あけまして おめでとうございます。今朝もすばらしい快晴です。1
2月に大磯プリンスホテルに2泊したとき、確か、その8階から見た
、見渡す限り地平の、太陽を神と崇(あが)めた古代宗教のような
、海洋に昇る朝日に心を動かされ、50枚くらいの写真を撮ったとき
のようです。
まとめた新聞を切り抜きしていると、1月4日の日経に「デジタル進
化論(2)」という読み物がありました。
業績を伸ばしているアップル(IT)、プロクター&ギャンブル(消
費財)、シスコ・システムズ(通信機器)、ウォルマート(小売)
、デル(IT)等との「サプライ・チェーン」における彼我の差を示
した小論です。
サプライ・チェーンは、約20年の継続テーマです。しかし、今まで
、小売業と卸売業からの観点で見ることが多かった。記事は、部品
調達を含む製造業のサプライ・チェーンです。この点で、日本の産
業の遅れがあるという。
確かに、個々の精度の高い部品製造や商品製造においては、総じて
、2000年代も日本の企業は、技術優位をもっているでしょう。
部品・製品の品質では、日本製は、敢えて試験をしなくても安心が
できます。中国を含むアジアから輸入を開始した途端、品質試験と
、その後のサンプリング管理にコスト(人手)を掛けねばならない
。
この記事を読んで、TVで見た電子部品の開発者の映像と、重なりま
した。
「品質を高め機能を高度化するために、われわれは邁進してきた。
この点では、まだ決して負けていない。しかし、世界に安い商品と
部品が溢れた。価格には意を用いなかった。このため、負けた。」
この技術者は、会社からリストラを受けて失業中でした。ここに20
00年代の、日本経済の低迷のシンボルがあると感じます。
株価は、卯年で「はねる」から上がるという呪術信仰で、満足する
わけにはゆきません。もっとも、気分を変えるという点では効果が
あるのでしょう。当方も、今日は、三が日の混雑を避けて、箕面山
の、毎年の『勝尾寺』の参拝でした。
仏教では、あらゆる煩悩(欲望)を捨てると言いますが、勝尾寺で
は、金運、健康運、交通安全、家内安全、商売繁盛を祈る煩悩だら
けで楽しい。心が落ち着きます。山林に「気」があるのでしょうか
。気は、観念のなかだけの存在です。具体物はない。愛のように心
の中だけにある。
*
部品や製品品質の優秀さは、以下の「価値公式」で計らねばならな
い。販売者のコストからではなく、消費者から見た商品価値です。
●商品価値=機能・品質(「商品効用」とも言う)÷販売価格
顧客は、この「商品価値の高さ」を買います。
機能・品質を定量化するのに難しい点がありますが、基準を作って
比較する「ベンチ・マーク」の方法で、定量化できるでしょう。
【事例】
BMWは、プリウス(約250万円)やシビック(約250万円)と、2倍く
らい価格が違います。小型車のホンダ・フィットはその半分の125
万円くらいです。販売量は、圧倒的にプリウスやシビック、フィッ
トが多い。
(経験的な原理)一般に、価値公式での商品価値が等しいとき、最
終販売価格(プリウスとシビックはBMWの1/2)の二乗で1を割った
ものに近い販売数と想定できます。1÷(1/2)の二乗=4倍。
BMWが100万台売れる時、プリウス、シビックは、「販売網と販促の
要素が、BMWとほぼ同じ時」は、400万台売れると予想できます。
車以外の家電、食品、衣料、家具、化粧品でも、ほぼ同じことが言
えます。販売網(店舗数)と販促が異なれば、その分、バイアス(
販売数変化)がかかります。
【価値公式での比較】
BMW3シリーズの商品価値 =BMWの機能・品質÷500万円
プリウス・シビックの商品価値=同車の機能・品質÷250万円
新興国での需要の増加で、株価が上がっているBMWも、消費者が受
け取る機能・品質が、約半分の価格のプリウスやシビックの2倍は
あると感じられなければ、市場から消えるでしょう。
(注)車などの「自我商品」の、品質・機能価値には、定量化が難
しい「ブランド価値」も入っています。
●自我商品の価値=機能・品質・ブランド価値÷販売価格
「自我商品」は、所有や使用が、自分の個性を示すと感じられる商
品カテゴリーです。
エルメスやルイ・ヴィトン等の「ブランド物」は、自我商品に属し
ているでしょう。自我商品が増えていることを追求したのが、1929
年のバブル崩壊前の米国経済(1890年代)を描き、衒示的な見せび
らかしの消費を描いた『有閑階級の理論』(ヴェブレン)です。
他方、「日常的な非自我商品」では、ブランド価値の要素は低い。
【サプライ・チェーンの全体】
商品は、
<「原材料発注」→「部品・部材在庫と製造」→「組み立て・加工
(製品製造)と製品在庫」→「製品物流(中間の卸や販社)と在庫
」→「店頭陳列在庫」→「販売」→「消費者による使用」>という
供給連鎖の中にあります。
これを供給側から見たとき「サプライ・チェーン(供給連鎖)」と
言い、需要側(店舗または消費者)から見たとき「デマンド・チェ
ーン(需要連鎖)」と言っています。両者は、最終系では同じもの
です。
(注)系=システム=目的をもった機能の統合
●アップルが作った「グローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV
)」は、1アイテム毎の、店頭での在庫と販売予測から部品調達ま
での「可視化」による管理(コントロール)です。
国語で言えば、「全在庫と全需要の可視化」でしょう。サプライ・
チェーンでは、1アイテム毎の、最終販売数の予測を行った上での
、店頭在庫の管理の可視化が鍵です。可視化とは、データベース化
と、業務におけるその利用です。(注)アイテム=品目
