ドル強さが、弱さに転じるとき(2)
Written by admin on 2023年11月18日 – 12:00
1ドルが150円を超える円安が、日本経済の障害として取り上げられる ようになってきました。輸出物価を下げて、輸入物価は上げる円安を 歓迎する空気が支配的だった数年前までと、様変わりしています。 【社会の空気】 村(ムラ)である社会の「空気」とは、妙なものです。金融系のト レーダー・アナリストは、「2022年から、円安の害をやっと言えるよ うになった」と述べていました。日本及び米欧にも、山本七平が示し た、社会の感情である「空気」があります(『空気の研究』)。 骨董の価値も、骨董ムラの共通感情(非合理な感情)から来ます。中 国古代の壺が5000万円、フェラーリより高い。これは一体どんな価値 か? 中古のロレックスが500万円。何でも鑑定団のように、骨董ム ラ(骨董商と愛好家)に属しないと、その価格が分からない。 マンハッタンの高層マンションの20億円、100億円まであるという、 資産バブルの発生と崩壊も、社会の空気による、非合理なものです。 日本でも、港区のタワーマンションが5億円。30%は、中国からの賃 貸用の買いです。日本の不動産の利回りは、4%から5%と高い。5億 円の物件なら、家賃が200万円。預金の金利はほぼゼロ。不動産の利 回りは4%から5%。ドルのMMFも5%の金利。 いま、岸田内閣の支持率では、20%台の後半が空気です。不支持が 60%と高い。それに、自民の支持も20%台に下がっていて、解散がで きない。 解散は、内閣の強化を目的に行います。岸田内閣の命運は年内か、年 初までか。自民党が下野した2009年の空気ですが(自民党衆議院議員 300→119議席)、今回は、有力な野党がない。 作家の百田尚樹氏が立ち上げた「日本保守党」が、ひどく人気を得て います。かつての、泡と消えた「希望の党(2017年:50議席)」に似 た勢いです。これも「反岸田の空気」です。 自民党の岩盤支持は30%であり、投票率が高い公明党の約10%と合わ せて40%が、約30年政権を支えてきました(間に民主党政権が3年)。 30%の岩盤支持層から離反が出ると、自民党内閣は維持できない。政 治は、投票に行く約60%の国民(6000万人)からの支持率に依存して います。 〔本稿のテーマ〕 経常収支が赤字を続け、「1971年の金・ドル交換停止のあと、1973年 に始まった変動相場制度の原理」からは、下がるべきドルが、1995年 以降の28年間、とりわけ円に対して約2倍も高いのか。前号から、根 底にある原因を、追求しています。 経常収支赤字国のドルが高く、黒字国の円がなぜ安いのか。 ドルの基礎を決める、経常収支と基軸通貨と絡めた論考は少ない。 * 前号の正刊(11月15日号)では、1)対外負債39兆ドル(対外資産21 兆ドル:2)対外純負債18兆ドル)の、赤字通貨のドルが、対外負債 を増やし続けた1990年以降も強かったのか。その理由を示しました。 (1)原因は、経常収支の赤字として海外に支払われたドルが、米銀 にUターンする「構造的な仕組み」があるからです。 (2)もう一点、原因をさかのぼると、米ドルは世界貿易(輸出入で、 約60%の30兆ドル(4500兆円)の決済通貨とされているからです。1日 に約1000億ドル(15兆円)の、ドルの実需があります。(注) 世界の 貿易は、世界のGDP100兆ドルの、約30%の30兆ドル(4500兆円)。 〔世界がもつドルの外貨準備は、米銀にある〕 米ドルは、世界の国際銀行が認める貿易用の通貨です。 各国の外貨準備(15兆ドル)として「積み立て」られています。 貿易と国際的な決済用の基軸通貨をドルと決めているのは、実は、世 界の政府や国連ではない。米英の中央銀行と国際金融資本です。 外貨準備は、中央銀行または政府が、輸入の決済用の通貨として、 「準備金として」もつものです。 しかしその外貨準備(世界では15兆 ドル)は、各国内にはない。米銀とFRBに預金されています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol.1383号:土曜増刊:ドル強さが、弱さに転じるとき(2)> 2023年11月19日:有料版・無料版共通 【中編の目次】 ■1.日本の外貨準備、米国債、日銀の金は、全部、米国にある ■2.レートが上下する変動相場の原理 ■3.金利と通貨のレート ■4.