サプライ・チェーンにおける在庫管理(1)
This is my site Written by admin on 2011年1月26日 – 08:00

おはようございます。今日は東京で、サプライ・チェーンを広範囲
な企業で実現するための『流通BMS』の講演でした。

BMSは、経産省が音頭をとって決めた、Business Message Standard
(異なる企業が交換する情報における標準)です。

【標準とは?】
まず「標準:Standard」という概念が、頭に引っ掛かります。
「標準」にどんな意味を込めるかです。

文書を作成するとき、多くの人が使うワードやエクセルというアプ
リケーション(適用業務システム)があります。ワードやエクセル
のデータ(内容)は、ワードやエクセルか、互換性があるソフトで
しか読めません。(極めて当たり前の、普通のことを言っています

世界の全員が、同じバージョンのワードやエクセルを使っていれば
いいのですが、そうなっていないからです。そこで、以下のような
方法をとって、お互いに自動で読み取り・編集・通信が可能なよう
にする。これが、システム的な意味での標準です。

Aシステム←→「標準仕様に変換」←→『BMS標準』
                  ↓↑(データ交換が可能)

Bシステム←→「標準仕様に変換」←→『BMS標準』

EDI(電子データ交換の一般名)は、各社の異なるコンピュータ・
システムを繋(つな)ぎます。人手を介さないデータ変換には、以
上の意味での『標準化』が必要です。

(1)交換するデータの仕様(フォーマット)の階層、
(2)通信(インターネット)の階層、
(3)データを交換する業務手順の階層において、
EDI(電子データ交換)を、自動的に実現するための標準を決めた
のが『流通BMS』です。

【システムとは?】
次に引っ掛かるのは、あらゆる時と局面で多用される『システム』
です。未だに日本語になっていないのは、システムに相当する国語
が『系』しかなく、意味が伝わらないからです。

(注)サプライ・チェーンも、目的をもったシステムです。前述し
たように『ザ・ゴール』のゴールド・ラットは、サプライ・チェー
ンを組む目的を、スループット会計におけるキャッシュ・フローの
増加に置いていました。

システムはギリシア語で「要素を結合させたもの」に由来します。
しかしシステムの意味は、単に要素の結合あるいは連結ではない。

●「システムは、ある目的の達成のために、整合的に結合された要
素の全体」を言います。と言っても、何のことか分かりにくいでし
ょう。

当方の零細会社の社名は「システムズ・リサーチ」です。その意味
には、「会社の営業利益を高めるために、全業務(=要素)を、合
理的、且つ整合的に組み上げる方法を研究し、企業に提案する。」
という内容を含ませています。このため提案するのは「組織と業務
の改革」になる。

改革とは、業務をゼロベース(=その業務がないとどうなるか)か
ら見直し、会社の営業利益を高めることに貢献するよう変える(再
編する)ことです。従ってシステム化は、業務の改革を伴います。
業務は人が責任をもつ仕事です。つまり仕事の方法の改革になる。

売上が減った、利益が減った、生産性が高まらないという結果があ
ります。それは、幹部のマネジメントと、現場の仕事の結果から生
じています。徹底して突き止めれば、自己原因です。

サプライチェーン・システムは、「営業利益を高める目的で、商取
引を行う各社の業務を合理化し、整合的に組み上げる」という意味
のものです。

(注)「合理化」とは、営業利益を高めるという目的のために、従
来の方法より貢献できる業務の方法・手順に変えるという意味です

「整合的に」とは、目的達成のために、組織の中での二重・三重の
作業と、営業利益を減らし生産性を低めている無駄をなくすという
意味です。作業は、判断と動作です。業務は作業の塊です。

標準仕様のEDI(=『流通BMS』)でつなげば、サプライ・チェ―ン
(またはデマンド・チェーン)になるということではない。

「ワードを使えば名作の小説や論文が書ける。パワー・ポイントで
書けばいいプレゼン資料を作ることができる。」と言えば、誰でも
、嘘だと分かるでしょう。

確かに、EDIでは商取引に付帯する伝票処理の事務作業はペーパー
レスになって(電子化され)、紙の伝票があることによって発生す
る、足したり引いたり掛けたりする集計作業は、自動化されます。

