インフレの跫音(あしおと)が聞こえる(1)(2)
This is my site Written by admin on 2004年2月3日 – 08:00

こんにちは、吉田繁治です。デフレが続くのか、反転しインフレに向
かうのか、これは経営の判断、業績、投資、個人では住宅購入や預金
の運用、職業など、生活にも重大な関係をもちます。

本稿は、この問題を解きます。政府の政策については、憶測を含みま
す。「まさか、そこまではやらないだろう」という健全な常識とマネ
ー規律を裏切り、「金融機関と日銀への粉飾会計への奨めも含み、な
んでもあり」の憶測通りの政策をとっているのが、今の財務省だから
です。

金融については、特有の用語がありますが、原理は簡単なものです。
「中央銀行がマネー発行の規律を失えば、際限がなくなって、最後の
ゴールはインフレ」です。問題はいつか?ということだけです。

福井総裁の日銀は状況証拠から言えば、舵を切ってしまったように思
えます。ますます、そして日々、予測通りに進んでいます。考えた末、
伝えなければならないと思っています。(2号分の長文です)

反論を考えながら、世界の金融物語りとして気楽に読んで下さい。

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<Vol.182 インフレの跫音(あしおと)が聞こえる(1)(2)> 

【目次】

 1.経済予測
 2.予測の難しさの原因
 3.90年代は、なぜデフレだったか
 4.2000年以降は様変わり

 5.長期で言えばインフレは必然
 6.監視が弱い外為会計を使う
 7.奇妙なことの一つ
      (このテーマは書き継ぎます)

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■1.経済予測

テーマは<インフレの跫音(あしおと)>、日本のみならず世界で、
インフレの兆しが見えます。

▼デフレ

デフレは、モノの値段(実物経済)に対し、通貨の価値が上がること
です。物価が下がり(売上低下)、借金をしている企業や世帯は苦し
くなって(負債の実質負担が増加)、賃金も下がる。

90年代中期〜03年の日本経済はまさにこれでした(過去形で言い
ます)。

日銀が増加供給(金融機関がもつ債券や国債を買い取って、現金を供
給)してきたマネーは、(不良債権のため)自己資本が枯渇した銀行
からは、民間への貸出しとしては流れなかった。

銀行は、民間企業への融資を年5%くらい減らしています。

日銀は増発したマネーで国債を買い、国家へ円を貸す機関になってし
まいました。金融機関も民間融資を減らし、国債で資金運用です。

国債を含む財務省の債務の増えかたはどどまるところを知りません。

民間企業へはマネーが回らず、企業は地価下落・株価下落によって壊
れた会社のバランスシート(資産・負債の構造)を修復するため、投
資を減らし資産を売ってキャッシュを生み、借金の返済に回していま
した。(優良なところほど)

返済されたキャッシュは、金融機関による国債買いの資金です。

(名目額の)賃金が上昇しないため、(名目額の)消費も増加しない。
100円ショップや280円の牛丼現象がそのシンボルです。

約10年、こうしたデフレ経済に慣れてきました。

■2.予測の難しさの原因

そこで・・・インフレ?

「果たしてそうか」と思うのは自然な心理。バブル期も、逆の意味で
同じでした。心理の同化には、3年の時間がかかります。

1992年、地価が急に下がり始めても、大蔵省(経済と政策情報の
中心)は、(バブル経済を冷やすために金利を上げたことが原因の)
一時的な現象と見ていた期間が数年も続いたのです。

エコノミストと言われる人々も、3ヶ月、1年、(最長でも)3年の
期間でしか見ない。年始めの経済予測は、たった1年のスパンでも、
(80%強の)見通しが外れます。確率が20%弱ということは、サ
イコロを投げて決めるのと変わりません。

予測外れは日本のエコノミストだけに見られる現象ではない。世界で
同じです。主因はGDPで計算される実物経済の、部分を見て、肥大
した金融経済を見ないためです。

経済学は特殊な科学です。事実と言われるもの(=数字)はあります。
過去の数字を解釈することはできます。地価・株価・物価の下落や
騰貴は、数字を使い論証が可能です。