金利の上昇と国債価格の下落の関係 ■6.世界のデリバティブの契約額と含み損益:2023年3月 ■7.基軸通貨の特権 【後記:自己推薦】 ・・・続きの「大団円」は水曜日の正刊 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.日本の外貨準備、米国債、日銀の金は、全部、米国にある 日本は1.3兆ドル(195兆円)の外貨準備をもちます。 日本の政府・日銀・銀行には、その外貨準備はない。 (1)バランスシートの帳簿上では、政府と民間銀行がもつドルマ ネーは、米銀またはFRBに預金されています。 日本は、対外証券・預金を、約1000兆円もっています。270兆円く らいは直接投資であり、工場やオフィスの不動産です。 (本邦:対外資産、対外負債) https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/iip/data/2022_g.htm (2)日本がもつ米国債は、FRBにカストディ勘定として預託されてい ます。 (3)日銀のバランスシートの資産に記載されている金(簿価で4412 億円:量では846トン)も、安全のためという名目で米国FRBに預託さ れていて(カストディ勘定)、日銀の金庫には、ごく少量があるだけ です。 (日銀:営業毎旬報告:2023年10月) https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2023/ac231110.htm 〔外貨準備の行き先〕 外貨準備は、各国の中央銀行が、輸出代金のドルが貯まる銀行から、 自国通貨を渡して、買い上げたものが源流です。 各国の中央銀行、または政府の帳簿にはあっても、ドルは国内では流 通しない。米ドルを金庫にもっていても、金利は0%ですから(金庫 へのブタ積)、金利がつく、米銀への預金または米国債になっていま す。 (注)ウクライナ戦争の開戦のあと、米国は、ロシアの外貨準を3000億 ドル(45兆円)を差し押さえました。今も、ロシアに渡さず凍結して います。 海外の外貨準備を、米国が凍結できるのは、 ・外貨準備が、米銀に預金され、 ・米国債もFRBに預託されているからです。 米国政府は「ロシアの侵略戦争」という理由を付け、米銀が引き出し に応じないように命令すれば、預金者(ロシア)は使えない。 米国の「横暴な現実」です。覇権とは有無を言わせず従属させる、暴 力の強さです。軍事的な覇権と、通貨の覇権は、一体のものです。 EUの委員長で金融資本側のフォンディアライエンは、このロシアの外 貨準備を、ウクライナの復興に使うという勝手なことを言っています。 ロシアの米銀への預金は、自分たちのものと思っているからです。か つては、敵対国になったイランなどの産油国の預金とゴールドを、米 国は凍結しました。1980年のイラン革命のあと、ホメイニ師のイラン が反米になったときです。 このとき、中東の産油国は、「米国への外貨準備の預金は危ない」と 感じ、外貨準備を売って金現物を買い、金価格は4倍に高騰しました (1グラム6945円)。ドル以外の外貨準備は、金だからです。 ウクライナ戦争で、米国はロシアを侵略国とし、 1)ロシアの外貨準備の凍結、 2)SWIFT’国際送金網)からルーブルを排除しました。 それに対し、BRICS+中東の産油国が「金ペッグのBRICSデジタル通 貨」を作ったことと、同じ動きです。BRICSデジタル通貨は、米国の 勝手で差し押さえることは、できません なお日本がもつ米国債(1.1兆ドル:165兆円)を売らせないことも、 実質的には、米銀への預金の凍結と同じ効果をもつものです。 【BRICSデジタル通貨の構想】 ◎2022年8月に構想され、2024年から順次始まる予定の「BRICSデジタ ル通貨」は、BRICS5カ国と中東の産油国によって、米国による「差し 押さえのできない貿易通貨(国際通貨)」として構想されたものです。 原因は、ロシアの外貨準備を、米銀が凍結(=略奪)したからです。 世界の外貨準備のドルは、米銀への預金(MMF:金利約6%)、または、 買った米国債として米国にあります。 世界が、自国の国債より信用して米国債を買うのは、 ・返済信用の格付けが高いとされ、 ・現在は4.5%(長期国債)から5.25%(短期国債)の金利がつくから です。 赤字国の通貨であり、本当は、信用の高くないドルですが、信用が高 いとされている基軸通貨の米国債の売買市場は、世界中にあります。 