サプライ・チェーン(またはデマンドチェーン)の発想の元になっ
たのは、「カンバンのトヨタ生産方式」でした。
顧客から受注を受けて、1台ずつを組み立て、部品納入業者には1台
の組み立て分の部品納入を要求するものです。単に「カンバン方式
」とも言いました。組み立てや加工での、後工程から前工程に向け
た看板に、要求部品の表(カンバン)が立つ。(注)今、カンバン
は電子化されています。
カンバンを見て、前工程での部品在庫と組み立てを、後工程の生産
量に対し適量に行う(在庫管理)。これを、工場の生産ラインの中
で、全部、連鎖させる。これが、工場内サプライ・チェーンでした
。
トヨタに触発され、日本と世界の多くの工場は、カンバン方式とい
う「80年代の生産工程のイノベーション」を、90年代から00年代に
導入しているはずです。(注)イノベーションは、新規のものの開
発ではなく、有効な既存技術の組み合わせです。
小売業ではIY堂流の、POSで記録される売れた商品を売れた数だけ
補充し、併せて死に筋をカットする「タンピン・カンリ」も、店舗
のサプライ・チェーンです。国内だけでも1万1000店になったセブ
ン・イレブンが、タンピン・カンリの実践者でしょう。
この方法を店頭在庫管理技術として、日本のコンビニ(セブン・イ
レブン、ローソン、ファミリーマート、ミニストップ)の海外での
合計店舗数は、3万4837店(09年)に増えています。国際競争で勝
ったからです。国内で4万店くらいですから、それにほぼ匹敵する
海外店舗があります。アジアの全域に、日本のコンビニがある。
(注)タンピン・カンリには、サプライ・チェーンの全過程から見
れば、「店頭在庫という部分での、1アイテムあたり販売量と在庫
数の最適」という欠陥があることを指摘したことがあります。トヨ
タ方式の、工場内サプライ・チェーンも、同じ欠陥をもっています
。
以上が、前提となる知識です。ここで、アップルが作っている「グ
ローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)」です。日本からアッ
プルに部品を納めている業者は、以下のように語る(同記事)。
●「発注量が1桁、2桁と多いのに(アップルは部品価格を)値切ら
ない。国内の完成品メーカーとの交渉では、値下げの話ばかり。」
確かに、仄聞(そくぶん)すれば、日本の完成品メーカーの部品業
者や下請けへのコストダウン要求には、激しいものがあります。円
高になると、理由や発注方法と量の変更なく10%~20%、時には30
%の価格ダウンが要請される。下請け業者のトップからはいつも、
値下げの話を、愚痴のように聞きます。
「理由と方法の変更があれば、苦しくても対応ができますが、こう
した価格要求は、毎回、絶対です。要求を飲まねば取引、を切ると
いう感じも見えるので、泣く泣く応じざるを得ません。」(実際の
声)
アップルの部品発注は、世界で$120億(約1兆円)です。i-Padの
出荷は1800万台、i-phoneが3300万台(2011年予想)です。
アップルは、サプライ・チェーンの技術ランクで8.21点をとり、世
界1とされています。4位のウォルマートが5.18点、5位のデルが5.0
6点です(米ARMリサーチ社による、同業他社との比較評価:同紙)
。
サプライ・チェーンの概念は、日本発です。ところが今、世界の上
位25に、日本の会社は一社もないという。サプライ・チェーンの手
法は、90年代まで、日本がもっとも得意だったはずですが、どうし
たことでしょう。当時は、米国企業が学んでいたのです。一体、何
が起こったのか?
新年の本稿では、サプライ・チェーン技術を、その発祥から現在ま
で振り返りながら、改めてサプライ・チェーンの再構築を提言しま
す。日本企業の、世界への再興を促すためです。
菅首相も「日本の再生」と、曖昧に、意味するところがなく叫び続
けています。鍵は、サプライ・チェーンの再構築に思えます。
●サプライ・チェーンは、「各段階を異なる業者が担う原材料購入
から商品の最終終販売までの全体をコストダウンすることを目的に
した、動的な企業活動」です。
サプライ・チェーンの実行を助ける情報システムと、通信のネット
ワークを10年前に作ったから、それで、サプライ・チェーンが完成
したということではない。ここに、日本企業の誤解があったのでは
ないか。
情報システムとプライベート・ネットワークは、90年代まで、コス
トが極めて高かった。今は、規模が小さいものなら、数十万円クラ
スのパソコンサーバー、既存ソフト(これは高い)、皆が使うイン
ターネットで、はるかに安く、しかも容易に構築できます。
中小企業や個人企業でも、もちろん可能です。情報システムでは、
価格において激しいイノベーション(革新)が起こっています。
問題になるのは、システムを使い、情報を利用する業務です。日本
企業は、この業務で、上記米国企業に差をつけられたように思えま
す。「今更サプライ・チェーン」とは言えないと考えています。
2000年代の日本産業はここで、負けてしまった。バブル崩壊後の低
成長が20年も続く根底の理由は、これでしょう。
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<519号:グローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)が、
日本産業の再興のキーポイント(1)>
2011年1月5日号
【目次】
1.サプライ・チェーンの考え方の発祥は、日本発だった
2.サプライ・チェーンでの本当の原価と利益とは?
