まずは、ユーロ危機の、2012年1月から3月
Written by admin on 2012年1月11日 – 09:00
おはようございます。有料版・無料版の増刊で、スピーカー工作のこと を書いて月曜日に送ったら、あるひとの友人への転送が、たぶん間違っ て当方にも来て、なんだろうと読むと「いまどき、こんなアホもいる」 でした。 木くずと炭塵や鉛粉、手にこびり付いてとれない接着剤にまみれるスピ ーカー工作は、なるほどアホだと、自分でも納得します。 でも、大阪で言うアホって、なんだかいい。普通の基準を、何かで、馬 鹿馬鹿しく踏み超えた人、あるいは劣った人という原義でしょう。 芥川龍之介は『或阿保の一生』を書き、ドストエフスキーは『白痴』を 書いて、サルトルは大部のフロベール論(未訳)を『一家の馬鹿息子』 としています。完全をもとめての、踏み外した徹底と集中からくるアホ は、仕事の目標です。 * 【金融・経済】 金融・経済について書くことが、続いています。企業がファンド化した 米欧では、2006年ころまで、大手企業の利益の30~50%は金融利益でし た。 2000年代前半期の米欧企業の高収益は、その多くをデリバティブ運用( 売買)で加わった金融利益が、もたらしていたのです。金融業ではなく 、製造、流通の普通の会社が、です。 米国と英国が、この点でもっとも激しかった。わが国では、米欧の銀行 (銀行と証券会社が合体した投資銀行)から高く買わされたデリバティ ブで損をするところが多かった。 通貨も、先物(FX)のデリバティブですが、長年、輸出国超過だった( 2011年すでに過去形です)わが国では、円高(=基軸通貨安)や円安が 、営業利益よりはるかに多くの利益部分を、決めています。 以上の「経済の金融化(=証券化)への変質」が、当方がビジネスマガ ジンで、金融・経済を多く取り上げる理由でもあります。 【名目GDPの、3倍超の金融資産の金利が5%なら:仮想】 たとえば、日本の世帯の金融資産は、総額では1500兆円です(世帯と世 代で保有格差が大きい:中味は預金が50%、保険、年金基金、株、社債 、国債等)。 この1500兆円が、歴史的に普通の金利(3~5%)で運用できるなら、1 年に45兆円(名目GDP469兆円の10%)や75兆円(同16%)の世帯所得に なります。1年だけではない。毎年、世帯の金利収益があるのです。 それに日本(民間の銀行・保険+政府の外貨準備$1.3兆)は海外に56 3兆円の債権(=金融資産)を持ちますから、563兆円×金利5%=28兆 円(現在の10兆円の約3倍)の、経常収支の黒字です。消費税で換算す れば、ほぼ13%分が、海外からの所得になるのです。 【金利が正常なら】 世帯所得(約250兆円:1世帯500万円平均)に45兆円や75兆円が付加さ れます。給料水準が45兆円(18%)から75兆円(30%)上がったことと 同じです。しかし、これは、得られない仮想です。 1500兆円は、金融機関に預けられて運用され、国家(官僚組織の国債) 、企業(負債)、世帯(ローン)、そして海外(主は米国)の負債にな っているからです。 1500兆円を借りた側(国、企業、世帯)が、金利として借りた金額の3 %や5%、金額では45兆円~75兆円を払うことは不可能です。 このため、金利は1%や2%に低くならざるを得ない。平均で言えば、金 利1%がやっとで、2%でも、借りた側(政府、企業)が払えません。政 府も金利が3%に上がるだけで、財政が破産します。 PIIGSのような、国債の不良債券化(価格下落と金利の高騰)は、世帯 の金融資産の不良化でもあります。それが、PIIGS債を保有する金融機 関の、自力では埋めきれない「含み損失」になっています。 【東欧債も不良債権】 付記すれば、欧州の銀行は、PIIGS債(150兆円)とほぼ同額の、東欧債 を持っています。東欧債と株も、PIIGSとほぼ同じ下落です。(経済マ スコミはこれを知りません) 欧州の、主要90行(ドイツ、フランスを含む)は、いま、保有資産の時 価評価をすれば、自己資本を完全に失っていて、債務超過で、実質的に 破産しています。 これが、一般に知られると、欧州と海外から、同時に、預金取り付けと 投資の引き揚げが起こって、金融が崩壊します。このため、絶対に、「 銀行はすでに破産」とは言わない。 【決済に足りないお金は?】 