病気になったときの原因は(ある程度)推定ができます。治療法も、
マネーの供給や国家財政の拡大、あるいは逆の引き締め政策として実
行ができます。

【要因1】
経済予測が難しい原因は、「集団心理からくる期待」によって、購買
と投資が左右されるからです。集団心理は、過去からのトレンド線を
補強し、非合理なところまで行く働きをします。

物価・地価が下がると、下げが続くように思われるのが自然な心理で
す。上がれば逆の心理。集団心理は、転換点を見誤ります。そのため
に財を失います。

【要因2】
2番目は、通貨当局と政府によるマクロ対策が行われることです。

マクロ政策は、過去からのトレンドを、逆傾向に変える働きをするこ
とが多い。通貨当局と政府がデフレ認識なら、デフレを止める浮揚策
になり、インフレ認識ならインフレを冷ます引き締めになる。

金融政策は当局の専管事項とされ、方向を見せない工夫がされます。
今は巨額過ぎて、すぐバレますが・・・

【要因3】
3番目は投資家の投機です。投機は集団心理と、マクロ経済策と金融
政策の先読みをします。今の価格が何を「折り込んでいるか」を読む、
と言われることです。

どういう材料で株価・地価・資源価格が形成され、もっとも強い要因、
変化する要因が何かを「読む」。そして集団心理が後追いする価格
下落や高騰に先駆け、有利に動こうとします。

「専門家(ファンドマネジャー)」と言われる人が読んで細かく動い
 た結果は
 ・短期では(ほぼ偶然に)成績をあげても、
 ・長期では『敗者のゲーム』(チャールズ・エリス:日経新聞社刊)
  になっていることは、事実として論証されています。

ファンド会社やファンドマネジャーは、商売の障害になるのでこれを
言いたがらないのです。過去の運用成績を見れば、90%以上は敗者
でしょう。専門家もその程度です。ランダムな念術での賭けと変わら
ない。株価や金利のランダム・ウォークは、事実として実証されてい
ます。

仮に、株価や金利の先行きが「科学的に予測できる」とすると、結果
はどうなるか? 皆が同じ方向に動き売買のマーケットは消滅してし
まうことになります。つまり証券やファンド会社は消えます。見解が
違うから、売り買いがあるのです。ここが矛盾です。

投機のマネーゲームで激しく売買し、長期で財を成した人は、世界で
も稀です。多くは手数料を払っただけであるという結果になる。ある
いは財を失う。平均株価を買って(愚直に)長期でもっていた人だけ
が、経済の成長分だけ成績を上げたというのが、冷厳な事実です。

日本で金融危機が起こったとき、どこよりも最初に倒産したのが、(
情報を集めていると言われる)証券会社であることを見れば、これも
実証されています。

▼まとめ

以上の3要素、
(1)数字にあらわれたトレンド線を補強する「集団心理」
(2)トレンドを修正しようとする中央銀行の「マネー政策」と
   政府の「マクロ経済対策」
(3)心理と政策を読むマネー投資家の「投機行動」が幾重にも重
   なり、経済が形成されます。

この中で2番目のマネー政策は、先進国共通の金利低下策(米国もF
F金利が1%)で、今金利を上げれば、巨額に貯まった世界の債券価
格や株価が暴落するので、すでに政策での調整幅を失っています。

【重要な注】
世界は低金利(マネーの増加供給)を続けざるを得なくなっています。
マネー増発で、政策の方向が決まってしまったのです。ここに、世
界インフレが必然になる原因があります。世界の当局が、マネーを引
き締めれば、(一夜で)世界金融恐慌に一直線という分かりやすい構
造になっているからです。金融政策の選択幅がなくなれば、あとは、
容易に予測できるでしょう。