3.プッシュ型見込み量産が引き起こす、原価の急増
4.小売業の大きな失敗の事例
5.スルー・プット会計は、キャッシュ・フロー会計
6.ハイ・ブリッド化した製品の原価は、販売量が増えると加速度的
に下がる
7.アップルのグローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)
【後記】
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■1.サプライ・チェーンの考え方の発祥は、日本発だった
トヨタ生産方式を作り、実行の中心にあった大野耐一氏は、『トヨ
タ生産方式(1978年)』の中で、以下のように発言しています。
自分自身の発想力にするため、大野氏の思いがこもった文を取り上
げます。サプライ・チェーンの原点が理解できるでしょう。
(1)従来:
「従来の(世界の全工場の)考え方は、前工程が後工程へ物を供給
することであった。自動車の生産ラインの上では、材料が加工され
部品となり、部品が組み合わさってユニット部品となり、最後の組
み立てラインへ流れて行くなかで、すなわち、前工程から後工程へ
進むにつれて、自動車の体をなして行く。」
(2)発想:
「(私は)この生産の流れを逆に見ていた。『後工程が前工程に、
必要なものを、必要なだけ取りに行く』と考えてみたらどうか。そ
うすれば、『前工程は(後工程から)引き取られたものだけを作れ
ばよい』ではないか。」
(1)多くの工程をつなぐ、必要部品の情報を示すものが、後工程
が立てて、その直前の工程に見せる「カンバン」でした。
↓
(2)前工程はカンバンを見て、受注している完成車に必要な量だ
けを加工し、工程在庫を一切積み上げない仕組みに変える。もちろ
んこれは、トップが指示し行わないと、革新できません。
大野氏は、1960年代に見学した米国のショッピングセンターで、店
舗が、POSに記録される売れたものを、売れた数だけ発注している
のを見て、後工程から遡るカンバン方式を思いついています。
数年後に、大きなイノベーションになる生産性システムのヒントは
、日常的な、異なる業種にあったのです。どうすればいいか、大野
氏は考え続けていたからでしょう。問題を正面から考え続けると、
発想が浮かぶ思いは、当方もすることがあります。
●「問題から決して逃げない。その場凌ぎにしかならない在庫削減
のような弥縫策をとらず、正面からぶつかって考え続けよ」、これ
です。考え続ける意志力さえあれば、誰にもできる。意志は自分だ
けの当為です。
(3)考えて試行し、思いついた方法:
「いろいろトライした結果、最終的には、製造工程のいちばん後の
『総組み立てライン』を出発点にして、組み立てラインだけに生産
計画を示し、組み立てラインで使われた部品の運搬方法も、これま
での前工程から後工程へ送る方式から、『後工程から、必要なもの
を、前工程に引き取りに行き、前工程は引き取られて(減った)も
のだけをつくる』というやり方を、追求することにした。」
重要な点は「情報システム」ではない。トヨタでもカンバンは手書
きだった。情報システムが果たすのは業務のサポートです。問題は
、個々人が行う業務です。
この業務を『後工程から、必要なものを、前工程に引き取りに行き
、前工程は引き取られて(減った)ものだけをつくる』という方法
に、逆転させる。
基本発想(原則)に対し、妥協を許さず、副社長の大野氏は全工程
を「カンバン方式」で連鎖させます。妥協とは、現状の業務の方法
の、是認です。
大野氏が、部下に命じ、指示する情熱の激しさは、工場にとどろく
ものだった。周囲の人や講演を聞いた人が、これを語っています。
会社を動かしたのは、
(1)コストダウンの最大障害は、各工程に溜まった不必要な在庫
である、
(2)各工程の過剰在庫のため、需要数を超過する車がムダに作ら
れる、
(3)工場と販売店に、過剰在庫になった車の、プッシュ型の販促
費と販売費(商品の流通工程)を合わせれば、ここに最大のコスト
がかかっていると発見し、それを是正する情熱でしょう。
●工場内だけで見れば、一度に同種の車を量産し、設備および機械
と人の稼働率を上げれば「製造原価」が下がったように見えます。
工場の労務費も製造原価と見て、積み上げて計算する工業簿記の欠
陥がここにあります。
従来は、工場の製造原価を下げるため、言い換えれば、同種の車を
量産するために、前工程が後工程をプッシュする生産方式を取って
きた。
これが製造原価を下げる方法だった。世界中のあらゆる製品を作る
工場がこれだった(1970年代)。今も多くが同じです。同じアイテ
ムの量産が、製造のコストを下げると錯覚しているからです。
■2.サプライ・チェーンでの本当の原価と利益とは?
見込み量産で下がったように見える工業簿記の製造原価は、「完成
車が全部、予定価格で売れるとして計算した原価」に過ぎない。売
れ残った車は、どうするのか。売れ残った車では、売上収入はない
。
●つまり、本当は、売れた車の原価に、売れ残った車の原価が加わ
っている。このため車の原価は、以下のようになる。
▼1日に50台を見込み量産し、40台が売れ、10台が売れ残って、販
売を待つ在庫になっているとします。
【工業簿記の原価】
工業簿記での原価=50台×1台の製造原価150万円=7500万円
これを1台200万円で50台売って1億円の売上なら、確かに、原価率
は75%になって、25%(2500万円)の販売粗利益が生じたように見
える。問題はここだ。
まさにここが、「作った製品が全部売れると仮定し」、工場内だけ
の原価計算をする工業簿記の、最大欠陥である。実際は、工場の倉
庫か販売店に、10台(原価1500万円:予定売価200万円)が残って
いる。
売上収入は、売れた40台分(8000万円)に過ぎない。過剰在庫(売
れ残り)を加えた50台の車の原価率は、以下のように上がっている
はずだ。(注)キャッシュ・フローでの粗利益が、この考えです。
【工場のキャッシュ・フローでの売上収入と原価】
キャッシュ・フローでの販売収入(40台分:8000万円)
-キャッシュ・フローでの原価(50台分:7500万円)=500万円
販売利益は500÷8000万円=6.25%しかない。これでは、顧客へ販
売する販売店のコストは賄(まかな)えない。
サプライ・チェーンでの、販売店コストの10%(8000万円×10%=
800万円)を引けば赤字である。
これが続けば、量産で工場内の製造原価を下げても、工場は利益蓄
積(資本)も失って、いずれ資金不足から倒産する。銀行から運転
資金を借り入れても、返済と利払いが必要で、資本コストは上がる
。借入金は、その金利分、コストを上げるから。
工業簿記で計算された「50台の販売で2500万円」という(予定され
ていた)販売利益は、どこに消えたのか?