売買額が大きいので、即時に、ドルの現金になるからです。(注) 1980年以降の米国の金利は、常に、主要国より高いのです。 金利が高くないと買われない通貨は、本当は、金利の低い円やスイス フランより、信用は低い。 例えば、信用の低い会社への貸付金の金利は、トヨタへの貸付金より 高くなります。携帯電話の赤字から、経営が危ぶまれている楽天の、 ドル社債の金利は、10%と高い。 楽天が10%の金利を払わないと、銀行が楽天の社債を買わない。(楽 天の連結利益は、2021年1026億円、22年2249億円、23年3351億と3年 連続赤字:負債が1.8兆円ですが、その金利が上がったからです) このように、金融の原理から、米国のように信用の低い国の通貨の金 利(国債の金利)は、円やスイスフランより、高くなるのです。通貨 ドルへの、基礎的な信用は高くない。それを証明するのが、ドルのリ スクプレミアムである金利の高さです。 〔金利はリスクプレミアム=将来リスクをカバーするもの〕 マネーの金利は、金融理論では「リスクプレミアム」です。 ところが、金利の高い通貨である米ドルは、もっとも信用ができる通 貨とされています。なぜでしょうか? 理由は、金との交換性が切れた1973年以降も、国際金融資本が米ドル を基軸通貨(=貿易通貨)としているからです。 ◎ここから・・・「金ペッグのBRICSデジタル通貨」が、世界の原油 と資源の輸出入に使われるようになると(2024年、22025年)、米ドル の、現在の60%シェアは30%に向かって低下し、ドル買いは減って、 ドルは大きく下がっていくことが分かるでしょう。 ■2.レートが上下する、変動相場の原理 【変動相場制の、学問的な原理】 1)米国のように、全体の経常収支が赤字の国の通貨は下がって、 2)輸出価格は下がって輸出が増え、輸入価格は上がって輸入が減 る。・・・このため、赤字だった、経常収支が均衡に向かう。 ◎これが、1973年から50年の、「自動調整される変動相場制」の原理 でした。 ↓ ところが、海外に出たドルがUターン還流する米国には、変動相場の 原理が働かない。赤字国のドルのレートが、金利以外の要因では、下 がらないことになっています(1995年以降)。 (注)1995年以降28年間も、ドルの金利は、常に、ユーロ、円、スイス フランより高い(イールドギャップがある)。このため、世界は、基 軸通貨の金利が高いとして、ドルとドル国債を買ってきたのです。 【ドルのレートと、ドル安のヘッジコスト】 2021年までは、円とドルのイードギャップ(=金利差)は1.5%から 2%で、ドルで円のレートが均衡し、1ドル110円から115円の範囲でし た。 (注)1.5%から2%が、1ドルが115円のときの、先行き1年のドル安の リスクでした。1ドルが150円の現在、ドル安のリスクは先行き1年で 5%に拡大しています。 【金利の高いドルの、ドル安のリスクを示すヘッジコストは5%】 ドル預金をドル安からヘッジ(保険をかけることを)しようとすると、 ドル金利と等しい5%のヘッジ料を、払わなければならない(23年11 月)。 金利0%の円との金利差が5%であっても、ヘッジ料を払えば、ドルは ゼロ金利です。原因は、世界の金融市場は、金利が高いドル安のリス クを高く見ていることです。 〔原理〕外貨の金利は、原理的には下落をカバーするリスクプレミア ムです。ドルのリスクプレミアムが5%と高いことは、金融市場は、 ドル安の将来リスクを大きく見ています。 日本の銀行・生損保・年金基金は、金利が高いとして、ドル預金をし、 ドル国債を世界1、買っています。 5%と高い、ドル安のヘッジコストが示す「高い確率のドル安のリス ク」は、どう処理しているのか? 銀行に訊ねたい・・・金融理論的 な答えはありますか? ないはずです。 ■3.金利と通貨のレート 【22年3月からの、米国の5ポイントの利上げ】 2022年後半からは、FRBのインフレ対応の利上げにより、 ・ドルの短期金利は、5.25%から5.50%の目標ゾーン、 ・長期金利は、4.5%から5%です。 円の金利は、短期では今もマイナス、長期国債の金利が0.8%から1% くらいです。 円の1年定期の預金金利は、0.002%(三菱UFJ)。1000万円預けても金 利は200円。ネット銀行には、0.3%くらいの定期預金があります。 。 日米の金利差は、2022年秋から現在は、短期金利で5.25%、長期金利 では約3.7%から4%と大きい。 