こんにちは、吉田繁治です。2週分のお休みを頂戴したことをお詫び
します。本シリーズは、「優秀と言われる社員が多数いるだけでは、
企業が長期に成果を獲得するとは限らない。企業の長期的な業績を左
右する鍵となるものは何か?」ということへの考察です。
※本号は2号分です。
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<Vol.186 ビジョンと価値観という課題(2)(3)>
【目次】
1.仕事での優秀さの内容
2.能力を活かす動機付けという要素
3.報酬による動機付け
4.価値観という謎
5.戦略論に共通な5ステップ
6.しかし、比類ない業績を長期にあげている企業は・・・
7.価値観
8.比類ない価値観の具体例
9.3つのご案内
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■1.仕事での優秀さの内容
前稿(3月2日号)では、仕事で優秀と言われることの内容を、箇条
書きに単純化して示しました。
【仕事での個人の優秀さの7つの内容】
(1)解答力:与えられた問題を解く能力
(2)発想力:与えられていない問題や課題を生む能力
(3)差異力:与えられた問題に対し、従来とは違う意味あるユ
ニークな解答を出す能力
(4)戦略力:目的に向かった、整合的な実行計画を立てる能力
(5)実践力:重点化した目標を達成する能力
(6)親和力:チームワークの能力、チームへの貢献
(7)真摯さ:目標達成へのひたむきさ
目標へ向かった自己犠牲
組織内部の他者とチームへの貢献
組織の外部の顧客への貢献
以上の7項は、仕事での優秀さの中身(能力)を要素にして言ってい
ます。
(6)親和力はチームワークに、(7)真摯さは姿勢(または精神、
あるいは価値観)に係わるものです。
重要性の順列で言えば、「学業のような個人だけの能力」と違い、「
組織で行う仕事」では、番号が後のもの<(6)親和力、(7)真摯
さ>がより大切に思えるという、私の最近の感想も付記しておきまし
た。
この(6)と(7)はどこから得られるかを研究するのが本稿です。
■2.能力を活かす動機付けという要素
仕事での「個人の優秀さ」を言うとき、繰り返しあらわれる図式は、
<優秀さ=能力の高さ×動機付けの高さ>です。
能力は(1)解答力、(2)発想力、(3)差異力、(4)戦略力、
(5)実践力に関係します。これらの5要素を加え代入すれば以下で
す。(差異力が大きな要素として加わったのが、近代以降です。)
個人の優秀さ=(解答力;発想力;差異力;戦略力;実践力)
×動機付けの高さ
これらの(個人的な)能力は、繰り返して言われることでもあり、直
感的にも理解しやすいものでしょう。
▼個人の能力
学業では、問題を与えそれに対する解答を評価します。しかし仕事で
は、外部の顧客や内部の組織の問題を発見し、他社とは違う価値を作
って、実行戦略(計画)を策定し、実践する力が必要になる。
多くの「企業戦略論」では、まとめればこうした解答力、発想力、差
異力、戦略力、実践力の内容を言っています。
▼動機付け
しかしながら、これら5つの能力とかけ算になるであろう「動機付け
の高さ」には「深い謎」があります。「やる気」と言っても同じです。
能力があっても、やる気が弱ければ、成果は小さくなる。これは、
皆が感じている常識的なことです。
モティべーション(動機)、やる気、ロイヤルティ(仕事への忠誠や
真摯さ)、仕事でもっとも大切なこれらのものはどこから得られるか?