しかし、それだけに過ぎません。ワードで書いたから清書の時間が
なくなって、文書作成の時間が減ったということに類似した効果に
過ぎない。エクセルの表計算を使ったから、電卓での集計と手書き
に使っていた時間が要らなくなったということと同じです。

本質は、EDIを使いどう業務を行うかが、課題になります。サプラ
イ・チェーンで根幹になるのは、在庫管理の業務です。

更に言えば、この在庫管理は、営業利益を高めるために、
(1)最適な商品種類の数(=品目数)と、
(2)各品目の最適な在庫数は何かという問題に集約されます。
(注)製造では、部品品目と、部品の品目毎の在庫数。

【商品管理と在庫数管理】
営業利益を高めるに最適な品目は何で、品目数はいくつかを決める
のが「商品管理」です。小売業では、この業務はバイヤー(商品担
当)が行っています。

店舗の棚に「どのカテゴリーと価格の商品を、何種類陳列するのが
棚の営業利益にとって最適か?」という棚割りが商品管理です。

一般には、13週サイクルで、**%の品目の棚割り変更を行い、4
週で*%の変更を行います。1年に、30~40%の商品が変わるでし
ょう。(注)店舗の業種と部門で異なります。

次に、各品目を店頭にいくつ在庫(=陳列)するのが、営業利益に
とって最適かを決めるのが「在庫数の管理」です。

在庫管理は、
(1)品目の改廃を行う商品管理と
(2)品目の在庫数の管理を行う在庫管理、です。

(注)小売業の人手作業(人時)の50%が、以上の在庫管理を行う
「商品作業(商品に触れる作業)」です。ほぼ35%が、代金授受の
レジ作業です。つまり店舗の85%の人時が商品作業とレジ作業です
。商品作業は、「品目の補充発注→入荷検収→品出し・陳列→棚変
更」です。

以上のように整理すれば、商品が多いため、一見では複雑に見える
小売業の業務も単純でしょう。あらゆる業務は、単純化で生産性が
上昇します。単純化とは、作業種類が少なく、熟練に、何年もの時
間は要しないことです。

(1)店内サプライ・チェーンが「品目の補充発注→入荷検収→品
出し・陳列→棚変更」です。

(2)店内サプライ・チェーンは、「受注→ピッキング→出荷・配
送→納品→在庫管理→発注」という中間流通のサプライ・チェーン
に連結しています。(業務プロセスは、大野耐一氏のようにデマン
ドの側から逆に見ています)

(3)更に中間流通は、「工場の受注→出荷→製品在庫管理→生産
計画→原材料・部品発注」の製造過程とつながっています。

需要側から見た商品流通の全体チェーンは、「店内サプライ・チェ
ーン」→「中間流通のサプライ・チェーン」→「工場のサプライ・
チェーン」です。

この販売、在庫、商品調達、製造計画、部品在庫と調達をグローバ
ル化したのが、アップルの「グローバル・デマンド・ビジビリティ
」です。

アップルだけではない。アマゾン、P&G、ウォルマート、テスコ、
ウォルグリーン、CVS(両社とも約6000店のドラッグストアチェー
ン)、マクドナルド等も、2000年代に通信ではインターネットを使
う類似のデマンドチェーン・システムを組み上げています。

サプライ・チェーンの世界の上位25社に、韓国のサムスンは7位で
入っていても、日本はトヨタを含み1社も入っていないのは、どう
したことでしょう。慙愧の念に、駆られます。

今のままでは、日本の企業は競争優位を失ってしまいます。
結果は、GDPの低下、個人所得の減少になるのです。
http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20100623-01.html

(注)システムの意味は、前記の解説でお分かりでしょう。デマン
ド・チェーンは、需要側から見たサプライ・チェーンを言うだけで
、そのシステムはサプライ・チェーンと同じです。

サプライ・チェーンの根幹になるのは、発注です。
発注数は「需要数(=販売数)の予測」から決めるものでしょう。

そのため、問題の根幹は「商品の販売数の予測」ということになり
ます。そしてこの課題は、「営業利益を最大化するには、どの品目
を、いくつ在庫すべきか」という在庫管理の課題と同じです。

本稿のテーマは、
・販売数予測は、何をどう行うことか、
・言い換えれば商品(または部品)の最適在庫数とは何か、
・同時に、営業利益に対する最適発注数とは何かです。