このため、金融機関とFXトレーダーによる「(ゼロ金利の)円売り/ (金利5%の)ドル買い」が勝ったのです。これが円安の直接の原因で す。 ◎22年10月以降、1ドル=150円台という日本経済の障害が大きくなる レベルの円安になっています(11月17日は1ドル=150.65円)。 【円の金利を2%には上げることができない日銀】 主因は、日銀が、1200兆円の円国債価格の下落を恐れ、短期0%、長 期金利1%以上への利上げができないからです。 (1)ドル金利との金利差が、4%から5%という大きなものになり、 世界市場で円売り・ドル買いが進みました。 (2)単純な円売りだけでなく、金利0%金利の円をファンドが借りて、 その円を売ってドルを買い、そのドルで5%の金利のドル債を買う 「キャリートレード」も増えて、円安を加速しています。 ■4.金利の上昇と国債価格の下落の関係 円金利が1ポイント上がるにつき約7%、円国債の価格は下がます。 1200×7%=84兆円の含み損が、日銀と銀行に生じ、信用不安になるか らです。 円の長期金利が2%に金利が上がると、日本は、銀行の全体的な信用 危機になります(システミックな危機)。日銀を含む、金融機関がも つ国債が1200兆円と大きいからです。 日銀が2%に利上げすれば、日本に金融危機の恐れが生じるので、3% インフレのなかでも、日銀はドルを追った利上げができない。 日本のインフレに対応する金利は、期待金利(予想金利)と同じ2%で しょう(期待金利=2024年、2025年のインフレ予想)。 【米国の金融危機は、金利5%から始まっている】 なお米国では、現在の5%の金利が続くと、約1年後から、32兆ドル (4800兆円)のドル国債の26%の下落(4800兆円×26%=1248兆円) による銀行危機になります。 ■5.テクニカルな、通貨ペアの売買のFXでの失敗 FX(外為証拠金取引)の個人トレーダーで、 ・米国のインフレ率低下(=景気の悪化)→FRBの利上げのピークア ウトから、 ・米国の約1年遅れの日本のインフレからの金利の上昇」を予想して 「ドル売り/円買い」を行って、大損した人がいます。 投資家が、回復の難しい含み損を抱えたときは、家族や周囲にもいわ ず、黙って耐え相場の回復待っていることが多い。儲かったときは自 慢します。大きな損をした人は、内容を公開しない。これが人の自然 な心理です。 ◎資産への信用で成り立っている銀行業やファンド業でも同じです。 含み損や不良債権の、積極的な開示は行わない。隠したまま、決済日 の破産まで行くことも多い。 国民の預金がある銀行は預金を無にはできない。 従って、預金の100%を保護する吸収合併です。 1997年からの日本の銀行危機では、都銀21行が政府資金を入れて3つ のメガバンクに統合され、現在に至っています。 現在、金利が上がって相場の価格が下がった国債と社債をもつ、日米 の地銀には、開示されていない含み損が、大きい。 ◎信用不安があると言えば、預金取り付けになって、1週間くらいで 破産します。 ↓ FRBは、マネー不足の銀行に国債をリースで貸すか、マネーを貸して、 「わが国の金融機関は正常だ」という。 中央銀行は、「金融危機が起こっている」と、最後まで言えない機関 です。日銀やFRBが、あの銀行は危機だと言えば、国民はその銀行に 不安を感じ、預金取り付け(=現金の流出=決済不能=銀行の破産) が、1週間で起こるからです。 【youtubeの面白い動画】 YOUTUBEに、面白い動画がありました。個人で1億1500万円の、自己破 産に近い含み損を、信用売買のFX(外為証拠金取引)で抱えたという。 「ドル安・円高になる」と予想し間違えた原因の自己分析があります ので、実に興味深い。 (レバレッジの高いFXで、1億1500万円の含み損を抱えた) https://www.youtube.com/watch?v=1FOT4YzrLvs 「1年で1億円損をした」という本が出版されることはない。マネーの 運用を学ぶには、本当は「損をした話」をこそ読むべきでしょう。 短期のテクニカルな運用(株価罫線の分析)では、1年間では、たぶ ん80%の個人トレーダーが損をし、20%くらいが利益を上げているか らです。大きな利益の人は、5%程度か? ビットコインでも同じで す(現在544万円:年初来で2.45倍)。 