3番目のマネー投機的な行動が、金融工学と相互信用のレバレッジで、
借金のチェーン構造を組み込み、結果として金融経済が天文学的に
大きくなったのが、とりわけ90年代以降の現代経済です。

以上の2要素、(1)世界の金融の政策幅のなさ、(2)巨額金融資
産(=負債構造)の見ないと、経済予測は誤ります。金融は実物経済
の影です。影が実物経済を動かすようになっています。

▼どこまで行っても、金融資産=金融負債

金融資産は銀行・日銀・FRB・生保・年金の金庫に眠っているわけ
ではない。みんな誰かが借りて使っています。つまり「金融資産=金
融負債」です。

日本(2位)と米国(1位)が個人金融資産大国であるということは、
負債大国であることを意味します。この負債が返せないし、5%の
利払いもできないくらい大きくなったため、金利を上げ金融を引き締
める手段がなくなってしまったのです。

そして今は、日銀のマネーを使った財務省の外為会計のドル買い(0
3年は20兆円:そして04年1月でなんと7兆円!)で、世界にあ
ふれた円が、投機資金のチェーン構造で、更に膨らんでいます。

1月で7兆円の商品を生産し販売すること(実物経済)は、世界のど
この巨大企業もできないことです。しかし金融は数字ですから、少人
数でキーを叩けば瞬時に生まれます。ここに問題の根があります。

元をたどれば、
 ・米国の国家財政と貿易赤字、世界にばらまいたドル、
 ・日本の財政赤字と日銀のマネー供給を主因に、
 ・国債を含む債券が世界のマーケットにあふれ、
           激しく投機家の手を渡っているのです。

1日で数百兆円も、グローバルに動く国際投機資金が、
 ・オイルを含む資源、
 ・世界の肉食化で飼料になり98年から再び不足し始めた穀物、 
 
 ・ゴールドを含む希少金属に向かえば・・・

  世界の物価の騰貴とドル・円の下落は「一夜で」起こります。
  今はまだ、大規模には向かっていませんが。

■3.90年代は、なぜデフレだったか

国際投機資金(=金融資産=金融負債)は、年々膨らんだのに、なぜ
90年代がデフレだったか。実は90年代が世界的なデフレというの
は、正確ではないのです。

日本だけが1000兆円の地価下落を原因にした300兆円規模の金
融機関の不良債権から、国内にお金が回らなくなって、特殊にデフレ
でした。

▼世界の90年代

90年代の世界の国家財政は、80年代の赤字(つまり80年代イン
フレ)から一転し、赤字解消(または削減)に向かっていたのです。
経済大国では日本を除けば以下です。

(1)米国は、80年代の軍事費(レーガン時代、GDP比7.6%)
   を、クリントン時代には3%レベルまで下げます。
   90年代末にはITバブルによって財政が黒字化します。
   これが、冷戦後の平和の配当になったのです。

   加えて90年代後期の米国は、ニューエコノミーで世界の資
   金を集めます。今は、なつかしい言葉ですが。

(2)(老大陸であった)ユーロー諸国は、2001年の通貨統合
   に向かって、加盟国の財政赤字を各国GDPの3%以内の妥
   当値に制限。財政赤字は、小さくなります。

