ビジネス知識源:アフター3.11:原子力発電と経済
This is my site Written by yoshida on 2011年4月14日 – 07:47

前回のメール・マガジンを送ってから15日経ちました。ご無沙汰し、
恐縮に存じます。

歴史を転換させる大震災から、一ヶ月です。近くの三叉路には、威
風堂々とした桜の大木があります。何事もなかったように、咲いて
います。空も、抜けるように青い。

一昨日も東日本では震度5から6の余震が、数回ありました。4月12
日までに、M7以上が5回、M6以上は70回、M5以上が410回の多さとい
う。(M=マグニチュード:地震のエネルギー:M2の違いで1000倍。
M7以上が大地震、M8以上が巨大地震:M9以上が超巨大地震)

政府は、福島原発の事故で漏れた放射性物質(数十京ベクレル)か
ら、チェルノブイリ級(1986年)のレベル7と認定し、諸外国のメ
ディアも、一面でこれを伝えています。

統一地方選挙の後にこれを言うのに、政府の意図を感じるのは、当
方だけではありますまい。事故当初から、分かっていたことです。
今更言うのは、今後への何らかの意図があってのことかと思えます。

              *

ベクレルは、1秒に1回、原子核が崩壊する単位です。
他方シーベルトは、被曝を示す単位です。

半減期が8日のヨウ素131の内部被曝では、成人で50年体内(甲状
腺)にと留まるとして、[ベクレル×2.2×10万分の1=ミリシーベ
ルト]で、概算換算されています。セシウム137のように、半減期
が30年と長い核種では、これより大きな値になります。

食品・飲料の1kgで、ヨウ素131が1万ベクレルのものを摂取すれば、
内部被曝が0.22ミリシーベルトです。野菜の安全基準である2000ベ
クレル/Kg未満は、ヨウ素131で0.044ミリシーベルトと換算できま
す。

ヨウ素131換算の65京ベクレルは、650000兆×2.2×10万分の1=14.
3兆ミリシーベルト=143億シーベルトです。

今は、多くが放水した水に溶けています。圧力容器や格納容器の爆
発がない限り、遠くまで飛ぶ空中拡散は少ない。

一体いつまで続くのか。終結処理は明瞭には見えていませんが、次
のような工程になるとされます。ここを、関心をもって見なければ
ならないでしょう。

事故処理のこれらからの工程を想定したあと、原子力発電の経済性
は本当かということ、賠償問題、火力発電よりエコロジーにもよく
地球温暖化を防ぐということが科学的な知見がない神話であること
にに触れます。

われわれは、今、考えを転換せねばならないと感じています。調べ
て分かったことが多かったのです。

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    <533号:アフター3.11:原発と経済>
        2010年4月13日

【目次】
1.原発事故の終結処理の工程と期間
2.原子力損害賠償法の解釈をめぐる、政府と東電の対立
3.夏場のピークの、経産省が言う計画停電
4.原子力発電のコスト問題

【後記】

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■1.原発事故の終結処理の工程と期間

政府や東電発表は、起こったことの追認で、情報提供しています。
被曝において重要なことは、昨日の情報ではない。これからの、気
流を含む、累積の予測情報です(SPEEDI)。そのためには、これか
らの終結処理へ向かう、方法と工程を見なければならない。

▼使用済み核燃料(1、3、4号機)

まず、プールに破壊があると見られる使用済み核燃料(1000トン以
上)を取り出さねばなりません。

多量の燃料は、使用済みであっても、今のまま閉じ込める方法(石
棺や鉛をまぜた砂山)は、新たな爆発や流曳の危機も生むため、不
可能です。

燃料は、核分裂反応(大量の熱を出す)を停止しても、30日後では
運転時(100%とする)の0.14%くらいの崩壊熱を出し続けます。
電熱器に似ています。循環水がなく閉じ込めれば、熱が上がる。冷
やすことと閉じ込めることを同時に行わねばならない。

被覆が破損したペレット(燃料片)は、欠片あるいは塊を、溶けた
鉛や錫(すず)、あるいは別の安定した金属で再被覆し、100度以
下の循環冷却水で、10年は冷温保存せねばならない。

【想定工程】
(1)高度汚染水と瓦礫を処理したあと、人の作業ができるよう放
射線の低い状態を作る。
(2)建屋の外部に、大型クレーンを作る。
(3)クレーンでキャスク(密閉型鋼鉄の容器:100トン)をプール
に運ぶ。または、新に作った仮設プールに、核燃料を運ぶ。
(4)キャスクに燃料を格納し、トレラー建屋外に運ぶ。
以上の終結処理まで、数年はかかるだろうと言う(東電内部資料:
朝日新聞11.04.13朝刊)。