【証拠はヘッジファンドの、低い利益】 リスクをヘッジしているヘッジファンド(元本600兆円:信用での運 用は3000兆円)の年間利益は、-3%から7%に分布しています。平均 では、年間3%くらいの利益です。分散投資のポートフォリオを組ん で、リスクをヘッジすれば利益は小さい。 リスクをヘッジしない、アクティブな運用では、利益の確率と、損の 確率が、youtuber氏のように50:50です。 https://www.hfr.com/ youtuber氏には、短期の「ドル/円」の予想に誤りがあった。33倍の レバレッジなら、通貨レートの1%(ドル/円では1.5円)の短期変動 が33倍。信用借り(仮に4億円)の、33%(1億3200万円)の含み損、 または、利益になるからです。 〔重要な部分〕米国の物価上昇率(CPI)が、10月は前年比3.2%に下が ったのを見て、米国の金利が下がり、ドル/円は下がると、早とちり したことが、間違いでした。 物価の上昇率が3.2%に下がったといっても、2323年10月の米国物価 は、まだ、前年比で3.2%上がっています。 ◎物価が、下がったわけではない。前月より上がっています。従って ドルの金利はすぐには下がらない。つまりまだ「ドル高/円安」のト レンド幅にある。 ここを早とちりして、「ドル金利下落からのドル安・円高を予想」し て、ドル売り・円買いのFXを買い、1億1500万円の含み損を出したの です。 相場商品の、短期売買の利益と損の確率は等分です。短期では50: 50です。 ■6.世界のデリバティブの契約額と含み損益:2023年3月 デリバティブが、今どうなっているのか書いてくれ、という要望があ りました。世界のデリバティブについて、示します。 1)FXのように、レバレッジのかかる信用取引(Margin Trading)、 2)先物(Futures)の売買、 3)差金取引(CFD)、 4)固定金利と変動金利のスワップ、 5)外貨のスワップは、 現物株・債券・通貨・金利から派生した金融商品であり、デリバティ ブです。 【世界のデリバティブ契約の総額は10.7京円】 世界では、2023年は10.7京円(世界のGDPの8倍)に増えたデリバティ ブ契約があります。(2023年3月:BIS:デリバティブ統計) デリバティブ契約では、「一方の含み利益=カウンター・パーティの 含み損」です。損と利益は、全体では等しくなります。 ◎1兆円の通貨先物売りには、証券会社の1兆円の通貨先物買いがあり ます。片方の利益=カウンター・パーティの損、です。 決済満期までの含み利益と、含み損が、10.7京円のデリバティブ契約 の価値である「19兆ドル(2850兆円)」です。 https://stats.bis.org/statx/srs/table/d5.1?f=pdf 世界には、現在、 ・決済日前の、2850兆円の含み損を抱えている金融機関と、 ・2850兆円の含み益がある金融機関がある、ということです。 (2023年3月:BIS:デリバティブ統計の全部のデータ) 【デリバティブの損の、満期での決済】 ◎金融機関が、デリバティブで出た損の、期限日の決済ができないと、 金融機関に連鎖するシステミックな金融危機(決済の危機)になりま す。 ↓ カウンター・パーティの含み損の裏には、それと同額の含み利益を得 た銀行・ファンドがあります。信用借りの損が決済されないと、自行 の含み利益もなくなって、現金不足が起こります。30倍のレバレッジ なら、投機した通貨が1%下がると、証拠金の30%の損が出て、不足 する追い証を、現金や国債で払わねばならない。 そのときの現金不足は、含み利益を得ていた、金融機関の現金不足に なって、今度は、その銀行の損の決済ができなくなっていくからです。 こうして、デリバティブの決済が不能な損が、津波のように、広く深 く、遠くまで波及します。これが、金利が下がっていた2008年リーマ ン危機で起こったことです。 【含み損の決済】 平均3か月で決済の満期が来る、世界のデリバティブの2850兆円の含 み損の決済は、大変でしょう。 相手が、損の決済ができないときは、破産のギリギリまで、満期のジ ャンプを行うことが多い。金融機関は、金融ムラの仲間です。 お互いの損と利益を相殺する「溶け合い」もあります。 【現在の状況】 ◎インフレで金利が上がった2022年から2023年は、米欧の多くの銀行 が、大手まで、デリバティブでは「ギリギリ」の綱渡りでしょう。金 利が上がっていない日本が、一番マシです。 