マイナス金利の導入は、異次元緩和の失敗を示す
This is my site Written by admin on 2016年2月22日 – 09:00
おはようございます、吉田繁治です。日銀によるマイナス金利の導
入以来、金融相場は、日銀が目的とした効果と真逆に動いています。

【利下げで一般に起こること】
一般に、政策金利を下げれば、その国の通貨は下がります。比較上
で高い金利の通貨(米ドル:長期金利1.7%)が買われ、低くなっ
た金利の通貨(つまり円:0.005%:2月19日)が売られるという動
きが起こるからです。外為市場で買い超になった通貨は上がり、売
り超になったマネーは下がります。

金利が下がることは、負債がある企業の利益にプラスの要素です。
このため、一般に、株価は上がります。加えて、PER(=株価/期待
純益率)の逆数である期待収益率が金利の低下によって下がるため、
PER倍率も上昇します。〔株価=期待純益÷期待収益率〕、です。

株価に寄せる期待収益率が下がるとPER倍率は上がって、株価も上
がるのが普通のことです。金利が下がると人々がお金を使うため、
株価も上がり景気が良くなるというのがこれです。

しかしわが国の金融相場では、マイナス金利のあと、「こうした普
通のこと」とは、逆のことが起こりました。

【数か月前に、予想される変化を織り込むのが金融市場】
起こった現象には、理由があるはずです。利下げとは逆の金融相場
の動きは、「通貨と株価における織り込み」を入れると説明可能な
ものになります。(詳細は、前号(352号)の、「織り込み理論」
を参照)

【日本の株価は、円安・円高に連動する】
ドルの長期金利の動きから言います。

国内市場の成長がないわが国では、外需を増やす円安が株価上昇の
条件になっているので、ドル安・円高では株価は上がりません。円
安が株価上昇の条件になっているのは、上場大手企業の平均では、
売上のほぼ50%が、米ドルで計算される海外への売上(輸出+海外
事業)だからです。

10%の円安・ドル高になると、海外事業の売上は、円換算では10%
上がります。国内での売り上げが同じでも、海外事業が多い上場企
業の売上は5%は増加し、国内のコストは同じなので、企業利益が
20%や30%は増えたようになります。以上が、円安で株価が上がる
理由です。

(注)他方、輸入企業はコスト高になり、利益は減少します。しか
し上場企業には輸出と海外生産の企業が多いため、〔円安=売上増
加→利益増=株価上昇〕になるのです。

【12月の利上げを織り込んで上がっていた米国の長期金利】
米ドルの超長期金利(10年もの国債の利回り)も、奇妙な動きをし
ています。米国FRBは2015年12月16日に、恐慌的だったリーマン危
機以来8年ぶりに、0.25%の利上げをしています。

この利上げとともに、普通は上がるべきドルの長期金利は、2.25%
(15年12月27日)から1.77%(16年2月22日)に下がっているので
す。

この理由も、「織り込み」です。

6月からの中国株の下落を起点にしていた世界の株安は、2015年10
月に、ほぼ収まり、米国の雇用数の増加から、FRBがほぼ1年間念願
にし、そのタイミングを狙っていた15年12月利上げが確実になって
いました。

このため米国債のへ世界の投資家は、12月利上げを想定し、金利が
上がれば価格が下がる米国債を売り超にして、長期金利を上げてい
たのです。このときは、2016年での4回の利上げ(0.25%×4回=1
%)も想定されて、金利が上がると下がる国債の売りを誘ったので
す。

このため2%付近だった米国の長期金利は、利FRBの上げの前にほぼ
0.25%(FRBの1回の利上げの幅)分上がって、2.25%になっていま
した。12月16日の市場の長期金利は、12月のFRBの利上げと、16年
3月の利上げを想定して、2か月前から織り込んだものになっていま
した。

そして実際、12月16日に、FRBは利上げを発表します。

ところが、FRBの利上げの前後から、世界経済の雲行きが、怪しく
なってきました。
(1)中国を筆頭とする新興国の、経済成長の急減速。
(2)新興国投資からの、量的緩和マネーの米ドルの引揚げ。
(3)原油価格の下落による、産油国財政の悪化。
(4)新興国を50%の市場にしている米国の輸出の減少。

