ビジネス知識源:前半部:グローバル・デマンド・ビジビリティが日本産業再興のキーポイント(1)
This is my site Written by yoshida on 2011年1月20日 – 14:00

こんにちは、吉田繁治です。ご無沙汰の時間が長くなりました。今、
パリのムーリスからです。セーヌ河岸のチュルリー公園前にある、
200年前からのクラシックなホテルです。航空券は、ビジネスクラ
スでの往復がタダになるマイルが貯まったので、Expediaで予約し
たホテルを少し贅沢しました。

最近改装を施し、バスルームは大理石で6畳間くらいに広く明るい。
浴槽は深く、純白です。一階の食堂も最高クラスですが、イブニン
グの正装と、典雅なマナーを強制するくらい恭(うやうや)しく、
価格は相当高い。ここは宮殿の接遇室かとも思う。

土の匂いがするマルシェ(バスティーユの朝市)で、リンゴを8個
買い(重い!)、磨いてかぶりつき、スターバックスで買って冷え
たエスプレッソを飲みながら、3通の原稿を書く。どこへ行っても、
当方の時間のほぼ50%は、パソコン画面に向き合います。

改めて思えば、インターネットは凄い。コンテンツは指数関数で充
実し、世界は同時の情報空間になった。障害は言語。日本語だけだ
と、情報量は5%以下に減るでしょう。後世は世界の21世紀初頭を、
インターネット革命の時代と定義するでしょう。

革命、通貨、国債も、その渦中(変化内存在)にいると漸進的に見
え、革命的に変化していることが見えにくい。姿勢で一歩引き、望
遠鏡を逆に見て、1年の時間を1か月に縮小し、「動き─反動き」の
細部を消す必要があります。

まとめた新聞を切り抜きしていると、1月4日の日経に「デジタル進
化論(2)」という読み物がありました。

業績を伸ばしているアップル(IT)、プロクター&ギャンブル(消
費財)、シスコ・システムズ(通信機器)、ウォルマート(小売)、
デル(IT)等との「サプライ・チェーン」における彼我の差を示し
た小論です。

サプライ・チェーンは、約20年の継続テーマです。しかし、今まで、
小売業と卸売業からの観点で見ることが多かった。記事は、部品調
達を含む製造業のサプライ・チェーンです。この点で、日本の産業
の遅れがあるという。

個々の精度の高い部品製造や商品製造においては、総じて、2000年
代も日本の企業は、技術優位をもっているでしょう。部品・製品の
品質では、日本製は、敢えて試験をしなくても安心ができます。中
国を含むアジアから輸入を開始した途端、品質試験と、その後のサ
ンプリング管理にコスト(人手)を掛けねばならない。

記事を読んで、TVで見た電子部品の開発者の映像と、重なりました。
「品質を高め機能を高度化するために、われわれは邁進してきた。
この点では、まだ決して負けていない。しかし、世界に安い商品と
部品が溢れた。価格には意を用いなかった。このため、負けた。」

この技術者は、会社からリストラを受けて失業中でした。ここに20
00年代の、日本経済の低迷のシンボルがあると感じます。

部品や製品品質の優秀さは、以下の「価値公式」で計らねばならな
い。販売者のコストからではなく、消費者から見た商品価値です。

●商品価値=機能・品質(「商品効用」とも言う)÷販売価格
顧客は、この「商品価値の高さ」を買います。

機能・品質を定量化するのに難しい点がありますが、基準を作って
比較する「ベンチ・マーク」の方法で、定量化できるでしょう。

【事例】
BMWは、プリウス(約250万円)やシビック(約250万円)と、2倍く
らい価格が違います。小型車のホンダ・フィットはその半分の125
万円くらいです。販売量は、圧倒的にプリウスやシビック、フィッ
トが多い。

(経験的な原理)一般に、価値公式での商品価値が等しいとき、最
終販売価格(プリウスとシビックはBMWの1/2)の二乗で1を割った
ものに近い販売数と想定できます。1÷(1/2)の二乗=4倍。