『流通BMS』でつないでも、在庫管理の課題が業務でクリアされて
いないと、せっかくのEDIが事務作業の合理化にはなっても、営業
利益のそれ以上の上昇には、つながらないのです。(注)業務の合
理化の意味も、既述しましたから、お分かりでしょう。

以下は、店舗を例にとって述べますが、方法は、製造・卸を含むあ
らゆる在庫管理と発注において共通です。なお、在庫管理とは、発
注管理のことです。管理とは、基準(または目標)を決め、基準を
はみ出さないようにマネジメントすることです。基準は、標準と同
じStandard です。

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<522号:サプライ・チェーンにおける在庫管理(1)>
         2011年1月26日号

【目次】

1.最適在庫数に向かうための管理
2.定期発注法を繰り返すと、店頭在庫は売れ数比例になる。
3.店頭在庫管理における、品目別の日販数の予測

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■1.最適在庫数に向かうための管理

店舗から述べます。直販であれ何であれ、またはインターネットの
仮想店舗も、店舗での在庫管理と販売数が、起点になります。

ベンダー側(卸またはメーカー販社)が店舗に対し、販促費を使い
、店舗で陳列して売れる以上をプッシュ販売すれば、次月の受注減
か、店頭在庫の過剰から返品にもなります。これは、流通ではあっ
てもサプライ・チェーンにはならない。小売り、ベンダー、製造の
3社で、営業利益の低下が生じるからです。

(注)トヨタやデルは、100%ではありませんが、受注後の生産で
す。従って店頭在庫の不適の問題は大きくはない。生産商品の品目
管理(商品管理)が問題になります。

受注後生産以外の全商品では、店頭在庫の最適管理が、卸、メーカ
ーにとっても課題です。

▼小売店頭の、最適在庫数管理の原理は、1つしかない

多くの品目を売る店舗の、各品目の発注数の原理は、1つしかあり
ません。定期発注法です。

(注)経済ロット単位(EOQ)で発注する定量発注法もあります。
海外からのコンテナ単位輸入の時、使います。つまりロット単位発
注が、物流費を含む仕入れ原価で有利になるとき、定量発注法を使
います。

国内への発注でも、FTL(フル・トラック・ロードの量)が、仕入
れ価格で有利になるときは、定量発注法を使うことがありますが、
これは、数百店へ補充すべき商品を一度に発注し、倉庫(DC)に入
荷させ、その倉庫から個々の店舗に補充するときです。

以下では、原理を知っていただくために、店舗が行うべき「定期発
注法」から解説します。

【定期発注法】
ある品目の定期発注数=(発注サイクル日数+入荷リードタイム)
×日販予測数+安全在庫数-発注日の有効在庫数

この方程式の各要素を、説明します。

(1)発注サイクル日数は、何日ごとに発注するかということです
。週間サイクルで、各品目の売上数を集計すると、週末と平日によ
って変わる販売数の変動が消えますから、週間発注をとることが多
い。なお、顧客の購買頻度が低く売り場では低回転の商品部門では
、2週間サイクルで十分なものも多い。

賞味期限が1日や1週間内と短い生鮮食品では、毎日発注になります
。因みに、コンビニの弁当は、冷凍を温めるもの以外は、1日に2回
~3回の発注が多い。部門では、発注サイクルは一定化します。

(2)入荷リードタイムは、発注オーダーを送ってから店頭陳列す
るまでの時間です。普通は、1日や2日になるでしょう。

(3)日販予測数・・・ここが最適発注数の決定で、課題になる点
です。この方法にも、たくさんはない。

多くは、移動加重平均の一種である「指数平滑法」を使います。意
味と方法は、今回、徹底して理解していただくために、次号で詳述
します。

(4)安全在庫は、予測数以上の大きな売れ数があったときも、店
頭で売る在庫が欠品しないよう、嵩上げする在庫数です。売れ数の
平均に対しては、一時(たとえば週間発注では1週間)は過剰な在
庫にもなることもあります。

しかし、前週の過剰在庫は、次回の定期発注数において、自動的に
減数修正されますから、店舗で販売を続ける期間内は、心配の必要
はありません。季節要因から販売を停止するときの残品数だけが問
題です。

安全在庫数=2×日販数の標準偏差の値×√(発注サイクル日数+
入荷リードタイム日数)です。

【安全係数】
定数の2は、標準偏差値の2倍を意味し、安全係数と言います。2
を定数すると、棚の品目数の2.5%に(100品目のうち2.5品目)に
対し、店頭欠品の可能性があります。

