おはようございます。一週間の、原発関連の展開を述べれば、問題
は、原因別に多岐にわたり、多くの文字を使っても、書ききれませ
ん。本稿では、必要な最小限にとどめましょう。
テーマは<破断界後の経済>とします。
約4週も、避難所で不自由な生活を強いられている人が多い中、大
震災の後の経済を想定するのは、不遜のそしりを受けるかも知れま
せん。しかし、復興にせよ災害保証にせよ、マネーが必要です。と
ころが今は、政府財源の枯渇のため、マネーの質が問題になります
。
政府の財政信用が担保である日銀のマネー増発では、今回はダメで
す。必要になる、20兆円余の資金調達に、どんな方法があるのか。
それが、財務省が外貨準備(主はドル国債)を担保にした、日銀に
よる政府へのマネー供給です。
【物損と波及損】
物損は、直接的なものだけで15~25兆円と見積もられています(比
較:阪神淡路大震災10兆円:政府:後述)。
加えて、上記に含まれない波及的な損は、たぶん阪神・淡路の数倍
は大きい。感覚的ですが、50兆円(GDPの10%)を想定します。(
注)この損に対し、政府マネーの投入が図られます。
社会インフラの喪失、長引く節電、原発問題、生鮮品の汚染と、消
費への心理の変化による機会損失です。生産と流通、そして生活を
支えるエネルギー転換の必要の問題もあります。
震災からの復興が語られますが、復興は「旧に復す」ことに重点が
あります。今回は、旧に復すことで終わらせてはならない。新たに
産業像と生活像(つまりビジョン)への構想を描き、作らねばなら
ない。21世紀型の、エコロジー経済です。
「復興=保証的な復旧+新構想」でなければならないと考えます。
3.11で「20世紀的なもの」が壮絶に終わったと考えているのです。
【想定外の意味】
原発の事故では「想定外」が言われています。ところが人工的なも
のは、障害の想定をしなければ、設計と施工ができません。
仮に震度7が設計の安全基準なら、それに沿った強度になる。圧力
容器、格納容器、配管、電源等の全部品も。基準を満たす設計にす
る。
[全体システムの問題]
ただし、部分が耐震強度を満たしても、原発プラント全体が耐震設
計を満たしているとは言えません。
「設計と実際の、設備工事の相違」、「弱くなる接合部の強度」が
混じるからです。これが、部分がつながった「システミックな危機
(全体危機)」です。原発では、原子炉ではなく、配管接合部と非
常用発電系が耐震設計で弱かった(ボトルネック)。
多用される想定外というコトバで思い出したのが、20世紀末のデリ
バティブ(MBS、CDO、CDS等)の金融商品でした。
デリバティブは、概略で言えば「損失保証」をする保険に似ていま
す。CDS(回収保証保険)は、債券の市場価格の下落分を保証しま
す。
保証料(プレミアム)は、損失の確率に基づきます。「過去の損失
事例」を統計的に標準偏差で計算し、未来に延長したものです。
その大前提は、債券の下落や上昇幅は、未来も過去(例えば70年)
と、同じ確率変動の幅に収まるという「先験的なもの」です。先験
的とは未経験の事態に関し、過去の経験を延長することです。
ところが、住宅価格で言えば、デリバティブの想定外である、「同
時・多地点」の、波及的な下落が起こった(事実)。
現実は「想定」超えてしまった。部分の確率変動は、経験的な幅に
収まった。しかし、部分が波及した全体は、想定を超えたのです。
これが「システミックなリスク(全体リスク)」です。
生命保険を考えれば分かります。生命保険は同時に多地点で、多く
の人が、平均的な寿命(過去の統計)を災害で絶たれることを想定
していません。そのため戦争、地震、天災での保証では、免責条件
をつけます。
【原発の経済計算】
今後の原発PLANTの設計、及び既存の54基の補強で、耐震強度を、
例えば、M9のエネルギーの地震とすればどうなるか。激しく概算の
推計ですが、1機で約3000億円超の設備投資額が、数倍の1兆円にな
るかも知れません。
加えて、最短でも10年くらいはかかる廃炉の処理には、かけた設備
投資に近い金額がかかるはずです。
圧力容器が奇跡的なところで壊れていなかったスリーマイルの事故
(1979年)では、14年の歳月と10億ドルを要しています。31年の後
の現在、最低でも1機で2.5倍($25億:2100億円)、6機では1兆26
00億円以上を要するはずです。おそらくは数兆円になる、被害の保
証額と合わせれば、東電は3.11で破産しています。
1985年に運転を開始した福島第二の3号機(発電能力110万KW/時)
の建設費は、3147億円でした(東電資料)。
16年後の現在価格では、1.5倍の、5000億円に相当するでしょうか
。更に、一機の廃炉処理(約10年)の累積費用はいくらか? 3000
億円を超えるかも知れません。今の原発は廃炉処理のコストを想定
していません。
結果は、火力に対する原発の「経済性」は、まるで確保できないと
いうことです。建設から廃炉までの総費用を見れば、わが国の54基
の原発は、経済性の観点と必要な耐震・津波設計の両面で間違って
いました。
今後、次々に40年の設備寿命を過ぎてゆく原発をどうするのか?