一機でも、処理過程の途中で、ごく部分的な再臨界等で異常な量の
放射性物質が出ると、除去までの時間がかかります。

今、4号機の使用済み核燃料のプールは、その上空6メートルで毎時
84ミリシーベルトと言う(12日昼:東電)。1メートル上なら2の6
乗=64倍で、5376ミリシーベルト(5.4シーベルト/時)でしょう
から、全く近づけない。水温も危険な90度です。

官邸では、予測されている大きな余震で、使用済み核燃料プールに
破壊や停電が起こって、むき出しの核燃料が放つ大量の放射性物質
の、外部流失が起こるのを、今後の最大の危機と見ているようです。
4月13日も余震が続いています。

プールに燃料集合体が1300体もある4号機(定期点検中で、使用中
の核燃料が混じる)に、作業障害のもっとも大きなリスクがあると
も言う。(同朝日新聞) 

うまく行って数年という時間単位に、慣れる必要があります。東電
は4月内に、「以上の工程へ移る目処」をつけるとはしています。

1機の使用済み燃料プールで80%の成功の可能性(ほぼ大丈夫の意
味)があるとして、4機では、0.8の4乗=41%です。これが予断を
許さないと表現されることの定量的な可能性でしょう。

今日は、作業環境を確保するための、超高度の汚染水(2万トン:
2号機が中心)の処理です。13日午前7時までに750トンを移送処理
したと言う。

破損した格納容器と圧力容器の冷却(1機で7~18トン/時)のため
に、これからも、その何倍も増える高度汚染水は、タンカー等で運
び、別の工場で再処理の必要があります。

▼圧力容器と格納容器

破損した圧力容器と格納容器での、終結処理に向かう工程はまだ、
明らかにされていません。

破損の場所と程度も、まだ不明です。以下の工程が想定できます。
なお、原子炉の状態を示す各種の計器は、電源を通じてもごく一部
しか機能していません。

東電は、漏れ出た高度汚染水が含む核種と量の分析から(今日始ま
っています)、圧力容器と格納容器の内部状態を推理し、対策を打
つと言っています。

以下に、原子炉の状態を示す包括的なデータ(論理的な推理を含
む)があります。
http://www.asahi-net.or.jp/~pu4i-aok/cooldata2/politics/politics27.htm

【終結処置に向かっての工程】
(1)格納容器付近と地下階、及び建屋周辺の超高度汚染水を除去
し、放射線量を下げて、作業環境を確保する。
(2)たぶん圧力容器底部の、比較的大きな破損部に、冷却水とと
もに鉛粒や錫あるいは他の金属を入れて固め、亀裂を小さくする。
 完全修復はできなくても、次善策を採る。これによって、放射性
物質の大量流出(現在の状態)を避ける。
(3)原子炉の修復と並行し、外部から冷却水を循環させ、その熱
を海水に移転する回路(熱交換機)をつける。既設の、循環冷却機
能の回復の可能性は、ほとんどないから・・・(上原春男氏の、政
府への提案)。
http://news.nicovideo.jp/watch/nw50055

(4)冷却水を循環させ、圧力容器内の燃料も冷温停止させる。
(5)冷却水で満たした圧力容器の蓋を開け、燃料をクレーンで取
り出し、上記の使用済み燃料と同じような、処理に移る。

以上の、5工程の処理の必要年数は、最短で数年でしょうか。今は、
(1)工程の前処理です。リスクは、使用済み核燃料の処理と同じ
でしょう。

▼再臨界反応について

3月末から、京都大学の小出裕章助教は、塩素の同位体であるクロ
ル38の大量検出を知り(東電発表)、圧力容器または格納容器内で
の、ごく部分的な再臨界反応の可能性を言っています。

これが、別のリスクです。(注)1~3号機の燃料棒の45%は溶融し
ているということは東電も認めています。1号機では70%と言う。
http://www.youtube.com/watch?v=OrJrKU3UBMc

クロル38(塩素38:半減期30分)は、中性子が海水中の塩素に当た
ってできる放射性の同位体です。中性子は、ウラン燃料が溶けて集
まったことによる核分裂(再臨界)でしか生じないという(1号機
の可能性)。

