先ほど送った、完結編(1)に続き、SAPS営業の具体的な方法を示す
(2)を送信します。若干長文で30ページです。
論理性をもたせていますので、理解は進むと思います。
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<Vol.248:完結編(2):ユニ・チャーム・ペットケアを、
短期間で日本1にしたSAPS営業>
2010年8月3日
1. AIDMA理論がベース
2. 本来の「目標による管理(MBO)」は行動計画である
3. 類似するトヨタ式問題解決法
4. 5回のなぜ?で真因に至る
5. 単純なことですが、事実に基づけば、仕事の効果は上がる
6. 行動計画にならねばならない。
7. 4半期のOGISMA表
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■1.AIDMA理論がベース
店舗や卸への商品提案では4回~5回くらいの、計画された営業行動に
なるようです。
SAPSによる営業過程、営業行動の計画化は、遡れば、古典的なAIDMA理
論の、方法的な実行とも言えるものです。
【AIDMA:米国で1920年代に開発された販売理論】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1.Attention=営業が、相手の担当に注意を促す情報を提供する。
2.Interest= 相手の興味を引く解決策を、提案する。
3.Desire= 売上が上がる、利益が上昇する、売場が改善される、
生産性が上がるという欲望を生む情報を低供する。
この時、相手の上司も巻き込む。(理性的な動機付け)
4.Motivation/Memory=提案を受け入れる動機を喚起する。
必要な変更を加えた提案を出す。
(感情的な決定を促す段階:相手の意見を入れる)
5.Action=最終提案で受注
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第3段階の理性的な決定が、第4段階の感情的な受け入れにならないと、
購買は決定されません。
最近の脳科学は、感情を司る感情野(大脳辺縁系)が、病気などで働
かない人は、大脳で理性計算はできても、行動の決定(AかBかの選択)
ができないことを明らかにしています。
行動の決定は、例えば商品購買です。商品購買は、理性計算→感情的
共感になって、はじめて行動になります。理性計算だけでは、迷って
行動できない。
営業活動が目的とする購買は、相手が買った後を想定する未来への決
定です。この決定には、人々の感情野が働く。営業の方法を、購買決
定の動機付けにまで過程化するAIDMA理論は正しい。
買う相手にとって購買は、未来の結果(その商品を入れた後、売上が
どうなるか)を想定した行動です。
未来はまだない。まだないから、最後は、理性的な計算を超える感情
(予感、感じ、好き、嫌い)で決めることが必要になる。商品を買う
側にとっても、結果は理性では分からないからです。
以上の観点から、営業マンの個々の営業活動を、段階的に計画化し、
途中の過程で効果を分析し(マネジメントし)、次の段階の提案に移
る。
こうした段階的な方法がないまま、単に、訪問と営業の回数を重ねて
も、目的とする十分な成果は生まれません。会社の業績目標は、年々、
高くなるべきものだからです。業績が向上しなければ、給料も上げ
ることができません。
メーカー営業が、店舗や卸に対し一度で提案しても、疑問が多いため、
受け入れられないでしょう。相手の担当は、自分だけで決め、結果
責任をとるのを、一般に怖がるからです。これは、未来に向かう意思
決定が仕事であるトップマネジメントでも、同じです。
本シリーズの冒頭で、営業という曖昧な内容をもつ仕事は、何をどう
行うかが不明瞭だと書きました。
AIDMA理論をベースにすれば、営業行動の計画化が可能になるでしょう。
現在の営業は、SAPSの方法を導入して、変えるべきと考えます。
■2.本来の「目標による管理(MBO)」は行動計画である
業績目標を現場のノルマとするのではない。これは、誤解に基づく悪
しき目標による管理です。鬼籍に入ったドラッカーも悲嘆するでしょ
う。
読者の方々から、質問をいただいています。製造、卸、小売、サービ
ス業のすべてに共通します。ただし作業名は、業界で異なります。SA
PSの方法は、卸だけではない。
▼事前準備:作業標準と生産性基準作り(本部が行う)
必要作業名は事前に分類され、作業手順を決め(標準化と言う)、個
人に割り当てて、生産性の基準値(例えば、小売業なら10分で**個
の商品を陳列する)が決められていなければならない。標準(または
作業規範)と、生産性の基準作りです。
作業標準には、生産性基準が必要です。
この生産性の上昇基準になるのは、年6%でしょう。6%(3年で約20%)
生産性を高める作業手順に改善する。これを行うのが、本部です。
▼目標による管理の具体型
以上を、ユニチャーム・ペットケアでは、以下のような、営業行動と
しています。頭文字からOGISMAと言う。営業担当は、以下を4半期毎に
書く。
【4半期のOGISMA表】
1.目的(Object): 何を目的に、その営業を行うか?
2.達成目標(Goal): 目標達成のためにどんな営業活動を行うか?