30年内では60~70%、50年内では90%の確率での大地震(東南海)
が想定されています(政府 地震調査研究推進本部)。原子力発電
を推進した国策には、誤りがあります。
これはデリバティブも同じでした。システミックなリスクを織り込
むと、プレミアムの価格が上がりすぎ、金融商品になり得ない。
【破断の後】
以上の、設備と金融でのシンボリックなものから、「20世紀的なも
の」は、9.15(2008年)と3.11(2011年)で、復旧できない破断界
を迎えたと認識しています。
じゃどうなるか。事例で言います。例えば東電は、今後必要になる
震災事故の保証料(現段階で数兆円とされる)と6機の廃炉処理の
費用を払うことはできません。保証は、復旧ですが、これが東電に
はできない。
最終結果は、大部分を「政府部門」が補うことにならざるを得ない
。数兆円の福島原発の処理費用に加わる、16万人の住民及び、他県
にまたがる農業や漁業の補償も巨額でしょう。
政府には財源がない。従って紆余曲折を経た結果は、日銀のマネー
印刷です。これを確定的に言います。
デリバティブの崩落でも同じでした。世界の金融機関は、債券の下
落分(IMF推計で500兆円)を保証すること、つまり復旧ができなか
った。
そのため、9.15以降の2年半、米政府、欧州政府、FRB、ECB、IMFが
継続して分担し、債券価値の下落分をマネー供給で補っています。
(注)なお、ポルトガルの国債金利は、その間、10%に上がってい
て、国家破産が一層現実化しました。政権も、不在になりつつあり
ます。ギリシアの国債金利は、12%に上がっています。欧州の金融
危機は深刻化しています。最終的には、デフォルトしかない。
金融商品の下落は、形あるものの破壊ではない。しかし、それは人
工的な設備の下落(住宅や不動産の下落)です。破壊はなくても「
価値の損失」です。そのため物損に、等しい。
【マネー供給の余波】
世界の資源価格の高騰は、ゼロ金利マネーの印刷(形態は貸し付け
金の振り込み)を原因に、ヘッジファンドに投機マネー供給されて
生じたものです。これは、資源コスト(原材費)の上昇です。
【半年後からは、インフレに向かう】
金融商品の下落を補うための政府マネー(中央銀行マネーを含みま
す)の投入は、一部が、ヘッジファンドの投機マネーに転じ、資源
価格(=国際コモデティ)の、需給以上の高騰を促しています。
(注)ロイター・ジェフェリーズCRB指数(1967年が100)で、279
(2010年平均)が、362(2011年3月初旬)へと、約半年で30%上昇
。金は、$1227(31.グラム)が$1428へと16%上昇しています。
これら資源価格の上昇は、FRBの紙幣印刷による米ドルの実効レー
ト(世界の通貨に対するドルの価値)の低下と見合います。
しかし以上は、まだ消費者物価の上昇には、なっていません。理由
は、08年の9.15(リーマン・ショック)以降の新興国と先進国に、
「生産余力」があったからです。
例えば、わが製造業の稼働率指数は、昨年比で6.2%回復したにせ
よ、まだ89(2010年12月)の低水準です。これは、10%の増産をし
ても、物価は上がらないことを意味します。
ところが約10%の生産余力がある中で、企業間物価(卸売り価格)
は、2011年1月で103.9です。原因は、資源の価格指数の362への上
昇が、コスト・プッシュをしたものです。
当面、「消費心理の低下(自粛)」から、消費が減ります(三ヶ月
か?)。その後は、政府マネーによる「復興需要」になる。
その復興需要の中で、供給量の減少を原因にした食品価格と生活基
礎物資の価格上昇があるでしょう。建築資材も上がります。
(注)人の噂は75日と言いますが、これは正しい。何事でも、同じ
マスコミ報道が飽きられる時期が、2.5ヶ月くらいです。その間、
不要不急な商品やサービスに対する消費の自粛が続くでしょう。
【原発問題】
原発問題の終結(100度以下の冷温停止)は、長期化します。短く
て数年が想定されています。
高い確率で、悪化も想定できます。商品生産を減らす関東の電力不
足の問題も、二年は続くでしょう。東北での生産とロジスティクス
の回復は、最短で一年かかるでしょう。
現在、深刻な事故(シビア・アクシデント)は1~4号機の全部です