【中国の不動産バブルの、完全な崩壊】 経済と金融のデータが見えない中国では、売れない不動産価格下落か らのマネー危機です。怪しく亡くなった、李克強前首相「中国の経済 データで信用できるのは、電力消費と鉄道貨物だけだ」としていまし た。習近平主席よりはるかに経済に明るかったのが李克強前首相でし た。 住宅投資は9%減っていますが、住宅のデリバティブのような完成前 の1億戸の売れ残り物件(電気のつかない鬼城)の評価価格の下落 (たぶんマイナス50%:500兆円)は明示されていない。 売れるとき、下落した価格が決まるからです。1000万円の土地と建築 原価がかかっていても500万円でしか売れないなら、一戸あたり500万 円の損です。この500万円の損は、不動産業に融資した銀行の含み損 です。1億戸の売れ残り物件の総額では500兆円、大手銀行がふっとび ます。 ◎2024年末からは、中国発の世界金融危機の可能性もあるのです(習 近平になぞらええた「パンダ危機」か?)。 これが、中国が米国債を売っている裏の理由でしょう(銀行のマネー 不足)。中国の人民銀行は3.1兆ドル(465兆円)の外貨準備(80%は ドル債)をもっています。これを売ってくるでしょう。 BRICS通貨加盟予定国が、外貨準備の売りに転じた米国債と債券は、 一手に、ゼロ金利の日本の銀行が買って(円売り/ドル買い=円安に なる)、米銀の資金繰りを支えています。 ■7.基軸通貨の特権 米国にとっては、ドルのUターン還流は国益になる基軸通貨の特権で す。 黒字国には、「金利が均衡すればレートが下がるドル資産」が、残っ たのです。 基軸通貨の特権で国益を得る。経常収支が赤字の米国の裏には、貯め たドル資産が下がる、黒字国が残ったのです。(典型は、対外資産を 1300兆円もつ日本と、対外資産をもつ中国、ドイツ、スイス)。 【黒字国の民間銀行に貯まるドル】 外貨準備をもつ中央銀行や政府でなくても、民間銀行も輸出企業の輸 出代金として入金するドルを、米銀に預金しています。 国内では、金利のつくドルの運用ができないからです。 (注)輸入や海外への投資用に、国内の銀行が、国内の企業にドルを貸 し付ける「インパクトローン」もありますが、総金額は大きくない。 経常収支が黒字の日本、中国、ドイツ、アジア、産油国の民間銀行に ドルが貯まって、米銀に還流するプロセスを示します。 (1)日本の輸出企業(A社)の銀行口座に、輸出代金のドルが貯まる。 (2)A社は、賃金、経費、仕入れ代金の支払いのために、そのドルを 銀行に売って、円と交換する。ドルのままでは、国内の支払いはでき ないからです。 ↓ (3)輸出代金のドルは、A社からドルを買う銀行に貯まる。ドルのま までは国内では利用ができない。金利は0%である。銀行は貯まった ドルを、金利5%の米銀のMMFに預金するか、金利が5.25%の米短期国 債を買う。ドル資産は銀行のものだが、マネーの所在は、米銀やFRB になる。 (注)銀行に貯まったドルを、日銀が買い上げて、政府の外貨準備尾に するルートもあります。しかし日本政府の所有であるドルも、金利の つくドル預金や米国債となって、米国に還流しています。 (1)から(3)のプロセスを経て、経常収支の赤字として海外に流出 したドルは、米銀にUターン還流しています。米国が、経常収支でい くら赤字を続けても、ドルが下がらなかった理由です。 (米国の経常収支の赤字:1980-2023) https://ecodb.net/country/US/imf_bca.html (逆の、日本の経常収支の黒字:1980-2023) https://ecodb.net/country/JP/imf_bca.html 経常収支の黒字国に入ってきたドルは、米銀に還流してきたのです。 米国の経常収支の赤字=黒字国の経常収支の黒字です。 〔まとめ〕・・・以上が、赤字通貨のドルが下がらず、米国はいくら 赤字を続けても、1971年の金・ドル交換停止のあともドル基軸の通貨 体制が、半世紀、揺るがなかった原因です。 50年も続くと、ひとびとの意識の慣性では「自然」になります。世界 の金融関係者の、たぶん98%は、人工のドル基軸体制を「自然」と考 えています。当方は、少数者の2%でしょう。 次に検討すべきは、「貿易通貨として、金ペッグのBRICS通貨が、ド ル体制を浸食したとき、ドルはどうなっていくか」というテーマです。 これは、ドルのUターン還流の、構造に加わる変化です。 15ページになったので、水曜日の正刊で述べます。 