3.課題(Issues): 営業活動における課題(複数)
4.戦略(Strategies):営業活動の重点方法と自分の行動計画
5.評価(Measures): 結果の効果測定方法
6.対策(Actions): 評価を見た後の、対策行動
【週次のSAPS表】
4半期単位のOGISMA表が、53週の週報である個々人のSAPSにつながって
行きます。
SAPS:
[週の行動計画(Schedule)]→[日々の行動計画の実行(Action)]
→[効果測定(Performance)]→[反省し次の行動計画(Schedule)]
という、4段階の営業行動の実行と、その効果のマネジメントです。
■3.類似するトヨタ式問題解決法
以前、「トヨタ式問題会解決法(非公開)」を、若干翻案して紹介し
ました。用語は異なりますが、方法はOGISMAと同じです。二神氏は、
トヨタからも示唆を受けています。
示唆を受け、方法を開発するには「より高い成果目標を達成するには、
今の方法でいいのか?」という疑問を抱き続けていなければならない。
そこから、優れた方法を学ぶという姿勢が出ます。
現在存続している会社は、過去のいつの日か、利益を出していたはず
です。ところが、今、70%の会社に利益がない。
初期成長はしながらも、わが国450万の事業が途中の一定線で留まるの
は、「自己の現在を否定し、より優れた方法を学び、標準化して、生
産性基準をつけて導入する」ということを、いつの間にか、やめるか
らです。問題は、まずは本部長クラスや部長の課題への意識です。
業界には常に、業績を、継続的に上げる会社もある。業界にめざまし
い事例企業(モデル企業)がないときは、他の業界には、必ず見つか
る。
二神氏は、「目標志向企業」の80%は、SAPSに類似した同じ方法で仕
事をし、マネジメントしていたという事実を発見します。
ところが多くは、成長する他社の方法の、感情的な否定です。つまり、
変化した現実をまともに見ない。例えば百貨店やGMSは、ユニクロの
方法を(心では)否定し、斜めにしか見ていません。
対してサム・ウォルトンは、ことある毎に、こう言っていました。
「他社の欠点を探して報告しても、意味はない。皆、いい点を探して
報告しよう。そうすると、(決して好ましくはないが)事業規模では
るかに先を行っている競争相手のKマートは、われわれの教科書になる。
その方法を学んで、いつの日か超える。」
事業規模が大きいということは、顧客数が多く、沢山買っているとい
うことです。顧客は義理で買うことはない。自分の判断で、いいと思
うから買っている。それが現実です。
現実を斜視せず、まともに見れば、世間が教科書になる。まともに見
るとは、数値で見ることです。そこから原因を導きだし、対策を打つ。
トヨタ式問題解決法も、SAPSと同じ過程の行動です。瓜二つと言って
もいい。
【トヨタ式問題解決法】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1.改善目標を決める。(部門、部署、個人):Visionとも言う
↓
2.問題/課題を明確化する。Visionと、現実の差異は何か?
あるべき姿(改善目標)と現状を比べ、解決すべき課題(目標との差)
を、行動を示す動詞・名詞・数値で定義する。
↓
3.実地調査(Fact):幹部による思い込みではなく事実調査:
現場を調査し、現状のデータ、現在の方法、そして問題点をまとめる。
まずこの、事実に基づいた実際的で科学的な分析が肝心です。思い
込みではダメです。科学的とは、測定することです。
↓
4.原因解析と真因の決定(Why):論理的な推論です。
問題が生じる原因を挙げる。5項以内に絞る
・5項のうち、原因として最も大きなメジャー要因を決める。
・(重要)5項の問題が生じる裏にある真因(本質)を決定する。
↓
5.改革/改善の目標の決定(What):Visionの具体化です
あるべき姿を、名詞、動詞、数値で描く。
つまり改革/改善の目標(Vision)を、具体的に決める。
↓
6.対策の立案(How to do):対策行動や新手順の決定です
・問題を解決する真因対策を作る
・対策の実行計画として、ガント・チャート(行動計画)を描く
↓
7.対策実行の評価と定着計画(Check):効果測定と標準化です
・対策実行の、評価方法(Measure)を示す。
・その後の、定着計画(標準化)を示す。
(注)対策の効果が思わしくないときは、事実分析か、原因の推論、
真因の決定、または決定した対策に問題があります。その時は、もう
一度、1の改善/改革目標の決定から、6までをやり直す。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上を理解すれば、SAPSに、以上の7過程が具現されていることが、了
解できるでしょう。多くの会社で、参考にし、業務改革を行っていた
だきたいと推奨する理由は、これが成功企業の普遍と思えるからです。
■4.5回のなぜ?で真因に至る
二神氏は、当時の問題の「真因」に至るのに、次のような思考方法を
とっています。「何事も、なぜを5回繰り返せば、自分でも真因に至る
ことができるはずだ」 真因に至れば、対策は出ます。以下に倣って、
実際に行ってみてください。
【1番目のなぜ?】
顧客とする売場での「自社商品の山積み獲得目標」の達成が80%に終
わった(結果)は、商品担当との商談時間が20分だったからだ(原因)
(注)山積みとは、1品大量の陳列です。売場の平台にピラミッド型を
とることが多いので、ユニ・チャームでは山積みと言う。こうした業
務用語は会社で異なります。店舗に山積み陳列を推奨したほうがいい
かどうかは、別の問題になります。
【2番目のなぜ】
商談時間を20分(結果)しかもらえなかった原因は、相手との人間関
係ができていないためだ。
【3番目のなぜ】
人間関係ができていない(結果)は、訪問頻度が月1回だけ(原因)だ
