マネーの本質から見れば、世界金融危機の、今後が分かる
This is my site Written by admin on 2012年3月7日 – 09:00

おはようございます。早くも3月で、あの3.11から1年経ちました。

TVで回顧番組が増えました。復興には30~40兆円くらいの政府マネーが
必要ですが、政府の対策資金は19兆円(3年間:決定)です。

これは、復旧も、震災前の半分にしかできないことを示します。
土木・建設のゼネコンは、震災特需に、湧いていますが・・・

阪神淡路大震災(マグニチュード7)のときは、建物、港湾、道路等の
総被害は9兆9000億円とされました。経済活動の停止による震災地域のG
DP(商品生産)の損失は、2兆6000億円(日本のGDPの5%)でした。

復興費は16兆3000億円でした。政府が70%の11兆円、民間が30%の5.3
兆円でした。損害を上回るマネーが投じられ、6434名の、周囲に愛され
ていた命は失われても、街は復興されました。

「**ちゃんはまだ若い。早く逃げなさい」と言い、倒れた建物に脚を
はさまれたまま、迫る火災で亡くなったおばあちゃんを語る孫の、慟哭
が忘れられません。人間は、こうした態度もとることができる。

政府負債が現在(1020兆円)の半分以下と少なかった日本のGDPは、損
害を上回る復興費を捻出できため、震災後は伸びたのです。

東日本大震災の被害見積もりは、阪神・淡路の約2倍の20兆円です。30
兆円という試算もあります。

原発事故の保障、そして対策費、廃炉費用は、これには入っていません
。追加で10兆円はかかるでしょう。以上に対し、政府対策費が19兆円で
す。少なく見ても、20兆円は不足しています。

阪神・淡路の1.6倍である2274万トンの瓦礫とともにゼロに還元された
被害に遭った町は、限界村落とはいわずとも、激しく、高齢化が進んで
いました。(注)瓦礫の総量は、日本全国の、1年間の廃棄物の総量(4
500万トン)の、1/2に相当します(東京新聞:11.06.25)。

女川町の漁業は、約500軒のうち、80軒程度しか再開できていません。
数千万円はかかる借入で船を造る気力が、なくなっているからです。

漁業に従事する人たちの、60歳という平均年齢を考えれば、再開を戸惑
うのは当然でしょう。海の労働は、魚釣りのようにのどかな労働ではな
いでしょう。平均で66歳に上がった農業も似ています。

大手小売りは進出していますが、家業的だった地元の小売・サービス業
と水産会社等の雇用は、消えています。震災後の事業被害が、進行中で
す。事業には、将来の顧客市場と借入金での投資が必要です。

震災そのものと、その後の状況が、民間も復興資金を借りる力があった
時期の阪神淡路大震災と、まるで違う。

原発対策と同様に、政治力を失った政府・与党は、これらに、まともに
向き合っていません。東北の人々は、編集されたTVで見る限りは、総じ
て、発言が優しい。「忍」の印象を受けます。

「絆」とは言いましたが、何か具体的な絆なのか。政府財政にとっては
危険なインフレになったとしても、マネーを刷って、政府の復興費を19
兆円から40兆円に倍増することが必要と見ます。インフレは、国民が、
上がった物価として負担するという意味です。

地元からの要望を聞く窓口(復興庁:予算の立案権はない)を作っただ
けで、以上のような復興費の総体の論を、政府は避けているのです。

「情けない」の原義は、人情がないことです。まさに、情けない政府で
す。人情は、孔子の言った仁でしょう。「国民の生活が第一」を公約し
ていた民主党議員はどこに消えたのか。当選するためだけの嘘だったの
です。

政治家の政治的(経済での本質は分配)なリーダシップは、政治家の資
質ではなく、国民がその支持によって与えます。支持を失えば、政策実
行のリーダシップもなくなります。

次期総選挙での落選を予想し、生き残りを求めて右顧左眄(うこさべん
)する議員(約200名)に、リーダシップのかけらも、国民は与えませ
ん。原因は、公約の嘘が多すぎるからです。

ほんの一例を言えば、約束していた子育て支援金とともに、政府は、世
帯所得から引いていた子どもの扶養控除を、16歳以下で廃止しています
。ところがこの代わりに、0歳から15歳までが対象で2万6000円が公約だ
った子ども手当は、1万円に減らされています。

16歳以下の子どもの扶養控除は廃止して増税し、子ども手当は減額で、
実質的な負担増になっています。政府は、こうしたことを、「頬被(ほ
おかむ)り」しています。マスコミも指摘しません・・・

                       *
本稿では、明らかにされることが稀な、「マネーの本質」から論じます
。お金とは一体何であり、それはどこで何を根拠に生まれ、どこへ行く
のかということです。

日米欧の中央銀行が、同時にマネーを刷り始めたので、本質論をしてお
くことが必要と考えたからです。

その前に、3月9日(金曜日午後6時~)の講演には、特にこの有料版の
読者の方からの多数の申し込みをいただき、御礼を申し上げます。案内
と確認のため、会次第を記します。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
●期日と時間:2012年3月9日 午後18:00時開場  
                            18:30分開演~終了予定21:00
受付が混雑する恐れがあります。可能なら早めに来て下さい。

会場:サンケイプラザ3階会議室:東京都千代田区大手町1-7-2
      (地下鉄 大手町駅 徒歩1分:東京駅からは徒歩5分)
       電話03-3273-2258~9
3階にある302号+303号+304号のセミナールームを使います。
http://www.s-plaza.com/

会費:1万円 (受付で 申し受けます:領収証発行)
申し込み方法:メール 宛先:  nakajima@keymannet.co.jp

<講演 次第>
1.開演・・・司会   18:30~
2.吉田繁治  講演   18:35~20:35
   『2010年代の金融と経済、そして個人の生き方』
  
   §1  マネーの本質;何がどうなっているのか?
   §2  現代のマネー=6京円のデリバティブ
   §3  官の財政と民間経済の方向、仕事と個人生活
   §4  国家破産とその後の経済、会社、生活
   §5  金融資産を減らさないために
   §6 金融・経済・仕事への41項の質問への回答集