■3.報酬による動機付け
世間より高い給料を払い、仕事の成果(あるいは目標達成率)に対し、
公正な利益配分のインセンティブを与えればモティべーション、や
る気、ロイヤルティは高まるということだけではない。
報酬は仕事の動機付けに「必要な条件」ではあります。他から報酬を
決められる固定給の社員にとって、自分の成果が公正に評価された報
酬を加えることができる成果給は魅力になる。
しかしそれが会社にとって重要な、チーム全体の成果を高めるかとい
うとそうではない事例が、近年は多いのです。
個人の成果評価は、他との比較上のことであるため、実際に行えば、
少数の成功者と多数の敗者を生むからです。5点をとる人は3点の人
より、ぐんと少なくなります。
5点の人だけを集めても、その中での比較であるため、3点の人を多
く生んでしまう。
日本の企業や社員にとって、年功序列の賃金体系を崩す希望でもあっ
た個人成果の評価は、こうした隘路(あいろ)、矛盾を含んでいます。
成果給で生活にも困る低い報酬になったとき、つまり無言の退職の奨
めになったときのことが、想定されていないのです。
個人成果評価の典型は、車、保険、不動産、金融商品のセールスマン
やセールスレディです。大きな差が出る、公正な数字で表れる変動給
の報酬が社員のやる気を「長期に」高めているかどうか疑問がありま
す。成功者は少なく、離職率は極めて高いのです。
(注)多くの米国型や外資企業の報酬体系は、幹部や主要社員を含め、
インセンティブの方法である「歩合給」の方法をとっています。
報酬は必要な条件ではあっても動機付けを長期で高め続けるのに十分
な条件ではないと思えます。
■4.価値観という謎
行動学者でもあるチャールズ・オライリーとジェフェリー・フェファ
ーは『Hidden Value(2000)』(邦訳『隠れた人材価値』)の中で、経
済的な報酬だけには還元できない、企業の『価値観』を取り上げてい
ます。
▼価値観はリーダシップの要素
価値観とは「何を他より優先し大切にするか」ということです。
リーダシップの重要な構成要素でもあります。
リーダシップを構成する要素には、
(1)ビジョンと使命:目標とすべきこと
(2)価値観:大切に守るべきこと
(3)戦略:目標に至る設計図、組織、人員配置、使うシステム等
(4)コーチング:個人目標と組織の目標の調和、考課、教育、があ
ります。
企業の長期目標をビジョンとして決め、仕事に使命感をもたせて、守
るべき価値と行動原則を示す。そして目標に至るための長期・短期の
戦略と方法を示す。コーチングは、要は教育です。
この中の価値観に、経営の重要な鍵があるとし、長期での成功企業の
事例をあげるのが『隠れた人材価値』です。経営の英雄論ではない。
むしろ英雄否定論です。
【リーダシップとマネジメントの関係】
マネジメントは、リーダシップの後を受けた、
・実行計画(planまたは作業工程)、
・実行方法示した実行(do)、
・実行のプロセス管理と成果評価です。
経営は、(1)方向と価値観、および戦略を示すリーダシップと、
(2)利益の産出過程の管理であるマネジメントによって構成されると
いうのが、米国での90年代での発見です。
まだ日本の経営では常識にはなっていません。ビジョンや価値観より、
戦略論に重点が置かれています。
リーダシップが示す「価値観」とは具体的にはどんなものか。この価
値観の中にこそ、ビジョンやミッションも含まれるとするのが二人の
行動学者です。
ミッションはキリスト教的な言葉です。国語で言えば「義」を果たす
義務ということでしょう。
そのまえに価値観がくる。価値観への共感によって、義が生まれる。
【鍵は価値観】
利益を含む、長期の優れた経営成果をあげている8社の事例研究(『
Hidden Value 』)で得られた結論は、<一人一人を見れば、さほど優
れた人材に恵まれているとは思えないのに、社員の潜在能力を最大限
に引きだし、長期に優れた業績をあげている・・・鍵は価値観だ>と
いうことです。
価値観と言っても謎めいています。大切に守るべきものと言っても、
分かりにくい。原題で『Hidden Value(隠れた価値観)』と言っている
ことでも、その分かりにくさが「分かります」。
企業は、独自の価値観(企業文化や行動と判断の様式と言っても同じ)
をもっていて、それが長期の利益を含む業績を左右する最大要因だ
というのは、なかなか理解しにくいのです。
▼価値観の事例
日曜日(04.03.21)の日経新聞、「私の履歴書」にイオン(ジャスコ)
グループの創業者である岡田拓也氏が、以下のように書いています。