。5号機と6号機は、情報がなく不明です。汚染水が外部に出ている
ことからも、問題は残っています。
(注)シビア・アクシデントは、閉鎖系でなければならない炉心の
水が外部に流出することです。核燃料は、運転を止めても、10年は
、冷水で冷やし続けねばならない。
東電・政府が提供する情報は、核心部分、言い換えれば原子炉(圧
力容器内の炉心と、格納容器)の状態を示すに十分ではない。「確
認できない」とされ、3.11以降、約1ヶ月も不明のままです。現場
では把握され、その公表がないのかどうかも不明です。
今は、水を外部から注ぎ続けています(1炉で1時間に7トン平均以
上)。このため、高度汚染水も、外部に出ざるを得ない。原子炉の
、閉鎖系の冷却水循環機能の回復には、手が着いていません。
実際に現場で作業を行った方は、そのブログで、山登りに例えれば
解決の一合目にも達していない。山は見えたが、4週後の今も準備
をしている段階で止まっていると言う。圧力容器の底には穴が空き
、格納容器も破損がある。
6機の核燃料を冷温停止させた後、何らか方法で、圧力容器の蓋を
開けて取り出し、使用済み燃料も別個に処理できるまで、巨大プー
ルも作ることができません。燃料は、6機で2000トンもあります。
この間、1機でも汚染が悪化(放射性物質の外部放出量の増加)に
向かえば、4機全部に対し、現場で対策を打つことが難しくなる。
[1000ミリシーベルト/時以上]は、原発サイトでの、配管の修復
のための作業不能を意味するからです。
現場指揮と対策作業に当たる方は、一人が250ミリシーベルト以上
を累積で被曝すると、核種が何であれ、(普通)その後1年間、被
曝量が少ない場所で、休業せねばならない。特に、現場作業の指揮
者(東電管理職の方々)の累積被曝量が、懸念されます。
各号機の冷温停止の確率が、政府が言うよう「予断を許さない」と
すれば、[冷温停止50%:悪化50%]ということでしょう。
4号機の全部が、予断を許さない状況と仮定すれば、この全部が終
結処理に移ることができるための冷温停止をする確率は、50%×50
%×50%×50%=6.25%でしょう。
以上は、今後数ヶ月を見通したときの、4機の冷温停止の成功確率
と見ることができます。(注)問題解決の、シーケンス確率です。
各号機の冷温停止を70%の確率と高く見ても、0.7の4乗=24%です
。80%で、0.8の4乗=41%の成功確率です。
【商品の供給不足】
どの程度、大気、土壌、海洋の汚染が広がるかにかかっていますが
、特に、東日本産の生鮮食品(青果、魚、肉)は、供給障害に遭遇
します。これは2年スパンでの全国の消費者物価の上昇を生むでし
ょう。
【マネーは供給】
他方で、日銀は3.11以降、急遽、企業、銀行、政府のマネー不足を
補うためマネー供給を全開しています。
震災前の3月10日の日銀の総信用(資産・負債)は、133兆円でした
。最新データは3月20日付けのものですが、総信用は149兆円に16兆
円膨らんでいます。
震災後の10日間で、16兆円のマネー供給(純増)を増やしたという
意味です。今後、もっと増えるはずです。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/
なお日銀は、上記とは別枠の、経済対策のための「資産買い入れ規
模」を、東日本大震災前の35兆円から40兆円に増枠しています。
【北アフリカと中東】
加えて、北アフリカと中東での、イスラム革命の波及があります。
これは、われわれにとっては、原油と資源価格の高騰(現在は1バ
ーレル$100~$120)を意味します。このため、今、欧州を中心に
、金利上昇の気配があります。
半年後を示すとされることもある株価や円価格は、以上の総合的な
波及を、読み込んでいないように感じます。以上が、若干長いプロ
ローグです。以降は、各論です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<532号:アフター3.11:破断界の後の経済>
2011年4月6日号
【目次】
1.阪神・淡路大震災後の経済は、どうなったか
2.唯一の方法を提案
3.以上の方法で、震災対策費を政府が確保した後はどうなるか