3を定数とすれば、欠品の可能性は、ほぼ1%以下になります。売れ
数の平均に対しては過剰在庫も増えるので、緊急に必要になる医療
用医薬品の病院や調剤薬局での在庫で、欠品が許されにくい商品以
外では、安全係数は2を推奨しています。

安全係数をどんどん大きくすれば欠品確率はゼロに近づきますが、
在庫が無限大に向かって増えます。

(5)発注日の有効在庫数は、発注日時点において販売可能な、賞
味期限や使用期限が切れていない商品、および品質劣化のない商品
の在庫数です。この有効在庫数は、今回発注数からマイナスします

これは、当然のことのように思えますが、実は、POS(販売時点情
報管理システム)で記録された売れ数実績を、そのまま、発注数と
しているレガシー(古典的)なシステムも、未だに多いのです。

わが国ではまだ、RTI(リアルタイム在庫数管理)が十分でないシ
ステムが多い。RTIでの精度の高い管理がないと、各品目での最適
数の発注はできません。在庫数と発注数は、売上予測数で関係づけ
なければならないのです。

【参考情報】
IY堂流のタンピンカンリ(正確には品目管理)は、1980年代は、共
通性のない商品コード(インストア・コードと言う)でPOSを導入
した後の、店頭のRTIを反映しないPOS売れ数の発注でした。

これも1980年代までは、店舗の発注法として革命的だったのです。
当時は、売れ残り残品での損失が、今よりはるかに少なかったから
です。価格(1980年代までは定価や正価と言っていた)を20%も下
げれば、売れ残ったものが、部門のベストセラーになるくらい売れ
ていたからです。

この15年、世界でわが国だけが店頭価格のデフレとも言われます。
消費者物価の下落は、実は、1995年から始まっています。

物価下落は、1995年ころから「今の約2倍は高かった定価」が消え
、それぞれの店舗が価格を付けるようになったことと、わが国でも
、1990年代からディスカウントが始まったことと強く関係していま
す。

2倍の円高になって、ドルでの価格が2倍になった日本の物価から見
れば、ほぼ半分だった米欧は、もともと店頭価格は小売業がつけて
いました。低価格な店舗PB商品も、売れ数の50%はあります。

今も同じです。このため、今、日本だけがデフレに見えます。デフ
レ経済を唱え、マネー印刷を求める経済学者は、こうした「通貨と
流通の要素」を見落としています。

2011年の1$=80円の水準では、ほぼ米欧の店頭価格と均衡してい
ますから、今後の店頭価格のデフレは、もう大きなものではないの
です。

今後のことを言えば、ドルペッグを続けている人民元や、他の後発
国の通貨が30%も高騰すれば、日本の店頭価格デフレも終わり、上
がるようになります。

(注)ドルペッグ制は、国際基軸通貨の米ドルに対し、狭い一定幅
でしか自国通貨が変動しないように、中央銀行がドル買いまたはド
ル売りを行う管理通貨制を言います。後発国は、自国通貨の信用が
薄いためドルペッグ制をとることが多い。人民元やサウジアラビア
と湾岸諸国はドルペッグです。

在庫管理に話を戻します。

ある品目の定期発注数=(発注サイクル日数+入荷リードタイム)
×日販予測数+安全在庫数-発注日の有効在庫数、です。

【売れ数比例在庫になる】
この定期発注を繰り返すと、
・売れ数の少ない品目の店頭在庫は少なくなり、
・売れ数の大きな品目の店頭在庫は、予測売れ数に正比例して多く
なって、
・店舗の全品目(たとえば5万品目)が「売れ数比例在庫」になっ
て行きます。

■2.定期発注法を繰り返すと、店頭在庫は売れ数比例になる。

実例で言いましょう。発注サイクルを7日、入荷リードタイムを1日
とし、日販数の標準偏差(バラつき)を、売れ数平均に対し30%と
大きく見ます(変異係数=標準偏差値÷売れ数平均=30%)。

売れ数の予測が1日10個の商品と、5個のものを比較し、店頭在庫が
どうなるか計算します。

最初は、発注日の有効在庫がどちらも50個だったと仮定します。

【計算式】
計算式は、[ある品目の定期発注数=(発注サイクル日数+入荷リ
ードタイム)×日販予測数+2×日販数の標準偏差×√(発注サイ
クル日数+入荷リードタイム日数)-発注日の有効在庫数]です。