EUの政府とECB(ユーロの中央銀行)が、躍起になって、毎週、資金供 給しています。方法は、政府と中央銀行が、銀行の不良債権を買い取る か、担保にして貸し付けることです。これは、「ユーロの価値」を下げ ることです。このため、ユーロ債とユーロが売られて、かつては160円 もしていたユーロが98円付近(12.01.11)に下がっているのです。 【テーマ】 本稿のテーマは<まずは、ユーロ危機の、2012年1月から3月>です。「 まずは・・・」というのは、ユーロ危機の後の2012年内に、円またはド ルが続くだろうからです。 【2011年9月以降の、世界の通貨に対する実効レートでのドル高は】 昨年8月の株価暴落のあとの、秋付近(11年9以降)から、米ドルがユー ロに対し上げている理由は以下です。 ユーロの下落を恐れたことからのユーロ債売りが、 (1)ドル債への避難(ドル債買い)、 (2)世界に対しもっとも巨額の債権(約$30兆)をもつ米国(ファン ド、金融機関)によるユーロ債からの引き揚げになっているからです。 (注)ドルの実効レートは、[2011年1月 73→8月69→12月73]です。 実効レートは、世界の主要通貨(ユーロ、円、スイスフラン、カナダド ル)の加重平均に対するドルの価格指数。 加えて、新興国・産油国・日本・中国において「米ドル信仰」が、まだ 強いことがドル高の理由です。 【ドル信仰】 信仰とは、理由や根拠からではなく、信じるという行動です。しかし、 経済的な信仰は、神への信仰とは違い、あるきっかけがあると、もろく 、一挙に剥(は)がれます。 「事実→人の認識→経済行動」だからです。 大勢の人の、認識の転換点がいつかということになる。 住宅債券の下落が、PIIGS国債(額面で約400兆円)の下落よりはるかに 大きな米ドルが、かねてから、ユーロ債より危険と思っていますが、世 界の大勢は、まだ逆です。 米国の住宅債券(額面で$11兆:880兆円)の時価価値が、ほぼ50%や4 0%に下がっているという認識は、多数派にはまだないのでしょう。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <572号:まずは、ユーロ危機の、2012年1月から3月> 2012年1月11日号 【目次】 1.金融・経済は、観念という共同幻想の働き 2.なぜ、「金融・経済」と言うか 3.日本国債のCDSも、7.5倍に高騰 4.1930年代の金融危機のときの動きは、現在と同じ 5.ユーロ危機が本格化する2012年1月から3月 6.2012年1月~3月の欧州の、金融債と国債の償還 【後記】ヘッジファンドの2011年の損は、8.9%だった。再び、ヘッジ ファンドは、投資家が引き揚げる冬の時代へ向かった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.金融・経済は、観念という共同幻想の働き 【美人投票】 通貨、株価、国債はケインズが巧みに言った「美人投票」で、その価格 が決まります。 認識の共有幻想に支配された買いが多ければ、上げる。少なければ下げ る。美人投票では、自分が美人と思う人ではなく、「他人の多くが美人 と思う人」を当てねば、勝てません。 このため、相場は、上げる時は上げすぎ、下げるときは下げすぎる。証 券化で、巨額資金が動くようになって、そのボラティリティ(標準偏差 =変動幅)が拡大しています。 【共同幻想で見るのが人間】 人間は、事実を見るとき、事実そのものではない「観念」で見ます。観 念は、社会(秩序のある集団)に属する人が共通にもつ、共同幻想に支 配されます。社会の原初形が、村落共同体です。 ある人が殺人を犯したとします。警察が逮捕するまでは、周囲の人には 「殺人犯」には見えません。殺人を犯した人が犯人顔にはなっていない からです。(注)戦争で、数百人の殺人を犯しても、社会が「犯罪」と しないので、犯人顔にはなりません。英雄です。宮本武蔵も犯人顔でな い。現代なら犯罪です。 逮捕された後に、同じ写真を見れば、例え冤罪(無実)であっても、ふ てぶてしい顔をした「犯人顔」に見えてしまう。美しい顔であればある ほど、陰険な犯人に見えます。 こうしたものが、社会がもつ共同幻想(=共通観念)です。われわれは 、多くの場合、事実は見ていない。いや、見えていない。 社会的な意識(社会心理という)が、個人にも及んでいるからです。