マネーはいくらでも借りることができたのにバブル期の不動産、ホ
テル、レジャー投資を寸前のところで思い留まった理由です。
<私は「本業は小売りだ。小売りに徹するべきだ。大口は卸だ」と言
って、(本業以外の不動産投資を)止めさせた>
こうした本業への徹底、つまりは他の選択肢の拒否も、ギリギリの選
択についての価値観のひとつです。
今から思えば、当たり前の決定に思えるかもしれません。しかし土地
さえもっていれば、だれもが、土地評価の額を超えて借入ができたバ
ブル期に、投機を自己抑制するのは、難しいことだったのです。
80年代末の環境では、本業の小売りよりも不動産投機が利益をあげ
ていた。大手他社はダイエー・西武グループを含め不動産、ホテル、
レジャー、そして金融的な投機にも走った。その後10年という長期
での結果は、ご存じの通りの苦況です。
投資は投資したものを使う利益計算、投機は不労所得のキャピタルゲ
インを狙うものです。
利害や損得を超えて「何を優先するか、大切にするか」という価値観
のひとつが、こうした「判断の基準、座標軸」だと言えば、価値観を
理解する手がかりになります。
短期の利益を求める戦略論からは、価値観は出てこない。環境にかか
わらず「愚直に守る何ものか」によって得られます。
利害・損得を超えたものが、何を大切にするかという価値観です。
■5.戦略論に共通な5ステップ
まず一般的な戦略論を振り返ります。我々にもなじみが深いものでし
ょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1.[戦略] :ビジネスの対象とする主領域は何か?
↓ 成功のためにはどう競合他社と戦うべき
か?
2.[戦略の具体化]:マーケティング、製造、財務、人材・人事
↓ 顧客にどのような差異化の価値を提供する
か?
3.[成功の主要因]:戦略を実践する上で、何が、鍵となる任務
↓ (task)か?
(何を重点化し実行しなければならないか)
4.[組織の整列] :実行の方法をデザインし、実行の仕組みを作
↓ る
(人材採用、人材選抜、業務成果の管理、研
修と能力と必要技術の開発)
5.[上級管理職の役割] :戦略と活動の方向の、整合性を管理す
る。決めたルールの順守状態を管理する
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(原書より)
戦略的な経営と言われるものの共通項は、およそこの5つのステップ
です。他の言葉で補いながら、説明的に言えば、以下です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1.戦略=何を行うかを決める
2.戦略の具体化=競合他社のとの関係で、どんな地位(ポジショ
ン)を占めるべきか、何を差異的な商品・サービス・価値
とすべきかを決める。
敏速な顧客対応、ローコスト、高いサービス、高い品質等。
3.主要因=戦略の具体化、実現のためにはどんな競争力が必要か
を決める。鍵となる仕事は、何かを決める。
4.組織の整列:実行計画を決め、各部門で必要な能力を集める。
能力開発、技術開発を行う。実行の仕組みを作る。
5.管理する:実行状況、進捗状況を管理する。障害解決を行う。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ほとんどの企業は意識しているかどうかは別にして、以上のような5
つのステップを使い、経営を行っています。5つのステップが十分で
ない限り、事業戦略は成功しません。
戦略的なマネジメントは5つのステップに集約されると言ってもいい
でしょう。
(注)以上の戦略的方法は、ステップと内容を知っておく必要があり
ます。現代の経営でもっとも基礎的な方法の一つです。
■6.しかし、比類ない業績を長期にあげている企業は・・・
以上のような一般的な戦略論の有効性は認めつつも、『Hidden Value
』では、「もう一歩」進みます。戦略論だけでは十分でなく、戦略論
の前段となるところに、欠けていることがあると言う。
耳を傾ける必要がありそうです。有利・不利、または利益の戦略が最
初にあるのではなく、価値観や信条・信念とでもいうべきものが経営
の最初だということです。
以下のステップとして描かれています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1.基本となる価値観と信念:何を基本原則とするか?
何を信じるか?
2.価値観と信念を具体化するための
経営方法を作る:価値観を貫くにはどんな方針と
経営方法が必要か?