3.質疑応答
4.終演              21:00
   (お会いできるのを楽しみにしています)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

共通のものが多いのですが、41項の質問をいただいています。全部にお
答えします。これからの金融資産の運用に関連した質問が多い。

2012年1月末ころから、世界(日米欧)の株価が上昇しています。ユー
ロの3月危機があるのに、なぜ、株価が上がったのか。

(注1)2012年の3月2日まで上げた水準維を持していた欧州の株価(FTS
E100種)は、3月5日、6日には、5930から5750まで180ポイント(3%)
急落しました。

理由は、ギリシア債のヘア・カット(債務のカット50~70%の幅)への
、金融機関との合意が、難航しているからです。期限は明日です。ギリ
ギリの時期になってきました。

●ギリシア債のヘア・カット率に合意がとれず、[無秩序なデフォルト
:つまり混乱]が起こると、PIIGS債を保有する銀行は、関連した証券
の下落と保証保険のCDSの発動で、100兆円の損害が生じると推測さ
れています。

欧州と同時に、1370まで上がっていた米国のS&P500種も、3月6日には、
1340にまで30ポイント(2.2%)下げています。理由は欧州と同じです
。

日経平均も、いつものように、米欧に遅れ、下げ始めています。
日経平均の動きは、ほとんどの場合、米国市場を、後追いします。

理由は、米系のヘッジ・ファンドの売買が、わが国株式市場では、60~
70%を占めていて、ヘッジ・ファンドの動きで、日本の株価の70%くら
いが決まる構造だからです。米国市場に付属し、従属する市場に落ちて
しまったのです。

S&P500種の株価を見ていると、上がるときも下がるときも、その動きが
、1日か2日遅れて日経平均に反映することが多い(注)100%ではあり
ません。月曜日に、下げることが多い。

Financial Times紙のMarket欄の株価グラフを見ると、いつも、感じる
ことです。なお、日経平均の上げのグラフは、日銀による資産買い受け
基金枠(総枠は65兆円)からの株の買いが混じっているので、今回は、
違った動きになっています。

大きなマネーの流れを読めば、理由が見えます。原因が見えれば、今後
の展開も分かります。日本の株価から見て行きます。

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<581号:マネーの本質から見れば、世界金融危機の、
                                     今後が分かる>

【目次】
1.日本の2012年の株価は、なぜ上がったか?
2.中央銀行のマネー増発の効果は、金融危機の飛ばしである
3.ECBとFRBが恐れていることは、PIIGS債の下落ではない
4.中央銀行が刷ることができる、マネーの本質
5.準備銀行の発明
6.ジョン・ローが、ペーパー・マネーを発明し、
                           フランス王立銀行が発行した
7.20世紀の中央銀行は、国債を買って紙幣を発行した
8.紙幣の増発は、国民(民間企業と世帯)への見えない課税である。
9.古典には、あらゆることで、考え尽くされたものを見つけるここと
ができる。

【後記】

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■1.日本の2012年の株価は、なぜ上がったか?

東証1部の日経平均(225種)は、2012年の年初は、8400円付近でした。
3月7日は、9576円です。14%上がっています。ほぼ2ヶ月で14%の上昇
は、急騰と言えます。このまま1万円超えになるのか。上がった理由を
考えると、疑問です。

株価も他の金融商品(有価証券、国債、通貨)も、「買い超なら上がる
、売り超なら下がる」という単純なものです。株価が上がったことは、
株の買い超をした主体がいるということです。

$1=75円付近だった円が81円付近に下がったのは、円を売った主体が
いるということです。円を売って、ドルを買い越した主体がいるという
ことです。ユーロも、106円に高騰しています。円を売ってユーロを大
きく買い越した主体がいるということです。

経常収支や貿易額が示すファンダメンタルズ(基礎指標)の原因より、
ほぼ3ヶ月内の短期利益を求めた売りと買いが、通貨の相場も決めてい
ます。

東証はWEBで毎週、主体別の株売買額(現物、先物、オプション)を公
開しています。これを見ます。上げた理由が分かります。

(注)東証の週間データから集計加工しています。さっきエクセルで計
算しました。元の表は、他の公的集計にも共通することですが、分かり
にくい。多くのコストをかけ、なぜ、分かりにくい表を作るのかといつ
も思います。知らせたくないのでしょうか。

日本株の主体別売買を、単純化したものを示します。プラスは買い超を
、マイナスは売り超を示しています。単位は億円です。捨象しているも
のがあるので、合計数値は一致しません。(元資料)
http://www.tse.or.jp/market/data/sector/index.html

【株式市場の主体別売買:概要:2012年1月、2月】                  
                            
           証券会社    金融が主の              ガイジンの
           自己売買    法人の売買    個人         売買
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1月3週     +641億    -451億    -4986億     +1939億
1月4週    +1390       -759       -913         +450
2月1週     +539       -536       -347         +233      
2月2週     +179       -443       -643         +961
2月3週     +301       -624      -1899        +2363
2月4週     +574      -1403       -772         +654
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
6週間合計  +3684億円 -4252億円 -9560億円   +6600億円

(1)証券会社の自己売買は、投資家から委託を受けたものではなく、
自分で売買することです。法人の売買では、投資信託と金融機関が主で
す。個人は世帯です。

ガイジンは、オフショアからのヘッジ・ファンドの売買です。
2000年代は、日本の株式市場では、売って下げるにせよ、買って上げる
にせよ、ガイジンの売買が、市場の売買総額のうち60~70%を占めてい
るのが特徴です。