芸 術作品の評価も同じです。社会の評価が高いと、いいものに見えるので す。 【科学】 科学は事実を、数値で測定します。社会の共同幻想で見ないためです。 しかし医学の、一例を言えば高血圧等の測定数値は、医学の共同幻想で 、健康か病気かと診断されています。放射線は科学ですが、その害は、 まだ、医学で共有化された科学ではない。 【経済学は科学ではない】 経済学では、ミクロ経済学の根幹にある「価格の高い、安い」は観念で あり、科学ではない。 このため経済学はどこまで行っても、自然科学ではありえません。 人間の、経済的な事実に対する観念を研究する人文学です。 これが、近年の「行動経済学」でしょう。 エルメスのバッグが100万円でも売れるのは、共同幻想のためです。 【事象の意味】 金融・経済的な「事象」がその例です。「事」は事実ですが、「象」は 観念に属するイメージです。 たとえばいま、アップルは光り輝き、ソニーはくすんでいます。ソニー の象がくすんでいるのです。 【事例】 原発事故の後の東電や経産省は、どう見えますか? 事故が起こらない 前から、東電の体質は、まるで、同じです。 事故が起こってみると、われわれに見える体質(=企業文化)が、変わ ったでしょう。企業文化は価値観であり、価値観は、その企業が「何を 大切にするか」ということです。 東電と政府の、企業文化は、組織の自滅に向かうものです。自滅とはほ かとの競争で負けるのではない。電力会社と、政府(ガバーメントが国 家です)には、競争がない。あるのは、自滅です。ほかのことでも、企 業が業績を落とすのは、多くが自滅からです。 【象(しょう):印象の象】 事実は数値です。その数値を、人間がどう見るか(言い換えれば評価す るか)が、「象」です。数値の評価の仕方が、金融・経済(つまり売買 取引)を決めています。 論考で、書くのに面倒ですが数値を多く使うのは、事実を示すためです 。 ◎2011年から、強く共同幻想に支配され、読者が望む情報を提供するマ スコミ報道が多いため、世界の多くの人が、ユーロは、ドル・円に比べ て一層危険と思っているのでしょう。 ▼知識の作用 事実に対し、正しい観念を作るのは、知識の作用です。 愛好して見るTV番組に、「なんでも鑑定団」があります。骨董の真贋( しんがん)の鑑定を、中島誠之介のような専門家が行う(間違いもゼロ ではないでしょう)。 10代から、間違えば大きな損をする、実地の鑑定を経験してきた中島誠 之介の、日本と中国の陶磁器への知識は、驚くくらい膨大です。 真贋の鑑定のとき、事実に対する「観念」の正しさが何か、分かります 。当方、古物鑑定の知識はゼロですが、自分の中で「ホンモノかニセモ ノ」か、当てるゲームをします。50%が当たっても、それは子供でもで きます。70%~80%は当てねばならない。 当方、まだ60%くらいでしょうか。多少は当たります。骨董の鑑定眼( =累積し、整った知識)はないことが分かります。「掛け軸に描かれた 、鷹の鋭い活きた目は、ホンモノだ」と思う。結果はニセモノ・・・ 骨董も、「事実→知識による観念→経済行動(価格付け)」です。あら ゆるものが出す、微細な放射線の半減期(固定している)で測定できれ ば、考古学のような科学になりますが・・・ ■2.なぜ、「金融・経済」と言うか 【金融・経済にこめた意味】 1990年以降の経済は、「金融・経済」と見ています。どんな意味をこめ ているのか? 商品取引や投資において、金融取引が重きを占めるよう になった経済です。 30年前の、1980年代までは、世界のGDPに対する金融資産(株価+証券 価格+年金基金+保険+国債等=合計はマネーストック)は、GDPの1倍 でした。いまは3倍です。2006年までの26年で、GDPに対する金融資産が 2倍分も増えています。 (注)日本の金融資産は、1990年に世界に先駆けて、名目GDPの約2倍に なっています。このため、1990年からの崩壊があったのです。 世界のGDP(商品生産量と、住宅を含む設備投資の金額)は5000兆円で すが、世界の金融資産(デリバティブを除く実物資産)は1京5000兆円 です。2006年まで、米欧の、株価が上がり、住宅価格と商業用不動産価 格が、2~3倍に上がったためです。 【含み損】 1京5000兆円は、たとえばPIIGS債・東欧債の下落、そしてとくに米欧の 住宅証券の下落等による含み損(両方の合計で、推計1千数百兆円)を 、換算していない名目額です。 