3.コアとなる競争力を築く:顧客のために他社よりうまく実行で
きることは何か?
4.価値観にそって戦略を作り、
能力を活用し他社にない方
法で競争する :自分たちに可能なことを前提にした
とき、競合他社が簡単にマネできな
い方法で、顧客に差異の価値を提供
するにはどうすればいいか?
5.上級管理職の機能 :価値観と企業文化にそって経営
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(同原書より)
要約すれば、戦略の前に自社が何をもっとも大切にするかという「価
値観」があるということです。価値観があって、その文脈で戦略も活
きる。
<戦略は最後に決めることになる。(信念である)価値観(values)に
合わせて、経営の実行方法(practices)を作り、他とは違う能力(c
apabilities)を獲得させて、実行戦略を立てる。>
とても難しい表現です。<価値観をベースにして経営を進め、価値観
に従って行動するように人材教育を行う(能力を獲得させる)>と言
えばすこし分かりやすいでしょうか。
戦略を重視するあまり、企業が何をもっとも大切にしているかを忘れ、
信条や価値観とそぐわない戦略を立てると、長期ではうまく行かな
いことが多いという意味です。
■7.価値観
▼価値観への戸惑い
人の価値観には違いがあるはずだと言えば、逆に「日本人の価値観は、
ほぼ共通だ」という反応が返ってきそうです。価値観は倫理と言っ
てもいいものです。
倫理は法とは違います。法の多くは行ってはならないことを規定する。
倫理は行うべきことを規定します。企業の価値観、つまり企業倫理
は、大切にし、行うべきことを決める。
日本ではこうした倫理的な価値観を、古くは中国と対比し、近代では
西洋の価値観や倫理、そして東洋の価値観や倫理、または日本の価値
観や倫理として対置することが多かった。
それを裏から言えば、日本人の価値観は共通だということにもなる。
80年代まで流行っていた日本人論は、共通価値観という前提に立っ
ています。
西洋的なもの、あるいは米国的なものと日本的なものとを対照させ、
日本的なものを際立たせるのが日本論だったのです。
こうした背景があるため、わが国では「企業の他と異なる価値観は?」
というと、経営者を含め多くの人が戸惑います。
企業で言う「価値観」は、こうした文化的、宗教的、倫理的な領域の
価値観とは、ニュアンスが違います。
商品やサービスの提供、および仕事の仕方、判断、行動において、他
よりも大切にすべきこと、または仕事上の信念とでもいうべきもので
す。
価値観は以下のように3階層にできるでしょう。
[第三階層]・・・個人の、他人とは異なる価値観、倫理観
[第二階層]・・・企業の、同業他社とは異なる価値観、倫理観
[第一階層]・・・日本人の共通価値観、共有文化、共通行動様式
中国、米国、西欧あるいはインド、またはアラブ行けば、日本人の共
通価値観とは違う価値観や倫理を感じます(価値観の第一階層)。
同業でも他の企業を訪問すると、自社では重視していないことを大切
にしていること、あるいはその逆も感じることができます(価値観の
第二階層)。
人と話し合えば、または行動を観察すれば、大切にしていることが違
うと感じることがあります(価値観の第三階層)。
▼商品に発現する企業の価値観の相違
第二階層の企業のレベルでは、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、BM
W、メルセデス、フェラーリ、GM、フォードでは、重視すべき機能
やデザインと、大切にしていることに価値観の相違を感じます。これ
が、商品にあらわれた企業の価値観の違いです。
小売りでは、三越、ダイエー、IY堂と、高島屋、西友、ウォルマー
トでも、売場に行けば、商品とサービスで大切にしている価値観の相
違を感じます。
世界の有名ブランドは、価値観の相違が、商品の仕様とデザインに発
現しています。
戦略的な方法は共通であっても、またはビジネスモデルは共通であっ
ても、何がいいかという商品への価値観は違います。
価値観や倫理という言葉は、まだ日本の企業経営では常識的なものに
はなっていません。しかし、それが企業経営、仕事の重点、そして仕
事のやりがいにおいて、大きな要素を占めているのは確かです。