【FRBの16年3月利上げはなくなったという予想】
世界景気の悪化のため、米国の長期金利に織り込まれていた16年3
月のFRBの利上げは「ほぼない」から、「絶対にない」というよう
に、変わってきました。

このため16年3月利上げを織り込んで2.25%に上がっていた米国金利
は1.77%へと、0.48ポイント(21%)も下げたのです。(米国の長
期金利の推移:15年10月から16年2月をみてください)
http://jp.investing.com/rates-bonds/u.s.-10-year-bond-yield

【ドルの金利が下がるとドルも下がる】
ドルの長期金利が下がると、海外から、金利差(イールド・スプレ
ッド)で買われていた米ドルも下がります。事実16年2月1日に、$
1=121円だったドルは、2月22現在は113円付近に上がり、7.5%の
ドル安・円高になっています。

【マイナス金利にしても、米国との金利差は拡大した】
日銀のマイナス金利は0.1%の利下げ幅であり、米国の利上げ後の
長期金利の低下(2.25%→1.77%:0.48ポイント)よりもはるかに
小さいからです。マイナス金利の前より、米ドルとの相対的に見た
金利は、上がったからです。(注)仮に、日銀が、一挙に1.0%の
マイナス金利に踏み込んでいれば金、「円安」に向かったはずです。

【マイナス金利後の円高のため、日本の株価は下がった】
国内経済が成長しなくなった1997年以降、円高になると日本の株価
は下がり、円安で上がる性質があります。このため、-0.1%という
マイナス金利とともに、以上の織り込みの現象を理由に、「利下げ
で円高になり、株価は下がる」という事態が生じています。

以上、前号の要約した振り返りでした。

ドルに対する円高はほぼ7%(8円)、株価は21%(4000円)の下げ
です。
1円の円高に対して、日経平均はほぼ400円~500円は下げています。

【日本の自然成長率の低下】
本稿では、「日本の自然成長率の低下」をテーマにします。日銀の
中曾副総裁は、2月12日にNYで講演し、マイナス金利をとった理由
を述べています。

講演内容は、「日銀の、日本経済に対する見解」と言えるものです。
幸い、講演の全文と経済データが日銀のサイトに出ています。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160213a.htm/

これを採りあげる理由は、日銀の政策であるマイナス金利の理由を、
日本の潜在成長率(自然成長率)の低下に求めるというように、日
銀が主旨替えをしているからです。2年9か月ほぼ200兆円分も行っ
てきた異次元緩和が、効かないのは、日本の潜在成長率(自然成長
率)が低いためだという、言い訳がされているからです。

2015年11月に、NYタイムズ紙のコラムで、量的緩和が、円安は生ん
でも、目的としていた物価と経済成長の面では効果を上げていない
ことを見て、クルーグマンが言っていた言い訳と同じ筋です。

日銀も、クルーグマンと同じ言い訳をし始めたと見ていいしょう。
なぜ、国内でこの講演をせず、NYで行ったのか。「アベノミクスの
本命だった量的緩和は失敗だった」と言われることを恐れたためで
しょう。

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<Vol.353:マイナス金利導入は異次元緩和の失敗を示す>

      2016年2月22日:無料版

【目次】

1.日本の潜在成長率(自然成長率)の低下を挙げる
2.労働参加率を上げるという方法があるという
3.結論は、技術革新への期待の表明だった

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■1.日本の、潜在成長率(自然成長率)の低下を挙げる

<わが国の潜在成長率は趨勢的に低下しており、日本銀行の推計に
よると、ゼロ%台前半ないしは半ば程度となっています。潜在成長
率がこれくらい低くなると、経済にわずかな負のショックが生じる
だけで、──これには、統計上の誤差の発生も含みますが──、計
測上、GDPがマイナス成長に陥りやすくなってしまっています。
ご承知のとおり、成長率は、労働投入の伸びと労働生産性の伸びに
分けることができますが、長い目でみて、どちらの要因も成長率の
押し下げに寄与しています。(中曾講演(1):原文のママ)>

潜在成長力は自然成長力とも言い、インフレにもデフレにもならな
い状態での、GDPの実質成長率を言います。この時の金利は、潜在
成長率とほぼ一致します。

この潜在成長力は、1人当たりの労働生産性、労働者数の積です。

GDPの潜在成長率=労働生産性の成長率×労働者数の増加率、です。
会社の売上が、[1人当たり売上×8時間換算社員数〕から成るのと
同じです。

社員数が年率で5%増え、労働過程に、情報機器や機械の導入して
技術革新(イノべーション)を計ることで1人当たり売上を4%増や
すことができれば、会社の売上は9%増えます。