国内の金融機関、事業法人、及び個人は6週合計で、4252+9560=1兆38
12億円を売り越しています。この売りを、買いが上回らないと株価は上
がりません。

(2)【上げた原因の30%は、日銀の介入買い=資産買い受け基金】
証券会社の自己売買が6週間で、3684億円の買い超です。

この自己売買には、日銀が[資産買い受け基金(総枠65兆円)]を使っ
た買いが入っています。まさか、日銀が市場介入し、買って上がったと
は言えない。このため証券会社の自己売買とされているのでしょう。

日銀は、昨年から、買ってきたガイジンの売り越しになる月があったた
め、下がっているとき、日銀とは分からないように覆面で株を買って株
価を維持(底支え)していました(PKO戦略)。

この日銀介入が、2012年も続いています。これが、2012年1月からの株
価を上げた原因の30%です(3684億円の買い越し)。

(3)【上げた原因の60%は、ヘッジ・ファンドの買い超】
2012年のヘッジ・ファンドは、再び、日本株を買い越しています(6600
億円)。

011年の1年間でも、ガイジンは172兆円を売り、174兆円を買っていまし
た。2兆円(月間平均1670億円)の買い越しでした。

2012年は2ヶ月で6600億円の買い超です。1か月当たりで、1700億円くら
い買い超の金額が上昇しています。

日本の株式市場は、1日で1兆数千億円という薄商いが続いているので、
この規模の買い超で上がり、逆の売り超では下がります。

ヘッジ・ファンドの資金源は、欧州ECBと米国FRBが、不良債券危機に陥
った銀行に貸し与えた現金です。

それらの銀行は、運用を、仮想的にオフショアにあるヘッジ・ファンド
に委託します。つまり、2012年の日本の株価の、14%上昇は、
・国内では日銀、
・海外からは欧州ECBと米国FRBの印刷マネーによる買いが原因です。

資金の流れで見ると、以上が明白です。欧州金融危機の後退や、景気買
回復と言われますが、要は、日銀、ECB、FRBが、昨年12月から、同時に
マネー印刷した結果です。

この中で、今回は、ECBの資金供給が2011年12月に50兆円、そして2012
年に50兆円、合計100兆円の増加供給として突出しています。

金融危機、つまり米欧の銀行のデフォルトを防ぐため、日銀、ECB、FRB
が同時にマネーを刷っています。このマネー(現金)が、銀行からヘッ
ジ・ファンドに流れ、国債買いと、株買いになっています。

このため、国債も買い超になって金利は上昇せず、日米欧の株も買い超
になって、年初来10~15%上昇した。要は、こうしたことです。

●金融危機だから、株価が上がって、金利が下がるという逆のことにな
っています。中央銀行がマネーを刷らないとしたらどうなっていたか?


(1)PIIGSは同時デフォルトして、
(2)米欧の主要な金融機関が、ほぼ全部、同時破産し、
(3)世界は、1929年~33年並の信用恐慌、になっていたと思えます。

■2.中央銀行のマネー増発の効果は、金融危機の飛ばしである

信用恐慌が避けられたという点では、日米欧の中央銀行による同時マネ
ー印刷は、効果があったと言えます。

【重要なこと】
ただし、それは危機の先延ばし、言い換えれば「中央銀行のマネーによ
る危機の飛ばし」です。この認識が肝心です。

日米欧の中央銀行による同時マネー印刷を、仮に、2012年中続ければ、
金融機関の口座にあふれる現金を、利益を生むように運用せねばならな
い。中央銀行の、金融機関へのマネー貸し付けにも、1%程度で低いと
は言っても金利がつくからです。

つまり、金融機関とヘッジ・ファンドでは、
・国債を買い、
・株を買う、
・そして資源を買う投機マネーになる。

国債金利は、中央銀行の当為(行う行動)で、人為的に下がる。(注)
現在が最低です。これが続くという意味。

株価も、人為的に上がってバブルを含むようになる。エネルギー・資源
・穀物・食品(コモディティ)も上がる。「根拠なき高騰」になるので
す。

更に、中央銀行がマネー印刷を続けるのか?

いずれは、停止し、回収に入らねばならない。その時期の寸前から、国
債には、大きな空売りと先物売りが出ます。株・コモディティも売られ
、バブル崩壊のような暴落になります。

【2番目に重要なこと】
中央銀行がマネーを増加印刷すればするほど、バブルの山は高く、バブ
ルの山が高いと、崩壊で生じる不良債権は巨額になります。

バブルとは、根拠がマネー増発と信用膨張でしかない価格の高騰です。
バブルの山が高いと、値下がりの下落調整は、格言に言う、半値・8掛
け2割引(0.5×0.8×0.8=32%)、つまり、ピーク価格の1/3に向
かうことが多い。

(注)1992年からの日本の不動産、1990年から日本の株価がこれでした
。

▼信用バブルの崩壊後はどうなるか?

バブル崩壊後は、今度は、中央銀行がマネーを刷って躍起になっても、
マネーは、銀行の口座(=中央銀行が預かる当座預金)に留まるだけに
なります。

バブル崩壊後は銀行部門に巨大不良債権が生じるため、資金繰り上では
穴埋めにしかならないからです。

つまり、中央銀行のマネー印刷(信用の膨張)を主因に得られたバブル
価格の崩壊日まで、
・金融機関の損は含み損として飛ばされ、
・確定日が先送りされるのです。

【次回は、流動性の罠に陥る】
そして、先送りされた危機は、必ず、再びの、もっと大きな危機になり
ます。

【3番目に重要なこと】
再び襲うことが必定の危機には、今度は、中央銀行のマネー印刷が、効
かなくなるのです。(注)ケインズは、これを流動性の罠(わな)と言
っています。金利ゼロでも、投資のための借入が増えない事態です。

以上が1990年から2003年頃までの、日本でした。

●当時の日銀は、「金利をゼロに維持し、経済対策に必要なマネーを刷
っていますが、それが、民間のマネー・ストックの増加にならないので
す」と、毎回、国会答弁していました。