新入の時は分からなくても、経験者があの会社に勤めたいと思うとき
は、その企業の価値観が自分に合うと感じています。自分を生かす職
場というのがそれです。
どんなに立派とされる会社でも、自分が大切にしていることと違う価
値観の社風や人々が多いと感じれば、報酬は高くても日々の仕事に苦
痛を感じます。
以上のように考えてくれば、戦略やビジネスモデルよりも先に来るの
は「企業の価値観」だということが了解できるでしょう。
▼社員を価値とする
こうした価値観は、「人材に対する態度」で、とりわけ大きく異なる
と言うのが『Hidden Value』の主張です。
実証研究をすれば、「社員重視という価値観の経営」が、長期での成
功をもたらしていると言います。
多くの企業が掲げるようになった顧客満足も、長期に勤務する社員の
「社員満足」が前提にない限り、果たすことはできない。社員は会社
の道具ではなく、会社そのものだという考えがあります。
■8.比類のない価値観の具体例
繰り替えし取り上げられる会社に、米国のサウス・ウエスト航空があ
ります。
▼社員の比類ない働き
飛行機の競争力の根幹を示す「座席マイル当たり」でコスト比較をす
れば以下です。1座席・1マイルのコストです。(単位 セント)
98年 97年 96年
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
サウス・ウエスト航空 7.32 7.40 7.50
USエアウェイズ 12.34 12.33 12.89
ユナイティド 8.76 8.94 9.33
コンティネンタル 8.93 8.07 8.77
デルタ 8.86 8.88 9.17
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(同書)
コストの低さは、同じ経路での低料金にもなる。コストの低さを支え
ているのは「社員の比類ない働き」と言います。以下の生産性の数字
がコストの低さを支えています。サウスウエスト航空は、もっともロ
ーコストの経営です。
(1)飛行機がゲートに到着して客を降ろし、次の客を乗せて離陸す
るまでの時間は、常時15分。他の航空会社は2.3倍の35分かか
っている。
(2)サウス・ウエストのパイロットの月間滞空時間は70時間と長
い。他社は50時間。これは「有効作業」の時間とパイロットのコス
トを示す。
(3)客室乗務員やパイロットは、機内清掃やゲートでの搭乗手続き
の手伝いもする。分業が細分化している他の航空会社では、考えられ
ないことです。
(4)社員1名あたり年間乗客は2500名。他社は1000名弱。
これは1人あたりの生産性で、2.5倍の違いを示します。
労働を強化した会社に見えますが、全くそうではない。「社員が楽し
く働く」ということにもっとも心を砕くという価値観をもっています。
従業員満足度は、長年、全米の企業でもトップクラスです。採用には、
希望者が溢れる。
「社員の皆さんが気持ちよく働ければ、もっとにこやかに、もっとい
いサービスが提供できます。これだけのことを理解するのに、とびき
り切れる頭脳など必要ありません」
ミッション・ステートメント(使命の表明)は↓以下にあります。
http://www.southwest.com/about_swa/mission.html
(英語ですが、いつか翻訳しましょう)
▼3つの価値観
サウス・ウエスト航空が掲げる価値観は集約すれば、以下です。
【3つバリュー】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Value1 仕事は楽しく(fun)なければならない。
仕事は遊びにもなりえる。
仕事を楽しもう。
Value2 仕事は大切だ。
しかし、仕事を深刻に考えすぎてダメにしてはならない。
Value3 社員は大切だ。
人は、皆が違った価値をもっている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(原書より)
他社の仕事観や価値観とずいぶん肌合いが違います。
トップ・マネジメント(ハーブ・ケレファー)は言います。
<従業員、顧客、株主、このうちだれが一番? この問いは私にとっ
て全く問題ではない。従業員が一番です。社員が幸せで、満足し、仕