電卓で計算ができますが、50品目を計算すれば日が暮れるので、コ
ンピュータの発注ロジック(アルゴリズム:算法)として、プログ
ラム化します。

(注)10万円のパソコンの[エクセル]で、作ることができます。エ
クセルは、数学(特に統計学)の知識が豊富で、その関数を活用で
きれば、とんでもない能力を発揮する表計算ソフトです。

【(注)標準偏差の性質】
標準偏差は、
・各品目の売れ数平均を中央値とした、
・その品目の、売れ数の近未来の、変動幅の確率を意味します。

偏差は、偏(かたよ)りです。何からの偏りか? 
平均値からの偏りです。

といっても、まだ、分かりにくいと思いますが、単純な平均値の売
れ数を10個としたとき、近い過去の日販数での標準偏差が3個であ
るときは、この品目の近い将来の売れ数は、[(10-3個=7個)~
(10+3=13個)]の変動幅に収まる確率が、65%であるということ
です。

以上が標準偏差の基本性質で、19世紀のフランスの天才数学者ガウ
スが発見しています。たくさんのデータを必要とするのではない。
少数のデータから、母集団の分布が推論できるのです。

標準偏差3個の2倍をとり、この品目の翌週売れ数を4個~16個の幅
に収まるとすれば、その確率は95%です。

逆に言えば5%の確率で、4個~16個の変動幅に収まらず、日販数で
2個や18個の売れ数になる週も5%(20週に1週)はあるということ
になります。(注)以上で、標準偏差の意味はお分かりでしょう。

金融工学のデフォルト率、株価の予測、薬効の決定でも、標準偏差
を使います。エクセルには、STDEV(Standard Deviation;標準偏
差)という関数があります。

[余談]
自分で数値を入れ、試みれば分かるでしょう。1980年代末からの高
性能パソコンが、金融工学を作ったとも言えます。

当時は高価で、DEC等のエンジニアリング・ワークステーションと
も言いました。性能(スループット・タイム)は、今の10万円台の
パソコン並みかそれ以下でした。インフラ(機械)はとんでもなく
安くなった。ごく一部でしか、活用されていないだけです。ここで
、業務の生産性の差がついています。

▼店頭在庫の結果:A商品とB商品の比較

【(1)A商品:条件】
A商品は、日販予測数が10個で、日販数の標準偏差(売れ数のバラ
つきの平均値)を3個とする。初期在庫数を50個とする。

A品目の週間発注数=(発注サイクル7日+入荷リードタイム1日)
×日販予測10個+安全係数2×標準偏差3個×√(7日+1日)―発注
日の有効在庫数50個=80個+6個×2.8-50個
=46.8個≒47個の発注が最適です。

2週目はどうなるか? 売上数が若干増え、日販予測数が11個にな
って、発注日に残っている有効在庫は30個だったと仮定します。標
準偏差(売れ数のバラつきの平均)は3個で同じだったとします。

A品目の翌週発注数=(7+1)×11個+2×3個×2.8-30個=74.8
個=75個が最適発注数。

在庫は、どうなっているか? 発注商品が入荷した直後が最大在庫
数ですから、[入荷数47個+(50個―1日の売れ数11個)=86個]
が最大在庫数です。

最低在庫数は、発注商品が入荷する直前ですから[30個―1日の売
れ数11個=19個]です。

平均在庫は、[(最大在庫86個+最低在庫19個)÷2=52.5個]で
す。

1日平均売れ数は、[(10+11)÷2=10.5個]です。
在庫日数は、[平均在庫数52.5÷10.5=5日分]になります。

なお最大在庫日数は、[最大在庫数86個÷日販数平均10.5個]です
から8.2日分です。

(注)一般的に言えば、定期発注法での、安全在庫を含む最大在庫
の日数は、[発注サイクル日数×1.3倍~1.5倍]くらいに収束しま
す。1週間サイクルの発注なら、[1.3週分~1.5週分の最大在庫日
数]という意味です。これが、部門の全体在庫の最適になります。