核燃料が含むウラン235に、減速剤(水)を経て、中性子が当たる
と核分裂が起こりやすくなる。この核分裂反応が更に中性子を放射
し、連鎖反応を引き起こすことがあります(これが核爆発)。

ただしこれは、反応が停止した燃料では、起こっても部分的であっ
て、核爆発には(ほぼ絶対に)至らない。発電用の燃料は、核爆弾
と違って、不安定なプルトニウムの濃度が数%以下と低いからです。

しかし核分裂は、微量の反応でも大きな熱エネルギーと、多種の放
射性物質を出すため、周辺での対策作業を停滞させる障害になりま
す。

東電は、公式には再臨界をまだ認めていません。しかし今、敢えて
チェルノブイリ級(レベル7)と事故評価をした背景に、部分的、
断続的な再臨界反応があるのではないかと推測します。

再臨界は、じくじくとした崩壊熱とは桁の違う熱を出します。熱で
溶け落ちた数千度の燃料やペレットの融解塊が、冷却水と反応する
と、内部圧力が上がって、圧力容器または格納容器に、水蒸気爆発
(これが万一起こればチェルノブイリ級に至る)や大きな亀裂を作
る可能性があります。

ただし、部分的な再臨界なので、燃料溶融でも、圧力容器の大きな
爆発に至らないでしょう。しかしこれが(可能性は低いでしょう
が)、最大のリスクです。避けるには、ホウ酸水です。

現在、格納容器に注入されている窒素は、水素と酸素が反応して起
こる格納容器の水素爆発を防ぐ目的です。水に強い放射線が当たる
と、分解されて水素と酸素が発生します。

再臨界による水蒸気爆発が引き起こす外部被曝、内部被曝の被害地
を今以上に広げないためには、上原氏が提唱している「外部からの
循環冷却」を、一日も早く行えるよう、上記の対策を打つ必要があ
ります。

NHKのTV映像で見ると、今も建屋から上がり続けている白い蒸気は、
格納容器の圧力上昇を防ぐために、外部へ出された気体性の放射性
物質を多く含む水蒸気と言う(ウェットウェル・ベント:格納容器
設計者の後藤政志氏の解説)

チェルノブイリの終結処理より困難なのは、4機が同時多発で、圧
力容器と格納容器の複数箇所が壊れていることです。水を入れても
圧力が上がらないことが、圧力容器の破損を立証しています。チェ
ルノブイリでは、一機でした。

核物質を閉じ込める、冷やすということの成功の可能性はあると思
います。北関東や東北南部までが避難地域になるような「破局的事
態」はないと判断しています。以上が、原発事故の終結への過程、
リスク、及び必要期間の想定です。

以上は本来、東電が言うべきことです。部分的な結果を発表し、原
因を言わず、レベル7に達したということによって、無用な不安が
広がっているのです。

(注)東電に、本当に原因が分かっていないなら問題です。防ぐ対
策が打てないからです。記者会見を見れば原因は分かっているが、
その発表を部分的にしていると感じます。肝心な所を、数字ではな
く形容詞(少量)や副詞(わずか)で逃げているからです。背景に
数値がなければ形容詞は使えないはずです。科学は数値です。

■2.原子力損害賠償法の解釈をめぐる、政府と東電の対立

原子力損害賠償法は、以下のように規定しています。

「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与
えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を
賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変
又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでな
い。」(3条1項)

事故が、異常に大きな天災やテロによるときは、東電の賠償責任は
免責されるという規定です。ただし枝野長官は、3月25日の記者会
見で、「安易に免責の措置が取られることは、この経緯と社会状況
からあり得ない」という見解を示しています。

東電はいくらの賠償を払う義務があるのかというと、政府保険から
1200億円です。(7条1項) この賠償額が1機当たりか、福島第一
原発の6機を対象にした7200億円を上限にするのか、法の規定はあ
いまいです。また1200億円を超える賠償について、電力会社の財力
で支払えないときは、政府が補填するということです。

ところが、管轄官庁である文科省は、以下のように言う。

「同法では、原子力損害が発生した場合、原子力事業者は生じた原
子力損害の全額を賠償する義務を負っています(無限責任主義)。

従って、(保険で)1200億円を支払えばそれ以上は賠償請求に応じ
なくてもよいのではない。1200億円は、原子力損害が発生した場合、
被害者に対して迅速かつ確実に賠償の支払いを行うための保険に過
ぎません。1200億円を超える損害額については、自らの財力をもっ
て支払う義務が残ります。