ったからだ。
【4番目のなぜ】
訪問頻度が月一回(結果)なのは、会社の行動基準(原因)そのもの
が、月1回だったためだ。
(注)ここで言う基準は、意識的あるいは無意識的であれ、または企
業文化(慣習的な行動)であれ、個々人の仕事を規制する枠になって
いるものです。「トップや上司が、ふとした時に漏らす、根拠のない
意向が、いつの間にか行動の規制枠」になっている会社が実に多いと
感じます。
訪問頻度を月1回と決めたのは、会社ではないかも知れない。その意味
が意識されていない慣習かも知れない。しかしそれが、いつの間にか、
皆が、暗黙に従う行動基準になっている。
上司も、この暗黙の基準を意識していない。青のサングラスで見れば、
青は見えない。サングラスに似たものが、その会社の、モノの見方
や判断の慣習(文化)です。その慣習の、多くは、トップ・幹部が、
長年かけて、無意識に作ってきたものです。
成長モデルとする他社と事実比較をすれば、様々な認識のサングラス
の、存在が分かります。企業の固有文化=事実認識に無意識に入りこ
む判断と行動の型。これをマンネリともいう。
【5番目のなぜ】
行動基準が月1回(結果)なのは、会社(または上司)が、効果が上が
る営業の基準を作って、指導していないためだ。実際は、個人が自分
の枠だけで、行動計画を決めている。
以上は、トップである二神氏が考えた「5回のなぜ?」の一例です。
【真因の決定と対策】
会社によっては、異なる真因がある。ユニチャーム・ペットケアでは、
真因を「会社(上司)が、効果が上がる営業方法の基準を作って、指
導していない」ことだと決定し、「対策」を作っています。
重要なのは、上の事例のような、目標未達の真因の決定です。
【SAPSの過程】
真因対策が[行動の計画(Schedule)]→[行動計画の実行(Action)]
→[効果測定(Performance)]→[反省し次の行動計画(Schedule)]
という、4段階のSAPS営業行動になる。
全営業は、SAPS週報を書くのが義務です。
当然に、効果的な行動計画の決定には「顧客情報分析+競合他社の戦
略分析」がなければならない。このため営業マンの全時間のうち50%
は、事実としての顧客情報分析と環境分析、自分たちの営業行動の効
果分析に使うという。
顧客の具体ニーズは、自社か他社が、商品戦略や販売戦略として実行
していることから生じます。i-Padへのニーズも、i-Padが作られから
具体化したものです。
(注)漠然とした潜在ニーズを、顕在ニーズにするのが、マーケティ
ング(市場需要分析=顧客ニーズ分析)を通じた商品開発であり、小
売業では、このマーケティングを、マーチャンダイジング(商品化活
動=商品構成)と言っています。
顧客情報分析と行動の事実分析を重ね、「なぜこの、低い結果(成果)
か?」ということを問えば、真因に至ります。
事実分析をまともに行えば、会社の仕事は、対策だらけになる。
事実に、思い込みや希望を入れてはならない。今の方法で「よくなる
だろう」ではダメです。よくなる根拠を、新たに、作らねばならない。
●ユニ・チャームでは、あらゆる結果は、自己原因として考える社風
を作っています。
「結果が思わしくない→自分がとった行動に原因がある(他に転嫁し
ない)→自分の行動を、翌週はどう変更すればいいか」という思考プ
ロセスです。
この思考プロセスから、
・自分の「今週の行動計画(SAPS表)」を作って直属の上司に提出し、
・アドバイスを受けて必要な修正を加え、
・その行動計画を100%実行する。
売上(結果)が上がる行動(原因)を作るのです。
■5.単純なことですが、事実に基づけば、仕事の効果は上がる
ある小売業で、部門の売れ筋商品上位100を言ってもらったことがあり
ます。ほとんどの人は、大きく間違っていました。つまり対策の前の、
事実が知られていない。
これでは、対策を一生懸命に行っても対策にならない。方法を決める
会議も、事実に基づかない間違った印象で行われることになるからで
す。(このため間違った対策になる)
(補注)ばかばかしいと思われるかも知れませんが、ある会社では、
競合他社の業績に対し、事実の数値データではなく(幹部の思い込み)
で報告が行われていました。経理担当の役員が「なんだかおかしい」
と気がつき、事実データを集計し報告した。トップマネジメントはそ
の結果に驚き、年間ベースになる重点対策を修正しました。
しばらく考え、各部門の、前4週の売れ筋上位100位までの品目名、売
価、売上数を暗記し、定期的にテストすることを義務づけました。こ
れが行動です。
それを採点し、店舗の事務室の壁に、幹部も担当(パート)も平等に
貼って、成績の上位者を表彰する。金一封は数千円でいい。重要なの
は名誉です。事態を知って深刻にならず、ゲーム化することです。
店舗の主婦パートの社員も、自宅で夕食の後、部門の数表を書いて暗
記したという。100品目は、相当な記憶量です。毎週、数字が変ります。
このコンサルタントは「ばかばかしいことを強いる」と考えた人も多
かったでしょう。仕事はもっと難しいものと考える幹部が多いのです。
1ヶ月後、会議室の壁に張り出された本部バイヤーの採点表を見ると、
ほとんどの人が99点以上でした。
この暗記で、売場の発注と商品陳列が、上位100の売れるものを多く、
売れないものを少なくと、合理的に変ったことは言うまでもない(原
因)。
100品目の売れ数を暗記していれば、誰でも、棚を見て、あれっ、A商
品は4週で32個(週間8個平均)売れるのに、今は2個しか在庫がない、
すぐ追加発注(対策行動)と分かる。
逆にB商品は、売れ筋上位100から外れ、4週で1個以下しか売れていな
いはずだ。棚に6個もある。仮に2個売れても補充発注は、4週は停止し
(行動)、在庫は3個でなければならないと分かるからです。
競合他店を観察しても、こそこそとノートをとらず、自社の売れ筋と