含み損が、決済や計上の満期が来て、実質損になってゆく過程が、金融 危機であり、信用恐慌です。 上記(千数百兆円)うち約50%の700~800兆円が、米欧の金融機関の含 み損でしょう。米欧の、金融機関の中核的自己資本は、約200兆円しか ありませんから、時価計算すれば、500兆円の債務超過です。 米欧政府が資金を出すなら、合計で700兆円規模が必要です。とても、 出せる金額ではない。08年9月以降の3年で、$5兆(400兆円)をすでに 出しているからです。 このため、ほぼ1年か最長でも2年かけ、恐慌化に向かう可能性が高い。 国債を含む債券、証券は、下落の過程では、更に下落幅を大きくするか らです。 現在の国債は、米国が長期金利、つまり10年もの国債の利回りが1.99 %、ユーロが1.90%、日本が0.99%と最低水準です。 これ以上、金利は下がらない。 つまり日米欧の国債価格は、バブル価格です。 ■3.日本国債のCDSも、7.5倍に高騰 日本国債の、かつては0.2%付近だったCDSの保険料率(1年間を保証) は、2012年1月12日で、1.5%と7.5倍に高騰しています。 この意味は、CDSをつければ、日本国債の利回りは、マイナスであると いうことです。金利0.99%-CDS1.5%=-0.51%です。 保険料率が妥当な0.2%のときは1000億円の価値だったCDSが、1.5% では、その7.5倍の7500億円の市場価値(保険の売買値段)に上がった という意味でもあります。 CDSの高騰は、生命の危険が増えれば上がる生命保険料の高騰に例えれ ば分かるでしょうか。 http://www.bloomberg.com/quote/CJGB1U5:IND CDSの単位(↑)は、ベーシス・ポイント(1/100%=bp)で、154.93b pは、1.5493%です。利回り0.99%の日本国債は、国債市場では明ら かに、買えば損をする「リスク証券化」しています。 本当は、長期国債で2%~3%の金利が必要です。950兆円の日本国債を もつ金融機関(銀行・保険・郵貯・簡保・日銀・年金基金)は怖いはず です。 1.5%のCDSに対し、妥当な2%に国債金利が上がれば、10年債で、8.4 %もの含み損が出るからです。国債の金額が、GDPの2倍と、世界最大に 大きいので、1ポイントの金利上昇でも金融機関にとって「危ない」。 国債を保有する日本の金融機関は、どう考えているのか。経済誌(週刊 エコノミスト)の、金融機関の関係者の匿名座談会では、CDSの高騰に よる危機が結論でした。 日米欧の国債のCDSは、まだ大きな話題になっていません。PIIGS債のCD Sにマスクされています。しかし次第に危険な水準に向かっています。 【不足マネーを貸付】 EUと米国の政府・中央銀行が毎月、決済に足りない分を資金供与(追い 貸しと不良証券の買いです)をしているので、預金が引き出される金融 崩壊が防がれています。(注)最終は、株価をゼロにし、経営陣を追放 する国有化です。 【日本の金融機関】 日本の金融機関と政府(外貨準備$1.3兆:11.12)は、円に対するド ルの20%の下落で、官民合計の対外資産(563兆円:2010年末の評価) に対し、100兆円規模の含み損でしょう。 日本の金融機関は、中核的な自己資本が、100兆円くらいです。 この自己資本も、円高・ドル安ですでに消えています。 【金融機関の株価の意味】 一例を挙げると、みずほ(株価が110円:12.01.11)や野村證券(同 :259円)の株価が暴落しているのは、健全に見えるバランス・シート に、株を売る投資家が、大きな含み損を見ているためです。 (注)米欧の金融機関も同じです。野村證券の株は高いときは、2500円 でしたから1/10です。みずほも2006年は1000円付近でしたから約1/10 です。 金融機関にとって、株価での100円や200円は、破産水準の株価です。市 場で、社債の新規発行ができないからです。発行すれば社債の金利が、 10%以上に高騰します。 金融機関は、運用資産(=負債)は巨大ですが、自己資本比率(利益の 蓄積額/総資産・負債)が、非金融法人に比べ極度に少ない。8%や10 %程度しかない。 このため新規債が発行できず、過去の満期になった負債の決済が襲えば 、短期で資金繰り不足になります。 