なお、事業者の財力等から見て必要があれば、国が必要な援助を行
うことが可能となっており、被害者の保護に遺漏がないよう措置さ
れています。」 これが、政府の法の解釈です。

ところが4月13日の、東電の清水社長の記者会見では、「政府と協
議し、原子力損害賠償法に照らし、損害賠償を速やかに行う」とい
うことでした。

設計の想定を超えた地震と津波が原因なので、東電としては保険で
の1200億円以上を賠償する義務がないということの表明にも感じら
れる表現でした。

震災当初から「想定外の震災」が繰り返し言われた背景には、原子
力損害賠償法の「異常な天災の際の、事業者からの免責規定」があ
ったと推測します。想定外は、異常と解釈されるからです。

こうした賠償以外に、東電は10年の終結処理までに、1機で3000億
円レベルの費用が必要になるはずです。1979年のスリーマイルの終
結処理(16年間)が、$10億だったことからの類推です。その間約
30年ですから、現在金額では、最低でも2.4倍($24億)が想定さ
れます。

原子炉の壊れ方が大きく、今はまだ燃料の取り出し方が不明なので、
$35億(約3000億円)を予想します。3機と見ても9000億円です。
6機なら1兆8000億円です。ウォールストリート・ジャーナルは、原
子炉の洗浄にも、数年かかると言っています。以上は、全額が東電
の負担になります。

賠償総額はどうか。米・野菜を含む農作物、畜産、海洋と漁業の被
害、それに数年と長引く避難地、退避地の住宅と土壌被害です。

現時点では計算が難しいのですが、数兆円(5兆円?)を超えるの
は確実でしょう。これを払わないことは、許されません。

関東の鮨屋も、事故前に比べ売上が30%は減ったと言う。料理店で
の鮮魚も、類似しているでしょう。1年続けば、広範囲に経営問題
も生みます。食物連鎖の頂点にある高級魚は、海水が汚染された後
6ヶ月に含有放射性物質が頂点になるからです。(チェルノブイリ
後の、日本での汚染調査結果)

(注)原発以外の、東北地方の地震・津波被害で物損だけで20兆円
(阪神・淡路の2倍)が想定されています。政府財政には、財源問
題があります。

政府が「**ベクレル以下だから安全だ」と言っても、消費者は長
期に買わない。根拠はなくても「**産」というだけで、店頭では
長い期間売れません。売れないものを小売業や料理店が仕入れるこ
とはできません。かつて、中国の輸入野菜の農薬問題で起こったこ
とを考えれば、予想できるのです。

こうしたことまでを含む損害賠償は、東電の負担能力(会社の価格
=時価総額8067億円:4月13日)を、はるかに超えます。

政府が、1200億円以上(または7200億円以上)は無限責任を負い、
賠償せねばならない。原子力安全保院は、原子力設備に関し、認可
しているからです。東電と政府の係争(裁判)になる可能性も高い。

政府・東電ともに「原子力発電は安全だ。重大事故はあり得な
い。」としてきたことのつけが、こうした法の不備です。

■3.夏場のピークの、経産省が言う計画停電

前稿では、以下のように書きました。

<経産省は、4月内に東電管内の計画節電を停止し、夏場のピーク
に、産業の大口需要で25%~30%、家庭で15%の削減を計画してい
ます。東電の管内です。(11.04.06:日経新聞)

日本のGDPの約50%(人口の45%)を占める東電管内での、夏場の
供給不足は、
・猛暑なら1日で1500万KW時(不足が25%)、
・普通の夏で1000万KW時(不足が17%)が予想されています。

昨年(ラニーニャで猛暑日が続いた)の夏の、ピークでの電力消費
は、6000万KW時(東電管内)でした。上記の不足割合は、6000万
KW時に対してのものです。>

その後調べると、東電が想定している2011年の夏場のピークは数日
(5755万Kw時)です。時刻では、午前10時ころから20時です。
(注)夜や朝に節電しても、もともとピーク時間の約半分の使用量
ですから意味はない。

東電管内で見込める供給力は、今年の夏で5215万Kw時です。不足は
約500万Kw時(10%不足)です。仮定条件は以下に、詳細に書かれ
ています。(ISEP:環境エネルギー研究所)
http://www.isep.or.jp/images/press/ISEP_Strategy110404.pdf

以上の短期間の不足なら、企業と世帯の、自発的な節電(日本人は
こうした対応が凄い)で賄える量です。東電・経産省の供給不足見
積もりは、過大に思えます。

計画停電(あるいは突然の無計画停電)は避けねばならない。
経済活動を停滞させるからです。

長期的に言えばどうか。これについて小出裕章氏は、以下のように
述べています。(『隠される原子力 核の真実』:2010.12月)