BMWが100万台売れる時、プリウス、シビックは、「販売網と販促の
要素が、BMWとほぼ同じ時」は、400万台売れると予想できます。

車以外の家電、食品、衣料、家具、化粧品でも、ほぼ同じことが言
えます。販売網(店舗数)と販促が異なれば、その分、バイアス
(販売数変化)がかかります。

【価値公式での比較】
BMW3シリーズの商品価値   =BMWの機能・品質÷500万円
プリウス・シビックの商品価値=同車の機能・品質÷250万円

新興国での需要の増加で、株価が上がっているBMWも、消費者が受
け取る機能・品質が、約半分の価格のプリウスやシビックの2倍は
あると感じられなければ、市場から消えるでしょう。

(注)車などの「自我商品」の、品質・機能価値には、定量化が難
しい「ブランド価値」も入っています。

●自我商品の価値=機能・品質・ブランド価値÷販売価格

「自我商品」は、所有や使用が、自分の個性を示すと感じられる商
品カテゴリーです。

エルメスやルイ・ヴィトン等の「ブランド物」は、自我商品に属し
ているでしょう。自我商品が増えていることを追求したのが、1929
年のバブル崩壊前の米国経済(1890年代)を描き、衒示的な見せび
らかしの消費を描いた『有閑階級の理論』(ヴェブレン)です。

他方、「日常的な非自我商品」では、ブランド価値の要素は低い。

【サプライ・チェーンの全体】
商品は、
<「原材料発注」→「部品・部材在庫と製造」→「組み立て・加工
(製品製造)と製品在庫」→「製品物流(中間の卸や販社)と在
庫」→「店頭陳列在庫」→「販売」→「消費者による使用」>とい
う供給連鎖の中にあります。(注)バリュー・チェーンという人も
いますが、同じものです。

これを供給側から見たとき「サプライ・チェーン(供給連鎖)」と
言い、需要側(店舗または消費者)から見たとき「デマンド・チ
ェーン(需要連鎖)」と言っています。両者は、最終系では同じも
のです。
(注)系=システム=目的をもった機能の統合

●アップルが作った「グローバル・デマンド・ビジビリティ(GD
V)」は、1アイテム毎の、店頭での在庫と販売予測から部品調達ま
での「可視化」による管理(コントロール)です。

国語で言えば、「全在庫と全需要の可視化」でしょう。サプライ・
チェーンでは、1アイテム毎の、最終販売数の予測を行った上での、
店頭在庫の管理の可視化が鍵です。可視化とは、データベース化と、
業務におけるその利用です。(注)アイテム=品目

サプライ・チェーン(またはデマンドチェーン)の発想の元になっ
たのは、「カンバンのトヨタ生産方式」でした。

顧客から受注を受けて、1台ずつを組み立て、部品納入業者には1台
の組み立て分の部品納入を要求するものです。単に「カンバン方
式」とも言いました。組み立てや加工での、後工程から前工程に向
けた看板に、要求部品の表(カンバン)が立つ。(注)今、カンバ
ンは電子化されています。

カンバンを見て、前工程での部品在庫と組み立てを、後工程の生産
量に対し適量に行う(在庫管理)。これを、工場の生産ラインの中
で、全部、連鎖させる。これが、工場内サプライ・チェーンでした。

トヨタに触発され、日本と世界の多くの工場は、カンバン方式とい
う「80年代の生産工程のイノベーション」を、90年代から00年代に
導入しているはずです。(注)イノベーションは、新規のものの開
発ではなく、有効な既存技術の組み合わせです。

小売業ではIY堂流の、POSで記録される売れた商品を売れた数だけ
補充し、併せて死に筋をカットする「タンピン・カンリ」も、店舗
のサプライ・チェーンです。国内だけでも1万1000店になったセブ
ン・イレブンが、タンピン・カンリの実践者でしょう。

この方法を店頭在庫管理の技術として、日本のコンビニ(セブン・
イレブン、ローソン、ファミリーマート、ミニストップ)の海外で
の合計店舗数は、3万4837店(09年)に増えています。国際競争で
勝ったからです。国内で4万店くらいですから、それにほぼ匹敵す
る海外店舗があります。アジアの全域に、日本のコンビニがある。