(1)週間発注の部門では、最大総在庫は、安全在庫を含んで1.3
週分~1.5週分です。

(2)2週間サイクルで発注する部門でも、2.6週~3週分が最大在
庫です。この観点で言えば、店舗には、いかに営業利益とキャッシ
ュ・フローを減らしている無駄な在庫と、その陳列スペースが多い
ことか。

【在庫管理を行っていない店舗がほとんど】
商品は、売り場の棚に置いておくだけでも、その間の設備費、電気
代、人による管理費が毎日かかっているのです。

合理的ではない無駄な在庫が、店舗売上を上げることはない。売れ
ない商品があるから、売れる商品が生まれるというのを[屁理屈]
と言います。意味がない理由ということです。

残れば、利益を減らす割引販売になる。割り引いても売れない商品
が30%はあるでしょう。しかもその市場価格は、日々、下がってい
るのです。

ほとんどの店舗では、店頭の100品目のうち、過剰在庫の品目が80
%で、これは、在庫管理が行われていないと言えます。不思議です
が、現場の実態はこれです。「適正に管理している」と思い込んで
いるだけのことです。仕事の実態がこれです。

【(2)B商品:条件】
B商品は、売れ数予測が日販5個、日販数の標準偏差1.5個。
初期在庫は、A商品と同じ50個とする。

B 品目の週間発注数=(発注サイクル7日+入荷リードタイム1日)
×日販予測5個+安全係数2×標準偏差1.5個×√(7日+1日)―発
注日の有効在庫50個
=40個+3個×2.8-50個
=-1.6個の発注が最適です。

マイナスの発注は、返品しない限りはないので、最初の週の発注数
はゼロです。

翌週も日販予測数は5個だったとします。翌週発注はどうなるか?
 
日販数が5個平均ですから、50個の在庫は、翌週の発注日には7日分
の売上分(35個)減って、15個になっていたとします。

B 品目の翌週発注数=(7+1)×3個+2×1.5個×2.8-15個=17
.4個=17個が最適発注数。

在庫はどうなっているか? 

最大在庫数は、当初の50個でした。

最低在庫数は、翌週に発注した商品の入荷直前ですから、上記の[
15個―1日の売れ数3個=12個]です。

平均在庫は、[(最大在庫50個+最低在庫12個)÷2=31個]です

1日平均売れ数は、3個としました。
在庫日数は、[平均在庫数31個÷3個=10.3日分]になります。

B商品は、最初は50個の在庫で、50個÷日販数3個=16.5日分もあり
ました。これが翌週には、10.3日分に減少しています。

3週目も日販予測数が3個なら、在庫が過剰なので、発注数が減って
行きます。このため、在庫日数も短くなります。

こうして、A商品(日販数予測10.5個)と、B商品(日販数予測3個
は、それぞれ、売れ数予測に比例する店頭在庫で、揃ってゆきます
。(注)最初の在庫は、両方とも50個としましたから、A商品は4.8
日分、B商品は16.5日分でした。

以上が、店舗の部門の営業利益に対する店頭在庫の最適値を示すも
のです。(注)「自動発注」と誤って言われる在庫管理システムの
発注ロジックは、この定期発注法です。

▼ウォルマートのデマンド・チェーン

サプライ・チェーンで、世界の小売業では、最上位に位置づけされ
たウォルマートは、1990年代から、定期発注の仕組みを作って、1
店舗約200名の部門担当に、本部のシステムが計算した12万品目の
最適発注数を示す無線LAN端末を与えています。1部門の担当は、平
均で、40坪(棚40本)、600品目の最適在庫の維持に責任を持ちま
す。

商品管理である、棚の品目改廃と、発注停止商品の指示も、無線LA
Nで行います。過去の傾向と違い急に売れ始めた商品や、逆に売れ
なくなった商品には、[ただちに**個発注せよ、あるいは即刻発
注停止]のアラームを出します。

個店では、ある品目の、前週や今週の売上変動が大きいため判断で
きない。数百店の、同じ品目のリアルタイム売上を、ネットワーク
で集めて集計するDC(物流センター)では、A品目は今後も売れる
、B品目は売れないということが、個店よりはるかに正確に分かる
からです。その意味で言うと、商品改廃を行う商品管理は、個店で
はなく、本部バイヤーが、品目の合計売上データを見て判断すべき
と言えます。