<日本では現在、電力の約30%が、原子力で供給されています。そ
のため、ほとんどの日本人は、原子力を廃止すれば電力不足になる
と思っています。 また、ほとんどの人は、今後も必要悪として受
け入れざるを得ないと思っています。 そして原子力に反対すると
「それなら電気を使うな」と言われたりします。(引用:以下同)

<しかし、発電所の設備の能力で見ると、原子力は全体の18%しか
ありません。その原子力が発電量では28%になっているのは、原子
力発電所の設備利用率だけを上げ、火力発電所の(余力の)ほとん
どを停止させているからです。原子力発電が生み出したという電力
をすべて火力発電でまかなったとしても、なお火力発電所の設備利
用率は7割にしかなりません。(驚くべき事実)>

<それほど日本では発電所は余ってしまっていて、年間の平均設備
利用率は5割にもなりません。つまり、発電所の半分以上を停止さ
せねばならないほど余ってしまっています。ただ、電気はためてお
けないので、一番たくさん使う時にあわせて発電設備を準備してお
く必要がある、だからやはり原子力は必要だと国や電力会社は言い
ます。>

以上を、当方は知りませんでした。

■4.原子力発電のコスト問題

LNG(天然ガス)や石炭、石油の火力発電を定期点検等の名目で停
止し、あるいは燃料コストが高いという理由で休止して、18%の発
電能力の原子力発電を全電力の30%になるように多く使っている実
態は、知られていません。

1Kw時の発電コストは、以下のように原子力が、ほぼ石炭並みでも
っと低い。2000年代の原油・天然ガスの国際価格が、3~7倍に高く
なったためです。

これを見ると、国策でもあった原発の拡大推進は、石油危機後
(1973年~)の「電力会社の経済問題」であったことがわかります。

【1Kw時当たりの発電原価:経産省 エネルギー白書2008年】
     発電原価   設備利用率  発電割合(06年)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
原子力  4.8~ 6.2円  70~85%    30.6% 
石炭   5.0~ 6.5円  70~80%    24.7%
LNG    5.8~ 7.1円  60~80%   26.0%
水力   8.2~ 13.3円    45%    9.1%
石油   10.0~17.3円  30~80%    9.2%
風力    10~14円     20%
太陽光    46円     12%    
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(発電原価の低い順:日本)

上表のように、出力の抑制や停止が他より難しく、原価の低い原子
力発電の設備利用率(稼働率)が最も高い。

水力は、発電能力の45%しか利用されていません。原価が原発に似
た、石炭発電を増やす選択肢は十分にあります。

原油が1バーレル$15(90年代平均)から、2000年代の$30~$
120(現在)に上がった後、電力会社は、直接の設備・燃料コス
ト・運転費が、火力発電より約20%低い原子力発電を運転し、電力
供給するように変わっていたのです。CO2問題も荷担しました。

<極端な電力使用のピークが生じるのは、一年のうちの、真夏の数
日、そのまた数時間のことでしかありません。かりに、その時にわ
ずかの不足が生じるというのであれば、自家発電をしている工場か
らの融通、工場の操業時間の調整、そしてクーラーの温度設定の調
整などで十分乗り越えられます。 今なら、私たちは何の苦痛も伴
わずに原子力から足を洗うことができます。(同書)>

小出裕章氏は、反原発の活動家として、官民協調の「原子力ムラ」
から完全排除されています(当人の弁)。京都大学でも、キャリア
と年齢に不釣り合いな、助手でしかない。恐らく原発反対の、理論
的な旗手でもあるからでしょう。今回、主張を読んでみました。イ
デオロギー的な反対ではない。科学的な知見に思えました。

原発の停止で、電力費は若干上がるでしょう。しかし、万一の時、
大被害をもたらす原発より、火力がいいと考えます。CO2問題(二
酸化炭素問題)には、欧州が産業化しようとしたための嘘が含まれ
るからです。

環境問題では、あまり知られていない重要な事実があります。原子
力発電の熱効率は約30%と低い。100Kwの原資力発電1機では、
300Kw分のエネルギー(熱量)を、熱交換機を通じて海水に捨て
(廃熱)、廃棄される海水の温度を7度上げています。これは、大
気の温暖化と同じ意味になります。