(注)タンピン・カンリには、サプライ・チェーンの全過程から見
れば、「店頭在庫という部分での、1アイテムあたり販売量と在庫
数の最適」という欠陥があることを指摘したことがあります。トヨ
タ方式の、工場内サプライ・チェーンも、同じ欠陥をもっています。

以上が、前提となる知識です。ここで、アップルが作っている「グ
ローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)」です。日本からアッ
プルに部品を納めている業者は、以下のように語る(同記事)。

●「発注量が1桁、2桁と多いのに(アップルは部品価格を)値切ら
ない。国内の完成品メーカーとの交渉では、値下げの話ばかり。」

確かに、仄聞(そくぶん)すれば、日本の完成品メーカーの部品業
者や下請けへのコストダウン要求には、激しいものがあります。円
高になると、理由や発注方法と量の変更なく10%~20%、時には30
%の価格ダウンが要請される。下請け業者のトップからはいつも、
値下げの話を、愚痴のように聞きます。

「理由と方法の変更があれば、苦しくても対応ができますが、こう
した価格要求は、毎回、絶対です。要求を飲まねば取引、を切ると
いう感じも見えるので、泣く泣く応じざるを得ません。」(実際の
声)

アップルの部品発注は、世界で$120億(約1兆円)です。i-Padの
出荷は1800万台、i-phoneが3300万台(2011年予想)です。

アップルは、サプライ・チェーンの技術ランクで8.21点をとり、世
界1とされています。4位のウォルマートが5.18点、5位のデルが5.0
6点です(米ARMリサーチ社による、同業他社との比較評価:同紙)。

サプライ・チェーンの概念は、日本発です。ところが今、世界の上
位25に、日本の会社は一社もないという。サプライ・チェーンの手
法は、90年代まで、日本がもっとも得意だったはずですが、どうし
たことでしょう。当時は、米国企業が学んでいたのです。一体、何
が起こったのか?

新年の本稿では、サプライ・チェーン技術を、その発祥から現在ま
で振り返りながら、改めてサプライ・チェーンの再構築を提言しま
す。日本企業の、世界への再興を促すためです。

菅首相も「日本の再生」と、曖昧に意味することなく叫び続けてい
ます。鍵は、サプライ・チェーンの再構築に思えます。

●サプライ・チェーンは、「各段階を異なる業者が担う原材料購入
から商品の最終終販売までの全体をコストダウンすることを目的に
した、動的な企業活動」です。

サプライ・チェーンの実行を助ける情報システムと、通信のネット
ワークを10年前に作った。それでサプライ・チェーンが完成したと
いうことではない。ここに、日本企業の誤解があったのではないか。

情報システムとプライベート・ネットワークは、90年代まで、コス
トが極めて高かった。今は、規模が小さいものなら、数十万円クラ
スのパソコンサーバー、既存ソフト(これは高い)、皆が使うイン
ターネットで、はるかに安く、しかも容易に構築できます。

中小企業や個人企業でも、もちろん可能です。情報システムでは、
価格において激しいイノベーション(革新)が起こっています。

問題になるのは、システムを使い、情報を利用する業務です。日本
企業は、この業務で、上記米国企業に差をつけられたように思えま
す。「今更サプライ・チェーン」とは言えないと考えています。

2000年代の日本産業はここで、負けてしまった。バブル崩壊後の低
成長が20年も続く根底の理由は、これでしょう。

(注)本稿は、有料版を、若干書き換えて送っています。

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<519号:グローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)が、
日本産業の再興のキーポイント(1)>
2011年1月20日号

【目次】
(前半部:送信分)
1.サプライ・チェーンの考え方の発祥は、日本発だった
2.サプライ・チェーンでの本当の原価と利益とは?
3.プッシュ型見込み量産が引き起こす、原価の急増

(後半部:容量が超過したので、後ですぐ送信)

4.小売業の大きな失敗の事例
5.スルー・プット会計は、キャッシュ・フロー会計
6.ハイ・ブリッド化した製品の原価は、販売量が増えると加速度的
に下がる
7.アップルのグローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)