   これによって欧州は10%の失業経済になります。
   財政赤字のカット、つまり福祉のカットのサッチャーイズム
   が、英国を含む欧州大陸でした。

(3)ひとり日本のみ(世界のGDPの13〜15%)が財政赤
   字を20兆円、30兆円、40兆円と拡大させます。

   企業は、借金を返済しバランスシート調整を行います。
   日本の資金は、一貫して、米国に流れます。

(4)日常消費財では、欧州では東欧、太平洋圏は中国が低価格商
   品の生産基地になり、価格が下落します。

以上の4要素から、以下の状況が起こりました。

(1)米国と欧州(特にロンドン)は、住宅価格、株が高騰した。
   いずれも、借金によるものです。

(2)投資資金の流入によって、中国の沿岸部の地価が急騰した。
   これは規模が小さいものです。

(3)日本と中国の貿易黒字はドル買いであり、世界の増加資金の
   供給源になった。ドルの世界への還流です。

   これが90年代末の、世界の株価高騰を作った。

90年代は、
 ・資源を含む一般物価の下落と、
 ・世界の地価と株価(資産)の高騰が「同居」したのです。

  これによって更にグローバルな投機資金が膨らみます。
  信用と担保の連鎖で、金融は膨らみます。
  マネーは、ゼロから作ることができます。
  やっかいな点は、負債は、利益で返済するまで消えないという
  当たり前の原理です。
  返済を先送りするために、借金を重ねることに向かいます。

90年代の日本では、資金の海外流出のため、地価下落・株価下落・
一般物価の下落3者が、同時に起こります。

デフレが認識されたのは、遅れて97年の第一次金融危機以後です。

この後、日銀はマネーの増加供給を開始しますが、
 ・国内では国債が吸収し、
 ・海外では米国が吸収することになって、
  国内の民間経済でのマネー効果は、生まれませんでした。

日本は信用収縮を主因に、固定性がつよかった賃金も、パート化とリ
ストラで下落する真正デフレに陥っていたのです。

賃金制度には固定性があります。経済を反映して変わるのに5年はか
かる。これが企業の赤字や、黒字の原因とも言っていいのです。賃金
が、業績に比例しリアルタイム変わる変動費なら、生活は不安定にな
りますが、企業業績は安定します。

世界的に言えば、定型労働のワーカー賃金が下落し、マネジャー以上
とトップクラスの賃金が上昇したのが90年代です。そのために、金
融資産も膨らんで行ったのです。金融資産は、世帯差が大きい、不平
等なものです。

一般物価が下落した原因は、ビル・ゲーツも私も食費や日常財を買う
金額には、資産格差である10万倍以上(100万倍?)の差はない
からです。(笑)

所得が使い切れないくらい多い人が、金融資産を貯め、株を買います。
過剰所得はモノの購入に向かわなくなる。そのために日常財は過剰
生産になるのです。

供給(生産額)と需要(消費額)は等しいという有名な「セイの法則
」は、一定期間だけを見れば働かなくなって、過剰生産になり、消費
財価格は下落します。他方、投機によって資産価格は上げます。

(注)日本は賃金に、平等性がありますが、福祉を含む官民格差や金
融等での業種格差、下請けと(80%)大企業(20%)の2重構造、
世代格差があります。制度的な、賃金格差が残っています。

■4.2000年以降は、様変わり

2000年の春、米国ナスダックが5000ポイントをつけ、ダウ平
均が11000ドルの高値を付けたあと、世界の株価は、平均で約4
0%同時下落します。

ダウ6000ドル以降は、グリーンスパンが警告したように「根拠な
き熱狂」でした。金融資産が特別な人だけに貯まって、投機が起こっ
たからです。次は以下のような、ご存じの展開です。

(1)(陰謀的な性格も見えつつある)2001年の9.11が起
  こって、世界の金融はアラート(危機寸前)の状態になる。

(2)米国へ流れていた欧州資金が急に縮小し、大陸へ戻る。

  9.11の結果は、ロンドンへの資金の集結です。
  (英国は、秘密警察のMI6↓を含め怪しい動き。)
   http://www.fas.org/irp/world/uk/mi6/

(3)ブッシュ政権は、9.11以降、多額の減税、軍事費の増強
   によって財政赤字を(今は)年50兆円規模に拡大させます。

   世界第1位の経済規模の米国と、第2位の日本が同時に、巨
   額の財政赤字(米国50兆円+日本40兆円)になります。

   ブッシュ政権の基盤は、エネルギーと素材産業、そして軍需
   産業です。特に、影の大統領チェニー(副大統領)さんです。

米国の閣僚会議では「財政赤字など問題ではない」というチェイニー
帝王の恫喝で、皆が黙ります。(すごい内閣ですね)