残った在庫(10台分:原価1500万円:予定販売価格2000万円)です
。ここで1500万円が使われている。1万円札が1500枚眠っている。
これに販促費を10%(1台あたり20万円)つけて、ムリに売れば最
終結果はどうなるか。業界では10%の販促費は当たり前だ。残った
10台は売れにくいが、販促費欲しさに、なんとか販売店が売ったと
する。それでも、5台が売れ残ったとします。
●最終の利益結果:
(売上200万円×45台=9000万円)-工場の製造原価7500万円(50
台分)-販売コスト(売れた45台:9000万円×10%)-追加販促費
100万円(売れた5台分×20万円)
=売上9000万円-製造原価7500万円-販売店コスト900万円-販促
費100万円=500万円
●予定していた利益:
(売上200万円×50台=1億円)-工場の製造原価7500万円(50台分
)-販売コスト(売れた1億円×10%)-追加販促費ゼロ=1億円-
7500万円-1000万円=1500万円・・・利益は1/3に減少
以上が、大野氏の発想の根底にあった原価計算と利益です。
1970年代当時は、サプライ・チェーンという概念はなかった。
しかしカンバン方式は、必要部品の伝票による工場内のサプライ・
チェーンで、営業利益に対する適量生産の方式でした。
加えて、プッシュ型量産は、以下に示す、経営にとって「もっとも
怖いこと」を引き起こします。
■3.プッシュ型見込み量産が引き起こす、製造原価の急増
見込み型量産は、製造原価を下げると書きました。これは1回、1日
の生産を見たときだけ、言えることです。実際の工場の稼働と、製
造原価は以下のように上がります。
▼翌日の生産は、30台に減らざるを得ない
翌日は、流通過程または工場の倉庫には、売れ残った在庫が10台残
っているので、50台は作れません。販売された40台分しか作れない
。しかし在庫が10台もある。工場は、今日は30台分しか作れないこ
とになります。売れ残った在庫を更に20台に増やす生産計画者は、
いません。
50台を作る装備と人員の工場で、30台しか作らないと、
・部品在庫は50台分買っていて、
・日産50台を作るだけの社員がいるので、
・50台分の1日原価(7500万円)が、作った30台分にかかることに
なる。これは、とんでもないことです。
(注)キャッシュ・フロー(現金会計)で言えば、残った部品代も
、稼働しない人員にも、1日分の費用は、払わねばならないからで
す。
ところが工業簿記は、使った部品と、使った要員の加工費用しか製
造原価にしない。30台しか作れず、20台分の余剰装備と人員(3000
万円分の不稼働費用)があっても、製造原価としては費用化しない
。このため、作った30台の標準原価は、昨日と同じ150万円です。
●しかし、30台生産の1台あたりの本当の製造原価は、1日の総経費
7500万円÷30台生産=250万円となる。
工場が100%稼働で50台作ったときの、1台あたり製造原価は150万
円でした。しかし翌日に生産する30台の製造原価は、20台分の休眠
の設備と人員分を含めれば、1台250万円に跳ね上がっています。
小売価格が200万円ですから、1台で50万円の赤字です。
これが、平準化しない「ムラのある生産」が生む恐るべき結果です
。
●キャッシュ・フロー計算で見れば、工場の製造原価は、毎日、こ
ろころ変わっています。しかし、伝統的な工業簿記の製造原価では
、生産量にかかわらず、製造原価は一定に見えてしまう。
持続的なインフレの時代(ほぼ1980年代まで)は、残った在庫も、
月の経過とともに、高く売れることがあった。
(注)実際の経営戦略では、今、うまく行っていることに疑念をも
ち、5年後、10年後の変化する環境で、更にうまく行く方法(戦略
)を、作らねばならない。
現在への環境とニーズへの最適対応で固定化すると、5年、10年後
には衰微します。大野氏の1970年代の方法は、1980年代、1990年代
の利益として華開いています。しかしトヨタの2000年代は・・・
インフレの時代は、売れ残った在庫増による、上記のような損が実
際に生じていても、一年の、会社の損益計算では表面化しくにかっ
た。
部品も賃金も、後では5%~10%も上がったからです。前倒しで見
込み量産するほうが、工業簿記での製造原価が安く見えていました
。このため、放置されていました。(注)今も、意識ではインフレ
の時代を引きずった認識をしている人が多い。
今、上記の米国サプライ・チェーンでの優秀企業でも、電子製品は
、倉庫や店頭に売れ残れば、店頭での製品販売価格が三ヶ月で数十
%も下がる「生鮮商品」です。シーズンのピークで、追加生産を打
ち切らねばならないアパレル(ファッション)と同じです。
【今の環境に異を唱えることから戦略が生まれる】
アパレルでの、シーズン当初の期首値入額は、一般に、売価の70%
もあります。高い値入率で、最終バーゲンの損失をカバーしていま
す。これが「アパレル業界の環境と慣行」です。しかし、この環境
と慣行に(間違っていると)異を唱え、業務システムを変えた会社
があります。
●スペインのZARAやスウェーデンのH&Mは、新商品の開発・製造期
間を1週間に短縮し、原価を上げるムダな売れ残りが出にくい仕組
みで、安い売価をつけ、高い利益を出してグローバルな企業に成長
しています。鍵は、生産計画と在庫管理の、高速ロジスティクスを
促す情報システムでした。
(注)実はユニクロでも、中国やベトナムで量産した売れ残り品の
廃棄が、経営の最大問題です。国内では、まだ競争相手の技術レベ
ルが低く、しかも海外メーカーは、日本ではアメリカの2倍くらい
高く売っているので、ユニクロが優秀に見えるだけです。わが国百
貨店の、ハイ・コストがあるためでしょうか。
自動車や機械、電子製品、家電の価格競争では、こうした高い期首
値入はムリです。
■4.小売業の大きな失敗の事例
【Kマートの誤り】
1980年代まで、破竹の勢いで利益を出し店舗数を増やして、世界ナ
ンバーワンになっていたKマート(年商4兆円)で起こったことも、
失敗工場の事例と同じです。
1980年代はウォルマートが登場しました。店舗数と売上でトップを
走るKマートも、ウォルマートの店舗の15%と低い店舗コスト(設
備関連費+人件費+在庫コスト)に、対抗せねばならなかった。
商品戦略として、Kマートのバイヤーは、仕入れ価格を下げるため
、以下のような大量仕入を行ったのです。
「このPB商品は、今、1回で平均1万個の発注なので、300円で卸し
ています。2万個の発注を戴くと、工場がフル稼働しトラックも満
車で、お宅の倉庫(DC)に、運ぶことができます。このため、250
円で卸すことができます。御社の店頭価格は400円です。御社の粗
利益率は、今25%(100円)ですが、これが37.5%(150円)に上が
るでしょう・・・」
利益に苦しんでいたバイヤーは、ベンダーから提案があった二万個