【後記:自己推薦】 ドル基軸体制の命運と、外貨については、歴史的に新著の『金利と通 貨の大転換(352ページ:2420円)』で示しています。以下のページで、 書籍の写真をクリックするとアマゾンにリンクします。 「(わかりにくい)通貨の価値の、もっとも基礎的なこと」から、論 理的・歴史的に書いていますので、理解が進むと思います。 https://www.cool-knowledge.com/ 掲載した、https://www.youtube.com/watch?v=1FOT4YzrLvs は面白かったでしょうか。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【プレミアム読者アンケート&感想の、項目のメド】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は、進みましたか? 3.疑問な点は、ありますか? 4.その他、感想、希望テーマ等 5.差し支えない範囲で、横顔情報があると、テーマ設定と記述の際的 確に書くための、参考になります。 気軽に送信してください。感想は、励みと参考になり、うれしく読ん でいます。質問やご要望には、可能なかぎり回答をするか、あとの記 事・論考に反映させるよう努めます。 返事や回答ができないときも全部を読み頭に入れたあとと。読者の感 想・意見・疑問・質問は、考えを広げるのに役立ちます。 著者のメールアドレス:yoshida@cool-knowledge.com">yoshida@cool-knowledge.com 購読方法と届かないことに関する問い合わせは、ここにメール(↓)。 配送の管理は、著者ではなく配信サイトの「まぐまぐ」が行っていま す。著者は、どこに配信されたか、分からない仕組みです。R行 ader_yuryo@mag2.com ■1. 新規登録は、最初、無料お試しです(1か月分)。その後の解除 は自由です。2か月目から、消費税込みで660円が課金されます。 (1)『会員登録』で支払い方法とパスワードを決めたあと、 (2)登録方法を案内する『受付メール』が送ってきて、 (3)その後、『購読マガジンの登録』という、安全のための2段階の 手順です。 【↓まぐまぐへの会員登録と解除の、方法の説明】 http://www.mag2.com/howtouse.html#RSegist 登録または解除は、ご自分でお願いします。 著者は、登録、解除を行うことができません。 (有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html">http://www.mag2.com/m/P0000018.html (無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html">http://www.mag2.com/m/0000048497.html 購読方法と、届かないことに関する問い合わせは、ここにメール (↓)。配送の管理は著者ではなく、配信サイトの「まぐまぐ」が行 っています。著者は、どこに配信されたか分からない仕組みです。 Re行der_yuryo@mag2.com 登録または解除は、ご自分でお願いします。 著者は、登録、解除を行うことができません。 (有料版↓) http://www.mag2.com/m/P0000018.html">http://www.mag2.com/m/P0000018.html (無料版↓) http://www.mag2.com/m/0000048497.html">http://www.mag2.com/m/0000048497.html ■2.購読についての問題の、問い合わせ窓口 (まぐまぐの事務局が、メールで対応します)。 http://help.mag2.com/contact.html">http://help.mag2.com/contact.html ・・・以上 ~~~ ◎このメルマガに返信すると発行者さんにメッセージを届けられます ※発行者さんに届く内容は、メッセージ、メールアドレスです ◎ビジネス知識源:経営の成功原理と実践原則 の配信停止はこちら ⇒ https://www.mag2.com/m/0000048497.html?l=hpt0a0092e">https://www.mag2.com/m/0000048497.html?l=hpt0a0092e |