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■1.サプライ・チェーンの考え方の発祥は、日本発だった

トヨタ生産方式を作り、実行の中心にあった大野耐一氏は、『トヨ
タ生産方式(1978年)』の中で、以下のように発言しています。

自分自身の発想力にするため、大野氏の思いがこもった文を取り上
げます。サプライ・チェーンの原点が理解できるでしょう。

(1)従来:
「従来の(世界の全工場の)考え方は、前工程が後工程へ物を供給
することであった。自動車の生産ラインの上では、材料が加工され
部品となり、部品が組み合わさってユニット部品となり、最後の組
み立てラインへ流れて行くなかで、すなわち、前工程から後工程へ
進むにつれて、自動車の体をなして行く。」

(2)発想:
「(私は)この生産の流れを逆に見ていた。『後工程が前工程に、
必要なものを、必要なだけ取りに行く』と考えてみたらどうか。そ
うすれば、『前工程は(後工程から)引き取られたものだけを作れ
ばよい』ではないか。」

(1)多くの工程をつなぐ、必要部品の情報を示すものが、後工程
が立てて、その直前の工程に見せる「カンバン」でした。

(2)前工程はカンバンを見て、受注している完成車に必要な量だ
けを加工し、工程在庫を一切積み上げない仕組みに変える。もちろ
んこれは、トップが指示し行わないと、革新できません。

大野氏は、1960年代に見学した米国のショッピングセンターで、店
舗が、POSに記録される売れたものを、売れた数だけ発注している
のを見て、後工程から遡るカンバン方式を思いついています。

数年後に、大きなイノベーションになる生産性システムのヒントは、
日常的な、異なる業種にあったのです。どうすればいいか、大野氏
は考え続けていたからでしょう。問題を正面から考え続けると、発
想が浮かぶ思いは、当方もすることがあります。

●「問題から決して逃げない。その場凌ぎにしかならない在庫削減
のような弥縫策をとらず、正面からぶつかって考え続けよ」、これ
です。考え続ける意志力さえあれば、誰にもできる。意志は自分だ
けの当為です。

(3)考えて試行し、思いついた方法:
「いろいろトライした結果、最終的には、製造工程のいちばん後の
『総組み立てライン』を出発点にして、組み立てラインだけに生産
計画を示し、組み立てラインで使われた部品の運搬方法も、これま
での前工程から後工程へ送る方式から、『後工程から、必要なもの
を、前工程に引き取りに行き、前工程は引き取られて(減った)も
のだけをつくる』というやり方を、追求することにした。」

重要な点は「情報システム」ではない。トヨタでもカンバンは手書
きだった。情報システムが果たすのは業務のサポートです。問題は、
個々人が行う業務です。

この業務を『後工程から、必要なものを、前工程に引き取りに行き、
前工程は引き取られて(減った)ものだけをつくる』という方法に、
逆転させる。

基本発想(原則)に対し、妥協を許さず、副社長の大野氏は全工程
を「カンバン方式」で連鎖させます。妥協とは、現状の業務の方法
の、是認です。

大野氏が、部下に命じ、指示する情熱の激しさは、工場にとどろく
ものだった。周囲の人や講演を聞いた人が、これを語っています。

会社を動かしたのは、
(1)コストダウンの最大障害は、各工程に溜まった不必要な在庫
である、
(2)各工程の過剰在庫のため、需要数を超過する車がムダに作ら
れる、
(3)工場と販売店に、過剰在庫になった車の、プッシュ型の販促
費と販売費(商品の流通工程)を合わせれば、ここに最大のコスト
がかかっていると発見し、それを是正する情熱でしょう。

●工場内だけで見れば、一度に同種の車を量産し、設備および機械
と人の稼働率を上げれば「製造原価」が下がったように見えます。
工場の労務費も製造原価と見て、積み上げて計算する工業簿記の欠
陥がここにあります。

従来は、工場の製造原価を下げるため、言い換えれば、同種の車を
量産するために、前工程が後工程をプッシュする生産方式を取って
きた。

これが製造原価を下げる方法だった。世界中のあらゆる製品を作る
工場がこれだった(1970年代)。今も多くが同じです。同じアイテ
ムの量産が、製造のコストを下げると錯覚しているからです。

■2.サプライ・チェーンでの本当の原価と利益とは?