一目で価格や陳列の全比較ができます。一瞬です。(企業文化の変化)
そのため業績(売上結果)は向上します。部門に2500品目の陳列とし
て上位100品目は4%です。その上位4%の商品が、部門の売上の40%~
60%を占めている。
難しい商品会議ではない。幹部と担当に事実の認識ができていないこ
とが、より大きな当時の問題だったのです。その会社では、今は、別
の課題になっていますが、商品の暗記対策は、常に継続して行うべき
ことです。(注)これだけでは不足しますが、これができていない企
業にとっては、意味が重いでしょう。
現場も、環境や現場の事実を認識していないことが多い。誤った認識
の上で、実行が難しい商品対策が考えられている。言えば、不思議で
すが、本当のことです。
■6.行動計画にならねばならない。
部門3は、4半期実績の営業利益が、大きく赤字である。
経費分割(部門の損益計算の配賦経費)に問題はない。
営業利益が赤字の真因は何か? これを会議で追及します。
(注)部門別の4週営業利益計算は、店舗マネジメントに必須です。
まずその商品部担当が、真因と思われるものを推論する(リポート)。
そのリポートが正解とは言えないことも多い。
多くの担当は、現在の枠組みの中で分析するからです。価格で負けて
いて、売上が十分ではない、補充発注と陳列に問題がある、売場の場
所が問題・・・これらは真因ではなかった。
真因は、部門3(清涼飲料売場)の部門面積が、需要に対し、30%くら
い大きすぎること、品目数は制限しているので1品のフェース数(商品
陳列の面数)が大きすぎ、顧客にとって単調な売場になっていること
でした。一言で言えば、あらゆる買い物に必要な、エキサイトメント
がない。
真因が分かれば、売場圧縮です。もっと部門を広げ価格対策をとれば
売上が増える部門を、同時に決める。これを決めないと、縮小均衡に
なる。地域需要の大きな、生鮮部門を拡大するのです。
当然に、対策を行った翌週から、全部門の売上と営業利益の結果分析
をします。最初の4~8週の結果が悪ければ、対策を変えます。
原則は、その売場の商品が吸引力になって、他の部門の商品の売上増
に貢献していない限りは、部門の赤字は許容されないということです。
(注)これをロス・リーダー原則と言います。これは、顧客が同時に
買っている商品バスケットの品目の、関連分析をすれば、分かる。
ロス・リーダーとは、その商品は単独では赤字でも、他の商品を黒字
化する部門、または品目です。a商品(または部門3の商品)を買った
顧客が、別のb商品(部門4)を買う確率は*%という事実分析です。
顧客は、数個~10個の商品を一度に買うからです。
以上のようにして、各店舗の部門面積を、次々に営業利益に対し適正
化して(言い換えれば黒字化して)行くと、店舗の営業利益は、店舗
の粗利益の20%に向かいます。商品の粗利益率が20%なら、営業利益
の売上対比で4%という高い利益水準です。
こうした営業利益の改善/改革のためのツールとして、当方で新たに
(と言っても数年前に)設計したのが「部門のスコアカード(結果の
採点表の意味)」です。情報システムで作ります。
多くの数表ではない。事実(=結果)の要点が1枚で分かるようにする。
(注)改善とは、制度は同じで、作業種類や作業方法を変えること、
改革は制度・人事までを変えることを言います。
トップマネジメント(または本部長や部長)の関与がないと、改善と
改革はできません。本部長や部長が、現場の枠組みを決めているから
です。従来の方法を変えるには、本部長の自己改革が必要です。
スコアカードは、部門単位の売上、粗利益、経費(人件費+諸経費+本
部費)、営業利益、商品の在庫日数、人の作業人時、1人時当り生産性
(粗利益額)、1坪単位での在庫金額、品目数、品目当り在庫数・金額、
粗利益が一覧表になったものです。
この1枚でいい。後は、その表をもって(あるいは、主数字を記憶し)、
売場の行動の、事実観察をすることです。これを行うと、正しい対
策が、見えてきます。分析が対策を生むのです。
(注)小売業、卸、製造を見ると、時代変化に応じない部門の固定化、
商品の固定化、価格の固定化、仕事(作業方法)の固定化が、業績
低下の原因であることが多い。需要への変化対応ができていないので
す。これを自滅と言います。
高い営業利益は、要は価格競争力が強かった結果です。今度は、高く
なった営業利益を減らすよう1%や2%部分をコントロールして使い、
販促対策を強化する。売上は、更に一段上がります。
(注)商品価値=商品の便益・効用÷価格(コスト)です。顧客は商
品価値を買う。
これが、営業利益の使い方です。ウォルマートでは、これをロールバ
ック(利益の顧客還元)と言っています。特定商品の価格を下げる。
あるいは部門改善する。
店舗に対し、赤字店・赤字部門の上記のような対策を、ほぼ2年とれば、
営業利益の売上対比4%という企業に向かいます。(注)卸では売上
対比2%水準でしょう。
小売企業の営業利益の売上対比が4%~3%水準なら、大量出店が可能
になる。営業利益を、事業拡大に使う。
対策を打っても、2年後に営業黒字の見込みがない店舗はダイナミック
に閉店します。許容限界は、10店のうち1店舗の赤字です。
出店初年度で黒字化するよう「部門のスコアカード(計画)」を使い、
部門面積と陳列商品を決め、発注~入荷~品出し陳列~棚管理の作
業構造を作ります。こうした方法は製造、卸、小売に共通します。計
画と成果(実績:売上・利益・生産性)の差を、マネジメントに使い
ます。
以上が、マネジメントでしょう。このようなマネジメントが、社員の
生産性を上げ、賃金をふやして、大きく言えばGDPを成長させます。
わが国のGDPが、20年も停滞しているのは、賃金を払う450万企業の生
産性が20年も高くなっていないからです。つまり、利益が上がってい