(注)民間のマネー・ストックとは、企業と世帯がもつ預金が約60%、
株・投資信託・国債等の証券が40%です。2012年1月末の、このマネー
・ストックは、1456兆円であり、前年比-2.3%です。国内のマネー・
ストックが増えないことは、企業・世帯の総預金(約800兆円)が増え
ないことを意味しますから、消費と投資も増えず、経済は成長しません
。これが、ゼロ金利でも、借入と投資が減る「流動性の罠」です。

欧州ECBのドラギ総裁、米国FRBのバーナンキ議長は、以上を知っている
はずですが、「目先の資金を入れないと、銀行がばたばた逝(ゆ)く」
ので、将来を考える余裕がないのでしょう。

危機の時期に金融当局が言うことは、いつも、実態を隠すコトバです。


■3.ECBとFRBが恐れていることは、PIIGS債の下落ではない

実は、PIIGS危機が、最終的にユーロからの切り離しになっても、怖く
はない。

EUと米国にとって怖いのは、その過程での、
・PIIGS債(約400兆円)の暴落(今の1/2以下)、
・世界の株価の下落、
・そしてユーロ債、米国債、日本債の同時下落(=金利の高騰)によっ
て、米国、欧州、日本の銀行が同時に破産することです。

株価、国債、証券は、「金融機関という買い手」が消えれば、すべて(
根拠がなくても)暴落します。

上記の主体別売買は、日銀と、ヘッジ・ファンドが買い越した(買い手
があった)から、日本株の暴落が避けられたことを示しています。個人
、企業、国内金融機関は、いずれも、売り越しているからです。

●売り手がいて、買い手がいないなら、あらゆる相場は、「この価格な
ら安い」と見る買い手が現れる価格にまで、下がります。これが不動産
も含む市場の性格です。

金融機関も、自分のバランスシートの中で(含み損であっても)不良債
券額が大きくなると、債券・証券・株の買い手であることができなくな
ります。

▼日本の銀行は、また失うことになる

昨年から、欧州の銀行は、日本の銀行に、その債権(貸付金の回収権)
を売っています。欧州の銀行は、資金不足のため、所有債権の売却を行
っています。

日本の銀行は、欧州進出のチャンスと言い、これを買っていますが、2
年後には、多くが不良債権化し、「こんなはずではなかった」となるで
しょう。

2010年5月からの、欧州の金融危機の当初から、ユーロ当局の高官は「
欧州銀行がもつ(含み損が判定できない)不良債券は、日本と中国に売
る」と言っていました(新聞記事)。

皮肉な性格で、ずるいところがある欧州の銀行が、優良な債権を、日本
や中国に売るわけがない。優良な債権は、利益が出るからです。

【ひっかかった事例】
米国のMBS(不動産担保証券)を自慢して買い、政府の支援がなければ
破産にも至る5兆円を損した農林中金(農協のマネーを集める銀行)と
似たことになる気がします。

当時の農林中金の、天下りだった担当役員は、MBSには米国政府の保証
があって、しかも金利が高いと自慢していました。呆れてしまうような
コトバだったのです。

【原因は無知】
回収が安全な債券の金利が高いことは、金融の原理からは、世界の果て
まで行ってもあり得ないことです。自らの知識不足による不分明を公言
していたのです。

(注)デリバティブでも全く同じです。利回りが高い証券は、回収リス
クが高い。高いオプション料は、利益リスクの高い証券です。

投資顧問業のAIJにごまかされていた企業年金基金に似ています。AIJは
詐欺会社ですが、詐欺にひっかかったのは、企業年金の管理者が金融に
対し無知だったからです。

「5%という高い利回り」の継続はあり得ないことでした。(注)現在
は、5%の利回りでも高い。金利のベースになる国債金利が1~2%だか
らです。

日本の銀行が、欧州銀行と共連れで、国益(国民の資産)を損しないよ
うに、老婆心から申し上げておきます。老婆心は経験的な知恵です。

日本の金融機関には、現在、世代的な知恵の蓄積が、消えているのでな
いか? リーマンの社員を数千名、平均で3000万円の年収で、チャンス
だと引き受けたのは、どこでしたか。言いますまい。

■3.中央銀行が刷ることができる、マネーの本質

中央銀行が刷ることを法で許されたマネーの本質を論じるには、歴史を
振り返る必要があります。歴史と言えば古いように思え、現代に立つわ
れわれは乗り越えているように考える癖があります。

【科学技術は進歩したが・・・】
確かに、ルネサンスの16世紀と17世紀の産業革命以降、科学技術では、
進歩がありました。

進歩的歴史観は、科学技術と、その技術を応用して、はるかに豊かにな
ったモノを見ています。車だって買える。パソコンや携帯電話は、江戸
時代なら夢にもないものだったでしょう。

【観念は、進歩していない】
じゃ、人間の考え(観念ともいう)はどうか? われわれは、聖徳太子
、紫式部、親鸞、世阿弥、吉田兼好、織田信長、利休、徳川家康、本居
宣長、福沢諭吉、樋口一葉、夏目漱石、森鴎外を乗り越えているのか?
 はるかに、劣っています。古典をまともに読めば、これが、分かりま
す。

歴史は、過去の人間の考え(観念)が、行動になったものです。この意
味で、「すべての歴史は現代史である」と看破した哲学者・歴史家ベネ
ディット・クローチェ(1866-1952)は正しい。

歴史は、現在の観念の中での、懐古です。人間にとってのみ、歴史があ
ります。観念、精神、心、記憶は、すべて同じものです。記憶が精神で
す。

以上のような、前置きをする理由は、現代の中央銀行は、はるかに進歩
したものであるという漠然としたイメージもつ人が多いからです。

進歩はしていません。マネーも、進歩していない。形態が、金貨を経て
、金証券になり、今は紙幣になっただけのことです。

デリバティブは進歩したマネーと言えるかもしれませんね。いい、悪い
という価値判断は、別の次元のものです。科学の進歩にも、善なるもの
だけではなく、大量破壊と殺人を使用目的にした核兵器があります。