の大量発注を受け入れます。このため倉庫には、KマートのPB商品
(ブルー・レイと言った)が満載されます。当然に、店頭にも、大
量陳列がされます。
事実、1990年代のKマートのメイン通路には、安く大量仕入されたP
B商品が、いつも天井まで満載されていました。売り場の品目数は
少なく、明らかに、行き過ぎでした。
●小売業の損益計算でも、在庫は経費ではない。売れ残った在庫が
どんなに膨らんでも、経費ではない。そのため、原価の低い商品を
安く仕入れれば、倉庫と店頭で30%が売れ残っても、上記で言えば
売れた分が売れたと仮想した、37.5%の粗利益があるように見える
のです。(商業簿記の欠陥)
▼店舗の、キャッシュ・フローの利益と、商業簿記の利益の違い
本当の利益計算は、以下のように、キャッシュ・フローで見なけれ
ばならない。時系列で見ます。250円で仕入れたものを2万個、400
円で売る予定ですから、見込みの粗利益率は[150円(値入額)÷
売価400円=37.5%]です。
(注)キャッシュ・フローでは、売上収入と、仕入および経費を現
金で計算します。商業簿記では、仕入で増えた在庫は経費でなく(
資産勘定であり)、売れた分の仕入原価だけが、経費になります。
このため商品在庫が増えても、利益が出たように見えるのです。工
業簿記での部品在庫も、生産に使われたとき初めて製造原価に入れ
ます。部品在庫が増えても、経費にはならない。
(1)2万個の仕入時点=250円×2万個の在庫=500万円の赤字
売上はまだないので、仕入原価500万円が費用になります。
(2)店舗で5000個売れた時点での、キャッシュ・フロー利益
=売上(400円×0.5万個)×0.375-在庫250円×1.5万個
=実現粗利益75万円-375万円の在庫 =300万円の赤字
(注)1ヶ月で5000個売れると、在庫が1.5万個残っていても、商業
簿記では[売上200万円×粗利益率37.5%=75万円]の粗利益額が
生じたように計算されます。
キャッフローでは300万円の赤字でも、店舗の損益計算では利益が
出たように見える錯覚が起こるのです。
担当バイヤーは、つかの間の喜びを味わうかもしれません。2万個
の大量発注で、25%だった粗利益率が37.5%に上がって、最初の1
ヶ月は「よくやった、利益が改善した」と経営者もバイヤーも喜ぶ
からです。他のバイヤーも見習って、大量仕入に奔走するでしょう
。これが90年代のKマートでした。漫画のようです。
(3)1万個売れた時点
=売上(400円×1万個)×0.375-在庫250円×1万個
=実現粗利益150万円-250万円の在庫 =100万円の赤字
翌月もまだ、キャッシュ・フロー計算では赤字です。ところがここ
でも、売上400万円に対し150万円の商品利益(粗利益)が出たよう
な錯覚が起こります。
(4)1.5万個売れた時点
=売上(400円×1.5万個)×0.375-在庫250円×0.5万個
=粗利益225万円-125万円の在庫 =100万円の黒字
3ヶ月目に1.5万個(総仕入の75%)売れた時点で、やっと100万円
の「キャッシュ・フローの黒字」が出ます。売価での仕入額(2万
個×400円=800万円)に対しては、100万円のキャッシュ・フロー
÷800万円=12.5%似すぎない。
売上収入(600万円)に対しては、100万円÷600万円=16.6%に過
ぎません。
(5)4ヶ月目に0.5万個が売れ残って、シーズン外れになり、半額
の200円の特売で売ったときは、1個当たりで50円の販売赤字が出ま
す。
=売上(400円×1.5万個)×0.375-販売赤字50円×0.5万個
=100万円-25万円=75万円
(注)実際はシーズンや時期をはずすと、今の日本では、50%引き
の売価でも売れません。売れ残り品は、ほとんど無価値になります
。
【当初の見込みとの差異】
2万個の仕入で見込まれていたのは、売上800万円×0.375=300万円
の粗利益でした。ところが実際は[1/4の75万円]しかなかった。
Kマートの店舗の総コストは、当時は、売上対比23%付近でした。
●最終の損益を計算すると、
粗利益75万円-経費〔(正常売上600万円+特売100万円)×23%〕
=75万円-161万円=86万円の赤字です。
在庫を売り切った後の最終損益では、伝統的な商業簿記での利益や
損と、キャッシュ・フローでの利益や損は一致します。途中では、
伝統的な商業簿記では在庫を経費と見ないので、利益が出たような
錯覚が生じます。これは、工業簿記による工場の製造原価と同じで
す。
●バイヤーや工場長(あるいは部門管理者)は、会社が情報システ
ムを作って、在庫や不稼働のコストを含むキャッシュ・フローで損
益を計算し、それを業務責任にする管理の仕組みを作っておかない
と、量産工場やKマートのような誤りが、どの会社でも生じるでし
ょう。
【ついに破産】
こうしたことを繰り返し、MBAのエリートが多く勤め、当時は世界
最大のKマートは、2002年に倒産します。今は、シアーズに併合さ
れています。Kマートの、本部が作る経営計画書はすばらしかった
。それを実行する現場業務がダメだったのです。
●世界最大の自動車会社GMの倒産も、実は、販売が50%に急減した
リーマンショック以後も、「工場での1台あたり製造原価を下げる
ため作りすぎた車の販促費と、大きな割引販売の負担」から、巨額
赤字を出したことです。
GMの倒産前の粗利益は、販促費と割引の増加のため、ほぼ5%しか
なかった。壮大な誤りを行った。(注)普通、自動車の粗利益は15
%はあります。
以上のように説明すれば、「わかりきった失敗だ。」と誰もが思う
でしょう。しかし、部門が複雑な、巨大エリート企業で実際に起こ
ったことです。
今日も、「工業簿記と商業簿記がもっている、経費と期間利益計算
の欠陥」に気がつかないと、実際にあちこちで起こっているでしょ
う。
【ロジスティクス】
●サプライ・チェーンのコストダウンの鍵は、リードタイムを短く
した最適ロジスティスになります。サプライ・チェーンの具体型は
、ロジスティクスと言ってもいい。
DELLの生産システムは、受注後に、アジアで1週間で組み立てる、
ロジスティクス型生産です。「生産期間で1週間」というのは、今
の全競争の、キーポイントかも知れません。
良く利用するアマゾンも、ゴルフ・ダイジェスト・オンラインも、
インターネットでの注文後、ほぼ翌日に届くようにロジスティクス
が短縮化しています。サプライ・チェーンが、できているからです
。
■5.スルー・プット会計は、キャッシュ・フロー会計
サプライ・チェーンでは、伝統的な損益ではなく、キャッシュ・フ
ロー計算したものを、利益とします。
これを、イスラエル人のエリアフ・ゴールドラットは、2000年ころ
にベストセラーになった『ザ・ゴール』で、敢えてわかりににく「
スルー・プット会計」、つまり、「出力(=売上)と入力(仕入と
経費)の差を計る会計と言っています。