4.長期化する節電・停電・原発問題が、生産に及ぼす影響は商品供
給の減少
5.基礎生活財のインフレへ・・・
【後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■1.阪神・淡路大震災後の経済はどうなったか
1995年のとても寒い1月17日でした。10兆円の物的損害を生んだ阪
神・淡路大震災が起こった。比較すれば、以下です。
直接物損 地域人口 地域GDP
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
阪神淡路大震災 10兆円 556万人 20兆円(日本の4%)
東日本大震災 20兆円 571万人 20兆円(同)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(東洋経済 11.04.02:小黒一正 一橋大学教授)
(注)今回の直接物損は、破壊の程度から見て恐らく25兆円以上に
なるでしょう。波及的な損は含みません。
村山政権は、直接的な被害復旧のため、1月20日に、1兆円の投入を
決定。2月28日の一次補正予算で、2.7兆円に増額しています。
更に、5月19日に二次補正予算を組み、6.0兆円を追加投入しました
。合計で、8.7兆円の対策費の投入でした。10兆円の物損をこれで
補ったのです。
(注)当時の二次補正を含む一般会計の総規模は、78兆円でした。
現在(92兆円)より14兆円小さかった。加えて、世帯の貯蓄率は高
く、金融機関が1年に30~40兆円の国債を増加買いする余力があり
ました。
このときも円レートは、当時に最高の$1=79円に高騰しています
(95年3月)。原因は2つです。保険金を確保するための保険会社の
ドル資産売りと、ヘッジファンドによる、復興需要を期待した円買
いです。
今回も、東日本大震災の直後は、$1=76円に高騰し、阪神・淡路
大震災での円高と同じことが起こっています。
普通なら、円が売られ、円安に向かうはずです。
仮に、GDP比で同規模の大震災と原発問題が、対外純負債($10兆
:08年末)が多い米国で起これば、即刻、ドル国債が世界から売ら
れ、米ドルは崩落します。
なぜ、円買いという逆が起こったのか? 基底の原因は、わが国(
民間、政府)が、主にドル債として持つ対外純資産(09年末で266
兆円:財務省統計)があるためです。(注)総資産554兆円:総負
債288兆円
http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/21_g.htm
観測:「日本は、震災の対策資金が必要だから、ドル債を売るだろ
う。ドル売り・円買いになる。これは円高・ドル安を意味する。だ
から円を買う」という動きです。今回の瞬間的な$1=76円もこれ
でした。その後、円売り・ドル買いが勝ち今は84.8円です。(11.0
4.06)
阪神・淡路大震災の後は、10兆円の物損に匹敵し、その後の数年ス
パンで見れば上回る政府対策費があったため、GDPの低下は避ける
ことができました。
日本経済は、復興需要(建設と支援金)のため、高成長に向かうと
いう経済学者もいて顰蹙を買っていました。今回も、東日本震災直
後に経済予測を出し、世論からは不遜だと叩かれた人もいます。
【マネー印刷】
今回、(物価上昇を引いた)実質GDPが上昇に向かうかというと、
それは難しい。名目GDPは物価上昇後なので、これは上がるでしょ
う。
その原因は、政府の財源が枯渇し、増加国債は、日銀引き受けしか
ないからです。
国の資金循環表(日銀)で見ると、国債を引き受ける余力は、今、
一年に20兆円程度しかない。ここが、1995年(30~40兆円の国債買
う受け余力)とは、様変わりした点です。
物損の復旧だけでも、最低でも20兆円(阪神淡路の時は10兆円でし
た)が必要です。
財政赤字の拡大から、もともと1年に43兆円の国債発行が必要でし
た。このうち約20兆円は、直接・間接に、日銀引き受けの予定だっ
たと言っていい。
震災対策費が20兆円余分にかかるとすれば、日銀の当年度国債買い
受けは、もともとの赤字国債分20兆円+震災特例国債20兆円=40兆
円になるでしょう。方法はあるのか?