▼ベネチアからだった

5000年前のエジプト王国の時代も、マネーは金でした。

蒙古のジンギス・ハンは、世界で最初に、国内では紙幣を発行しマネー
としていましたが、国際貿易では、やはり金を使っていたのです。

国際とは国外との関係です。国外では、国内(共同体)で信用されるも
のが、信用されないことがあります。しかし金だけは、今も、国家を超
える普遍的な価値をもつとされています。

地中海に浮かぶ13世紀のベネチア(ベニスの商人)は、アラブやインド
で採れる香辛料を船で運び、イタリアの貴族に売って、莫大な利益(金
貨)を集めていました。肉を焼くとき、香辛料をふれば、はるかにおい
しくなるからです。

つい近世まで、肉は、普通の人が食べることができない贅沢な食べ物で
した。野菜スープにパンが日常食だったという。フランスの田舎を訪ね
たとき、ガイドから聞いたことです。

金貨は、貿易に使うと同時に、国内のマネーでもありました。当時の銀
行だった両替商は、いろんな国の金貨が含む純金の成分を計って、通貨
を交換していたのです。

金の大きな所有者は、領地から地代(現代の税金に相当)を取る貴族と
、貿易で儲けた商人でした。しかし当時は、掠奪や強盗が多かった。

同時に、貴族は、財産であり権威を象徴する貴金属の修理や改鋳のため
に、金細工師(金匠)に、貴金属を預けていました。

金匠は、その預かった金貨と貴金属に対し、紙の証文である「預かり証
」を発行します。クリーニング屋さんの預かり証と同じ性格のものです
。しかし、預かった服を利用しないクリーニング屋さんとは違い、金匠
は、とんでもないことを考えつきます。

▼金の預かり証がマネーになった:Securityの発祥

信用の高い金匠が発行した預かり証は、金貨の代わりに、次第に金貨と
同じものとして流通するようになって行きます。

証券は「Security」と言います。セキュリティは安全です。金匠に金を
預けていれば、強盗に襲われても安全と見なされ、ここにSecurity(現
物を象徴する証券)が誕生します。

これが金証券です。金証券での支払いは、重い金よりも、はるかに便利
でした。金証券を盗まれても、金匠に連絡すれば、現物との交換停止が
できたのです。

■4.準備銀行の発明

あるとき、明敏なひとりのユダヤ人の金匠が、気がつきます。このとき
、現代の銀行、つまり「準備銀行」が発明されたのです。

「金庫に金を、1000キログラム預かっているが、((注)当時の計測単
位はトロイオンス=31.1グラム)、今年、金の現物との交換に来たの
は100キログラムに過ぎなかった。1/10である。私が発行した金証券は
信用があり、金貨と同じものとして、商品売買に使われている。つまり
、金の現物が必要なくなっている。」このときは、1000キログラムの金
=1000キログラム分の金証券でした。

当時も現在も、お金に困る人は多い。そうした人に、金匠は、自分が無
断で発行した金証券を貸すことを思いつきます。金庫にある金は金匠の
ものではない。預けた人のものです。ところが、交換に来るのは、宝飾
品を飾ることが必要になった10%の人でした。

90%つまり900キログラムに対しても、金証券を発行していますが、そ
の証券で金を引き出す人はいない。とすれば、金匠が、黙って、900キ
ログラム分の金証券(偽の金証券)を作り、金と同等のものとして貸し
付けることができるのではないか?

ユダヤ人が多かった金匠は、こうして、自分のものではない金900キロ
グラム分の金証券を、誰にも知られないないように極秘に作って、貸し
付けます。当然に金利をとる。1年に10%の金利はついたでしょう。(
シェークスピアは『ベニスの商人』でこの金匠の物語を活写しています
)

(注)この金匠の行為は、自分のものではない預金(負債)を、別の人
に貸し付けて、金利をとる現代の銀行にも通じます。銀行は、無からマ
ネーを生むのです。準備預金制度と言います。預金準備率が5%なら、1
00億円の預金増加が、銀行システムの中で、その20倍(100億円÷5%=
2000億円)の総預金と貸付になります。

900キログラム分の偽(ニセ)の金証券が、1年に10%(10キログラム)
の金と同じ金利を生みます。貸し倒れもあったでしょうが、それを3%
とすれば、実質金利は7%です。

【100年で868倍】
100年間、信用ある金匠を営めば、偽の証券の貸付から生まれた金利は
、複利で[1.07の100乗=868倍]に膨らみます。

900キログラム分の自分のものではない金に対する偽の金証券が、100年
間の銀行業で、900×868倍=781トン200キログラム相当の、金証券にな
るのです。これが、信用創造、つまり紙幣発行の最初でした。

途中で、金庫の金が、発行した金証券の10%になるように、金を買い増
しするのは当然です。

100年後には、
・781トン200キログラムの金証券の貸付と、
・その10%、7トンと120キログラムの金現物になります。

こうして誕生したのが、都市国家の王すら決めていた、フィレンツェの
メジチ家でした。

もちろん途中で、「あの金匠は怪しい。金庫に金はない」と噂が立つこ
ともあった。噂が立つと、その金匠が発行した金証券をもって、人々が
がとりつけに並びます。

金庫には、発行した金証券の10%の金しかない。こうした金匠は、詐欺
師として、衆人環視の中で、縛り首やギロチンにかけられたのです。中
世の罰は、民衆へのみせしめのために残酷でした。

(注)ヒューマニズムという考えが生まれたのは、ルネサンス期(16世
紀)のエラスムス(『痴愚神礼賛』)の時代からです。渡辺一夫の跡を
ついだのか、宮下志朗という古い友人が新しく訳しています。