事に献身し、活力に溢れていれば、お客様に対しても本当に十分なお
世話ができます。お客様が満足すれば、繰り返しサウス・ウエスト航
空を選んでくれます。そうすれば、株主も満足するからです>
[まず社員満足]→[結果としての顧客への十分なサービス]→[顧
客のリピート:生産性、売上、利益の増加]→[結果としての株主満
足]という、「価値連鎖=バリューチェーン」の順序が明確です。
価値観と言えば、難しい内容に思えますが、実はこうしたシンプルな
ものです。経営と仕事において何をもっとも大切にするかという価値
観のお手本でしょう。
しかし価値観が言葉でシンプルだからと言って、他社が容易に真似で
きるものであれば、サウス・ウエスト航空も並の会社になります。外
形、設備、戦略はマネできる。
しかし、信念に基づく価値観は、利害計算からのマネだけで至るのは
難しい。
多くの航空会社は、成功した経営であるサウス・ウエストの表面のマ
ネをしています。しかし根幹のコスト比較にも見えるように、どこも
サウス・ウエストまでには至っていない。
「社員をなによりも優先し大切にする」と言葉で言うことだけなら容
易です。問題は、この価値観の実行(practice)です。
採用、教育、評価、考課、報酬、そしてマネジャーの行動、トップの
言動にまで「社員第一」を貫く「整合性」を保つのは比類のないこと
です。
普通の人が集まって、一人では不可能な成果をあげるという典型例が
ここにあります。顧客満足の前提としての「社員満足」、経営の大切
な価値観の鍵はここにありそうです。
▼戦略と価値観
戦略やビジネスモデルは真似ることができます。ビジネスモデルや戦
略が同じであっても、大切にする価値観は、異なっていることが多い。
社員第一を貫くのは、容易ではないのです。
同じ業態でも、企業は個々に重視することが異なります。
最初は、外形では見えにくいこの価値観を知ることです。
多くを知ることから、信念に至ることができるでしょう。
知るには、言葉を通じてという方法しかありません。
仕事でも、エモーショナルなものが人を動かしています。家族も夫婦
も友人も同僚も、エモーショナルな結び付きでしょう。根底にあるの
は利害の数学的な計算ではない。利害で友人を作ることはできない。
戦略は理性です。価値観はエモーショナルです。仕事は遊びにもなり
得るというのは、理性が言わせるものではない。
▼姿勢と精神
<パイロットの採用において、サウス・ウエストが大切にするのは、
姿勢・態度(attitude)である。技術は、後で学ぶことができるから
>
優秀さを引きだすのが、価値観(姿勢・態度)であることが分かりま
す。
【技術】
仕事の技術は、難しいものではない。分解して工程化し標準化して、
普通の人ができるように、やさしくしなければならない。技術が難し
ければ、2万人の人が実行することはできません。
仕事の技術は、研究者の学術や才能とは違う。こうした意味での優秀
さは、個人に留まるものです。分業で行う会社の仕事ではない。
【精神】
技術の前提として大切なものがある。この大切なものに「精神」とい
う言葉をあてることもあります。
ビジネスモデルは同じでも、素晴らしい笑顔やサービスの、心を含め
た仕事への態度は、各社で異なります。これを顧客は一瞬で感じるの
です。
マニュアル化された定型サービスには、訓練ができているとは感じて
も感動することはない。マクドナルドでは、もう顧客の感動はないの
です。マニュアルの精神を示す、いろいろな場面での応用サービスに
こそ、人は感動する。感動は人を動かす。
心というものは、普通は、ビジネスとしては解かれたことがない。価
値観の心は、人を認め、人の幸せを大切に思う「愛」というものかも
知れません。社員と顧客への愛。リーダシップの要諦も、おそらくこ
こにある。
愛とは人の価値を認めること、そして、教育し仕事での成功を導くこ
と、チームの成功を喜ぶこと、ここに経営の秘密もあるのではないか。
教育は、大切なものを伝えたいという愛です。
とてもナイーブな考えです。30才代まではこうした考えはできなか
った。すべてを、技術と成果に還元して、考えていたからです。
今は、技術、成果の前提にあるもの(原因)が大切に思えます。
価値観に基づく教育機関としての企業、環境と顧客から学習する組織、
これが21世紀でしょう。
see you next week!