日銀が、40兆円全部を引き受ければ、円安(円売り)から、金利高
騰に向かいます。FRBによる(QE2:米国債の買い受け$6000億)と
同じ結果になる。
2010年秋からの、実効レートでの約20%のドル安(資源価格高騰)
は、FRBによるQE2の発動を原因に起こっています。
(注)FRBは、2011年5月にQE2を停止する予定でしたが、恐らく、
延長を迫られるでしょう。これは今後のドル安要素です。
■2.唯一の方法を提案
▼ドル債券の利用
わが国は、過去の経常収支の黒字で、対外純資産が266兆円です(0
9年末)。その後の円高で減ったとは言え、200兆円(現時点)の純
資産でしょう。
対外債権の総額は500兆円余です。政府が管理している外貨準備だ
けでも、$1.09兆(92兆円:11.01)です。
これを売れば、短期的には、政府の震災対策費を作ることができま
す。しかしそれは、円高・ドル安を大きく進める要素になる。
米国は増える財政赤字のため、一年に約100兆円規模の$国債のう
ち50%(50兆円)を、継続的に海外に売らねばならないからです。
経常収支の黒字(1年で約15兆円規模)のため、ドル債の一貫した
買い手だった日本(政府+民間)が、手持ちのドル債を増やすので
はなく、「売り手」に転じたとなればどうなるか。
世界がドル安を予想し、中国、アラブ、新興国(BRICs等)も、ド
ル売りに転じるかもしれません。
可能性は極めて高い。そうなるとドルはあえなく崩落します。わが
国は、大きな円高・ドル安で、100兆円規模の$証券の損失と、輸
出減による二重の損をします。
▼方法
方法はあるのか? 財務省がもつドル債(92兆円)を担保に差し出
して、政府が日銀から円マネーを得る方法です。
実質的には、日本政府によるドル債売りに等しい。しかし、一旦は
(ワン・クッション)、日銀が円を刷って買い受けるため、直接的
な円高・ドル安にはなりにくい。
(注)これは、長期的には、ドル安・円高の要素になります。日銀
も、ドル債売りをせねばならない時期が来るからです。ただし、日
本のGDPの低下と、経常黒字の減少があると、その後は、再び円安
に向かうでしょう。
▼特例税制は無効
時限立法の震災特例消費税(例えば+5%:財源として12.5兆円)
も言われています。これは、消費者物価を5%上げるに等しい。
特例であれ何であれ、インフレ傾向が5%加速したことによるスタ
グフレーション、言い換えれば、物価上昇と不況(失業の増加)が
同居する経済を生んでしまいます。
更に、今1.2~1.3%の長期金利の上昇を意味し、1000兆円余の国債
の下落になります。
▼金利上昇は、抑えねばならない
国内、国外の債券市場で売られる国債を日銀が買えば、金利上昇も
抑えることができるという人も多いのですが、そうではない。
長期金利は、日銀のコントロールの外にあります。国債の売買市場
で決まるのが、長期金利です。日銀も、債券市場では1人のプレー
ヤーです。
長期金利は、金融機関とファンドの国債売買によって決まります。
巨額資金をもつPIMCOやポールソンファンド、及びソロスファンド
等のヘッジファンドが狙っている「国債の先物売り」もある。
米欧の住宅証券に先鞭をつけた売り崩しと、PIIGS国債の売り崩し
は、これらヘッジファンドよる先物売りとCDSの売りでした。先物
売買には、自動的に30倍~100倍のレバレッジがかかるので、その
額は巨額になります。
国債の信用リスクの高まりによるCDS(回収保証保険)の売りも、
同じ効果です。CDSが売り超になれば、金利は、信用リスクが高く
なるという要因から、PIIGSに似た悪い上昇を起こします。
(注)国債の先物売りは、近い将来の証券の下落(=金利の上昇)
を予想し、先物指数を売り(下げ)、現金を得て、その資金で期限
月内の低い価格で買い戻して(清算して)、利益を得る取引です。
相場が予想通りに動けば、つまり金利が上がれば、先物を買った額