ない。マネジメントは、利益成果を上げることが目的です。
逆に、この20年、正社員の仕事をパート化して会計上の生産性を上げ
るだけで、約三分の1と低い賃金の人を増やして来てしまった。そのた
め、国単位では世帯所得が増えていない。
今後は、パートの時間当り生産性を1年に6%上げるよう真因対策を打
てば、賃金を上昇させ、その会社が関与する部分のGDPを増やすことが
可能です。今、小売業の競争は、総労働時の約80%にも増えたパート
の生産性競争というのが本質です。
(注)GDPは、企業で言えば粗利益額です。労働時間当りの粗利益額を
増やすことが、GDPの成長です。
この生産性を上げるには、二神氏が行ったような、あるいはトヨタが、
ずっと前から行ってきたような、社員の行動改革を行わねばならない。
実際、ウォルマートの方法も、トヨタやユニチャーム・ペットケアと
同じです。
■7.4半期のOGISMA表
ユニチャーム・ペットケアのOGISMA表(4半期)は、メーカー営業にお
いて、
・個々人の営業戦略(=行動計画)を作り、
・それをコミュニケーションするために考案されています。
その内容を要約し示します。
営業マンの個々人が作る、自分の経営計画と言ってもいいものです。
以下の7つのステップからなります。
▼【ステップ1:目標:Objects】
期間内の、当初からの達成目標を書く。
[ステップ1-1:現状分析]
顧客への売上結果と、当方の売上目標の差異。その差異が生じている
原因は何かを追求する。
思い込みではなく、数値の事実から、現状の結果分析をする。
分析結果に対し、「5つのなぜ?」を加え、真因と思われるとを示す。
(注)追求され、書かれた真因に、間違いがあることも多い。
上司がこれを修正する。繰り返し行うことで、個々人が真因に 近
いところを探り当てるようになって行く。ここがコミュニケーション
であり、指導です。指導がコミュニケーションです。
[ステップ1-2:環境変化]
計画期間内の、自分の営業活動にとっての環境変化を予測し、書く。
環境変化は、
(1)顧客の業績の変化、(2)顧客のニーズ変化、(3)担当地域の需
要変化、(4)競合他社の販売戦略の変化、です。(5)また自社の、
重点販売商品の変化も、営業担当にとっては、環境変化になります。
[ステップ1-3:リスクと機会]
・計画期間内のリスクと機会の予想。どんなリスク、例えば顧客の業
績の悪化があるか。あるいは、競合他社の攻撃があるか等。
・機会は、「どんな商品を、どんな方法で営業すれば、効果があるか」
の想定です。
▼【ステップ2:Goal:ゴール】
・ステップ1-2とステップ1-3を考慮した上で、計画期間内の達成目標
を決定する。(当初目標と関係づけて、自分の数値目標を決定する→
上司と調整)
当初の売上目標の修正(減額や増額)です。
▼【ステップ3:Issues:自分の行動の課題】
・A社に対する営業行動で、重点課題となることを書く。
・B社に対する営業行動で、重点課題となることを書く。
・C社、D社・・・・も同じ。
上記の、売上が十分ではないことの「真因」が究明されいれば、その
対策は、出てくるでしょう。その対策の実行が重点課題になります。
(注)A社、B社における営業行動の課題が共通するときは、1項にまと
める。課題は、実行すべきことの意味。
▼【ステップ4:Strategies:自分の営業戦略】
・A社に対する営業戦略で、優先して実行すべきことを書く。
・B社に対する営業戦略で、優先して実行すべきことを書く。
・C社、D社・・・・も同じ
(注)本部は、あらかじめ、当四半期の共通営業戦略を示しておく。
個々の営業マンは、それを採用するか、相手によって不足や修正が必
要な時は、追加または修正して、自分の営業戦略とする。
▼【ステップ5:Measurement:成果の評価方法】
・A社に対する営業活動の結果を、何で計るか?
・B社に対する営業活動の結果を、何で計るか?
・C社、D社・・・・も同じ
▼【ステップ6:解決すべ問題】
・A社に対する営業で、解決すべき問題は何か?
・B社に対する営業で、解決すべき問題は何か?
・C社、D社・・・・も同じ
▼【ステップ7:Action:問題をどう解決するか】
・A社に対する営業の問題を、どう解決するか?
・B社に対する営業の問題を、どう解決するか?
・C社、D社・・・・も同じ
以上の7ステップ(目標の項での+3つの小項目)です。
営業マンは作成したOGISMA表を、上司・同僚と「読み合わせ」をし、
不足する部分、わからない部分では、協力を要請します。
この過程が、管理(マネジメント)です。
上司は、指導と助言ができなければならい。
支社で30人の営業マンがいれば、毎四半期に30枚、1年で120枚のOGIS
MA表が作成され、作成と同時に、他と比較されます。単独で、隠して
作るのではない。
100%公開し、相互啓発と指導を得ます。優れた内容のものを見習う。
最初は、ダメな内容のものしか書けないでしょう。
うんうん唸って、頭から煙を出し、書く。分からないという空欄もあ
るかも知れません。(注)これが営業の、知識産業化でもあります。
走り回る闇雲な販売ではない。相手のニーズを想定し、そのニーズに
合致する営業を行う。
多数の中で、OGISMA表のうち、対策が真因に至っていたため成果が上
がったもの、成果が上がった方法、営業戦略、その段階的ステップが
出てきます。それを見習って、書く。
OGISMA表の作成をする過程に、営業の具体的な教育が、含まれている
のです。加えて、自発性です。個々の営業マンが、自分で自分の重点
行動計画をつくるからです。
この際、上司も対等です。顧客に対する営業で、どれが優れた方法か、
そこを問う。成果がいいのが優れた方法になる。
営業成績で下位40%の人が、4半期毎に、上位20%の優れた人の方法に
引き寄せられるボトムアップ効果も生みます。
教育の最高のものは、自己教育です。これが促される。OGISMA表の作