米国に資金を供給したのは、
 ・一貫して世界最高の貿易黒字によって米ドルを貯めた日本と、
 ・資本を自由化せず、ドルへの準固定相場で、外貨準備を貯めた
  中国です。中国は今のところ金融では反米ではなくドル基軸体
  制の日本に次ぐ支え手です。

これがあるためチェニーさんは強気です。ドル債(=利付きのドル手
形)もつことは、米国への資金供給をすることです。

日本の、特別会計(なんと純額で207.4兆円:04年度)を含む
財政赤字の補填資金を貸したのは、海外ではなく日銀と郵貯・簡保・
年金です。今、日銀は2つの方法で、日本と米国に資金を供給してい
ます。

(注)200兆円を使う特別会計は、ほぼ官僚の裁量です。日本は
  すごい国家財政です。(一般会計は82.1兆円にすぎません)
  この国の経済の約半分は、官を経由しています。

(1)国内では、国債の購入(04年01月22日残高:91兆円)
   http://www.boj.or.jp/about/about_f.htm
   のページの「営業旬毎報告」

(2)米国に向かっては、財務省の外為会計。03年20兆円、0
   4年1月だけで7兆円(驚嘆すべき額のドル買いです)。

   http://www.mof.go.jp/1c006.htm
   に昨年12月末のまでのデータ(外為会計残65兆円)が出
   ています。1月遅れでは、今は、とらえきれないのですが。
   それくらい変化が早い。

  外為会計の、貿易黒字を超えるドル買い資金は日銀が与えます。

  04年は、外為会計の枠を140兆円に増やすことを決めて
  います。今年、更に60兆円規模のドル買いも想定されます。
  
  ドルが80円へと20%下落すれば、財務省の外為会計は
  今年末には、20兆円規模の含み損を抱えることになります。
  (誰がこの責任をとるのでしょうか・・・誰もとりません)

政策の誤りで責任をとる仕組みは、日本のみならず世界にもない。

騒ぐのはスキャンダルだけです。ポピュリズム。古賀議員の学歴詐称
などは、どうでもいいことですが、政治の争点になるのですから困っ
たものです。

大阪府では、昨日、セクハラの横山ノックに代わった大田府知事が再
選。「大阪府に花を咲かせる、咲かせます」と言うのですが、政策を
見て発言を注意深く聞いても、その方法は見えません。

日銀の通貨政策と特別会計こそ争点になるべきものですが、わかりに
くいため、皆、口をつぐんでいます。イラク戦争もお金がないと、米
軍13万人は派遣維持はできない。福井日銀は、もごもごとしか言わ
なくなっています。

世界経済の、低価格の商品供給は中国、マネー供給は日銀になってい
ます。(中国の輸出も、過半は外資企業です)

■5.長期で言えばインフレは必然

5年の長期なら、世界の投機マネーが膨らみすぎているのでインフレ
(=通貨価値の下落)は必然です。

今後5年、日米の国家財政の赤字解消の目処はなく、巨額の国債発行
を続けます。日本のみならず先進国の年金や保険資金は、等しく内部
に空洞化があるからです。

信用のチェーン(要は借金の技術)の発達のため、世界のマネーが、
年数%しか増えない実物経済に対し、大きくなりすぎているのです。

巨額化した運用マネーが、90年代のデフレ傾向から逆転し、急に、
実体に向かって価値を下げはじめる(=実物経済の物価が上がる)の
がインフレです。これによって、金融資産は実物経済に合うものに減
価します。