(注)スルー・プットは、コンピュータにデータを入力し、プログ
ラムで加工され、目的の出力データを出すまでの時間です。短いほ
ど、高性能になる。
「ザ・ゴール(唯一の管理目標の意味)」は、キャッシュ・フロー
の利益です。
ここから、工場の各工程を、最終販売に同調させる「制約理論(例
えは、むかで競争)」という、工程管理の方法を導いています。
ゴールドラットは、1990年代に、
(1)一貫スルー・プット会計の方法と、
(2)原材料から販売の流通までを含む、異なる企業の、全工程の
生産・仕入・在庫を同調させる「制約理論」を日本が知れば、競争
する米欧の産業にとって、困ったことが起こると考えます。
(注)実は工業簿記や商業簿記が原価計算や利益計算では、経費と
資産科目があり、税法も絡んで複雑です。現金の動きのキャッシュ
・フロー会計は、スルー・プット会計と難しく言っても、内容は単
純です。骨子は、収入と支出の家計簿だからです。貸借対照表は別
になりますが・・・
この一貫サプライ・チェーンの方法を知れば、もともと80年代に、
トヨタ式生産やタンピン管理という伝統的な[工場内サプライ・チ
ェーン、店舗内サプライ・チェーン]の素地をもつ日本が、世界を
征服するだろう。これは避ける。ゴールドラットは、そう考えてい
たのです。
(注)両社は、工場内や店舗内の、伝統的で「部分的なサプライ・
チェーン」と言えるでしょう。ここに問題があった。この解消が、
両社を成長させるでしょう。小売業では、ウォルマートモデルです
。
(1)トヨタでは、部品産業と膨大な下請け会社、
(2)IY堂とセブン・イレブンでは、卸と工場を含むコストを最小
化するサプライ・チェーンが、あまり考慮されなかったからです。
これらが、原材料から製品の最終販売までの多段階を一貫するサプ
ライ・チェーンの方法を知れば、怖いことになると、彼は考えます
。
そのためゴールドラットは、日本企業が十分に弱って、
(1)新たな「設備投資」と、
(2)一貫サプライ・チェーンの構築のための「情報システム投資
」を減らした2000年代にしか、日本語への翻訳を許さないとしてい
ました。
日本の産業は、1980年代までは、設備投資が世界最高でした。
これが、人的生産性を上げていました。
しかし1990年から現在に至るまで、日本企業の平均生産性は伸びる
どころか、逆に減っています。このため1997年からは、世帯の平均
所得は20%も減っています。年収400万円以下の世帯が、急増して
います。
(注)1996年の平均世帯所得(平均家族2.6人)は661万円でした。
2010年は推計で、530万円です。131万円(20%)も減っています。
(国民生活基礎調査:厚労省)
若干大げさですが、2000年代の10年の事実を見れば、ゴールドラッ
トが予想していたことが、首肯できます。
売上予想(または受注)、仕入、在庫、販売を最適に連鎖させるサ
プライ・チェーンでは、情報システムで、発注システムと在庫管理
システムを作ればいいというのではない。(1)スルー・プット会
計の方法が加わり、(2)管理方法の変革がなければならない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(1)業務の活動と、
(2)部門のキャッシュ・フロー管理の仕組み作りが同時に必要で
、(3)原材料・部品の源流から最終販売の、一貫性が必要です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【身近に知ったキャッシュ・フロー経営】
1月3日は、誘われて、初打ちでした。約10人の、クリーン・ルーム
の空調設備を設置するための、配管を作る工場をもつ経営者と一緒
でした。帰りの車の中で、彼が言っていた。
「今はCADでの設計ですから、設計すれば、機械は自動的に動きま
す。CADの技術革新について行くのは、実に大変です。でも自分は
多分臆病なので、入った売上と、「給料+経費+材料仕入」を払っ
た後に、残ったお金の計算しか、信用しなかった。90%は頭に入っ
ています。今月600万円が残れば、それを自分の所得と考えた。借
金は怖いので、銀行が奨めても、必要最小限しかしませんでした。
そのため、今も、吹けば飛ぶような零細企業です。周囲には、儲か
ると思い、借金で、不景気のときは過剰になる設備投資をし、潰れ
たところだらけです。」 (注)CAD:コンピュータ支援設計
これが、サプライチェ-ンが言う「素朴なキャッシュ・フロー経営
」です。タンピンの管理の原型を作ったIY堂の会長、伊藤雅俊氏も
似ています。
素朴(=単純)さが、いつも時代を拓く。経営法で、複雑なものは
消えます。シアーズの1990年代の企業再生戦略は、論理的にはよく
できていたのですが、戦略要素が多岐にわたり、実に複雑でした。
このため、現場は実行ができなかった。
【伊藤雅俊会長】
「いちばん怖いのは、会社が大きくなって、バイヤーが在庫を怖が
らないことです。そのためうちでは、売れたものをバラで仕入れる
タンピン・カンリと、死に筋カットにした。」 実際に会いタンピ
ン・カンリという発音を側で聞くと、懐かしい感じがしたのを憶え
ています。
(注)前述したように、ベンダーへの発注頻度を過度に増やし、入
荷サイクルを短縮化することが多いタンピン・カンリには、
・店舗の商品作業量と、
・ベンダーの在庫、および納品コストを増やすという欠陥がありま
す。生産コストも上げます。
営業利益を基準にみれば、店舗の商品作業を減らす最適な発注頻度
と最適在庫がある。最近の経営で良く使われ最適(オプティマム)
は、営業利益を最大化する商品作業と在庫を言います。
●若干難しいのですが、これが、EOQ(経済発注量:Economical Or
dering Quantity)の公式です。
(注)EOQ(ある部門の経済発注量)=[2×一定期間の売上予測
数×(発注ロット当たりの商品作業費+ロット当たりの配送費を含
む原価低下額)}÷{(発注ロット当たりの在庫コスト率%+ロッ
ト当たりの在庫リスクコスト率%)×仕入原価}]の平方根です。
この実際の計算法と利用は、事例を出し、雑誌『販売革新』(2008
年6月と7月号)に、詳細に書いています。まだ利用はされていない
でしょうね。この在庫管理シリーズは、12回分、連載しています。
このEOQの実現型が、店頭や卸の「売れ数予測に比例する在庫(=
売れ数比例在庫)と最適発注頻度」です。これは、店舗におけるサ
プライ・チェーンの目標になるものです。
IY堂やセブン・イレブンも店舗のタンピン・カンリだけは、サプラ
イ・チェーン全体(製造・卸・小売)の総コストと在庫を、最小化
するスルー・プット会計ではない。
発注頻度を増やすタンピン・カンリだけでは、卸と製造の在庫、生
産、物流コストを上げることがあるからです。
また、トヨタ式生産も、工場内では受注生産のサプライ・チェーン
であっても、下請けの部品業者の見込み在庫と、即納のためのコス
