーロ
・投資信託     3.2兆ユーロ    ・投資信託預り6.9兆ユーロ
・その他       1.0兆ユーロ    ・その他負債   6.9兆ユーロ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ユーロ17ヵ国の、官民の金融機関は、
・負債として52.9兆ユーロ(5300兆円)を借り、
・54.4兆ユーロ(5400兆円)を運用しています。

(注)$61.4兆(4900兆円)を運用する米国の金融機関より、400兆円
くらい規模が大きい。これらには、欧州はECB、米国はFRBの、中央銀行
の資産・負債を含むものです。

欧州の金融機関は、その預かりの名目金額がそのまま負債になる預金の
預かりが多い点(22.2兆ユーロ:負債内の構成比42%)で、日本の金
融機関に似ています。投資する個人も損をする投資信託的なものは、米
国に比べて少ない。

以上の内容から、欧州の銀行は、預金預かりが多い日本の銀行のように
、リスク資産に対する自己資本の比率は、8%基準でなければならない
でしょう。

◎ところが、ユーロの大手銀行(ドイツ、フランス)でも、PIIGS危機
前の自己資本比率は、リスク資産の3%程度と、米国よりはるかに低か
ったのです(2009年の週刊エコノミスト誌)。

ユーロの銀行の自己資本比率の低さは、(1)運用資産の下落(貸付金
の劣化、(2)債券(国債と社債)の下落、(3)及び株価の下落に対し
、米国や日本より、はるかに脆弱(ぜいじゃく)であることを示します
。

ユーロの金融機関は、
・住宅ローン債権の価値の下落で、$6兆(480兆円)、
・デリバティブ等の債券の下落で、$6兆(480兆円)、
合計では、運用資産(5400兆円)の中に980兆円(資産の18%)の含み
損を抱えたままであることが推計できます。

これに、2009年からPIIGS債の下落損と、東欧への貸付金と国債で生じ
た不良債権が加わっています。両方の損で、100兆円が加わっているは
ずです。

08年9月以降、現在に至るまでに、EUの政府とECBが注いだ対策資金は、
$4兆(320兆円)くらいです。全体の損(1000兆円以上)に比べ、はる
かに足りないことが、了解できるでしょう。(注)ただし、倒産したの
は、いまのところ、ベルギーのデクシアだけです。

1000兆円規模の巨大な含み損を、銀行本体のバランス・シートから飛ば
すことができる期間は、いつまでか? 

ECBがユーロを刷って、金融機関に貸付ければいいとは言っても、$5兆
(400兆円)以上は、ムリになります。つまり、いまは100兆円くらいの
余裕しか残されていないと見ます。

その間に、(1)住宅価格の回復、(2)株価が上昇、(3)国債価格の
上昇、(4)PIIGS債と東欧債の損から回復することを、行わねばならな
い。とても、ムリなことだと思えます。

■4.日本、米国、ユーロの官民の金融資産合計は、1京2919兆円

日本、米国、ユーロの官民の金融資産合計の合計は、上記から、1京291
9兆円と推計できます。(注)$1=80円、1ユーロ=100円換算。

・日本、米国、ユーロの金融機関が運用する金融資産、
・その金融資産に含まれる推計損、
・及び政府・中央銀行が、銀行の資金繰りの援助のため埋めた資金は、
以下です。

この3つを対照し、まとめます。マスコミ発表より、はるかに多いのが
、本稿で推計して述べた含み損(総額2160兆円)です。

08年9月以降、金融機関に対し注がれた政府・中央銀行のマネーは、日
本24兆円、米国240兆円、ユーロ320兆円で、合計584兆円でしょう。

【重要なまとめ】
                                             金融機関に注いだ
                        名目の     推計        政府・中央
                       金融資産   含み損失     銀行マネー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日本の官民の金融資産   2619兆円    100兆円      24兆円
米国(官民)           4900兆円    980兆円     240兆円
ユーロ17ヵ国(官民    5400兆円   1080兆円     320兆円
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~合計
                1京2919兆円   2160兆円    584兆円

含み損(2160兆円)が減るのは、(1)住宅価格の上昇、(2)国債価格
の上昇(=国債金利の低下)、(3)株価の上昇、(4)社債価格の上昇
、(5)不良貸付の減少によってです。

今後最長でも2年間のうちに、これらの(1)~(5)がないと、含み損
として飛ばしたものが、順次、実現損に向かいます。

(1)~(5)がないとして、金融機関に不足する資金を、その都度、現
在のECBのように、マネー印刷で補えば、どうなるか? 