問題はインフレがいつ起こるか?です。
無謀に予測しようというのが本稿です。

以上を確認をした上で、先に進みます。

■4.すべてが公的資金の供給

不良債権問題、そして物価と土地が下がるデフレ、これらが今、金融
面でどう変わりつつあるかを見ます。

▼不良債権は、公的資金で埋める

不良債権による銀行の自己資本不足は、政府・金融庁の公的資金の投
入によって救い、銀行は、不良債権が明らかになった順序で国有化さ
れることが決まっています。

不良債権は「返せないものは返せない」ということに帰着します。

企業を直接に国家が救うことはありませんが、銀行への公的資金投入
によって、主要な金融機関は合併という方法で存続です。

主要金融機関が共倒れになるような不良債権処理はしない、地銀等の
細かいものは行う、という政策です。

[法人の不良債務]→[銀行の損失]→[公的資金投入]
                     ↓
                 [国家債務の不良化]
                     ↓
                [日銀の国債買い]です。

こうした形で不良債権問題は、すでに「決着がついた」のです。
(政府政策の変更がない限り)

今の金融政策は「とどのつまり」にまで行き着きます。
政府が、郵貯・簡保・年金資金を使い果たしたからです。

ひとつの問題は、「最後は日銀」で何でも引き受けるようになった株
式会社である福井日銀の、債務超過(自己資本は5兆円にすぎない)
です。日本国債の格付けは更に下げ皆が手放しに走ります。

市場の金利があと1%(現在の長期金利は1.4%くらい)上がれば、
91兆円の日銀の手持ち国債は、5%(=4.5兆円)は下落し、
日銀の自己資本はなくなり、多くの金融機関は債務超過になります。

1%の金利上昇は1ヶ月くらいで起こります。

このときは、財務省の一般会計(資金は国債の日銀による買い)で、
日銀に「公的資金」を入れるように決まっています(!?)

まぁ、いい加減なものです。とどのつまりは、漫才のような「お話」
になります。笑うしかないでしょうね。太古から金融の根元ではこう
したことを繰り返し、政府や銀行がつぶれることを周期的に行ってい
ます。新しいことではないのです。

▼昨年から今年の、日銀による資金投入は「外為会計」

福井日銀総裁、谷垣財務省大臣、竹中経済担当大臣の、03年4月の
イラク戦争以降のマネー政策は、160兆円枠に増額した外為会計で
日銀マネーを使うドル買いです。

ドル買いは、円資金の米国への貸付です。海外へ貸し付ければ、円は
減るというのは、すこし違います。以下のようなメカニズムです。

   [日銀による円の供給=財務省の外為会計への貸付]
             ↓
 [外為会計でドル債の購入=円をヘッジファンドに与える]
             ↓
    [ドル債を買った額=世界に注ぐ円通貨]
             ↓
  「(注)日銀は、不胎化(ふたいか)を行っていない」
             ↓
        「結果は世界への円の垂れ流し」

▼日銀による円の供給の仕組みは「買いオペ」

国内金融機関がもつ債券を日銀が買えば、債券の代わりに(銀行が使
える日銀当座預金に)円が振り込まれます。銀行は、融資や、融資と
同じ意味の債券(=利付き手形)の買いで運用ができます。

これが、日銀が金融機関に対し円を供給する金融緩和(=金利低下策)
つまり「債券の買いオペレーション」です。

「買いオペ」によって、金融マーケットに円を供給し(金利を下げ)、
金融を緩和する機能を、日銀はもっています。

金融市場の円を吸収し、金融を引き締め、金利を上昇させるのが、買
いオペとは逆の「売りオペレーション」です。

■6.監視が弱い外為会計を使う

外為会計によるドル債の購入も、これと同じです。海外のファンドや
国内の金融機関がもつ巨額のドル債を、外為会計で買い代金として円
を振り込みます。

昨年は、(ほぼ独断で)20兆円ものドル買いを行っています。04
年1月は、更に大きくなって7兆円です。円高阻止が名目です。

海外ファンドと国内の金融機関は、ドル債券の代わりに、あふれる円
をもつことになります。

(普通は)この円を、日銀は、手持ち債券の売りによって吸収する「
債券の売りオペレーション」を行ってきました。これをやけに難しい
意味不明の「不胎化(ふたいか)」と言っています。