成でのカンニングは奨励されます。顧客が異なっても、共通課題が多
いからです。
(注)課題は、解くべき問題のことです。解く方法が戦略です。
以上のOGISMA表は、4半期の、支社の営業活動の重点を示すものになり
ます。支社の営業計画は、個々人のOGISMA表の集積です。
■9. 4半期のOGISMA表を、月次・週次の行動計画にする
OGISMA表は、4半期の行動計画です。次は、4半期の行動計画を、次月
の1Pローリング表に落とし込む。1Pは、ファースト・プライオリティ
(今月に実行を優先すべき計画表)を意味します。
月次の1Pローリング表の作成は、以下の4ステップです。OGISMA表の月
次版です。
【ステップ1:反省を書く】
先月及び先週の顧客別の営業結果(販売結果と粗利益結果)を見て、
反省を行って書きます。
反省とは、
・「実行しようと計画したが、できなかったこと」を書き、
・自分が、実行できなかった原因を書きます。
ユニ・チャームの反省には、優れた特徴があります。
一般に営業日報は、実行したこと、できたことを書きます。
1Pローリング表には、敢えて、できたことは書かない。
それは先月・先週の成果数字になっているからです。
肝心なのは、「行動計画にしたが、実際はできなかったことを、その
原因とともに書く。」ことです。
成果目標の未達(=結果)の原因を書くと言っていい。達成した人は、
目標よりずっと高い成果が上がらなかった原因を書く。
この反省によって、営業マンの知識、熱意、スキルが、向上して行き
ます。この反省の中には、目標水準の引き上げという狙いが含まれて
いるからです。もちろんこの際も、上司の指導が入る。
【ステップ2:今月の重点行動は何か?】
できなかったことを含んで、今月の重点とする課題を決め、営業活動
における行動を書きます。
重点とは、他のことに先駆けて、今月実行すべきと考えたことです。
反省が、正しく書かれていれば、この重点行動が出てきます。
【ステップ3:今月の営業活動の進捗における課題を書く】
営業活動は、1ヶ月で、その活動ステップが終わらないものも多い。
そのAIDMA(ある商品にスポットを当て注意を惹く→興味を惹く→欲望
を起す→動機付けする→受注)のフォローで、途中にあるものに対し、
進捗の課題を書く。
【ステップ4:今月の、4週実行計画を作る】
重点行動と進捗課題を含んで、自分が、今月重点的に実行すべきこと
を、4週(月によっては5週)に区切って、書きます。これが、週次の
重点活動名です。
この1Pローリング表が、毎週のSAPS週報になって行きます。
■10.最後はSAPS週報
毎月繰返して作成する上記のIPローリング表で、今月の4週(または5
週)に週単位で計画化する重点行動が明らかになっています。
元になったのは、4半期のOGISMA表です。IPローリング表には、OGISM
Aで計画したが、先月あるいは先週、実行できなかったことが書かれて、
翌月の4週に実行すべき重点行動が書かれています。
OGISMA表からは、今月の重点とする行動課題をコピーし、IPローリン
グ表からは、前月の結果を反省して決めた次月4週の、各週毎の重点行
動を、コピーします。これらがSAPS週報のヘッダー(行動を示す頭書
き)になる。
SAPS週報は、毎日(月~金)の日記帳の形式です。1日に30分単位での
(エクセルの表のような)枠を作ります。
ここに、「*時~*時まで、**の目的で、**社の**と会い、*
*を提案する」と書く。こうして、翌週の行動計画を決めます。
営業マンは、自分で決め、上司が承認した行動計画表を100%守って営
業活動を行う義務があります。
SAPS週報は、営業マンが、毎週作ります。特徴は、営業の結果の報告
ではなく、週間の行動計画表であることです。相手先の担当とのアポ
イントは週間行動計画表を作るときとります。
顧客が、発注のアクションの前などで、歯止めに同僚や上司と同行す
る必要があると考えるときは、相手のスケジュールと調整を図ってお
きます。わが国では、集団での営業が受け入れられやすい。相手も集
団がいい。
(注)顧客から急に呼ばれ、事前計画にできなった行動が入るかも知
れません。その行動を行ったことによって、できなかったことは、「
IPローリング表の反省」に書かれることになります。
当然、社内にいて4半期のOGISMA表や、月次の1Pローリング表を作る時
間、及び上司とのコミュニケーションと指導の時間も、記入します。
(注)ユニチャーム・ペットケアでは、SAPSの行動計画を導入して以
降、支店での、階層別の余計な、意味が薄い会議の必要はほとんどな
くなったと言います。
4半期のOGISMA表、月次の1Pローリング表上司とのコミュニケーション
と指導の時間が、会議の必要をなくしたからです。以下の週次営業会
議に一本化されています。
■11.週次の営業会議
週次の営業会議では、各営業マンの、前月・前週のパフォーマンス(
業績結果)を、全員でチェックする。パフォーマンスとは、実行した
行動による成果です。
このため、週末の金曜日の午後は、全国TV会議で、全営業が参加する
営業会議を行う。セブン・イレブン本部での、全国のオペレーション
・フィールド・カウンセラー(OFC:全国12,000店舗の指導役)が、月
2回集まる営業会議に似ています。
営業会議の目的は、
(1)前1週間の、営業の行動とその業績結果をチェックし、
(2)優れたパフォーマンス(業績)を紹介して讃え、
(3)成果が上がっていないパフォーマンスの変更を促し、
(4)翌週の、共通した重点活動を決めることです。
これも、目的は教育にあると言っていいものです。
▼営業活動の基準
4半期のOGISMA表、月次の1Pローリング表、週次のSAPS週報を作る際
(言い換えれば行動計画の段階で)、上司と部下の話し合いがありま
す。
計画作りの時点で、個々人の仕事の量、時間、方法が、相互に了解さ