社債では、過去の分の満期(額面の100%を返済)が毎月来ます。低い 金利で借り換えの社債が発行できなくなると、銀行も企業も資金繰りに 窮し、ほぼ数ヶ月でつぶれます。 (注)最終は、社債の発行ができない東電(株価202円:12.01.11) のような国有化です。 【バブル崩壊でも100兆円(公称)だった】 1990年からの、日本のバブル崩壊(まず株価、つぎに地価)で、日本の 金融機関が抱えた不良債権は金融庁では、100兆円とされました 当方の推計は、株価と地価から見て、200兆円の損でした。株価と地価 の下落で増えるからです。金融危機後(1997年~)から現在に至るまで 14年間も大手銀行は、税務上の申告利益は、ほぼゼロです(事実)。特 別損失があるためです。 (注)会計上の「経常利益と特別損益」は変な制度です。特別とつくも のは、かつての政府の特殊法人を含めて怪しい。監査法人を含め、会計 学者は、一体何をしているのか。財政学者にもこれを感じます。関連し て言えば、金融の特別目的会社や、も、変なものです。 不良債権の償却(利益で消すこと)を続けていて、しかも「子会社に飛 ばして」いるからです。利益額に応じた損失しか計上してないのです。 2000年代以降、損失が確定するまではオフ・バランスで、貸借対照表に 出さなくても済むデリバティブ(CDS、CDO、ABS、MBS、RMBS)が増え、 オリンパス(初歩的な飛ばし)のような損失飛ばしが、とりわけ金融機 関で、横行しています。 (注1)デリバティブを、オフ・バランスにすることを強力に推し進め たのは、米政府とウォール街です。理由は、意図して目的のバランス・ シートが作れるからです。 金融機関の間の、相対(あいたい)での、談合を含む取引であるため、 まるで、分からない。自分の銀行がどれくらいのリスクにさらされてい るか、トップも知らないことが多い。 (注2)金融機関は、将来の負担(=将来リスク)になるCDS(保証保険 )を作って売れば、いくらでも短期での利益(保険料収入)は出せます 。他方で、CDSを買った側は、それがかかった証券(たとえばPIIGS債) の下落で、利益が出ます。CDSは場外馬券のように、PIIGS債の保有に無 関係でも作って売り、または買うことができます。 現在の、ドル・ユーロ安による推計含み損の100兆円は、これに匹敵し ます。その割には、民主党と同様、危機意識が見えません。恐らく3.1 1の津波と原発で、危機慣れしてしまったのです。 危機に慣れると、人は、数字(事実)を見なくなります。重い病気の時 、診断結果を聞きたくない気分と同じです。 2000年代は、経済取引の中で、金融取引が1980年代より3倍も巨大化し ので、これを、「金融・経済」と表現しています。 【金融が先】 金融を先にもってきたのは、金融取引のほうが、実体経済(商品の売買 と設備投資)の取引に先行するからです。 たとえば、証券や株(金融資産)の下落は、利用できるマネーの減少で すから、その後に、経済取引の減少をもたらします。 GDPの3倍に増えすぎた、金融機関が預かる金融資産があって、それが下 落しているため、今回の信用収縮は、1929年からの米国発の実体経済の 世界恐慌と同じ規模になる可能性があります。 リーマンンショックよりはるかに大きい。 欧州が注目されていますが、欧州だけはないのです。 【機を見た底値買い】 株(世界で約5000兆円)の、数年スパンの長期を見た買い手にとっては 、底値買いの大チャンスが訪れるでしょう。 ここで、歴史のアナロジー(類似)を見ます。 1929年のウォール街で始まった株価暴落から不動産の下落、銀行の危機 、信用の収縮、そして経済恐慌と、何から何まで、そっくりだからです 。時間的な経過(期間)も瓜二つです。 ■4.1930年代の金融危機の動きは、現在と同じ マネタリストのミルトン・フリードマンとアンナ・シュウォーツは共著 で『大収縮1929-1933(米国金融史第七章)』を書いています。その中 に、現在と瓜二つの、金融行動があります。(邦訳:P78) <第一の銀行危機が起きる前の1930年9月まで、金利は長期・短期とも 下落傾向にあり、格付けBaaの社債の利回りも同様だった。第一の銀行 危機が発生すると同時に、格付けの低い社債と政府債(国債)の金利差 (スプレッドという)が広がり始めた。