店舗からの発注は、自社のDCに対して行う。DCからベンダーへの発
注は、DCの配送エリアにある数百店の店舗発注分をまとめて、行っ
ています。個々の店舗への補充は、DCから行います。こうしたDCの
仕組みは、米国のチェーンストアに共通です。(注)DCは短期間の
常備在庫をもつ、物流センターです。

最初、P&Gとの間で、このシステムを作りました(1990年代初頭)
。ウォルマートにとってはデマンド・チェーン、P&Gにとってはサ
プライ・チェーンです。

P&Gの米国内総売上のうち相当部分(推計40%)はウォルマートへ
の納品でしょう。各品目の売れ数の予測は、ウォルマートとP&Gの
協働チームで行い、これをCPFR(協働商品計画、予測、補充)と言
ったのです。

(注)ウォルマートの在庫管理システムの欠陥は、店舗のバックヤ
ード在庫と、店頭陳列在庫の区分ができていないことでした。今は
、システム修正がされているかも知れません。

【定期発注法】
[ある品目の定期発注数=(発注サイクル日数+入荷リードタイム
)×日販予測数+安全在庫数-発注日の有効在庫数]で問題になる
のは、日販予測数です。

この売上数予測では、どんな方法をとればいいのか?

■3.店頭在庫管理における、品目別の日販数の予測

売れ数予測と言うと、「A品目は、明日は7個売れる、B品目は5個売
れる・・・」と当てることだと考えている人がいますが、それは、
不可能なことです。

稀に当たっても偶然でしかない。偶然は、業務上ではダメです。経
験値と言っても、実際は怪しい根拠しかない。

1店舗では、各品目の売れ数の、変動幅が極めて大きいからです。
しかも管理すべき品目数はウォルマートでは、1店12万品と多い(
8000坪の店舗面積のスーパーセンター)。

(注)12万品目の合計の、月間売れ数の数字は、1店舗単位でも、
大きくてもぜいぜい±20%幅でしか変動しません。しかし在庫管理
と発注で必要なのは、12万種の個々の品目別の、売れ数予測です。
これは、大きな変化をしています。

1店舗での品目の売上を決める要因は、人知を超える複雑さで、要
因解析はできません。

売れ数の要因解析をするためのデータを[コーザル・データ(原因
となるデータ)]と言います。高額な耐久財(たとえば車)は、車
検の期日到来が、月間買い替え数のコーザル・データになり得ます
。医薬で、1単位10万円以上と高額なものでは、投薬の1日前に作成
される医師の処方箋があります。

しかし平均単価1000円以内が圧倒的に多数の消費財では、店舗段階
でのコーザル・データは、季節性(季節指数)くらいしかない。

店舗は、この売れ数予測を、3万品目(約800坪の店舗)~5万品目
(1200坪の店舗)、あるいはウォルマート・スーパーセンターのよ
うに12万品目で、行わねばならない。どんな方法を取るのか?

最初は、データの並べ方です。
曜日と週で並べる、以下の方法を取ります。
まず、「表」を作るのです。

【A品目の、4週売れ数実績】
                    平均   STDEV
      月 火 水 木 金 土 日  日販  標準偏差
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

1週売上数 5  3  8  7 10 10 12  7.9    3.1
2週売上数 3  7  2  3  8  7 10  5.7    3.0
3週売上数 7  4  5  2  7 11 10  5.7    3.2
4週売上数 4  1  4  5  6 13 12  6.4    4.4
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

4週平均                 6.4個        
       
4週平均日販の標準偏差          1.0個

例えば、3万品目でこれを行う。人手の作業では、コストが高くな
りすぎて無理です。POSデータを、プログラムで並べる。ウォルマ
ートでは12万品目の2年分のデータが、上記のように、並んでいま
す。

その中から、スーパーセンターに陳列する12万品目の売れ数変動グ
ラフは、実は12万種ではなく、2000~3000種のパターンしかないと
発見しています(データ・マイニング)。

20年前の、1990年代初期のことでした。ほぼ400~600品目が、同じ
変動パターンだったのです。同じ牛乳でも容量が異なると、同じ売
れ数のパターンは描かない。1リットル入りと10リットルのもので
は、買う顧客が異なるからです。こうしたものが、真正のデマンド
・マーケティングでしょう。

上の表の、4週間の、日販数の実績をみると、最低で1個から最大で
13個まで大きく変動しています。明日は何個売れるかと問われ、ど
んな予測法をとっても、分からないはずです。