トを増やしていることが多い。
生産と流通の一貫サプライ・チェーンとして、完全とは言えません
。このため、2010年は、サプライ・チェーンの世界25位のランクに
も入っていません。
下請けを含むCPFR(共同商品計画・予測・補充)に、不十分な点が
あったからです。以上を、哀しみます。
■6.ハイ・ブリッド化した製品の原価は、販売量が増えると加速度
的に下がる
ハイ・ブリッド(原義は混血・雑種)は、車ではガソリン・エンジ
ン(内燃機関)と電機モーターの複合エンジンの車を言います。
一般的な意味では、「機能の複合化」を言います。今、電子製品に
限らず、ほぼあらゆる商品が、複合化されています。
【価格が高い炊飯器】
例えば、以前は電熱器のように単純だった炊飯器です。今は、米を
炊きあげる過程での温度や蒸気圧力を、美味しいご飯が炊けるよう
最適にコントロールする基本ソフトとアプリケーションが入ってい
ます。数万円と高いのですが、これは、研究開発と数百メガバイト
のソフト開発のためです。
(注)実は高性能な炊飯器も、1機種の販売台数を10倍に増やせば
、製造原価は、利益を上げる販売価格でも1万円付近に向かい下が
るでしょう。複製ではゼロのソフト部分のコストが、大きいからで
す。しかし、お米の炊飯器は、ほぼ国内市場だけで、各メーカーの
機種が多い。このため1機種の生産量が少なく、まだ高価格のまま
です。
掃除機にも、マイクロコインピュータが組み込まれています。車は
、駆動系やブレーキ、および空調、ナビゲーション、音響等が、マ
イクロコンピュータの塊になっています。
次世代携帯電話(i-Phoneやアンドロイド)、i-Pad、i-Pod等は言
うまでもない「ハイ・ブリッド製品」です。実に、われわれが使う
商品は、多くが、ソフトの塊であるハイ・ブリッドになっています
。
音楽や映画の「i-Pod」を例に取ります。ソニーのウォークマンが
世界を席巻していた時代(1980年代)は、音楽のソフト産業(カセ
ットテープやCDの製作)と、それを再生するウォークマンは分離し
ていました。
小型・精密・高品質ではあっても、ウォークマンは、過去の機械的
な、高い精度の部品を集め、組み立てたものでした。
他方、白く、つるりとして操作ボタンもないi-Podは、日本が得意
だった機械的な部品は、ハードディスクや液晶とICだけです。
SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)にすれば、ハードディスク
も要らない。完全に、電子とソフト製品になっています。肝心なの
は、音楽ソフトのデータベースです。TVでも今、ネットテレビのAp
ple TV登場しています。映画や番組がデータベース化される。書
籍や雑誌も電子化されます。
重点は部品の精度だけではなく「ソフト・ウェア技術」になってし
まった。複合化製品のすべてが、ソフト・ウェア技術です。
こうしたハイ・ブリッド化商品でのサプライ・チェーンでは、世界
標準化の技術と、プログラミング技術、およびデータベースになっ
ています。
日本の産業が遅れたのは、この点です。「アップルは発注量が1桁
、2桁と多いのに(部品価格を)値切らない。国内の完成品メーカ
ーとの交渉では、値下げの話ばかり。」 なぜこうしたことが起こ
るのか?
●アップルの製品の製造原価では、
(1)ソフト・ウェアの開発コストが大きく、
(2)機械的な部品が占める原価は、小さいからです。
機械が、ソフト化されたと言っていい。
例えば、あなたが、ほぼ毎日使っているコンピュータのキーボード
は、機械的なものです。キーボードは、中国製の安い物は1500円く
らいでしょう。
過去(1990年代)は、2万円以上していました。13分の1になった。
ここが、2000年代の日本産業が、苦境に陥った根底です。
機械的な品質と耐久性がいい「モノ」を作っても、中国製のはるか
に安いものと、「商品価値」での競争をしなければならない。商品
価値=機能・品質÷価格です。13倍高い日本製のキーボードに、中
国製の1500円の13倍の商品価値を認める顧客が、何人いるか? 極
めて少ないでしょう。
(注)当方、キーボードを、力を込め激しく叩く時間が長いので、
2万円の『RealForce106』という重い日本製を使っていますが、少
数派でしょう。1500円ものは、数ヶ月で何度も壊れたからです。
アップルが部品メーカーに、発注が2桁増えても値下げを強くは要
求しない理由は、製品の製造原価の中で、機械的な部品の占める割
合が低いためです。一方で、ソフト・ウェアの開発コストは高い。
しかしソフト・ウェアは一個を開発すれば、無償で複製ができます
。i-Podの開発に500億円のコスト(人件費)がかかっても、1億台
売れば,1台あたりのソフト・コストは1億円分の1に下がり、500円
です。2億台売れば、250円に下がる。
機械的な部品が多いものでは、最終製品の製造台数を2倍に増やし
ても、製造原価は10%も下がらないかもしれません。1/2のコスト
に下がることは、絶対にない。
●日本の産業が、例えばアップルに負けたのは、2000年代に進行し
た製品の原価構造の違いがあります。このため、アップルは機械的
な部品の割引を強く要求しない。原価構成要素で、小さいからです
。
世界の66億人市場で売るアップルのi-Pod、i-Pad、i-Phoneは、生
産台数の桁が違います。
ソフト・コストの部分が多いので、1機種で売れる数が増えれば増
えるほど、累乗的に利益は大きくなる。しかも、アップルの製品ア
イテム数は、100機種以下ではないかと思えるくらい少ない。初期
生産は、顧客を1ヶ月も待たせるくらい、生産量は少ない。ムダの
ない生産システムです。
●他方、日本のメーカーは、1アイテムでは、少量しか売れない季
節毎の新商品が多く、そのたびに設計を変え、金型をつくって、異
なる部品を作り、組み立てています。
2000年代の、製造原価でソフト部分が増えた製品のハイ・ブリッド
化に遅れたのです。
■7.アップルのグローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)
「配送中も含めた店頭在庫や、日々の販売実績を、全アイテム、し
かも一個ごとに把握している。当然に付属部品も。」
これがアップルのグローバル・デマンド・ビジビリティ(GDV)で
す。
●全店頭での在庫と販売予測から、1アイテム毎の生産計画を作り
、その生産計画に基づいて、サプライ・チェーンの会社に、展開し
た部品やソフトを発注する。(注)CPFRによるMRP=部品要求プロ
グラム:CPFR(共同商品計画、予測、補充)
日本のメーカーで、
(1)世界の全店頭の在庫まで、一個ずつ把握し、
(2)今日の店頭販売結果(POSデータ)をリアルタイムでつかんで
、
(3)その販売予測から、工場での生産計画と必要部品の発注を行
っているメーカー(または販社、卸)が、あるでしょうか?