現代の「とりつけ」と同じです。銀行には、預かった預金額に見合う現
金はない。1兆円の銀行で、金庫の現金の準備はせいぜい5%(500億円
)でしょう。

金利を生まない現金を銀行に置けば置くだけ、銀行事業は成り立たない
からです。取り付けがあると不足しますが、そのときは、日銀が急遽、
印刷して、皆に見えるようにトラックで銀行の支店に運び、「現金はい
くらでもあります。預金引き出しはしないで下さい」と言うことになっ
ています。

●以上が、13世紀のベネチアではじまって、フィレンツェ、フランドル
地方に広がった「金準備銀行」です。この準備銀行の制度で、銀行は、
上記の、根拠のない金証券のように、無からマネーを生むことができま
す。

ベネチアの金匠によるマネー発行の仕組みは、二十世紀の中央銀行制度
と、変わりません。中央銀行は、金匠と同じ準備制度で、無からマネー
を生んでいます。

金とドルの交換が停止された1971年以降は、米国FRBにも金の準備はな
い(と推計します)。中央銀行の金庫には、国債(政府の負債証券)と
他の証券があるだけです。

以上は、正統派とされる経済学が、決して言わないことです。偽の、金
証券の発行から銀行制度が始まったとは、やはり、言いにくいからでし
ょう。マネーの根源には、怪しいところがあります。このため金を論じ
ることは、タブーになっています。

マネーを研究するはずのマネタリスト、ミルトン・フリードマンも「マ
ネーは謎」といっていますが、謎ではない。この準備制度が信用されれ
ば、無からマネーを発行できるのです。

なお、英国政府の戦費調達(第二次世界大戦)のため、国債の発行を説
いたケインズは、「金は馬鹿げたものだ」と言っています。なぜ馬鹿げ
ているのか、その説明をケインズはしていません。

■5.ジョン・ローが、ペーパー・マネーを発明し、
                           フランス王立銀行が発行した

金匠の金準備に基づく金証券がマネーなってから、約400年後です。英
国と大陸欧州の社交界で、賭博師として人気があったジョン・ローが、
彗星(すいせい)のように登場します。

時代はルイ王朝の末期でした。太陽王とされる権勢を誇っていたルイ14
世の王朝は、戦費(兵の雇用費と年金)と奢侈で、財政破産していまし
た。

税収は1.45億リーブルしかないのに、国債残が30億リーブルで20年分
でした。当時の1リーブルは5.8グラムの純金の金貨でした。現代の価
格で言えば2万6000円です。ルイ王朝の国債30億リーブルは78兆円に相
当します。

日本の政府債務は1020兆円、国税は40兆円ですから、25年分です。ルイ
王朝の末期より多い。

(注)日本の江戸時代も同じです。幕府は常に、「お金が足りなかった
」。このため、時代が進むと金の含有量を減らした金貨(小判)を発行
し、藩札(政府紙幣)も作っていたのです。寛政(1787-1793)、享保
、天保の三大改革は、すべてインフレを抑える緊縮財政への政治改革で
した。

幼いルイ十六世の摂政になったのがオルレアン公フィリップでした。社
交界で知己を得たジョン・ローは、老練なオルレアン公に、2つの提案
をします。

▼(1:金貨の改鋳)金の含有を80%に減らす金貨の改鋳をする。これ
で、政府が嫌われる増税をしなくても金貨の総量の20%を、政府の増加
税収にできる。通貨の増加発行とは、このように「見えない税」です。


近代経済学を創始したと言えるケインズは、「政府による通貨増発がも
たらすインフレは、誰にも気がつかれることがなく、政府が増税する手
段である」と明言しています。(『雇用、利子、および貨幣の一般理論
』)

金貨の改鋳は、中央銀行による紙幣の増加印刷と同じです。通貨の増加
発行は、いずれは物価を上げることで、「見えない税」になります。物
価が25%上がれば、25%の物品税の課税があったことと同じです。政府
がその25%の税を得ます。

金含有率80%への改鋳いよって、1000万枚の金貨が1250万枚に増えるか
らです。減るのは、金貨の価値です。上がるのは物価です。だだし、こ
の金貨の改鋳は、最初は、マネーが増えることで、経済を活性化させま
す。

しかし、後には、銀行システムの中で増えるマネーとなってインフレを
引きおこします。そして、元の価値に戻るデフレが来るのです。

▼(2:紙幣の発行)王家の土地を担保にした土地証券を作って、紙幣
とする。これは賭博師たるジョン・ローの面目を躍如とさせたものです
。

カジノ内では、金貨を使わず、チップと交換して賭けます。そのチップ
と同じものが、紙幣です。勝てばチップが増える。帰るときチップを、
カジノの外で使える金貨に換えます。そのチップを、カジノの外でも使
えるなら、これが紙幣の創造です。

根拠が何もないと信用されないので、王家の土地が担保とする。金準備
ではなく、土地を準備資産にした紙幣の発行が、ペーパー・マネーの最
初でした。

1713年に設立されたフランス王立銀行(最初はロー銀行)は、ローのア
イデアを入れ、蒙古についで、西欧史上で始めて、「金の裏付けではな
いペーパー・マネー」を発行したのです。

1716年には、税金はすべて、ロー銀行が発行したペーパー・マネーに交
換して支払う必要があるという法を作ります。ロー銀行の紙幣を、もっ
とも多く使わせるためです。当時のフランスは、単一の通貨ではなく、
金貨、銅貨、兌換紙幣、土地担保紙幣などが混在していたのです。

つぎにジョン・ローは、新大陸だったミシシッピ計画やニューオリンズ
の金鉱の株を発行します。ミシシッピ計画は架空のものでしたが、それ
と知らない投資家の買いを生んで、株価は10倍に高騰します。