その証拠に、第1週目の平均日販は7.9個ですが、その週の各曜日の
売上数である7個のデータの標準偏差は、3.1個(平均7.9個に対し
、変異係数は[3.1÷7.9=39%])と大きい。

日々の販売数に「曜日変動」が加わっているからです。
この曜日変動は週販数を合計し、週の日販で平均すれば消えます。

結果は、第1週の平均日販は7.9個、2週5.7個、3週5.7個、4週6.4
個となる。この4週データの標準偏差は1.0個と小さくなります。

以上から、第5週の平均日販数は、[過去の平均6.4個±標準偏差1個
=5.4個~7.4個]の範囲に収まる確率が65%と言えるはずです。

標準偏差の2倍をとって、[6.4個±2個=4.4個~8.4個]の範囲と
見るなら、近い将来の週平均での日販数が、この範囲に収束する確
率は95%になります。

これを外れる統計的な確率は、5%しかない。その意味は、
・4.4個未満という週平均日販の出現確率が2.5%、
・8.4個超の出現確率が2.5%ということです。

問題になるのは、売る商品が棚からなくなる欠品です。この欠品は
、[安全係数2×標準偏差1.0個×√(発注サイクル7日+入荷リー
ドタイム1日)=2×1.0×2.8=4.6個≒5個]の安全在庫を積み増し
することで、97.5%の確率でカバーできます。

結論を言えば、第5週の平均日販は、4週の単純平均であった6.4個
として、5個の安全在庫を積み増しすればいいということです。(
注)前号で言った最低在庫の下限を3個とすれば、この安全在庫に3
個が加わります。

変動幅の大きな日販数から、売れ数予測する必要はない。週間発注
で、安全在庫を5個積み増しておけば、5週目の日販予測は4週の週
間平均の6.4個でいいのです。

上表の商品の、5週目の最適発注数は、以下のように計算できます

[週間定期発注数=(発注サイクル7日+入荷リードタイム1日)×
日販予測数6.4個+安全係数2×標準偏差1.0×√(7日+1日)-発
注時点有効在庫数20個=51.2+6.4-20=37.6個≒38個

以上のように、
・標準偏差計算による安全在庫を加えることによって、
・日販予測を過去の4週平均にしてしまう方法が、定期発注法です

ここで疑問が生じるかも知れません。

上記の販売データでは、平均日販数が、[第1週7.9個→第2週5.7
個→第3週5.7個→第4週6.4個]でした。週の合計で見た日販の変動
幅は、標準偏差1.0で小さかった。

週で見た日販数に傾向線が見えるとき、
・例えば、[第1週3個→第2週3.5個→第3週5.7個→第4週6.4個]
という増加傾向、
・あるいは、逆に下がる傾向が見えるときはどうするか? 

こうした時、近いデータの重みを大きくし、遠いデータの重みを軽
くする[移動加重平均]の方法をとります。言うでもなく、この移
動加重平均は、週変動の少ない商品にも有効です。

移動加重平均で、日販数を予測する方法が、[指数平滑法]です。

言葉は知られても、メカニズムを説明できる人が極めて少ない指数
平滑法は、次号で述べます。

(注)本号で述べた[単純平均]では、順序よく理解していただく
ため、売れ数データに敢えて時間軸での重みづけはしていません。

指数平滑法は、日数の近いデータに重みを付け、遠いデータを軽く
見て、加重値をつけて平均をとるという常識にかなう方法です。

これによって、売上予測数の追随性が、単純平均より高まります。
(注)指数平滑では、季節指数も、自動的に組み込まれます。

いずれにせよ予測は、過去のデータの平均です。人類は、この方法
しか持っていません。しかし平均の取り方に、単純平均だけではな
く、指数平滑法のように、いろんな方法が開発されているというこ
とです。

金融も株価も予測においては、全部同じ方法です。罫線ではない。
VIX(株価のボラティリティ指数)は、標準偏差のことです。

指数平滑法は、多くの在庫管理(=発注管理)のシステムで、売上
予測として使われています。

【後記】
今日は、東京のホテルに泊まって書いています。デマンド・チェー
ンの起点になる店舗の在庫管理と売上数予測、および発注数決定の
原理は、ご理解いただけたでしょうか。カギになるのは、ガウスの
標準偏差への理解です。

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