あればご教授ください。その会社の業績は、急進しているはずです
。
1990年代の後期に、米国のサプライ・チェーンの、ソフトベンダー
を訪ねたとき、「グローバル・ロジスティクス・システム(世界調
達・在庫・販売管理システム)」と言い、数億円で売っていました
。導入費用は、それ以上にかかっていましたが・・・今はもっと安
いでしょう。
確かEXEテクノロジー社と言った。ラスベガスでのセミナーとその
後の歓迎パーティに出席したのは、日本人では、NTTから数人のマ
ネジャーと、当方のグループ2名でした。こうしたシステムを、今
から作らないと、日本はダメになるのではないかと感じたのです。
(注)今、EXE社があるかどうかインターネットで調べても不明で
す。別の会社になっているかも知れません。日本支社長を知ってい
たので、EXEで、見込み客を前に講演したことがあります。
マイクロソフトのCEO、スティーブ・バルマーがゲストスピーカー
でした。アジアでは、ターバンを巻いたインド人と中国人が多かっ
た。中国人と韓国人は、社員になっていました。
こうしたことが、今の中国と韓国産業(サムスンやLG)の、ロジス
ティクス・システムを作っています。韓国のLG電子が、ロジスティ
クスのシステムを模索していたのは、2000年代初頭でした。経営者
向けの講演依頼があったので記憶しています。(注)実行はしませ
んでしたが。
10年前です。国内のサプライ・チェーンもまだなのに、世界のコス
ト最適地から部品を調達し、製品は世界に販売する「グローバル・
ロジスティクス・システム」は、時期が早いなとも思っていました
。
しかし米国の、少なくとも(1)アップル、(2)P&G、(3)シス
コシステム、(4)ウォルマート、(5)デルは、「グローバル・ロ
ジスティクス・システム」に匹敵し、あるいは上回るシステムを構
築しつつあったのです。
情報システムが利益になって稼働するには、数年の期間がかかりま
す。今が、10年前の準備の華(大きな利益)でしょう。事業経営の
戦略では、数年~5年に渡る長期的な視野が必要です。
●情報とネットワークのシステムは、一夜で変えることができても
、業務は人間が行い、販売網(販売店)の構築には数年の時間を要
し、イノベーションの発現には時間がかかるからです。
組織と組織管理の方法も、変更しなければならない。スルー・プッ
ト会計も、です。そして、システムや設備投資は、導入当初は損失
になって、利益が出ない。
(注)米国製造業の全体は衰微しましたが、日本の産業を超えるロ
ジスティクス技術をもつ、世界的な成長企業群はあった。サプライ
・チェーンの根幹の業務は、ロジスティクス(営業利益に対する最
適発注量と最適物流量)です。
バブル崩壊期(1990年代~2000年代初頭)の日本は、設備投資と情
報システム投資を減らして抑制していました。
このため、事務計算のコボル等を使うメインフレームの、レガシー
(古風)なシステムになっていた。1990年代は、NTTの規制のため
、無線LANもなかった。これではムリです。今は、インフラでは、
はるかに安価に、可能です。
●「世界中の、卸と配送中(物流)も含めた店頭在庫や、日々の販
売実績を、全アイテム、しかも一個ごとに、リアルタイムで把握す
る。当然に付属部品も」です。無線LANとインターネットの時代は
、これができる。
日本も、今からでも、決して遅くはない。アップルの「グローバル
・デマンド・ビジビリティ(GDV)」に類したシステムを、作るこ
とです。そうすれば、10年後にはアップルの上を行けるでしょう。
GDPも成長します。生産性が上がって、世帯の所得も増える。
肝心なのは、自社にとっては外部である店頭の在庫と販売データの
、リアルタイムネットワークです。これは中小企業、大企業に関係
はない。全企業は、サプライ・チェーンの一環だからです。
(注)わが国での障害は、店舗の在庫と販売データが、卸、メーカ
ーに分からないことです。分かっても、まだ一部の店舗です。デー
タ利用で全体を推測するための、サンプリング統計的な工夫が要り
ます。
しかしわが国小売業の中にも、ウォルマート流のCPFR(共同商品計
画・予測・発注)を行うために、アイテム毎の販売データと在庫デ
ータを公開しているところも増えています。
今のまま、アップルのGDVに類するシステムが作れないと、日本の
製品大メーカーは、これからもずっと、アップル・P&G・シスコシ
ステム・ウォルマート・デル等に、コストと販売数で負け続けます
。
同種のシステムをもつアマゾンやグーグルにも、でしょう。
これも、確定的に言えるのです。
情報化時代は、適量生産、適量在庫、および販売に「有効な情報」
が価値をもたらす時代です。製品の品質、部品精度の高度さだけで
はない。それらは必要条件であって、成長の十分条件ではない。
次稿では、サプライ・チェーンの、技術的な面を取り上げます。店
頭での販売予測と最適在庫からです。サプライ・チェーンは、需要
起点でなければならない。
今回、改めてサプライ・チェーンを考えてみて、日本の産業の再興
の鍵が見つかった気がし、少し嬉しい。鍵を見つければ、後は実行
だからです。
【後記】
前稿<2011年の経済予測:第1部>では、6. 世界の債権王:PIMCO
(ビル・グロス)の動きの項で、朝倉慶氏の、『2011年本当の危機
が始まる(10年11月)』から、数値データを参考にしています。た
だし、解釈は当方の責です。朝倉慶氏の同書の論に、ほぼ70%の部
分で、共感を感じました。
「サプライ・チェーンの在庫管理の原理と方法」については、2008
年の雑誌原稿(全12号)をまとめて付加・修正を行い、書籍にする
予定です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。
以下は、項目の目処です。】
1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ
と記述の際、より的確に書くための参考になります。
コピーして、メールに貼りつけ記入の上、気軽に送信してください
。
感想やご意見は、励みと参考になり、うれしく読んでいます。時間
の関係で、返事や回答ができないときも全部を読みます。時には繰
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