1人当たり売上が4%増えるなら、1人当たりの賃金も、3%は上げる
ことができます。賃金が上がれば、需要(世帯消費)は増えます。
賃金が上がることで増える需要に合わせて、生産も増えて行くとい
うGDPの成長軌道に乗るのです。GDPとは、生産される商品の合計金
額でもあります。このGDPは三面等価であり、生産=所得=需要で
す。

ほぼ100年前、世界ではじめてのテイラーイズムでの量産車T型フ
ォードの時代に、創業者のヘンリー・フォードがビジョンとしたの
は、「1人当たり生産性を高め賃金を上げることで、普通の人が車
を買えるようにする」ことでした(『藁のハンドル』:)。

テイラーイズム(当時の最新のイノベーション)とは、現代にまで
続くベルトコンベア型生産を開発したフレデリック・テイラーによ
る生産方式です。

国のGDPが成長するには、労働生産性の成長率(↑)×労働者数
(↑)×就業率(↑)での、全部またはいずれかの要素が、他の要
素よりプラスでなければならない。

日銀が集計したわが国の潜在成長率は、以下でした。いずれも年率
です。

【わが国の実質GDPの潜在成長率】
     労働生産性上昇率  労働者数増加率  潜在成長率
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1970年代     4.2%       0.8%     5.0%
1980年代     3.4%       1.0%     4.4%
1990年代     0.9%       0.5%     1.4%
2000年代     0.8%       -0.2%     0.6%
2010年代      不明       -0.3%        
2020年代      不明       -0.7%
2030年代      不明       -1.2%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(注)労働者数の将来推計は人口問題研究所の、生産年齢人口
(15歳~65歳)と、内閣府の就業率の推計による。

1980年代までは、労働生産性の上昇は3%以上と高く、労働者数も
増加していました。このためGDPの実質成長率(≒潜在成長力)も
4%以上と高かった。(注)現在の中国のような感じだったのが、
1980年代までです。

90年代には労働生産性の年率成長が0.9%に下がります。ついで00
年代には、0.8%に下がっています。そして1997年以降は、生産年
齢人口(15歳~64歳)も減り始めたのです。

2010年代(2010年から2019年)には就業者は年率で0.3%減り、東
京オリンピック後の20年代には年率で0.7%減って、30年代になる
と減少は年率1.2%と大きくなっていきます。

わが国の、自営を含む就業者は、2015年で6360万人(総人口1億
2673万人の50%)です。2010年代は、この就業者が年率で19万人減
り、20年代には45万人、30年代には76万人ずつ減っていきます。こ
れは人口構造に基づく変化であり、99%は確定しています。

◎2000年代に年率で0.8%に下がった労働生産性の上昇率を、1%、
2%、3%と高めていかない限り、わが国の実質GDPが、今後増える
ことはない。

日銀が異次元緩和というマネーの増発策で目標にしたのは、GDPの
実質成長率では2%付近でした。これは、働く人1人当たりの労働生
産性の可能な上昇を、ほぼ3%と見ていたことを示します。

ところが1980年代のバブル経済期にも、わが国の労働生産性の上昇
は3.4%/年でした。バブル期とほぼ同じ労働生産性の上昇を、今後、
わが国が毎年続けるのは、ほぼ不可能に思えます。

政府・日銀は、マネーを増発するという手段で労働生産性の上昇3
%付近が可能であるとしていたことになります。(注)この3%上
昇は1年だけではない。毎年、続くべきものです。

マイナス金利を含む金融緩和により、企業が設備投資を増やし、そ
れが労働者1人当たりの資本装備率(資本/労働者)を上げ、3%の
労働生産性の上昇が可能になるとしていたことになります。

これは上位5%のグループでしかない成長企業では可能でしょう。
しかし残り95%を含む260万社全体と一次産業を含む自営業の平均
生産性上昇としては不可能です(断言します)。

日銀の中曽副総裁は、異次元緩和が目的としていたGDPの実質成長
と2%の物価上昇の実現が不可能になってきたことから、「日本は、
潜在成長率が0%台に下がっている」というマネー以外の事実をも
ち出したと思えます。