フランスは、土地担保のペーパー・マネーと、株価の上昇で、インフレ
を含んで経済発展をします。しかし、これは暗転します。

市場には、まだ金貨と交換できる兌換紙幣が残っていました。他方で、
政府は紙幣を増発し続ける。架空のミシシッピ計画の株の配当は、紙の
借用証である国債で支払われました。

ミシシッピ計画とニューオリンズの金鉱は嘘であることを、アメリカに
派遣された労働者が、フランスに帰って口々に言って回ったからです。
株価は暴落します。貿易で豊かだったオランダでのチューリップの球根
バブルに似ています(1637年)。

同時に銀行には、兌換紙幣を持って、窓口に人々が殺到します。当然に
、銀行には、金貨も金もない。ここで、国家と銀行の破産が起こったの
です。(以上『信用恐慌の謎』:ラース・トゥベーデの記述に基づく)


その後も、王家が、放漫財政を繰り返した結果のインフレの帰結は、市
民(商人や事業家階級)が反乱し、王家が転覆するフランス革命でした
(1789年)。明治維新の80年前のことでした。

その後のフランスは、平民のナポレオンが、ヒロイックな軍人として王
(人民の帝王)に即位します(1804-1815)。

パンが買えなくなったハイパーインフレの後のフランス国民は、ファシ
ズムではありませんが、カリスマを求めたのです。人は、古来、自分達
をはるかに超える権威に服従するという原則があります。

■6.20世紀の中央銀行は、国債を買って紙幣を発行した

米国のFRBは、1913年、ウォルソン大統領の時代に、ロスチャイルド家
がもっていた銀行が出資して作られています。当初は、金証券を踏襲し
た金と交換ができる兌換紙幣でした。

翌1914年には、欧州で第一次世界大戦が勃発します。このとき、FRBは
「非常時」として、金とドル紙幣の交換を禁止します。FRBは、政府に
戦費を与えるため、国債を買ってドルを刷ります。これは、ドイツと戦
った英国の中央銀行も同じでした。

金準備を裏付けに紙幣を発行しているだけでは、政府の戦費に足りなか
ったからです。

言いにくいことでもありますが、中央銀行が国債を買って紙幣を発行す
るようになって以降、起こったのが、世界を巻き込んだ第一世界大戦(
米国FRB設立直後の1914年~1918)と、第二次世界大戦(1939~1945)
です。

それ以前も、戦争は頻繁に起こっていましたが、部分戦争であり、世界
大戦はなかったのです。

世界を巻き込む大戦になったのは、各国政府が、戦費につかう国債を無
際限に刷ることができたためです。戦時国債を国民が買わなくても、中
央銀行がいくらでも買ってくれたからです。

政府も、お金がないと、長期間で大規模な戦争はできないのです。
兵器・弾薬を買い、兵士を雇用して、軍人年金も払わねばならない。

マネーには血の匂いがします。このため、天才シェークスピアは、「金
の一滴は、血の一滴」という主旨を各『ベニスの商人』で言わせたのか
。

■7.紙幣の増発は、国民(民間企業と世帯)への見えない課税である
。

無から生まれた紙幣は、1716年のジョン・ローによる、改鋳して増えた
金貨のような、国民経済への「見えない課税」でした。

●戦費調達のための、増税はなかった。その代わり、政府(財務大臣)
がサインすればいいだけの借用証である国債を買って、FRBと大英銀行
は、ペーパー・マネーを増発し、二度の世界大戦を遂行します。ドイツ
、日本、イタリアも同じです。

戦争は、政府にとってもっとも多額のお金がいる公共事業です。

●政府が行うマネーの増発は、その形態が何であるにせよ、国民の富を
政府に移転させる見えない税です。これで、「マネーの増発」というこ
との本当の意味が分かるでしょう。

以上のことを言う学者がいないのは、「国債を買うことによるマネーの
増発は、国民に対する見えない課税だ」という本当のことを言うのが不
都合だからでしょう。

ジョン・ローが先駆けた1716年以降は、「国家の借用証である国債を買
って、ペーパー・マネーを発行する中央銀行」になって行きます。
ジョン・ローは、ルイ王朝の財政資金を捻出するために、ペーパー・マ
ネーのアイデアを出したのです。

そして、世界各国の歴代政府は、政府にとって都合のいい、ジョン・ロ
ーのアイデアを引き継いでいます。

ペーパー・マネーが金兌換(きんだかん:金本位制)か、金と交換でき
ない不換紙幣かを問題にする人がいます。

これも、中央銀行の、「無からの信用創造」の機能を隠すための、目く
らましの論です。ベネチアの金匠が発行して貸し付けた、偽の預かりの
金証券(預かった金の9倍)を書いたのはこのためです。

金兌換紙幣いえば、金貨と同等に見なす人が多い。しかし、それは、ベ
ネチアの賢い金匠が発行した、預かった金を担保にした金証券と同じで
す。

金証券(=兌換紙幣)を持って行っても、その兌換紙幣に相当する金は
、ベネチアの金匠の金庫にも、どこにもありません。

以上で、「中央銀行は無からマネーを創造できる」とする通説は、誤り
だということが分かるでしょう。その正体は、いずれは物価が上がる、
見えない課税です。

物価の上昇に、上昇した分の消費税が含まれていると言えば、マネー増
発の原理が分かるでしょう。

当方、個人の立場で、以上を書いています。

■8.古典には、考え尽くされたものを見つけることができる。

アービング・フィシャー(1867-1947)は、貨幣数量説の祖と言われま
すが、1929年からの世界恐慌で、株の投機(当時の10万ドル)から破産
したため不名誉を蒙って、その学説も無視されているようです。

当方、マネーと経済の関係については、アービング・フィシャーの「M(
マネー・ストック量)×V(流通速度)=P(物価水準)×T(実質GDP)
」が、唯一、正しいと考えています。

(注)ただし、このMV=PTには、修整の必要があります。金融資産や不
動産含む資産(ストック)は、商品経済であるGDP(商品フローの量)
には、含まれていないからです。MV=PTが言う物価も、商品の消費者物
価だけです。Pには、金融商品(証券、株、国債)と不動産価格も含ま
ねばならない。