通貨信用の低下から、世界がインフレに向かい、ユーロ、円、ドルの国
債価格を決める長期金利が、コントロール不能になると見ます。

(注)米国のFRBのバーナンキは、2013年まで(今後2年間)、短期金利
ゼロ策を敷くと発言しています(2011年10月)。これは、金融機関が、
資金繰り上必要になるマネーは、FRBが緊急融資するとの意思表明です
。

■5.1929~1933年の大恐慌のときは、どうだったか?

米国の商業銀行の5分の1(米国内の総預金量の10%を保有)が、引き出
された預金に対し資金が不足したため、営業を停止しました。1933年の
3月6日から13日の1週間は、米国の全銀行が、営業を休業しています。

不良債権を抱えた銀行が、融資能力、及び債券の購入力を失ったため、
米国のマネー・ストックは、30%も減少したのです。

フリードマンが集計したデータでは、当時の金額で$500億のマネー・
ストック(1928年)が、$350億(1932年)に減っています。

(注)当時のゴールド価格は、31.1グラム(1オンス)で、$25付近で
した。現在は、$1700くらいですから、ドルの価値は68分の1です。従
って、1928年の、米国のマネー・ストックである$500億は、現在価値
ではその68倍($3.4兆:270兆円相当)と見ていいでしょう。

マネー・ストックの減少は、企業と世帯が使える預金の減少を示します
。借入金も、借りた会社や個人の預金になるものです。つまり、マネー
・ストックの減少は、企業の投資、世帯の商品購買の減少です。

・日本の官民合計の金融資産(2619兆円)、
・同様に米国の官民の金融資産(4900兆円)、
・ユーロ圏17か国の官民の金融資産(5400兆円)は、
「広義のマネー・ストック」に相当するものです。

銀行による信用創造の、逆レバレッジ、言い換えればデ・レバレッジが
起こらないと想定しても、前記の(1)住宅価格の回復~(6)不良貸付
の減少がないと、含み損の2160兆円(日・米・ユーロの総金融資産1京2
919兆円の17%)に相当する金額が、2年内には実現損に向かいます。

そうすると、最小でも17%のマネー・ストックが減ります。

政府・中央銀行が、現在のユーロのように、金融機関の資金繰りに必要
になったマネーを注いでも、これは貸付金(後日返済が必要)ですから
、金融機関の損を消すことはできないのです。

結果は、1929年~1933年の世界大恐慌の規模の、約半分の実体経済(GD
P)の縮小でしょう。1929年~1933年の大恐慌では、米国ではGDPの40%
が減少し、ほぼ1933年に、底打ちしています。

欧州では、今後2年で、20%程度のGDPの減少があると見ています。見方
が激しすぎますか?  銀行がかかえた不良債券によるマネー・ストック
の減少から見ると、そうなるのです。

日米欧の比較で、もっとも良好なのは、「国債の金利が1%から上昇し
ない」限り、日本経済です。

ただし、日本国債の金利が、「2011年の奇妙な日本国債の買い超」で、
仕込んだ外人の円国債売りから、3%に向かい上昇すれば、1000兆円規
模の国債の下落が、金融機関の含み損になるため、ユーロに似た状況に
なります。

【後記:外人の日本国債買い】
2011年は、日本の国債買いで、外人がユーロ債、ドル債を売り、円国債
を100兆円くらい買い越しています。

日本の長期国債の金利は1%付近です。CDS(保証保険)をかければ1.5
%の保険料が必要なのに、これは、とても変な、理解に苦しむ買いです
。2011年の円高の主因は、この外人の円国債の買い超です。

100兆円の買い越しと言っても、中心は、3ヶ月後に満期が来る短期債で
す。買い越して3ヶ月後には、日本政府が、円のキャッシュで返済して
います。

このため年間の買い越し額100兆円のうち75兆円はすでに償還されてい
て、現在の外人の保有額では、25兆円の増加になっているでしょう。こ
れを、長期保有をするとは思えない。

1月には財務省が緊急会議を開き、「外人による日本国債の増加買いの
目的は何か? 空売りの準備か? 」と懸念しているようです。

日本にとって、この買いが、がどう向かうかです。

現物の空売り、あるいは、レバレッジがかかる先物売り、オプションで
の売り(プット・オプション)のいずれの方法であっても、外人の売り
が超過するようになると、2011年とはまるで逆に、円安と国債金利の上
昇が起こります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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