見込み量産で下がったように見える工業簿記の製造原価は、「完成
車が全部、予定価格で売れるとして計算した原価」に過ぎない。売
れ残った車は、どうするのか。売れ残った車では、売上収入はない。

●つまり、本当は、売れた車の原価に、売れ残った車の原価が加わ
っている。このため車の原価は、以下のようになる。

▼1日に50台を見込み量産し、40台が売れ、10台が売れ残って、販
売を待つ在庫になっているとします。

【工業簿記の製造原価における問題】
工業簿記での原価=50台×1台の製造原価150万円=7500万円

これを1台200万円で50台売って1億円の売上なら、確かに、原価率
は75%になって、25%(2500万円)の販売粗利益が生じたように見
える。問題はここだ。

まさにここが、「作った製品が全部売れると仮定して」、工場内だ
けの原価計算をする工業簿記の、最大欠陥である。実際は、工場の
倉庫か販売店には、10台(原価1500万円:予定売価200万円)が残
っている。

売上収入は、売れた40台分(8000万円)に過ぎない。過剰在庫(売
れ残り)を加えた50台の車の原価率は、以下のように上がっている
はずだ。(注)キャッシュ・フローでの粗利益が、この考えです。

【工場のキャッシュ・フローでの売上収入と原価】
キャッシュ・フローでの販売収入(40台分:8000万円)
-キャッシュ・フローでの原価(50台分:7500万円)=500万円

販売利益は500÷8000万円=6.25%しかない。これでは、顧客へ販
売する販売店のコストは賄(まかな)えない。

サプライ・チェーンでの、販売店コストの10%(8000万円×10%=
800万円)を引けば赤字である。

これが続けば、量産で工場内の製造原価を下げても、工場は利益蓄
積(資本)も失って、いずれ資金不足から倒産する。銀行から運転
資金を借り入れても、返済と利払いが必要で、資本コストは上がる。
借入金は、その金利分、コストを上げるから。

工業簿記で計算された「50台の販売で2500万円」という(予定され
ていた)販売利益は、どこに消えたのか?

残った在庫(10台分:原価1500万円:予定販売価格2000万円)です。
ここで1500万円が使われている。1万円札が1500枚眠っている。

これに販促費を10%(1台あたり20万円)つけて、ムリに売れば最
終結果はどうなるか。業界では10%の販促費は当たり前だ。残った
10台は売れにくいが、販促費欲しさに、なんとか販売店が売ったと
する。それでも、5台が売れ残ったとします。

●最終の利益結果:
(売上200万円×45台=9000万円)-工場の製造原価7500万円(50
台分)-販売コスト(売れた45台:9000万円×10%)-追加販促費
100万円(売れた5台分×20万円)
=売上9000万円-製造原価7500万円-販売店コスト900万円-販促
費100万円=500万円

●予定していた利益:
(売上200万円×50台=1億円)-工場の製造原価7500万円(50台
分)-販売コスト(売れた1億円×10%)-追加販促費ゼロ=1億円
-7500万円-1000万円=1500万円・・・利益は1/3に減少

以上が、大野氏の発想の根底にあった原価計算と利益です。

1970年代当時は、サプライ・チェーンという概念はなかった。
しかしカンバン方式は、必要部品の伝票による工場内のサプライ・
チェーンで、営業利益に対する適量生産の方式でした。

加えて、プッシュ型量産は、以下に示す、経営にとって「もっとも
怖いこと」を引き起こします。

■3.プッシュ型見込み量産が引き起こす、製造原価の急増

見込み型量産は、製造原価を下げると書きました。これは一回の生
産を見たときだけ、言えることです。実際の工場の稼働と、製造原
価は以下のように上がります。

▼翌日の生産は、30台に減らざるを得ない

翌日は、売れ残った在庫が10台残っているので、50台は作れません。
販売された40台分しか作れない。しかし在庫が10台もある。工場は、
今日は30台分しか作れないことになります。売れ残った在庫を更に
20台に増やす生産計画者は、いません。