金融資産の増加(GDPの3倍の金額)とともに、世帯が使うような商品を
買わない金融資産の売買が増えているからです。世界の金融資産は、GD
P(5000兆円)の3倍(1京5000兆円)です。日本のGDP(469兆円:名目)
に対し、金融資産はやはり3倍(1450兆円)です。

GDPの商品に対しては、マネー・ストックは、1年に1/3回転しかしてい
ません。

しかし、金融資産である株の売買は、1年に、薄商いとは言っても350兆
円規模です。国債(残高1020兆円)を含む債券の売買額は、年間で3200
兆円もあります。これもマネーの流通です。

▼アービング・フィシャー

マネー・サプライと経済の相対的な関係について、アービング・フィシ
ャーは以下のように、述べています。当方で、説明的に補っているとこ
ろがあります。なお、マネー・サプライとマネー・ストックは同じこと
です。

<マネー・サプライの増加は、初めはインフレ率を引いた後の金利(実
質金利という)を低下させる。つまり、金利が下がる。このため、生産
量(または商品購買量と投資)を増やす。しかし、やがては、インフレ
率の上昇とその結果、実質金利が上昇する。(マネーの価値が下がるか
らである。) つまり、(中央銀行のマネー増発による)マネー・サプ
ライの大きな増加があると、最初は(GDPを増やす)好ましい効果をも
つが、後になると(インフレという)不快な結果をもたらす>

ここです。

▼(1)最初は、金利が低下し、経済は活性化する。

確かに、08年9月以来、FRBとECBによる400兆円のマネー供給で、経済の
、恐慌的な低下は抑えられています。

2011年には、追加で、PIIGS債の対策費として、200兆円規模が投入され
ています。

▼(2)やがてはインフレ率の上昇と、その結果、実質金利が上昇し、
好ましくない結果をもたらす。

[実物商品]
ユーロの消費者物価インフレは、2.7%(2011年1月)で、米国は2.9
%(同月)です。まだ、インフレと言えるほどの高さではない。

[金融商品]
他方で金融商品である株価(米国S&P500種)は、08年9月の暴落(指数
800)から1351(12年3月6日)へと69%上がった水準です。欧州のFTSE1
00種も、08年9月の4000から、5791(12年3月6日)と、その後に加わっ
たPIIGS危機にもかかわらず、45%も上がった水準です。

同時に、米国の長期国債金利は1.9%、ユーロ長期債は1.8%です。国
債金利の低さは、国債価格の上昇(価格インフレ)を示すものです。

つまり、現在は、米欧の中央銀行による、合計600兆円のマネー供給で
、金融商品(株、国債、証券)のバブル的な価格の時期です。ただし実
物商品のインフレは起こっていない。増加マネーは金融商品に向かって
株、証券、国債の価格が上がったのです(実質金利は低下)。

(注)過去の経験的な事例では、実物商品のインフレには、中央銀行が
マネー供給を増やしたあと、1年半から2年の期間を要しています。

▼(3)実質金利が上昇する時期

これは、先進国の国債が下落する時期です。消費者物価がインフレ的に
上がる気配が見えると、期待金利が上昇します。

金利は、インフレ率でのマネー価値の下落を補うように上がるからです
。

事例を言います。あなたに現在100万円があるとします。物価の期待上
昇が5%とします。これを貸すとき、4%の金利では、1年後には1%の損
になる。このため、5%+回収リスク率(例えば3%)=8%の金利を要
求するはずです。これと同じことが、インフレによる期待金利の上昇で
す。

(1)中央銀行のマネー印刷→(2)最初は金利の低下→(3)経済の活
性化による物価の上昇→(4)期待金利の上昇→(5)同時に国債(債券
)の下落・・・になって行きます。しかしこれは普通の時期の、景気循
環です。

現在はまだ、銀行が不良債券を抱えているため、中央銀行のマネー印刷
は経済の活性化になっていません。むしろユーロのGDPは低下です(201
2年IMF予想)。

●不良債券が巨額なときは、中央銀行のマネー印刷が、(3)の経済の
活性化による物価の上昇をもたらしません。どうなるのか?  

2011年のユーロのように、通貨の信用そのものが下落することによって
、実効金利の上昇が起こります。

(注)実効金利は、海外の通貨に対する為替変動を入れた金利です。通
貨が下がると実効金利が上がります。通貨が上がると、実効金利は下が
ります。

ユーロ15ヵ国にはドイツが入っているので、全体金利は低い。

しかし、ECBがマネーを注いでも、ギリシアの長期金利は38.8%(12年
3月)、スペインが5%、イタリアは5.2%です。

つまり、PIIGSの実質金利は、激しく高騰しています。中央銀行の、マ
ネー印刷は通貨の価値を下げることによって、このように、やがて実質
金利を上げてしまうのです。

マネーの本質を見て、ベネチアの金匠が偽の預かり証(国債に類似)を
大量発行した後を考えれば分かるでしょう。紙幣の価値(国債の価格)
は下がる。同じことですが、(国債の)金利は高騰するのです。

日米欧同時の、中央銀行のマネー供給つまりマネー印刷は、1年半か2年
後には、確実に、国債価格の下落と金利の上昇を招くでしょう。

中央銀行当局が、そこまでを見通しているのかどうか?
見通しているとすれば、確信犯です。
知らないとすれば、無知です。

【後記】
拙著『国家破産』は、アマゾンの経済学ジャンルのランキンングで、1
位と2位を、行ったり来たりしているのが面白い。

争っているのは、多くの場合、インターネットの無料経済を言う『フリ
ー』です。この本は、3年前でしたか、ウォール街の書店で山積みなっ
ていたので、買いました。

アマゾン(紙)            : http://www.amazon.co.jp/
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