社債の利回りは急上昇し、政府 債の利回りは、下落し続けたののである(引用)> 【金利の動きは、現在と同じ】 ・格付けの低い社債を、格付けが低いPIIGS債に、 ・政府債を日米欧の国債に置き換えれば、まるで同じです。 金融危機の時期には、銀行がリスクのある証券(株、社債、格付けの低 い国債)を売って、「安全とされる資産(国債)」を買う行動になるか らです。 1929年に金融危機が始まってから3年目の1932年には、Baaの低い格付け の社債の金利は8~12%に高騰しています。この金利高騰は現在のPIIGS 債と同じです。 株価と社債の下落にもかかわらず、1930年の米国債の利回りは3%台と 低かったのです。国債の利回りが低いということは、国債価格が高いと いうことと同じです。 FRBが国債を担保にして銀行に貸すときの公定歩合も、危機対策のため の低金利政策で3%でした。 (注)現在の、日米欧の短期ゼロ金利策は、史上ありえないくらいの異 常な金利です。この異常に、人々は慣れてしまったのか・・・ 【結論】 大恐慌の時期(1929~1933)は、リーマンショック(08年9月~)から2 011年の金利の動き(PIIGS債の金利高騰と、日米欧の国債の金利低下) と完全に同じです。 ▼1930年代のFRBも、総信用(=負債)を2.5倍に拡大した 【1933年の銀行封鎖】 銀行の倒産で、米国・欧州の銀行恐慌が猖獗(しょうけつ)を極め、全 銀行の一斉休日(=営業不能)を含んで「恐慌」になったのは、1929年 の株価暴落から4年目の、1933年でした。 (注)現在は、ペイオフを緊急に停止して、銀行預金は政府が保証して います。財政破産でハイパー・インフレ予想されない限り、預金取り付 けは起こりにくく、銀行休日(事実上の預金封鎖)にはなりません。 新年の2012年が、リーマンショックから4年目に当たります。 【FRBの信用拡大】 1931年から33年の金融危機の間に、米国のFRB(連邦準備制度とも言う )は、金融危機対策として、総信用(≒通貨発行と銀行への貸し付け) を、$10億から$25億付近にまで、2.5倍に増やしています。(注)80 年前の$25億です。 これも、リーマンショック(08年9月~)の後に、総信用をそれ以前の3 倍に増やした現代のFRBの、信用拡大に匹敵するものです。 こうしたことも類似しています。欧州のECBは2.6倍に信用拡大し、銀 行とPIIGS政府への貸し付け増やしています。 経済学の通説では、以下ように言われます。 【誤った通説】 「1930年代は金本位制だったので、中央銀行が金準備にしばられて、対 策資金をだせなかった。つまり信用拡張ができなかった。このため、金 融恐慌が起こって、マネーの収縮から、世界恐慌になった。現代は、中 央銀行がマネーをすることができるので、恐慌にはならない」 これも、通説になった経済学が言っている、真っ赤な嘘です。 (注)中央銀行と金本位制ついての通説は、意図的な嘘が多い。 1929年の株価暴落に始まる銀行危機、銀行危機からの経済恐慌に対し、 米国FRBは、まるで2008年9月からのように、FRBの信用を2.5倍に拡大 し、政府と銀行に対し、マネー供給をしているのです。 「FRBが、必要なマネーを供給した。2.5倍の信用拡大にもかかわらず 、恐慌に至り、第二次世界大戦に至った」というのが正しい。 以上は、『大収縮1929-1933』を読んで、わかったことです。 「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。」とい う主旨をマルクスは言っています。(『ルイ・ボナパルト :ブリュメ ールの18日』) まさに、いま、繰り返しているように思えます。 歴史を見るとき、われわれは、現代を上に見る「進歩的歴史観」に目を 曇らされています。 このため、戦争もしていた過去は、野蛮で無知で、現代は進歩している と見る。1930年代は野蛮だった。現代は、無反省に、人間が高度化した と見てしまうのです。 これは、まるで嘘です。人間とは人間の脳、その脳の考えでしょう。筋 力は昔と同じです。古代から熊やゴリラより、はるかに劣ったままです 。走るのも、馬にはかなわない。平均身長は伸びたかもしれませんが・ ・・じゃ、脳力は、進歩したでしょうか? 確かに、科学的な技術の利用による生産性は、17世紀からの、英国に始 まった産業革命で進歩しています。しかし人間の観念が進歩したとは、 まるで言えません。 