50台を作る装備と人員の工場で、30台しか作らないと、
・部品在庫は50台分買っていて、
・日産50台を作るだけの社員がいるので、
・50台分の1日原価(7500万円)が、作った30台分にかかることに
なる。これは、とんでもないことです。

(注)キャッシュ・フロー(現金会計)で言えば、残った部品代も、
稼働しない人員にも、1日分の費用は、払わねばならないからです。

ところが工業簿記は、使った部品と、使った要員の加工費用しか製
造原価にしない。30台しか作れず、20台分の余剰装備と人員(3000
万円分の不稼働費用)があっても、製造原価としては費用化しない。
このため、作った30台の標準原価は、昨日と同じ150万円です。

●しかし、30台生産の1台あたりの本当の製造原価は、1日の総経費
7500万円÷30台生産=250万円となる。

工場が100%稼働で50台作ったときの、1台あたり製造原価は150万
円でした。しかし翌日に生産する30台の製造原価は、20台分の休眠
の設備と人員分を含めれば、1台250万円に跳ね上がっています。

小売価格が200万円ですから、1台で50万円の赤字です。
これが、平準化しないムラのある生産が生む恐るべき結果です。

●キャッシュ・フロー計算で見れば、工場の製造原価は、毎日、こ
ろころ変わっています。しかし、伝統的な工業簿記の製造原価では、
生産量にかかわらず、製造原価は一定に見えてしまう。

持続的なインフレの時代(ほぼ1980年代まで)は、残った在庫も、
月の経過とともに、高く売れることがあった。

(注)実際の経営戦略では、今、うまく行っていることに疑念をも
ち、5年後、10年後の変化する環境で、更にうまく行く方法(戦
略)を、作らねばならない。

現在への環境とニーズへの最適対応で固定化すると、5年、10年後
には衰微します。大野氏の1970年代の方法は、1980年代、1990年代
の利益として華開いています。しかしトヨタの2000年代は・・・

インフレの時代は、売れ残った在庫増による、上記のような損が実
際に生じていても、一年の、会社の損益計算では表面化しくにかっ
た。部品も賃金も、後では5%~10%も上がったからです。前倒し
で見込み量産するほうが、工業簿記での製造原価が安く見えていま
した。このため、放置されていました。(注)今も、意識ではイン
フレの時代を引きずった認識をしている人が多い。

今、上記の米国サプライ・チェーンでの優秀企業でも、電子製品は、
倉庫や店頭に売れ残れば、店頭での製品販売価格が三ヶ月で数十%
も下がる「生鮮商品」です。シーズンのピークで、追加生産を打ち
切らねばならないアパレル(ファッション)と同じです。

【今の環境に異を唱えることから戦略が生まれる】
アパレルでの、シーズン当初の期首値入額は、一般に、売価の70%
もあります。高い値入率で、最終バーゲンの損失をカバーしていま
す。これが「アパレル業界の環境と慣行」です。しかし、この環境
と慣行に(間違っていると)異を唱え、業務システムを変えた会社
があります。

●スペインのZARAやスウェーデンのH&Mは、新商品の開発・製造期
間を1週間に短縮し、原価を上げるムダな売れ残りが出にくい仕組
みで、安い売価をつけ、高い利益を出してグローバルな企業に成長
しています。鍵は、生産計画と在庫管理の、高速ロジスティクスを
促す情報システムでした。

(注)実はユニクロでも、中国やベトナムで量産した売れ残り品の
廃棄が、経営の最大問題です。国内では、まだ競争相手の技術レベ
ルが低く、しかも海外メーカーは、日本ではアメリカの2倍くらい
高く売っているので、ユニクロが優秀に見えるだけです。わが国百
貨店の、ハイ・コストがあるためでしょうか。

自動車や機械、電子製品、家電の価格競争では、こうした高い期首
値入はムリです。

配信容量を上回るので、一旦、ここで配信します。第1部の残りは、
すぐ送信します。

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