昨年から今年の、外為会計の27兆円のドル買いでは、日銀は「不胎
化」を行っていません。つまり世界に向かった円の垂れ流しです。金
融政策の選択肢が、なくなっているのです。

政策目的は、
(1)米ドルの下落を防ぐ。
(2)同じ意味ですが、円の高騰を避ける、ことです。

ドルと円は、お互いの実質価値の切り下げ合戦をしています。

米国の財政赤字50兆円の約半分は、(欧州に変わって)日本政府の
外為会計(=日銀マネー)で埋めています。

同時に、ドルを買った額と同額(ほぼ27兆円)の円をばらまいてい
ます。これが「ガイジン買い」と言われ、昨年は8兆円くらい日本に
還流し、03年8月までの株高を演出した資金です。

ガイジン買いは純粋に外人の買いではありません。日本の金融機関が、
資金を海外のファンドマネジャーに預け、それを原資にファンドマ
ネジャーが日本株を買っていたのです。

以上のように、
(1)国内の不良債権は、財務省の公的資金で面倒を見て、
(2)米国の財政赤字は、財務省の外為会計の拡大で埋め、
(3)財務省が発行する国債と貯まったドル債は、日銀が買う、とい
う構造になったのが、03年4月からです。

04年は、更に拍車がかかります。その現れが、昨年までは79兆円
だった外為会計の枠をすでに使い尽くし、足りないので140兆円に
まで増枠するという財務省の政策です。

あれやこれやの策の総動員で、なんでもいいから国内と海外に円の増
加供給をする、これが、正当な政策決定をしているとは言えない04
年の金融政策になっています。

後は? まだまだいろんな政策を考えることができます。

(1)日銀にあまりに多額の国債を引き受けさせると、通貨として
   の円の信用問題になるので、「財務省が通貨発行」をする策。

   ノーベル賞の金融学者スティグリッツが提唱しています。
   財務省が発行する国債を第二の通貨にするということです。

   郵貯で1000万円以上の規定額を超える預金をもつ人には
   「強制的」に、1000万円を超えた額は国債に変えるとい 
 
   う方針を、今月、総務省は発表していますね。ご存じですか?

   どれくらいの額が、日銀にとって、多額すぎる国債になるか?
   100兆円くらいでしょうか。(今は91兆円)

(2)あらゆる手段で円の増加供給を続け、世界のインフレを待つ。
   今は、日本国内だけではインフレは起こりません。

【重要な注】金融機関への定期預金は、法的には、満期が来ないかぎ
り現金化はできない契約であることに注意してください。途中解約に
応じているのは、銀行の好意にすぎない。預金流出が激しくなれば「
もともとの契約はこうだ」に戻ります。

■7.奇妙なことの一つ

今、財務省と通貨当局に、奇妙なことが起こっています。
その中で、公表されているたった一つだけを挙げます。

<日本銀行は、新しい日本銀行券一万円券、五千円券および千円券に
ついて、平成16年(2004年)7月頃の発行開始に向けて準備を進め
て参りましたが、本日、財務省から「新日本銀行券の発行に万全を期
するために、その発行開始時期について平成16年の秋頃を目処とす
る」旨対外公表がありました(03年12月19日:日銀)>

http://www.boj.or.jp/money/03/bnnew5.htm

今年7月は、参議院議員の選挙の予定です。イラクに派遣した自衛隊
の犠牲や、懸念される国内テロが起これば、政局はどう転ぶか分から
ない。一寸先が闇です。与党は、公明党が支えています。
小泉首相に、急に白髪が増えたのはTVを見ればわかります。

(普通に)新札に替えるだけなら構えることはないでしょう。shか
し財務省が隠した狙いをもつなら「選挙後」しか実行はできません。

方法がないことはない。(憶測にすぎませんが、1年前に述べたよう
な)数十兆円のタンス預金もあぶり出し、「10%の財産税」をかけ
る方法です。

方法は、新1万円への交換を、旧紙幣の1万1000円等にすること
です。単純です。

現金以外の国民の金融資産1400兆円も額面で140兆円減ります。
同時に国債や民間の金融負債も10%(=通貨切り下げ分)カット
します。(20%でもいい・・・)

賃金と物価はインフレで10%上がったような勘定になります。
金融資産と金融負債のみが減るのが、こうした財産税です。

これは所得移転策です。誰から誰への所得移転か? 