■9.3つのご案内
【1.海外ツアー】
ビジネス視察・研究ツアーは、5月27日(木)〜30日(日)に、
ニューヨークを背景に、従来と同じような、現地集合を含む開催要領
で行う予定です。
【中間報告】現地集合(集合場所:マリオットマーキース(場所はタ
イムズスクエア))です。
http://marriott.com/property/propertyPage.mi?marshaCode=NYCMQ
ご希望の方のパックツアーはJTB西日本で準備します。旅行費(成
田発着:全日空NY直行のエコノミークラス航空券+マリオット5泊
:2人部屋)は15万6800円になる予定です。地方から成田まで
の国内運賃は、往復で1万円+αの追加があります。(8,190円
の空港税は別途)
当初はNYヒルトンの予定でしたが、ヒルトン側が(勝手に)大幅な
値上げを言って来たのでキャンセルし、マリオットに変更しました。
アメリカでは、しばしばこうしたことが起こります。
視察・研究参加費は、旅行費とは別途に8万4000円です。
詳細が決定次第、メールマガジンでお知らせします。
詳細を詰めている最中です。
【2.新刊書】
『利益経営の技術と精神』(商業界)は、全国の主要書店で発売され
ています。
アマゾンで注文することができます。在庫は補充されたようです。
http://www.amazon.co.jp
【3.無料の公開講演】
IBMの主催、以下の期日で公開講演を行います。参加費は無料で、
IBMと関係がなくても、どなたでも参加できます。明日は東京です
が、これは申込みが一杯になっています。
4月 2日(名古屋IBM内)午後1:00〜
4月 7日(大阪IBM内) 午後1:00〜
東京・名古屋・大阪以外の各地の方も、ブロードバンドの同時中継で、
主要都市のIBM事業所で参加ができます。
詳細な案内と、申込みは↓以下です。
http://www-6.ibm.com/jp/gto/gbs4/scm1q/
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【ビジネス知識源 読者アンケート 】
読者の方からの意見や感想を、書く内容に反映させることを目的とす
るアンケートです。いただく感想は、とても参考になります。
1.テーマと内容は興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点は?
4.その他、感想、希望テーマ等、ご自由に
5.差し支えない範囲で読者の横顔情報があると助かります。
コピーしてメールにはりつけ、記入の上、気軽に送信してください。
↓著者へのメールのあて先
yoshida@cool-knowledge.com
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本無料版と姉妹編である有料版の、最近のものの目次です。
■ご案内:有料版『ビジネス知識源プレミアム』
<139号:変革力のリーダシップ(3)>
1.リーダシップとマネジメントを問う
2.日本企業の利益(年30〜40兆円)と累積赤字(70兆円)
3.利益企業(24%)と赤字企業(76%)
4.企業変革の共通プロセス
5.実行の工程
6.重要:ビジョンに戻れば
7.景気回復があれば生き残りができるのではない
8.今起こっている見えない変化
9.マクルーハンの推論では
10.予測される経済バラダイム(枠組み)の変化
11.近代というパラダイムセットの変更
<141号:前半:自然とアート(art)の完全
:後半: 変革力のリーダシップ(4)>
【前半】
1.自然とアート(art)の完全
2.現在完了という「過去」
3.art
【後半】
4.企業変革の8つのプロセス
5.変革のステップ5:自発的な行動を促す
6.米国流のワーカー
7.権限が公式に委譲されているにも関わらず、自発的な行動が
とられないという問題の発生
<142号:増刊: 変革力のリーダシップ(5)>
1.産業変革の原理は、リカードの比較生産費
2.常識を越える真理
3.企業変革の要所:変革の方向(=リーダシップ)
4.コッターによる「変革の8段階」
5.第6ステップ:短期的な成果を出す
6.第7ステップ:成果を活かし次の変革を進める
7.余談:私の資質の反省
<143号: 完結編:変革力のリーダシップ(6)>
1.リーダシップとマネジメントのプロセスをまとめれば
2.変革のプロセス
3.最初は危機の「具体的」な定義
4.価値観の表明の具体例
5.サム・ウォルトンが掲げた価値観
6.10の成功原則
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