人口が毎年現代は1億人も増え(世界で)、経済の金額だけが、インフ レと経済成長で大きくなっているのですが、経済における人の観念は、 進歩していない。(注)科学は測定ですから、累積的に進歩しています 。 脳力が作る作者の観念、つまり考えの塊(かたまり)である小説でも『 源氏物語』より進歩したものが、(好きや嫌いは別にして)どこにあり ますか?『徒然草』より優れた人間の評論が、どこにありますか? 『論語』や『菜根譚』より優れた人間観察が、どこにありますか? 現 代音楽は、バッハより優れたものですか? 『資本論』や『雇用・利子 、および貨幣の一般理論』より優れた経済書がどこにありますか? 歴史に学ぶ必要があると、『大収縮1929-1933』から思ったのです。 ■5.ユーロ危機が本格化する2012年1月から3月 欧州の主要銀行(90行)は、海外の証券・国債の所有額(損用供与額と いう)が多い。 【欧州の主要銀行の、対外信用供与額:統計漏れも多い:BIS】 2008年 2011年末 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ・対PIIGS $2.5兆 $1.5兆(評価減) ・対 欧州新興国(東欧) $1.5兆 $1.5兆 ・対 アジア $0.8兆 $1.0兆 ・対 中南米 $0.7兆 $0.8兆 ・対 中東・アフリカ $0.5兆 $0.5兆 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 合計 $6.0兆 $5.3兆 対PIIGS債が、$1兆減っています。PIIGS国債の下落を、含みではなく 、実現損にした分です。欧州の銀行がPIIGS債を売ったわけではない。 欧州の銀行が多額に売っていれば、PIIGS債は無価値になって、すでに 、イタリア債までもが、デフォルトしていたでしょう。(注)銀行が売 った分は、中央銀行のECBが買い支えています。 なおPIIGS債の発行残は、PIIGSの(約400兆円)の、1年分で400兆円あり ます。この評価額(時価)が、約40%下がって、240兆円になていると 見ていいでしょう。このうち、欧州の主要銀行が$1.5兆(120兆円) を、11年12月で持っているという意味です。 ほかに、下落している東欧債($1.5兆)があります。総債権は約$2 兆はあったはずです。これも、いま、未精算の含み損を抱えて後いるで しょう。 アジアにも、欧州の銀行は、2000年代の日本の、海外から引き揚げた銀 行より、はるかに債権(信用供与)が多いので、これも今後、銀行の資 金繰りのために「引き揚げ」になります。 このため、アジア株の下落と金利の上昇が生じます。(注)こうした資 金引き揚げは、アジアの通貨安で、ユーロの押し上げの要素です。 ■6.2012年1月~3月の欧州の、金融債と国債の償還 【欧州】 欧州(ユーロ17ヵ国)は、2012年1月~3月に、 ・金融債(社債や長期金融債)で、2300億ユーロ(23兆円)、 ・国債で3000億ユーロ(30兆円)の、満期が来ます。 (ECBのドラギ総裁:11.12.19の発言) 合計で、53兆円に満期償還日が来て、53兆円の「借り換え債」が必要で す。これに、資金が不足する分を埋める「新規債」が必要です。 総額で、おそらく80兆円規模の債券の発行になるでしょう。 4半期で約80兆円、2012年の1年で300兆円規模の、ユーロ債の売りが必 要になります。 問題は、ユーロの下落が想定される中で、300兆円のユーロ債(借り換 え債+新規債)を、どこが買うか、言い換えればファイナンスするかで す。(注)アジア、中国、日本、米国、英国は、ユーロ債では「売り超 」になっています。 【日本】 日本政府も、2012年は、震災の復興債を含めば新規国債で約50兆円、借 り換え債で176兆円、合計で226兆円の国債発行をファイナンスすること が必要です。これがファイナンスできないと、国債はデフォルトします 。日本の長短国債(950兆円)の平均満期は6年です。 【米国】 米国では、推計で$5兆(400兆円)の、国債の借り換え債と新規債が必 要になるはずです。米国の長短国債の平均償還期間は、4年と短くなっ ているからです。 日本と中国が、買いの勢いを鈍らせているため、ドルの長期債の発行が 、難しくなっているからです。