れ、実行される。従って、SAPSの行動計画が、個々人の仕事の「達成
基準」になる。
営業マンは、SAPSで計画した行動の100%達成義務があると決めます。
固定給をもらうという背景には、行うべき仕事の基準が必要です。
売上や粗利益目標の達成は、営業行動の結果です。結果は目標にはで
きても、義務の基準にはできない。ユニ・チャームでは、目標達成の
原因となる営業行動を計画化して、実行を義務化したのです。
プロ野球で、ヒット3割を打つこと(結果)を達成基準にすることは9
5%の人には難しい。しかしコーチ(上司)から方法を教えられて、1
日例えば300本の素振りを行うことは、計画化して、100%の実行が全
員可能でしょう。この300本の素振りが基準になる。それが義務です。
(注)野球を知らないので、300本の素振りが、効果があるかどうか、
分かりません。あくまで仮定です。ゴルフなら、技術を言葉で言える
スキルフルなコーチがついた、1日500打の練習でしょうか。コーチを
つけるのは、練習が自己流で方法を間違えれば「下手固め」になるこ
ともあるからです。練習が、上に登るものではなく、現在を固めるマ
ンネリになる。
小林秀雄は、多くの天才的な作家、画家、陶芸家を調べ「天才とは、
毎日の努力を、たゆまず継続し得る才だった」と言っています。事実
でしょう。
これ以外に方法はない。文章のコツも、日々たゆまず優れたものを読
んで、自分で書くという実行からしか獲得できないものでしょう。仕
事も同じです。
ユニ・チャームの方法の優れた点は、個々人の、仕事の技倆に合わせ、
それぞれが100%達成するSAPSの行動計画(売上の原因)を作ること
です。
二神氏は、SAPSの方法の導入に当たって、以下の注意点も書いていま
す。それは、SAPSの実行の7年間の、失敗を含む経験から得られたもの
です。
■12.SAPS導入で成功をおさめるための禁止事項
▼(1)以前の仕組みをやめずに、SAPSを導入してはならない
具体的には、「**を行った」と書く営業日報はやめることです。月
次の1Pローリング表の作成には2時間はかかるという。
事例が、ない初期には数倍かかるでしょう。新しい仕組みを導入する
ときは、過去の方法を捨てねば、「あれも、これも」となって、実行
が不十分なものになります。
一般に、会社を見ると、新しい方法による失敗のリスクを恐れるため
か、方法の追加が多い。労働時間は、有限です。前のことをやめずに、
追加を繰返すと、行うことが全部、中途半端にしかならない。
そのため効果の上がる導入ができない。SAPSのような仕組みは、不十
分な導入では効果を上げません。
事業所が多数の会社なら、6ヶ月くらい先行する支社を決め、表をデザ
インして実行したらいいでしょう。
4半期のOGISMA表、月次の1Pローリング表、週次のSAPS週報のデザイン
は、項目を盛り込んで自分たちで考えるべきでしょう。そうしなれば、
自分のたちのものにならない。後は、それに倣う。
▼(2)行動基準を明確にせず、SAPSを導入してはならない
行動基準とは、仕事の手順と生産性です。規範(スタンダード)は作
業モデルです。ワークフローモデルと言っても同じです。
そのためには、部下とマネジャーの間に信頼がなければならない。信
頼とは、過去、本部やマネジャーが指示する方法に変えて成功しこと
からくる、次も成功するはずだという思いです。
規範的な作業方法の、生産性数値が基準です。
そのためには、営業方法の手順を、決めなければならない。前記のAI
DMAは手順になるでしょう。
数回~5回の訪問と面談・プレゼンで、
(1)注意を喚起する
→(2)興味を惹く提案をする(理性的な提案)
→(3)欲望を喚起する提案を出す(相手に合わせた理性的な提案)
→(4)購買の動機付けをする提案をする(感情的な共感を得る:相手
の上司を交え組織の共感を得る;ここで必ず意見が出ます)
→(5)相手の意見を入れた提案で受注
ユニ・チャームからの営業を受けたある店舗のバイヤーが言っていま
した。「一度に、ユニ・チャームの営業から提案されていたら、現状
を提案で変えるのはリスクが大きいと感じ、断っていたでしょう。」
相手(顧客:この場合は小売業のバイヤー)は、常に「現状を変える
ことのリスク」と、「変えた結果が悪い時の、自分の責任」を感じて
います。そのためには、段階的な手順をとって、バイヤーの上司や、
本部までを巻き込まねばならない。
▼(3)週次SAPS会議を行わず、行動計画を書かせてはならない
週次SAPS会議は、個々の営業マンのパフォーマンス(行動と結果)を、
全員で評価し、次の重点実行を決めるものです。金曜日の午後は、翌
週の行動計画を書くのに重要な時間です。
これを行わないと、営業マンの行動計画と実際の行動が、マンネリ化
したと言う。方法の間違った練習を繰返すようなものです。
これを営業マン本人は気がつかない。支社長レベルでも気がつかない
ことが多い。悪しきマンネリを続け、目標とする成果を上げない。
マンネリの発生の兆候は、売上や粗利益の減少、経費の増加、営業利
益の減少、営業の生産性の低下、新製品のマンネリ化と発売遅延、在
庫欠品の増加、在庫過剰の増加等となって、それぞれの病原が異なっ
て現れます。
マンネリはその内部にいる人にとっては、気分はいいものです。先月
や昨日と同じことをやればいいから・・・
全社営業が参加する「週次SAPS会議」での発言と事例は、外部からの
刺激です。上位5%の中に、パフォーマンス(行動と結果)が優秀な営
業が、必ず出ます。
それを、営業会議で皆に知らせ、顕彰する。その方法が、別の支社の、
翌週、翌月の行動計画になる。避けるべき悪いパフォーマンスも同じ
です。
▼(4)月1回の、営業時間外の懇親会を行わず、週次SAPS会議を行っ
てはならない。
ユニ・チャームの部門長は、最低で月1回は、担当部門の、アルコール