と、限月内に買い戻した額の差金の利益が出ます。逆に動けば(金
利が下がれば)、損をします。
以上を引き起こさないために、財務省がもつドル債を担保に、日銀
が政府に貸し付ける方法を提案します。
米政府も、この方法に対し、「ドル売りだから反対する」とは言え
ないでしょう。日本に大震災での巨大被害が生じた緊急時だからで
す。債権国(日本)は、以上の意味では、債務国(米国)より強い
。
■3.以上の方法で、震災対策費を政府が確保した後はどうなるか
▼避けねばならないこと
今、政府は消費税の増税策を、決してとるべきではない。物価を上
げ、しかも景気(GDP)が回復しないスタグフレーション(前掲)
を生むからです。GDPの低下から悪い金利上昇が起こり、(国債価
格が下がり)ひどいことになる。
この金利の上昇は、好況期の、資金需要の増加による金利上昇とは
似て非なるものです。国債リスク(信用リスク)の上昇による、金
利高騰になるからです。GDPが増えないと、国債リスクは上昇しま
す。
長期国債金利=実質GDPの期待上昇率+物価の期待上昇率(CPI)+
国債の信用リスク、です。
今、日本国債の信用リスク率は0.8%~1.0%の範囲です。これは日
本国債にかかったCDSのプレミアム(保証料=信用リスク料)でも
ある。国債の持ち手が、別の金融機関に保証料を払い、国債価格の
下落による損をカバーしてもらう取引がCDSの売却です。
実質GDPの上昇期待による、長期国債金利の上昇なら、歓迎です。
しかし、同じ金利の上昇でも、「期待物価上昇率(CPI)+国債の
信用リスク」の上昇による金利高騰は、PIIGSに類似した悲惨です
。
▼20兆円規模の震災対策費は、損害で下がる実質GDPを維持させる
財務省が管理する米国債担保の、日銀による20兆円の増加資金供給
なら、日本国債の信用リスクは、さほど上がりません。
(注)代わりに米国債の信用リスクは上がる。米国の長期金利が上
昇します。
ただしこれは、「実質GDPの期待上昇率+物価の期待上昇率(CPI)
」部分の金利を上昇させます。
実質GDPの期待上昇率が上がるのではない。
物価の期待上昇率(CPI)の部分が上がるでしょう。
わが国の消費者物価は、前年比で0.2%のマイナス傾向でした(生
鮮品を除く:11年1月) これが、約2%の上昇に向かう感じがしま
す。この面での、金利上昇は起こるでしょう。
しかし、今、それを抑える余裕はない。震災対策費が20兆円から大
きく不足すれば、実質GDPの低下が大きくなるからです。
■4.長期化する節電・停電・原発問題が、生産に及ぼす影響は商品
供給の減少
現在の電力消費の構成比(年間)は以下です。1兆KW/時の総電力の
うち、約30%(3000億KW/時)が原子力発電です。B/S風に書けば以
下になります。(注)1年間の累積です。
【消費サイド】 【供給サイド】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
製造業 42%(4200億KW時) 火力 60%(6000億KW時)
非製造業 28%(2800億KW時) 水力 9%( 900億KW時)
家庭 27%(2700億KW時) 原子力30%(3000億KW時)
その他 3%( 300億KW時) その他 1%( 100億KW時)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
消費 1兆KW時 供給 1兆KW時
(注)火力は、石炭・石油・天然ガス。その他は太陽・地熱・風力
。
【東電管内】
東電管内は、東京都(1316万人)、神奈川県(905万人)、埼玉県
(719万人)、千葉県(622万人)、茨城県(297万人)、群馬県(
人口201万人)、栃木県(201万人)、山梨県(86万人)です。静岡
県は377万人ですが、管内は富士川以東です。総人口で約4500万人
。関東のGDPは、日本のほぼ50%(250兆円)を示すでしょう。(注