他方、火力発電の熱効率は、古い鹿島の5,6号で43.2%、新しい川
崎の2号で61%と高い(改良型)。平均すれば、ほぼ50%でしょう。

原子力発電がCO2は少ない。しかし廃熱が70%なので、50%の火力
発電より地球の温暖化になっています。安全な原子力発電がエコロ
ジーにいいというのは、神話にすぎません。

日本の電気代は、地域独占に守られつつ、「総価原価」の方式で販
売価格が決められています。隣接する電力会社からの売電・売電の
事実上の制限は、地域独占を守るためです。

東電(50サイクル)の電力不足、中部電力(60サイクル)の17%の
余剰で、これが分かったのです。事故時に使う周波数交換機は、
120万Kw時分しか作られていません。

発電原価が上がれば、電気代が上がる。これは、甘受しましょう。
電気代が上がれば、節電も進みます。国際比較でみた電気代は、以
下です。(1Kw時当たりの価格はFT紙)
                          原子力
    家庭用  産業用  原子力発電(2007年)  構成比
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国  $0.11  $0.06  104基  1億606万Kw時 20%
フランス$0.16  $0.06   59基  6602万Kw時   80%
ドイツ $0.21  $0.08   17基  2137万Kw時   20%
日本  $0.18  $0.12   55基  4958万Kw時   30%
英国  $0.22  $0.14   19基  1195万Kw時   20%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(産業用電力費順:価格は1Kw時当たり:2006年)

総電力の70%以上を使う産業用では、日本の価格を100としたとき、
米国50、フランス50、ドイツ67、英国117です。燃料費(原油、石
炭、LNG、ウラン)は、国際市場で売買され、世界共通です。

国際的に見て、日本は高い電力費と言えます。電力費は、わが国の、
商品とサービスの原価になっています。シンボリックに言えば、電
力が原価の多くを占めるアルミニュウムの精錬業は、日本から消え
ました。1970年代初頭まで、アルミニュウムは国産でほぼ100%を
まかっていました。

店舗でも、冷暖房と照明で原価の1.5%付近が、電力費です。家庭
の電力消費は各国25%程度と少ないので、電力費の比較には不適当
です。

以上の諸事実を言えば、電力会社は嫌がり、電力費負担を上げない
ためには、原価の低い原発の推進が優れると答えるでしょう。

ただし、原子力発電の上記原価には、今回のような事故での廃炉の
ときの、巨額で長期の処理費用や、損害を入れていません。

1機3000億~5000億円の設備投資額に匹敵する費用が、追加でかか
るはずです。東電も過去の全利益蓄積(=資本)を、今回の事故で
失います。

原発の大きな被害をもたらす事故率は低く、車や飛行機よりはるか
に安全率が高いという論もあります。確かに事故の統計的な確率は、
ずっと低い。

しかし、今回のような苛烈事故が万一起これば、(1)大被害、
(2)長期での住民と産業損害、(3)長期の健康被害をもたらしま
す。車や飛行機の事故率での損害と、同次元で比べることはできな
い。

今回の苛烈事故(シビア・アクシデント)は、世界のエネルギー政
策を、根底から変えるでしょう。日本の原子力の設備技術は、耐震
性の面で世界最高とも見られていたからです。

【後記】
わが国から原子力発電を無くしても、日本の電力消費をまなかえる
ことを、初めて知りました。燃料原価が低い石炭発電なら、コスト
でも原発にも見合います。原発は70%が廃熱になるので、エコロ
ジーの観点からも、火力がいい。

東海地震の想定地にある浜岡原発は、M8.5が耐震設計の基準と言い
ますが(中部電力側)、この点について、政府とは見解の対立があ
ります。以下の政府論文は、この点をぼかしてはいます。
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0515.pdf

万一、シビア・アクシデントが起これば、巨額の被害補償と、終結
処理費用で、東電の二の舞になります。耐震基準をM9に上げねば、
世論が許さない。原発システムの安全神話は、根底から壊れていま
す。

電力会社にとっても、地震と津波の想定基準をM9に上げれば、プラ
ントの総システムの設備コストが恐らく2倍以上に増え、採算に乗
らないでしょう。これは、電力会社の今後の経営問題にもなる。

政府は、以上を認識すべきでしょう。原子力産業の推進側からは、
反論と言論封殺もあるかもしれません。

当方、いかなる党派にも属しません。党派的な主張(イデオロ
ギー)ではない。この国の国土、経済、健康を守るための主張です。
当方のデータは、いずれも公表されたものです。

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