■2.労働参加率を上げるという方法があるという

<こうした潜在成長率の低下傾向は、いつまで続くのでしょうか。
もし続くのであれば、これにどのように対処すればよいのでしょう
か。ことの重要性について、だいたいの勘所を持っていただくため
に、ここで政府が目標とする2%の実質成長率を実現するに当たっ
ての簡単な試算をお示ししたいと思います。(中曽講演(2))>

<図表2では労働参加の前提が異なる2つのシナリオを示していま
す。ひとつは、「現状維持シナリオ」で、将来の労働参加率が現状
のまま維持されると仮定しています。もうひとつは、「楽観シナリ
オ」です。「楽観シナリオ」では、(1)女性の労働参加率がスウ
ェーデン並みに上昇する(88%:日本は72%)、(2)全ての健康
な高齢者が、退職年齢を問わず働き続ける、との2つの仮定が設け
られています。(中曽講演(3))>

<このうち2つ目の仮定は、例えばわが国の80~84 歳の高齢者の
うち約60%が「問題なく日常生活を送っている」と回答しているこ
とを踏まえたもので、ここでは、こうした健康な高齢者が皆働き続
けることを仮定しています。(中曽講演(4))>

【実質2%成長に必要な労働生産性の上昇と就業者数の増加】

         1990~14 2015~40    1990~14
          実績  目標       米国
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
実質GDP成長率   1.1%  2.0%      2.4%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
労働生産性上昇率  0.9%  1.6%      1.5%
就業者数増加率   0.1%  0.4%      0.9%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
人口構成からの傾向     -1.0%      
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

日銀が、2015年から2040年に、実質GDP成長で2%を実現するために
必要としている目標値は、
・労働生産性の上昇で年率1.6%、
・就業者の増加で年率0.4%です。

就業者で0.4%の増加を今後25年続けると、〔1.004の25乗=1.10で
す。2015年時点での就業者数は6360万人であり、人口に対する就業
率(働く人の割合)は50%です。

現在の就業者6360万人を1.1倍にするということは、6996万人です。
しかし2040年の人口は、約2000万人(16%)減って、1億726万人で
す(国立人口問題研究所の推計)。6人が5人になるイメージです。
現在30万人の都市が、人口では25万人に減ります。

現在の就業率50%のままなら働く人は人口減と同じ割合で減り、
5363万人(84%)になります。この中で就業人口を6996万人へと
10%増やすことは、従来は働きうことをやめていた人を、働くよう
にして1367万人増やさねばならない。

・女性の就業率72%を、ほぼ全員労働のスウェーデン並みの82%に
高め、
・65歳では退職せず、70代も働き続け、
・80歳から84歳までで健康な人(約60%)が働き続けることが必要
です。
(注)戦争のときの、国家総動員令のようですね。

以上によって実現するのが、今後25年間人口が平均で70万人減って
行く中で、就業者を6996万(現在の+10%)に増やすことです。こ
れが年率で0.4%の就業を増やすことの内容です。

0.4%はとても少ないように見えますが、実数で言えば、
・年率70万人の人口減の中で、
・働く人の実数を25万人増やし続けるということです。

生活イメージで言うと、
・健康な男性は、70代はもちろん、84歳まで働き続けること、
・女性の15歳以上64歳までは、82%の人が働くこと、です。

これが、実は、政府が言い始めた「1億総活躍社会」です。ただし
これによって実現するのは、就業人口の年率でわずか0.4%(約25
万人/年)の増加でしかない。

講演した中曽副総裁も「これが可能かどうかは別として(机上の計
算だけをすれば)」と加えています。実現しないという含意です。

以上のように、
・人口が減る中で就業者を増やした上に、
・1人当たりの労働生産性を年率1.6%(25年で1.49倍)増やさねば、
実質GDPの2%成長にはなりません。

1994年から2015年までの20年間、年率の労働生産性の上昇は0.9%
でした。00年代には多少高かったので、2010年代はほぼ0.5%付近
に低下しています(日本生産性本部)。

これを、どうやって政府・日銀が、毎年1.6%高めるのか? 
しかも、向こう25年間、毎年です。

■3.結論は、技術革新への期待の表明だった

<しかしながら、バーナンキ前FRB議長が言うように、金融政策
は決して万能薬ではありません。近年の経済成長理論などの発展を
みますと、経済成長には、制度設計や経済システムといった視点が
不可欠であることを認識させられます。最先端の企業がさらなるイ
ノベーションを生み出し、生産性を引き上げることができるような
制度設計が必要となっています(中曽講演(5))>