)長野県(215万人)は中部電力です。
本州を縦断する糸井川構造線で、東日本が50ヘルツ(関東、東北、
北海道)、西日本(北陸、中部、関西、中国、四国、九州、沖縄)
が60へルツです。災害での不足時には、東西間で、相互に融通が可
能ですが、これは今、最大で120万KW時と少ない。このため、東電
管内に電力不足が生じます。
経産省は4月内に東電管内の計画節電を停止し、夏場のピークに、
産業の大口需要で25%~30%、家庭で15%の削減を計画しています
。東電の管内です。(11.04.06:日経新聞)
日本のGDPの約50%を占める東電管内での、夏場の供給不足は、
・猛暑なら1日で1500万KW時(不足が25%)、
・普通の夏で1000万KW時(不足が17%)が予想されています。
昨年(ラニーニャで猛暑日が続いた)の夏の、ピークでの電力消費
は、6000万KW時(東電管内)でした。上記の不足割合は、6000万KW
時に対してのものです。
家庭での15%削減は、冷房の我慢で可能でしょう。しかし家庭の消
費電力は全電力の27%にすぎません。東電管内の全家庭(1500万世
帯)が平均して15%節電しても、全体では27%×15%=4%に過ぎ
ません。
問題は、製造業・非製造業の電力消費(構成比70%)です。経産省
の予定では、ピーク時(6、7、8、9月)に大口需要分を25%~30%
も減らすという。(注)需要量が発電量を上回れば、全域停電にな
るからです。
鉱工業における、生産と輸配送のための電力消費は、4月を100とす
ると、5月97;6月105;7月111;8月103;9月108;10月101;11月95
;12月87です。(08年:経産省)
これを見て唸ってしまいます。東電管内の鉱工業や、流通・サービ
ス業は、生産と販売活動の、時間短縮を迫られます。
東電管内で、2011年は25%の生産・流通が減る(日本のGDPの12.5
%に相当)とは言えなくても、大口電力消費の25%削減は相当な、
商品生産と流通量の減少をもたらします。
(1)直感的に言ってGDPの50%を占める東電管内(人口4500万人)
で、10%(25兆円)の生産・流通の減少でしょうか。これは、日本
全体では5%のGDPに相当します。
(2)加えて甚大な被災地(GDPで20兆円)での、設備とインフラの
破壊があり、一年間で失われる生産は、10兆円でしょうか。
(1)と(2)の合計で35兆円の、住宅・設備・社会インフラの損害
後(20兆円)の波及です。回復には、最短で一年はかかるでしょう
。
関東・東北での生産と流通の減少(35兆円)を補うのが、中部・関
西・九州・北海道・北陸・四国での10%(全国のGDPでは5%:25兆
円)の増産でしょう。
増産ができない商品の価格は、需要数を減らすように上がります。
中部以西で、東北関東での雇用減を補うように雇用が増えます。
建築も人手不足になって、資材も上がります。
電力の70%を使っている産業での、消費量の構成は、機械器具製造
36%;化学工業13%;食品製造8%;ゴム製品1.3%;窯業1.2%;
鉄道1.2%;その他40%です。
■5.基礎生活財のインフレへ・・・
産業では電力がないと生産・販売ができません。店舗も営業時間の
短縮になり、売上が減ります。(注)時短でも生活必需の店舗は売
上が増えます。
暑い夏になるだけではない。生産や流通活動も、制限を受けます。
とりわけ今は、コンピュータが止まると、何もできない。
前述したように、日本の製造業の稼働率は、大地震前で89%です。
東電管内(わが国GDPの50%)の時短によって供給力が10%落ちる
ことで(推計)、日本全体で言えば、工場と流通の稼働率が95%に
近くになるかも知れません。
【関西や九州も】
卑近な現象で言えば、関西の食品スーパーの棚からも水、生鮮食品
及び生活の基礎物資が不足しています。鮨屋の魚も不足です。これ
が長引くと、店頭物価の上昇を促します。つまりインフレです。