(1)金融資産をもつ人(主として高齢者)の、金融資産合計14
   0兆円(10%なら)を、
(2)返せない負債を抱える国家、そして特殊法人、民間企業、住
   宅ローン負債者(主として30代、40代)に対しプレゼン
   トすることです。

当日まで「極秘」で行わないと、その前に価値が下がることを恐れる
円預金が海外流出します。方法は(深夜の・・・)首相の発表一本で
終わりです。あっけないものです。内閣は1つ、つぶれるでしょうか。
あるいは後世が業績を讃える名首相になるか。

痛みは[金融資産の額>金融負債の額]の人、法人です。
受益は[金融資産の額<金融負債の額]の人、法人、国家、特殊法人、
第3セクター、国家機関、地方財政です。

金融所得は、損得を合計すればゼロサムです。

1971年の「ニクソンショック(金ドル交換停止)」と同じです。
通貨価値の切り下げです。

年金のカット、生保の破綻申請の際の契約金のカットは、すでに政策
化されています。預金のカットだけが、手つかずです。これは「政策
的には不公平」でもある。

もちろん「憶測」です。「普通なら簡単なことであるはずの新円発行
の延期を、なぜ、万全を期すためにと言って、財務省が行ったのか」
考えてみてください。

日銀が行う通貨の10%増加供給も、経済原理的には、10%の通貨
価値を下落させること(物価を上げること)と同義です。しかし今は、
国内では信用の連鎖が必要な、市中マネー増加のメカニズムが壊れ
ています。

インフレの跫音(あしおと)は、他のことでも認めることができます。
本テーマはもっと具体的に書き継ぎます。本号は、序論です。

来週はイタリアです。巨額国債発行で、実質的な国家破産を経験し、
少子高齢化は日本より激しい。スロー・フードの食に意味を見いだし、
何かのんきで、まさにラテンですね。天才も多い。

以前、財布を見事に摺(す)られ、あれフトコロが軽いと気が付いた
のは30秒後だったので、今度はドロボーに気をつけます(笑)

see you next week from Italy
発行日がずれるかも知れませんが・・・

■ご連絡事項等

日本最大の小売り・飲食・サービス業界のセミナーと言われる<商業
界ゼミナール(第72回)(2月17日〜19日:シェラトン・グラ
ンデ・東京)>で、私は2月18日の午前中、2時間半の講演を行い
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  (先ほど見るとリンク切れは解消しています)

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ーヨークか、各社の最新店が集まっているラスベガスで行います。

詳細な内容が決定次第、このメールマガジンでご案内します。今のと
ころ、NYかなと60%くらいは傾斜。どちらがいいでしょうか?

『利益経営の技術と精神』(商業界)の校正が完了し、2月18日以
降に発売されます。前号でうっかり出版社を記載していなかったので、
書店から問い合わせが入りました。まだアマゾンにもありません。

雑誌『販売革新』等には、今年も、毎号、連載を続けています。今ま
で、奇妙にも解かれることがなかった「商品構成とは、実際は何をど
んな風に行うことか?」がテーマです。

今年も、始動しています。

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 2.形容詞と副詞の経済論
 3.経済論の焦点
 4.外為会計のドル買い
 5.ドル買いの結果は?
 6.国債は40兆円規模で発行
 7.家計の黒字がなくなった2003年
 8.03年に加わった外為会計を使う方法

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