<先ほど、わが国にとってキャッチアップが引き続き重要と申し上
げましたが、結局のところ、経済成長の究極のエンジンはイノベー
ションにほかなりません。ここで申し上げている「制度設計」とは、
経済的な側面のみならず、法律や教育など、他の社会的な側面をも
含んだ概念です。わが国の政府が、構造改革の継続を通じて、そう
した制度設計面での役割を果たしていくことを強く願っている次第
です。(中曽講演(6))>

労働生産性を上げるには、企業内の技術革新が必要です。会社での
働き方の変更で、生産性(1人当たりの売上)を増やさねばならな
い。(注)作業の手順変更と、機械化、情報化です。

中曽講演の結論はこのイノベーションの必要でした。
この結論は、日銀の金融政策では、実現が無理だということです。

ところが日銀は、デフレは貨幣現象であると間違って結論付け、こ
の前提の上に、異次元緩和として現金の増発策を実行してきました
(約200兆円)。

マネー量が増えれば、2年で物価目標2%は達成できる(消費税増税
分は含まない)。2%のインフレになれば企業家は売上の増加を期
待するように変わり、260万社が設備投資を増やすよう変わる。そ
れによって、経済は成長すると説くのがリフレ論でした。

しかし実際は、2%のインフレも、2%の実質成長もなかった。

そこで、貨幣現象以外から、「人口構成と技術革新の停滞による
GDP長期停滞論」をもち出した。これが、NYでの2016年2月の中曽講
演でしょう。

『流動性の罠』で、量的緩和を奨めたクルーグマンが、2016年11月
に、NYタイムズ紙のコラムで認めた「人口構成と技術革新の停滞に
よるGDP長期停滞」なら、マネー量を増やす異次元緩和は、治療薬
ではなかったのです。

人口構成と技術革新の停滞によるGDP長期停滞の場合、GDPを増やし
て同時にインフレにするには、「国債の増発による財政支出の増
加」が必要でした。(注)ただしこれは、財政破産の危機もはらみ
ます。

今後の日本で、実質GDPの2%成長という目標の達成は、副総裁の中
曽氏が言うように、<最先端の企業がさらなるイノベーションを生
み出し、生産性を引き上げることができること。他が、そのイノ
べーションを追うこと>が必要です。

これは日銀の金融緩和とマイナス金利で実現できることではない。
ヘンリー・フォードの現代版のように、「自分が変える」というイ
ノベ─ティブな精神をもつ企業家が行わねばならないことです。

政府・日銀が、民間企業のイノベーションを引き起こすことはでき
ません。イノベーションの邪魔をしないこと、支援することしかで
きないのです。

中曽日銀副総裁のNY講演の、立論の構造とその素材を見て、日銀は、
リフレ策の失敗として、それとは言わず白旗を上げています。異次
元緩和とは無関係な、就業人口の増加と企業のイノべーションが必
要という結論だったからです。

マイナス金利は、異次元緩和の延長ではなく失敗を示すものです。
これを株式市場は、すでに見透かしています。このため、マイナス
金利と同時に、将来の企業利益の増加が期待できなくなってきた株
を売って下げているのです。

2013年当時は、異次元緩和が、GDPの実質成長とインフレをもたら
すと期待していました。2年10か月が経ちました。予定額以上に、
異次元緩和は実行されました。しかしGDPの実質成長率とインフレ
率は高まらない。

あるかも知れないと思っていた幻想が、剥(は)がれ落ちたのです。
中曽氏の講演は、金融緩和以外の要素に、経済成長とインフレを求
めたものです。

【後記】
新刊書:膨張する金融資産のパラドックス

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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                              以下は、項目の目処です】

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<808号:世界経済を揺らす中国経済の実相>
   2016年1月20日:有料版

【目次】

1.大きく増えて、2015年から急減している中国の外貨準備
2.2015年の、中国からのマネー・エクソダス
3.民間の元売りの理由
4.中国の本当のGDPの推計
5.社会融資規模の、増加の停滞から見る
6.今後の問題は住宅価格

【後記】

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