米国の国債は、ほぼ50%を海外がファイ ンナンス(=国債の増加購入)してきたのです。 日米欧で、2012年は、約1000兆円規模の国債発行(新規債+借り換え債 )のファイナンスが必要です。政府の財政赤字と、巨額な金融対策費の ため、各国とも、年々、すごい金額に膨らんできました。 通貨ユーロが、世界から売られている欧州が、もっとも大きな「国債フ ァイナンスの危機」を迎えるのが、2012年3月です。PIIGS債はもちろん フランス国債(格下げ予定)、ドイツ国債(格下予想)も同時です。 通貨安は、その国の債券や国債の売りです。ユーロ債が売り超になると 、ユーロ安です。外為市場で金額が多い順に言えば、(1)ユーロ売り ・ドル買い、(2)ユーロ売り・円買い、(3)ユーロ売り・元買い、( 4)ユーロ売り・スイスフラン買いになります。 売られたユーロ(17ヵ国)から、米国、日本、中国、スイスにマネーが 移動するのです。結果は、ユーロ内が資金不足になる。その資金不足が あると、2012年1月~3月に必要な300兆円のファイナンスができなくな ります。 放置すれば、まずPIIGS債の全体はデフォルトし、ユーロ90行の損失が 一層膨らんで、資金繰りでも破産するでしょう。方法は、ECBによる債 券の買い取り、つまりマネー印刷しかない。 ECB(ユーロ中央銀行)が、露骨に、PIIGS債・ユーロ金融債・ユーロ国 債を買えばどうなるか? 結論は、昨年12月21日の<ペーパー・マネーを発行する中央銀行の敵は 、ゴールドだった>で述べています。 1月末には、3月にどうなるか、予測できる材料が見えるかも知れません 。問題は、「認識」です。 【後記】 ゴールドは、損をしたヘッジ・ファンドの、資金繰りのための利益確定 売りが続き、下落しています。2011年12月で売りが止まったかに見えた のですが、昨年12月の投資家の解約で、新年はヘッジ・ファンドが、買 う力をなくしているのかも知れません。事実は、ほぼ三ヶ月後にならな いと分かりません。 ヘッジ・ファンド(8000~1万2000本)合計の、2011年のパフォーマン ス(収益結果)は、マイナス8.9%でした。(英エコノミスト誌:12. 01.07) このため、投資家の引き揚げが、20%以上損をした4000本のファンドに 対し、殺到したはずです。2011年8月までは、米国FRBのQE2( $6000億の国債買いによる資金供給:11年6月まで)が、プライマリーバ ンクを通じて流れ、ヘッジ・ファンドの運用元本は、$2兆(180兆円) に増えていました。今また、相当、減っています。 ヘッジ・ファンドの運用は、全部が先物・オプションとデリバティブで すから、自動的に10~30倍のレバレッジがかかって、元本資金が$2兆 でも、$60兆(4800兆円)の巨額の売買に膨らみます。 しかし、ヘッジ・ファンドが2011年のように平均で8.9%(推計で400 兆円)の損をすると、解散のファンドも多く出て、可能なレバレッジ額 (信用供与額)も下がります。 (注)ヘッジ・ファンドの損(推計400兆円)は、お金を預託した機関 投資家、銀行、個人の富裕者の損です。 資金引き揚げのため、売買総額が減ります。これは、金融市場(債券、 証券、商品市場)から、信用売買の巨大資金が抜けることを意味し、結 果は価格が下がります。(注)ヘッジ・ファンドの、パフォーマンスに ついても書くべきですが、それは、別稿にします。 拙著『国家破産』が、アマゾンで未入荷を続け、申しわけありません。 前回お知らせしましたが、紀伊国屋WEBに、在庫があるようです。 http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/search.cgi 出版社からは、増刷の連絡を受けています。大手書店の店頭に、まだ、 若干の在庫があるようですが・・・嬉しかったのは、中央官庁の売店で 平積みになっていて、官僚も買い、官庁で読まれていることです。直接 に聞いたのは経産省と環境省ですが。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【ビジネス知識源プレミアム・アンケート:感想は自由な内容で。 以下は、項目の目処です】 1.内容は、興味がもてますか? 2.理解は進みましたか? 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