の入る懇親会に出て、皆とコミュニケーション(対等の立場での発言)
をとる義務を会社が課しているという。
経費は、スケジュールを出すと会社が払う。この数千円は、効果から
見れば安い。上司は、黙してひたすらに、目を据えて飲むだけではダ
メです。気味悪がられます。
懇親会は、大切な機能を果たすマネジメントの一環と、覚醒していな
ければならない。
部長やトップマネジメントグループは、全国の事業所を回って、呼ば
れた懇親会に出なければならない。相当に忙しい。
新しい仕組みや、新しい方法には、組織の現場やマネジャーから感情
的な反発が必ずある。その本音の意見を聞き、意味を説明する。
新しい仕組みは、本部や会社が、旧来の方法よりいいと思うから導入
する。実際には、社員は過去の慣れた方法を続けやすい。マンネリ化
した方法が楽だからです。慣習化したスイングは、なかなか、変らな
いでしょう? 現場を新しい仕組みや方法に変えるのは、マネジャー
が行うべき大仕事です。
懇親会での話し合いは、
(1)新しい方法が効果的なことを、相手が理解できる言葉で、フラン
クに説明する。
フランクとは、会議のようには肩肘を張らないことです。暗黙に、自
分は権限がある、偉いと上司風を吹かさないことです。
皆に、新しい仕組みと方法に対し、感情的な受け入れを促すのが目的
です。受け入れの際は、総論賛成、各論反対が多い。各論に反対する
のは、本当は総論にも反対なのです。
(2)逆に、新しい方法をとらないときの機会損失と、不利益を説明す
る。受け入れの抵抗感を聞く。聞くことは重要です。自分は意見を言
ったということが、賛成に向かうきっかけになります。
(3)新しい方法や仕組みを考案した初期から、概要の説明を加えてお
く。
ウォルマートのサム・ウォルトンも、その原則の中で、
Communicate ! Communicate ! Communicate ! と3回も繰返して、
組織経営におけるコミュニケーションの重要さを自らも率先し、マネ
ジャーに強いていました。
そのため月曜から木曜まで、競合店、注目店、自店を回った。顧客の
立場から、自店を見るためです。
現代組織は、上からの権限や命令では、うまくは動かないと経営の経
験で分かったからです。仕事には、納得と自発的な動機付けが必要で
す。人間を尊重しなければならない。
今、戦略に優れ、しかもコミュニケーションのいい会社が、業績を上
げています。
コミュニケーションは、(仮想的に)相手の立場に立ち、相手が理解
できであろう言葉で話すインテリジェンス(知性)でしょう。
西欧世界では、これをユーモア(原義は気質)とも言う。ジョークや
駄洒落ではない。相手の気質に、通じることです。笑いは、行動の美
意識と同様に、動物にはない高度な感情です。
定義が難しい笑いは「皆が**だろうと、暗黙に想定している緊張が
、目にした情景で崩れたとき」、自然に起る感情でしょう。
【後記】
本シリーズは、『ユニ・チャーム SAPS営業の原点』(二神軍平著:
ダイアモンド社)を読み込んで、当方の視点で、他の材料もマ交え、
SAPSの方法の骨子を書いたものです。多くの会社で導入して欲しい。
二神さんから、以下のような、メールをいただきました。
・・・二神の「SAPS経営の原点」を取り上げていただいていることを、
旧知の**さんからお伺いいたしました。誠に光栄で、恐縮いたして
おります。本の内容は、オリジナルなものはなく、ほとんどが他社か
ら学んだものばかりです。
しかし、目標会社の原理原則では、80%以上が同じ行動特性と思考特
性をもってらっしゃいました。その原理原則を学び真似をしただけで
す。今後は先生を二神の目標人物として、学んで参りたいと思います。
まだまだ出来ていないことが多い経営を先生に取り上げられて、今更
ながら正しい経営を目指さなければとプレッシャーと動機付けを頂
きました。有難うございます。
・・・拙稿をお読みいただき恐縮し、いたく赤面しています。私など、
人の目標になる訳もない。本を読んでいて、親近感を感じました。
目標による管理(MBO)の実際的な方法としてまとめたいと漠と考えて
いたことが、形になって、実践をともなって書かれていたからです。
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情報価値をe-Mailでお届けする」ことを趣旨に、ビジネスの成功原則
、経済、金融等のテーマを原理からまとめ、明快に解き、週1回お届け
しています。最近号の、一部の、目次は以下です。
<492号:われわれは、どこへ向かっているのか?>
2010年7月14日号
【目次】
1. わが国人口の、年齢構造変化:確定した未来
2. 20歳未満は560万人減少(25%減:年率1%)
3. 20~39歳は880万人減少(28%減:年率1.2%)
4. 40~59歳は220万人減少(7%:年率0.3%)
5. 60~79歳は300万人減少(9%減:年率0.4%)
6. 80歳以上は490万人増加(60%増:年率2.4%)
7. 世代と可処分所得(09年:厚労省)
8. GDPの項目と成長
<493号:いずれ増発される通貨の問題>
2010年7月21日号
【目次】
1.気配が、現実になりつつある
2.ユーロ危機も低金利のユーロにマネーが集まったことが原因
3.世界の金融機関は、今、事実上の国有化状態
4.政府信用の根底
4.欧州当局が推測したギリシアの銀行の資本不足(事例)
5.横行する飛ばし
6.ゴールドの認識への異変
<494号:必要な社会福祉費のシミュレーション>
2010年7月28日分
【目次】
1.医療費
2.急激に増える、わが国の介護費用
3.生産年齢人口が、急減の時代へ向かう
4.年金給付
5.必要な政策
6.財務省(主計局)による予算査定の制度は停止すべき
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