特に、食品や生活財の基礎物資においてです。
コンビニやドラッグストアでも同じです。
思わぬところから、生産・流通の障害が起こってしまった。
東日本からの出荷(野菜・肉・魚・乳製品)が、事実上ストップし
たため、被害のない九州ですら、関東や東北の知り合いや親戚に送
るための玉突き現象で、不足しています。海と土壌汚染は、原発の
終結が長引くと長期化します。これから植え付ける米も、どうなる
か・・・宮城、岩手では船も港も消えています。
【拙(まず)い策】
政府(厚労省)は、野菜等(意味は全部の野菜と果物でしょう)に
関し、2011年3月18日に、急遽放射線の計測方法を変更しています
。
原発事故以前の計測では、「畑から採取し、洗浄する前の状態」で
した。今は、「試料(サンプル)を流水で洗った後の計測」です。
これで50%から80%が落ちるとされます。このため、重ねて家で洗
ってもあまり効果はない。マスコミはこの変更を伝えたでしょうか
?
事務連絡:測定マニュアルに関する留意事項:
「野菜等の試料(サンプル)の前処理に際しては、付着している土
、埃等に由来する検出を防ぐため、これらを洗浄除去し、検査に供
すること。 なお、土、埃等の洗浄除去作業においては、汚染防止
の観点から流水で実施するなど十分注意すること」
厚生労働省 医薬食品局 食品安全部 監視安全課(3月18日付)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015is5.pdf
苦し紛れにとった場当たりの政府決定の数々が、風評被害を一層生
みます。困ったものです。丁寧にも「流水」で洗えという指示です
。中性洗剤も使えということかも知れません。
この通達から、政府の狙いと逆に、店頭に出た商品も畑の土壌と大
気の、規定値以上の汚染を逆証明するとみなされてしまう。即刻に
、通達の取り消しを要求します。
こうしたことが複合し、野菜で言えば、かつて、安全に問題がある
と(科学的な根拠が薄いにせよ)感じられていた中国の冷凍や、冷
蔵野菜(コールド・チェーン)のメーカーに、わが国の食品スーパ
ーのバイヤーが殺到しています。
皮肉なことに、高くても品質と味がいいとされていた日本産が、ア
ジア全域と米欧で、今、売れにくくなくなっています。
風評被害ですが、原発汚染の収束には長期がかかるので、国内と国
外同時に、風評被害も長期化します。
「1Kgでも**ベクテル以下だから安全」と敢えて言わねばならな
いものだからという理由で、売れにくくなってしまいます。
15年のデフレの後、一転して、インフレを想定せねばならなくなり
ました。
マネーは、ほぼコストゼロで刷って、貸し付けができます。しかし
商品は、日銀では刷れないからです。政権の問題ではない。民主・
自民の大連合でも結果は同じです。
有料版・無料版の、共通バックナンバー(3月の12号分)
http://www.mag2.com/m/0000048497.html
http://archive.mag2.com/0000048497/index.html
【後記】
財務省が、以上のように、方針転換することを要請します。ドル債
担保の、円発行です。
これを行わないと、年央にもヘッジファンドから国債先物が売られ
て、日本は、スタグフレーションになります。
スタグフレーションでは、物価が上がって悪い金利上昇があり、国
債の下落と発行難から国家財政も数年内に破産します。財政運営で
は、一途に、これを避けることです。所得増加がなく物価が上がる
スタグフレーションは、国民生活を窮乏させるからです。方法はあ
るのですから、その方法を採らねばならない。
加えて、日本のみならず世界で、原発に対する態度が変わります。
これは、この1年で、原油と天然ガスを上げるでしょう。
第三次オイルショックと言っていい。
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